【ジョジョ】ゼロの奇妙な使い魔【召喚36人目】
『一昨日、アブリリウス宇宙港で発生した、ブルーコスモスによる毒ガステロの続報です───』
「ただぁ~いまぁ~」
弱々しい声と共に、久しぶりにネクロノミコンはシンの部屋に帰宅した。
部屋の主は丁度勉強中。ニュースを聞きながら、魔導書を開いているところであった。
レイ・ザ・バレルの捨て身の説得が功を奏し、シン・アスカは世の為人の為、自身の為、議長の為、友人の為、ついでに相棒の為。燃え盛る使命感で悪夢も拒食も吹き飛ばし、エネルギッシュに訓練と勉学に励んでいた。
事件のあった日、シンが部屋に戻ってくると、親友が床でもがいていたのは衝撃的であった。
彼は持病もちであることを知ってもらうために薬を飲まずに待っていたのだが、シンの到着時刻を知らなかったため、我慢に我慢を重ねた挙句、薬を飲む体力も消耗し、ぶっ倒れてもがいていたのだ。
それからシンが薬をなんとか飲ませ、一命を取り留めてから、説得を聞いて、今にいたる。
さて、従者であるネクロノミコンはこの二日、頁を盾にハイネに散々に扱き使われた。
その甲斐あってか、アトラック=ナチャ大暴れは、プラントの世論に一片の真実を漏らすことはなく、ブルーコスモスに全ての責任をひっかぶってもらう形で事件は幕を引いた。
ハイネがぼそりと「魔導書って便利だな」など不穏な発言も見受けられたので、今後、オカルト事件のたびに呼び出される可能性を捨てきれない。
彼女はハイネが苦手だ。ああいう飄々としたタイプより、からかいがいのあるクソ真面目君とか、年寄りをいたぶるのが好きなのに。どうして変なのに目をつけられてしまったのだ。
ああ、どうして私はいつも不幸なのだと、彼女は幸運の女神に悪態をついた。
ついたのはいいが、何故か連想される女神は、爆乳の古本屋店主だった、異常にムカつく。
何故か、ああ何故なのか、その女神は悪口を言うほど喜ぶのだ。マゾなのか?
これも記憶が戻らないせいだ。きっと記憶が、断片が全て戻れば、強靭!無敵!最強!の存在なのだ。
賭けてもいい、はらたいらさんに三千点くらい固い。
そうだ、エルダーゴッドの相方は貧乳だ、間違いない。天地神明、三千大世界に誓って間違いない。
根拠は思い出せないが、私の胸に誓って間違いない。
となれば、何故か思い浮かぶ幸運の女神はきっと邪神だ。そうだ乳は邪神なのだ。許せない。
人間の莫迦な男共は胸の脂肪如きで喜んでいるが、エルダーゴッドは貧乳派なのだ。ざまあみろ。
貧乳は……貧乳は神なんだ。ロリペドは宇宙を守っているものなんだ。それを……それをこうも簡単に否定されていくのは、それは……それはひどい事なんだよ! 何が楽しくて脂肪を弄ぶんだよ! ヴィーノみたいな巨乳派はクズだ! 生きていちゃいけない漢なんだ!
つまり貧乳、スレンダーな体形こそが、旧神を支える生命の唄なんだよぉ。
わかるかぁ! ヨウラン・ケントォ! ユニバース!
「お帰りー」
疲れ果てていたたせいか、悶々と浮かんでくる支離滅裂で意味不明な思考を中断させたのは、彼女のパートナーであった。
「疲れた……」
普段なら残業に不満が噴出するが、くたびれ過ぎて二の句が続かない。珍しいこともあるものだ。
「ポーが心配してたぞ」
「……お休み」
言うが早いか、いつもの下着同然のドレスに戻る時間も惜しみ、赤服のままポーにぼよ~んと倒れこみ、そのまま夢の世界に旅立った。
ポーはぽよよんと、乙女の人肌のように柔らかく彼女を包み込む。例えるとおっぱいみたいに。
──────うなされ始めた。
飛び起きた。
「忘れてたわ。私の断片届いてるでしょ」
「ああ、ハイネ先輩が直々に渡しに来たよ。ポーの中に入れてある。 気づかないとは思わなかったけど」
見れば、ベッドと化しているポーの中身にふよふよとページが浮いていた。
まさか自分の一部にも気づかないほど疲弊していたとは───
彼女にとって生まれて初めての徹夜仕事は、集中力すら奪っていた。
「不覚……私としたことが」
忌々しげにポーから頁を取り出すと、さっきまでのお疲れオーラが一転、嘘だったようににこやかになる。
「まあ良いわ、万事過ぎたこと。艱難辛苦もこの日のためと許しましょう。
ついに、ついに、私が私に戻る第一歩がこの手に。ふっ、ふふふふ。 さあ、しかと活目しなさい、シン・アスカ!」
ピカーと後光を発しつつ、頁を胸元へ押し付け、吸収する。
シンは、相棒がアトラック=ナチャみたいなナイスバディに成長することを期待していた、
断片があれ程にムチムチのパッツンパッツンなのだ。その本体が完成の暁には調整美女なぞあっと言う間に叩いてみせるわ! となるのを期待するのは仕方ないことであろう。
少年の真摯な願いを込めた頁は、魔術文字に霧散しながら彼女の胸元へ吸い込まれ、跡形も無く消失した。
シンはわくわくドキドキしながら、彼女が、テクマクマヤコン テクマヤコン 大人になぁれ!
と、変化するのを心待ちにしていた。
しかし現実は無情であり、ネクロノミコンの肢体はさっぱり成長の兆しを見せず、それどころかイイ笑顔だった彼女の笑みが凍りつき、次第に深刻なものに変わっていった。
さっきまでの明るい雰囲気は一転、空気はどんよりと重くなり、彼女は鏡を一瞥すると呆然と自身の姿に見入った。白雪姫を映し出した鏡を睨みつける王妃のようだ。
「……………」
ネクロノミコンは憤怒とも悲哀とも慟哭とも区別しきれない複雑な表情を浮かべると、無言のまま踵を返し、部屋から去った。
状況の変化についていけないシン。断片を取り戻した結果、彼女になんらかの精神的ダメージがあったのだろう、程度の推測ができるだけだ。
「無駄になっちゃったか」
シンはチョコレートケーキを用意していた。
ハイネに今日彼女が戻ってくると聞いてから、臨時の給金をはたいて、大急ぎで購入してきたのだ。
彼女が仕事から戻った今日この日は、奇しくもマユ・アスカの誕生日だった。
シンは妹の生まれた日を復讐心を滾らせる日にはしたくなかった。
だから、彼女の回復を祝う形で、この日を喜ばしい日にしよう。そう思い立ち、オーブ時代のようにケーキを買ってきたのだが───この分では祝うどころではないだろう。
「メイリンにでもあげようかな……」
落ち込んで考え込む、考えていると、
「てけりり!」
「ポー?」
「てけりり」
「そうか、そうだな。分かったよ、追いかける」
「てけりり♪」
従者の薦めに従った。
彼女は寮の屋上にいた。シンの位置からでは後ろ姿しか窺えない。
作り物の世界に建造された町並みを見下ろして、なにやら悩んでいるようだ。
彼女は近寄りがたいオーラを発しており、シンは声を掛けたり姿をみせたりしてよいものか悩んだ。
相談があるなら話しかけてくるだろうし、悩みがひと段落するまで待ってみようか。
それとも、さりげなく近づいて「らしくないぞ」と一声かけるべきだろうか。大いに悩んだ。
少年が起こした行動は───様子見。
残念ながら、15歳前の少年にジゴロくさい行動は無理でした。
彼女は身じろぎもせずに眼下を見下ろし続ける、地球なら夜風に吹かれてと表現するところだが、プラント内では空気清浄機のゆらぎが精一杯。どうにも色気にかける夜の屋上だった。
春もなければ冬もない、嵐もなければ竜巻もないプラントの気候は、地球移民のシン・にとってはすこぶる不愉快な代物だった。
彼はそういった環境面へのささやかな反逆と、彼女への励ましとして、髪が流れるくらいの風を送ってみる、勿論魔術だ。
そんなことをしたら速攻気づかれるだろう、という突っ込みは余裕のないシンには思いつかない。
突然の風に帽子を押さえるネクロノミコン、きょろきょろと辺りを見渡すが、しばらくして風に身を任せた。
30分後、あたりの空気圧を変動させ続けた結果、シンは意識を失いそうになっていた。
ハスター関連の魔導書と契約していれば、長時間の操作も思いのままだったかもしれないが、如何せん相性が悪かった。シンは汗だくで魔力を放出しつづけた。
その甲斐あってか、彼女の放つネガティブオーラは随分と和らいだように感じる。
比例してシンの意識も霞がかってきていた、そこへ
「もう出てきていいわよ」
天の助けが入った。どうやらとうの昔に気づかれていたようだ。観念して姿を現す。
「き、奇遇だな」
「バカね」
「ぐっ」
振り向いた少女に一言で切って捨てられる。ただ、微笑を浮かべているので結果オーライだろう。
「不審人物なんだから、いつまでもうろつくなよ」
「そう………ねえ、マイマスター? 私が不審人物どころか、ものすごい悪人だったらどうする?」
はぐらかせるような視線ではない、酷く真剣に真摯に問いかけていた。
「この世界で悪い事してないだろ、だったら悪い奴になるまでちゃんとつきあうよ」
「そう。私はきっと、ううん、絶対に。断片を取り戻したら悪い奴になるわ。私はそういう存在なんだって事まで思い出してしまったから。いつかこの世界も壊したくなる。それが役割だから」
「馬鹿馬鹿しい。そんなのほっとけばいいだろ」
「無理よ、私が完全に元に戻れば、その演目(プログラム)は実行される。舞台は書き割り、私は役者。私は生まれてくる代償に悪でなければいけなかったの。憎むゆえに我あり、悪ゆえに我あり、よ」
「そうなったら俺が責任もって矯正してやる。駄目なら他の世界に捨ててやる。
今ならただのトラブルメーカーだろ。だったら、このままいろよ。俺が認めてやる」
シンはこの人騒がせな同居人を失いたくなかった。もう失うのは嫌だった。だから誓ったのだ、モビルスーツで、魔術で、自分から奪い去ろうとする者をなぎ払ってやると。
「だいたい人の迷惑を考えるなんて似合わないぞ。今まで通り、好き勝手生きてるほうが似合ってる。
だから、帰ろう。ポーも寂しがるし、それにケーキも用意してある」
彼女は口を開かぬまま、憂いを込めた笑顔をでシンを見つめた。二人はしばし見詰め合う。
常人ならラブロマンスかもしれないが、シンは年下趣味は無い。
「そうか、今の私には帰る場所が、まだあるのね」
「そうだ、贅沢だぞ。生まれ故郷から逃げてきた奴だって居るのに」
彼女は瞑目してから、ようやく吹っ切れた笑顔をみせた。
「チョコレートケーキ?」
「へ?」
「だから、ケーキはチョコレート?」
「当たり前だろ!」
「どうしてもって言うなら食べてあげてもいいわよ」
「……どうぞお召し上がりください、我が従者様」
二人は噴き出した。
「そうだ、名前を一部分だけ思い出したわ。K.D.。私のイニシャルはK.D.よ」
「K.D.。ケイ、ディか。うんネクロノミコンとかよりずっといいな。
それじゃ、改めて、これからもよろしくな、K.D.!」
「こちらこそ、マイマスター」
その夜、シンの部屋にレイ、ルナマリア、メイリン、ヴィーノ、ヨウランが集まり宴となった。
軍隊の寮生活者がそんなことを許される筈も無いが、レイ・ザ・バレル必殺の議長へ請願攻撃により、合法的に酒盛りが許された。まったく酷い話だと思わんか。
続く、以下ネタです。それといつもまとめてくれる方、ありがとうございます。
ついでといってはなんですが、15話のホテル・ミネルバはネタなので削除してほしいです。
「という訳で、主賓のK.D.ちゃんから一言!」とのりのりヴィーノ。
「こんばんわ藤枝保奈美です。今日は私のために集まってくれて感激です。みんなのために歌います。
「「「「おぉぉぉぉーーーーー」」」」─────藤枝保奈美って誰だ?
「月は東に日は西にオープニング曲『divergent flow』」
「2番ヴィーノ、連合戦隊ダガレンジャー」
「「「引っ込め売国奴ーーー!」」」
「ググれー!」
「ニコニコー!」
「3番ルナマリア、ヘミソフィア」
「うめー!」
「職業間違ってるー!」
「俺は最初からクライマックスだぜ!」
「新バンド、DACのボーカル、K.D.です♪」
「ギターのヴィーノです」
「ベースのヨウランです」
「新曲、YUUWAKUするぞ、いきまーす」
ちなみに、Damon■■■■ in A■kh■m Cityのイニシャルです。
阿鼻叫喚の宴はこんな感じで深まっていった。
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