鬼ジュール_オムニバス-02

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:15:14

1

―― C.E.71 プラント・クインティリスシティ

「此処がプラント・・」
シンは宇宙港から中央のエレベーターを降り、初めて人工の空を見上げた。
青い空が「窓」に貼り付けられ、雲は一つも無い。
曇りの日や雨の日はどうなるんだろうとぼんやりと考え、すぐに「その日が来れば分かるか」と、興味を失くして歩き出そうとした。
特に目的地がある訳ではないのだが、プラントに身寄りの無いシンは早急に役所に行かねばならなかった。
戦争によって地球に居場所を失くしたコーディネイターを保護する体制を前プラント最高評議会議長シーゲル・クラインが整えてくれていたからなのだが。
それもまたシンにとってはどうでもよかった。
政治よりも、自分が生きる事で精一杯だったから。

その時・・・・。

「ごめんね!本当にごめんね!今直ぐに取って来るから!」

小さな男の子の泣き声と共に、同じく泣きそうな少女の声が耳に飛び込んで来た。
思わず歩き出すのを忘れて声の方を振り返る。

家族を亡くしてから誰かの声が自分の足を止めたのは初めてで。

反射的に声の主を探すと艶やかな黒髪の少女が3歳位の男の子の頭を撫でて傍の木に登り始めた。
視線を上に向けると木に風船が引っかかっていて。
ありがちな・・と、思えたがそれでも軽快に木を登って行く姿は見ていて気持ちいいものだった。

「あ」

シンは思わず声を発した。
その声と同じタイミングで少女は伸ばした右手を反射的に引いた。
シンと同時に彼女もまた声を発していたかもしれない。
少女が伸ばした手の先に金具が打ち込まれていて、少女はその金具に手を引っ掛けたのだ。
きっと何かのイベントの時にでも電飾か何かを引っ掛ける為の金具だったのだろう。
回収し忘れなのか、それともそのままにしていたのか。
シンには判断がつかなかったが、どちらでも構わなかった。

その木に金具はあるのだから。

少女は一度木の下の男の子を見た。
安心させる為に右手で手を振って、再び上を目指し、風船を目指す。
青い風船に手を伸ばし、ギリギリ指先で紐を摘んだ時にはシンも思わず両手を握り締め、手にじんわりと汗を掻いていた。

「やったぁ!」

少女が叫んだと同時に歓喜で背を反らし、次に体重が背に移った事で力を入れていた足を盛大に滑らせ直ぐに少女の歓喜は悲鳴に変わった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
途中、落下と共に風船が枝に引っ掛かり、破裂した。
何の訓練も受けていないのか、シンが心の中で「受身を取れ!」と叫んだが、彼女はそのまま背中から落ちた。
肺に衝撃が来たのか、耳障りな咳が漏れた。

男の子は風船の破裂と、少女が蹲り、息を詰まらせたような咳に「ひっ」と、息を呑み逃げるように母親の元に駆け出していった。
母親は少女と男の子との間にやり取りがあった事に気付いていなかったのか、ただ風船が無くなったから泣いているのだと男の子を抱き上げ、あやしながらその場を去った。
少女の落下の衝撃に驚き注目していた通行人は皆少女に興味を失くして自分の世界に返って行く。

シンはただ一人少女に近付いた。
何故だろう?
きっと・・・・少女の姿が一人世界から取り残された自分と一緒だったから。

「痛・・・・ぁ・・・い」
咳をしながらも割れてゴミとなった風船の紐を少女は血で濡れた手でしっかりと握っていた。
左手は胸を押さえていたが腕で顔を隠すように移動させ・・・・。

・・・泣いていた。

「・・・やだなぁ・・・・・」
「・・・・いつまで寝てるんだよ」
「え?」
少女は顔を隠していた左腕を浮かし、自分を見下ろすシンの姿に瞬きを繰り返した。

「・・・誰、だっけ?」
「通行人」

憮然と答えて手を伸ばす。
差し出された手に少女が戸惑っているとシンはムッと眉を顰め「いつまでそうしてるつもりだよ」と、自分から少女の手を取り上体だけ起き上がらせる。
「ほら」
ハンカチを上着のポケットから取り出し突き出すと、少女は再びきょとん、と瞬きを繰り返した。
いちいち鈍臭い少女である。
「血!涙!」
ついでに未だ握り締めている風船の紐を奪い取る。
「あ・・!それは!」
「風船割れたのに紐だけあっても仕方ないだろ!」
「・・・・見てたんだ」
少女はもう既にこの場を去った男の子の姿を探すが、当然見つける事が出来ない。
「あぁ―――・・・あ・・・・。ゴメンネ」
困ったような笑顔を見せながら聞こえる筈の無い少年に謝り、そのまま俯いてしまう。
静かになったかと思えば肩が震え、しゃくり上げたかと思うと砂がついたままの手の甲で頬を拭い、次第に泣き声が大きくなる。
驚いたのはシンである。
幾らなんでも泣く程の事ではない。
「え?え?ちょっと!?」
「ごめんなさぁい・・・・ごめんねぇぇ・・」
全身砂埃にまみれ、血に汚れた手で泣きじゃくる頬を拭う。
その傍らに居る無傷のシンはまるで少女を虐めているように見えなくもなく。

「え?あ!?い・・・一体何なんだ――――――――――――――!?」

素早く周囲に視線を走らせ、注目し始めている事に気付いたシンは少女にハンカチを押し付けるとその手首を掴み、その場から逃げ出すように走り出した。
散々体を打ちつけた少女を思えば走り出すのは酷かとも思ったが、不審がられる覚えも無い。
少女を置いていかなかったのはきっと少し前までの自分と重なったから。

何も出来なかった自分と。
何も出来なかった少女と。

嫌になる程似ていたから。

これが、「シン」と、「ミーア」の出会い。

<続>

2

プラントに到着して早々、変な少女を拾った。
鈍臭くて、世間にも置いていかれているような少女だった。
折角なのでクインティリスシティの役所に案内して貰い市民登録を済ませると役所の人間に申し訳無さそうにシンに宛がわれる部屋の間取り図を渡した。
最高評議会議長がパトリック・ザラに代わり、避難民受け入れよりもMS製造工場の方に力を入れるようになり、部屋が足りなくなっているのだという。
シンに渡された部屋も寮のような施設の4人部屋で、これではプライバシーも何もない。

「うわぁ、結構酷いね」
「・・・・お前・・・!」

この部屋で過ごすしかないのかと一人唇を噛み締めていると先程の少女が突然声を掛けて来た。
(因みにシンには両親が残してくれた財産と保険金が下りていたので金銭的には困っていないのだが、部屋を借りる為の保証人がいなかった)
シンの横から寮の間取り図を覗き込んで「トイレとお風呂が共同で、食堂も時間が決まってるんだ」と、いちいち感想を言っている。

「これならうちに来るといいよ。ごめんなさい。この寮のお話結構ですから」
「ちょ・・・・っ!何勝手言ってるんだよ!」
「うちなら狭いけど2LDKだよ。丁度ルームシェアの相手探してたんだ。男の子なら用心棒にもなるし」

プライバシーも守ります♪

少女の言葉にシンの心がぐらりと揺れた。
確かにその言葉を聞くと条件として申し分ない。
少なくとも先程渡された4人部屋よりは。
しかし、たまたま拾った少女に突然言われて直ぐに納得出来る程シンも馬鹿ではない。
少女の言葉を警戒して当然だ。

「・・・部屋を見てから決める」
「OK♪交通の便は悪くないし自信あるんだ。・・・と、あたしはミーア。ミーアキャンベル」

右手を差し出し握手を求められてシンは人懐っこく笑う少女を見上げ、しかし手は握り返さなかった。
なんだか手を握ったらもう決定になってしまいそうで、歩き出す。
ミーアはシンの背を目で追いかけながら手をグーパーと一人握ったり広げたりしながら「仕方ないか」と、シンを追いかけた。

「えっと、せめて名前!」
「・・・シン・アスカ」
「シンね。よし、近いから歩いて行こうか」

それからミーアはシンに町を案内しながら部屋に向かう。
「あたしはそこの劇場で時々歌ってるんだ。オペラ。・・・脇役なんだけど。いつもは色んなバーやショーパブとかで歌ってるの」

どこかの専属になりきれてない半端者なんだけどと苦笑するミーアにシンは、
「歌手?」
と、尋ねる。するとミーアは頬を染めて両手で赤くなった頬を隠す。
「そ、そうなるのかな!?」
シンにはよく分からなかったが、ミーアは「歌手」と、言われると嬉しいらしい。

「でもあたしにとっては歌手って言ったらラクス様一人なんだ!」
「ラクスサマ?」
「そっか・・・シンは地球に居たのかな。プラント市民なら皆知ってるプラントの大事なお姫様なの!」
「・・・ただの歌手だろ?」

シンにはただ一人の歌手が「様」と敬われ、「お姫様」だと言われる理由が分からない。
第一プラントは共和制で誰か一人を特別視する事などないと思っていたからだ。
しかしミーアにはシンの言葉が気に食わなかったのか、突然シンの腕を取ると走り出す。

「おい!」
「来て!ラクス様の凄さを教えてあげる!」

シンを振り返り、まるで「ラクス様」が自分の誇りのように笑うミーアに結局何も言えず、シンはミーアが手を引くままについていく。
辿り着いたのは街頭モニターの一つ。

「今ラクス様はお姿を隠されてて最高評議会も必死に探しているみたいなんだけど、毎日この時間にラクス様がどこからか演説をされるの。クィンテリスでは此処でだけその演説が流れるんだよ」

ザラ議長はラクス様否定派なんだけど、ジュール議員はラクス様擁護派なんだよね。同じ急進派なのに色々とあるのかも。

ミーアの言葉の半分以上をシンは理解する事が出来なかった。
きっと説明を求めても直ぐには理解出来そうにないので聞き流す事にした。
暫く待っていると、唐突に何かの回線が繋がったような「ブツッ」という音がしたかと思うと、「ごきげんよう、わたくしはラクス・クラインです」と、声が流れてきた。
咄嗟にシンは隣にいるミーアを見た。

同じ、声だ。

少しミーアの方が高いが、しかし、先程風船を割って「ごめんね」と泣いていた時の抑えた声は全く一緒で。
シンの視線に気付いたミーアはシンに視線を向け、口元に人差し指を立てる。
「後でね」と、言っているつもりだろうその動作にシンは再び演説に耳を傾けた。

しかし、シンはその演説を聴いても一つも心が動かされなかった。
使われている言葉は綺麗で上品なものばかりで、抽象的で、具体案は一つもない。
武器を捨てたらそれで平和になるみたいな言葉ばかりで「阿呆らしい」と、思う。
平和な世界こそ楽園のように言う。

それで平和になるならとっくに地球も、プラントも武器なんて持つ理由がない。
平和以上の「利益」があるからこそ争うのだと、この上品な「お姫様」はどうやら知らないらしい。

ただ。
演説の終わりと同時に流れて来た歌は・・・・胸に染みた。
口下手な歌手というのは多く居るが、きっとこの「お姫様」も同じなのだろうとシンには思えた。
得てして芸術家は政治化にはなれないものだ。

「良かったでしょ」
歌が終わり、余韻に浸っていたシンに、ミーアは一度はシンから受け取ったハンカチを綺麗な面が前に来るように折り、差し出して微笑みかけた。
どうやらシンは泣いていたらしい。
慌てて袖で涙を拭い、誤魔化すようにミーアを睨む。

「歌はな」
「・・・・・うん」

ミーアにはこの時、なんとなく察した。

演説を聴いている時のシンの険しい顔。
歌を聴いている時の、何かを求める寂しげな顔。
きっと、シンは戦場を見た事があるのだ。

ミーアにもラクスの言葉は少し綺麗事のように聴こえる。
戦場から帰って来たザフトの兵士を見て、ラクスの言葉に耳を傾ければ疑問も浮かぶ。
だが、ミーアはラクスの言う綺麗事が好きだった。
皆がラクスの綺麗事を好きになれば確かにラクスの言うような平和な世界になると思う。
しかし、シンにはラクスの言葉を聞くにはきっと時間が必要なのだとミーアはそれ以上ラクスの演説などについて話そうとは思わなかった。

「行こうか」
「あぁ」

自然と手を繋ぐ。
シンもそれは気付いたが振り払おうとも、文句を言おうとも言わなかった。
戦争の事を考えると荒んでしまう考えを温かい手が癒してくれているように感じて。
誰かが居てくれるという安堵感が、じわじわと指の先から伝わってくるようだった。

少し寄り道をしてしまったが、確かに彼女の言う通り案外直ぐにミーアの住んでいるアパートに着いた。

見上げて8階建ての建物に、結構良いところのように思える。
(シンにはプラントの住宅事情はよく分からなかったのでこれが他に比べてどうなのかはわからなかった)

「何階?」
「5階だよ。昼間お日様が当たって温かいんだ♪」

疲れて帰って来た時には1階が良かったなぁって思うんだけどね。

と、ニコニコとミーアは自動ドアを潜り、エレベーターのボタンを押す。
直ぐにドアは開き、中に招くと、エレベーターの広さはそんなに広くない。
5人も乗れば一杯だろう。
しかし代わりにもならないだろうがエレベーターの中は明るい。
密室の中が薄暗いと気味が悪いので少々狭くともこれならいいかもしれないと思う。

そして5階に到着すると右に曲がって正面のドアがミーアの部屋だという。
「角部屋?」
「うん。運が良かったんだ♪他の部屋と家賃一緒なのにちょっと広いの♪窓も多いし♪」
部屋の前のプレートには「MEER CAMPBELL」と書かれてあり、その下にもプレートがあったようだが、剥がされた後があった。
前に一緒に暮らしていた人が居たようだ。

カードキーを差しこみ、部屋に入る。
女の子の部屋らしい花の香りがした。

「ただいまぁ」

誰もいないだろう部屋に声を掛け、中に入るとシンも入るように促す。
入口は一人分の広さだが、靴箱はそれなりに数が入りそうだ。
少し歩いて左側が柔らかな明かりの入る居間で、二人掛けのソファに小さなテーブルに少し大きめのモニター、奥がダイニングキッチン。
テラスもある。
右側に扉が二つ並んでいて廊下の奥が浴室で、その手前のドアがトイレ。
少し狭いが確かに2LDKである。
「部屋はロックが掛けられるよ。奥があたしの部屋で、手前がシンにどうかなと思って」
右側の手前のドアを開けると中には机とベッドとタンスとテーブルに布が掛けられており、ロフトが付いていた。
「家具は前の住人が置いていったの。人が使ってたの使うの嫌なら粗大ごみで出しちゃって新しいの買うのもいいけど、一年も使ってないから全部綺麗だよ。出て行ったの最近だから埃もそんなに被ってないし」
ミーアの説明を聞きながらシンは部屋の中に入る。
カーテンを開けると大きめな窓から明かりが差し、布を捲って家具の具合を見る。
どれも確かに古くは無く、十分に使える。
捨てるのは勿体無いと思えた。
そこで気になった事をポツリと、シンは尋ねた。

「前に居た人って、男?」

シンの言葉にミーアは小さく息を呑み、視線を彷徨わせると「・・・うん」と、困ったように返した。

「恋人だったんだ?」
「どうかなぁ?・・・多分違うよ。変な事はなぁぁんにも無かったし」
「変な事?」
「・・・うん、変な事」

分かんなかったらいいの!と、ミーアは笑い、手招きをするとテラスに連れて行く。
「周りも結構高い建物建ってるんだけど、此処はビルの間からプラントが結構見渡せるんだ。中々良くない?」
確かに景色も悪くない。
いきなり声を掛けて来た人懐っこい少女だと思っていたのだが、これは本当に考えてもいいかもしれないと思い始める。

あと気になる事と言えば・・・・・。

「家賃ってどれくらい?」
「シンの無理の無い程度でいいよ?」
「は?」

あっさりとしたミーアの言葉にシンは間抜けな声で返す。
そんないい加減な事でいいのかと、シンは訝しげに眉を顰める。
上手い話には裏があるのだと昔父親も言っていた。

「だってさっき市民票みたけど、未成年でしょう?お金持ってないんじゃない?」

馬鹿だ!絶対この女!!
ルームシェアの相手を探しているという事は、自分では家賃の全てを払うのが苦しいからだろう!

だというのに、ろくに払えなさそうだと分かって此処まで案内して来たのか。
それとも他に何か条件があるのか。
シンはミーアのいい加減さに苛々と睨み付ける。

「・・・何か他に条件があるんじゃないのか?」

突然警戒心丸出しの表情で睨み付けて来るシンに、ミーアも流石に「しまった」と、顔を顰めた。
ミーアにしてみればそこまでの他意は無かったのだ。
しかしルームシェアがしたいと言っておいて部屋にまで連れ込み、家賃を割り出さなかったら疑われて当然だ。
慌てて両手を振り、「違うよ!」と、シンの警戒心を解いて貰おうと言い繕う。

「悪気は無いの!他意も無いし!何か他に条件つけようとも思ってない!」
「じゃあ何だよ?」
「あの・・・。未成年って事は学校行ったりするんじゃないの?それで転入とかなったらお金掛かるだろうし、見た所服とかも殆ど持ってないみたいだし、最初は色々入用なのにバイトも見つける前から家賃までってなったら大変じゃない?
あたしはまだもうちょっと余裕があるし、いざとなったら仕事増やすし!」

ミーアの話を聞いていくうちにシンは余りのミーアのお人好しさに怒るのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
何でルームシェアの相手見つけて「いざとなったら仕事増やす」という発想をするのか。
何の為のルームシェアなのか。

シンが大きく溜息を吐くと、ミーアは肩を竦めて遠慮がちな視線を向けてくる。
まるでシンがミーアを苛めているみたいだ。

「あんた、馬鹿ってよく言われない?」
「・・・・う、うん」
「お人好しとも言われるだろ?」
「・・・・そ、そうかなぁ?」
「いや、褒め言葉じゃないから」

照れて笑うミーアにシンはもう一度溜息を吐く。
最初に見つけた時から鈍臭くて、世間から見放されたような少女だった。
なのに本人は底なしにお人好しで、地球から一人でやって来た未成年者の世話を無条件で焼いて来る。
シンがどうして一人で地球に来たのかなんて全く知らないのに。

・・・・・本当に、底なしのお人好しで、底なしの馬鹿だ。

「家賃は普通に払えると思う。学校に編入する予定は無いし。ただ、アカデミーに入りたいからその勉強の方を優先したい」
「え!?アカデミーに!?ザフトに入りたいの?」
「あぁ。この戦争を終わらせるなら、力を持つしかないからな」

シンの思いつめた表情にミーアは掛ける言葉を失う。
なんとなく、シンが地球に来た理由が分かったような気がした。
断定するのはシンに失礼なのだろうが。

「だったら・・・家賃とか、いいよ。養ってあげる!」
「本っ当に馬鹿だな、あんた!普通に払えると思うって言ってるだろ!アカデミーに入ったらその時点で給料出るらしいし。それまで何ヶ月かだろ!?」
「じゃあ出世払いとかでもいいし。・・・だって、あたしはそういう才能全然無いから、ザフトの軍人さんに守って貰ってる方だもん。ザフトで頑張ろうとしてるシンのお手伝いしたいよ♪」

と、此処までミーアが言ってから言葉を止めた。

あれ?
いつの間にかシンが此処で住む事を前提とした話になってる?

「あれ?」
「何だよ」
「・・・・じゃあ此処に住む?」
「~~~~~~~~!!!今頃気付いたのかよ!!」
「うん、ごめん。今気付いた♪」
「だからあんた馬鹿なんだよ!」
「そうだね」

へらんっとやはり人懐っこい笑顔を見せるミーアにシンは頬を染めながら俯く。
ミーアと話していると調子が狂う。
お人好し過ぎて調子が狂う。

こんなに無条件で素性もよく知らない男に手を差し伸べる馬鹿なんてきっとミーア位だ。
此処で自分が断って、悪い奴に引っかかったらどうするのか。

「あんた馬鹿で直ぐ騙されそうだから一緒にいてやる」
「本当?ありがとう♪」

そっぽを向いて、怒ったように言って。

普通であれば反感を買いそうな態度だが、ミーアは笑った。
「ありがとう」と、言った。

その言葉が温かくて。
シンはそっぽを向いたまま手を差し伸べた。

今度こそ、握手をする為に。

ミーアもそれに気付き、にっこり笑ってシンの手を握り返した。

「これから宜しくね♪」
「・・・・あぁ」

こうして二人の生活が始まる。

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