鬼ジュール_オムニバス-08

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:14:25

アカデミーでは年に一度文化祭が行われる。
日頃寮とアカデミーを往復するしかない学生のストレスを発散させる為の数少ない行事である。
アカデミーで学ぶ生徒の様子を見せる為にも生徒は家族や友人を招待する事が出来る。
「レイは誰か呼ぶのか?」
「いや、うちは…恐らく無理だろう」
「そっか。俺はそういうのいないしな」
一瞬ミーアの姿が浮かんだが、仕事があるだろうと諦める。
わざわざクインティリスからアプリリウスまで来て貰うのも気が引ける。
「彼女、呼ばないのか?シンは」
レイの言葉が分からず首を傾げる。
「彼女って?」
「以前見せて貰った同居人」
「あぁ。だから彼女じゃないって」
「それでも色々気を配ってくれてるみたいじゃないか」
「……まぁ、お節介なんだよ」
「なら尚の事喜ぶんじゃないのか?」
「……そうかな」
一度は諦めたが喜ぶと言われるとそんな気になってくる。
シンは一つ心に決める。

「駄目元で誘ってみるよ」
「そうするといい。俺も挨拶がしたい」
「珍しいな。レイが他人に興味持つなんて」
「そうか?」
言いながら何処か楽し気なシンの背を見つめながらレイは小さく呟いた。

「確かめなければならないし………な」

いざ連絡を入れるとなると、シンは通信機の前でぽり・・と、頭を掻いた。

こういう時、どんな風に誘うもんなんだろう?

「今度文化祭があるんだけど・・」

と、言うのが普通かもしれない。
しかし、ミーアの事だ。

『そっかぁ。楽しそうだね』

で、終わりそうだ。
もっとストレートに行けばいいのだろうか。

「今度文化祭があるんだけど、来る?」

よし、ちょっと言葉を増やしただけで大分違う。(こっそりガッツポーズをしてみる)

『ごめんね、仕事が抜けられないよ・・・・』

しょんぼりと断られた!
(注:これはシンの脳内)

「そうだよなぁ。仕事って言われたら俺もどうしようもないもんなぁ・・・」
通信機の前でシンは「うーん」と、項垂れる。

無理に来て貰う必要も無いんだけど・・・・。

と、一応思うのだが、ヨウランやヴィーノ、ルナマリアとメイリンなどが家族を呼ぶのだという話を聞くと羨ましくて。
誘うのなら来て欲しいというのが本心だ。
以前ヨウランが「女性にNOと言わせないデートの誘い方」という本を読んでいたが、それを貸して貰えば良かっただろうかと考えてしまう。
先程からちくちくと背中に刺さるレイの視線が痛い。
変な奴だと思われてるかもしれない。
しかし、繊細な男心としてはやはり断られるのは怖いのだ。

「もうそろそろ就寝時間だぞ。誘うなら早くしなければ彼女にも失礼じゃないか?」

ついには声まで掛けられた!

「あ・・・あぁ。そうだよな」

仕方ないのでミーアになんと言われるかは置いておいてとりあえず通信をする事にする。
何を言えばいいのかまだ分からないのでさっさと出なくていいと思いつつ、それも10コールを超えた所で心配になってくる。

「何で出ないんだよ!」

まだ家に戻ってないとか?
何で!?
もう仕事終わってる時間だろ!?
また誰かに後付けられてるとか!?
変な奴に襲われてたりしないよなぁ!?

甲高い声で泣きながら男に押さえ込まれ身を捩るミーアの姿が脳裏に浮かぶ。
(想像は先日上映会が行われたAVが役に立った)

ドキドキと脈打つ音が速くなる。
胸が痛くなって、嫌な汗を掻いてくる。

早く出ろ!

そう思った瞬間、モニターにタオルを一枚巻いただけのミーアが現れた。
どうやらお風呂に入っていたから気付かなかったらしい。

・・・しかし眠そうだから・・・・。

「また風呂で寝てただろ!馬鹿ミーア!!」

デートに誘う側としての出だしとしては最悪だった。

『何怒ってるの?』
「怒ってない!いや、風呂で寝たら風邪ひくだろ!?熱出てももう看病してやれないんだからな!」

通信に出ないと散々心配したシンの心が分からないミーアの反応に、シンは訳が分からず叫んだ。
ミーアは通信に出た途端怒られたので、瞬きをした後頬を膨らませた。

『イキナリ怒らなくてもいいじゃない』
「でも風呂で寝てたんだろ!?」
『それは!・・・・そうだけど・・・・・』
「心配させるな!」

シンにしてみれば不意に出た言葉で、言ってから「しまった」と、口を押さえる。
ミーアはモニターの向こうでまた瞬きを繰り返し、次の瞬間にっこりと笑った。

『心配、してくれたんだ♪』
「する訳無いだろ・・・」
『心配、してくれなかったの?』
「しない!」
『心配、してくれないんだ・・・・』
「・・・・・・」

しゅんと、落ち込んだ声に、肩を落として俯くミーアに「泣かせた!?」と、焦ったシンは乱暴に髪を掻き毟り、頬を染めて怒鳴る。

「心配するに決まってるだろ!!」
『本当?嬉しい♪』

ぱっと顔を上げたミーアは全然泣いてもいないのでシンは「やられた!」と、唇を噛み締める。
一方ミーアはしてやったりと得意顔で。

「もういい。寝る。おやすみ」
『え?何かあったの?』
「ミーアには教えて上げません。オヤスミナサイ」
『え?ちょっと・・・!?待って!切っちゃダメ!』

つんっと、そっぽを向き、通信機のスイッチに手を伸ばそうとするシンにミーアが慌てる。
と、そこでシンは背後に気配を感じた。
電源に伸ばした手が止められる。

「突然失礼致します。来月アカデミーにて文化祭が行われるのでシンはそれに貴女をお呼びしたくて連絡を入れたんです」
「レイ!?」

突然画面に割って入って来たレイにミーアが驚く。
シンならばいいかとタオル一枚だった姿も他の男の子に見られたとなっては慌てて屈んで肩が見えないようにする。
それも、美少年だ。
真っ赤になって恥らうミーアの姿にシンはむっと眉を寄せる。

自分の時にはそんなの全く気にしないクセに。

『あ、あの!そ、そうだったんですか!もう!シンったらそうならそうって言ってくれればいいのに!』
「貴女が来て下さるのをシンも楽しみにしておりますので、どうかご一考下さい。今日は遅いので後日改めて連絡させますので」
『わざわざありがとうございます』
「失礼します。おやすみなさい」
『はい。おやすみなさい』

ぽーっとレイを見るミーアの反応にシンは完全に臍を曲げた。
そりゃあ、レイが格好いいのはシンだって認める所だ。
しかし、幾らなんでもあからさまに頬を染める事も無いだろうに。

それにレイもレイだ。

「シンも楽しみにしておりますので」と、言ったのであれば「レイ自身も楽しみにしている」というのと同じではないか。
ミーアはミーハーな所があるのだから勘違いしたらどうするのか。
レイが一通り用件を言った後、通信を切ろうとしてたシンの手を放し、そのまま自分のベッドに横になる。

『あんなに格好いい男の子と同室なの?シン』
「悪かったな」
『怒ってる?』
「怒ってない!もう就寝時間だから。じゃあな。また連絡するから!」
『うん、おやすみ』
「・・・・・・・・・・おやすみ。温かくして寝ろよ」
『ありがとう』

通信を切って、いつもよりも乱暴にベッドのシーツを捲るとレイが声を掛けて来た。

「来てくれるといいな」
「・・・・・・・そうだな!」

腹が立った。
レイが言ってくれなければミーアを誘う事が出来なかったかもしれないけど、それでも。

自分で誘いたかった。
喧嘩しても、自分の言葉で。

胸がざわざわするから・・・・・。

シンは、すぐに寝付けなかった。

<続>

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