種死&リリカルなのはさん 単発SS集17

Last-modified: 2008-07-25 (金) 18:04:43

332氏 2008/07/24(木) 23:58:37
白球にかける青春 
/1 発端

 

「第三十二回局内対抗草野球大会~!」
「わ~わ~」
「どんどんぱちぱち」
 我等が機動六課の課長八神はやてが、周りの人間がドン引きするくらい、
 馬鹿高いテンションで俺の前に現れたのは、丁度昼食のざる蕎麦を食べ終わった時だった。
「なんですか急に」
 八神隊長は普段陽気な人だが、
 今日は普段が気の抜けたザッフィーに見えるくらい高揚しているように見える。
 そんな部隊長の横で、シグナム、ヴィータ副隊長が居た堪れなさそうに立ち尽くし、手に
持ったオモチャのラッパとタンバリンが余計に哀愁を感じたりする。
「隊長、もしかして例のアレですか」
「ああ、もうそんな時期だっけ」
「二人共知ってるのか?」
「そっか、シンは知らなかったわね。管理局内の年中行事の一つで、各課から代表一チーム
選抜して局内最強を決めようって言うお祭りよ」
「訓練校からも何チームか出るはずだよ」
「ふぅ~ん。面白そうだけどな」
 意外だ。言ったら悪いけど、ガチガチの官僚主義の管理局でそんな民間企業みたいなイベ
ントがあるなんて思っても見なかった。
「そやろ!そやろ!アスカさんもやってみたいやろ!」
「ぶ、部隊長!」
 近い近い顔がスンゴク近いから。
 鼻息も荒いし、部隊長って野球そんなに好きだったっけ?
 良く野球中継見てるのは知ってたけど。 
(熱烈な阪神ファンだ…覚えとけ)
(阪神が何か知りませんけど…覚えときます)
 ヴィータ副隊長と秘密の念話を終えて、俺は部隊長に向き直る。
 部隊長は、目を子供のように煌かせ期待値満々の笑顔を俺に向けてくる。
「まぁいいですけど…」
「さっすがアスカさん。頼れるわぁ」 
 後ろでシグナム副隊長が、片目を瞑り「すまん」と両手を合わせている。
 俺は貸しですからと一言合図を送る。
(今度書類整理変わってもらおう)
「ティアナとスバルはどうする?」
「週末ですか?確か非番で暇ですけど。スバル、アンタはどうする?」
「私も別にいいよ。非番だからってやる事無いし。ブラブラするくらいなら外で体動かしてる
方がいいし」
「単純よね、アンタ…いいわ、私も出よっかな」
 まぁ確かに、折角の非番だけどこの馬鹿暑い中を何処かに出掛けようって気にはならないよな。
「優勝者には、商品も出るんや」
 途端に嫌な顔をするティアナとスバル。確かにお偉いさんが出す商品なんて禄でも無い物ばっかり
だけどさ。
「いつもの通り…有給五日間」
「お前ら…そんなに露骨に嫌そうな顔しなくても」
「だって貰っても使う暇無いし」
「二十四時間待機の私達にどうしろって言うのよ」
 例え休暇中であろうとも、出動がかかれば容赦無く連れ戻されるのが機動課の宿命だ。
 因みに最前線で戦う、俺達スターズ分隊の有給消化率は実に〇パーセント。
 あるだけ無駄と言う奴なのだ。
「ありがとうな!二人共!有給の変わりに今度アイス奢るな」
「やったラッキ!」
「現金ねぇ」
 そんなこんなで俺達は、貴重な休日を部隊長の娯楽に付き合う事で決めた。
 野球は小さい頃にやったっきりだけど、局内対抗何て言っても、和気藹々とお遊び程度の物
しまぁ大丈夫だろう。
 迂闊な動きは死に繋がる。
 普段なのはさんから口酸っぱく言われている事が何も身についちゃ居なかった。
 結局後悔したのは、全部終わってからだけどさ。
 だってそうだろ。
 誰だってあんな惨劇が起こるなんて予想もして無かったんだし。

 

/2 練習風景

 

 スバルの右腕から放たれた白球が、革張りのグローブに吸い込まれ小気味良い音を立てる。
 俺はスバルのイメージトレーニングの為にバットを持って敵さん役の真っ最中。
 フリーバッティングじゃ無いから、暑い中バットは構えたままだ。
「スバル。次内角高めね」
「うん」
 白球が、俺の首筋ギリギリを通過し、
 パァンとさっきよりもキレの良いストレートが、ティアナのグローブに吸い込まれる。
 スバルはティアナの要求通り、一ミリの狂いも無く投げ込んでくる。
 130kmくらい出てるんじゃ無いだろうか。
 後で部隊長からスピードメーター借りてこよう。 
「意外だ」
「何がよ?」
「いや、お前がキャッチャーやってるのが」
「言ったでしょ。訓練校からも出るって」
「なるほど…」
 あまり動揺して無かったのも、それなりの経験があったって事か。
「見直した?」
「なんだよそれ」
「素直に言いなさいよ」
 ティアナのミットにスバルの速球が投げ込まれる。
 今度はカーブか。
「…見直した。キャッチャーって難しいんだろ」
「慣れないうちはね」 
 立ち上がり、スバルにボールを投げ返すティアナ。
「ボールバック!」
 ティアナは、スバルから放たれた白球を、華麗では無いが手馴れた手付きでセカンドを守るエリ
オに送球する。
 流石はガンナー。
 狙いは正確で、エリオのグローブに吸い込まれるように収まった。
「巧いな」
「エリオが巧いのよ…まぁそれより私はあっちの方が心配よ」
「あれか…」
 流石は俺達フォワード陣の指揮官。
 今迄見ないようにしていた現実を抉るように突いて来る。
「なのは行くよぉ」
「あわわわ。フェイトちゃん!ちょっと待って」
 フェイトさんが投げる"山なり"の絶好球を、なのはのバットは出鱈目な方向に空を切る。
 管理局の白い悪魔。
 不屈のエースオブエース。
 魔法による身体強化を除けば、ちょっとOA機器が大好きなスーパーインドア派だった。
「まぁ大丈夫やろ」
「うわびっくりしたぁ」
 どっから出てくるんですか部隊長。
「元々なのはちゃんには、バッティングは期待して無いよ。ポジションも一塁を守ってもらうつもり
や」
「外野じゃ無いんですか?」
「あれでいてキャッチングは中々なんよ」
「うわっなのは!ちゃんと投げて!」
「ご~め~ん」
 明後日の方向へボールを投げ飛翔ばす"我等が教導官様。
 バックネットまで飛んでいったんじゃ無いかあれ。
「ノーコンやけど…」
「大丈夫なんですか?」
 不安は募る一方だったりする。

 

/3 戦いは勝負の前から始まってるんや!

 

「そんなわけで練習もそこそこに、試合当日と相成ったわけだと」
「誰に行ってるんですか、ヴァイスさん」
「気にしない気にしない」
「はぁ…でも、皆遅いですね」
「馬鹿、女は着替えに何かと手間がかかるもんなんだよ」
「はぁ」
カーキ色のユニフォームを着込み、球場前で街呆ける俺とヴァイスさん。
 やる気が無いわけじゃないけど、多分一回戦負けだろうかと二人共気を抜いていた。
 息抜きと割り切り、午後からどうしようか。
 書類整理や訓練計画と仕事の事ばかり頭を使い、一瞬だけ野球の事を忘れてしまっていた。
 それがいけなかった。
 画竜点睛。
 竜頭蛇尾。
 徹頭徹尾。
 意味の時節も正しくない、四文字熟語が俺の頭の上を乱れ飛んでいる。
「うえ!」
「おお!」
「何このユニフォーム…」
「胸が小さい」
「ティア、これ見えてない」
「スバル…あんまり動くと…本当に見えるわよ」
「主はやて…また妙な癖が出て」
「あたしはもう諦めたぜシグナム」
「ふはは!皆似合っとるで!」
 高笑いするはやて/顔を赤く染める六課の人々/
 ユニーフォーム/否/どう考えてもチアガール/
 ミニスカート/強調された胸/太もも/ヘソ/ヘソ/ヘソ
 吹いた!
 吹いたって言うより噴出した!
「な、なんですか、その格好!」
「ふふん。私デザイン、シャマル製作の六課特性ユニフォームや」
「何か趣旨違いませんか。グローブとバット持つより。ポンポン持って踊ってる方だと思うんですが」
「否。これも立派な戦略や。年下から年上。妹タイプから姉タイプまで揃えた超突撃仕様や!これで相手さんの
視線は皆に釘付けや」
 確かに他のチームに比べ露出が激しいユニフォームは目の遣りどころに困るのも事実だ。
「なる程兵法と言う奴ですね主はやて!」
「そうやシグナム」
 それ絶対違います。
 そんなだから、部隊長に妙なコスプレさせられるんですシグナム副隊長。
 当然口が裂けても言えないけど。
 ジャージ姿のシャマル先生とキャロは実にまともに見えて仕方無い。
「まぁ確かに…相手の気は逸れるでしょうけど…過激過ぎません?これじゃまとなプレーが出来るとは思えない
んですが」
 何せミニスカートに加え、ヘソ出しルックだ。
 巨乳なフェイトさんとシグナム副隊長は、歩くだけで大量殺戮兵器(男性限定)になってるし。
 あっ見すぎるとやっぱり不味いよな。
「見るなエロ猿!」
「あ、危ないだろ!」
 ティアナの奴、硬球投げつけるのは危ないって。

 

/4 やるもんだ。

 

 俺の心配も杞憂だったのか。
 チーム六課は、意外な強さを発揮し順調にトーナメントを勝ち進んで行っていた。
 スバルの針の穴を通す完璧なボールコントロールと、ティアナの完璧なリードで打者達を手玉に取っていく。
 例えボールが抜けたとしても、六課のスピードキング二名が守る二遊間は鉄壁で、内野ゴロを的確に捌き面白
いようにアウトを増産して行く。
 例え外野にボールが運ばれようとも、強肩のシグナム副隊長と俊足のヴィータ副隊長に次々と封殺され
ていく。
 不安の要素だったなのはさんの守備も取るだけならば人並みの動きを見せ、何とかミットの中にボールを収め
て行く。
 バッティングは相変わらずだったけど、肩だけは抜群に良いのか、鬼のような剛速球を捕手へと送球して行く。
 ノーコンだけど。
 そんなこんなで、チーム六課は、並み居る強豪を打ち倒し、ついに決勝の舞台に駆け上がる事となる。
 相手は元武装隊を抱える、上位入賞のベテランチームだと言うのに急造チームの六課にしては良くやったと思う。
 敵チームの猛打を必死で防ぎきり、はやてが、奇策常策を駆使し敵の間隙を何とか付き、俺の三塁打皮切りに
シグナム副隊長のスクイズで何とか一点もぎ取る事が出来た。
 だが、勝利の女神は俺達に微笑まなかった。
 このまま行けば優勝かと思われた、その時、スバルが足を捻り負傷してしまった。
 マウンドに蹲るスバル。
 俺もティアナと慌ててセンターから駆けつける。
 シャマル先生によれば軽い捻挫だそうだが、もうピッチングは無理だろう。
 だが、時は既に九回裏。
 得点差はたったの一点。 
 ツーアウト二塁。
 一打逆転サヨナラの危機だ。
 そんな大ピンチに頼みのスバルが負傷してしまった。
 万事休す。
 危険するしか無いと思った矢先、部隊長の口からトンでも無い言葉が飛び出た。
「ピッチャー交代!高町なのは」
「わ、私!?」
「ぶ、部隊長、正気ですか」
「正気も本気やアスカさん。まぁ見といてみ」 
 恐る恐るマウンドで投球練習を始めるなのはさん。
 ドンと大きな音を立てミットに収まる白球。
 焦げ臭い臭いがティアナの鼻を擽り、受けた手が痺れだす。
「行ける!」
 ガッツポーズを取る部隊長とティアナ。
 その時は、俺もそう思った。
 あれ程の剛速球そうそうお目にかかる事は無いし、相手が幾ら元武装隊の連中だろうと目が慣れる頃にはゲーム
セットだ。
「勝ったな」
「ああ」
「行ったれなのはちゃん!」
 ヴァイスさんと俺は勝利を確信し、部隊長が勝利の雄叫びを上げる。
 なのはさんの腕が高々と上がり鞭のようにしなり---
「デットボール!」
 目も覚めるような剛速球は、相手のお尻に突き刺さった。
 140kmに迫るボールが激突したのだ。
 痛いだけは済まないだろう。
 それが証拠に打者は、足を引き摺るように一塁に向かっていく。
 代走だしてやれよとヴァイスさんの目が語っている。
「あはは…ごめん」
 可愛らしく相手に謝るなのはさんだが、俺はもう既に話のオチを予測していた。
「デットボール!!」
「デットボール!!!」
 あっと言う間に塁が埋まり同点に追いつかれ---
「デットボール!ゲームセット」
「よ、四連続デットボール」
 後に残ったのは、死屍累々の敵チームと、
「だ、だから言ったのに!はやてちゃんの意地悪!」
 半泣きのなのはさんだった。

 

/5 宴の後で

 

「…疲れた」
「お疲れ様。腕大丈夫か?」
「大丈夫よ。痺れてるだけ」
「そっか」
 俺は、医務室から出てきたティアナを出迎え、ハンバーガー片手に遅い夕食を取る。
 食堂はもう閉まっている為、近所のファーストフードで我慢して貰う事にする。
「あれ、スバルは?」
「疲れたから寝るって」
「なのはさんや部隊長は?」
「フェイトさんと一緒にヴィヴィオと食事。部隊長達は本局に呼び出し」
「ふ~ん」
「何だよ」
「別に…私の分頂戴よ」
「チーズバーガーか照り焼きどっちがだ」
「チーズバーガー」
「ほら」
「ちょっと手痛いんだから、投げないでよね。やり直しなさい。包装紙もちゃんと剥いてよ」
「なんだよそれ」
 キッチリキャッチしてるじゃ無いか。
 俺は、文句を言いながらもティアナの要求通りにハンバーガーを丁寧に受け渡す。
 ティアナは何がご機嫌なのか、ハンバーガーを上機嫌で受け取り、俺の隣に腰を下ろした。
「たまにはあんなのもいいわね」
「そうだな。体動かすのは嫌いじゃ無いし。何だかんだと言って楽しかったし」
「動くのはいいけど、あのユニフォームはやめて欲しかったわね」
「…あれはあれで有りだったような」
 俺はティアナのユニフォーム姿を思い出す。
 自分では分からなかったが、鼻の下が伸びていたのだろうか。
「こ、このエロ猿!」
「は、ハンバーガーを投げるな!」
 結局俺は頬を赤く染めたティアナにハンバーガーを投げつけられ、ケッチャップ塗れになってしまった。
 これは、特に意味の無いそんな休日の話だ。

 

 -fin-