第21話「お嬢様とお姫様」

Last-modified: 2016-08-23 (火) 23:23:19

ガンダムビルドファイターズ side B
第21話:お嬢様とお姫様

 

「おーい、こっちこっち。席番号このへんだ。」
準決勝、第二試合まで1時間、里岡兄弟応援団のすぐ横に、
金髪をオールバックにした男が10人ほどの若者を連れてやって来た。
第一試合でのチョマーの応援を終えたドイツ人が帰った席に次々座る。
と、そのうちの一人がこちらを見て声をかけてくる。
「あ、あんたら確か、ガバン学園とかいう所の・・・」
「ガバイ学園だ!ってお前、カミキ・セカイか!?」
里岡応援団、つまり西日本のガンプラ強者達が一斉に注目する。そこに着席した面々は
彼らに劣らぬガンプラの名手たちだ。
「スガ・アキラにアドウ・サガ!キジマ兄妹にコウサカ・ユウマ・・・」
「引率してんのはガンプラ学園の監督、アラン氏じゃねぇか。」
『関東の若きエース達』と称される面々、特にカミキ・セカイは、ガンプラと自分を
シンクロさせる技『アシムレイト』の使い手として一躍有名になった。
「きゃー、フミナちゃんひっさしぶりーっ!」
「千尋ちゃんに可憐ちゃん、あんたたちも来てたのね!」
強豪同士、当然知り合いもいるようだ。その代表格が顔を合わせる。
国内の2強学校と言われるガンプラ学園、グラナダ学園の両監督。
「お久しぶりです、矢三布監督。昨年の学生選手権以来ですね。」
「ああアラン監督、君が観客席とは珍しいな。君ならメイジンのツテで
 どこからでも観戦できるだろうに。」
「・・・この試合、というか『彼女』の試合だけは、彼らに見せたくてね。」

 

 1ヶ月前、日本第4ブロック(関東地区)の決勝ロワイヤル、予選を勝ち抜いた32人の
強豪たちが一同に会し、代表の一名を決定する戦い。
それは、あまりに異彩を放つガンプラの、文字通り無双劇で決着を見た。
―レイラ・ユルキアイネン、モック―
何度も斬撃を喰らい、何度もビームで焼かれ、弾丸を雨あられと浴び、爆弾の業火に焼かれ、
それでも次の瞬間には、まるでなかったかのように平然と襲い掛かるその機体。
その恐るべきガンプラの前に、関東の若武者達は次々に粉砕されていった。
最後に残ったのはカミキ・セカイのカミキバーニングSP、何度も何度も鉄拳を見舞い、
蹴りを打ち込み、肘を突き立て吹き飛ばした。
都合一時間は続いただろうその攻撃は、やがてセカイのギブアップによって終了となった。
格闘家の彼が、完全に心を折られたのだ・・・

 

もっとも彼自身は、一晩寝てメシ食ったらすっかり立ち直っていたそうだが。

 
 

「あの光景は忘れられないよ、私の若き弟子たちやライバル達が、それこそカスリ傷一つ
 与えられずに、次々に粉砕されていった・・・」
遠い目をして語るアラン、長年ガンプラに携わってきた彼が、ビルダーとしての自信を
まるごと喪失するような試合だった、あのモックの『作り』がまるで見えてこない。
「彼女は確かファイターで、ビルダーは別にいるんだったな、確かププセとか。」
「ええ・・・私自身、あのモックの謎を解かない限り、熟睡できる夜は来そうにありません。」

 
 

「大変長らくおまたせいたしました!ただ今より、ガンプラバトル世界選手権、
 準決勝第二試合、レイラ・ユルキアイネン選手対、エマ・レヴィントン選手の試合を行います!」
壇上に上がるエマ、一方のレイラはププセを伴い、さらに父と母も壇上に上がる、大所帯だ。
その姿に観客がざわつき始める。
「なぁ・・・あれ、10年前に行方不明になった選手に似てないか?」
「ホントだ、確かイオリ・セイのパートナーのレイジ、それにネメシスのアイラ・ユルキアイネン・・・」
「間違いない、多少老け込んでるけど、間違いなくあの二人だよ!」

 

「今『老けてる』とか言ったヤツ、前に出てこぉーいっ!」
「ちょ、ちょっと王子!こんな場所でキレないで下さいよ!」
突然キレるレイジ、ププセが必至にはがい締めで押さえる。ジト目で見やるアイラが一言
「・・・バカ王子(中年)。」
「う、うるせーこのババア!」
「ぬわんですってぇええええ!!誰がババアよ誰がっ!」
「この場でお前意外に該当者はいねーだろー?」
「あ・ん・た・こ・そ!そのまま老人になっても『王子』って呼ばれつづければいいわ!」
「な、なんだとおぉぉぉーっ!」

 

選手席でルワン、フェリーニ、チョマー、そしてメイジンが腹を抱えて笑い転げている。
「じゅ、10年前に痴話喧嘩した二人が、今度は夫婦漫才やってるわ・・・」
「あの試合も・・・確か・・・準決勝だった・・・よな、ひーっひひひ・・・」
30分経過、ようやく両者のガンプラが筐体にセットされる。奥のパイプ椅子には
大会役員のイオリ・セイにこんこんと説教されたレイジとアイラが反省のポーズで座る。

 
 

「レイラ・ユルキアイネン、モック!いっきまーっす!」
「エマ・レヴィントン、オッゴカスタム、行きます!」

 

 ―STAGE MAGMA―

 

「あのステージは!」
「ああ、幻のステージと言われたマグマ地帯!ついに実用化されたのか!!」
10年前、PPSE社最後の大会となった第7回大会において、決勝のPVとして
採用されていたステージ。決勝までの期間『ガンプラ・イブ』にあちこちで放映されていた
決勝のイメージPVの舞台。
しかし実際には決勝の舞台は宇宙ステージに差し替えられていた。その後も実用化はされたが
採用はずっと見送られてきた、まさに幻のステージだ。
その理由は難度の高さにあった、誤ってマグマの中に落ちればそれだけでアウトなのだから。

 

 モックは冷えた岩の上に立ち、オッゴはホバーで浮いて対峙している。
「オッゴは足が無い、飛び続けて20分が限界か、それまでに決めたい所だが・・・」
「あの不死身のモックを、果たして短時間で倒せるかな?」
観客が、選手が、それぞれに試合展開を予想する。特に注目を浴びているのはやはり
驚異的なタフネスを誇るモックの方だ。

 

「先手必勝!いくわよ、モックパーンチっ!」
ジャンプしてオッゴに踊りかかるモック、浮いたまま後退して間を取るオッゴ。
溶岩の合間にある岩に着地し、再度追撃をかけようとするモックだが・・・
「逃がさな、って、わわわわっ!!」
着地した岩は、実は溶岩の上に浮いてるだけだった、バランスを崩し、そのまま溶岩に腹ダイブする。
―どっぱあぁぁぁん―
豪快に溶岩が飛び散り、そのまま沈むモック。5秒・・・10秒・・・一向に出てこない。
「・・・え?まさか、これで準決勝終わり!?」
「ちょ、いくらなんでもそれは・・・世界大会準決勝なんだし。」
観客のざわめきが広がっていく。30秒ほど経った時、溶岩の中から手が伸び地上の岩をつかむ。
そのまま、まるでプールから上がるように、溶岩の中から登場するモック、
あろうことか無傷、しかも焦げ目さえもついていない。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「どんだけぇぇぇぇぇぇぇ!」
もはや観客もリアクションに困る有様だ。いくらなんでも溶岩の海にダイブして、塗装色すら
影響ナシとかありえなさすぎる。

 
 

「えへへ、ドジっちゃった。でも!この通りあたしのモックは無敵だよっ!」
ピースサインを取るモックとレイラ。それを見たエマは、深く溜め息をついて一言。
「なってないわ、全然ダメね。」
その言葉はレイラのみならず、観客全体を驚かせた。目の前でモックのタフさを
見せ付けられて、動揺どころかダメ出しを・・・
「なっ!何よぉ、確かにドジは踏んだけど、それでもこっちは無傷なんだから!」
顔を赤くして反論するレイラに、強い口調でエマが返す。
「だから!そういう時には言うべき言葉があるでしょう!
『さすがモックだ、なんともないぜ!』って。」
選手全員と観客の8割がずっこける、宇宙も思わず苦笑い。
「エマさんって・・・黙ってればお嬢様なのに・・・」

 

 お嬢様VSお姫様の試合は続く。レイラは積極果敢に攻撃するが、オッゴは機動性を生かして
クリーンヒットを許さない。
しかし基本、宇宙用機体であるオッゴは、地上で無制限に飛びつづけることはできない。
このまま時間が経てば、やがてエネルギー切れを起こし、飛べなくなって粉砕されるだろう。
「(あの不死身の謎を解かなければ、私に勝ち目は無さそうですね・・・しかし一体?)」
モックのジャンピングキックをかわすオッゴ、そのすれ違いざまに、足の裏に印字された
ある文字を見つける。
「(PPSE!?あのガンプラ、バン○イ製でも、ヤジマ製でもなく、あのPPSE社の?)」
「どうしたのー?逃げてばっかじゃ勝てないよーっ!」
レイラの挑発を無視し、考えをまとめるエマ。
「(PPSE社は確か、ガンプラを市販はしなかったハズ・・・ごく一部のバトルシステムにのみ
 モックがプログラム内部に組み込まれていて、それを元に他社がいわゆる『量産機』として
 モデル化した・・・)」
すでに10分が経過している。オッゴの残りエネルギーはもう半分も残っていない。
「(もし、未だヤジマ側が解明していない粒子の謎を、彼らが知っていて、使えるとしたら・・・
 あっちの陣営の誰かがPPSE社の関係者?)」
ショルダータックルをいなし、軽くバルカンを当てながら後退するオッゴ。
「(相手のビルダー・・・ププセ・マシタ。ププセ・・・PPSE?)」

 

 ―繋がった!―
エマが確信する。モックが傷つかないのはガンプラの素材などではない。初期設定による
粒子操作、違法スレスレのゲーム内部仕様!

 
 

 オッゴがフルスピードで戦線を離脱、あっという間にモックとの距離を取ると、
リングアウトギリギリのエリアまで進み、オッゴを着地させる。
そしてなんと、操縦席を離れフィールドの外側を歩き始めるエマ。
「おいおい、試合中に操縦席を離れるなんて・・・試合放棄か?」
観客の野次を無視し、今オッゴがいる位置と、筐体の外部スイッチの位置を確認する。
駆け足でコックピットに戻った時、ちょうどオッゴを追ってきたモックが到着した所だった。
「へっへーん!リングアウト狙い?その手にはのらないよーっだ!」
無邪気に笑うレイラに対し、エマが質問する。
「ねぇレイラさん、そしてププセさん、ひとつ聞きたいんだけど・・・」
「何よ?」
「どうして『モック』なの?貴方たちのガンプラ。」
「それはもちろんモックだからですよ、それが何か?」
ププセが答える、当たり前といえば当たり前だが、確かに違和感はある。
「私が聞きたいのは、どうして名前がそのまま『モック』なのかということ。別にスーパーモックでも
 モックスペシャルでもいいじゃない、なんで『素の名前』なの?」
「・・・っ!」
顔を引きつらせるププセ、レイラのほうはというと頭にハテナを浮かべている。
「登録のGPベースに入ってる名前が、そのまんま『モック』じゃないと困るから、ではなくて?」
青ざめるププセ、状況を飲み込めないレイラ。
「つまり、こういうコトなのでしょう!」
機体を変形させ、ヨルムンガンド形態をとる。そしてマニピュレーターでヒートホークを掴み
なんと発射口に差し込んだ。しかもモックを狙わず、場外方向に狙いを定める。
「この位置でいいはず・・・ファイア!!」
大砲が発射され、差し込まれたヒートホークが吹き飛ぶ。場外に発射されたそれはフィールドを突き抜け
舞台の壁に当たって再び筐体の方に飛んでいく。
そのヒートホークが、筐体横にある『あるスイッチ』に当たる。

 

―VS CPU MODE LEVEL SSS―

 

 筐体がその音声を告げた途端、四方八方からガンプラの射出口が現れる、そこから
次々に飛び出してくるガンプラ、驚くレイラ。
「ええっ!?モ、モック?」
CPUモード、レベルSSS。対CPU戦で敵モック100体と戦うモード、
プライヤーの人数はいくらでも可能という設定だ。
そして、次々に出てくるモックに混じって、黒コゲの機体や手足だけバラバラと落下する機体
バルカンで蜂の巣になった状態で登場し、その瞬間に爆発する機体もある。

 
 

「あれは・・・まさか!?先の戦闘や、その前の溶岩に突っ込んだ時のダメージ・・・?」」
観客席でコウサカ・ユウマが呟く。キジマ・シアが続きを搾り出す。
「あのモック、まさか・・・自分のダメージを、CPUのモックに転送していた?」
「バカな、そんなコトができるわけないだろ!」
反論したのはガンプラ心形流の松岡だ、師匠の家にバトルシステムがある彼にとって
ガンプラバトルで出来る事と、出来ないことの見分けくらいはつく。
「まんざら不可能じゃない、最初からそういう設定があれば・・・」
アランが語る。元PPSEの開発主任である彼には心当たりがあった。
モックは元々ガンダムに興味が無かったマシタ会長お気に入りのガンプラだったのだ、
もしもPPSE社がモックを設定するさい、そんな機能をあらかじめ付けていれば・・・

 

「ダメージをCPUの同名機体に押し付ける、それがそのモックの不死身の秘密。でもCPUに
 設定されているモックは最高100機、それらを全て壊せばもうダメージを転送する術は無い
 そうですね、ププセさん。いえ、PPSE社会長マシタ氏のご令息!」
「・・・正解です。でも別にPPSE社の仕込みじゃないですよ、この機能は。」
「そうなの?」
「これはアリスタを使って・・・って、このへんは喋るわけにはいきませんが、
 あくまで後付けの機能なんです。」

 

「ねーってば!さっきから一体どーゆーことなの!説明してよププセ!」
「早い話が、このモックの無敵っぷりは少々反則気味、というわけですよ。
 溶岩に浸かってみればわかります。」
言われるままに溶岩に入るモック。と同時に大量にいるCPUモックが1体、また1体と
次々にドロドロ解けていく。
「あ・・・あああっ!」
状況を理解するレイラ。そして会場の全ての人間も。

 

 場外から少しづつブーイングが大きくなっていき、やがては会場全体を支配する。
レイラはというと、下を向いてうつむいたまま顔を上げない。
ププセが、こここまでですね、とレイラに歩み寄ろうとしたその時、

 

「ガンプラは自由だ!」

 

聞きなれた声がスピーカーから会場内に響く、メイジン・カワグチだ。

 

「不満もあるだろう、理不尽に思うこともあるだろう、しかしそれでも全て受け入れ
 戦っていくのがガンプラバトルというものだ。」
メイジンの力説に、ブーイングをしていた者も押し黙る。
「考えてみたまえ、諸君にとって『モック』とは何だ?ただのやられ役か?
 彼の機体はアニメ化されていない、つまり『物語』が無い、
 ゆえに純粋なガンプラバトル専用の機体でしかないと、私も思っていた。」
「だが違ったのだ、彼らには『ダメージを転送する』という機能が、そういうドラマッチックな
 能力があった!彼らにとって原作はあくまで『ガンプラバトル・システム』なのだから。
 それを使うのが卑怯というのは、∀ガンダムが月光蝶を使うのが卑怯という事となんら変わりない。」

 

 正論中の正論である。モックが『そういう機体』ならその機能を使う事に何の問題も無い。
「だから戦え、レイラ・ユルキアイネン!君には一点の否定される理由も無い。」
選手席のメイジンを見上げていたレイラ、その後ろにいつのまにかレイジが立っていた、
肩に手をおき、愛娘に伝える。
「だってよ、見せてやれよ、お前の力を!」
「・・・うん!」

 

 レイラのモックがバーニアを全開し突進する。『CPUのモック』に。
数体に体当たりをかまし、溶岩の海に叩き込む。すれ違いざまにキックで胴体を上下に分断し、
パンチで数体を串刺しにする。
不死身さばかりが目立っていたモックだが、こうして見ると一撃の破壊力は恐ろしいレベルだ。
3分もしないうちに、CPUモックは全て残骸に成り果てていた、
自らの手で、『ダメージ肩代わり役』を掃除したのだ。

 

「さぁ、お姉ちゃん、勝負よ!」
「潔いわね、メイジンも『使っていい』って言ってたのに。」
対峙して微笑みあう二人。お嬢様と、少し大人になったお姫様が、最後の激突をする。

 
 

「ガンプラバトル世界選手権、決勝進出は、スイス代表、エマ、レヴィントン選手ーっ!」
温かい拍手に包まれる会場内、選手同士が抱擁を交わす。見守る父と母も穏やかに笑う。

 

おそらく彼女達は来年はもう居ないだろう、ただし本人にも、観客たちにも、その姿は
長く記憶に留まるだろう。ガンプラバトル・システムに、モックという愛すべき機体が
ある限り・・・。

 
 

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