鉄《クロガネ》SEED_1-3

Last-modified: 2008-02-28 (木) 20:26:28

アーモリーワン、軍需エリア

 

「……い…う、……表!……代表!!」

 

誰かが自分を呼んでいる……

 

「う……」
「気がつきましたか!?」

 

朦朧としていた視界がはっきりとしてくる…… どうやら意識を失っていたようだ。
自分を見下ろす補佐官は安心した表情を見せる。

 

「……アレックスか……」
「ご無事で?」
「……見ればわかるだろう」

 

彼の言葉に答えると、ふらつく頭を抑えながら立ち上がるとあたりを見渡した……
瓦礫と黒煙、そして炎に包まれ、所々から人々のうめき声が聞こえてくる……
その光景に一年前の事件を思い出し背中の古傷が痛んだが、
あえてそれを無視し今現在の状況を整理する。
確か自分達はデュランダル議長と共にこのコロニーの軍事エリアを見学しに行く途中、
突然の爆発に巻き込まれた……
ここまでは覚えていれば大丈夫だ。

 

「それで、議長は?」
「車が見当たりません……おそらくどこかに避難したものかと思いますが……」

 

もしくは車と一緒にあの世逝きか……
アレックスの報告に心の中で皮肉を付け加える。
と、黒煙の先に巨大な船体が見える……

 

「ここに居てもらちが明かん、とりあえずあの戦艦まで行くと……」
「代表!!」

 

突如、アレックスが自分の手を引き寄せ、抱きかかえる。
さきほどまで自らが居た場所が吹き飛び、炎と瓦礫に包まれた。
もし、気付くのが一秒でも遅れていたら、即刻あの世行きだったろう……
しかし、彼らが驚愕したのは、その先にあるものだった。

 

身長は18メートル程だろうか?
シャープなフォルムに各部に取り付けられた武装、頭部に取り付けられた独特のツインアンテナ、
意匠は違うが蒼、緑、黒の三体が少なくとも確認できる……
自分はその巨人の名前を知っていた。忘れたくても一生忘れないだろうその名は

 

「ガン…ダム……」

 

オーブ代表、カガリ・ユラ・アスハは呟く様にその名前を口にした。

 
 

「駄目です!! 緊急停止シグナル、受け付けません!!」
「くそっ!! 第三警備小隊、通信途絶。一体なんだってんだ!!」
「落ち着きなさい!!ともかく、今何が起きてるのか的確な情報を集めなさい」

 

艦長であるタリアは半ばパニック状態のクルー達を何とか纏め上げると、管制オペレーターに指示を飛ばす。
だが、

 

「司令部、音信途絶!! おそらく……」

 

既にこのプラント内に施設された臨時の司令部は制圧されてしまったらしい…… 
援軍は期待できないということだ。

 

「状況はどうなっている」
「議長!?」

 

ブリッジ後部のエレベータの扉が開き、デュランダルが数人の部下と共に乗り込んでくる。
突然の乗艦に、クルーも驚きを隠せない。

 

「緊急事態故、艦長の許可無く乗船させてもらった。それで、状況は?」

 

デュランダルはタリアに説明すると、報告を促した

 

「奪取されたのは第二世代型試作機、ガイア・カオス・アビスの三機のようです。
 今から14分前に、格納されていた倉庫に何者かが侵入したとの報告が入ったそうです。直後に……」
「三機が起動したという訳か…… しかし、あの三機のOSは調整途中だという報告だったが?」
「問題箇所は変形パターンのデータのみで、通常行動については何の問題もないそうです」
「式典には間に合わなくても、戦闘には問題なし、というわけか……」

 

デュランダルはしばし考え込むように黙り込むと、自らの隣に立つ男に耳打ちする。
男は頷くとブリッジから退出していき、それを見計らってデュランダルはタリア達に向き直る。

 

「ともかく、一刻も早くあの三機を止めなくては……」
「俺が行きます!!」

 

突如、ブリッジの正面モニターに少年の顔が映し出される。その表情を読んだタリアは彼の進言の内容を把握した。

 

「シン!!『インパルス』はまだ未調整よ、仮に出たとしても『シルエット』の誘導プログラムは未完成なのよ?」
「その件ならあと三分でケリが着く」

 

モニターから新たな顔が浮かび上がる。

 

「ファインシュメッカー教官!?」
「説明は後ほど。艦長、シンを先に出撃させていただきたい。今は少しでも早く、一機でも多くの機体が必要だ」

 

クルーに動揺が走る。なにしろシミュレーションでは何百回と繰り返したが、ぶっつけ本番、しかも実戦で『アレ』をやるのは

 

(危険過ぎるわね……)

 

進言は却下だ。タリアはレーツェルの進言を拒否しようと……

 

「シン、やれるかね?」

 

デュランダルが口を開いた。

 

「はい」

 

シンは静かに、そして力強く答えた……

 

「議長!? 危険です!! まだ『アレ』は稼動テストもしていないのですよ?」
「大丈夫だよタリア、彼らを信じたまえ」

 

警告するタリアを見返しつつデュランダルは不敵に笑みを漏らす。まるで、万事上手くいくと知っているような表情だ。
どうやらこれ以上の議論は意味を成さない様だ。タリアは観念してシンに向き直る

 

「許可する以上、撃墜は許されません。必ず帰還しなさい!!」
「……了解!!」
「全クルーに告ぐ!!これより本艦は『インパルス』を機動させる!!総員所定の配置に付け!!」
「「「「「了解!!」」」」」

 

ブリッジ内の照明が赤に変わり艦内にブザーが鳴り響き、クルーの怒号が響く

 

「コア・スプレンダー、チェスト・レッグ、オールグリーン!!」
「中央ハッチ開放、カタパルト、展開!!」
「進路クリアー!! 機体射出十秒後、艦砲による援護を行います。シン…… がんばって!!」

 

管制オペレーターが激励する

 

「任せろ!! レイやルナ達と合流する前にカタをつけてやる。シン・アスカ、行きます!!」

 
 

三機『G』の周りには炎と黒煙…… それと『MSだったもの』が当たり一面に転がっている。
どれも焼け焦げ、切れ裂かれ、吹き飛ばされ、何とか原型を留めている物は数えるほどしかない。

 

「『グール』より『ファントム』、全ターゲットの強奪に成功。
 『ガイア』・『カオス』・『アビス』の三機とも目立ったダメージは無い」

 

三機の『G』の一つ、『カオス』のパイロットはモニター越しに映る惨状に見向きもせずに淡々と作戦の進行状況を報告していくと、一秒もしないうちに返答が帰ってきた。

 

「こちら『ファントム』。
 OKスティング、よくやった…… と、言いたい所だがさっさと退散したほうが良さそうだ。慣らしは程々にして帰って来い」
「チッ…… 思ったより早いな」
「ま、敵さんもそう能無しって云う訳じゃないからな、早めに戻って来いよ」

 

スティングと呼ばれたパイロットは短く了解の意を表すと、二機の僚機のパイロットを呼びだす。

 

「……聞いてんだろ、お前ら撤収だ!!」
「なんだよ!! もう少し遊んで行こうぜ!?」

 

先程までの『慣らし』で最も暴れていた両肩と胴体に多数の砲門をつけた青い機体、『アビス』のパイロットから不満そうな声が漏れる。

 

「文句を言うなアウル、俺たちの任務を忘れたのか!?」
「『ザフトの新型MS三機を奪取、不可能ならば破壊せよ』だろ? わかってるさ、けどどうせネオと俺たちは……」
「アウル」
「……わかってるさ。でもステラだってまだ遊び足りないよな?」

 

アビスのパイロット、アウルは黒い機体のパイロットに話を向けた。
しかし、黒いMSの主は問い掛けを聞いていないのか、二キロ程先の宇宙港を見たまま微動だにしない。

 

「……何か来る」
「「!!」」
突如として発したその言葉に、二人は同時にレーダーを見る

 

「数は三機、全部航空機かよ!? たいした事無いじゃん」
「ここ周辺はあらかた破壊し尽くした…… あれがラストか!?」
「じゃさ、アイツで打ち止めってワケ?」

 

アウルが不満そうな声を漏らす。

 

「何か引っかかるが…… まぁいいあれを打ち落とせば終わりだ」

 

レティクルが小型戦闘機を捕らえた、後はトリガーを引いて……

 

直後、アビスが横殴りに吹き飛ばされた

 
 

「シン、シルエット未装着のインパルスであの三機を相手にするのは分が悪い。到着するまではくれぐれも無理はするな」
「わかってます。無茶をするつもりはありません…っと!!」

 

レーツェルからの通信の直後、ロックオン警報が鳴り響き、モニターの三機がこちらにライフルを向ける。
シンは慌てて回避行動に移り機体をロールさせてビームの射線から逃れる

 

「出たら真っ先に狙われると思ったけど、これじゃあドッキングできないぞ!!」
「……そうか、ならば援護してやろう」
「え!?」

 

音声のみの通信が割り込んでくる
直後、三機の中の一機、アビスが横殴りに吹き飛ばされた
射線軸を追い、モニターから探すが、区域に戦闘可能な機体は見当たらない……
シンは驚きと疑問に駆られ通信を返す

 

「一体どうやって…… アンタ、一体誰なんだ?」
「そんなことはどうでもいい、敵は体制を崩したぞ。チャンスじゃないのか?」

 

確かにチャンスは今しかない。先程までの疑問を隅に追いやりシンは決断し、行動に移す。
コアスプレンダーを中心に、チェストフライヤーが前方、
チェストフライヤーが後方にドッキングしパーツを展開させ、人型のMSへと合体する。『インパルス』の完成である。

 

「人の家の庭で散々派手にやってくれたな!! また戦争がしたいのかよ?あんた達は!!」

 

雄叫びと共にインパルスを着地させると、ブーストを吹かし一番近いターゲット、ガイアに肉薄する。
懐に入ると共に腰のウェポンベイからビームダガーを抜き放ち一気に切り上げる。
が、ガイアは紙一重で後退して間合いから離れると、お返しとばかりにビームライフルを放つ。

 

「くッ、間合いが遠い!!」

 

シンは機体をステップさせてビームを回避させると、腰からビームガンを抜き取り三点射、
相手がシールドを構えたスキを突いて一気に間合いを詰め、逆手に構えたビームの刃を振るう。
ガイアはシールドを構えたまま体当たりをかまし、インパルスを吹き飛ばすが、
背面と脚部のスラスターを駆使してバランスを立て直された。

 

「このっ、ちょこまかと!!」

 

ステラは人間の如く立ち回る相手に苛立ちを隠せない
先程までのMSだったら、自分の機体を捕捉させられる前に一撃で葬ってこれた。
しかしこいつは違う。機体性能が近いのもあるかもしれない…… がそれだけではない。
こちらのアクションが起こる前に行動を起こす、まるで自分の一歩先を読まれているような動きをするのだ 。

 

「私が…… 私がこんなっ!!」
「ステラ、下がれ!!」
「スティング!!」
「フォーメーションを立て直すぞ!!いかに奴らが手強くても三対二、数の面ではこちらが有利だ。アウル!!」
「見つけた!!三時の方向、あの狙撃機はボクにやらせろよっ!!」
「任せる、俺とステラはあの合体野郎だ。 ……撤退前にこいつ等を片付けねぇと面倒になる。ここで決めるぞ!!」
「わかった」

 

カオスがガイアの後方に付き、アビスは別行動を取るようだ。
恐らく先程の狙撃機の位置を割り出したのだろう、先程のパイロットから通信が来た。

 

「敵が二手に分かれた様だ、そちらは二機、やれるか?」
「問題ない、二機だろうと三機だろうと俺が全部倒してやる!!」

 

その言葉を聴いた男の声から苦笑が漏れる。

 

「威勢が良いな…… まぁいい、そちらは任せた」
「アンタは平気なのか?」
「まかせろ、そちらの邪魔をするつもりも無い」

 

……この『ラーズ』に対して砲撃戦を挑む意味を教えてやる……

 

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