俺はアイツを救えなかった。アスランとの間に入ってストライクに殺られたアイツを…。
ただ、アイツがストライクに殺られていくのを、遠くから見つめるだけで何一つしてやれなかった。
それから直ぐ、俺は自分に嫌気が指し、怒りをアスランにぶつけた。
怒りを心の中に秘めているのは、俺だけじゃない。それは分かっていた。
だが、納得しきれなかった。アイツの――――ニコルの死を。いつも俺達の事を考えてくれていた。優しかったアイツの事を、忘れられなかった。いや、忘れられるはずもなかった。
だから、俺は決めた。奴を…、ストライクを討つと…。この傷の雪辱も含めて、全てを纏めて返してやる…。だから…!
魔法少女リリカルなのはA’s SEED。始まるぞ…。
第2話【現れし友】
あれから1週間後。ひとまずアスランと仲を直したキラは、なのはに連れられて、局のメンバーが任務となのはの保護を兼ねて借りたマンションのベランダへ来ていた。更に、キラとアスラン。二人には住む場所がないため、キラは高町家が、アスランはフェイトがリンディに話しを通して、ハラウオン家――――実際は局の者達が借りたマンションにだが――――に居候する事になっている。
「それにしても…近いな…」
「「「うん。そうだね」」」
アスランの言葉に対し、キラとなのは、フェイトは頷く。ちなみに、アスラン達が言っている〝近い〟とは、高町家との距離の事である。ここからなら、リンカーコアが未だ回復しきっていないなのはに何かあったときに、直ぐに駆けつけられるだろう。しかし、それにしても…近い…。
「あら、なのはさんとキラ君。もう来てくれてたの。ごめんなさいね~。私たちならともかく、キラ君やなのはさんにまで荷物運び手伝わせちゃって…」
ベランダを4人で眺めていると、背後からリンディの声がかかった。幾分申し訳なさそうに聞こえるが、どこか楽しそうでもある、母性に溢れた笑みを浮かべた表情でフェイト達を見つめて来る。
「それと、フェイトさんとアスラン君は今日からここに住むのよ~。まぁ、なのはさんの保護と任務も兼ねてここに住むことになったから、丁度いい場所よ。日当たりも良好だし。眺めも良いし。良いことづくしじゃない?」
こちらに微笑みながら話しかけてくるリンディに、どこか母親の雰囲気を感じ取ったのか、フェイトは照れくさそうに頷いた。アスランは依然申し訳なさそうな表情でリンディの事を見ている。やはり、性格が性格だけに仕方がないのは分かりきっていた事なのだが。
「あ、それと、前言ってたネックレスの事だけど、これがデバイスと言うのが分かったわ」
「デバイス…?」
聞きなれない単語に、キラは思わず言葉を漏らした。デバイスと言えば、コンピュータにUSB端子等を持つメモリー類等を接続する所だ。キラの脳裏にはそちらの物が過ぎたが、この者達はコンピュータは使わない。ならば、残る選択肢は一つ。以前、リンディとの話の際にいった時に魔法という物を見せてもらった。大変興味のそそられる物ではあったが、恐らくそれに関係する事なのだろう。
アスランは、フェイトやなのはがその言葉を使っているのを聞いた事がある様な気がしたため、リンディが取り出したネックレスを黙って見つめているだけであった。
「あぁ、キラ君とアスラン君には教えてなかったわね。デバイスっていうのは、フェイトさんやなのはさんが持っているのと同じものよ」
そう言い、リンディはなのはとフェイトを指差す。直後、端末を操作して以前のフェイトの変身シーンを映す。
『バルディッシュ、セットアップ!』
『Yes sir(はい)』
フェイトの問いかけにバルディッシュは、いつもの様に無機質な声を発しながら答える。すると、フェイトの体が黄色い光に包まれていき、次瞬にはフェイトの体は黒を基調としたバリアジャケットを纏っていた。
そこまでを見終わると、リンディは再度端末を操作して映像を消した。
「どう? 魔法って、こういう事も出来るのよ。デバイスはその補助装備みたいなもの。あると色々と便利ではあるのよ?」
リンディが言葉を終えると、キラ達へと問いかけにも聞こえる様な口調で話しかける。それにキラは関心を抱いたのか、リンディへと問う。
「へぇ~。すごいですね。でも僕達とどう関係が?」
「あぁ。俺にも分かりません。このネックレスはいつの間にか俺達の首にかかっていただけですし…」
確かに。2人のいう事は尤もな事なのであろう。この世界はもちろんだが、C.E.には魔法という物――――いや、概念自体がない。戦闘での攻撃手段は全て銃やナイフ、MS等の質量兵器で行われる。そのため、最初はキラもアスランも魔法の存在を認められずにいたが、今では慣れ故か、少々の事では驚かない様にはなってしまった。
「え? でも、アースラであなた達の事を検査した時に、リンカーコアがある事も分かっているわよ? それでも?」
「はい。それでもです。デバイスなら、俺達が何かしら情報を知っている筈ですし、何かしらの関わりがある筈です。それに対して、俺達はこのネックレスの事をまったく知りません。買った覚えももらった覚えも――――」
『『――――The main and we are the one that it is your swords, and is escutcheons. (主、私達は貴方達の剣であり、盾であるもの)』』
突然、アスランの言葉を遮る様に何処かから言葉が発せられる。瞬時にメンバーは戦えないなのはとフェイトを囲む様にして臨戦体勢を取り、しばらく困惑したまま時は過ぎる。
しばしの沈黙の後、フェイトは何かに気づいたのか、リンディが持っているネックレスを、それぞれキラとアスランに渡す。
『『If it is my main, and you, it is likely to understand. We are your multiplicatio
n machines――――(我が主、貴方達ならば分かるでしょう。私達は貴方達の乗機である――――)』』
渡されたネックレスを見つめながら、発せられた言葉に対して思考を過ぎらせる。
乗機。その単語がキラとアスランの頭に焼き付いていた。キラもアスランも乗機はそれぞれ1機しかいない筈。それならば、このデバイス達の名は――――。
「――――ストライク…?」
「――――イージス…?」
『『Yes sir.(はい)』』
主である2人の言葉にストライクとイージスは、それぞれ無機質な言葉で返す。それぞれ通常時は銃と盾の形態を取っているため、しばらくはその言葉が何処から発せられているか分からなかったが、フェイトのおかげでようやく気づけた。後でフェイトには礼を言わなければ。その事だけがアスランの頭を駆けていった。
「ねぇねぇ、フェイト! なのは!」
「ん? 何?」
しばらくリンディとリビングで話をしていると突然、隣の部屋からアルフに呼ばれたため、フェイトは軽く返事を返した後、声の主――――アルフの元へと走っていく。それにつられてなのはも走っていってしまったため、キラとアスランはそれに追う様にして、後をついて行った。
「ほら! 新形態! 子犬フォーム!!」
「アルフ小っちゃい! どうしたの?」
「ユーノ君もフェレットモード久しぶり~!」
子犬の姿をしたアルフが後ろ足だけで体を器用に支えながら、手を上げてフェイト達に見せびらかす様にこちらを見上げる。一方ユーノは右前足で後頭部を掻きながら、なのは達を見上げて誤り口調で口を開く。
「なのはやフェイトの友達の前では、こっちの姿でいた方がいいからね」
確かに。幾らなのはとフェイトの友達でも、犬耳が付いている女の人や、知らない少年がいたら不思議に思い、変に探索されてしまうかもしれない。そうなったら、こちらの世界では少々ややこしい事になってしまう恐れがある。二人がこの姿でいるのは正解だ。
しかし、そんな事もお構いなしに、なのはとフェイトはそれぞれユーノとアルフを抱き上げてじゃれ合う。アスランとキラはその姿を微笑ましく見ていた。
「君等も色々と大変だねぇ…」
「まぁ、しょうがないよ。皆に迷惑をかける訳にもいかないしね」
同じ部屋にいたエイミィが同情した風な口調で喋りかけてくる。ユーノはそれに対して、なのはに頬ずりされながらも言葉を返していた。
すると、廊下から何か用を終えたクロノがこちらへと歩いてくるのが見えた。
「なのは、フェイト。友達だよ」
「「は~い!」」
クロノに言われ、返事を返したフェイトとなのはは、一旦アルフとユーノを膝から降ろし、玄関の方へと駆けていった。
フェイトとなのはが走って行った先には、開きっぱなしのドアの向こうに立っているアリサとすずかの姿が見えた。
「こんにちは!」
「来たよ~!」
「アリサちゃん! すずかちゃん!」
笑顔で2人に声をかけて来るすずかとアリサに対し、なのはとフェイトも靴を履き終えると、廊下の前まで出るために歩きながらも言葉を返す。
「はじめまして! …ってのもなんか変かな?」
「ビデオメールでは、何度も会ってるもんね」
「うん」
すずかの言う通り、ビデオメールではすずかとアリサはフェイトと何度も交流を交わしている。それならば形式的には初めて会うとは言わないのだろうが、目の前で顔を合わせながら対話するのは初めてだ。なら、この言い方も不自然ではないのだろう。
「でも、会えて嬉しいよ…! アリサ、すずか!」
「うん!」
「私も!」
平和な時に交わす、友達との楽しげな会話。それは、フェイトが昔から望んでいた物に似ていた。それを分かっているのか、なのははいつもよりも嬉しそうに友達との言葉を弾ませていた。
「フェイトさん、お友達?」
「「こんにちは!!」」
廊下から歩いてきたリンディに、アリサとすずかはフェイトと会えて嬉しいのか、いつもよりも元気に挨拶を送る。それに笑顔で返しながらも、リンディは会話を続ける。
「こんにちは。すずかさんに、アリサさん…よね?」
「はい」
「私達のこと…」
知らない人が自分たちの名前を知っている事に、驚きの混じった声と口調で返す。一見すると優しそうな人だ。恐らくフェイトの知り合いか何かだろう。そう頭の中で納得させる。
「ビデオメール、見せてもらったの」
「そうですか!」
合点がいった様に、また笑顔で言葉を返すアリサ。隣にいるすずかも同じ様な表情でリンディを見つめている。
「よかったら、皆でお茶でもしてらっしゃい」
「あ! それじゃあ家のお店で!」
「そうね! ――――じゃ、せっかくだから、私もなのはさんのご両親にご挨拶を…。ちょっと待っててね!」
言うと、リンディは荷物を取りにリビングへと戻る。それを見送りながら、すずかとアリサが話を切り出す。
「綺麗な人だね…」
「フェイトのお母さん?」
「えと…、その…」
それは、子供なりの小さな疑問。しかし、3人に見つめられるとフェイトは言葉を詰まらせる。だが、頭をフル回転させ、ようやく答えを見つけた。
「今は…まだ…、違う…」
その顔はどこか悲しげだが、嬉しそうでもあった。
先程、少し会話をした後、4人はなのはの両親が経営する喫茶店「翠屋」に来ていた。4人は、しばしの談笑を交わした後、連れてきたユーノとアルフをそれぞれすずかとアリサが抱きかかえて楽しんでいた。
「ユーノ君久しぶりだね~!」
「ん~…。なんかあんたの事どっかで見た気がするんだけど…。気の性かな…?」
すずかに抱きかかえられながら頭を撫でられ続けるユーノ、アリサの膝の上に乗りながら、思わぬことを言われたアルフは、身を少し縮めて冷や汗を流す。
そんな2匹と2人の姿を、向かいの席から見つめるなのはとフェイト。今は本当に平和だった。そんな時、なのはが何かに気づいた様に、すずか達の後ろに面する歩道の方を見た。フェイトもそれに気づいたのか、近づいてくる2人の少年の名を大声で呼ぶ。
「キラ君~!」
「アスラン! こっち!」
自分達の名前を大声で呼ばれて、声の聞こえた方向へと視線を向けるキラとアスラン。その視線の先には案の定、なのは達がいた。
「すまない…。これを取りに行ってて遅くなった」
そう言いながら、手に持っていた包装を施された箱をフェイトへと手渡す。しかし、手渡された当の本人――――フェイトは、いきなり手渡された物に呆気に取られながら、アスランに開けていいかと確認をとり、頷いたのを見てその箱を恐る恐る開けていった。
その箱の中身は――――。
「そんな訳で、これから、しばらくご近所になります。よろしくお願いします…」
「あぁ、いえいえ。こちらこそ~!」
「どうぞ、ご贔屓に…!」
翠屋の中にいるなのはの両親である、士郎と桃子に挨拶に来ていた。まぁ、子供が親しいのならば、保護者同士も面識をもっていた方が、何かあった時になにかと便利である。それに、その事を除いてもリンディはなのはの両親とは親しくなりたくはあった。なのはとフェイトの事もある。それならば、大事が起こった時に、保護者である自分の性で子供たちにまで大きな影響を与えてしまうのはリンディには許せない。その事が頭を過ぎった瞬間だった。
「ところで、フェイトちゃん。3年生ですよね? 学校はどちらに?」
「はい、実は…」
士郎から突然振られた話。それは、フェイトが一番望んでいる事そのものについてだった。リンディも、フェイトの気持ちをわかっていない訳ではない。もう直ぐしたら、正式にフェイトも自分の――――義理のだが――――娘になるのだ。そこまではもう既に、準備は出来ている。後は――――。
そう思っていると、不意に店のドアが誰かによって開けられた。だいたい予測はついている。フェイトだ。思惑通り、フェイトの手には何やら服らしき物が入った箱を両手で持ちながら、こちらを見ていた。
「あの…、リンディ提と…ぁ、リンディさん…」
「はい。なぁに?」
良い意味で小悪魔の様な笑みを浮かべながら、リンディはフェイトのいる方向へと向きを変え、視線をフェイトに合わせる。
「あの…、これ…これって…」
不安と期待が入り混じった様な表情で、リンディとなのは達が通っている聖祥小学校の制服を交互に見つめながら、リンディに問いかける。だが、その声は突然の事に戸惑っている様だった。
「転校手続き取っといたから。週明けから、なのはさんのクラスメイトね!」
「あら、素敵!」
「聖祥小学校ですかぁ。あそこは、いい学校ですよ。なぁ、なのは!」
「うん!」
フェイトが自分と同じ学校に転校する事に、喜びを隠せないなのはは、士郎の言葉に満面の笑みで返す。その表情は魔法を使って、大事件の一つの解決に関与した者とは思えない程、純粋な笑顔だった。
「よかったな。フェイト」
「えと…その…、うん。ありがとう…」
微笑ながら話かけてくるアスランに、フェイトは照れながらも手に持っている制服の入った箱を抱きしめていた。
一先ず話を終えたリンディ達は、外に出てなのは達子供メンバーと談笑を楽しんでいた。ある程度すずかの話を聞き終えるとアリサは、先程から気になっていて頭から離れなかった疑問をフェイトとなのはに問う。
「ねぇ、さっきから気になってたんだけど…」
「ん? どうしたのアリサちゃん…」
「えっとね、キラさんとアスランさんって、なのはとフェイトとどういう関係?」
気になっていたのはやはりこの事だった。確かに、自分達の前に突然知らない人達が現れて、それに加えなのはとフェイトの知り合いとくれば、聞かずにはいられない。アリサはそういう性格だった。
「え? どういう関係と言われても…」
さすがに想定外の事を訊ねられたのか。その事について何も考えてなかったキラは、答えを出せずに口篭る。リンディにあまり素性はばらさないようにと言われていたのだ。
しかし、何時まで経っても答えが返せないキラに苛立ちを覚えたのか、アスランが話しを切り出す。
「俺達は、大怪我をして倒れていたところを二人に助けられたんだ。それに加えて、ここは俺達のまったく知らない所だった。たぶん、記憶喪失か何かだと思う。だから、リンディさんが俺を。なのはとそのご家族の方達がキラを、家に居候させてくれると言い出したんだ。それで、行く当てのない俺達はお言葉に甘えさせてもらって、今日から住まわせてもらう事になってるんだ」
簡潔に、それも要所要所が分かりやすく説明するアスラン。しかし、だからといって、一番大事な事――――素性を明かさない事は忘れてはいない。それを翠屋に来る前から肝に銘じていた。
「へぇ~。そうなんだ。私はてっきり2人の従兄弟かと思っちゃったよ」
「私も。それにしても、2人ともカッコいいよね~。いいな~。私もこんなお兄さんが欲しかったな~」
「私も!」
すずかの言葉の終わりに、アリサも同意する様に声を上げる。どちらも姉やメイドはいても、兄という存在がいない。それは2人にとって未知の領域であった。
そんな、他愛ない話合いだけが、時と共に過ぎていった。
同日、ハラウオン宅。
フェイト達が出かけていない中、残って仕事を片付けていたクロノはエイミィに、
ロストロギアである闇の書について、いや、その本質そのものについて語っていた。
「ロストロギア【闇の書】の最大の特徴は、そのエネルギー源にある」
クロノが映像をその瞳に映しながらも、エイミィに対して話を切り出す。一方、エイミィも同じ様に映像を見ながらも、クロノの話に耳を傾けていた。
「闇の書は、魔導士の魔力と魔法資質を奪うために、リンカーコアを喰うんだ」
「なのはちゃんのリンカーコアもその被害に…」
「あぁ…、間違いない」
今思い出すだけでも暗い感情が込み上げて来る。クロノ――――いや、ハラウオン家は闇の書とは決して切っても切れない因縁があった。それについては、まだ言えない。
「闇の書は、リンカーコアを喰うと、蒐集した魔力や資質によって、ページが増えていく。そして、最終ページまで全てを埋める事で、闇の書は完成する…」
「完成すると、どうなるの…?」
闇の書の完成――――それは、ある意味その持ち主に何かしらの災いが降りかかる事を意味していた。持ち主だけではない。闇の書を完成させるために、多く者人間や生き物達が犠牲になるのだ。これを、クロノは奥歯を噛み締めながらも自覚していた。
だが、エイミィにその事を訊ねられるのを予測していたのか、クロノは差し当たりのない答えで返した。
「少なくとも、碌な事にはならない…」
「ぁ…」
エイミィには、腐れ縁であるからこそ、クロノの沈黙の意味を分かっていた。
夜、すでにはやては寝静まった頃、ヴィータは静かに目を覚ました。
その後、ヴィータは家を出てビルの屋上へと来ていた。すでにシグナム達他のヴォルケンリッター、そして銀色と金色の髪の少年、水色と黄緑色の髪の少女は集合していた。今夜も始めるのだ。リンカーコアの蒐集を。
「来たか…」
「うん…」
シグナムが遅れて来たヴィータに対し、言葉をかける。ヴィータはそれに一言で返すと、直ぐに他の者と同じ様に光り輝く街を見つめる。
「管理局の動きも本格化してくるだろうから、今までの様にはいかないわね…」
「少し遠出をすることになるな…。なるべく離れた世界での蒐集を…」
シグナムは未だ、街を見つめながら他の7人に対し呟く。実際、シグナムはあまり遠くの世界に行って蒐集を行いたくはなかった。はやてにもしもの事があった時、即座に対応するためだ。しかし、遠出となってはそれも出来ない。だが、これもはやてのため。そう自分で無理矢理に納得させていた。
「それよりも、今闇の書は何ページまで来ている?」
「えっと…」
今まで腕を組み沈黙していた銀髪の少年が、不意に口を開いた。しかし、シャマルは特に驚く様子もなく、闇の書を開いてページ数を確認する。
「340ページ」
「そうか…」
「うん。この間の白い服の子で、かなり稼いだわ」
「おっしッ!! 半分は超えたんだな! なら、このままズバッ! と集めて、さっさと完成させよう!!」
意気込む様にしてガッツポーズを取ったかと思うと、打って変わって急に静まりかえったようにヴィータは呟く。
「早く完成させて…、ずっと静かに暮らすんだ…。はやてと一緒に…」
「あぁ…。そうだな。俺達もはやてには借りがあるしな。恩は絶対に返すさっ!」
「あぁ――――って、ちょっ! やめろって!」
ヴィータの呟きに、隣に居た金髪の少年がヴィータの頭を撫でる。ヴィータはそれを否定してはいるが、どこか嬉しそうに笑っていた。そんな姿を1匹を除き皆微笑まそうに見ていたが、紫色の毛を持った狼――――ザフィーラが、何かを感じたのか、他の者達とは別の方向を見上げた。
「ん? どうした…?」
「いや…。…行くか…。もうあまり時間はない…」
銀髪の少年がそれに気づいたのか、ザフィーラへと呼びかけるが、当の本人はその言葉に対し首を振り、言葉を紡ぐ。
「あぁ――――」
シグナムがザフィーラの言葉に返すと同時に、胸元から剣の形のペンダントが付いたネックレスを取り出した。恐らく先程から首にかけていたのだろう。そのネックレスを持ちながら前に翳したかと思うと、その名を叫ぶ。
「――――行くぞ!! レヴァンティン!!」
『Ja(はい)』
シグナムの言葉に対して、無機質な声で返すレヴァンティン。その言葉には、無機質ながらも一点の曇りもなかった。次いで、シャマルとヴィータも自分のデバイス――――クラールヴィントとグラーフアイゼンを翳す、名を呼ぶ。
「導いて、クラールヴィント!!」
『Anfang(起動)』
「やるよ! グラーフアイゼン!!」
『Bewegung(発動)』
それぞれが、それぞれの言葉で主に対して返事を返す。すると次瞬には3人とも紫、黄緑、赤色の光に包まれ、騎士甲冑を纏っていた。
一方、銀髪と金髪の少年も自身デバイスであり相棒とも言える少女達と、言葉を交わす。
「行けるな! デュエル!!」
「当たり前ですよ! マスター!」
「んじゃ、行くぜ! バスター!!」
「了解!」
刹那、二人の少女は魔力光に身を包まれたかと思うと、主である少年達の体を包む。すると、その光が消えると同時に現れたのは灰色と紫を基調とした、シグナムと同じ様なバリアジャケットを纏った銀髪の少年と、薄茶色と黄緑を基調としたバリアジャケットを纏った金髪の少年が、それぞれ自身の得物である銃型のデバイスを持ちながら立っていた。
「よし。ならいくか…」
「はい。それじゃ、夜明け時までにまたここで」
「OK。わかってるって!」
ザフィーラがシャマルと言葉を交わすと、次いでシャマルは全員に指示を出す。それに二つ返事で金髪の少年は返すと、自分の2丁の銃型のデバイスを背中にあるウェポンラックへとかけた。
「ヴィータ、あまり熱くなるなよ…」
「わぁってるよっ」
『じゃ! また後で!!』
『うん!』
一通り話し終えると、6人はそれぞれ違う方向へと飛び立っていった。しかし、デュエルとバスターは飛び立った後も念話で少し喋っていたらしい。
これだから女という奴は…、銀髪の少年――――イザーク・ジュールは心の中でそう思っていた。まぁ、また後で厄介な説教を聞く羽目になるのだろう金髪の少年――――ディアッカの苦労は絶えないのだった…。
その頃、急にエイミィに呼び出しをくらったなのはとフェイト達を追い、ハラウオン家へと戻るキラとアスラン。
なにやら、大きな魔力反応が発見されたらしい。それも、まだこの世界に残っているというのだ。
「それで! その魔力反応の持ち主は見つかったんですか!?」
「うん。今映像に出すね!」
アスランが端末を操作しているエイミィに、息を整えながら話しかける。それに対し、エイミィ達はなのは達が戻ってきたのを確認すると、直ぐに画面に映像を映した。
しかし、そこに映っていたのは紛れも無く――――。
「イザーク…!?」
見覚えのある銀髪の少年の姿に驚愕するアスラン。だが、二人は途中でアークエンジェルの搭載機とストライクによって撃墜された筈。ならば、何故ここに…!? そんな思考が頭を過ぎった瞬間だった。
「行こう! アスラン!!」
「キラ…?」
突然アスランの手を掴み、部屋から出ようとするキラ。一瞬その行動に皆が困惑するが、二人のデバイス達もそれには賛成している。
確かに、仲は良くなくても昔から共に競い、共に戦いあった友だ。キラも、アスランの思いを悟ったのだろう。見ると、キラの瞳には強い意思が映り込んでいた。
「あぁ…!!」
「キラ君達だけじゃ危険だよ! それならわたしも行く!!」
「私もいくよ!! 二人はまだ魔法を使った事もない。覚えてるのはデバイスを発動させる事くらいだからね!」
二人の少女の思いもよらぬ言葉に、キラやアスランだけでなく、その部屋にいた全ての者が驚いた様な表情を見せるが、すぐにクロノが今起こっている事を整理する様に話に割り込む。
「待ってくれ。まだ戦えない君達でいっても無茶だ。それに、なのはとフェイト、君達もデバイスが修復中だという事を忘れてはいないかい?」
「あ…」
「そうだった…」
クロノの言葉に、ようやく自分達のデバイスが以前の戦闘で破壊された事を思い出すなのはとフェイト。そんな2人を見かねたのか、代わりにクロノが言葉を紡ぐ。
「はぁ…。しょうがないな…。なら、僕が2人の代わりにキラとアスランを連れて行こう。ここからなら、まだ他の世界にいくまでには間に合う」
「あぁ! 頼む!」
「ありがとう。クロノ君…!」
「君付けはやめてくれといっただろう…! まぁ、ともかく行こう。早くしないとあの2人に合えなくなる」
2人はクロノの言葉に対し頷くと同時に、先程帰ってくる途中に覚えたばかりのデバイスの発動方法を使って、その名を通りデバイスを発動させる。
すると、それぞれ青と真紅の魔力光が2人を包みこみ、次の瞬間には2人はストライクとイージスを思わせる様なバリアジャケットを纏っていた。
2人は、目を合わせて頷き合うと、クロノと共にマンションのベランダから飛び立っていった。最初は飛び方は教えていなかったのに、初心者ではない様なスピードでクロノについていくキラとアスランに対し、フェイト達は再度驚きの表情を浮かべていた。
理由も分からないまま互いに戦い合う事になるイザークとアスラン。それは、アスランにとって衝撃であった。だが、イザークとディアッカは、そんなアスランにも容赦なく刃を向ける。それははやてのため。仲間達のため。そして、死んでいったニコルのため。その時、キラは…!
次回、「決別の空」
絆の意味、撃ち示せ!バスター!!
ここで少し補足という形で、特殊なデバイスであるデュエルとバスターの事を…。
まず一つに、何故デュエルとバスターは少女の形をしているかという事についてですが、これにはこちらなりの設定がありまして、この2人(?)はモビルデバイス(ディアッカ命名)と呼ばれるデバイスでありまして、持ち主の強い思いに乗機であるMSがその思いに反応して、なのは達の世界に来る時に人の形になった。という、至極無理矢理な設定になっております。いや、無茶は百も承知なのですが、いかんせん、こうしたら話が面白くなるかな~とか思っちゃいまして…。
叩くんなら叩いちゃってください! 自分にはその罰を受ける使命があります。
あ、それとですね、何故ストライクとイージスは人間にならなかったかというとですね…。
それは、二人がこの二機にイザークとディアッカの様に強い思いは抱いていなかったからなのですよ。二人とも所詮は戦争のための兵器ぐらいにしか思ってなかったんです。
それに変わって、イザークとディアッカは初めて自分達がもった専用機ということもありまして、相応の思いを抱いていたわけです。
というか、デュエルとバスターはパイロットであるディアッカとイザークと一緒に、戦争を最後まで乗り切りますので、それで強い思いを抱いたのです。
あと、この小説はイザークとディアッカが主人公二人並みに目立つ作品ですので、ご了承ください。
ではでは。