鎮魂歌_第26話

Last-modified: 2007-11-21 (水) 11:52:53

「行く」

私立聖祥大学付属小学校の朝の風景。
およそ小学生とは思えぬ剣幕でありながら、実に小学生らしい真剣さでアリサがイエスを唱えた。
まさに即決。
「キラに会えるセッティングが出来るみたいだ。今日都合がいいのなら行く?」というフェイトの質問に対して、神風がごときアリサの返事である。

「そっか。じゃあ伝えとくね。学校が終ったら、ロッテが来てくれるんだ」
「ロッテさん? あの、猫っぽい人よね」
「猫っぽいっていうか、猫って言うか……」
「人と言うか、使い魔と言うか……」

朝のホームルームが始まる前。すずか休校なので、仲良し五人組ははやてとすずかを除くという戦力半減ぶりだ。それでも、アリサはフェイトの報告に嬉しさを隠せずにいる。
机の下で、足や手がガッツポーズなどに形作られているのをなのはは見た。
こんなアリサを見るのは「パパが帰ってくる!」とはしゃいでいた2年生のあの頃以来だ。
そんな親友の様子になのはも嬉しくなってしまう。

「でも意外ね。以前アースラに行きたいってリンディさんに言うと、駄目だったのに」
「えーと……」
「あのね、アリサちゃん」
「?」
「実は、これ密航なの」
「??」
「うん、だからね、アリサをアースラに連れていくの、本当は駄目なんだ」
「だからロッテさんに協力してもらって、秘密でキラさんの所に行くのです」
「意外ね。いつもなら2人とも、そう言うやっちゃいけない事はきちんと駄目って言うのに」

おめめをパチクリ。やっぱり「悪い事」をしている気分ぬぐえないなのはとフェイトを前にしてアリサの感想。
だから2人が自分を曲げてでも自分のワガママに付き合ってくれる事に、アリサは気づく。
申し訳ないと思い、そしてそれ以上に、

「…あ、ありがとう……2人とも」

感謝があった。

アースラブリッジにて、本局より降りてきた戦闘員たちの大体がまばらにいた。
シャマルとロッテがブリッジの外で何かしらの相談をしており、アリアとザフィーラがブリッジの隅で話合い。そしてクロノとエイミィがMSデータで議論を飛ばしている。
初アースラなクルーゼははやての案内を受けて各部屋を回っていた。
クルーゼと同じ仮面をつけていたのだが、クロノと鉢合わせになった時にこずかれて外しているはずだ。
はやてに悪気はない。仮面の下で進行した老いについて、はやては知らないのだ。
だがしかし、似合うかな? とちょっと嬉しそうなの顔で照れくさそうに聞かれてはクロノは困らざるを得なかった。
リンディは、何かお世辞とかじゃなくてとてつもなくふつーに似合っていると答えていたようだが。
そしてそんなリンディの隣にキラがいた。

「どっちも白を基調にした青……爽やかで格好いい機体ね」
「2機とも、思い入れのる機体です」

キャプテンシートに座るリンディの手元。
小型のディスプレイに表示されたフリーダムとストライクをリンディとともに眺めながら、キラが哀愁さえ漂わせて呟いた。

「……どっちとも、爆発しちゃいましたけど」
「そこから、生きていられたんだから大したものよ。まるで……そうね、不死鳥」
「そんな格好いいものじゃ、ありませんよ……」

苦笑。
そして、自嘲。

「フリーダムの時に、本当は死んでいたのに……2重の意味で、在ってはならない存在に……」

コツリ、額にリンディのゲンコツが軽く落ちてきた。
きょとんとするキラに、リンディは子供をしかるよう。

「そんな事、言わないの……」
「……はい」
「キラ、少し話を聞きたいんだが」

ブリッジの下部、クロノから声が上がる。
少しだけ、リンディにバツ悪そうに目を向けてからキラが降りればクロノとエイミィが見ていたのは大型のMS、MAについてのデータだ。

「デストロイについて?」
「そうだ」

ベルリンでのデストロイ戦。
クロノはほとんど執着のようにデストロイが敵方にあると決めてかかっているようだが、一応他の機体にはチェックを入れて考えを練ってはいる。
簡単な話、デストロイが出てくると一番厄介だから今のうちに対策しておきましょうと言う、テスト準備のようなものだった。

「近接で叩くのが最善だろうか?」
「うん、近づくのが最善というか、近づくしかなかったんだ」
「君はどう近づいた?」
「あの時は戦局が複雑だったから、一直線に近づける瞬間があって……」
「ザフトと連合の間に割った形、だったようだが」
「そうなんだ。とにかく目標が連合だったから」
「陽電子リフレクター……これが特に厄介なんだけど、耐魔力になってるかな?」
「多分ね。ガイアの時も魔法を導入した造りだったから、同じなのは外見だけだよ」
「反物質で防御面を作るのなら魔法でも似たような事ができるか、エイミィ?」
「正直、ロストロギアの事だから何とも言えないよ。ただ……出来るって考えておいた方が良いんじゃない?」
「………例えばなのはの砲撃が通らないなんて事は、想像したくもないな」
「近づけばいいじゃん」
「それが出来ればな。キラ、期待しているぞ」
「ぼ、僕?」
「一度落としているだろう」
「そ、それはそうだけどモビルスーツもないし……それにほら、そもそもデストロイかどうか、分らないじゃない」
「……その通りだがな。MSであるとは、睨んでいる。どちらにせよ君とクルーゼには戦局に口出しをしてもらうつもりだ」

きゅっと、エイミィの唇が厳しく結ばれた。
眼だけでクロノとキラを見渡し、さりげなく言葉を紡ぐ。

「ねぇ、例えばだけど、あの卵がデストロイだったらさ」
「…?」
「アースラ狙われないかな」
「……」
「……」

固まる一瞬。
先にその凍結からとけたのはキラだ。

「せ、生体のリンカーコアを元に作ってるって……」
「封鎖領域に、空気を召喚」
「で、出来るの…?」
「……可能かもしれない。だがそんな手間をかけるか……?」
「かけるから、奇襲じゃないかな?」
「……アースラなら、安全と思い込んでいたかもしれないな」

まさか、そんな。
その言葉をクロノは言えなかった。横ではキラが強張っている。

「エイミィ」

固まる2人とエイミィへと降ってくるのはリンディの声。
たしなめる響きがある。

「そろそろ時間よ。シャマルを呼び出してちょうだい」
「いや、必要ないよん」

通路とブリッジをつなぐドアが開く。
シャマルとロッテだ。
こうしてザフィーラ、シャマル、アリアという先行して降下する組が集合したわけだが、その集合になぜかロッテが加わっている。

「ロッテはアースラ待機だろう」
「さっきいろいろシャマルといる時にね、なのはたちのお迎えもやっとこうかって話になってね」
「……」
「……」

クロノと、リンディが訝しげな眼。
ザフィーラとアリアも違和感がるようだ
とは言え、戦力だけを考えれば一級だがまだ小学生のなのはとフェイトである。
お迎えと言うのも、有りだろうと、その場の全員が黙認してしまった。

かくして、ザフィーラ、シャマル、アリア、ロッテの4名が地球へと転送される。
3名が八神家、そしてロッテが私立聖祥大学付属小学校へ。

「あ」

下校の時間。
なのは、フェイトと一緒に校門と校舎をつなぐ道を並んで歩いていた途中、アリサが嬉しげな声を上げる。
猫がいた。
なんともふてぶてしくまったりしているだけなのに女子生徒から大人気だ。
なんかもふもふふにふにされとる。あくびをしただけで「や~んかわいー」とか言われてる。
さて、その猫が眠たげな眼をきょろりとさせると、なのはと目が合った。
瞬間、猫がとっとことっとこなのはへと走り寄り、ジャンプ。

「わ」

一足飛びに胸へと跳びつけば、なのはが腕を優しく抱えてあげる。
ふわふわだ。
フェイトが「いいな」という顔をしていると、

『学校楽しかった?』
「!?」

猫からの念話である。

『ロ、ロッテさん?!』
『うん、そうだよ』

あっけらかんと、笑う猫。それを抱くなのは見てアリサは羨ましそうな視線だ。

「あの、アリサちゃん……抱く?」
「抱く」

即答だが、ためらようになのはが一言添える。

「あの、この猫さん、ロッテさんなの…」
「?」
「えーっと、抱いても驚かないでね?」
「??」
「その…とりあえず、驚かないでね!」
「わ、わかったわよ」

そっと、猫をなのはが優しくアリサへと渡す。前肢の方を持っていたので、にょーんと胴体が伸びるクロノの魔法の先生は一糸まとわぬ姿である。
己の腕へと猫が収まれば、アリサが丁寧な手つきで撫でてやった。
目元と口元がなんとも女の子らしいく柔らかく緩んでいく。

「可愛いー」
『もうちょい首の方撫でて。あ、そうそうそこそこ』
「?!」

驚きました。
ただ固まるだけで猫を放りだしたり落とさなかったところは心優しいアリサらしさだ。

『もっと撫でてよ』
「?! え、あの…え……え?」
「えっと、テレパシーみたいなもの……かな」

念話初体験なアリサには、フェイトの言葉も聞こえないほど放心してしまう衝撃だ。
ただ、次の一言でその心も満ちていく事になる。

『さ、キラの所に行くんだろう? まずは、ちょっとした魔法をかけてやるよ。あ、なのはとフェイトは、取りあえずじゃんけんして』

パチクリ、と3人が目をしばたいた。

八神家での事。
ザフィーラ、アリア、シャマルの3名によってまずは八神家に魔術的な防壁を築こうとする準備が進んでいた。
アリアが太陽の位置と月齢、さらに大気の状態について計算し、八神家からどれくらい離れていても結界が機能するかを算出。
ザフィーラが下水やコンクリートなども総合して地質と水脈を把握し、シャマルの張る結界を補強するつもりだ。
そして一重、二重と結界を八神家から結界を何重にも張ろうとして現在家の周辺をウロウロしながら魔力で編んだ呪文をあらゆる場所に結んでいるのがシャマルの役目だ。
なのだが。
さて、作業開始から一時間もしない現在。
アリアがベランダで天空を見渡していたのだが、目を地に向ければ玄関前でシャマルが屈んでいた。
抱えているのは、猫である。

「あ~、そうなの。上手くいきそうなのね」

猫を撫でながら語りかけている。
八神家を中心に、結界を張る準備をしていたはずだが早速のサボリのようだ。

「シャマル」
「あ、はーい。今仕事に戻ります」

苦笑したまま、猫を玄関まで抱えて行けばそこで解放してやる。とことこと、猫が八神家へと入って行った。
玄関の直前で、「にゃー」と言ったのはお邪魔します、の意味だろうか?
再度八神家の周りにクラールヴィントで薄い円を描こうとするシャマルへとアリアが上から声を落とす。

「猫、飼ってたの?」
「半分、飼ってるようなものね……以前エサをあげてたら、来るようになって」
「ザフィーラの事恐がらないのかしら?」
「仔犬フォームとあの猫ちゃん、同じくらいの大きさだからね……あ」

見上げてくるシャマルが、アリアから視線を外した。
違う。後ろを見ている、とアリアが理解できれば、ザフィーラがいた。何か、警戒しているような顔だ。
その顔を見て、アリアも何かに気づく。
ただ、シャマルだけ反応が遅れた。

「来る……」

ベランダから、ザフィーラが飛び降りてくる。
人が見ていたとしても構わない、という焦りがシャマルには感じられた。
シャマルを護る位置にザフィーラが着地するのと同時に、アリアがデュランダルを手にして空を飛んだ。
その空が、色あせる。
封鎖領域。

「!?」

間もなく、世界が音と言う音、色と言う色を失えば、閉じ込められた。
空を眺める3人の視界に現れるのは、シグナムとヴィータ。およそ捕らえに行く側だった管理局側が、今回攻められる形になる。
はやてがいない事を考えると、意外と言えば意外だ。
戦力を削ぐ事に専念するつもりだろうか。

「先んじられちゃったわね」
「ここまで来てるなら、間違いなくアースラの網に引っ掛かっている。3人では少し厳しいけど、すぐに応援も来るでしょう」
「……」

シグナムとヴィータが、空を疾った。

「来た!! シグナムとヴィータです!」

アースラのブリッジにて、アリアたちとへ向かうシグナムとヴィータをキャッチするも、やはり速い。
メインスクリーンに映し出される2人の姿は、八神家へと一直線に飛んでいた。
即座に応援を地球に降ろしたとしても、ひとまず封鎖領域が展開された後になるだろう。
すでにクロノ、アルフ、はやて、キラ、クルーゼはブリッジに待機している状態だ。
確実に2人を捕らえるためには、さらに戦力を地球に降ろす事になる。

「リンディ提督!」

はやての声。悲痛だが覚悟がありありと籠った声。
燃える瞳でリンディへと、自分を降ろしてくれ、と語る。
ほんの数秒、戦闘員たちを見渡してからリンディが頷いた。

「はやてさん、アリアたちの所へ応援に」
「はい!」

握り拳さえ作りだし、嬉々としてブリッジ後部の転送装置で待機する。
もうメインスクリーンの内部では封鎖領域が展開されてしまっていた。これでもう中がどうなっているのかは、アースラからは確認できない。

「なのはちゃんたち、アースラに転送する直前みたいですけど連絡入れて地球に留まってもらいますか?」
「……」

リンディの目が厳しくなる。
葛藤。
少し先の未来では、状況がどう転んでいるか、分ったものではない。
例えば、トライア。例えば、50メートル級の卵。
ゆっくりと、リンディの唇が開く。

「いえ、なのはさんたちにはアースラに上ってもらいます。そして、地球に降りるのは、後1人」
「?!」
「艦長、少なすぎませんか?」

アルフが訝しみ、クロノが疑問を差し挟む。
だが、リンディは決定事項だと言わんばかりに固い声音。

「いいえ、降りるのは後1人にします。残りは何が起きてもいいように待機よ」
「しかし、そんな少人数じゃ、はやてが危険では?」
「現状で、はやてさんがあの現場に顔を出す思う?」
「……逆に、あちらに送った方が安全だと? 確証なんて無いじゃないですか」
「その時は、即座に追加で人員お送ります。とにかく、今から転送するのははやてさんともう1人のみよ」
「……」

クロノへと、クルーたちの視線が集中する。
間違いなくこの中で最強なのはクロノだろう。地球へ降ろすのならば、彼だ。
そんな様子を、キラは歯がゆい心持ちで見ていた。
行きたかった。
アリサを除いて、リーゼ姉妹とザフィーラ、はやて、シャマルが最も親しく触れあってきた仲間だ。
メインスクリーンに映る封鎖領域に、自分も。
、それでもザフィーラたちは大切な先生で、友だ。
だが、やはりキラにはクロノとエイミィの言うデストロイの攻撃が気に掛る。
加えて、クロノには及ばないという思いも手伝って、キラはうつむいた。
そんな寂しそうな肩に、手が置かれる。
クルーゼだった。

「君が行きたまえ」
「!?」
「艦長、現場とブリッジのどちらにもMSを知る者がいた方がいいと思うのだが、どうだろうか?」
「……成程」

アルフが、クロノが、はやてが、キラを見る。ごくりと、喉が鳴った。

「行かせてください、リンディ提督」
「……」
「悪くないかもしれない」

クロノも呟く。
リンディがしばしの逡巡。
そうしている間にも、封鎖領域の中で何が起こっているのかが分からない今、キラとはやての心中はずっと穏やかではなかった。
数秒だが、随分長く感じられた時間の果て、リンディが頷いた。

「分かりました。行ってください、はやてさん、キラ君」
「「はい!!」」

即座、転送装置へとはやてが飛び込んだ。ものの数秒とせず、淡やかな光に包まれ、跳躍。
続いてキラが入り込む。
エイミィがはやてと同じ操作をすれば、キラの体に煌きがちりばめられていく。
そんな頃合い、通路に続くドアが開く。ロッテ、フェイト、なのはの姿。緊張した雰囲気と、転送装置の放つ光に異常を感じてフェイトとロッテがブリッジ各部へと的確に視線を飛ばす。
そんな中、なのはが、キラへと駆けよった。

「キラさん!?」
「なのはちゃ―――」
「危ないよ!」

フェイトがなのはを止めれば、きょとんとした顔のキラが、消えた。

「!?」

驚くなのはの傍らから歩み出るロッテは、いやに怖い顔だ。

「どうなってる?」
「ヴィータとシグナムが出てきた。封鎖領域にアリアたちが閉じ込められてな、キラとはやての2人が応援に出たところだ」
「2人だけ?」
「……仮説なんだがな」

クロノとのやりとりの中、メインスクリーンに封鎖領域の側へとキラとはやてが到着するのが映った。
なのはが「あ」と声を上げる。
リンディが眉根を寄せて、フェイトとなのはの様子に眼を凝らす。

「例えば、MSがアースラに攻撃する事態があったとしよう。そうなった時、対処する手が一応ある。だから人員をアースラに残しておきたい」
「「―――!!!!!」」

ロッテとフェイトの総毛が立つ。
「しまった」と体現したようだ。

「エイミィ!! 転送の準備を!!」
「ちょ、ちょっと待って!! 宇宙に転送反応―――アースラのすぐ近くです!!」

メインスクリーンが切り替わる。映し出されるのは、地球が見える位置。衛星軌道上。
つまり、現在アースラがいる場所だ。
歪む。ぐにゃりと、アースラからそう離れてない場所で空間が歪んだ。魔法陣。禍々しい円と呪文が、浮き上がる。
中心から巨大な何かが、せり出てきた。
即座に、ほとんどのクルーが理解する。
砲身だ。長く、黒々とした連装2基、計4門のキャノン。
それに続いて、円盤が顔を出す。不吉な赤い眼と、奇麗な緑の結晶を額に植えた円盤だ。
ざぁ、とその魔法陣を中心に景色が変わっていく。宇宙の黒色が、失われていく。封鎖領域。

「エイミィ!! 転送を!! 頼む!! この娘を!!!」
「こ、高エネルギー反応! あの砲身からです!!」
「シールド展開!」

ロッテの懇願と、エイミィの報告と、リンディの命令が重なる。
砲身が、アースラに向いた。
そして膨れ上がる光が砲門に収束されたのをブリッジの全員が見たと思えば、

「ドライツェーン!!」

4条の赤い奔流がアースラへと迸った。街さえ飲み込む、破壊の光。
アースラの正面に突きささるはずだったその光の矢は、広がる魔力の輝きの面に阻まれて消えた。

「損傷は?」
「ありません! で、でもあれを連発されると間違いなく先にこっちが根負けしますよ!!」

ずるりと、魔法陣からその全容を現したのは、間違いがない。デストロイだ。
初撃を凌いだが、その不気味で重々しフォルムは否が応でもこちらを不安にさせてくる。
頭部に相当する円盤ユニットの各所が開く。次々と打ち出されるのはミサイル。呪文を刻んで威力を底上げしているのか、異常なエネルギー反応を乗せてアースラへと雨のように降ってきた。
間を置かずに降るミサイルの雨だが、やはりまだシールドで防げるレベルだ。
とは言え、破られればそこでアースラ撃沈が目に見える威力にエイミィが愕然とする。

「こちらもビームキャノンで応戦。照準」
「待って!! 待ってくれ!!」

これほど取り乱すロッテはクロノでさえ見た事がなかった。フェイトもその横で、蒼くなって震えている。
ただ、なのはだけは茫然と、まるで夢を見ている様に茫然と立ちすくむだけだった。

「……ロッテ、何かあるわね」
「……」

リンディの視線が射抜くのは、ロッテではなかった。
なのはだ。
即座、クロノが気付く。恐いほどの剣幕でなのはへと近づけばS2Uを起動、なのはへと突きつけた。
S2Uの先端がなのはに触れれば、なのはの体がぶれる。弾けるように、光がほどけた。

「アリサさん……!!」
「変身?!」

何一つ、魔法と関わりない女の子。へたりと、アリサが床に座り込む。頭の中が、頭が状況についてけず真っ白なのだ。
クロノが怒りも隠さぬ鋭い視線でロッテとフェイトを貫いた。

「どういう事だ……?」
「クロノ、話は後よ。エイミィ、アリサさんを転送出来る?」
「だ、ダメです。シールド展開している限り外へは……」
「封鎖領域は突破できるの?」
「いえ、それも……張られた封鎖領域は、入れるけど出れないタイプです。各所に、召喚魔法陣が散ってて、現在どんどん空気が封鎖領域内に入ってきてます……」
「想定してはいたけど、嫌な展開になってきたわね……」
「……エイミィ君、我々は外に出れるかな?」
「で、出れるみたい。凄い。もう少しで、封鎖領域内がほとんど地表と変わらない大気環境になるよこれ……」
「よし、僕たちでデストロイに攻撃を仕掛ける」
「……そう上手くいくかな」

感情がない声はクルーゼから。メインスクリーンをずっと眺めていた彼につられて、リンディたちが見上げれば、映し出された景色に異変。
ミサイルを絶え間なくアースラの浴びせるデストロイの足の辺り。
5つの、新しい卵。大きさは、人ほどだ。

「ちぃ……新手か」
「あれがガード役ってわけだね」

メインスクリーンで再び、デストロイのドライツェーンが発射された。ミサイルの爆発を巻き込んで、シールドを叩くその威力は、防御力ギリギリだ。

「……エイミィ、もう出れるのかしら?」
「は、はい……今の外なら、ほとんど人間が活動して支障ないです」
「分かりました。私も外へ出てシールドの強化をします。アリサさんをお願いね」

立ち上がるリンディ。
クロノがブリッジから出ていき、アルフ、クルーゼが続く。

「ロッテ、フェイトさん。後で詳しい話を聞かせてもらいます。今は、戦いよ」

心底後悔した顔で2人が頷く。そして、クロノたちへと続いた。