第2話てすと
メッセージ
第一話「黒と赤」
複雑な配線が露出したコックピットの中で、一人の少年が腕組みをしている。
「トビア、大丈夫……?」
少年、トビアが横をちらりと見ると、携帯食料を持った少女が立っていた。
「あはは、大丈夫だよベルナデット。それより早くこいつを直さないと」
木星帝国はともかく、連邦に見つかる可能性がある以上、こんな孤島にいられないし。
胸中で付け加え、視線を前方へとやる。
数キロ先には浜辺が見え、さらにもっと手前、数メートル先には大破した戦闘機が見える。
それ以外はなにもない。いや、なにもないというのはちょっと違うか。
生い茂る亜熱帯の木々が見える。人工物は一切無い。とてもではないが、修理用の部品など望むべくもない。
「トビア、根を詰めすぎないで。食事にしましょう?」
トビアとベルナデットが声のした方向に振り向く。
そこには、その近場で拾ってきたのであろう果実を手に、ショートカットの女性が立っている。
「ありがとうございます、ベラ艦長。行きましょう、トビア」
ぺこりと頭を下げ、ベルナデットが地面に降りる。
一瞬迷って、トビアも続いた。
昼の太陽が、戦闘機と、その傍らの海賊然としたMSを照らしていた。
トビアも、ベルナデットも、ベラも気付かなかった。
ほど近い空が光ったことを。
海洋国家・オーブからほど近いその海上は、戦場と化していた。
「だからこんなところに来たくなかったんだよ!」
フォースインパルスを駆るシン・アスカが、叫びながら絶叫しながら、飛行する赤と黒の機体にビームをばらまく。
「シン!下がって!」
その言葉と同時に、インパルスが後ろ上方へ飛ぶ。
一瞬遅れて、インパルスの居た場所を赤いビーム砲が通過する。
オルトロス。
ザフトの誇る最新鋭機、ガナーザクウォーリアの持つ強力なビーム砲である。
"敵"の死角であるザフト艦・ミネルバのカタパルトから撃った一撃は、獲物を飲み込んでなお足りぬ破壊をまき散らす。はずだった。
「嘘!?」
勝ち誇ったかのようにオルトロスを構える赤いガナーザクウォーリアから聞こえたのは、パイロットであるルナマリアの驚愕の声。
高機動機体であるフォースインパルスですら避けられぬはずのタイミングで放たれた一撃を、黒いMSは軽々と避ける。
「くっ!ならば!」
呆然と立ち尽くす赤いザクの後ろからレイ・ザ・バレルの駆る白いザクが飛び出す。
狙いは黒いMSではない。その横を飛ぶ、赤いドリル状のMA。
やはり避けられぬタイミングで放たれたのは、十数発ミサイル。
全てが当たらなくとも、一発当たれば充分に致命傷になるであろう一撃。
レイの計算は確かに当たっていた。うち一発が、赤いMAの至近距離で爆発する。
だから、誰もレイを責められないだろう。赤いMAが、一瞬よろけただけですぐに飛び去ったのだとしても。
「な、なんだったのよ一体……」
相変わらず呆然と立ち尽くしたままのザクウォーリアに乗ったまま、ルナマリアが呟いた。
赤いMAはあっという間に消えた。そしてまた、黒いMSもその姿を消していた。
戦争へと突き進む世界で、それは小さな事件。
一方の当事者であるザフト所属艦ミネルバへの、黒いドクロMSと赤いドリルMAの奇襲。
それは小さな、しかし大きな運命への入り口にすぎなかった。