魔法成長日記_04話後編

Last-modified: 2010-04-27 (火) 11:29:38

――管理局訓練場にて――
「それがデスティニーか?」
「えぇ、さっきは説明省きましたから。実際に見せますよ。」
『アスラン!さっきのお礼、きっちりとさせてもらうぜ!?』
『やれるものならな!!』
シンとシグナムは近距離で向かい合い、シグナムの右斜め後方にヴィータ、シンの後方のかなり離れたところにアスランがいる。
『じゃあみんな!はじめていいよ!!』
「いくぞ!!!」
なのはの開始宣言直後、シグナムが声をあげてレヴァンティンを構えシンとの間合いを一気に詰める。シンは後方へと退き、シグナムとの間合いを保ちつつビームライフルを射つ。
「ちっ・・・」
シグナムは、シンの牽制射撃により減速を余儀なくされる。
(ライフルすべてが急所を狙っている?・・・しかも回避したところにライフルが射たれているということは・・・避けさせられているのか?そしてこちらのミスを誘うのが目的?ふっ、ならばこの程度・・・)
「なめるな!!!」
シグナムは加速、回避不能のビームをレヴァンティンで切り裂きながら強引にシンに近づいていく。
「ちっ!!」
一方、アスランはヴィータに対し、攻勢にでていた。
「ジャスティス!!」
その言葉でアスランの右目にターゲットマーカーの映っているディスプレイが現れる。
「近づかせはしないさ・・・」
直後、アスランはライフルをヴィータに向けて連射する。
「ちっ!!めんどくせぇ!アイゼン!!」
それを掻い潜りながらヴィータはグラーフアイゼンに命令をだし、接近を図る。しかしアスランも後退しながら射っているため、なかなか距離が縮まらない。
「くっそ!なんなんだ!?勝つ気ねぇのかあいつ!!?」
ヴィータが愚痴るが、アスランはそんなものをよそに後退を続ける。しばらくするとシンから通信が入った。
『アスラン!!まだか!?』
『まだだ!』
(これも急がなきゃならないな・・・)
アスランはターゲットマーカーの移るディスプレイを切り替え、何か呟き始める。
「魔力出力、グリーン。敵反応予測、グリーン。銃口補正、グリーン。銃身冷却機能、グリーン・・・」
ディスプレイに集中していたアスランの弾幕が少し薄れる。ヴィータもアスランのディスプレイの異変を察知する。
「なにやりてぇのか知らねぇが!やらせるかよ!!!」
ヴィータは鉄球に魔力を纏わせてこちらに打ち出しながら、ヴィータ自身アスランのもとへと特攻する。
「くっ・・・重力補正、グリーン・・・フォルティス機能、グリーン・・・」
アスランはそれを避け、ディスプレイを見ながら呟き続ける。
「ちっ!シカトかよ!!アイゼン!!」
今度は鉄球を用いず、赤白い魔力弾を四個打ち出す。それは先程の鉄球よりは遅いスピードでアスランに近づいていく。
「スラスター出力固定・・・なっ!!?これは・・・追尾弾か!?」
アスランが避けると魔力弾は百八十度反転し、アスランを追い続ける。
「モードシングル!!射ち抜け!」
ビームで正確に魔力弾を破壊する。
「モードマルチ!!ちっ、もう少し!!」
『シン!!もう少し粘れ!!!』
『アスラン!!残りは?』
『十、九、八・・・』
「くっそ!」
シンは後退を止め、シグナムの足止めに専念する。
「この程度で止めれると思うな!」
「くっそ!もうちょい!!」
シグナムとシンの間合いは既に三メートルをきっていた。シンもそろそろ限界に近づいてくる。
『アスラン!!!』
『あと五、四、三、ニ、一、今!!!』

 

『了解!!!』
シンはさらに加速、シグナムとの間合いをあける。
「なっ!!?まだ速く・・・」
しかし、シグナムのその言葉はアスランの声に遮られる。
「ターゲットマルチロック!!!くらえ!!!!」
ジャスティスのフォルティスとビームライフルから計三本のビーム立て続けに発射され、シグナムとヴィータを襲う。
「しまっ!!」
「なに!!?」
完全に二人は不意を突かれる形となる。が、その程度でやられる二人ではない。アスランから射ち出される何発ものビームをかわし、防ぐ。
(なんとも避けづらい射撃を・・・ちっ・・・しかも、シン・アスカを見失ったか・・・)
「ファトゥム!」
アスランが叫ぶと、背中のファトゥムがシグナムの元へ飛ぶ。アスランがシグナムの唯一の退路へファトゥムを発射する。
「・・・この程度!!」
シグナムはそれを障壁で受け流し、一本のビームをレヴァンティンで切り裂き、残りをまた障壁で凌いだその瞬間。
「あんた、後ろがら空きだぜ?」
「来たか!!?」
シンがシグナムの斜め下からかけ上がり、シグナムの左腰から右肩にかけて両断しようとする。シグナムは声のした瞬間、前へと体を乗り出し、直撃を免れようとするが、完全には回避出来ずダメージをもらってしまう。
「シグナム!!?」
「たいしたことない!!!ちっ、油断したつもりはないんだがな・・・」
そう、シグナムもアスランが同時射撃をした際、加速して間合いをとっていたはずのシンが見えなくなっていたのは分かっていた。だからシンに警戒しながらアスランのビームを凌いでいた。しかし、アスランのファトゥムが一瞬、ほんの一瞬シグナムの注意をシンからそらした。その一瞬をシンは見逃さなかったのだ。よってシンの斬撃をくらう結果となった。しかし、シンの攻撃後もアスランは同時射撃を止めない。あれがあるかぎり、シンはまた隙を狙う。
「ヴィータ!防御ではダメだ!!距離を詰めろ!!」
「んなこたぁさっきからやってる!!!くそっ!鉄球だす隙すらねぇ・・・たった三本のくせに!!」

 

なのはたちはこの戦闘を食い入るように見つめていた。しばらくするとティアナが呟く。
「ヴィータ副隊長とシグナム副隊長、おされてますね・・・」
「そうだね、原因はやっぱりアスランくんだね・・・」
「えぇ、射撃コントロールが異常に良いです。たった三本で二人をおさえてる。」
「ティア、どうして副隊長たちはアスランさんを止めれないの?」
「だから、射撃のコントロールが良いのよ、異常なほどにね。狙いどころをちゃんと分かってる。だからこそ、三本でも十分に抑えられる。」
「どこを狙うの?」
「あんた少しは見てなさいよ・・・」
「とりあえずアスランくんは"横方向に回避させてる"んだよ。あと、射撃魔導師にとって前傾姿勢で突っ込んでくる敵はやりにくいの。勢いあるし、前傾姿勢だからなかなかヒットしないしね。だからアスランくんはヴィータちゃんにそれをさせないようにしてる。あれと背中のやつを同時に凌ぎきったシグナムさんは凄いよ。」
「じゃあ・・・」
「・・・でも、二人ともこの程度じゃ負けないよ♪」
何やら楽しそうななのはが理解出来ず、二人が首を傾げていた。

 

「ヴィータ!はやくしろ!」
その頃シグナムは前進を諦め、障壁をはってビームを凌ぎつつシンの相手をしていた。
(ちっ、じり貧だなこれでは・・・)
他の事に意識を割きながら戦えるほどシンは弱くなかった。先程からシグナムは防戦を強いられている。
「くそっ!なんで墜ちないんだよ!!!墜ちろぉぉぉおおぉぉおぉ!!!」
シンが叫びながら剣を振るう。シグナムはそのままつばぜり合いに持ち込み、ヴィータのアスラン攻略を待つ。しかし、シンが武装の中からなにか取り出すのが見えた瞬間、シグナムは叫んだ。
「レヴァンティン!!シュランゲフォルム!!!」
直後、シンのビームブーメランがシグナムを襲うが、シグナムのレヴァンティンの鞭がそれを弾き落とす。シグナムのデバイスが変わったことにシンは警戒し、一時距離をとる。
「ちっ、強いな。シン・アスカ!」
「あんたもな!よくそこまで耐えしのげるもんだぜ!」
「ふっ、この程度で負けるほど我らヴォルケンリッターは甘くはない!」
「あぁ!楽しみにしてるぜ!」

 

一方ヴィータは、
「アイゼン!」
ヴィータが叫ぶとグラーフアイゼンはカートリッジをロードし、右へと大きく回避する。
回避ざまに一発ビームをもらうがヴィータは気にせず鉄球を四つ召喚し、グラーフアイゼンで叩く。
「おらぁぁあああぁ!!」
鉄球は赤の魔力を帯び、かなりのスピードでアスランに迫る。
「ファトゥム!!」
普通なら回避不能の速度だったがファトゥムを鉄球に向かって飛ばし、ぶつけて時間を稼いで、これの回避に成功する。しかし、それにより一瞬だけ射撃がやむ。ヴィータとシグナムはその一瞬を見逃さない。
「レヴァンティン!!」
「アイゼン!!」
『『Load cartridge』』
「紫電・・・一閃!!!」
「ギガント・・・ハンマー!!!」
「ちっ!!」
「くっ・・・」
二人とも腕のシールドで攻撃をうける。
「重・・・い・・・くそ・・・」
窮地に陥ったのはアスラン。グラーフアイゼンの一撃が重く、アスランのシールドにヒビが入り始める。
「アイゼンに砕けねぇもんはねぇんだよ!!!これで!おわりだぁぁあああぁぁあぁぁあぁ!!!」
さらにグラーフアイゼンのカートリッジを二つロードし、一気にたたみかける。
「くそっ・・・・・・でも!!!こんなところで負けるわけには、いかないんだよ!!!」
――――パキーン――――
アスランの頭で何かが弾ける。アスランは一度目を瞑り、開ける。その瞳に光はない。視界がクリアーになり、異常なほどの冷静さ、状況判断能力を得、アスランの魔力が段違いに跳ね上がっていく。
戦闘データの収集をしていたシャーリーがいち早くその異変に気づく。
「ア、アスランくんの魔力が・・・跳ね上がってる・・?」
「え?どうしたのシャーリー?」
「アスランくんの魔力が上がってるんです。AAA、S、S+、まだ上がります!!!」
「えぇ!!?」
「でました!推定魔力S+からSS!!」
「それって・・・私と同等かそれ以上ってこと?」
「そうなりますね・・・」
「これはリミッター付きのヴィータちゃんじゃ無理かな・・?」

 

「シールド!バースト!!」
アスランのシールドが前方で弾け飛ぶ。シールドが粉々に砕け散り、その衝撃で巨大化したハンマーが上に仰け反る。ヴィータもハンマーにつられてすこしバランスを崩す。
「ふっ!!!」
次の瞬間、アスランはヴィータの目の前でラケルタサーベルを振りかぶっていた。
「なっ!!?」
ヴィータは反応しきれず、サーベルの一閃をくらう。体を引いたとはいえ、ダメージは残る。
「な、なんだ!!?」
ヴィータはアスランと対峙する。
「これが本気・・・ってことか?」
「さぁな・・・」
「上等!!」
ヴィータは再度グラーフアイゼンをたてに構え、アスランに突進する。
(飛行能力自体は負けてねぇ・・・負けてんのは、ここ一番の加速力だな・・・)
「はぁぁ!!!」
横一閃にグラーフアイゼンを振るうがその瞬間、既にアスランはヴィータの真後ろにいた。
「わかってんだよんなこと!!」
振るったグラーフアイゼンをそのまま後ろへ回す。
「なっ!!?」
アスランは驚くが、再度後ろへ回り込み、サーベルを縦に薙ぐ。
「ぐっっ・・・な・・・に・・・?」
「ワリィな、それも分かってた。」
しかし苦痛に呻いたのはアスラン。脇腹をみると、既に魔力を失った鉄球があった。
「ぐっ・・・あのときか・・・」
ヴィータが一度後方にグラーフアイゼンを回したあと、脇に鉄球を配置、アスランが二度目に後ろをとった瞬間に振ったグラーフアイゼンをさらに後方へ回し、鉄球を打ち出したのだ。その鉄球はサーベルを縦に薙ぐべく腕を上に振り上げていたアスランの脇腹に見事ヒットした。
「一本!ってなぁぁああぁ!!!」
カートリッジをロードし、グラーフアイゼンを横に振るう。
「これ以上もらうわけには!!!」
シールドも粉々に砕け、障壁も張れず、激痛ゆえ逃げることは不能、と読んでヴィータはグラーフアイゼンをありったけの力をこめて振るったが、それはアスランには届かなかった。
「障壁!!?てめぇ!嘘ついたな!!?」
冗談、そんな上等なものは張れないさ。」
「ぐぅぅ!!!・・・まさかお前・・・魔力をそのまま・・・」
「さぁ、どうかな!!」
グラーフアイゼンの赤の魔力とジャスティスの紅色の魔力が火花のようなものを散らす。
「くっそ!!!もうちょい!!!」
「まだだ!!まだ終わらんよ!!」
アスランがどこかで聞いたことのある名言をはきながらヴィータを競り合いを続ける。

 

シンとシグナムも依然として剣撃の応酬を続けていた。
「・・・このままじゃらちがあかねぇ・・・」
その愚痴とてにシンはつばぜり合いのおりに後方へ自ら吹き飛ぶ。
「よし、いくぜ!!」
手に持つ大剣を消し、新たにビールライフルを持つ。
「射撃戦に移るか・・・しかし・・・その間合いはやらん!!!」
シグナムがレヴァンティンとともに高速でシンの懐を狙う。
「ビームブーメラン!!!」
二本のブーメランを片手でシグナムに投げつける。
「この程度で!!」
シグナムはブーメランを弾き、さらにシンに詰め寄る。
「よし・・・」
シンが呟いた刹那、二本のブーメランがシグナムの後方から襲いかかる。
「ちっ!!!」
ブーメランの回避のため、やむなく左に旋回しようとした。その回避先にビームライフルが射たれる。レヴァンティンで切り裂くには間合いが近すぎたので右に切り返したその瞬間だった。
「もらった!!ケルベロス補正オールグリーン!!!墜ちろぉぉぉおおぉ!!!」
「なに!!?」
その回避をもよんでいたシンは腰についているケルベロスからビームを放つ。回避もままならずシグナムは障壁を張ってこれに耐える。
「くっっっ・・・これは・・・!!!?」
いつものシンたちの射つ単発のビームではなく、中心が赤でまわりが白い照射ビーム、いわばなのはが射つディバインバスターのようなものだった。よってシグナムの障壁とシンのビームの根比べになる。
「まだ墜ちねぇのかよ!!?くっそぉ!!いい加減・・・墜ちろぉぉぉおおぉぉぉおぉおぉ!!!」
――――パキーン――――
シンの頭で何かが弾ける。目を瞑り、開く。アスラン同様目から光が消える。残るのは燃えるような朱のみ。シンの魔力も膨れ上がっていく。シグナムもシャーリーも、シンの異変を敏感にキャッチする。
(くっ・・・いきなり重くなっただと・・?)
「うぅ!!うおらぁぁあああぁぁああぁぁあああぁ!!!これで!これでぇええぇ!!」
「シ、シンくんの魔力も跳ね上がっています!!!推定・・・S!!」
「す、すご・・・」
ティアナ、スバル、エリオ、キャロは、自分たちとの格の違いからか、先ほどから無言だった。
「さて、この二組の競り合い・・・勝った方が有利、なのかな~?」
「ですかね。四人ともかなりの魔力を消費しています。ここが正念場ですよ。」

 

――スカリエッティ本拠地にて――
「・・・では、協力するということでいいのだな?ムゥ・ラ・フラガ、キラ・ヤマト。」
「はい。」
「あぁ。」
ムゥとキラはあの後二人で話し合い、ムゥ、キラ、クルーゼ、ディアッカ、イザークの集まる部屋にて、彼らとの共闘を正式に了承した。そして、ちょうどキラとムゥが共闘を了承した直後スカリエッティが部屋に入ってくる。
「話はまとまったかクルーゼ?」
「えぇ、まとまりましたよ。彼らは私たちの新たな仲間です。」
クルーゼがそういうと、スカリエッティは淡々と続ける。
「そうか。では、早速で悪いんだがレリックの反応が出ている地域があってね。行ってくれるか?」
「もちろん。お任せください。」
クルーゼは口元を微妙に吊り上げながらそう答えた。
「うむ、用意が出来たら声をかけてくれたまえ。座標を教えるからね。そうそう、管理局には気を付けたまえよ?」
「はい。わかりました。」
「では私はこれで失礼するよ。自室で待っているから。」
そう言ってスカリエッティは愉快そうに部屋を出ていった。残されたのはコズミック・イラ組で、クルーゼ、ディアッカ、イザーク、ムゥ、キラ、という本来なら敵対だったはずのあり得ないような面々が揃っていた。そんななか、クルーゼが口を開く。
「そうだな・・・ディアッカとイザークはすでに一度レリック回収に行っている。・・・ムゥ・ラ・フラガにキラ・ヤマト、任せていいかね?」
「かまわないが、その代わりステラを連れていっていいか?初任務ってのは誰でも緊張するもんさ。ステラも目覚めたばっかりなんだ。リハビリ程度で連れてってもかまわないだろ?」
「・・・いいだろう。三人でいいのかね?」
「なめてもらっちゃ困るな。じゃあ俺はステラを呼んでくる。キラは先にあいつのとこに行っててくれ。」
「わかりました。」
(頼むぜシン・アスカ・・・お前にかかってんだ・・・)

 

ムゥにとってこれは賭けだった。キラとステラとともに行き、キラを利用してシンを呼ぶ。そしてシンにステラを任せる。構想はいたってシンプルだ。ムゥ自体、成功を確信していた。しかし、『約束を破り間接的にステラを殺したネオ』に『間接的にマユを殺し、直接的にステラを殺したキラ』である。しかもそこにステラが加われば、シンの心を掻き乱すには十分すぎる面子だが、ムゥはそれに気づかない。
キラとムゥは部屋の出て、ムゥはステラを呼びに行くためにキラと別れた。
途中、アウルとすれ違ったのでステラの居場所を訊いたが、やはり最初に彼らが眠っていた部屋だという。
「さて、ステラ~~!ステラ~~~」
「ネオ?ネオ!!」
二回目の呼び掛けに応答がある。見ると、ステラがこちらに走ってきていた。
「ネオ!どうしたの?」
念をこめて、小声でステラに囁く。
「シンに会いに行こう。ついてきてくれるか?」
「シン?・・・うん!!ステラ、行く!!」
「いい子だ。さぁ、行こう。キラが待ってる。」
ステラとムゥはキラのもとへと向かう。
「来たか。用意はいいかね三人とも?」
ステラとムゥが到着した後、スカリエッティが三人に確認をとる。
「もし、彼がまた襲ってくるなら・・・今度は墜とすよ・・・みんなを、守らなきゃ。いいね?ストライク、フリーダム。」
『Yes,sir』
『Alright my master』
「行くぜアカツキ。任務失敗は許されないからな?」
『Of course. Akatsuki set up』
「いくよフリーダム。いいね?」
『Freedom set up』
キラとムゥがバリアジャケットを装着したの見ると、スカリエッティも準備を始めた。
「では、健闘を祈る。いや、不戦勝を祈る、かな。」
笑いながらスカリエッティが転移魔法を展開する。しかし、思い出したようにこう付け加える。
「そうだ。初任務なのだろう?慣れていないと何かと大変だから、万が一管理局にみつかった時のためにこれを持っていくといい。」
スカリエッティは銀色の箱をムゥにわたす。
「これは・・・」
「今回のデータと比べてみたまえ。」
「・・・なるほどな。感謝するぜ。」
「なに、礼には及ばないよ。量産は出来ないから、出来れば持ち帰ってくれると助かるんだが。」
「ま、やるだけやるさ。行くぞキラ!!」
「はい!!キラ・ヤマト!フリーダム!!行きます!」
「ステラ!ちゃんとついてこいよ!!?ムゥ・ラ・フラガ!!発進する!!」
ステラ、ムゥ、キラの三人はレリック回収の任についた―――

 

――管理局医務室にて――
「・・て、・・・い。起きて、起きて、起きてください!」
「ん、んん?あれ?ここは?」
「医務室よ。どうしたのこんなところで?休憩?」
フェイトが気を失ってから十数分、シンたちが根比べを開始したころ、シャマルは医務室に戻った際気を失っていたフェイトを発見し、呼び掛けを続けていた。
(あれ・・・わたし確か・・・あぁ、そっか。シンくんと別れた後に倒れちゃったのか・・・情けないなぁ・・・)
「はぁ~」
自分の情けなさについため息が出てしまう。
「どうしたの?疲れでもでた?」
「いや、それは大丈夫。みんなは?」
「FWの人たちなら訓練所よ。さっきなのはちゃんから、シンくんとアスランくん、ヴィータちゃんにシグナムで模擬戦やる、って連絡がきたわ。」
「なら私も行かないと・・・部隊長としてみておかなきゃ・・・」
「大丈夫なの?無茶はダメよ?」
「このくらいは大丈夫。ちょっと行ってきます。」
そう言うとシャマルは呆れたように説得を諦める。
「じゃあ止めないわ。別に戦う訳じゃないんだし。」
「ありがとう。」
しかし、フェイトが医務室を出て訓練所へ向かっていた途中、何者かが猛スピードでフェイトとすれ違っていった。それは本来ならすれ違うはずのない、今は戦闘中のはずのシンだった。後ろにはアスランも見える。
「シン!!」
「シンくん!!?」
さらにアスランがシンを追いかけていく。フェイトは思わず振りかえるがシンがそれに答えるはずもなく、どんどん距離が離れていく。
「追わないと・・・バルディッシュ!」
『Yes,sir Set up』
バリアジャケットを身に纏い、さらに命ずる。
「ソニックムーヴ!」
『Sonic move』
結局フェイトはシンとアスランを追う、という選択肢をとる。
「シンくん!!アスランくん!!!どうしたの!!?シンくん!!アスランくん!!」

 

――数分前訓練所にて――
「ジャスティス・・・あとどのくらいもつ・・・?」
『A few minutes』
「ちっ・・・まずいな・・・」
アスランはさすがに危機感を感じ始める。そろそろ打開策を出さねばさすがにS.E.E.Dを覚醒させ魔力が上がったとはいえ、魔力を垂れ流しにしていては消耗が速い。
同じように根比べをしていたシグナムも危機感に煽られる。
「このままでは危険だな・・・飛竜一閃かハヤブサで切り裂ければいいが、これでは攻撃には移れんな・・・どうしたものか・・・」
そう言うシグナムの顔は笑っていた。
(先ほどの剣さばきといいこの重みのある砲撃といい・・・しかもまだ全力ではないだろう・・・面白い・・・)
どうやらシンの実力は戦闘マニアの心に火をつけるのに十分だったらしい。しかしアスランの側にはそんな余裕など無かった。
「ジャスティス・・・ファトゥムだせるか・・・?」
『It is impossible.You will be faced out』
「ちっ、万事休すか・・・」
「けっ、あんがいしぶてぇなアスラン!!よくもまぁそんなただの魔力を流すだけでアイゼンを・・・でも、この程度で根負けしてちゃあ鉄槌の騎士の名が廃るんだよ!!!」
「ぐぅっ!!!くっそ・・・」
ヴィータがグラーフアイゼンのカートリッジをロードすると、アスランが完全に押し負け始める。
しかし、シグナムとシンの根比べは一向に決着がついていなかった。
「くそぅ!!くそぅ!!くそぅ!!なんで墜ちない!?なんで!!?」
あせりを顕にするシンだったが、突然砲撃を中止する。シグナムはその隙にシンの懐まで飛ぶが、シンは微動だにしない。少し怪しいと考えたシグナムだったが、容赦なくシンに袈裟斬りをみまおうとする。しかし、シンへの袈裟斬りは空を斬った。いや、正確にはシンの残像を斬った。
「何!!?幻!?」
「この勝負はあんたの勝ちだ!!説明する時間はない!!」
そう言ったシンはすでに、訓練所の扉に向かって飛んでいっていた。ヴィータもシンの逃走に気付き、シグナムに声をかける。
「あぁ?シグナム!!どうしたんだよ!?」
「いや、詳しいことは分からん・・・何か不良でも起こしたのかもしれんな。しかし・・・どうしたのだ?」
(シン?・・・デスティニーの調整に異常は無かった・・・魔力量も尽きていない・・・なのに戦闘を途中放棄・・・まさか!!?)
疑問に思うアスランだったがすぐに原因は判明した。
「キラか!!?ちっ・・・シン!!!」
シンを一人にするのは得策でないと考えたアスランは、一瞬だけ魔力を最大限に解放、いわゆる威嚇をする。シグナムとシンに気をとられていたヴィータは一瞬よろめく。
「ぬぉぁ!?アスラン!てめぇ!」
「すまない!この勝負、お前の勝ちだ!!」
アスランもすぐにシンを追いかける。
「おい!!!アスラン!!」
ヴィータが声をかけるがアスランは振り向きもしない。
「ちょ、ねぇ?二人とも!!?」
なのはが声をかけるが、それも届かない。訓練所には呆気にとられるFWとシャーリーが残った。
「追うよ!シャーリー!アスランくんたちどこにいるかわかる!!?」
「はい!!・・・え?・・・だ、ダメです!!!デスティニー、ジャスティスともにジャミングが酷く、場所が特定出来ません!まだ局内にはいると思いますが詳しい場所は・・・」
「えぇ~!!?・・・もう!また命令違反の脱走して!!!
・・・はぁ~。はやてちゃんに連絡しよっかな・・・」
シンたちの勝手な行動にため息をつくなのはだった―――

 

二人はフェイトの呼び掛けにまったく答えない。いや、フェイトに気づいていないようにも思えた。フェイトがソニックムーヴを使ってもなお、あまり彼らの差は縮まらない。しかし、シンたちは管理局を出て少ししたところで止まり、魔法陣を展開しだした。
「デスティニー!!座標わかるか!!?」
『Just a minute』
「ちっ!!自分で転移魔法が使えれば・・・」
シンが苛立っていると、フェイトが追い付いた。
「二人とも!!どうしたの!!?」
「あんたは!!なんでいるんだよ!!?」
「医務室を出たらシンくんたちが凄いスピードでどっか行っちゃうから・・・って、どこ行くつもり!?」
「あんたには関係ないだろ!!」
「あるよ。もう無関係とは言わせない。約束されたんだもの。あなたを助けて、って。」
(マユが・・・?)
一瞬、シンが顔をしかめる。
「・・・すきにしろ・・・」
「一応訊くけど、戻るつもりはないの?」
「ない!!」
「なんで?」

 

シンは顔を曇らせて呟く。
「・・・フリーダムだ・・・」
「え?」
「フリーダムが来たんだよ!!」
「なっ!!?」
フェイトはそれを聞き、驚愕しつつも説得を諦める。一方シンも、フェイトの質問に素直に答え、かつフェイトを追い払わなかったのには考えがあった。
(あんたの決意、見せてみろよ・・・あんたなりの俺の過去への答えを・・・)
『Coordinates were specified』
「行くぞ・・・アスランはいいのか?」
「・・・あぁ、いいさ。」
「今度はごめんだぜ?あの時みたいに私情を持ち込んで殴られんのはコリゴリだ。」
「・・・あぁ。だが、敵対するようであっても、最後まで説得をすすめる。管理局には渡さないがな・・・」
・・・しないつもりだ・・・」
(あの時・・・)
フェイトは一瞬首をかしげるが、その謎はすぐ氷解した。
(あぁ、フリーダムを倒した後の・・・レイくん・・・だっけ?)
シンがフリーダムを撃墜してミネルバに戻ったとき、シンとアスランが一悶着あったのを思い出す。そこでフェイト、はシンの過去を見た時に最も強く感じた疑問をぶつける。
「ね、ねぇ。"コーディネイター"って、何?それにあのレイって子・・・」
フェイトの言葉に二人とも固まる。シンは諦めの顔だったがアスランは驚愕している。
「なぜ・・・それを?」
「いや・・・その・・・」
フェイトは答えられず、シンを見る。シンは俯いて、観念した、とばかりに言った。
「・・・それはあとででいいか?それまでは絶対に他人には話さないでくれ。」
「・・・うん。」

 

「助かる。シン・アスカ!!デスティニー!!行きます!!」
「・・・シン、後で話を聞かせろよ?アスラン・ザラ!!ジャスティス!出るぞ!!」
「え?あ、フェイト・T・ハラオウン!!バルディッシュアサルト!!出撃します!!」
そうすると、三人の姿は消える。

 

その次の瞬間、機動六課の舎内にアラートが鳴り響いた。なのはたち機動六課にとってはファーストアラートとなる。
「どうしたの!!?」
はやてが通信でそれに答える。
『なのはちゃん!近くでレリック反応が出たんや!それで、その近くに魔導師と思われるのが三人転送されて来たんよ。管理局のデータベースに一致する魔力源は無いからアンノウンになるわけやけど・・・』
「敵なの!?」
『敵かどうかはまではまだ分からへん・・・』
それを聞いたなのはの対応は速かった。
「シャーリー!どのルートが一番速いかシュミレーションして!FWは全員ブリーフィングルームに集合!出撃の準備して!フェイトちゃんは!!?誰か知らない!?」
「分からん・・・通信も繋がらないようだな・・・」
シグナムがそう答えると、キーボードを叩いていたシャーリーが言った。
「待ってください・・・結果出ました。ここからならヘリが速いです!」
「ヴァイスくんに出動要請!!それとレリック、アンノウンに関する詳しいデータ集めて!皆!作戦会議すぐ終わらせて行くよ!!」
「「「「はい!!」」」」
ブリーフィングルームへと集合し、シャーリーのデータ収集とヴァイスの出動準備を待ちながら戦闘の連携を確認する。しばらくすると、はやてがまた通信をいれた。
『アンノウン三体の中のニ体の推定魔力は両方ともオーバーSや・・・残りの一人は魔力反応はあるもののデバイスを起動させてへんから分からへんかった。』
「オーバーS・・・皆!相手はかなりの強敵で少数精鋭。だったら単独行動は絶対禁止。戦闘はなるべく避けつつ最後まで呼び掛けを続けるよ。もし戦うとしたらキャロはさがってツーマンセルで三人に立ち向かうよ。初任務にしてはちょっと辛いけど、いいね?」
「「「「はい!!」」」」
「じゃあ行くよ!!」
しかし、データをみていたシャーリーが待ったをかけた。
「ま、待ってください!新たに魔力反応・・・一・・・二?三?ダメです!!二つはジャミングが強くて分かりません!!」

 

それもアンノウンの味方?」
「分かりません・・・唯一分かった魔力反応を管理局のデータベースと照らし合わしてますが・・・出ました!!これは・・・」
しかし、再度シャーリーは絶句する。
「どうしたの!!?シャーリー!?」
「この魔力反応は・・・フェイト執務官です!!残る二つは・・・ジャミングの形式からすると・・・シン・アスカ、アスラン・ザラの二名かと思われますが、断定は出来ません。」
「フェイトちゃん!!?シンくんにアスランくんも!!?じゃあさっきの二人はそれを感知して・・・?」
「わかりません。彼らが感知出来て我々にできないというのは・・・しかも、重ね重ね言いますが、あくまで憶測に過ぎません。あの二人のデバイスは特殊なのでジャミングがミッドのものとは少し違うんです。もしかしたら別人かも・・・」
『でももしあの三人やったら・・・シンくんにアスランくん・・・二度目は無いって言うたのにな・・・でもなんで先回り出来たんや?』
「詳しいことは分かりません。とりあえず、合流した方が良いと思われます。」
「そうだね・・・じゃあ行くよみんな!!!フェイトちゃんと合流!そこから!
「「「「はい!」」」」」
FWメンバーは屋上へと走っていく―――

 

そのころ、キラたちはすでにレリックを発見していた。
「これがレリック?」
「だな。もらったデータと一致してる。けっこう簡単にいくもんだな。」
「捕獲して帰還しましょう。長居は危険です。」
キラが当たり前の提案をするが、ムゥはそれに消極的だった。
「そうなんだが、俺にはもう一つ仕事があってな・・・そっちを片付けてから帰るさ。もうむこうも来てるみたいだしな。」
ムゥの言葉に、キラは当然のように疑問を抱く。
「なにがです?」
「デスティニーだよ。ステラ!行くぞ!!キラはそれもって先帰っててくれ!」
ステラは無言で頷くが、キラは驚愕する。
「デスティニー!!?気づかれたんですか!?」
「お前の魔力に反応するんだろ?フリーダムじゃなくてストライクにするべきだったかもな・・・俺も似たようなことがあったさ。でも大丈夫だ。あいつとは戦いやしない。」
「いえ、彼は危険です。僕も行きます。」
「それはどうすんだよ?」
ムゥがレリックを指差す。するとキラは慌てて考えこんでしまう。
「・・・なんとかします。」
「ったくお前も時々無茶苦茶だよなぁ・・・まぁ大丈夫さ。なんたって俺は"不可能を可能にする男"だからな。お前が来たいって言うならお前のお守りもしてやるよ。」
「ありがとうございます。僕も、出来るなら彼と話がしたい・・・」
「そか、じゃあ行くぜ?」
「はい。」
三人はシンのもとへと向かった―――

 

「くそ!!どこだよフリーダム!!?」
「すでに帰還したか?シン、気づかれたんじゃないのか?」
「いや、いる・・・いるんだ・・・でもどこに?」
「何で分かるんだ?」
「向こうの世界では感じなかったんだけど、こっちだと感じるんだよ。何て言うか・・・こう・・・コーディネイターの感?」
シンがどこかできいたことのあるフレーズを言うが、アスランにわかるはずもなく―――
「つまりよくわからない、と?」
「まぁ、そうだけどさ・・・」
シンとアスランが言い合っていると、フェイトが何かを感じとる。
「魔力反応?二人とも!なにか来るよ!!!」
「まさか!!?」
しばらくすると、目の前に三人が転移してくる。シンとフェイトはそれを見て驚愕、いや、愕然、なんとも形容し難い表情をする。アスランでさえ驚いていた。
「フリーダム!!!・・・って、え?」
キラのとなりには、金髪の人間が二人。そのうち一人は、ピンク色の地球軍の軍服を着ていて、両肩の部分を切って肩を顕にしている少女だった。

 

「ス・・・・・・テ・・・ラ?え??」
「シン!!」
落ちないようにムゥにつかまっていたステラはシンの姿を認めると、シンのもとへとジャンプした。シンはなんとかそれをキャッチする。
「ステラ・・・なのか?」
「うん!!!シン!!!会えた!ありがとうネオ!!」
「あぁ、良かったなステラ。」
ムゥも思わず微笑んだが、シンとフェイトはさらに驚く。
「ネオ?まさかあんた!!!?」
「よう、インパルスの、いやデスティニーのパイロットくん。」
「これはどういうことだ!!!なんでステラが生きてんだよ!!?ステラに何をした!!?しかもなんであんたがステラの側にいるんだフリーダム!!あんたがどの面さげてステラと一緒にいる!!!?」
「おいおい質問攻めかよ・・・まぁその気持ちもわからなくはないけどよ・・・」
シンはもはや泣き出していた。嬉し泣きかムゥに対しての怒りの涙かはわからない。しかし、当のキラとムゥはお互い返答に困っていた。ムゥは『どう説明すればいいかわからない』から。キラは『なぜ自分がこのステラという少女の側にいることで怒られているのかわからない』から。
「すまないが、俺もいきさつはよくわからないんだ。だが、これは断言できる。このステラは本物だ。そして、シン・アスカ、お前に預けに来た。」
「はぁ!!?何言ってんだよあんた!!?」
「俺にもよくわからねぇよ。でもな、ステラは今の俺たちと一緒にいちゃいけないんだ。そしたらまた利用される。あの時みたいに。それだけは分かるんだよ・・・」
「利用した本人が何言ってんだよ!!」
「・・・それは・・・でも!俺は・・・違ったんだ!俺はネオだけどネオじゃねぇんだ!!!」
「はぁ!!?あんた、なんなんだ!!?」
「ムゥさんは第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の時僕ら、アークエンジェルと一緒に戦っている最中に敵艦の攻撃を受けて機体が大破し、消息を絶ちました。しかし、奇跡的に生き残っていたようで、何者かによって回収され『ネオ・ロアノーク』としての記憶を植え付けられ、地球軍に入って戦闘をさせられていたんです。でも、ベルリンであの時撃墜されて、僕たちがアークエンジェルに収容したんです。そして、アークエンジェルのデータベースにあったムゥ・ラ・フラガとその時のネオ・ロアノークはデータが完全に一致したんです。そしてしばらくした後、彼は記憶を取り戻した・・・今の彼は君たちの知るネオさんであり、そうでない人物です。」
場の混乱を防ぐべく、キラはとりあえずムゥの素性をあかすことを選んだ。
「はぁ!!?誰が信じるかよ!そんなこと!!」
「いや、キラの言っていることは本当だ。」
「な!!?アスラン!?」
「ヤキンではともに戦っていたし、ネオだったころの彼とも会っている。記憶が戻ったのも知っている。彼が記憶を取り戻したのは、俺が脱走してアークエンジェルに乗った後だからな。彼も俺が乗った時は"ネオ"として乗っていた。」
"脱走"という単語に反応するシンだったが、今はそれにかまう暇はなかった。
「・・・んで、自分の悪行の償いに、ステラを俺に押し付けに来たのかよ?」
「あぁ、記憶がすり替えられたとはいえ、お前にそれは関係ないだろうさ。償いきれればどれほどマシだろうな?償えるとは思ってない。でも、まだ命があるのなら、最善の方法を選ぶべきだろ?お前がわざわざ敵である俺ににステラを返しに来たようにな。」
「・・・」
「約束してくれ。ステラを戦いのない、平和で温かい世界に返すって・・・」
シンの表情は渋い。シンは苦渋の選択を迫られた。ここでステラを引き取れば、管理局にバレないようにするのは難しい。管理局にエクステンデッドのことがバレればステラに"平和な世界"は無い。しかし、拒否すればステラはまた誰かに利用される兵器になると言う。
「・・・当たり前だ・・・でも・・・」
シンには一つ懸念事項があった。
「ステラは・・・うまく言えないけど・・・普通じゃ生きれないんだろ?」
「あぁ、それに関しては問題ないらしいぜ?ステラの体に魔力結晶をいくつか組み込んで、バランスを安定させてるらしい。」
「信じていいのか?」

 

「あぁ。信じてくれ。ステラを・・・頼む。」
「分かった・・・」
「ありがとよ。」
「ムゥさん?いいんですか?」
「あぁ、これでいいんだ。ステラは振り回しちゃいけない。もう、あんな理不尽な死に方はさせたくない。」
「あんな理不尽な?」
キラが聞き返す。しかし、それがいけなかった。シンが怒りながらキラに叫ぶ。
「あんたが・・・あんたが殺したんだろうが!!フリーダム!!」
「え?」
「もう戦闘意志も無くて、ただ錯乱していただけのステラに止めをさしたのはあんただ!!!あの時あんたさえいなければ!!ステラは投降していたのに!!?あんたが戦場を引っ掻き回して無駄な犠牲をつくったんだ!!!」
「なっ・・・」
アスランに言われたこととまったく同じだった。彼がザフトにいたころ、キラとカガリに同じことを言った。今のお前たちは戦場をむやみに掻き乱しているだけだ、それよりもオーブへ戻れ、と。キラは今さらになってその言葉の意味を痛感する。自分はまた、意味もなく憎しみの連鎖を広げていたことを実感した。
「シン・・・?」
ステラも不安げにシンを見上げる。
「シン!もうやめろ!!今は彼女の安全確保が先だろう!」
「ちっ・・・あぁ、そうだな。行こう、ステラ。」
しかし、それは叶わなかった。
「それはダメだよシンくん。彼女は彼らとともにいた重要参考人。訊かなきゃいけないこともたくさんある。」
その声と共に、シンとステラの腕と足にバインドがかけられた。なのはが彼らの行く手を塞ぐ。
「な!!?あんた!」
「あんたじゃないよ、高町なのは。その子を渡して?そして、あなたたちは誰?何の目的でレリックを?」
「レリック?あぁ、これか?」
ムゥは銀色のアタッシュケースのようなものを見せる。
「そう、あなたたちはなぜレリックをあつめているの?いままで私たちが回収出来なかったレリックを回収したのもあなたたち?」
「と、その前にあんたは?」
「私?私は高町なのは。あなたは?」
なのはは階級等をとばして簡潔に述べる。
「あぁ、あなたがあの・・・」
言いながらムゥは、バルトフェルドから送られた戦闘データを思い返す。
『キラ、あいつはまずい。さっさと退くぞ。』
『えぇ、そうですね。でもあの子は・・・』
『ステラなら心配ないさ。・・・ありがとな。止めないでくれて。』
『いえ、それがムゥさんの決めたことなら、止めませんよ。僕もむこうじゃみんなにわがままきいてもらいましたから。それよりも、脱出法を考えましょう。僕たちはもう包囲されてるみたいです・・・』
『いや、上手くやるさ。どうしても無理なら・・・そうだな・・・相手は俺らのことを知らないはずだ。ならフリーダムのマルチロックとアカツキのドラグーンとライフルあわせれば一瞬でも隙はできるさ。その瞬間に逃げる。』
『分かりました。逃げる時は僕が後ろに回ります。そのほうが追い撃ちに対処しやすい。』
『あぁ、わかった。準備出来たら言ってくれ。』
「ん、俺か?俺はネオだ。ネオ・ロアノーク。んで、こいつはファイ・フローレアだ。よろしく。」
ムゥはあえて偽名で名乗る。こちらの世界に自分たちのデータは無いと思っていたが、念のためだ。
(でも、まさか管理局に見つかるとはな・・・面倒だな・・・ん?待てよ・・・管理局?)
まさかと思いながらムゥはシンたちに問う。
「アスラン、シン・アスカ。お前ら管理局か?」
「あぁ。時空管理局機動六課所属アスラン・ザラだ。」
ムゥの顔が青ざめる。
(くそっ・・・なんでよりによって管理局に!!!・・・しかも、あいつらがいるなら俺たちの情報も結局筒抜けかよ・・・)
焦りながらムゥがシンに叫ぶ。
「おいシン・アスカ!!お前まさかステラを・・・」
しかし、シンはそれを遮って叫ぶ。
「大丈夫だ!それはさせない!!俺が守る!!!命に代えてもな!!!」
そのやりとりをみたなのはは、側にいたアスランに問う。
「アスランくん、彼らと知り合い?」

 

まぁ、そうです。」
「じゃあ、彼女はなに?」
追及の矢はアスランに向けられた。アスランもどう答えればよいのか悩む。
「・・・捕虜です。今までずっと彼らに捕らえられていたのですが、今回は奪還出来たようです。」
「捕虜のやりとりには聞こえないけど?」
「・・・それは・・・」
しかし、窮地に陥るアスランに助け船をだした人物がいた。フェイトだ。
「その人はシンくんの大切な人なの。なのは、シンくんと彼女のバインドを解いて。彼女は私たちに危害は加えないよ。」
「フェイトちゃん?」
「バインドを解いて、なのは。」
「・・・それは出来ないよ。彼らは重要参考人だもん。みすみす見逃すの?」
「なのはは、他人の大切な人を奪ってまで任務に忠実なの?」
「どういうこと?」
「いいから解いて・・・なのはがバインドを解かないなら、いくらなのはでも、力ずくでもバインドを解いてもらうよ。バルディッシュ!!!」
『Yes,sir』
「ちょ、フェイトちゃん?どうしたの!!?」
なのはもさすがにフェイトの行動に焦る。しかしフェイトは揺るがない。フェイトもステラの身を案じていた。
詳しいことは分からなかったが、普通の人間ではないらしい、ということは分かっていた。だから管理局に取り調べをうけさせるわけにはいかなかった。
そんなことをしたら、シンは大切な人をまた失うことになる。
「バインドを解いて。出来ればなのはとは戦いたくない。討ちたくない、討たせないで。」
(あ、僕の台詞・・・)
キラは心中そう思ったりもしたが、すぐに頭を切り替える。
「なのは!!!」
「わ、分かったよ。その代わり、あとでじっくりお話聞かせてもらうからね?」
「うん。ありがとうなのは。行くよ!シンくん!!彼女を安全なところまで!!」
「あぁ!サンキューな!!」
シンはステラを抱えて離脱する。アスランとフェイトもそれを追う。
「フェイトちゃん・・・」
あんなフェイトを見たのは久しぶりだった。PT事件以後、なのはに向かって本気で戦おうとしたことなど無かった。なのに今さらになって本気でバルディッシュを自分にむけるなど、思いもしなかった。しかも、今のなのはではフェイトを理解出来ない。しかし、それでもなのははフェイトを信じシンたちのバインドを解いた――フェイトにもフェイトなりの考えがあるのだ、と自分に言い聞かせながら――
「さて、喧嘩が終わったなら俺たちも帰っていいか?」
フェイトの心配をする暇の無く、目の前のムゥがなのはに言った。
「その前に質問に答えて?なんでレリックを集めるの?」
「これね・・・う~ん、そうだな。とりあえず必要みたいなんでな。必須じゃないっぽいんだけどな。あったほうがいい、ってやつ?」
「みたい?あなたたちがやってるんじゃないの?」
(さて・・・そろそろこいつの出番かな?あとは俺の演技力といったところか・・・)
ムゥが銀色のケースを見ながら言う。
「まぁ、必要、っちゃあそうらしいなんだが、そこまでこだわんなくてもいいらしくてな。そうだ、これ返したら解放してくれるか?」
「駄目だと言ったら?それに、その口調・・・あなたたちは操られている?」
「そりゃあ、やむ終えないよな?あぁ、操られちゃいないぜ。俺たちは正気だし、流されるままにこれをやってるわけじゃない。」
そう言ってムゥはビームライフルを翳す。
「まぁ、操られてたら分かんないよね、そんなこと。」
「まぁな。」
(・・・さて・・・どうでる?)
ムゥはなのはの出方を慎重に探る。なのはも慎重に考える。
(彼らを放っておくのは危険だけど・・・はやてちゃんによれば二人ともオーバーS。シンくんとアスランくん、フェイトちゃんもいないし、ヴィータちゃんとシグナムさんもさっき戦ったばっかだし、オーバーSとの連戦はキツい・・・スバルたちは・・・まだ早いよねやっぱり・・・でも、レリック渡してくれるならここは退いて対策をたててからでも・・・今のままだと負けてさらにレリックを奪われるかもしれないし・・・でもみすみす見逃すのは・・・)
しばらくの黙考のあと、なのはが口を開く。
「わかった。要らないならレリックを渡して。そしたら解放するよ。」
「話のわかるやつで助かるぜ。ほらよ。帰らせてくれよ。この包囲網を解いてくれ。」
ムゥはなのはに向かって銀色のアタッシュケースを投げる。
「分かった。みんな!!退くよ!」
キラとムゥを包囲していたヴィータたちは包囲を解いてなのはのもとへ飛翔する。
「ありがとな。帰るぞファイ。」
「あ、はい。」

 

ムゥとキラは転移魔法で姿を消したその直後、なのはがシャーリーに通信を入れる。
「シャーリー、二人の追跡出来る?」
『やってます!!ですが、向こうも分かっているようでいろいろな場所を転々としています!こちらがロストするのも時間の問題かもしれません・・・』
「てことは、素直に退いてくれたわけじゃないのね・・・フェイトちゃんたちは?」
『すみません。そちらも分からないんです。通信で呼び掛けてはいますが、応答する気配も無く・・・デバイスも解除してるみたいで魔力反応もありません。』
「そっか・・・苦い初出動になっちゃったね。」
申し訳なさそうな顔をするなのはだが、ティアナがすぐにフォローする。
「いえ、それよりも早く戻って訓練をしましょう。あれが敵だと分かったのなら、勝つためにさらに努力するのが先決です。」
「ありがとうティアナ。そうだね。戻ってみんなで訓練しよっか?」
「「「「はい!」」」」
「じゃあシャーリー、帰還するね。」
『はい。わかりました。はやて隊長にも伝えておきます。』
こうしてシン、アスラン、フェイトを除くメンバーは機動六課における初任務を終えた―――

 

一方シンたちは、すでになのはたちから離れて移動をやめ、シンはステラと再会を果たす。
「ひっく・・・ステ・・・ラ・・・ステラ・・ひっく・ステラァ・・・」
シンはステラを抱きながら泣く。
「シン、泣いてる、どうして?」
「よかった・・・よかったよ本当に・・・生きてたんだね?」
「うん。助けてくれた、みんなが。アウルもスティングもネオも、みんな、一緒。」
「みんな?」
その表現に少し違和感を覚えたが、それを気にする余裕は無かった。
「ネオ、シンに会わせてくれる、って、言ったの。」
「あぁ。やっと会えたねステラ。ごめんよ、守れなくて・・・」
「シン、ステラ、守る?」
「あぁ、今度こそ絶対に守りとおしてみせるよ。絶対に・・・」
「よかった。」
そう言うとステラはゆっくりと目を閉じようとする。
「ステラ?」
「ステラ、眠い。」
「そうか、今はゆっくりお休み。ステラ。」
「シン・・・」
すると、ステラはシンの腕のなかで眠りについた。同時にアスランがシンに言った。
「どうするんだシン?このまま管理局を抜けでもするか?」
「それしかないなら、そうするさ。」
そう覚悟を決めようとするシンだったが、フェイトがそれを止める。
「一度六課に戻ろうシンくん。」
「な・・・ダメだ!高町に渡しちゃいけないんだ!!あんたも見たんならわかるだろ!それとも、あんたはあくまであいつの味方か!?」
「そんなつもりは無いよ。ステラさんのことも知ってる。だからこそ、一度戻ろう。全部話してもう一度、一からやり直そう。」

 

「なにを・・・言ってるんだ?」
「私の、私なりの答えだよ。抱え込んでも、前には進めないよ。今なら、シンくんがあのフリーダム、っていうのに勝てなかったのもわかる気がする。」
唐突に"フリーダム"という単語が出てきて、シンも混乱する。
「・・・どういうことだよ?」
「シンくんは守るために力を持った。アスランくんがシンくんに言った話を聞く限り、あのフリーダムの子もそう。でも、シンくんは何がしたかったの?」
「俺は守りたかったんだ!!守るために戦ってきた!!そのための力だった!」
「守りたかった。最初は・・・そうだったかもしれない。」
「え?」
「確かに、最初家族が亡くなった後、シンくんは自分に力が無いせいで大切な人が死ぬのは嫌だ、って思って軍に入ったかもしれない。アカデミーで無茶するのもわかるよ。でもね、ステラさんを失ってからは違った。シンくんはあの時から縛られ始めた。いや、家族を亡くしてから縛られ始めたのかな。」
「え?」
「シンくんは、あの時から周りが見えなくなってしまった。フリーダムを仇としか見なくなったのもいい例だよね。」
「・・・」
シンが黙りっぱなしなのでフェイトはアプローチを変えた。
「シンくんはさ、なんでアスランくんはミネルバを抜けてアークエンジェルに行ったかわかる?」
「え?」
シンは先ほどからフェイトの話についていけていない。
「訊いてみたことはないの?どうして抜けたんだ、って。」
「あったけど・・・結局、分からなかった。」
「それは、シンくんが縛られてるからだよ。」
「縛られるって、何にだよ?」
「それは私よりシンくんの方がわかるんじゃない?レイくんはシンくんに言ったね、"お前は優しすぎるんだ。それは弱さだ。それでは何も守れない"って。」
「あぁ・・・」
「シンくんは"守れなかったもの"に縛られ続けてる。違うかな?シンくんは優しいから、守れなかったものをいつまでも気にかけてしまう。それ自体は悪いことじゃないよ?でもね、シンくんの場合それが怒りや憎しみに変わってしまった。」
「・・・」
「家族の死に縛られてオーブを恨み、ステラさんの死に縛られてフリーダムを恨んだ。その頃シンくんは考えたことある?フリーダムが、アスランくんが何をしたかったのか。」
「ない・・・なんで、とは思ったけど・・・考えても、こんがらがってワケわかんなくなるから・・・」
「そこで考えるのを止めちゃダメだったんだよ。シンくんは考えるのを止めて、議長に、レイくんにすがってしまった。明確な自分の目的もないままに戦いに行ったね。ただ怒りと疑問、憎しみを持ってフリーダムやアスランくんと戦った。だからオーブでアスランくんの問いに答えられなかった。自分が何をしたいのか、何を欲したのか分からなかったから。そんな霧だらけの中で闇雲に剣を振るっても、フリーダムには勝てないよ。アスランくんも、自分を見直して、何を欲したのか考えて、自分に出来ることを考えたんだと思う。その結果がアークエンジェルだったんだろうけど。でも、それまで行動が実を結ばなかったこともあったと思うよ。違う?」
「あぁ、その通りだ。結局、俺一人では何も出来なかった・・・」
「アスランくんは強いね。自分を冷静に見つめ返すなんてなかなかできることじゃないよ。」横を見ながらアスランが呟く。
「俺はそんなんじゃないさ。俺も、そのことをキラ、いやフリーダムに気づかされたんだよ。」
フェイトはシンに向き直り、さらに続ける。
「シンくんは過去に囚われ続けている、今も。力の使い方を間違えちゃだめ。憎しみなんて、何も生まない。殺されたからって、殺してもいいの?そのへんのことは私より、シンくんやアスランくんの方がよく分かってると思うんだけどな。」
「・・・俺は・・・ただ・・・」
シンはそれきり黙ってしまう。
「・・・でも分かるよ。ただ守りたかった、でも守れなかった。行き場のないその気持ちが辛いのは知ってる。それを振り切るのがどんなに難しいかも知ってる。でもねシンくん、その時に"自分がやるべきこと"を見直せる人は・・・強いよ。多分それがフリーダムとシンくんの違いじゃないかな?」
フェイトはそこで一度切って、続ける。
「私にもね、昔守りたいものがあったんだ。その時にこの力で戦ったの。まぁ、今も守りたいものはあるにはあるけど。」

 

「え?」
フェイトは母のプレシアやアリシアを思い返しながら話し出す。
「でもね、守れなかった。なぜかはもう分かってるし、相手を恨もうとも思わない。力が無かったわけじゃない、気持ちが無かったわけじゃないし、明確な望みもあった。私に足りなかったのは・・・仲間なんだ。」
「仲間?」
シンはレイやルナマリア、ミネルバのクルーを思い出す。
「そう。仲間。自分の背中を預けられるような、自分の全てを受け止めてくれるような親友。強い絆で結ばれて、どんな時も一緒に悩んで、一緒に戦ってくれて、時にはおもいっきり叱ってくれるような、そんな人。そのころの私にはいなかった。全部"大丈夫だ"って言って一人で抱え込んでた。自分の身を心配して、私を助けるために裏切りまでしてくれた子もいた。なのに私は"大丈夫だよ"って言って一方的に突っぱねてた。結局、負けたよ。守りたい人も守れなかった。」
「・・・」
「でもね、私はその失なったもの以上にもっと大切なものを得た。それが親友、高町なのは。」
「え?」
しかし、シンの驚きなど気にせずフェイトは続ける。
「どんなに力があってもね、守れないものはあるの。それだけは仕方のないこと。全てを守れるなんてヒーローはこの世に存在しない。アスランくんはシンくんに言ったね、"戦争はヒーローごっこじゃないんだぞ"って。私もそう思うよ。でも全部は守れないからって諦める?それも違う。独りで守ろうとするから守れない。さっきアスランくんも言ったでしょ?一人じゃ、出来ないことだらけ。でもね、みんなで守るの。みんなの力で、みんなの大切な人たちを守る。一人より二人、二人より三人、って絆は結ばれていく。その絆の強さは、規律だけで統制された軍なんかよりもずっと強いもの。強い絆が有ったから、アークエンジェルは負けなかったんだと思うよ。物量も、人数も軍より全然少ないあの船のみんなが、だれよりも強い絆で結ばれていたから、負けないんだよ。」
「絆?」
「うん。シンくんだってそうじゃない。フリーダムを倒す時、シンくんとレイくんはお互いに悩みあって、考えあって作戦を練った。あの時シンくんが一人で抱え込んで考えていただけなら、きっと勝てなかったよ。シンくんが戦ってたあの時、レイくんはシンくんを信じて待ってたと思うよ。君が戻った時、みんなは君を褒め称えたけど、私にはレイくんの表情は"当たり前だ"って言ってるように見えたもの。それも、シンくんたちの絆。信じあってこその結果。シンくんだって信じたでしょ?レイくんの言葉を。」
「信じたよ・・・」
「それが、私の答え。でも正解なんてどこにもない。みんな間違えながら進むの。何がおきるか、なにをするのがいいのか、なんてわからないもの。わかるのは、自分のやりたいことと、やるべきだと思うことをやること。」
「それが・・・俺に、足りなかったもの・・・」
シンも一度切って続けた。
「あんたは、自分の全てを見せて、みんなにぶつかっていけ、って言いたいのか?」
「う~ん、まぁそう聞こえたのならそれもいいんじゃないかな?」
しかし、アスランが横やりをいれた。
「だめだそれは。もう知っているようだが言わせてもらうが、俺たちは"コーディネイター"だ。普通じゃないんだよ。そんなのが知れたら、俺たちは解剖のために刻まれるだけだ。」
「遺伝子操作のこと?」
「そうだ。コーディネイターは、産まれるまえの受精卵の段階で遺伝子を操作し、先天的な能力や特徴を自由に変えられた人種だ。この世界にそんな技術は無いみたいだし、バレたら解剖されるのが関の山だ。」
「・・・そのくらい平気だよ。みんなそんなことを言いふらすような人じゃないし、そんなこと言ったら私も普通じゃないし。」
「何?」
「私は、君たちのところで言うレイくんみたいなものかな?ある人に似せられたクローン。寿命は普通だけどね。」
アスランとシンは動揺を隠せない。まさか身近に普通とは違う人間がまだいたとは思わなかった。
「なっ!!?平気なのか?バレなかったのか?」
フェイトはさもどうでもいいかのように言った。
「う~ん。バレてるかもね。」

 

「???」
アスランはひたすら首をかしげる。なぜそこまで冷静なのか分からなかった。
「大丈夫だよ。みんなそんなの根に持たないし不用意に言わないもの。十年勤めても無事な私が保証するよ。その程度のことで踏み出すのを恐れてるなら、その心配は要らないよ。」
「・・・一度シンと考える。今は少し頭を整理しなくちゃわからないこともある。」
「アスラン・・・」
「なのはもあんな態度をとってたけど、すごく心配してるよ。みんなのこと。なのはは、いい人だから。いや、お節介って言うのかな?」
フェイトは笑いながら続ける。
「私は先に戻ってみんなと話してくるよ。考えが纏まったら、戻ってきてね?」
「・・・あぁ、分かったよ。」
「うん。じゃあ後でね。」
フェイトは魔法陣を展開し、管理局に戻ろうとする。しかし、アスランが呼び止めた。
「なぜそこまで俺たちのことを知っているのかは知らないが、ありがとう。あなたのおかげで、新しい道が出来た。シンにとっても、俺にとっても。」
「ふふっ、どういたしまして。」
その直後にフェイトは消え、シンとアスラン、ステラが残る。
「・・・なぁアスラン。俺たちは、間違っていたのか?」
「分からないさ。あの人も言ったろう?正解は無い。俺たちは職業柄、絆というものを意識したことはなかったから新鮮に聞こえるんだよ。まぁ、間違ってるとは思わないけど・・・」
「絆・・・か・・・確かにあんま考えたことなかったかもな・・・俺たちは、どうすべきなんだろうな、これから・・・」
「さぁなぁ、あの人が示したのも一つの道。このまま逃げて平和に暮らすのも有りだし、キラたちのところに行くのもありだ。」
「そか・・・」
「でも、あの人が言ったことが本当なら、キラも呼び寄せることが出来るかもしれないな・・・しかも結局その子のおかげで話を聞くこともできなかったわけだし、
もう一度戻って捜索を続けるのが賢明だと思うぞ?シンもあの人の話を聞いて、キラと話したいことも出来たろ?それに、その子の生活を整えるなら管理局に戻らなきゃならない。今の彼女にはこの世界で暮らすのは不可能だ。」
「俺は・・・」
「まぁ、まだ時間はある。ゆっくり考えろ。あの人もそのくらい待ってくれるさ。」
「やり直せるのか?また?」
「俺たち次第でな。」
「でも、繰り返したくない・・・また守れなかったら・・・今度こそ・・・」
シンがそう口走ると、アスランは呆れたように言い返す。
「シン、お前あの人の話ちゃんときいてたか?」
「きいてたさ・・・でも・・・」
「全てを守るのは人間には不可能だ。だからといって、お前はその守れないのが怖い、という理由で逃げるのか?守れないものもあるかもしれない、でもお前のおかげで救える命もあるだろう?
それを少しでも多く救う。そのための仲間だとあの人は言ったはずだ。」
「・・・仲間が増えたら、失った時みんなが泣く。メイリンが撃墜された、って言われた時のルナの涙には・・・もう耐えられない・・・」
「・・・それはお前が決めることだ。守るためにもう一度剣を取るか、失うのを恐れて平和な世界に行くのか。じっくり考えろ。」
「・・・」

 

「でも、これだけは覚えておけ。」
「え?」
「お前は、"独り"じゃないんだぞ。」
アスランがそう言うと、シンは俯いて肩を震わせはじめた。心なしが声も震えているように聞こえた。
「ありがとなアスラン・・・」
「俺は先に戻るよ。シンも考えが纏まったら来い。」
「あぁ。」
アスランもシンに背を向け飛翔していった―――

 

"守る"ために剣をとるか、"守る"ために必死に逃げるか。少年は、また選択を迫られる。
答えはない。少年の『運命』は、また翼を広げる。その先に、"守れる未来"があるのを信じて―――

 

次回 シンとアスランの魔法成長日記 第五話 『特訓』