第13話「憎しみの風車」

Last-modified: 2016-08-23 (火) 23:13:13

ガンダムビルドファイターズ side B
第13話:憎しみの風車

 

 ―プラフスキー粒子―
18年前、PPSE社が開発、実用化した、
『ガンプラを原作の性能通りに動かし、エフェクトや背景を表示させる粒子』
このあまりに不思議な、かつ理不尽な物質により、ガンプラによるシュミレーション
『ガンプラバトル』が成立、一躍大ブームを巻き起こす。
しかしその8年後、PPSE社は全てのプラフスキー粒子の供給を停止、
これによりガンプラバトルは終わったかに思えた。

 

 しかしそれからわずか半年後、アメリカの若き科学者ニルス・ニールセンは
ヤジマ商事の協力を得て、プラフスキー粒子と同じ分子構造の粒子の開発に成功する。
だが、そのまま実用化するには2つの難点があった。
まず一つは、アニメ『機動戦士ガンダム』の内容に沿ったエフェクト、火力、効果等の
再現であった。このあまりにファンタジーな効果は実現不可能と思われたが
残存するPPSE社の粒子をコピーさせることにより実現を見た。
PPSE社の粒子をほんの少量混入すると、ヤジマ社の粒子も同じ性質を持つように
なることが判明したからだ。

 

 もうひとつの問題は生産コストである。わずか数ccを精製するのに
10数億円もかかってしまう。生産方法は公開されたが、
ヤジマ商事含めどの大企業も大量生産は不可能と思われた。
しかし、ニルス・ニールセンはこの問題をも解決し、ついにガンプラバトルの
完全な再生に成功することになる。
 この大量生産の秘密は未だに非公開のままである・・・

 
 

 メイジンの敗北から20分、未だ騒然とした会場の雰囲気の中、
1回戦第2試合で戦う2選手が壇上に上がる、ヤン・ウィンVSサトオカ・ソラ。
「・・・サトオカ君、きのう君は『本気で戦ってくれ』と言ったな。」
「はい。」
「本来、今大会でメイジン以外に、俺の『本気』を見せる気はなかった。
 日本を代表するガンプラファイターをズタズタに負かすことを望みに
 この大会に臨んだのにな・・・。」
「・・・日本人を嫌うのは、やっぱりネーデルガンダムの件ですか?」
昨日あれから兄に聞いて、Gガンのネーデルが出る話をチェックしておいたのだ。
「ああそうさ!俺の家は代々オランダ名物の風車小屋の管理をしている。
 それを、Gガンであんな役に当てやがって・・・だから、この世界大会で
 日本人のヤツを粉砕してやりたかったのさ!」
吐き捨てるように語った後、少しテンションを落として続けるヤン。
「だが、ヤツはもういない。だから、同じ日本人の君に代わりに報いを受けてもらう。
 恨むならメイジンを恨むんだな。」
宇宙の返事を待たず操縦席に向かうヤン、宇宙はその表情に違和感を感じた。

 

(そんなに自信がありそうなのに・・・なんであんな申し訳無さそうな顔をするんだろう。)

 

 バトルフィールドが精製され、両者がガンプラをセットする。

 

 ―STAGE HILL―
 舞台は桜の咲き乱れる、小高く広い丘。

 

「トリックスター、テイクオフします!」
発進するボール。桜吹雪の中をホバリングしながら進む。
「相手は・・・あそこか、随分遠いな。」
バーニアを吹かし加速。遠くにたたずむ、巨大なコンテナを背負ったネーデルに接近していく。
と、いきなり宇宙のコックピットに警報が鳴り響いた。
「リングアウト警報?」
ガンプラバトルには一定のフィールドがある、プラフスキー粒子はその中にのみ存在し
そこから出るとガンプラは当然ただのプラモデルになり、動くことなく落下して
リングアウト負けとなる。
 ネーデルガンダムのコックピットは警報が全力で鳴り響いていた。
まるでコーナーを背負うボクサーのように、フィールドの隅ギリギリに位置どっている。

 
 

 観客席で大地が呟く。
「考えやがったな、トリックスターは突進系の技が中心だ、あそこに立たれたら
 技を出してかわされたら即リングアウトになっちまう・・・」
宇宙も同じことを考えたらしく、ネーデルから少し距離を置いて停止、対峙する。
そんなトリックスターを見て、少し自虐的な顔をするヤン。
「・・・じゃあ、始めるぜ。」
背中の巨大コンテナを開放するネーデル。中から出てきたのは幾つもの巨大な兵器だった。
通常の10倍はあるようなビームサーベルのグリップ、
先端にビグ・ザムの発射口を取り付けた、巨大なメガ粒子砲の砲塔、
ツインバスターライフルに、MSサイズの盾型に改良されたレクイエムやジオン用ソーラレイ、
それらの兵器がネーデルの背後の地面に突き刺さる。

 

思わずどよめく観客たち。
「なんだよあの重火器の山は。」
「粒子足りねぇって、撃てるかよ。」
 ガンプラバトルをよく知る者ならば、これらが張り子の虎なのは周知の事実だ。
武器は強力であればあるほどエネルギー、つまり粒子のチャージを必要とする。
これらの武器のひとつでも発射可能になるまでに、攻撃を仕掛ける時間は十分にあるのだ。
「・・・ネーデルガンダム・エンド・オブ・ワールド。」
ヤンがそう呟き、ネーデルの指が腰にあるスイッチを押す。
と同時に、ネーデルの前面に付いている風車が回転を始める。それは風車のレベルを超えた
猛烈な回転に達し、まるで換気扇のごとく周囲の空気を吸い込み、フィールドに風を起こす。
「何のマネだよ・・・」
「風を起こしてどうする?確かに多少相手に影響はあるだろうが。」
スタジアム最上段の選手控え室で見ている選手もいぶかしがっている。
「・・・あれ?」
宇宙が違和感に気付く。
「おかしいよ、これだけ風が吹いてるのに、桜が反応していない?」
確かに。フィールドは風が吹き荒れているのに、背景の木や草や、舞い散る桜の花びらまで
無風状態のごとく、わずかななびきも見せない。

 
 

「この風車はプラフスキー粒子で動いてるんじゃない、ネーデルに内臓された
 モーターと乾電池で動いてるんだ。」
ヤンが説明を始める。
「だから粒子は認識できていないのさ、今、風が吹いてることを。そしてバトルとして認識しなけりゃ
 粒子はただの空気中に漂うチリにすぎない。するとどうなると思う?」
「お。おい!あれ見てみろよ・・・」
「粒子が、ネーデルの後ろに集まっていく!?」
外から見ると、緑色のプラフスキー粒子がネーデルの背後に集まってるのがよく見える。
「粒子は空気の流れに同調する。が、粒子はフィールドの外には出ない、空気はフィールドの外に出る
 当然粒子はこのフィールドの隅、つまり俺の後ろに『溜まる』のさ、するとどうなると思う?」
「やばい!逃げろ宇宙ーっ!」
大地が叫ぶ。いつのまにかネーデルの後ろの巨大兵器はみなエネルギー満タンだ。
メガ粒子ライフルを手にとり、頭上にかざして風車の上からボールに狙いをつけるネーデル。
「喰らえいっ!」

 

 ズビュウゥゥゥーーーーン!!
メガ粒子砲が発射される。大地の声のおかげで逃げ体勢に入っていたトリックスターは
かろうじてメガ粒子砲をかわし、そのままネーデルから遠くに離れる。

 

 ガクン!
いきなり地面に『落ちる』トリックスター。今までホバリングで浮いていたのに
急に下部のホバー用バーニアの出力が落ちて失速したのだ。
「な、なんで?」
「周りをよく見てみな。」
ヤンに言われるまま周囲を見渡す宇宙、選手、そして観客たち。
「なぁっ!!!」
誰もが驚愕の声を上げる。桜の舞う丘の背景が半透明になり、消えかかっているからだ。
「粒子量が・・・少なくなっている。」
「ネーデルがかき集めた分、他の空間の粒子が薄くなってるのか!」
メガ粒子砲を捨て、ツインバスターライフルを手にするネーデル。
「そういうことだ。あと少しすれば、もうそこじゃ動けなくなるぜ。」
「なん・・・だと。」
嘆いたのは他ならぬメイジン・カワグチ。
バスターライフルを向けるネーデル、トリックスターは機体を地面に引きずりながら逃げようとする。
「喰らいな。」

 
 

 ズドッシュゥゥゥーーン
バスターライフルがトリックスターを襲う、その瞬間、トリックスターは全てのバーニアを全開、
主砲を逆方向に放ち、その反動も利用してかわそうとする。
ライフルがカスめるが、盾を斜めに当てがい辛うじて直撃をまぬがれるトリックスター。
反動で無様に数回転転がり、ようやく停止した、その周囲はすでに背景はほとんど見えなくなっていた。
「そろそろ移動もできないかな。動けなければレッドウォーリアだろうが
 フェニーチェトレミーラだろうが、ただの置き物にすぎん。」
大地が観客席から飛び出し、ステージ下に取り付いて絶叫する。
「ふざけんなっ!!近づけば反則武器の餌食、離れれば動けなくなる、そんなのもうバトルじゃねぇっ!」
「その通りだ、こんなのをガンプラ『バトル』と認めるわけにはいかん!」
通路まで降りてきたメイジンが叫ぶ。
「・・・別に、卑怯者呼ばわりされても、反則負けでも一向に構わないぜ。」
ヤンが二人に返し、続ける。
「だがな、Gガンでオランダ代表のネーデルをこんなデザインにしたのはお前ら日本人だぜ。
 俺は、それに腐らず、この姿のガンプラで一番上手く戦える方法を模索したつもりだ。
 それが卑怯っていうのか?ネーデルは背景のフリをしてりゃあいいって言うのか?
 お前ら日本人はよぉ!」
言葉に詰まる二人。
「俺はな、そんな俺の、オランダ人の怒りを、少しでもお前らにぶつけたかっただけだ、
 優勝なんかに興味はねぇよ・・・」
誰かをネタにして笑いものにするのは簡単である。しかし、馬鹿にされた者は決して
それを忘れる事はない。そんな暗い感情に当てられて、誰も言葉を発せない。

 

「動け!動けっ!」
ふと見ると、トリックスターが辛うじて動いて、いや、回っている。
ここまで何度となく行ってきた、コマのように回転してエネルギーをチャージする方法。
しかし、その勢いはなく、かろうじてふらふら回るに留まっている。
「無駄だよ、いくら内部的にエネルギーを溜めても、粒子が無いんじゃガンプラは動かない。」
背後の巨大ビームサーベルを持ち上げ、点火する。ピンクの火柱が上がったそれを
槍投げのポーズで構えるネーデル。
「動けぇ、動けえぇぇぇっ!」
喫茶店のシャンデリアの上の換気扇のように、ゆっくりと回転を続けるトリック・スター。
「悪いな、あばよ。」
巨大ビームサーベルをぶん投げるネーデル、放物線を描き、トリックスターに向かう。
やがてトリックスターを飲み込むように地面に刺さり、爆発を起こすサーベル。
「・・・終わった、か。」
天を仰ぐヤン、やり終えた充実感は無く、逆に暗い後悔を抱えて。

 
 

 しかし、バトル・エンデッドの音声は流れなかった。
爆発の真上で、トリック・スターは回転を続けていたのだ。しかも少しづつ速度を増して・・・
「なんだと!何故飛べる!!粒子が無いの・・・に・・?」
トリック・スターが、回りながら緑色に輝いている。いや、その内部から、緑色の光・・・
粒子が溢れ出してきているのだ。
 会場全体が言葉を失った。目の前で起きていることを理解しようと考えをめぐらせる。
やがて前の方の席にいたランバ・ラル似のおっさんが声を絞り出した。
「まさか・・・プラフスキー粒子を『増殖』しているのか?まるで細菌のように、
 あの内部のソウルドライブで!!」

 

 主催席、ニルス・ヤジマが泡を吹いて倒れた。頭を抱えるキャロライン。
「ついにバレてしまいましたわ、プラフスキー粒子の大量生産方法が・・・。」

 

 PPSE社の粒子は、実にリアルにガンダムの世界を実現していた。
研究を重ねるうち、そのひとつ『SDガンダムフォース』の主人公メカ
キャプテン・ガンダムの持つ『ソウルドライブ』にかけると粒子が分裂を始めることに気付いた。
その性質を利用して、ヤジマ商事は巨大なソウルドライブを開発、粒子を安価に
大量生産することに成功する。
同時に他社に真似が出来ないよう、バトルシステムにエマージェンシーシステムを搭載、
ソウルドライブ効果を実現させたガンプラが現れると、ニールセン・ラボに通報する
システムを確立していたのだ。

 

 キュウゥゥゥイイィィィン!
ついに本来の元気な動きを取り戻したトリックスター、その球状の機体からは緑色の粒子が
とめどなくあふれ出ている。
一方ネーデルはMSサイズのレクイエムを構えた。狙いをつけるヤンの顔は
動揺どころか期待感に輝いている。
「よけてみろ!」
レクイエムを発射するネーデル。トリックスターはバーニアを全開にしキリモミ回転で前進、
レクイエムの射線から離脱、回避に成功。トリックスターの通過したラインには粒子が撒き散らされ
消えかけていた桜の花が咲き乱れる。
「はっはっは、まるで花咲かじいいさんじゃわい!」
おっさんが笑いながら叫ぶ、桜の飛行機雲を引いて飛ぶ緑の彗星に、観客が歓声を上げる。

 
 

「俺は、この大会、どんな卑怯者呼ばわりされても構わないつもりだった・・・
 だが、どうだ。あいつはそんな俺の戦法にすら対応してきた。
 俺すら卑怯と思っていた戦法すらあいつは、そしてガンプラバトルは受け入れたんだ!」
対処できる方法がある以上、その戦法を卑怯と言うのは適切ではない。
自分が長い間考え、作り上げてきた戦法。それが認められた気がして嬉しかった。

 

「相手がフィールド隅にいる以上、どこから接近しても狙い撃ちにされる・・・どうする?」
宇宙が嘆く。依然戦いが有利になったわけではない。ネーデルの強力な兵器の数々は健在だし、
突撃してかわされればリングアウト負けな状態も変わっていない。
「これしか、ないか!」
ネーデルの正面に位置し、左の盾を真っ直ぐネーデルに向け、右の盾を真上にかざす。
そしてバーニアを全開にする、螺旋を描いてネーデルに向かうトリックスター。

 

 ネーデルはライフルサイズに改造したメメントモリを担ぎ上げ、発射する。
螺旋を描くトリックスターはその射線の外周を回ってネーデルに接近、
ついにネーデルの左横に密着する。
「この風車さえ、なんとかすれば!」
ネーデル本体と風車の隙間に『工具の手』を差込み、引き抜きにかかる。
ダメージレベルAではプラスチック部品を意図的にパージすることは出来ないが
モーターの回転芯は金属なので、プロペラを外せると踏んだのだ。

 

 ぱきぃぃぃん!!

 

 狙いは的中した。外れたプロペラはまるで竹とんぼのように勢いよく回転、上昇。
そのままバトルフィールドを突き破って天井まですっ飛んでいった。
「くっ!」
後方によろめくネーデル。
「・・・そうか、風車が外れたせいで重心が後ろに偏ってるんだ。それなら!」
一度バックして距離を取り、間髪いれずネーデルに突進するトリックスター、
ネーデルはまだ次の武器を拾えていない。
「いっけえぇぇぇぇぇっ!」
スパイラル・ドライバーで突っ込む宇宙、ヤンはそれをギリギリまで引き付け、
後方に倒れこんでかわす。
「読んでたよっ!」
宇宙が叫ぶ。トリックスターはネーデルに接触する寸前に急上昇、飛行ベクトルを横から上に変え、
場外ギリギリのままネーデルのはるか上方に舞い上がり、ツバメを返して落下してくる。
「読んでたのは、こっちも同じだ!」
ネーデルは倒れたまま、際にある武器を手に取る。銃座の付いた小型のジオン軍ソーラレイ。
寝転んだまま、真上の宇宙に狙いをつける。

 
 

火柱が垂直に立ち昇る。その中にキリモミ回転しながら突撃するトリックスター。
回転力で熱を散らし、火柱を蹴散らしながら進む・・・が、やがて圧倒的な熱量により
ついに上方に押し返されていく。盾は半分以上溶け、頭の砲塔は消滅。
盾の隙間から入り込んだ熱腺はボール本体の背中を打ちつけ、チョウバンを押して
カウルを押し開け、中のミニボールを叩き出す。
「俺に使った戦法か!」
大地が叫ぶ。背中向きに攻撃を仕掛け、スパイラルドライバーの中心の隙間を撃たせて
中のミニボールを無理矢理排出させる戦法、宇宙の最後の一手。
吹き飛んだボール本体は、そのまま場外の天井まで押し飛ばされる。
生き残ったミニボールはミニ砲塔を合体させ、寝転がっているネーデルに横から接近、
狙いは一点、胸に見えているモーターの芯穴!
「くぅっ!!」
まさかの展開に絶句するヤン、重心が後ろにあるネーデルは仰向けに寝た状態から
起き上がるのに時間がかかる。上半身を起こしたその時、ミニボールの砲塔が
ネーデルの胸の穴に差し込まれた。
「撃てえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
絶叫する大地、引き金を引く宇宙、ネーデルの体内に打ち込まれる銃弾。

 

 次の瞬間、ネーデルから猛烈なプラズマ、いや、雷といっていい電撃が
四方八方に撒き散らされる。内部の電池かモーターに反応したのか。
吹き飛ばされるミニボール、地上を転がり、離れて止まる。球状なのが幸いして破壊は免れたが
砲塔は転がったせいで潰れてしまった。

 

 放電が終わった後には、黒コゲになったネーデルが立っていた。
やがてゆっくりとヒザを付き、羽根の無い風車台がそこに固定された。
ネーデルの目が光を放ち、尽きるロウソクのように揺らいで・・・消えた。

 
 

 -BATTLE ENDED-

 

 終わった・・・のか?
観客も、両選手も、そんな思いで固まっている。なにか違和感があるから。

 

 そう、通常はバトルエンデッドの音声と共に、フィールドの粒子は機械内に回収される。
しかし今回、音声とメッセージは出たものの、粒子は未だフィールドに満ち、
桜並木もやや薄いならが見えている。
「そうか、トリックスターが作った粒子、あれが回収しきれていないんだ。」
大地が最初に気付く。後半戦は終始回転し、粒子を増やしながら戦っていただけに
最初の粒子が全部回収されても、未だに舞台は消えずに残っている。

 

「お、おい、あれ・・・」
「あ、ええ?ちょっと!」
観客席がざわめき始める。皆、一様に上を指差し、『それ』を見て歓声を上げる。
大地も、ヤンも、上を見上げ、『それ』を目にする。
「はぁ!?くっ、くっくっくっ、あははははははははは・・・」
腹を抱えて大笑いするヤン、観客席からもあちこちから笑い声や口笛、拍手の渦が起こる。
「あはは・・・」
宇宙も『それ』を見上げて思わず笑顔になる。選手控え室でも全員が笑って拍手している。
『それ』は上から、粒子の影響を受け、ゆっくりと降下してくる、ゆっくりと・・・。

 

「ほら、起きなさいニルス!」
失神したニルスに往復ビンタをかますキャロライン。やがて薄目を開けるニルス。
はっ!、と起き上がると、痛恨の表情で頭を抱える。
「そうだ・・・プラフスキー粒子の秘密が、公然の場で暴かれて・・・」
下を向くニルスの両頬を掴んで、前を向かせるキャロライン。
「そんなのどうでもいいから、あれ見て、あれを!」
「・・・?」
「・・・え、えええーーーっ!」
目を丸くし、仰天するニルス、キャロラインはニヤニヤ顔だ。

 
 

 上から降りてきたのは、すでに両盾を失ったボール。その頭の上には
ネーデルの風車がプロペラよろしくくっ付いて、まるでヘリのよう、いや
『SDガンダムフォース』でシュウト君が乗る機体のようになっている。
粒子の抵抗を受けて、ゆっくり回りながら降下を続ける。

 

 最初に場外に出た風車は天井に刺さり、後からソーラレイで飛ばされたボールが
同じ位置に突っ込んで、砲塔のあった部分に無理矢理、風車の芯がハマったようだ。
そんな偶然に加えて、トリックスターの生んだ『余った粒子』が、このゆっくりとした降下を演出する。

 

 やがて桜吹雪の中に舞い降りるボール。脇には黒く染まったネーデルとズタボロのミニボール。
その並んだ3体を見て、会場のボルテージはさらに上がる。

 

 誰も注目しなかったAブロック1回戦第2試合、その試合を見た人にとっては思いがけず
記憶に残る試合となった。

 

「粒子の秘密の公開料は、この試合ということでいいですわ。それだけの価値がありましたもの。」

 
 

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