第08話~忘れてた!~

Last-modified: 2011-12-07 (水) 13:03:49

「その程度のことで!」
俺はデュエルのコクピットの隙間に右手に持ったアーマーシュナイダーを突き刺す……浅いか?
やはり、体勢に無理があったようだ。
PS装甲の隙間を狙ったアーマーシュナイダーは途中で阻まれ
デュエルはふらふらしながらも、まだパイロットの生存を感じさせた。
まあ、左手に持ったアグニでブリッツとバスターを牽制しながらだったし、そっちに気を取られて
デュエルの接近を許したための苦し紛れの攻撃だ。退けただけでも良しとしよう。
それにしても、また動きが悪くなってる。
バスターなんか支援砲火用のMSのくせにMAに突っ込んでいやがる。
コイツ等寝ぼけてるのか? それとも、やはりアレはユニウス7の犠牲者かラクスさんの呪い?
まあ、そんな事は無いはずだから、普通に考えると、あそこで戦った部隊が別格だったかのか?
仮にもクルーゼの部下になるくらいだから、一流のパイロットが来るだろうし……
でも、それだったらアスランまでパワーアップしてる説明が……
「プラント本国か?」
考えられる可能性は、アスランとクルーゼはイザーク達と別行動をしていた。
そして、その間に何かが起きてる……
MSの増強がされている事から、本国に戻っていた可能性が高い。
だとしたら、プラント本国で対MS戦の研究がされており、その成果を受け取ったのか?……
「それにしたって……ん? 撤退する気か?」
イザークたちが撤退していってる。追うか?
「無理だな……本格的な撤退だ。そう安々とはいかんな」
まあ、さすがに無理して攻めては来ないよな。この状況じゃ……
俺は近付いてくる第8艦隊を見ながら、無事に辿り着いた事に安堵していた。
「……俺は、トール達を守れたんだよな」

第8話~~忘れてた!

終った……後は除隊許可書を出せば……
「今度こそ守れたんだ」
合流後に挨拶したハルバートン提督は紳士的な人で、コーディネイターの俺にも優しく声をかけてくれた。
まあ、それが嬉しかったわけじゃ無いけど、彼のもたらした情報、俺達の両親が無事だと言うことは
素直に嬉しかった。
そういう気遣いが出来るのは、軍人としては兎も角、人間としては俺なんかより遥かに上出来だ。
「でも……これからどうする?」
問題は、この後だった。俺がキラ・ヤマトである以上は両親の元へと向かわなければならない。
だが、彼等は俺の両親では無いんだ。
「また騙すのか……あの人達を……」
キラさんの両親は本当に優しい人で、俺を本当の子供として扱ってくれる。
まあ、キラさんと思い込んでるんだから当然といえば当然なんだが、俺は知っている。
キラさんから聞いてるから……あの人たちが、本当の両親じゃ無いってことを。
俺の存在は、あの人達を卑下してる気がしてならなかった。
全てを知ってる人から見れば、子供が入れ替わってるのに気付かない親。
そう思われても仕方ない状況なんだ。
それって本当の子供じゃ無いから……そんな事は無いだろ。あの人たちが注ぐ愛情は本物だ。
でも、あの人たちが真実を知れば自分を責める気がして……
「……まったくさ」
俺は、その現実から目を逸らすようにストライクの整備を始めた。
「降りるとなったら、名残惜しいのかね?」
「え?……提督!?」
ハルバートン提督の姿に、俺はコクピットから話す訳にもいかず、MSを降りて敬礼した。
「あ、あの…何か?」
「キラ・ヤマト君だな? 報告書で見ているんでね」
「はい」
「しかし、改めて驚かされるよ。君達コーディネイターの力というものには……ザフトのモビルスーツに
 せめて対抗せんと造ったものだというのに、君達が扱うと、とんでもないスーパーウェポンになって
 しまうようだ」
「そんなことは…」
「君の御両親は、ナチュラルだそうだが?」
「え!…あ…はい。そうです」
俺の両親は違うけど、キラさんの両親は……

だが、俺が何かを言う前に提督は話し続ける。
「どんな夢を託して、君をコーディネイターとしたのか…」
……単に、単に狂った科学者が最高のコーディネイターを作りたかっただけさ。
実験動物みたいにな。
それに……
「夢を託された側は、どうすれば良いんでしょうか?」
「ん?」
俺はキラ・ヤマトを知ってから、疑問に感じていた事を、この人に聞いてみたいと思った。
「コーディネイターは自然に生まれた者じゃありません……作った人がいるんです」
「たしかにその通りだ」
「ブルーコスモスはコーディネイターを歪んだ存在だと言います。ですが、コーディネイターを
 作った人は? 俺に言わせれば、そいつ等の方が余程歪んでます! 夢? 子供を思い通りに設計
 して、どんな夢を託すんですか!?」
「……君は…ご両親が嫌いかね?」
「え?……いえ、違います」
しまったな……確かに、これじゃあ両親を憎んでると思われても仕方ない。
「何にせよ、早く終わらせたいものだな、こんな戦争は!」
「閣下!メネラオスから、至急お戻りいただきたいと」
「やれやれ…君達とゆっくり話す間もないわ!」
「いえ……変なことを言って申し訳ありませんでした」
「気にするな。それと、ここまでアークエンジェルとストライクを守ってもらって感謝している。
 良い時代が来るまで、死ぬなよ!」
「はい! 提督も」
提督は軽く頷くと、この場を立ち去った。
「でも……」
そう。俺は知っている。
ハルバートン提督は軌道上会戦にて戦死する事を。

ストライクの整備を終え、やる事の無くなった俺は、結局今後の事を考えざるを得なかった。
キラさんは何故か残って戦い続けることになったみたいだけど……トールとサイが死んで復讐とか
考えたのかな?
でも、俺には残る理由が無い。どっちかって言えばザフトとは戦いたくなかった。
だったら……
「俺はオーブに帰るんだな……」
オーブで、懐かしの故郷で他人のフリをして暮らすのか……今までは知らない地、ヘリオポリスだった。
でも、今度は違う……すぐ側には本当の家族が居るのに、他人の……
「……あれ?」
え~と…ちょっと待て……考えてみれば、今はまだ居るんだよな。
俺の家族が……父さんと、母さんと、
「マユ!」
え? あれ? そうだよ。何で今まで忘れてた! 今オーブに行けばマユに会えるんだ。
「でも、今の俺はマユとは他人なんだ……」
そう。残念ながらマユの兄は、この時代のシン・アスカもオーブに居る。
「……なんだよ……それじゃあ」
マユは俺を知らない人として扱うんだ。
「そんなの……って、待て!」
他人? ちょっと待てよ。
それってさ……その……まあ、今はまだ小さいけど、もう少し成長して……
その……アレとか結婚とか……出来るわけ?
「………そうだよ! 今の俺はキラさ…」
あれ?……って、待て! だとすると、キラさんがマユと?…………
「認められるか! そんなの、お兄ちゃん許しません!」
クッ!……盲点だった。そうだよ。
マユをキラさんの身体なんかで汚してなるものか!
キラさんの身体はラクス……って、それじゃあ俺が!? 
「それも断る!」
冗談じゃ無い! 俺はあんな生活は断固として拒否だ!
「……ど、どうしよ?」
すげえジレンマ……これが究極の選択か?……いや違うだろ?
「と、とりあえずオーブだ。オーブに帰って……」
うん。マユを見に行こう。まずはそれからだ。

さて、トールたちも死なせずに済んだし、帰ってマユを見守ろう。
ところで、みんな何処に居るんだ? このシャトルってオーブ行きだよな?
「キラ!」
ん? トールの声。やっと来たか……って、軍服?
「おい、どうしたの? みんな居ないから…」
「これ、持ってけって。除隊許可証」
おお! 忘れるところだった…って、違う!
「ちょっと待って! みんなは…」
「俺達さ、残ることにしたからさ」
「サイ!?」
「アークエンジェル、軍にさ」
「ト、トール……残るって…どういう…」
「フレイ、軍に志願したんだ」
「なんでフレイが!?」
「それで…俺達も…」
それでって……おい、戦争なんだぞ……付き合いでやる事じゃ無いだろ?
「総員、第一戦闘配備! 繰り返す! 総員、第一戦闘配備!」
「あ? ヤバイ、行かなきゃ……じゃあな!」
「な、なんで……」
これで終わりじゃ無かったのか?……トールもサイも、この後はオーブに……
「そうだ……オーブだって……」
そう。オーブだって安全じゃ無いんだ。俺、何をやってたんだ?
「おーい、乗るなら早くしろ!」
シャトルの搭乗員が急かして来る。だけど……
「行ってください! 俺、残りますから!」
俺はシャトルに背を向けると、走り出した。
まだ……終ってないから。

ノーマルスーツを着るため向かったロッカーの前には意外な人の姿があった。
「フ、フレイ……なんで?」
……ここって男子更衣室じゃ?………間違った?……もしかして、色んな物が飛んでくるシーン?
「貴方…行っちゃったと思ったから…私…みんな残って戦ってるのに…最初に言った私だけ…
 だから私!…私が…!」
よし! 俺が女子更衣室に入った事を怒らない! 助かった!
「まさか!…フレイ!そんなバカなこと!…モビルスーツなんて無理だよ…君みたいな女の子が! 」
だが、油断は出来ない。ここは一気に捲くし立てる! そうしないと一気に変態扱いだ!
「だって…私…」
「ストライクには俺が乗る。フレイの分も戦うから!」
ん?……待てよ? ここって良く見れば男子更衣室……
「は!…キラ!」
……って、事はフレイが男子更衣室に…………いや。だからと言って油断は出来ない。
なにしろ女なんて自分が悪くてもキャーッ!って悲鳴を上げれば正義になれるんだから!
「だから…フレイの想いの分もさ……決めたんだ。しょうがないよ。この戦争を終わらせなきゃ!」
何故か近付いてきたフレイの肩をガッチリ抑えると、俺はノーマルスーツを掴んだ。
「だ、だから任せて!」
「あれ?…ちょっと…」
俺に肩をつかまれ、何故か戸惑うフレイ?……ヤバイ! この状況に気付いたか!?
「行ってきます!」
「いや…だから…私の思いが…って…」
俺は更衣室を出ると一目散にストライクへと向かった。
た、助かった…………
「ん?」
冷静になってくると先程のシーンを思い出す。
まるでキスしそうな距離まで近付いた時……
「……あの目?」
俺は懐かしいものを思い出した。
「……チッ! 今は良い!」
それよりも、大事なことがある。
トール達を死なせないって事は歴史を変えることなんだ。
「俺に出来るのか? 今までは?」
今までの流れに変化はあったのか? そもそもトールが何時死ぬのか俺は知らないんだ。
確かめようが無い。だったら試してみよう。
俺の知ってる確実な歴史を変えてみせる。
「まずは……この戦いでハルバートン提督を死なせない」

「総員、大気圏突入準備作業を開始せよ」
俺がストライクの元へ到着したとき、艦内放送が流れた。
「間に合うか!?」
「ん? ボウズ?」
「ストライク! 出します!」
それだけ言うとストライクのコクピットシートに座り、起動させる。
「おい、ボウズ!」
「どの道、ザフト艦とジンは振り切れても、あの4機は来ます!」
「だよな……分かった! 俺も付き合う!」
「……気持は嬉しいですが、4機だけじゃ無いですよ」
「ん?…なに…」
その時、ハルバートン提督の全艦への命令が出された。
「メネラオスより、各艦コントロール。ハルバートンだ! 本艦隊はこれより、大気圏突入限界点までの
 アークエンジェル援護防衛戦に移行する。厳しい戦闘であるとは思うが、彼の艦は、明日の戦局の
 為に決して失ってなぬ艦である。陣形を立て直せ! 第8艦隊の意地に懸けて、1機たりとも我らの
 後ろに敵を通すな! 地球軍の底力を見せてやれ!」
「やはりな……艦長!」
「キラ君!?……どうして貴方…そこに…」
「そんなことより、旗艦メネラオスに伝えてください! アークエンジェルの盾になるな! むしろ
 そこにおびき寄せろって!」
「な、なにを!?」
「奴等の狙いはこの船です! 無理して突っ込んでくるところを脇から狙えって言って下さい!
 艦の正面には俺が出ます!」
「貴方が!?」
「カタログスペックでは、ストライクは単体でも降下可能です!」
「分かった! ただしフェイズスリーまでに戻れ! スペック上は大丈夫でも、やった人間は居ないんだ!
 中がどうなるかは知らないぞ! 高度とタイムは常に注意しろ!」
「了解! ストライクはエールパックを装備」
「バジルール少尉!」
「キラ・ヤマト! ストライク! 発進する!」

「くっ……重力に引かれてる?……艦隊は?」
俺の目の前で、壁のように展開していた艦隊が穴を開ける。
「やってくれたか」
提督が聞き入れてくれたらしい。
その穴からMSが出てくるが、殆どは横から加えられる砲撃にさらされ落ちている。
「命令とは言え辛いな」
クルーゼは、やはりアークエンジェルへの攻撃を厳命してるようだ。
遮二無二アークエンジェルに向かうMSは第8艦隊を半ば無視して、こちらへ向かっている。
だが、それにも限界がある。多くのMSが抜け出して来た。
「さてと……」
「お~! ウヨウヨ来やがった!」
「大尉!?」
「お付き合いしますよ♪」
「……無茶はしないで下さいね」
「お前さんには言われたくないな」
悔しいけど…その明るい態度に笑みが零れてしまう。
「参るな……じゃあ、気を取り直してと……」
俺が集中すると頭の中で種が弾ける。視界がクリアーになり集中力が増す。
「始めよう……アークエンジェルには触れさせんよ!」

「ほら……まだこんなに元気だよ」
「……うん」
僕が無傷でクリアーした事にマユちゃんが呆然としてる。
そうやって僕たちがゲームという名のシミュレーターで遊んでると、突然ドアがノックされた。
「マユ、いるの?」
「お母さん?」
……あれ? 僕の出番はこれだけ? 

そもそも今回のネタが分かる人いるの?

続く

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