聖戦士ダンバインSEED DESTINY_04話

Last-modified: 2011-07-28 (木) 20:00:16

 日の光に輝く海面が何処までも広がる大海原。その上空をダンバインは飛んでいた。
 その傍らを飛行する物。それは、スカイグラスパーと呼ばれるモビルアーマー。道案内と護衛に付いてきたという体裁ではあるが、それだけが理由では無い。
「……警護についての考えってのがこれかぁ」
 出発前にユウナ・ロマ・セイランが言っていた台詞を思い返しながらシン・アスカは呟く。そして、呆れ混じりの溜息と共に続けた。
「代表首長様がモビルアーマーを操縦できるとはなぁ……」
 スカイグラスパーに乗っているのは、カガリ・ユラ・アスハその人。
 確かに、同行するのであれば警護も出来るだろう。だからと言って、代表首長をつい先刻雇われたばかりの護衛一人だけつけて、オーブ政府にとっては未知の存在であるアの国の艦隊の元に送り出すというのは、シンも流石にどうかと思うのだが。
 それとも、そんな突飛な事をしなければならない程に、カガリは危険な立場にあるという事なのか……
「それにしても、お姫様ってのは何処の世界でも戦闘訓練を受けるのか?」
 ドレイク・ルフト国王陛下の娘、リムル・ルフト姫が敵方に寝返って、オーラバトラーで戦っていた事を思い出してシンは嫌な気分になる。彼女を連れ戻す為に戦った事も一度や二度ではない。
 何となくシンは、カガリが色恋に血迷って裏切る事がない様に祈った。その点に関して、ユウナがもっとしっかりとカガリの心を掴んでいてくれればと思わないでもない。
『聖戦ザッ! 目ガッ域は近ビッ!』
 シンの思考を遮り、通信機が雑音混じりに声を上げた。
 アの国の艦隊が居る目標海域に近づいたという報告だろうか。
 ともあれ、カガリがご機嫌だというのは、ほとんど聞き取れない通信機越しの声でもわかった。と言うか、感情の他には何も聞き取れないのに等しい。
「……通信機は使えないか。どうりで、アの国艦隊が沈黙してるとみなされたわけだ」
 アの国の艦隊は南太平洋上に出現。
 現状、大西洋連邦と大洋州連合が互いに牽制しあいながら艦隊を追っている。公開情報ではないが、プラントの潜水艦隊が偵察に動いている兆候もあったらしい。ついでに言うと、オーブも艦艇を派遣している筈だ。
 今の所は、各国ともコンタクトを取ろうとしている様子だが、通信には一切答えていないという。とは言え、答えない理由は、知っている者からすれば単純だ。
 ニュートロンジャマーによる通信障害。
 CE世界の軍用通信機なら、制限付きではあっても何とか通信できる。
 しかし、アの国の軍勢が使っている通信機の類は、もう一つの地上で購入した物。もう一つの地上は、CE世界よりも技術はかなり遅れていた。もちろん、ニュートロンジャマーの通信障害に抵抗出来る訳も無く、完全に通信不能に陥っている。
 実際問題、シンのダンバインの通信機も、通信相手のスカイグラスパーが目視できる距離にあってさえ、ほとんど通信の体をなしていないくらいだ。
 つまり、外からどれだけ呼びかけようと、それに気付きようもないわけで、そうとなれば無論、反応を示す筈もない。
 目の前まで行って旗を掲げるくらいの原始的な方法をとれば別なのだろうが、各国とも謎の艦隊を相手にそこまで接近するつもりはないのだろう。しばらく遠見に観察して危険な相手かどうかを探ってからというのは、至極まともな判断だ。
 それでも何時かは何かの行動を起こすのだろうが、こちらはその前にコンタクトを取る事が出来れば良い。他の国が惑っている今の内だ。
 だが、そう易々ともいかない様ではあった。
『ジジッ士殿! 哨戒ザッ、接ガーッ!』
 カガリからの通信。何か近寄ってきたのだろう。
「どっちからだ?」
 言いながらシンは、コックピットから外を見渡す。と、前方遠くMSが4機、接近してきたのが見えた。
『連合のジジッジッウィンダム……一応、敵じガッないが。こっちに停止するよう通信をギュィーッ!』
 面倒かもしれない。こちらが、彼らにとっては所属不明のアの国の艦隊と同じ存在だというのは、ダンバインの姿を見ればわかることだろう。設計が明らかにこの世界のMSとは違うのだから。
 となれば、単機と甘く見て手を出してくるかもしれない。
『無視しギュイィィィジジジッ!』
 カガリのスカイグラスパーが速度を上げる。
 無視して突っ切ろうという腹か? それは悪くないとシンも思った。アの国の艦隊の勢力圏に入る事ができれば、どの軍も手を出してはこないだろう。とはいえ、相手もそれを許すまいとはしてくるだろうが。
 シンはスカイグラスパーに合わせて速度を上げたが、さすがにスカイグラスパーの方が速い様で、ダンバインは少しずつ置いて行かれる。
 カガリの方でそれに気づいたのか、カガリのスカイグラスパーは速度を落としてダンバインと並んだ。しかしこれでは、ほかの軍のMSを振り切るなど無理だ。
 やがて接近してきた連合MSのジェットストライカー付きウィンダムは、スカイグラスパーとダンバインを監視するようにわずかに離れた位置につく。
『停止ジッ……と攻撃すザザッ!だって? ここは公海上だろ!?』
 カガリの怒声が通信機から漏れ出した。
「拙いな。戦いになるぞ」
 シンは呟く。戦いたくはないのだが、カガリの護衛も引き受けてしまっている以上、攻撃を受けるのなら反撃をせざるを得ない。
 仕方なしに、ウィンダムの動きに気を配りながら、操縦桿を慎重に握り直す。
 と、ウィンダムの持つビームライフルが僅かばかり動いたと感じた。
「避けろ!」
 通信機に叫びながらダンバインを跳ねるように動かし、そしてオーラショットを放つ。
 その一撃は一機のウィンダムを貫き、宙で爆散させた。
「狙いが甘いぞ」
 ウィンダムの放ったビームは、見当違いの空を貫いている。と、通信機からはカガリの怒声が飛び込んできた。
『馬鹿! 今のジッ威嚇ザザッだ!』
 先走ったかと苦く思いながらも、シンはカガリに言い返す。
「カガリ様は高みへ! 武器を向けて撃ったんだから、敵は交戦の意思ありだ!」
 味方を一人殺られたウィンダム達はまさに完全な敵となり、ビームを放ちながら距離を詰めようとしてきていた。ならシンプルに、敵は倒すという事でかまわないだろう。
 カガリのスカイグラスパーは天へと駆け上がり、高度をとって敵の攻撃から逃れようとする。シンのダンバインはウィンダムが放つビームをかいくぐりながらオーラソードを抜いた。
 と、その時、足下の海面で何かが蠢く。
「下!?」
 シンがダンバインに回避運動をとらせるのと同時に、海中から撃ち放たれた4条のビームが空に線を描いた。
 シンのダンバインに2条、ウィンダム達の方に2条。回避運動の甲斐あって、ビームは全て何もない場所を射貫く。
 ウィンダム達もとっさに反応して生き延びていたが、おかげでダンバインへの攻撃の手は止まっていた。その隙にシンは、海面をざっと見渡す。
「海の中か!?」
 シンは、海中にもMSの姿を見た。
『ZAFTのガガガッ!新型ピッギガッ!ッシュギッ!ザッー!』
 上空を旋回していたスカイグラスパーのカガリから、シンはその名を教えられる。
 アッシュ……ZAFT最新鋭の水中用MS。連合による攻撃が始まって焦ったのだろう。ダンバインを連合に渡すくらいならば、自分達がというわけだ。
 アッシュは一度攻撃を浴びせると水中深く沈んで姿を隠す。いずれ再び浮かび上がり、攻撃をしてくるだろう。
 と、海面に注視していたシンのダンバインをビームが掠め、オーラバリアに触れて散る。
 再度の攻撃が行われる前にダンバインを押さえようと、ウィンダム達が攻撃を仕掛けてきたのだ。
「面倒だな!」
 シンは舌打ちを小さくして、海面から出来るだけ離れるように飛び、ウィンダム達へとオーラショットを向ける。
 ある程度散開してきていたので、その内の一機を選んで狙い撃った。
 撃たれたウィンダムは持っていた盾でオーラショットを受け止め、直後、盾ごと腕をむしり取られて宙で体勢を崩す。そのまま落ちていく所を、仲間のウィンダムが急行して拾いあげた。
 この状況で不利と考えたのか、残るもう一機のウィンダムはダンバインから仲間をかばう位置について、明らかに牽制とわかる射撃を行ってくる。おそらくは逃げるつもりなのだろう。
 シンはそれを察して、攻撃の手を緩めて相手が逃げるに任せた。
「こいつ等はこれで終わりで……!?」
 と、仲間を拾い、抱えながら逃げようとしていたウィンダムが、抱えていた僚機とともに海上から伸びた二筋のビームに貫かれ、爆算した。
 見下ろせば海面、ZAFTのアッシュが波間に姿を見せている。
「背を見せた敵を撃つ!? わざわざ無駄な事を!」
 シンは僅かに嘲りの混ざる声を漏らし、オーラショットを放つ。その一撃は、再び波間に沈もうとしたアッシュをとらえ、爆散させた。
 海面に炎と油が広がる。それを見ながら、シンは残りのウィンダムに向けてオーラソードを振り、今の内に逃げるよう示した。
 先ほどまで戦っていた敵であるダンバインに逃げるよう促され、残るウィンダムは一瞬だけ戸惑ったが、すぐに背を見せて空を飛んでいく。
 シンに素直に従ったのかもしれないし、単に一機のみでは任務を遂行できないと理解していただけかもしれない。
 ともかくシンは、最後のウィンダムが逃げる間を、海上の監視に費やした。
 残るアッシュが自分を、あるいはウィンダムを攻撃するかもと考えたのだ。
 だが、アッシュは姿を現さない。かわりに、海中からミサイルが数発打ち上げられ、ダンバインを襲った。
「なんとぉ!?」
 シンはとっさにダンバインを下がらせながらオーラソードを振り抜き、直撃コースで飛来したミサイルを叩き切る。
 直撃は防げた。だが、残りのミサイルは近接信管を発動させ、ダンバインを囲んで炸裂する。
「オーラバリア出力全開!」
「そう上手くいくかっての!」
 無責任に声を上げるフレイにシンは怒鳴り返す。
 ただ、フレイの声は何の助力にもならなかっただろうが、オーラバリアはミサイルの爆発に耐えきった様だった。爆発の炎と煙はオーラバリアに押しとどめられ、ダンバインには届いていない。
「これなら、煙幕代わりになる! 面倒だから、戦場を離脱するぞ!」
 ダンバインの周りを煙が覆っていた。この様子ならば、敵からはダンバインは見えていないだろう。
 シンはこの時とばかり、ミサイルの飛んできた方向に背を向けて一気にダンバインを飛ばせる。
 果たして煙幕の効果があったか、アッシュからの追撃はなく、ダンバインは戦場を脱した。
「聖戦士殿! ギッ無事ザザッだっキィーンか?」
 高高度から降りてきたカガリのスカイグラスパーから通信が入る。シンは、それが戦闘終了の合図に思えて、安堵の息をつきながら答えた。
「無事ですよカガリ様。それより、アの国の艦隊まではまだですか?」
「ザッー、ギッガリガリガリ!」
 返答は酷いノイズ。その不愉快な音に顔をしかめながらシンは問い返す。
「何だって? もう一度頼む!」
「ジッう少し……いや、見えたぞ!」
 カガリの声が明瞭に聞こえた。そして、遙か前方の雲間……
「見つけた……俺の国の船だ!」
「シンってば、大げさよぉ? 昨日まで飽きるくらい一緒に居たのに」
 感動を押さえきれずに声を上げたシンに、フレイが呆れた様な声を上げた。だが、そんなフレイを一切気にとめず、シンは雲間に浮かぶアの国のオーラシップの一群とその周囲を飛ぶオーラバトラー達に目を向け続けていた。

 
 

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