英雄の種と次世代への翼 ◆sZZy4smj4M氏_第04話

Last-modified: 2008-08-01 (金) 21:09:39

           第四幕「フルメタルな混乱を用いたシリアスなお茶会の壊し方」

 
 

―パーティ翌日

 

 月面に作られたドーム。月を眺めるのは好きだったけど、まさか月に泊まる事になるとは思いませんでしたわ。
 ああ、夢の様に過ぎ去ってしまった舞踏会は、12時を過ぎても夢を見せてくれるのはどういったサービスかしら。
 月に居るのは蟹かウサギ。嗚呼、では彼はウサギさんで不思議の国に誘ってくれるのかしら?
 ああ、如何しましょう。私は代表の一人と言う役目があるのに全てを投げ捨てて穴に落ちてしまいそう。
 これが俗に言う恋に落ちると言う事かしら。ああ、この気持ちがあるなら例え、地獄の底でもお供しても構いませんわ。
 さぁ、ウサギさん。私を早くあの人の下へと連れてって下さい。じゃないとローストにして差し上げますわぁ~♪

 

―電波濃度が許容範囲を超えた為、一人称から三人称描写へと切り替え

 

 人工的に作られた午後の日差しの中、焼けたスコーンの甘い香りに鼻先をくすぐる高級茶葉の香りが混ざりながら
 素敵なティータイムを嗜んでいる淑女と言う言葉を形容しても全く問題ない年齢幅の広い女性が3人。
 一番幼い少女、マリーメイア・クシュリナーダは目の前に頬を染めながらも遠い方を見つめコーヒーカップを
 宙に浮かせているストレッチを続けている人間、金髪でりりしい眉毛を持つ女性ドロシー・カタロニアを見つめている。
 その様子をどうしたものかと温和な笑みと雰囲気を出し、長い髪を靡かせる女性レディ・アンや
 栗色の艶が美しい長髪と凛とした顔立ちの美人リリーナ・ピースクラフトへと助け舟を出している。
 マリーメイアの眉間の皺の歪みに連れられたかの様にリリーナも眉尻を下げながら困惑している。

 

「……はぁっ」
「何時も通り……どころか前日比2,6倍って所でしょうか。ドロシーさんの様子がおかしいですわ?」
「2,6倍……そ、そうね。一体何があったのかしら? レディさん。何か心当たりは?」
「先日は連合とプラントのパーティがあって、マーシャンの使節団の一人として参加してましたが
 例の一件以外では特に。取調べの方は本当に確認程度でしたから、やはりパーティで何か」
「久しぶりのこっちの食べ物に当たったのかしら? お医者さんを呼んだ方が?」

 

 レディは柔らかい口調で応えながらも手帳をぺらぺらとめくりながらも視線だけ移動させてスケジュールを確認する。
 3人分のスケジュールを彼女が一括管理しているが、当の本人達はそれぞれのスケジュールに
 関しては全く無関心だった為、パーティと言う言葉に反応してマリーメイアは僅かに身を乗り出した。
 レディはその行動に特に驚く事もなく、ええと僅かに頷きを返すと
 マリーメイアはつまらなそうにイスに深く座り直し、背もたれに体を預けながらも子供らしくない溜息を漏らしていた。
 それとは別にリリーナはドロシーの体調を気遣う様に視線を僅かによどませる。
 年長者でありマネージャーの立場であるレディへと視線を向けるが、それに応える余裕は今は無さそうだ。
 昨日の”一件”であっちこっちの予定が一気に変更を余儀なくされてしまった。おまけに事件の事情聴取の為
 3日の予定が一週間程度、月面に留まる事になった。本来、マーシャンと呼ばれる
 火星圏の開拓と逃避に赴いたコロニーの代表として、彼女達はここに滞在しているだけなので
 当然外交が優先される筈である。だが、地球連合も”プラント”と呼ばれる軍事力を持っている宇宙コロニー郡も
 その”一件”の対応に追われておりこちら側から予定を遅らせる様に打診をしていた。
 自分達が容疑者のままあちこちを回るのは気が引ける上本来は月やの情勢もしっかりと見ておきたかった。
 否、彼女達には特使として見る義務があったのだが、彼女らの願いはかなう事がなかった。
 延長が決まった途端、様々なアポの依頼が舞い込んできて、レディもその対応に追われている形となっている。

 

「あら、其方のパーティはそんな感じだったのですか。私の方は連合の高官の方のディナーでしたが
 人を子供扱いしてくるし、マナーは厳しいお店で肩が懲りましたわ」
「マリーメイア様。その年で肩は凝らないかと」
「気分の問題です、キ・ブ・ン! 地球連合のユーラシアだか大西洋だか知りませんが
 自分の所属する所との取引を求めるばかりで」
「私達が火星に行った後、一度終結してまた戦争を起こしていたそうですから色々と物入りかと思います」
「ほんと、救えませんわ! 何時までワルツを踊っているのかしら!
 テラナー(地球圏の人)達は学習って言葉を知りませんの?」
「それが人の業とは思いたくありませんわね。何のためにヒイロ達やお兄様は」

 

 マリーメイアは怒気を孕ませながら、乱暴にカップをソーサーに置いて僅かに口を尖らせる。
 かつて幼かった自分ですら気付いた”戦争”という過ちを繰り返している大人たちへと文句を言いたかった。
 それに同調するかの様にリリーナもカップの紅茶の水面に映り込む自分の顔を眺める。
 そのテーブルについた淑女達はある一名を除き、数年前に起きたコロニーと地球との紛争に思いを馳せていた。
 彼女らが生き抜いた古くからあるコロニー郡の独立紛争は地球連合との紆余曲折を経て、一応の決着はつけていた。
 ミリアルド・ピースクラフトが地球連合から反目したホワイトファング、マリーメイア軍と呼ばれた
 デキム・バートン卿の武力組織など、その他様々な者達がそれぞれの思惑で戦い、多くの血が流されていった4年前。
 勝ち取った独立も、新たな自由と平和も彼女らにとって良い結果とはいえなかった。
 古くからコロニーに住む人達は出産の際、母子共に死んでしまう先天性の病に掛かり
 それを遺伝子操作で治療した過去がある。その為、プラントに住む”コーディネイター”と呼ばれる遺伝子操作で
 体のポテンシャルをかなり底上げされている人種と混同して見られている。
 コロニー民はほぼスペック的にはナチュラルと同等だという事実を地球の多くの人は認知しておらず
 地球圏に今も蔓延している、コロニー民とコーディネイターの根強い差別意識は未だに続いていた。
 その所為もあり、地球からすれば紛争を起こして独立を掠め取った後
 火星へと逃げ込み、戦争中ものんびりやっていた田舎者のコロニー民(コーディネイター)。
 プラントからすれば、ほぼナチュラルで構成されているコロニー郡で地球連合と交渉して
 自治権を先に獲得した経緯から宇宙の裏切り者、連合に加担するコロニーの勢力と言う風に見られ敵視されている。
 独立し自治権を獲得して安全圏に落ち延びて手に入れた平和に対して、それ相応の重い代償だった。

 

「大体、プラントもプラントですわ。折角、独立したコロニー達に戦争を仕掛けておいて
 今更、いけしゃあしゃあと話し合いをしたいだなんて」
「離脱し切れなかったコロニーには多くの人も居ましたし、すっかり宇宙はプラントの勢力一色の様ですね」
「まるで、宇宙のコロニーは全部自分達のモノみたいな言い方でほんと癪に障ります。
 あの人達は勝手に戦争をし始めて、私達コロニー民とマーシャンの人々はほっぽり出していた癖に」
「まぁ、その人たちはオーブが保護して下ったから良かったのですけど……あの国も戦火にあっていますし」

 

 マリーメイアのテンションは更にうなぎのぼりになる中、普段は止める役目のレディも一部同調しているのか
 スコーンをかじりながらも、すました顔でカップを傾けて静観する構えを取っていた。
 レディの分析としてはプラントと連合の対応もあるがマリーメイアの怒りはパーティに行けなかったとか
 新調したドレスが着れなかったとか、そっちの方が心情的に強いのだろうと認識していたからだ。
 それをまぁまぁと抑える中、情勢的に何も進展していない事にリリーナは憤りを覚えていた。
 途中で見た真っ二つにされたコロニーや焼かれた月の一部は衝撃的だったし
 その憤りは3人に共有されるものだった。プランとは同じ宇宙開拓をしている同胞の筈だったのだが
 軍事協力を拒んだ事で彼らに多くのコロニーが襲われたのは3人にとってもまだ真新しい記憶だ。
 それらの経緯の後、彼女達が地球圏から離脱をしなければ、彼らとは今でも敵対をしていたかもしれない。
 それでも逃げ果せた先、火星で開拓を進めいてたコロニーの人達は快く受け入れてくれたが
 その生活はとても豊かとはいえなかった。彼女達は自分の遺産や財産などを使い潰し
 地球やコロニーからの多くの支援からあったこそ、今日のマーシャンとしての平和を築いている事
 彼女達がマーシャン(避難コロニー郡)の代表として立っている事だと認識していた。

 

「しかし、今の時期にこんなに立て続けに会合や取引を求めるとは
 やはり、例の鉱物を何処も求めているのでしょうね。世界中で必要としていますから」
「解っています! けど、ロゴスもD.S.S.Dも酷い襲撃を受けて壊滅したそうじゃないですか。
 自分達で私達を苦しめておいて、今更助けろだなんて! ほんと身勝手な人達!」
「そうですね。あの時は急にロゴスの資金と物資、D.S.S.Dとの連絡も急に途絶えてしまって参りました。
 特にロゴスの方には多大な資金援助もありましたしたし、お礼もせぬままでしたから」

 

 瞳を閉じたまま、マリーメイアの怒りは収まらなかった。彼女の年齢や先日のスケジュールの不満などもあるが
 はっきり言ってしまえば、マーシャンから見ればプラントも地球連合の信用は地に落ちいてた。
 連合もプラント達も戦争に夢中で火星に派遣していた事など忘れ去られていたし、彼女達が恩恵を受けたD.S.S.Dも
 ロゴスも此処1年半前頃から急に連絡が取れなくなってしまったりと踏んだり蹴ったりだった。
 終いには別のコロニーの特使達もあろう事か連合から襲撃を受けるわ、プラントも途中から支援に手を引いて
 紛争のど真ん中に捨て置いたらしく、特使の経過報告に「我慢ならんっ!」の言葉が乱舞していたのをよく覚えている。
 レディの方からもネガティブな感想と意見を述べ始めて、マリーメイアの火に油を注いでおり
 二人に挟まれたリリーナはカップを傾けたまま、誰かに助け舟を求めるが現実は非情だった。
 夢見がちな静観者もとい、本来だったら着火材になるしかない人物しか目に入らず、ほとほと困り果てることになる。

 

「レディさんも……私達はその人達のど真ん中に居る訳ですよ? もう少し、……その言い様が」
「そうですね。失礼しました」
「そして、あのドロシーさん?」
「……はぁ」
「普段なら必ず割って入るキナ臭い話に全く食いついてこないなんて、ドロシーさんは大丈夫なのかしら?」

 

 リリーナはレディを少し諫めた後、心の中でごめんなさいっと深く頭を下げつつ、話の矛先をドロシーへと向けている。
 彼女に珍しく中々失礼な発言にレディとマリーメイアは一瞬、ぎょっとしながらも促される様に視線はドロシーに向く。
 さっきからのいかにも彼女がすきそうな話の流れだというのに一言も口を挟まず、カップを持ち上げるストレッチから今度は砂糖は既に溶け切っているのにティースプーンでカップの中身を掻き混ぜるストレッチへと運動を変更し、ついでに遠くの星を見つめる視力検査を続行中であった。
 流石に、二人も異変が尋常ではない事を悟り始めたのか顔を凝視しているおでこは輝き、きりっと釣りあがった眉毛はいつも通りだが、今日のドロシーはどこか変だった。
 無論、彼女が変人なのは自他共に認めている事項なのだが、それとは違った変化が見られた。
 正確に言うと、お茶会開始以前からずっとそうだったのだが、3人はようやくそれに触れる決心をした。

 

「そうですわね。ドロシーさんやはりどこか具合が悪いんじゃありませんの?」
「医師の手配をしておきましょうか。少し空き時間はありますし」
「……はぁ。いえ、必要ありませんわ。恋の病はお医者様には治せないでしょう?」
「まぁ、それは確かに…………………………………………………………………………恋?」
「「「恋!?」」」

 

 ドロシーが朝から吐いていた溜息以外での言葉にほっと安心したのもつかの間、一瞬にして3人の理性は消し炭と化す。
 マリーメイアは目を潤ませ、あまりの事態に自分の器量では対処出来ないと判断したのか目に涙を溜めている。
 リリーナは呆然とドロシーの方を見つめたまま瞬きをすることなく、僅かに残された理性でカップを支えていた。
 レディも一見表情と態度は落ち着きを払っていたのだが、持ち上げようとしたカップが何時まで経っても紅茶を
 口の中へと運んでくれなかった事に首を傾げて、下へと視線をずらす。持っていた手が力み過ぎたのか
 カップの取っ手だけへし折って、その部分を持っていたという事実を認識するのに時間が掛かってしまった。
 レディはきょろきょろと周りを見回した後、ぴたりとそれを元の位置にくっつけ直す。しかし、当然取っ手は落ちる。
 ふむっと僅かに頷いたと、どうしたら良いか導き出した言葉を一言ぽつりとつぶやいた。
 おそらく、漫画的な表現がこの世界に適応されているなら、彼女が眼鏡へとぴしりっとヒビが入っていた筈だ。

 

「カップを弁償しないといけませんね」
「……ですね」
「あわわわっ、どどどどど、どうしましょう!? 何か薬物でも、それとも一晩でロボトミー手術か洗脳を!?
 まさか、ドロシーさんが諜報員如きを歯牙に掛ける事は無いでしょうし……ひょっとして酸素欠乏症!?」
「マリーメイア様、落ち着いて下さい。私は落ち着いてます。リリーナ様も大丈夫ですか?」
「へ? あ、は、はい! 私は落ち着いてますよ。ええ」 

 

 まるで世界の終わりを見ているかの様に頭を抱え、錯乱寸前のマリーメイアをよしよしと頭を撫でているレディ。
 更に時を止められていたリリーナに声を掛けて、この緊迫した状況を何とかしようとしたレディは各々に声を掛けていく。
 リリーナも返事こそ返しているものの、牛の置物のように頭だけぺこぺこと上下に揺らしながら、視線は遥か彼方を見つめている。
 それぞれに素数を数える様に促しているレディ当人も同様を隠せない様子だが、それでも爆弾……否! 核弾頭発言への
 被災をなんとか免れなかった三人はまず、事態と事後の再建に乗り出すため情報を集める事にした。
 彼女らの動揺は無理もない。ドロシー・カタロニアと言う人物は確かに美人であり、資産家であり
 マナー、作法に精通した立派な”御嬢様”であった。ただ、如何せん性格と言うモノに難点があり
 彼女が誰か男性を連れ添って歩いている姿など、付き合いのまだ浅いマリーメイアは勿論
 レディやリリーナですら一度も目の当たりにした事など無かったのである。
 本人の口からもその手の話題は一切無く、レズビアンか出家したのかと言う噂の方が強かった。
 彼女は男性をフェンシングで突き殺さないと性的快感が得られないのでは?などと言う眉唾モノの話まで出る始末だ。

 

「えーと、ドロシー様。その恋のお相手とは人類……所謂、ホモ・サピエンスですか?
 それとも、それ以外の動物ですか? MSですか? 紛争ですか? 宗教ですか?」
「……レディさん。流石にその段階の確認は」
「ドロシー様の事ですから十分ありえます。あの羽鯨とか言う化石の可能性もありますし」
「……素敵な殿方でしたわ」
「えーと、生命体でオスである事は確認出来……いや、MSの可能性、偶像か男神の可能性も」

 

 緊張した面持ちでずいっと体をテーブルへと乗り出したまま、3人の女性と娘達はドロシーの
 おでこと顔を凝視する。おでこのてかり具合と、ききりっと二股に分かれた眉毛は紛れも無く
 普段のドロシーである事を再度確認しつつも、まるで3人は得体の知れない爆弾を解体するかの様に
 言葉を選んだまま、彼女へと質問を繰り返していく。3人とも彼女の返答に一喜一憂しながらも
 レディは一見、普通の人が聞いたら確実に失礼だと思う言葉をぽつり、ぽつりっと確認していく。
 空気は異常な程の緊張感だった。全てが疑わしく一個が外れると雪崩の様に恐怖が襲ってくる感覚を3人は感じている。
 その壮絶な緊張感にまだ、年端のいかないマリーメイアはいよいよ我慢出来なくなったのかがたっとテーブルから立ち上がりドロシーの両肩を掴んでがくがくと揺らしてく。あまりの緊張感や諸々の恐怖で目の焦点は合わずに正気を失っていた。
 それを、二人係で止めようとする中、既に周囲からは不信感満載の視線が突き刺さっている事を4人は気付いていない。

 

「ええい!まどろっこしい! ドロシーさんを此処まで骨抜きにするとは一体どんな薬か催眠術を!
 ドロシーさん!? どこの誰にやられましたか!? 私達が、仇を取って差し上げますから! さぁ、話して下さい!」
「………そんな薬やマヤカシ何かじゃありませんわ」
「そうですよ! マリーメイア様そんな”襲撃”されたとはまだ」
「リリーナどうした! どこの勢力の”襲撃”か!?」
「任務確認。警戒行動及び護衛活動に移る!」
「へ? ヒイロ一体どこ……きゃあああっ!?」

 

 ビルの屋上20Mほどから降下する一人の人影。パラシュートをつけて地面へと降り立ったのは年は20に満たない少年。
 今回、リリーナの護衛と言う任務を担当しているウィングガンダムゼロカスタムパイロット、ヒイロ・ユイは
 ごきっと転げ落ちる様に衝撃を何点かに分散させてその舗装されている石畳へと降り立った。
 足の骨や腕辺りの関節が外れる生々しい音で周囲の人間の背筋を震え上がらせている。
 近くで飲んでいた紳士は口からカップから鯨の潮吹きの様にティータイムの友であるカフェラテを空中に飛散させる中少年は自ら外れた関節を自分の腕で入れ直し、テーブルのパラソルを飛び蹴りで倒していく。
 それと同時にテーブルを内側から押し倒して、テーブルクロスの上の楽しいお茶会を彩っていてた
 菓子やカップを飛散させた後、そのまま女性3人を抱え込む様にテーブルの下へと倒していく一人の少年。
 今回、マリーメイアの護衛担当となったトロワ・バートンは行き成り動いた事態に動揺を隠し切れては居ないつもりだった。
 しかし、長い付き合いのある数名しかその変化に気付く事は出来ない事も、彼にとっての悲しい現実だった。
 少年二人は周囲の人たちに銃口を向けて、周囲を恐怖と混乱のどん底へと突き落としていく。
 二人の少年の眼光は鋭くポケットに手でも誤って突っ込んだモノなら
 その瞬間に蜂の巣にされそうなほどの威圧感を持っていた。

 

「で、リリーナ。不審者は……襲撃者はどこだ?」
「マルタイ(護衛対象)をテーブルの中へ」
「ヒイロ! なんで、屋上から飛び降り自殺をしてるんですか!」
「狙撃の心配が無い様に見張っていた所だ。そして、どこだ!? 誰に狙われている?」
「トロワさんも何をしているんですか! 乙女の足元に隠れ潜むなんて許せません!」
「ヒイロ、相手は相当の使い手だ。俺がマルタイの付近で潜伏していても全く殺気を感知出来なかった」
「ちっ、俺達が遅れを取るとは! リリーナ、一体どいつだ!? そんな危険な奴がどこに」
「「き、危険なのは貴方達二人です!」」

 

 人の頬を叩く音が二つ。此処は月下の人が造りし鉄の都。その中のさんさんと降り注ぐ偽者の太陽。
 月の都市は非常事態を起こしていたのだが、その内容はいたって平和と言うかアホだった。
 レディも腰を屈めさせたまま、そのアホな行動に付き合わされている中、これはホテルで場所を移して
 ”しっかりと尋問をするべきだ”と確信し、携帯電話を手にとってピースミリオンへの通信を開く。
 後、この一連の騒動を黙って見過ごしているドロシーの護衛担当のデュオ・マックスウェルは
 一体どこで油を売っているのか問い質さなければいけない。全く、今日はこれから大変だとレディは
 スケジュール帳を開いたまま、猛烈な勢いで微調整をしつつも一つの事案の処理方法を決定していた。

 

―今回のお茶会の”経費”諸々は取り合えずドロシー様に請求しておこう。
  多分、今ならバレないだろうし、責任は彼女にあるし

 

                  舞台は第五幕「学習するKYブラザースと続・死神の憂鬱」に続く

 
 

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