舞乙337氏第05話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 17:28:25

第五話 黒きオトメ覚醒~エアリーズ海戦~





「…」

 目を閉じ、そのお墓の前に立つニナ。

 その場所はガルデローベ敷地内にあり、よくみんなで昼食を食べた場所…。

 一年もたっていないのに、もう数年前のようにかんじてしまう。

 お墓を前にしてニナは中腰になって、お墓と対面する。

 後ろにいるアリカとマシロは黙ってその様子を見つめる。



 誓い



 二度とあなたのような人を生み出さない。



 私達の戦いを決して無断にしてはいけないから



 だからエルス…。





 ヴィントブルーム

 ガルデローベ…議事堂

 今回の一連の騒動で、各国の大臣たちやその代理たちが一応に集まっていた。

 アルタイの奪還、そしてエアリーズに現われた謎の戦艦。ハルモニウムの残り火における協議が今まさに始まろうとしていた。

 議事堂の議長席には、学園長ナツキ・クルーガ、補佐にはシズル・ヴィオーラ、サラ・ギャラガー。

 エアリーズからはユキノ・クリサント大統領そして准将ハルカ・アーミテージ

 カルデアからはカズヤ・クラウゼフ皇帝とアカネ・ソワール。

 アンナンからはグエン王とアイン・ルー。

 フロリンスからはフロリンス王とロザリー・クローデル。

 ルーテシア・レムスからはレムス王とラウラ・ビアンキ。

 ルーテシア・ロムルスからもロムス王とカーラ・ベリーニ。

 ヴィントブルームからはマシロ女王とアリカ・ユメミヤ。



「では、これからオトメ条約機構特例C項に基づき臨時の緊急会議を行います」



エアリーズ国境付近



 アークエンジェル周辺はいまだに監視体制に置かれている。

 エアリーズデルタオトメ隊が待機し、その後方には万が一の事態に備えエアリーズ共和国陸軍が待機している。

 その状況をただ眺めているだけのアークエンジェル艦内。



「…あれからもう5日が立つわね」

 マリューはかわらない風景を眺めながらつぶやく。交渉中の一本の電話で、交渉は中断、それ以後向こうからの接触は無い。

 なにかあったと考えるべきだろう。

 だが、この五日間向こうからの攻撃等は無い。一体どうなっているのだろうか検討もつかない。



「それでも、いい休暇になっているのは事実だろうね」

 コーヒーをマリューに渡すバルドフェルドの服装は私服である。相変わらずいいセンスとは言いがたい趣味の服ではあるが。

「…みんなの適応力には驚かされます」

「そうはいっても僕らは結局、閉じ込められたままだからね。あんまり変わらないんじゃないかな?」

 マリューはいつにもまして静かなこの様子を見ておもわず、いつもの騒がしさが聞こえないことが寂しいなと思ってしまった自分に笑ってしまう。



アークエンジェル内



「これで終わりだよ」

 トランプを落として何も無くなるキラ・ヤマト。

「こういうときにだけ無駄に強いなお前は」

 こういう遊びのとき限って負けず嫌いを発揮するキラを見て、アスランは言う。

「勝たないと面白くないじゃない?」

「だからといって、負けたものには罰ゲームっていうのが…」

 アスランは前を見る。

 そこには先ほどから惨敗して罰ゲーム争いをして受けているカガリとメイリン、ミリアリアの姿があった。

 三人ともいわゆるコスプレという格好をさせられている。

 メイド服に運動服のブルマ姿、そしてここの世界で調達したオトメというもののコスプレだ。

「なんで私がこんな目にあわないといけない!!」

「いやー!!また負けた!」

「あ、アスラン!見ちゃダメです!」

 三人は顔を真っ赤にしたり、逆切れしたり、顔を隠したりして必死になっている。

 アスランはいまのところまだ運でなんとかなっているが、これ以上やれ自分自身も何をされるかわからない。

「みなさんかわいらしくて素敵ですわ。お持ち帰りしたいくらいです」

 ラクスは圧倒的な強さで勝ち残っている。

 なにかしているんじゃないかと思ってしまうわけだが…。



「…それにしても、俺たちはこんなところで、こんなことをしていて平気なのか?」

 アスランはふと自分が、今の状況を忘れかけてしまっていることをふと思う。



「そうはいっても、今私たちがやれることは少ないし、下手に動けば無用な混乱が生まれる。そんなことは誰も望まないだろう」

 カガリはメイド服姿で真剣な表情で喋っている。なんという違和感…。



「…私たちがいない間も、レクイエム付近では戦闘が続いているのかしら」

 水着のミリアリアの言葉にメイリンの視線が落ちる。



 彼女の姉はザフト軍として戦っている。

 少なくとも、あの光に飲まれるまでは。



「…大丈夫だ、メイリン。ルナマリアは強い。運もある。だから大丈夫だ」

「アスラン…」

 メイリンはアスランを見つめ、身体を寄せようとするがカガリににらみつけられアスランが拒む。

「それに、休めるときに休んでおかないとあとで大変じゃない」

「…そうだな。たまには休暇も必要か」

「じゃあ!部活の続きをしようぜ!」

「キラ…お前キャラが違うぞ」





ヴィントブルーム議事堂



「賛成票4、反対票3票…賛成多数でこの議案は可決されました」



 その言葉にユキノ大統領の表情は曇る。やはり賛成多数はとれなかった。裏工作をする時間が無かったとはいえ、これでは無用な戦闘が起こるというもの。

「…我々、フロリンスはすぐにでもオトメ騎士部隊をエアリーズ海に送り、異邦人をまとめて確保する準備がある。相手に時間をあたえては、またその科学力を手に入れようとする国が現われるかもしれませんしな」

「…第二、第三のアルタイのようなことは誰も望んではいない。アルタイに対するけん制もかねて、早期に実施することが懸命ですな」

 フロリンス等のいうことももっともな意見だがその狙いはエアリーズの異邦人の科学技術独占を防ぐ必要があるのだ。



「…待ってください。彼らを刺激をする必要があるのでしょうか。ヴィント事変以後、オトメ削減という中、拡大しつつあるこの状況下で、再び争いなどを起こせば、それこそアルタイの思う壺。

 私たちはもうあのような戦争を起こすわけには行かないのです」

「そうやって彼らを抱きこむつもりですかな」

「異邦人の科学技術がほしいだけではないのか?」



 疑心暗鬼…

 ナツキはその言い争いをただ黙って聴いていることしか出来ない。だが、今の状況下でこのようなことをいっているようではそれこそ、本当にナギの思う壺だ。

 ナギに時間を与えれば、それこそヴィント事変以上の混乱が起きてしまうのだ。

 事実、ナギにはそれを行えるだけの力を手にしているのだから。



 各国の代表の言葉をユキノの隣で聞いていたハルカが何かいいたげな表情でイライラしている。



「…わかりました。これは決定事項です。

 明朝、我々エアリーズにいる異邦人艦をオトメ条約機構軍に委任し、それ以後の行動に関しては各国にお任せします」



 こうして休憩が挟まれた。

 フロリンスやルーテシア・ロムルスでは国王が既にオトメ部隊の派遣を国内に通達している。それを見つめるユキノもまた携帯電話に手を伸ばす。

「ユキノ、あんたまさか本当に、あいつらを見捨てるの?」

 そんなユキノの隣で声をだすハルカ。



「…状況判断から見て、彼らがアルタイの異邦人と同系列の艦ということからアルタイと通じている可能性は否定できないし。

 それに…あの科学技術が他国に利用されれば、それは竜王戦争以上、十二王戦争時代に戻ってしまう。それだけはさけないと」

「…ユキノがそういうなら私は何も言わないな。でもあの乗組員たち、嫌いじゃなかったけどね」

 ハルカはそういってそれ以上、今回のことについて意見はしなかった。ハルカは実際乗務員たちと会話をしている。

 その彼女がそういうのだからきっと悪い人たちではないのだろう。

 もし彼らがスパイではなく味方になってくれるならば、それはアルタイの異邦人の艦を倒せる鍵になるかもしれない。

「…エアリーズ、ユキノ・クリサントです。ボーマン中将をお願いします。はい、デルタオトメ部隊に…」





 翌日



 その日、エアリーズ国境海岸付近にはオトメ条約機構軍に加盟するオトメ部隊が配備されていた。

 万が一の抵抗に備えたための部隊とはいえ、かなりの数である。

 主な部隊はフロリンス、先頭にいるのはロザリー・クローデル、その後ろにはシホ・ユイットもいる。



「…シホさん、わたくしの邪魔だけはしないでくださいよね?」

「勿論ですわ。ロザリーお姉さまも年なんですからあんまり無茶はしてくださらなくて結構ですからね~」

 目が笑っていない二人のやり取り。後方には今回の作戦の5柱としての補佐、サラ・ギャラガーが待機している。



「…あんなのでミッションリーダーが務まるのかしら」

 同期であり、よく知っているサラにとってみてロザリーがリーダーというのはいささか不安を感じるものである。

 アインお姉さまたちもいるし。どうにかなればいいのだが。

 彼女たちの部隊の一部が異邦人艦に接触、その艦をそのまま確保することに今回の作戦はあたる。

「…作戦開始時間ですわね。第一先発隊は、ターゲットに接触しますわよ」

 フロリンスのロザリーの号令の元、部隊が動き出す。



 その状況は、各国のカメラによって生中継されている。



ヴィントブルーム城

「…うまくいけばよいが」

 マシロ女王はヴィントブルームでその光景をただ見ていることしか出来なかった。

 反対票を投じた彼女の考えも無理な摂取では争いが起こると考えたからである。

 最後まで抵抗をしようと試みた彼女も、ヴィント事変で各国に助けられたということもあり強く言うことができないというのが、正直なところ。

「なんでマシロちゃんは何も言わなかったの?」

 そういうアリカにマシロは説明するのが大変であった。

 だがニナの口添えもあって今はおとなしくしている。

 ニナはやはり公の場でその姿を出すわけには行かない。

 ヴィント事変での件もあるが、それ以前にニナが本当に必要なときは、今ではない。



アルタイ…黒曜宮

「…やっぱりもう一隻、他の艦もこっちの世界に紛れ込んできてたみたいだね」



 テレビを見つめるナギ。

 ある程度は予想をつけていた。一隻だけではないはずだと。それが他の諸外国と接触するであろうということも。

 だが、結局彼らはこういった方法でしか手にすることが出来ない。それもナギにはある程度予想がついていた。



「あんなことをして、いろいろと抵抗されたらどうするつもりなんだろうね?もう少し頭を使おうよ」

「…殿下、彼女が目覚めたようですが」

「あっそ。じゃあ僕のところに通して?」

「はっ!」



 そういう兵士の後ろから姿をみせるルナマリア、表情はすこし疲れているようだったが、特に問題はなさそうだ。

 服装はザフトの軍服ではなく、アルタイのオトメの服。

「へぇ~似合うじゃん」

「…どういうことですか!私はザフト軍です。あの制服を返してください」

「あ~あれ?今はそれで我慢してよ。そっちのほうが似合ってるし」

 ナギは笑いながらルナマリアを見ている。ルナマリアはその人を小ばかにしたようなナギに一発ぶん殴ってやろうかとおもって拳を握って近づく

「お、落ち着いてルナマリアちゃん!」

 ナギはその怒った顔のルナマリアに殺気をかんじてあわてふためく。

 だが次にルナマリアはそこでナギが見ていたテレビを見つめる。



 そこに映っていたのはアークエンジェル。



ドクン…ルナマリアの中で何かが鼓動する。



「あー、あれかい?君の知っている艦になるのかな?あれもこっちの世界に転移してきたみたいなんだよ。

 なんなら君から彼らにコンタクトしてみるといい。仲間になるなら、僕としてはとても嬉しくてね…」

 ナギは話をそらそうと必死になって話しをふる。 ルナマリアはうつむいたまま何かをつぶやいている。

 ナギはルナマリアが何をいっているか聞き取ろうと耳を近づける。



「…るさない。許さない。許さない、許さない、許さない、許さな…」



 ルナマリアはテレビにうつる、その白い戦艦を見つめたまま唱え続ける。



 あたしの何もかもを奪った戦艦。

 あたしの何もかもを奪ったやつがのっている。

 許さない…絶対に。



 絶対に許さないぃ!!!



 ルナマリアのGEMが赤く輝く。

 その瞬間、ルナマリアの身体から赤黒く濁ったものがルナマリアの中から出て行くのをナギは見ていた。

 それはまるで幽体離脱のようなもの。

「お、おーい。ルナマリアちゃん?」

 目に光が無いルナマリアの視界の前で手を振るナギ。だが反応が無い。

 ナギは彼女が見ていたテレビのほうを見る。



エアリーズ海岸



「?」

 サラは突如としてあたりが暗い雲に覆われていくのを見つめる。

 それは他のオトメ部隊も同じだ。

 ここまで急激に天候が変化するなんてことはいままで…。

「なにかしら?」

 ロザリーもアークエンジェル付近に舞い降りながら空を見上げる。



 雷鳴がとどろく中、一人のオトメの影がその黒き雲の中、姿を現す。



『…許さない。絶対に…』



 それはルナマリアの姿…。ローブを身に纏いその手には巨大な剣を持つ。目に光は無い。

「なんなんですの?あれは?」

 シホがまったく見たことのないオトメの姿に呆然とする中、その黒きオトメ、ルナマリアが巨大な剣をアークエンジェルのほうに向ける。

 剣の先が銃口にへと変化し、GEMが赤く輝きカウントを始めだす。

「まさか!あそこから!?ロザリー、すぐにそこから離れてください」

 サラはアークエンジェル付近にいるロザリーに向けてGEM通信を送る。

 そんなサラの前では、ルナマリアに攻撃を仕掛けるラウラとカーラ。

「たかがオトメ一人に対して!!」

「はぁー!!」

 ラウラとカーラがルナマリアに対してエレメントである攻撃を仕掛ける。

 だが二人の攻撃はそのオトメの身体をすり抜ける。

「なに!?」

「こんな!」

 しかしGEMのカウントはとまらない。



Ⅲ…Ⅱ…Ⅰ…



 巨大な光とともにその剣から放たれた光がアークエンジェルを貫いた。









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