虚空、果てなく_~SEED OF DOOM~_int_2-2

Last-modified: 2014-01-09 (木) 17:56:27
 

   Short Intermisson-2

 

   プライベート・スニーキング・ミッション Act02

 

 「あたし、何やってるんだろう」
 ルナマリアは自問自答する。
 とあるビルの中階バルコニーから、階下のガーデンをスコープで監視するその姿はよく言えばエージェント、下手をするとストーカーか変質者。
 そのガーデンはオープンカフェテラスのような場所になっていた。
 そのテーブルの一つにシンが着席している。
 一応何かを注文したようだが、飲み物が目当てで来たとは到底思えない。
 アカデミーの寮のダイナー・カフェは料理も飲み物も絶品、しかも無料だ。
 よほど馴染みの味があるのでなければわざわざ外部に出る必要はない。
 そしてシンはプラントの生まれですらないのだから。
 果たして、シンの視線はテラスの入り口に注がれている。
 そして一団の来客を目にした時、シンの腰が席から浮きそうになるのをルナマリアは確かに視認した。
 待ち人来るかと、急いでスコープのフォーカスをそちらにあわせる。 
 「あれは?」
 スコープで拡大した視界の中には三人の女性が映っていた。
 正確には一人の女性とニ人の少女か。
 一人は背の低い青みががッた髪の美少女。
 その髪型はなんとも奇妙だった。
 一見するとルナマリアの実妹メイリンと同じダブルサイドシニョン、いわゆるツインテールだが、その少女は全体的にはショートボブカットに近いフォルムの髪をサイドだけを伸ばしてツインテールにしているのだ。
 タイ・アンド・ベルトで引き締められながらデコレートが多い、まるで軍服か警官の制服を華美にアレンジしてスカートをつけたようなワンピースを着ている。
 もう一人はそれと比べるとごくノーマルなイメージの美少女。
 一人目よりもさらに背が低く、また顔立ちも一層幼い。
 金に極めて近い茶髪の一部をパートアップし、アップリケのついた可愛らしいミニスカワンピースを身に着けている。
 そして残る一人は。
 「………」
 ルナマリアも歎息するような、背が高くスタイルの良い女性の姿が映っていた。
 ゆったりとしたカッターブラウスごしにもわかる、存在感を最大限にしめすその胸元の膨らみと腰のくびれ。
 雪のように白い肌の中に散りばめられた造作の整った顔のパーツ。
 そんな三人組が、シンの座るテーブルを見つけて近づいて行く。
 「いっ?」
 思わず目が点になるルナマリア。
 その背の高い女性は立ち上がったシンを抱きしめていた。
 170センチそこそこのシンよりやや背が高いその女性は足は厚底のショートブーツをはいていることもあって、シンの頭をその豊かな胸に埋めるようにして抱きしめている。
 シンは慌ててそれを引き剥がすが、難なく再び抱き寄せる。
 その光景になんとなく気に入らない感情を覚えつつ、ルナマリアはその女性が、どことなくシンに似ている事に気づいた。
 「お姉さん?」
 咄嗟に思いついたのはそういう関係だった。
 濡れ羽色の黒髪に、抜けるように白い肌、そして紅い瞳と言う特徴的なパーツで構成された顔を持つシンと違い。
 その女性の髪は黒髪と茶髪の中間に見える。
 それでも分類法によっては黒髪と表現される。
 シンの本当に漆黒の髪の方がむしろ珍しいのだ。
 瞳の方もやはり黒とも茶とも取れる。
 肌が色白なところだけが共通点と言っていい。
 コーディネイターである以上必ずしも近親が似たような遺伝形質を持っているとは限らないのだが、一見して親子や兄弟の関係がわかるコーディネイターもまた多い。
 だが、ルナマリアは思い出す。
 シンには肉親が妹しかいないことを。
 「従姉妹かなにかかな?」
 血縁説を捨てきれないルナマリアがそう想像する。
 その場合、シン同様地球に住んでいたコーディネイターという事になる。
 シンはプラントに親類縁者は居らず、難民として身一つでやって来たのだから。
 同じコーディネイターとはいえ、地球の人間が気軽にプラントを訪れる。
 時と場合によってはコーディネイターどころかナチュラルですら。
 それは従来のプラントの施政では考えられないものだった。

 

 ほんの二年前まで地球連合と熾烈な戦争をしていたのが信じられないように。
 当代デュランダル政権の方針は解放的だった。
 正確には地球上の国家機関とは一部親プラント国家以外とは冷戦状態であったが、民間レベルでの交流は大いに推奨されていた。
 「我々コーディネイターは我々だけで存在することは出来ません、父にして母なる存在であるナチュラルと、同じ人類として手を携えていくべきなのです、これは決して我々が屈したわけでも敗北したわけでもありません、我らが真に優れた存在であるなら、共存共栄という道を歩まずしてどうするというのでしょう」
 そんなデュランダル議長の方針は最高議会では7割強、世論調査でも過半数の支持を得ているが、反対派もまた多いのは事実だった。
 ともあれ以前よりは気軽に地球の人間がプラントを訪れる事が可能になったのは確かである。
 無論、観光コロニー指定されている場所以外を訪れるにはプラントの人間が身元保証しなくてはいけないが。
 地球に住むシンの親類が、友人と共に訪れた。
 それが一番考えられる線であった。
 ルナマリアは失念していた。
 シンが正式にはまだプラント市民権を持たず、ザフトアカデミー卒業と共にそれを得られる立場であり。
 地球からの来訪者の身元保証など出来る立場ではないことを。

 

 三人の美女・美少女がシンと同じテーブルに座り、飲み物や軽食を取りながら彼の様子を見ていた。
 心なしか、やや青い顔をしたシンの顔を。
 ルナマリアは依然シンの様子を監視していたが、かなり精密な望遠機能を持つスコープでもさすがにその微妙な顔色まではわからなかった。
 『そうですか、イルムが……』
 シンの耳に聞こえるのは、彼女達がここに持ち込んだ携帯用モニターから発せられる声。
 極小型のモデムと一体化した通信デバイスでもあるが、最初からシンがそれを所有せず、わざわざ彼女達が持ってきたのはこのCEの世界では未知の技術の産物を、アカデミーの寄宿舎暮らしのシンが所有するのは極めて危険だからだった。
 それは単なるネットワーク通信機ではなく、このCEの世界とはまったく別の世界と交信を可能とするの異空間通信システムだった。
 休日に外出しての外部との接触、これがシン・アスカがアカデミー入学以来欠かさず続けていたことだった。

 

 「最初は俺も同姓同名の人間がこの世界にいたのかと思ったんですけど、遠目に見てもあれはイルム中尉に見えました、髪形とかは違いましたけど背格好とか」
 『この世界独自で同じようなシステムが開発されたと考えるより、私達同様の『訪問者』があったと考えるのが妥当ですね、そしてそれがイルム単独とは考えにくい、おそらくはその『フォリナー』と呼ばれる人々は……』
 「シュウさん達と同じ、異世界の人間の集団」
 『恐らくは』
 シン・アスカが通信している相手はシュウ・シラカワ。
 一年半前、彼と仮の妹マユの命を救い、その後は彼を戦乱の世界に招き、一人前の戦士とし成長した彼を元のCE世界に戻ったのと同時に送り出すつもりだった。
 だが実際には今もなお、シンはシュウの下で動いている。
 それは強制ではない。
 シン自らが、自分の生まれ育った世界を戦乱のない世界へと変える為シュウの助力を願ったのだ。
 半年間に渡る異世界ラ・ギアスでの戦いで、その世界の人々、そしてシン同様異世界から戦乱のラ・ギアスへと呼び込まれた人々と戦い、語り、魂を通わせた経験が、シンを大きく成長させていた。
 そのシンの目から見た故郷、コズミック・イラの地球圏は明らかに異常な世界だった。

 

 人の歴史とはすなわち戦争の歴史だ。
 狩猟や採集、あるいは原始的農耕生活のみをしていた時代の人間については何一つ確かな記録は残っていない。
 だが人が人と争うようになった。
 厳密に言えばそれまでの獲物や採集場を巡っての単純な、はっきり言えば野生動物の縄張り争いと大差のない諍いとは違う、蓄積された富の奪い合いや、純粋な利益には直接関係のない「領地」という目に見えない物を巡っての争いが始まった時から、歴史は誕生した。
 それは異世界ラ・ギアスを見て。
 そしてそこに召喚された様々な世界の人々から聞いた話でも痛感させられた。
 「所詮人類は、戦わずには生きられない生き物」
 悲しいことだが、それが人という生き物の業なのだ。
 戦火で両親を失った齢十代の少年にしては達観した考えに至った。
 だがしかし。
 そのような経験からかくのごとき諦念に満ちた境地に至ったシンの目から見ても、コズミック・イラ、特に近年の様相は常軌を逸している。
 開発された時代からごく一部の例外を除けば所有している事に意義があり実際にポンポンと使うものではなかった重戦略兵器を惜しげもなく使い、武力の行使を手段ではなくそれ自体を目的化しているような戦争が起きたのだ。
 まるで辞書の「戦争」の項目に、上に「絶滅」と書き加えて戦争=絶滅戦争とでもしてしまったかのように。
シンの両親の命を奪うに至った地球連合とプラントの戦争も、遺伝子改造した「新たな人類」と旧来の人類と言う目新しい対立項はあったものの、言葉が通じ通婚、つまり子供を作る事出来る種族同士という点でかつて人類内の対立項であった人種の対立と何も変わらない。
 にも関わらず、まるで戦争そのものが目的だったかのように無思慮な戦線の拡大を繰り替えしたのだ。
 無論、シンやCEの一般大衆の預かり知らないところで戦争の落としどころを探っていた勢力(プラント最高議会のクライン派や、地球連合内のユーラシア連邦派)もあったのだが、彼らにしてもそのための目的合理に即した行動をしていたとは言いがたい。
 ユーラシア連邦派閥の軍部は地球連合を牛耳る主戦派の大西洋連邦への対抗心からの和平工作だったので本腰が入っていたとは到底言えなかった。
 その上にユーラシアの国論も統一されていなかった。
 地球連合と比べれば規模が小さいとはいえ、それでも旧西暦時代の大国や地域が幾つも内包されるユーラシアだけに、和平ではなく軍事上の功績を持って大西洋連邦を出し抜こうと言う勢力も少ながらず存在し、和平に向けるべき政略的リソースを空費させてしまった。
 クライン派に至っては派閥の領袖たるシーゲル・クラインが、個人の主義である融和主義とは180度違った地球へのニュートロン・ジャマー大量投下の責任者であった事が問題がありすぎた。
 元々プラントとの戦争に懐疑的だった地球の大多数の人間を、地球に住んでいたコーディネイターすらもプラント憎しへと追いやったのはこの暴挙であったからだ。
 シーゲルとしては核攻撃を含む全面的報復の対案として苦渋の決断だったと言われるが。
 投下範囲を主戦派諸国に絞るなどの様々なオプションを考慮しなかった無策は許容されがたい。
 「和平の使者は槍を持たない」
 後世、時空の漂流者(ドリフター)となったシンがとある騎士から聞いた言葉である。
 シーゲル・クラインが和平の矢面に立つことは、地球の人々にとっては同胞の血に濡れ真っ赤に染まった槍を掲げて和平を求められているに等しかった。
 事実、さらなる戦力の磨耗や戦略兵器の喪失などの要素もあったとは言え、プラントと地球の和平交渉が軌道に乗ったのはシーゲルが暗殺とも粛清とも取れる横死を遂げた後、派閥を引き継いだアイリーン・カナーバが戦前から培っていた地球への人脈を駆使した成果だったのだ。
 シーゲルの死後はカナーバが、そして議会内中立派ながらナチュラルとの融和を揚げていたギルバート・デュランダルがカナーバに禅譲される形で受け継いだ対ナチュラル融和主義の政治派閥は、プラント内ではクライン派と呼ばれているが、地球に対しては外聞を慮って融和派と称しているのもそれが理由だった。
 一方で対ナチュラル強硬派である、大戦期後半の最高議会議長パトリック・ザラを首班とした政治派閥はどちらにおいてもザラ派と称されていた事を考えればその意味がわかる。
 もっとも大戦末期の議会を無視した独断暴走からパトリックが事実上の戦犯扱いをされたこともあり、戦後のプラントでは議会にも市井にも表立ってザラ派と称する勢力はなく、さながら第二次世界大戦後のナチス信奉者や冷戦崩壊後の東欧諸国の旧共産党員のごとく、反政府白色ゲリラに近い扱いを受けているザラ派には今更外聞を気にする理由などし、あったとしても異議を申し立てる術もないので同一視は出来ないかもしれないが。

 

 だが。
 ほんの数十年前まで、この世界は小さな紛争以外は戦争らしい戦争のない時代を数世紀にわたって送っていたのだ。
 無論、戦争がないのと人々が幸福なことはイコールではない。
 専制と圧政が生む「平和」も存在するのだ。
 CEの平和な時代が人類が幸福だった時代と言うことは出来ないが。
 少なくともシンが見聞きしたどの世界でも数十年が限度だった争いのない世界が、数世紀にわたって実現しているのは例のないことだった。
 極端から極端に走る世界。
 それがコズミック・イラの世界。
 この世界ならば、やりようによってはシンの夢が。
 様々な経験で夢物語に過ぎないと諦めた「戦争のない、平和な世界」が実現するのではないかと。
 そして逆を言えば、下手をすれば今度こそ人類全てが死滅する戦争が起きる可能性もあるのだ。
 シン自身は無力な存在だ。
 並の人間の数年分に値する濃厚な半年間の経験で卓越した格闘術、戦闘術を身につけ。
 何よりも機動兵器の操縦に関してはモビルスーツが誕生して間もないCEの世界でならトップクラスの実力を得るに至った。
 それでも一個人としては何の力もないに等しい。
 何しろ彼と、同じくオーブの惨禍を生き残った妹マユはCEの世界ではもはや戦災死したものと看做され戸籍すらない死者なのだ。
 だが。
 シンには後見人がいた。
 彼とマユの本来辿るはずだった運命を捻じ曲げた男が。
 シュウ・シラカワが。

 

 シュウ自身はこのCEの世界に思い入れもなければ利害もない。
 助け出し、苦楽を共にしたアスカ兄妹はもはや同志というか身内であり、後に同じくラ・ギアスに召喚されることとなった幾人かの人間には親近感を持っているものの、それ以外の者がどうなろうと知った事ではない。
 だが。
 シュウには解き明かさなくてはならない謎があった。
 偏在した二人の自分が片方の死と共に統一されるという奇跡により死より蘇った自分が、なぜ最初に目を覚ました世界がこのCEの世界だったのか。
 肉体は生きていた自分だが、意識は死した自分であった事がこの記憶の欠落を生んだ。
 そしてまた一つ、大きな謎がある。
 ラ・ギアスとこの世界の関係だ。
 ラ・ギアスと地上世界、より正確に言えば地球を含む宇宙そのものは時間軸が一致する隣接世界であった。
 異世界とは言っても、いわゆる平行世界とは違う。
 ラ・ギアス、そしてバイストン・ウェル。
 この二つの異世界は当時は地球で新西暦という時代に突入していた世界とは特殊な技術や能力を用いれば行き来が可能ないわば兄弟世界とも言える存在で、平行世界とは新西暦の世界とコズミック・エラの世界のような関係を指すのだ。
 そのうちのバイストン・ウェルは、新西暦の地球への大量の機械兵器の追放とその帰還と言う大変事を経て地上世界との関係を完全に絶ってしまった。
 ちなみに地上に出た機械兵器群をバイストンウェルに戻してしまったのはシュウである。
 その後のバイストンウェルの推移は、住民(コモン)や妖精(フェラリオ)そして帰れなくなった地上人がラ・ギアスに召喚される事で知られる事となる。
 一方でラ・ギアスは戦乱の終結後、召喚した人々を地上に戻すべく世界規模で活動をしたのだが、それは上手く行かなかった。
 戦乱期には些事として見過ごされていたものの、かつては直接隣接していた地上世界からのみ召喚されていた人々及びその搭乗する機動兵器にに、その地上とは平行世界に当たる世界から召喚された者及び物が大量に含まれていたのだ。
 酷い場合にはまったく同じ人物が異なる時間を歩みだした平行世界ごとに複数呼ばれてしまった例すらあった。
 そのほとんどは意図的に召喚されたのではなく、未知の力によってラ・ギアスに呼び込まれていた。
 それはまったく想像外の事であり、召喚術師たちも対応に苦慮している。

 

 そしてさらに大きな問題もあった。
 様々な世界からの召喚が起きてしまったとはいえ「地上人」の八割方は本来の地上、つまりはラ・ギアスといわば「地続き」であったはずの新西暦の地球を持つ世界から呼ばれていた。
 彼らならばラングランのイブン・ゼオラ・クラスール大神官ら召喚術を心得た人間の手で送還が可能なはずだった。
 だがその「地続き」の世界が、新西暦の地球ではなく、CEの地球になっていたのだ。
 CEの世界からラ・ギアスに来た人間はアスカ兄妹を含めてごく僅か。
 召喚と同じく、送還もランダムに起きていたため戦乱期の最後までいた人間など五指にも足りない。
 彼ら以外は元の「地上」に帰ろうにも帰れないのだ。
 
 かつてCE世界で目を覚まし、ラ・ギアスに戻るために試行錯誤していた時とは違い。
 今のシュウはラ・ギアスに戻れるどころかその他の世界にも自由自在とは言えないもののある程度は渡航が可能となっている。
 もはやCE世界の事に関わる必要はないはずだった。
 また元の世界に戻れない人間の問題もシュウには関係ない。
 自分自身が関与していたなら鉄面皮の彼も多少は心が咎めたかもしれないが。
 この件に関してはまったくの無関係であり、自分に責任のない事に責任を感じるようなよく言えば殊勝、悪く言えばお人よしな性格はシュウには無縁。
 唯一彼がラ・ギアスに連れて行った、つまり責任のあるアスカ兄妹はすぐにでも元の世界に戻れるのだから。
 共に戦い、帰れなくなった同志がラ・ギアスで暮らせるように面倒を見る気はあるが、送還までしてあげる義理もない。
 だがしかし。
 シュウ・シラカワという善悪の彼岸にあり、聖俗を超越し、清濁を併せ呑む複雑な人格で、大概の事は「他人の勝手、本人の好き好き」で済ませられる性格の持ち主にとっても我慢のならないことが二つある。
 一つは自分が他人の思惑によって動かされること。
 自分を利用しようとした者には七生生まれ変わろうとも必ず報いを与える。
 狂気に陥った母により邪神への生贄として捧げられ、心ならずも邪神の使徒として生きることを強いられた屈辱と悔恨がその血の鉄則を心に刻み付けた。
 その鉄則は、ついに怨敵である邪神ヴォルクルスを葬り去った事で現在のところは唯一つの懸案以外は完遂されている。
 もう一つは自分に関係する事象について自分が知らないこと。
 マルチネクシャリストであり、他者から見れば全知全能に見えるほど博学無類なシュウとて所詮は神ならぬ人の身。
 森羅万象全てを識るわけではないし、それを望むほどに傲慢ではない。
 だが少なくとも自分が関与した事に関しては一から十まで知っていないと気が済まない程度には傲慢だった。
 かつて偏在で分裂していた自分と、この世界とのかかわりを知る。
 ラ・ギアスとこの世界が「繋がった」理由を探る。
 そのため、この世界に橋頭堡を築いておくにはシンをこの世界に戻して彼をバックアップするのが一番効率が良かった。
 シンの願いである「この世界を戦争のない平和の世界にする」などという雲を掴むような目的に協力するのは、シュウにとってはシンに対する正当にして妥当なる対価でしかなかった。

 

 シンから得たこの世界の知識と、先端科学と錬金術を融合したシュウ独特の技術を用いて、かつて母の故郷たる地上世界にシュウ・シラカワという「架空の存在」を生み出し、地球連邦外殻機関ディバイン・クルセイダースの長にまで登りつめたのと同様の工作を行い、アスカ兄妹が戦災を免れていたように記録改竄した上でシンをプラントへの難民として送り込んだ。
 地上の親プラント国家大洋州連合に「コイノニア(信義)」という架空の青少年教育支援基金組織を作ってシンにはそこから表の奨学金から裏の工作まで表裏両面の援助を行い、ラ・ギアス戦役の後も故郷世界に戻る気のない、あるいは戻れなくなった同志達の一部を送り込み、自らも時折りCE世界を訪れて調査活動をしている。
 だがザフト・アカデミーにいるシンが外出できる時間と、シュウがこの世界を訪れる時間が一致することはそうそうないので、異世界間通信機器が必要なのだった。

 

 ここはシュウにとっての主観基幹世界。
 かつてラ・ギアスと隣接し、地球連邦が成立していた地球を有する世界。
 二人に別れたシュウの一人が月面に死した世界。
 シンと通話しているシュウは、この世界の銀河中心よりやや離れた宙域を遊弋する空海宙万能機動戦艦「エレオノール」にいた。
 この世界で自分が「死んで」から一年半。
 銀河中心部からアンドロメダ星雲方面縁辺部にかけては巨大な星間帝国であるゼ・バルマリィ帝国、かつてその「バルマー」の支配下にあり、彼らの勢力退潮に乗じて独立した星間国家を多く含む同盟である星間連合、地球連邦とその友邦(文明回帰を望む一部ゼントラーディ・メルトランディやゼーラ・バーム両星難民の穏健派など)の同盟軍が三つ巴の死闘を繰り広げていた。
 ただでさえ複雑な三つ巴の戦いに、地球の先住種族の統合体である地底帝国、異世界ならぬ異次元からの侵略者たるムゲ・ゾルバドス帝国、知的生命体の生命力を糧とする「吸精鬼」であるプロトデビルン、プログラムを離れて暴走、いや正確に言えば拡大解釈して行動する人工機械生命体「原種」、アンドロメダ星雲の過半を制する巨大星間帝国バッフ・クランの先遣隊等が関与してさらに錯綜した事態となっていた。
 何よりも銀河中心部より全銀河に向けては全知的生命体の天敵たるSTMCが活動を再開していた。
 シュウがシンと交信している今まさに、エレオノールはSTMCとの交戦中であった。
 だが上陸艇型十体前後と兵隊型千体前後という、STMCとしては比較的小規模な群れであり、一部搭載機体だけで充分な迎撃が可能で、シュウもグランゾンを出撃させずシンとの交信を続けていた。
 STMCは兵隊型一体でも星外活動可能な文明を持つ惑星を壊滅させられる戦闘力があるのだが、あらゆる世界から召喚された一騎当千の戦士とその乗機の前には兵隊型など動く的、上陸艇型も多少しぶとい獲物程度に過ぎなかった。
 迎撃の指揮はシュウと同行しているカモン・マイロードがとっていた。
 カモン・マイロードは、地球とは反対側の銀河縁辺部の連星系ペンタゴナの人間だった。
 数奇な運命の流転の末にペンタゴナを支配する独裁者オルドナ・ポセイダルに抵抗するレジスタンスの新リーダーとなった彼は、その直後に乗艦もろともラ・ギアスに召喚され、中立を望むが受け入れられず止む無く特定の国家ではないシュウ勢力と行動を共にしていた。
 ラングランの戦乱が収まった後でお互いの持つ情報・データを検討した結果、マイロード達の暮らしていたペンタゴナが新西暦の地球と同じ世界に存在する事がわかり、シュウによる新西暦との往還実験に同行を申し出たのだ。
 成功の保証のない危険な実験に、マイロードの乗艦ターナとそのクルーは一人も残さず志願。
 エレオノールの形成したフィールドに重なるようにして異世界の壁を突破して新西暦世界の銀河中心付近に出現したターナは瑕一つなかった。
 これでマイロードらは元の世界に戻れる。
 そして今回のデータを援用すればラ・ギアスに残った地上人の大半は故郷に帰れる可能性が高い。
 実験は大成功に終わったのだ。 
 故郷への航宙に就くターナに、シュウは同行を申し出た。
 彼らが無事故郷に辿りつけるかどうかが心配だった事もある
 だがもう一つの目的があった。

 

 位置的にはペンタゴナに程近い宙域に、地球人ではシュウら旧DC関係者を始めとする一部の人間しかその存在を知らない異星人勢力があった。
 彼らの名は「ゾヴォーク」
 固有名詞ではなく、意訳すれば国家群とか、連邦とか言ったニュアンスとなる。
 その名の通り同種の知的生命体が周辺の数十の人類可住惑星を持つ星系に生存権を拡げて成立した星間文明圏だった。
 しかも地球人類やバルマー人と同じヒューマノイドの文明圏。
 勢力圏の広さでは星間連合全てを凌駕し、科学力ではバルマーに勝るとも劣らないにも関わらずゾヴォークは銀河において知る人ぞ知る存在でしかない。
 高度文明をもつ知的生命体のいない可住惑星が周辺になくなり、膨張が止まったのだ。
 これ以上の勢力拡大は星間戦争に繋がると。
 貴族制があり、貧富の差もあるが完全な専制社会であるバルマーとは違い成熟、あるいは爛熟した民主主義社会ゆえ、少なくとも公的には全ての人間に世襲の貴族院と権限では同格かあるいは優越する衆議院議員に立候補したり投票したりする参政権がある。
 そのため個人の権利が強く、兵士の犠牲を強いる対外膨張を厭う姿勢があったのだ。
 彼らの科学力は人造兵士であるバイオロイドを作り出してはいたが、自己判断力を持たず命令どおりの行動しか出来ない彼らはいわば「機動兵器を操縦できる軍用犬」に過ぎず、本格的な軍事行動には生身の人間が必要とされたのだ。
 シュウはそのゾヴォーク内の一勢力-複数の星系をたばねる中間結節組織-の実力者であるとある人物に隔意を持っていた。

 

 それはかつてゾヴォーグの最高意思決定機関である、貴族院・衆議院両院の元老で形成される枢密院が地球に秘密裏に使節団を送った時の事だった。
 バルマーの侵略を警戒する彼らは、バルマーの一個艦隊が向かっている方角にある文明圏である地球にコンタクトを取ったのだ。
 勢力拡大は控えていながら、情報網は全銀河に広げていたゾヴォークには、急速な文明進化発展をする地球人類は驚異であった。
 特に軍事技術の伸張速度は異常であり、それは好戦性ゆえと看做された。
 もしも地球がゾヴォークの近辺にあったら、彼らは予防措置と称して犠牲も厭わず地球を制圧し管理下に置いたであろう。
 それほど彼らの目に地球人は危険な存在と映ったのだ。
 だが幸い彼我の位置は銀河の両翼に離れ、その合間にはゾヴォークにとって差し迫った危険と言えるゼ・バルマリィ帝国を始め、エリオス帝国・ガルラ大帝国・ギシン帝国などの複数の専制的・侵略的星間国家がある。
 バルマーの情報と一部の先端技術を地球に与えれば最悪でもバルマーの牙がゾヴォークに向かうまでの「時間稼ぎ」にはなると。
 彼らの存外で地球には既にEOTが複数のルートから流入していたゆえ、この接触はそれほどのインパクトを地球に与えなかったが。
 地球の方でもこの密使の到着は厳重な秘密にされた。
 シュウの属していたDCはこの密使と最も深く接触した組織だった。
 このゾヴォークの密使、コードネーム「ゲスト」の中に、使節団の目的を逸脱して自己の利益を求めた人物がいた。
 個人的野望からシュウを奸計に嵌めようとした男が。
 地球との接触で得た情報を自らの所属する中間組織で独占し、しかる後に地球との交渉を決裂させてその責を対立組織に被せ、ゾヴォーク内での優位を得てその組織内のナンバー1の地位を得ようとする野望を持った男を。
 幸いシュウはその陰謀を見抜き、自らの安全を確保したのはおろか、それ以外の被害も最小限に留めた。
 それでも三桁に及ぶ死者とそれに倍する負傷者、一つの実験施設の全壊という被害を出したが。
 シュウが全能を傾ければ一切の被害はなかったであろうが。
 ラ・ギアスのみならず、相関関係にある地上にも自らの力の糧となる人々の嘆叫と怨嗟が満ちるべく、被害の拡大を望むヴォルクルスの思惑に自由意志を圧迫されながらの行動ゆえに不完全な対策になってしまったのだった。
 『わたしが嵌められてはいそうですかと黙って引き下がるお人よしに見えたのでしょうかね、わたしを嵌めようとする前に、そのことをよく考えなかったのか、あの人に聞いてみましょう』
 もちろんただ話を聞くだけで終わらせるはずもない。 
 怨敵ヴォルクルスを倒した今、彼にとって葬るべき人間はその男だけだった。
 新西暦世界とラ・ギアスを繋ぐべく努力していたのも、世界の位相のズレの理由を知ろうという知的好奇心と同じくらい、その男に報復したいという感情が強かった。
 現在のゾヴォークの状況、そしてあの男の現状を探り出したいという思いがシュウにはあったのだ。

 

 シュウがはるかな銀河の旅路にいること等知る由もないシンは、自分が置かれている状況について真剣にシュウに相談していた。
 この世界に戻ってきて一年、始めての窮地なのかもしれない。
 (ちょっと調子に乗りすぎてたのかな、俺……)
 自分にお調子者の気がある事はラ・ギアスでの日々で痛感していた。 
 ローティーンの少年の身で稀に見る戦闘者としての才を見い出されたシン。
 最初のうちに両親の命を奪った戦争とMSへの嫌悪と、少年らしい機動兵器への憧れの狭間で心揺らしながら、妹を守るため、シュウへの恩返しのため戦っていたシンだったが。
 次第に自分の能力を過信し、そして戦いを楽しむようになったいた。
 だがシンの周りには本物の戦士たちがいた。
 彼らの助言、忠告、場合によっては修正によって、シンは道を踏み外さずに済んだのだ。
 だが。
 このCE世界におけるシュウ勢力のスパイとしてザフトに入るべくザフト・アカデミーに潜り込んだにも関わらず、卓越した能力によってトップクラスの成績を「片手間に」あげたことで。
 悟りを開いたわけでもないシンとしてはねお調子者の地金が出てしまうのは避けられない事だった。
 シュウをモデルに冷笑的な皮肉屋を演じていたシンだったが、レイ・ザ・バレルやルナマリア・ホークのような親しくなった相手の前では子供っぽい素顔を隠せなくなっていた。
 しかもその正体を勘ぐられることからない日々が、シンから慎重さを奪ったらしい。
 ある日シンの前に提示された、新機軸のMS用シミュレーター。
 それを試験使用させられたシンは狂喜した。

 

 このザフトアカデミーでのMS教習はシンにとっては退屈な作業に過ぎなかった。
 CEではMSが戦術的行動を取ることはない。
 進軍(飛行・航宙)射撃、剣戟。
 その一つ一つの動作をランダムに繰り返すのみで、立体的で連続性のある行動を取らない。
 ラ・ギアスの戦乱を生き抜いたシンにとっては、棒立ちの的のような物だった。
 だがその時シンの前に現れたのは、ラ・ギアスで戦った相手のような攻撃しつつ動き回る敵。
 これだ、これこそが機動兵器の戦いだ。
 決して戦闘狂ではないシンも、つまらない作業に飽き飽きしていたところでかつて命を燃やした「本物の戦い」を疑似体験とはいえ久々に行えることで興奮した。
 そして全力全開で挑んだ結果、オールミッションをクリアした。
 その後だった。
 自分がとんでもないことをしてしまったのではと気づいたのは。
 単に「この世界にもようやくまともなMSオペレーションシステムでも完成したのかな」と漠然と考えていたのだが。
 よく考えれば、このようなシミュレーターはその新機軸のOSを出来れば実戦使用、少なくとも実機搭載の上での運用をした後ではなければ到底作る事は出来ない。
 自分達が試験をさせられるとしたら、OS交換による実機演習が先になる。
 それがなく、いきなりシミュレーターが出来ていると言う事は、あらかじめデータがあったという事になる。
 そんなデータがどこから入手されたのか。
 そこまで考えて、シンはようやく気づいた。
 僚友のレイの後見人でもあるギルバート・デュランダルが行っている政策の一つ「ニュー・ダイレクション・ブラン」のことを。
 それに協力している「フォリナー」と呼ばれる、コーディネイター以上の才覚を持つナチュラル達。
 表向きには、地球のブルーコスモスなど反コーディネイター的な人間から彼らを守るべく素性を秘密にしているという事になっていた。

 

 だが。
 異世界から来たシュウ達に命を救われ、自らも異世界を経験したシンだからこそ、時すでに遅しとはいえ気づけた。
 それは逆ではないのかと。
 素性を秘密にしているのではなく、彼らにこの世界での「素性」など元々ないのではないか。
 決定的なことは、プログラムにあったプランナーの一人の名前。
 イルムガルト・カザハラ。
 そして議長の側にいた開発スタッフの中に見えた、見覚えのある長身の男。
 「はっきりそうだって言い切れる自信ないんですよね、髪型も違うし、でもイルム中尉の名前がプログラムにあって、それで似たような背格好の人間がスタッフにいたなんて偶然とはとても」
 『恐らくはイルム本人でしょうね、あなたの知ってるイルムではなく並行存在の可能性もありますが』
 「そうだったらいいな……」
 『しかし本人に聞くわけにもいかないですね』
 「イングラムがいてくれればわかるはずなんだけどな」
 『彼がいてくれたら助かるのはわたしも同じですが、何しろ一つの場所に長く居られないのが彼ですから』
 シンには心強い戦友であり、シュウにとっては異世界通交技術を完成させてくれた人物の名を挙げる。
 『いずれにせよ本来ならこの世界にイルムの名前を知る人間はないはずですからね、本名を名乗っても元々この世界にいる人間が偽名を名乗っているのだと思われる、そういうことでしょう』
 「ああ、ヤバい、どうしよう」
 あれが自分に機動兵器戦闘を指導し、さらにナンパを指導しようとして同じくシンを指導していたシュラク隊のお姉さん達にボコボコにされていた、あの懐かしいイルムだったら。
 突然の送還で乗っていたバイストンウェルのオーラシップごと消えてしまったイルムの無事を知り、再会できるのは場合が場合ならばむしろ喜ばしい事だが。
 今の彼はどうやらシンとは違う立場の人間のようだった。
 イルムの言葉を思い出すシン。
 「もし今後、俺とお前が違う立場で戦場に立ったら、その時は迷わず俺を撃て、撃てなければ俺がお前を撃つぞ」
 それはいつもの冗談ではなかった。
 戦場では徹底的に非情になれる男がイルムなのだ。
 ただでさえあのイルムに自分の存在を知られたかもしれない。
 自分達の目的にシンが邪魔なら、排除する事にイルムは躊躇しないだろう。
 その上に、イルムの言葉をデュランダルらに信用させる要素を自分は作ってしまった。
 あのシミュレーターの異常な好成績。
 この世界の「使いにくい」OSでのシミュレーション成績では自分の方が上とはいえ大差のなかったレイやルナマリアを、比較にもならないほど引き離してしまったのだ。
 「異世界」に行って機動兵器のエースになった人間がアカデミーに入っている。
 レイを通じてしかデュランダルを知らないシンだったが、これであやしいと思わない、あるいは本当に食べていくためだけに入校したなどと考えられるようなマヌケとは到底思えない。
 『とりあえず奥歯の簡易時空弾を使えば緊急転移が一度だけ使えます、もしも身が危険になった時はコイノニアのオフィスに転移してください』
 「はい……」
 消沈するシン。
 確かに不意に暗殺でもされない限りは自分の身に危険はない。
 だがアカデミーから逃亡することは今までの全てが水泡に帰すことを意味する。
 消沈が深まる。
 それは自分の正体が露見して目論見が崩れてしまうこと以上に、アカデミーで得た友人達と離れてしまうかもしれない事が強かった。

 

 (なにをバカな、俺はあいつらも騙してるのに……)
 そう、シン・アスカはスパイだ。
 いつかは彼らとは離れる。 
 そして状況によっては彼らと戦う事になるかもしれないのだ。
 それが早くなるだけに過ぎないだろうと。
 むしろアカデミーの学生のうちにそうなった方がいいかもしれない。
 ザフトに赴任し、正式な「戦友」になった後で彼らを裏切り、対立する。
 それはシンの神経ではとても耐えられない事態だった。
 イルム達多くの「師匠からは甘いとしかられるかもしれないが。
 今ですらレイやルナマリアの乗機に向けて、たとえコックピットを外そうも引き鉄を引ける自信はない。
 共に轡を並べて生死を共にして戦った後なら絶対に不可能だろう。
 だが、だからと言って今回の件でアカデミーにいられなくなるのはやはり嫌だった。
 (またあいつらと同じく、別れも言えないのかな……)
 ラ・ギアスで得た、そして不意の送還発動で別れも言えなかった仲間達の事をふと思い出す。
 「そういえばステラ達はやっぱりまだ見つからないんですか?」
 『強化人間施設は全て抑えましたが、彼らは見つかりませんね、死亡記録にもありませんから希望はありますが』
 調べた記録が「死亡記録」ではなく「損失記録」「廃棄記録」だった事をシンに言うほどシュウも無神経ではなかった。
 「そうですか……」
 『あの娘はあなたに懐いていましたからね、あなたも妹みたいに可愛がってましたし、マユが嫉妬するほどに』
 「いや、俺はステラだけでなくスティングもアウルも心配してるよっ!」
 ムキになって否定するシン。
 絶好のからかいどころだが、幸いシュウは他人をからかうのは好きだがこの手の色恋絡みのネタには興味が薄いのだった。 
 自分と同じ世界からラ・ギアスに飛ばされた少年少女。
 対立を超えて友情を育んだ二人の少年と、自分に懐いていた少女。
 だが戦乱が終わる前に彼らは突然送還されてしまい、別れの言葉すら言えなかった。
 思い出すと辛くなるのでシュウに安否を尋ねる時以外はつとめて脳裏から消しているのだが。
 レイやルナマリアとも、彼らと同じく別れも言えずに離れ離れになるかもしれないことが。
 シンにはたまらなく不安だった。
 そんなシンを、三人の美女・美少女が痛ましげに見つめていた。 

 

 さらに遠くからシンを見ていたルナマリア。
 シンは自分たちとは違う、ザフトに潜り込もうとするスパイ。
 だが自分達を騙している事に気を重くし、別れが来るかもしれないことを真剣に悩み苦しんでいる。
 それを知った時、彼女はどう思うのだろう。
 その答えはまだ先にある。
 再びCEを巻き込む戦乱が始まった後の、その先に。

 
 

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