魔法成長日記_06話

Last-modified: 2010-05-30 (日) 16:42:43

――六課訓練中、スカリエッティ本拠地にて――
スカリエッティは、ブリーフィングルームに、メンバーを全員集めていた。部屋には、大きな長方形で真ん中にそれより二まわりほど小さい穴が空いている机と、メンバー分の椅子があった。スカリエッティは奥のスクリーンの手前、全員が見えるところに座っている。
「うむ。集まったね。では始めよう。」
そう言ってスカリエッティはスクリーンに二機のガジェットの映像を映し出す。
「まずは確認だ。今回のミッションの目的は、あくまで機動六課の戦力の分析にある。もし、劣勢になったのなら戦闘に固執せず離脱してくれ。」
「あぁ。」
「まず、ガジェットジンと新作のガジェットザクをそれぞれ十五機ほど出撃させて六課を誘き出す。それくらいはすぐに墜とされるだろう。それから君たちの出番だ。」
「全員で出撃するのか?それは逆に危険だと思うが・・・」
「そうだな・・・冷静に敵戦力を分析出来る者がいいか。」
「だったら・・・」
ムゥが辺りを見回して考え込むと、イザークが勢いよく立ち上がる。
「俺が行く!!アスランを一発殴らないと気が済まない!!」
しかし、ディアッカがムゥにやめるよう進言する。
「おっさん、イザークはやめた方がいい。こいつは熱くなると周りが見えなくなる。」
「な、ディアッカ!!貴様!」
「落ち着けよイザーク。ともかく、お前はこの任務には向いてない。お前にだって分からないか?」
「ちっ・・・」
渋々、といった感じでイザークが着席する。するとムゥがスカリエッティに訊ねた。
「スカリエッティ、出動メンバーは何人くらいに見積もっている?」
「だいたい・・・四、五人だね。少なすぎると彼らの力を十分に見れない可能性がある。」
「だったらそうだな・・・キラ、ディアッカ、俺と・・・」
そこまで言うと、ムゥはちらっとクルーゼを見る。
(情報分析は出来るかもしれないが・・・こいつは・・・)
ムゥが黙っているとクルーゼが自ら進言する。
「私が行こう。情報分析なら役にもたてるさ。」
(くそっ・・・自分から言うか普通?)
「助かるよ。どのみち君には別の任務にもついてもらう予定だったからね。ならその四人でいいのかい?」
スカリエッティが確認すると、ムゥが慌てて付け足す。
「あぁ、そうだ。アウルを連れていっていいか?ちょっと調整したデバイスのテストがてらにさ。」
「別に私は構わないよ。では、キラくん、フラガくん、クルーゼくん、アウルくん、ディアッカくんの五名だね?」
「みんなは構わないか?」
ムゥが四人に確認をとると、全員首を縦に振る。
「そういうことだスカリエッティ。」
「あぁ。では次に場所だね。これについては決まっている。時間もそうだ。」
「いつ、どこで?それにこいつの別任務ってのは何だ?」
「場所は、ホテル・アグスタという所だ。日時は三日後。そこでは当日、ロストロギアの大々的なオークションが開かれることになっている。先ほど言った、クルーゼくんに任せたい任務というのはそのロストロギアの一部の奪取だ。」
「でも、そこにあいつらが来るとは限らないだろ?」
「いいや、来るよ。機動六課とは、ロストロギアの回収を主だった任務としている部署だと聞いている。今回のターゲットはレリックのようだがね。」
「だからロストロギアのオークションを行うような所にも来ると?」

 

「そうだ。現場警備か何かでいるはずだ。」
「なるほど・・・」
するとスカリエッティは、ディスプレイをホテル・アグスタの画像に切り替える。
「そして、これがホテル・アグスタだ。ここは周囲には隠れるのに有利な森が存在してね。この地形を利用しない手はない。」
「なるほど。だが、いつまでもそこにはいれないだろう。」
「だからまずは森の中に君たちを転送する。そこからはクルーゼくん、君の出番だ。」
スカリエッティがクルーゼを見ながらそう言うと、クルーゼは合点がいった、という顔で答える。
「なるほど、了解した。」
「何がだよ?なんでお前なんだ?」
ムゥがクルーゼに食って掛かるが、スカリエッティがクルーゼの代わりに説明する。
「クルーゼくんは転送魔法、いや召喚魔法が得意でね。今回の作戦には不可欠な存在なのだよ。」
「召喚魔法?なんでそんなもんがいるんだ?」
「考えてもみてくれ。ロストロギアを奪取するにも、正面突破よりはガジェットや君たちを直接中へ送った方がいいだろう?それに、ガジェットを出撃させるにも、一ヶ所に固めるのは得策ではない。好きなタイミングで色々な場所に移せたほうがいい。」
「なら、直接スカリエッティがやればいいだろう?」
「現場にいる人間の方が的確な判断も出来る。それに、最初からホテル内に送り込んだら、バレてしまう。いきなりホテル内に転送魔法が使われるのを気づかないほど管理局は甘くない。まずは外で暴れてもらわないとね。そして、一瞬の動揺をねらってホテル内に転送する。」
「なるほど・・・」
ムゥが納得して黙り込むと、スカリエッティがそのまま続ける。
「まず、ホテルから少し離した所にガジェットを転送する。敵が気づくまで前進し、気付かれてもしばらくアクションは起こさない。敵を出来るだけ引き寄せてからクルーゼくんが転送魔法でホテルのすぐ側に別のガジェットを転送する。ホテルの手前と奥、両方にガジェットを送るんだ。そうすると、相手はどうでると思う?」
スカリエッティが全員に問いかけるが答えたのは今までまったく喋っていないキラだった。
「ホテル内をやられるわけにはいかないから、前線にいた人たちがホテル側のガジェットのいる味方のところまで下がって防衛ラインを強くする?」
「そうだ。ホテル側で戦闘をしているのにわざわざ離れたところで戦闘をする人なんてほどんどいない。だいたい下がって本隊と合流を図る。だから、そこを叩く。」
「なるほど。下がろうとするところをホテル側から俺たちで挟むわけだな?」
「あぁ。もし、前線部隊が下がらずにそのままガジェットの破壊を続行するのであれば、君たちはそのまま敵戦力の観察を行ってくれ。すべてのガジェットが破壊されてからにでも出ていって構わないよ。だが、挟めた方が敵の真の実力は分かる。ピンチの時こそ実力は分かるものだから、是非下がってほしいものだね。」
スカリエッティが笑いながら言うが、イザークが機嫌悪そうにスカリエッティに問い掛ける。。
「スカリエッティ、つまり俺とスティングはここで待機ということか?」
「ん?いやいや、君たちにはロストロギアの奪取をしてもらうよ。クルーゼくん、イザークくん、スティングくんの三人でね。クルーゼくんは二人の任務が終了し次第、フラガくんたちに合流してくれ。ただ、奪取とはいっても大胆にやってもらっては困る。この任務はスニーキングミッション(潜入任務)でもある。」
「つまり、敵に気付かれずにそのロストロギアを盗れと?」
「あぁ。しかし、気付かれずとは言ってもどうしても出来ないこともある。ロストロギア周辺に警備兵もいるかもしれない。」

 

「黙らせればいいのだろう?」
イザークがそう言うと、スカリエッティは微笑しながら答える。
「ふふ、話が早い。ロストロギアまでは、私がデータを送る。周囲の警備兵は、その魔力反応を探知してもらうことになっているクルーゼくんにナビゲートしてもらってくれ。だが、むやみやたらに攻撃してはいけないよ。攻撃は必要最小限に止めてくれ。」
「なるほど・・・」
イザークは頷くが、ディアッカが異を唱えた。
「なら、俺とイザークで行った方が良いと思う。潜入任務は人数が多いほど不利だ。コンビネーションが命だろ?」
スカリエッティはしばし悩み、スティングを横目に見ながら言った。
「ロストロギア回収には最低二人だからね。確かに息の合う人間同士がベストだが・・・ならば戦闘の方はディアッカくんの代わりにスティングくんに行ってもらうことになるが、スティングくんは構わないかい?」
「俺は別にどっちでもいい。」
スティングは断る理由も無いので、素直に肯定する。
「なら、確認だ。当日はオークションの始まる前に、ホテル周辺の森に君たちを全員送り込む。そこからの隊長はクルーゼくん、君に任せるよ?」
「了解。」
「そして、クルーゼくんがイザークくんとディアッカくんをホテル内に転送したら任務開始だ。ガジェットザクを十機とガジェットジンを三十機、君たちのうち三人をホテル前へ送り込む。そしたら警備に見つかるとは思うが、おもいっきり暴れてくれ。そうすると、多少なりとも敵は混乱するだろう。イザークくんとディアッカくんはそこを狙う。その機を逃すと、敵もロストロギアの監視を強化する危険がある。混乱に乗じて場を制圧しロストロギアを回収。済み次第クルーゼくんにより帰還。クルーゼくんはそのまま戦闘部隊に合流。そこからは各自臨機応変に対応してくれ。」
「臨機応変に、ってそれは作戦じゃないだろう。」
「しかし、私に言えるのはそれだけだ。クルーゼくんの指揮の下敵の戦略を把握、終了次第帰還だ。」
「そこは前線部隊の俺たちで話し合えと?」
「あぁ。」
スカリエッティはそこでいと呼吸おいて続ける。
「会議はこれで終わりだ。作戦当日にむけて各自抜かりないように。以上。」
スカリエッティが席を立ち、クルーゼ、イザーク、アウルと次々にそれに続き、それぞれの部屋へと戻っていった―――
――管理局機動六課訓練場にて――
「うおおぉぉぉおあああぁああぁぁあぁ!!」
その怒号を合図に、ソードインパルスの対艦用エクスカリバーを持ったシンがスバルに突撃する。スバルもその攻撃を予見し、シンに対して迎撃体勢をとる。
「ディバイン・・・バァスタァァアァアァアアァァァ!!!」
右手のマッハキャリバーから青の砲撃をシンに放つが、シンはそんなものでは止まらない。エクスカリバーを突き出してそのままディバインバスターを切り裂いていく。
「これでぇ!!!」
しかしシンのエクスカリバーがスバルに届こうとしたその時、スバルが微笑む。
「クロスレンジは、私の間合いだぁぁああぁ!!!」
ディバインバスターを止めたスバルは突き出されたエクスカリバーを半身になってかわし、そのまま回転して右手のブリッツキャリバーを使ってシンの脇腹に裏拳を見舞おうとする。
「しまっ!!!」
シンは完全に反応が遅れる。しかし、シンは訓練途中の障壁の防御を試みる。シンの魔力とスバルのマッハキャリバーが激突するが、すぐにシンの障壁もどきが砕け散る。その一瞬で少し体勢を立て直したシンは、ギリギリで体とスバルの間にシールドを滑り込ませる。よってスバルの裏拳がシンに当たることも無かった。防御の後にシンはスバルと間合いをとる。
「はぁっ!!」
しかし、間合いをとろうと下がったシンにエリオが迫る。
「分かってるさ!!そのくらい!!!」
シンはエリオを見もせずにブーメランを投げつけて、シン自身もエリオとの間合いを近づける。
「くっ・・・」
エリオもブーメランをストラーダを凌いでシンを見ようと前を向くが、そこにシンの姿は無い。
「なっ!どこに!!?」

 

辺りを見渡してもシンは見つからない。しかしエリオが上を向いた瞬間、エクスカリバーをエリオへと向けて突っ込んでくるシンが目に入った。
「くっ・・・」
回避は間に合わないと悟ったエリオは、ストラーダを上に掲げてエクスカリバーの剣先をずらそうとする。
「エリオ!!!」
シンを追っていたスバルが右手を引いてマッハキャリバーのカートリッジをロード、シンに迫っていた。シンは丁度戻ってきた、エリオに弾かれたブーメランをそのままスバルに投げるがそれを障壁で受け流してスバルがシンに突っ込む。
「はぁぁあぁっ!!」
シン、スバル、エリオがそれぞれ交錯し、その場に砂煙が舞った。

 

その少し前、アスランはティアナ、キャロと二対一を行っていた。
「クロスミラージュ!!」
ティアナの掛け声と共にティアナの幻影が出現するが、アスランのマルチロックによってすぐにけされてしまう。
(私とキャロじゃ前衛がいないじゃない・・・上手く分けさせられたってわけね・・・)
ティアナは心の中で毒づきながらアスランを牽制する。キャロの支援のお陰でアスランとだましだまし戦えているが、決定打は見込めない。出来てアスランを牽制すること。
「どうしたティアナ!そんな牽制だけじゃあ俺は倒せないぞ!!」
「ちっ・・・」
(分かってるわよそれくらい・・・スバルたちは・・・無理か・・・だったらもう最後の策しかないわけね・・・)
アスランの挑発にのることにしたティアナは本物の方のクロスミラージュを下ろし、キャロの後ろに退がっていく。
『ちょっとの間だけ、アスランを近づけさせないで!』
『は、はい!やってみます!』
キャロに通信をすると、ティアナはクロスミラージュに意識を集中させる。
(丸いのはだめ・・・細くて・・・長いやつ・・・アスランのビームみたいなやつじゃなくて・・・弾丸・・・速い弾丸・・・細くて速い・・・そう、矢みたいな・・・)
「なにをしたいのか知らないが・・させはしない!」
アスランがティアナを狙うが、キャロの障壁に阻まれる。
「フリード!!」
フリードは、キャロの声に呼応して地面に向かって火球をはく。それが地面に到達、長い火柱のようになってアスランの視界からティアナとキャロを消す。
「ちっ!」
アスランは火柱を飛び越えて下にライフルを向けてティアナを射とうとする。しかし次の瞬間、ライフルはアスランの手元を離れていた。
「なっ・・・くそ!!!」
アスランは後退し、体勢を立て直す。
(何が起きた?見えなかったぞ・・・)
疑問に思いながらも、ラケルタサーベルを持つ。
(まずいな・・・流石にフォルティスだけで射撃戦は・・・一気に決めるか・・・)

 

「ふぅ・・・うまくいった・・・」
ティアナは火柱の反対側でため息をついていた。
「なにをしたんですか?私には見えなかったんですが・・・」
「射ったのよあいつの銃をね。」
「ど、どうやって?」
「いつもの丸くて遅い弾じゃ、どんなに追尾に優れていてもアスランにはかすりもしない。全部破壊されちゃうんだから、ただの的よ。だから、攻撃力と追尾を捨てて、速さだけに特化した弾丸でアスランの銃だけを射った、いや弾いたの。これでアスランを射っても、VPSとかいうやつに弾かれて終わりだから。せいぜい武装を弾く程度よ。」
「なるほど・・・」
感心するキャロをよそに、ティアナは最後の策を話す。
「いい?アスランと戦うための最後の術は、あいつを狙うんじゃなくてあいつの武器を狙うことよ。確かに、アスランは強いけど武器が無いと何もできない。防御さえもね。魔法が使えないんだから。」
「わかりました。」
キャロとティアナがそう言う間にアスランが再度二人に迫る。
「無駄口を叩いてる場合か?」
「ちっ・・・余計なお世話よ!!」
ティアナは射ちながら退がってアスランと距離をおこうとした。しかし、この時ティアナは気づかなかった。アスランの瞳から光が失せていたことに。

 

「ふっ・・・」
「え?」
それは一瞬の出来事、アスランは退がろうとしたティアナを上回る速度で懐に入り二本に分けたラケルタサーベルでクロスミラージュを宙に舞わせ、剣を逆手にもってティアナとキャロの首筋にあてがう。

 

「「動くな!!」」

 

砂煙の中から現れたシンも二本のエクスカリバーを一本は逆手に持って、突撃してしたスバルに、もう一本はエリオの首筋にあてがっていた。シンの瞳には光が残っている。
上から見ていたなのは、シャーリー、フェイト、シグナム、ヴィータもこれには驚く。
「なぁシグナム。最後、アスランがやったのってさ・・・」
「・・・だろうな。さすがに危険を感じたのだろう。」
シグナム、ヴィータはお互いに頷きあうが、なのはとフェイトには分からなかった。シャーリーはディスプレイのデータをみて初めて気付く。
「あ・・・なるほど・・・」
「シャーリー?どうしたの?」
「いえ、アスランくんの魔力が・・・上がっています。」
シャーリーの言葉に、なのはも合点がいった、という顔をする。
「なるほど。でも、魔力を解放した途端にあれか・・・」
「さすがにそれは仕方ねぇよ。シンとアスランのあの戦闘慣れで、魔力量でも大差で負けてたら流石にあの四人に勝ち目はねぇ。元の魔力量ならともかくな。」
シグナムもヴィータに続く。
「そうだな。あの二人の戦闘には大抵の魔導師ではついていけないかもしれない。この前戦った時にも思ったが、おそらく命の駆け引きをしてきた回数が違うだろう。二人もそんなことを話していたしな。まぁ、私の推測でしかないがな。」
「・・・」
フェイトも、四人の会話からなんとなく事情を理解する。
(戦闘の時のあの瞳のことかな・・・)
戦闘中、シンの瞳から光が失せるとシンはいつもとはかけ離れた実力を発揮していたことをシンの記憶を通じてフェイトも分かっていた。
「みんな~~!!お疲れ~~~!!一回集まるよ~~~!!」
なのはが戦闘中のメンバーに呼び掛け、しばらくしてFWが全員集まるとなのはが話始める。
「お疲れ。まぁ、最初はこのくらいだと思うよ。四人ともよく頑張ったよ。」
「「「「はい・・・」」」」
しかし答える四人の顔は暗かった。そこへアスランがフォローをいれる。
「そんなに落胆することはない。ティアナ、あの機転は良かったと思う。流石に焦った。まさかライフルを狙われるとは思わなかったからな。」
「・・・ありがと。」
「スバルだって、あのカウンターは凄かったぜ?シールドで防げなかったら俺負けてた。本当、あの張りぼてが少しでも役にたって良かったよ。エリオも、攻撃にもうちょっとバリエーションがあるといいな。」
「ありがとシン。」
「が、がんばります。」
「あとはキャロの配置だな。ティアナとペアだと二人ともやりにくいだろう?」
「あれはアスランが狙って分けたんじゃないの?」
「まぁ・・・そうだが。」
「わ、私が戦えないから・・・」
キャロが申し訳なさそうに俯くが、アスランはキャロを責めない。
「いや、そうじゃないさ。キャロがいなかったら、ティアナはもっと早く力尽きていたはずだ。」
「そうよ。あれは私が悪かった。フォーメーションはもっと綿密に組むべきだったわ。」
「そうだね。エリオとスバルで分断されたのはキツかったかもね。」
「私がティアのところに突っ込めば良かったの?」
「馬鹿、そしたらエリオはどうすんのよ。どっちかの誰かが反対側のペアの支援に行こうとするなら、そっちは一対一になるじゃない。だからその時点で解消しようがないのよ。」
「あ、そっか・・・」
「まぁ、すぐにどうこう出来る相手じゃないってわけ。」
ティアナが肩を竦めると、アスランが言いづらそうな顔で全員に言った。
「え~と、俺たちの世界のデバイスがもし他にあるとしたら、今みたいな戦い方が主流だろう。近接なら今のシンみたいな、射撃戦なら今の俺みたいな。」
「うん。それで?」

 

アスランは、何やら決心したような顔をする。
「・・・でも、この前のファイとネオと名乗った二人組は・・・すこし、いや、かなり違うんだ。」
「???」
アスラン、シン、フェイト以外の全員が首を傾げる。
「ドラグーン・・・あの小さな浮遊ビットのこと?」
フェイトがアスランに確認をとると、アスランも首を縦に振る。
「そうだ。あの二人はドラグーンと呼ばれる浮遊ビットを持つ。」
アスランはジャスティスからディスプレイをだし、六課入隊直後のシンとキラの戦闘の映像を流す。
「これだ。翼から射出された小さな浮遊物。こいつの場合は翼の武装プラットフォームにこれをマウントしていて、高機動ウィングの役割も果たす。
ドラグーンは、飛ばした後にそこからビームを放つ。要するにビームライフルが宙に浮いてるってわけだ。」
「えっ・・・」
首を傾げていたメンバーは驚愕を顕にする。
「それ、どうすんのよ?」
「これはあくまで俺の推測だが、ドラグーンはずっと射出していられるわけではないはずだ。」
「つまり?」
「この戦闘時の二人の魔力値を測定していたが、このドラグーンは術者が魔力を流して初めて動く。つまり、ある程度したら一度格納して魔力を注ぎ直す必要がある。しかも、ドラグーン、二挺のビームライフル、腹部のカリドゥス、腰のクスフィアス、ジャスティスと同じラケルタサーベル、これだけの物を動かすには膨大な情報処理能力と集中力、魔力が必要になる。長期戦には向かないはずだ。」
「なるほど・・・」
一同は納得するが、シグナムがアスランに異を唱える。
「やつらの目的はレリックなのだろう?なら、こいつに時間稼ぎをされたらこちらに術はないぞ?」
「あぁ、その通りだ。だから、こいつが来たら俺とシンが戦う。それに・・・不安要素はまだある。」
「まだ?」
シグナムが訊き直すと、アスランは戦闘の映像を早送りする。そしてキラがミーティアをセットするところで一度止める。
「これだ。この追加武装、ミーティア。これは、こいつだけじゃなく俺のジャスティスにもついている。」
「ミー・・・ティア?」
「まぁ見てくれ。」
アスランは映像を再生する。キラがフルバーストをした瞬間、シンとアスラン以外の全員がまた驚く。
「何・・・これ・・・」
「これがミーティアの火力。ミーティアフルバーストだ。今回はシンのみがターゲットだからシングルロックだが、もちろんマルチロックもある。」
「え!?これ・・・全部がそれぞれ!?」
「あぁ、さらに十基のドラグーンもマルチロック対応だから計十八のビームによるマルチロックが可能だ。」
「そんなでたらめな・・・」
「話すより実際見てもらった方が早いだろう。ジャスティス!ミーティアセット!」
『Meteor set up』
ジャスティスの背中にミーティアがセットされる。初めて実物を見る一同も食い入るように見つめる。
「まずはこの腰から出る二本の筒。これが基本的な装備だ。サーベルにもなるし、ビームにもなる。」
アスランは人のいない方にミーティアから魔力を流し、サーベルを振る。
「そして、後ろが大きいのはスラスターと実弾での攻撃のためだ。ミーティアは、大抵一対複数の戦闘、大火力での攻撃に使われる。一対一で使われるようなら、まずはこれの破壊が目標だ。」
「で、そのフルバーストっていうのは何なの?」
「あぁ、誰か受けてみるか?」
「・・・じゃあ私がやってみるよ?」
なのはが一歩前に出て答える。
(冗談のつもりだったんだが・・・)
「それなら構わないが、危ないぞ?」
「非殺傷設定でしょ?」
「一応な。」
「大丈夫大丈夫。これも私の訓練だと思えば。」
ノリノリのなのはだが、シンも口を挟む。
「でも、あんた今リミッターかかってるんだろ?」
「ん・・・まぁね。」
「やっぱ危ないぞ?」
「大丈夫だって。私がやりたいんだから♪それに、アスランくんが言ったんじゃない。誰か受けろって。」
「あれは冗談のつもりだったんだが・・・まぁいい。高町はそこにいて、他は退避していてくれ。」
「了解♪レイジングハート!」
『Alright』
なのははバリアジャケットを身に纏う。すると、退避したはずのシンが戻ってくる。
「一応これを渡しておくから。いざとなったら使え。」
そう言ってシンはインパルスのシールドをなのはに渡す。
「うん!ありがと♪」
そしてなのはとアスランが対峙し、他のメンバーは後退する。
「よし。いくぞ高町!」
「いつでもいいよ~~!」
なのはが手を振りながら答えるのをみてアスランは攻撃モーションに移る。その目に光は無い。
「ジャスティス!!ミーティア、フルバースト!!」

 

『Meteor full burst』
「はぁぁあああぁあぁあぁぁあぁ!!!!!!!」
ジャスティスから五本のビーム砲撃と後ろからミサイル型の魔力弾が放たれる。
「レイジングハート!!」
『Protection』
桜色の障壁とアスランの砲撃、魔力弾がぶつかりあう。
「ぐっ!!!重・・・」
障壁越しでも吹き飛ばされそうになり、両腕を前で交差させて踏ん張るが、少しずつ後退していく。
「うっ・・・くぅ・・・」
そしてついになのはの障壁にヒビが入る。一度ヒビが入ったところが脆くなり、次々にヒビ割れていく。
「ダメかな・・・レイジングハート!」
『It is impossible. It is not possible to keep any further.』
障壁が破れた直後、なのははインパルスのシールドを突き出す。
「ぐぅ・・・重・・・い・・・」
シールドなので、腕にかなりの負荷がかかっていく。腕だけでは耐えきれずに、左肩でシールドを押す。
(そろそろ頃合いか?)
ミサイルのハッチを全て解放しきったアスランが攻撃を止めると、表面が傷付いたインパルスのシールドを持つなのはが立っていた。
「高町!大丈夫か?」
「だ、大丈夫・・・シールドのおかげで・・・」
しばらくなのははその場を動かずに呼吸を整える。その間にアスランや退避していたメンバーも戻ってきた。
「一応データはとれましたが・・・でたらめですね。こんな膨大な魔力をよくもまぁ・・・」
「だから、連射はまず無理だ。これを射ったらかなりの魔力を削られる。俺ももうくたくただ。」
「でも、フリーダムにはこれにドラグーンがつく・・・」
「そうなるな・・・」
リミッターがかかっているとはいえ、なのはの障壁を破ったアスランの攻撃よりも強力なものだと分かると、一同は何も喋らずただただ黙っていた。
「で、でも・・・シンとアスランが組めば倒せるんでしょ?」
「さすがにそこまですれば倒せると思うが・・・」
完全に暗いオーラの一同に、シンが努めて明るく声をかける。
「大丈夫だって。フリーダムなんか俺が倒すから!」
アスランもそれにのっかる。
「あぁ。しっかりとした策を練れば勝機は十分あるさ。なにもあいつ一人にそこまで恐怖しなくてもいい。」
「でも・・・もう片方の人も強いんでしょ?」
スバルの疑問にアスランも少々考え込む。
「ムゥか・・・どうだろうな・・・正直、戦ったことは無いから分からないがファイ、いやフリーダムよりは強くないはずだ。ただあいつが持ってるデバイス、アカツキは少し厄介な能力を持っている。」
「あぁ・・・そういえばそうだったな・・・」
シンも少し深刻そうな顔をしたので、スバルが恐る恐る問う。
「なにが?」
「あの黄金の装甲は、ビーム兵器を跳ね返すんだ。」
「アスランとかシンのあれを?」
「あぁ。こちらの世界でどうなっているかは分からないが、おそらく俺たちのライフルは弾かれる。」
「じ、じゃあどうするの?」
「ビームを跳ね返すにはそれなりの魔力が必要なはずだ。ノーリスクで攻撃を跳ね返すなんてあり得ない。だから、ひたすら射ち続けられるか、大火力の砲撃、それか跳ね返せない近接戦闘、実弾での攻撃には弱いはずだ。ただ、あれにもドラグーンがついているから、近接戦闘に持ち込むのは難しいかもしれない。一対二なら誰にでも十分に勝機はある。それに、ネオにならシンや俺、なのはやフェイト、シグナムやヴィータでも勝てる見込みは十分にある。」
「たりめぇだ!そんなやつ一瞬でアイゼンの錆びにしてやる!!」
ヴィータが士気向上のために意気込む。
「あぁ、ヴィータの破壊力があればそれも出来る。大丈夫さ。俺たちならあいつらには負けない。それに、あいつらは話が分かるやつだ。むやみやたらに戦闘をしたりはしない。話し合いを望めば戦わずにすむ道も見つかるかもしれない。」
「あいつらを倒すために今訓練をしてるんだ。大丈夫、絶対勝てるさ。」
シンの励ましが実り、全員顔が明るくなる。

 

「そうね。やる前から諦めてたら、出来るものも出来ないものね。」
「うん!私もいつか絶対シンにだって勝ってやるから!!」
シンに呼応するティアナとスバルを見て、なのはも満足気に言う。
「うんうん♪じゃあ訓練だね。四人は私と続きをやるよ。アスランくんとシンくんはザフィーラさんのところね。」
「「「「はい!」」」」
六人がそれぞれ散っていくと、残りのメンバーも解散を始める。
「私も、まだ訓練が足りないな。テスタロッサ、少し相手をしてくれ。」
「分かりました。手加減はしませんよシグナム。」
「ふ、当たり前だ。」
シグナムとフェイトが散ると、ヴィータも伸びをしながら言う。
「さてと、んじゃ行くかな~。」
「ヴィータちゃん?どっかに用事?」
「ザフィーラに呼ばれてんだよ。多分シンとアスランの訓練絡みで。」
「あぁ、なるほど。私もあの子たちの訓練をしなくちゃね。」
ヴィータ、なのはに続きシャーリーもその場を去ろうとする。
「私も、ミーティアについての今回のデータを調査します。ドラグーンについても打開策を考えなくてはいけませんし。」
「そっか。じゃあね♪」
そして、その場には誰もいなくなった―――

 

――その後シンとアスランの訓練――
シンとアスランがザフィーラのもとへ行くと、そこにはグラーフアイゼンを担いでいるヴィータもいた。それを見つけたシンが話しかける。
「あれ、なんでヴィータがここに?あいつらの訓練はいいのか?」
「あぁ。今はなのはに任せてある。心配ねぇよ。今は自分の心配するんだな。」
言いながらニヤニヤしているヴィータを見て、シンとアスランはザフィーラに説明を仰ぐ。
「まずは二人とも、シールドを渡せ。」
「分かった。」
アスランはジャスティスを装備し、そのシールドをザフィーラに渡す。
「なぁザフィーラ。デスティニーのシールドは取り外しが出来ないんだ。つけたままでいいか?」
「そうか・・・ならインパルスでやれ。バリアはデバイスで変わりはしない。」
「ん、分かった。」
シンもインパルスに切り替えてシールドをザフィーラに渡す。
「さて、訓練とはいえど個人でバリアもどきを張っているだけでは話にならない。少し荒療治になるが、実際に攻撃を防ぎながらバリアを張るコツを掴んでもらう。そのためのヴィータだ。」
紹介を受けたヴィータが笑顔でシンとアスランを見る。
「そういうわけだ。おもいっきりぶん殴ってやるから、感謝しろよな?」
シンとアスランはヴィータの笑みを理解し、同時に戦慄を覚えた。アスランは特に焦る。一度模擬戦で競り合った際にヴィータの破壊力は重々に承知していたからである。
「ま、待て!なんでそうなる!!?わざわざヴィータじゃなくても・・・」
「そんなにあたしじゃ嫌か?」
「い、いや別にお前が嫌とかそういうわけではないが!」
「でもヴィータのハンマーって、六課でも有数の破壊力なんだろ?」
シンがザフィーラに確認をとる。
「グラーフアイゼンの破壊力は、鉄槌の騎士と言うには十分なものだ。」
「なんでわざわざそんなやつに頼むんだよ?無理なのは目に見えてるだろ?」
「無理だからやるのだ。それに、ヴィータの攻撃が防げるようになれば大抵の攻撃は防げる。それとも、少し下のレベルで妥協するつもりか?」
「・・・なるほど。それもそうだな。」
シンは納得するが、アスランは未だに食い下がる。
「しかし順序というものがあるだろう!?何もいきなり最高レベルからやらなくても・・・」
しかし、アスランの弁明はヴィータによって遮られた。
「ごちゃごちゃ言ってねぇで吹き飛べ!!!ラケーテン・・・」
「待てヴィータ!いま俺は魔力が・・・」
「ハンマァァァアアアァァアァアアァ!!!!!!!」
アスランが障壁を張るが、もちろんそんな張りぼてはヴィータには通用しない。一瞬で砕かれて吹き飛び、訓練場にあったビルを二つほど突っ切ってやっと止まる。
「なんだぁ?そんなもんだったか?模擬戦の時の方がまだマシだったぜ?」
ヴィータは首を傾げるがシンは納得気に手を打ち、ヴィータに説明する。
「ヴィータ。ほら、アスランさっきミーティア射ったからもう魔力が無いんだ。」
「あぁ・・・なるほど。・・・ま、次はお前だシン!!」
「あぁ!!」
「いくぜ?ラケーテン・・・」
(イメージだ・・・フリーダムの時みたいに・・・薄く・・・固く・・・濃く・・・)
「ハンマァァァアアアァァアァアアァ!!!!」
グラーフアイゼンがシンの障壁にぶつかり、激しく火花を散らす。
「んぬうぅぅううぅあああぁぁああぁあぁ!!」
シンは歯を食いしばってこらえるが、やはり完全な障壁は張れない。少しずつ、ヒビが入っていく。
「吹き、飛べぇええぇぇええぇ!!」
『Load cartridge』

 

こらえていたシンに、ヴィータは無情にもカートリッジをロードし出力をあげる。シンはグラーフアイゼンに耐えきれずにアスラン同様吹き飛んだ。
「ふぃ~、シンは中々だったな。でもあれじゃあまだひよっこだ。お~い!帰ってこ~い!!次いくぞ~!」
(やっぱりこれ、ただの虐待じゃ・・・)
(くっそ~、次こそ・・・)
薄れ行く意識の中、崩れたビルで嘆くシンとアスランであった――

 

――夜中、機動六課舎内にて――
――Side Athrun――
「ふぅ・・・こんな感じか・・・」
アスランはキーボードをジャスティスから外して、部屋にしまう。さっきまで、模擬戦でのティアナの弾丸により故障したビームライフルの修理と調整を行っていた。
「ティアナも中々やってくれる・・・おかげで徹夜だ。ジャスティス!」
『Set up』
バリアジャケットを纏うと、ビームライフルを喚び出す。
「少し射つか・・・訓練場が開いてるといいが・・・」
シンとステラを起こさぬよう、アスランは部屋を抜けて訓練場に行く。しかしアスランが訓練場に着いた時、そこには思わぬ先客がいた。
「あれは・・・高町?」
ほぼ真っ暗な訓練場の中に、真っ白なバリアジャケットに見を包んだ人間が浮かんでいる。周囲にはピンク色の球体も見える。
(自主練か・・・まったく・・・どこの世界に行こうとも、こういうやつはいるもんだな・・・)
呼び掛けようかとも思ったアスランだったが、逡巡の末アスランは訓練場での試し射撃を諦めて外で射ってから部屋に戻ることにした。

 

――Side Nanoha――
「レイジングハート!!」
『Accel shooter』
なのはは十近くの魔力球をだし、それぞれ別のターゲットを破壊させる。ターゲットには印がしてあり、中心からどれほどずれたかがわかるようになっていた。
「タイムは・・・はぁ。まだまだだね・・・これじゃあきっと勝てない・・・」
言いながらなのははシンとキラの戦いの映像を思い出す。あのドラグーンを使った精密な射撃、相手の動きを徐々に制限していく計算高さ、今のままでは彼に勝てないという不安がなのはを夜の訓練場に導いた。
「あの子も砲撃魔導師、なのかな?」
『I don't know.But the possibility is high.』
「戦い方も私と似てるよね・・・」
大火力の砲撃としてミーティアとスターライトブレイカー、牽制になる浮遊武装ドラグーンとアクセルシューター、しかしなのはとキラでは砲撃魔導師として決定的な差があった。
「アスランくんたちのビームライフルのほうが、速い・・・」
なのはは魔力球を飛ばしながらぼやく。速さで勝るビームライフルと追尾性で勝るアクセルシューター、なのはにはどちらの方が適しているかは、キラの戦い方を見れば明白だった。フェイトのように、近接戦闘を主とした戦い方をするのなら、追尾弾も有効な手となる。
なのはのアクセルシューターに比べればフェイトのプラズマランサーは速度重視ではあるが、フェイトの戦闘を優位に進めていることに間違いはない。誘導武装としてはハーケンセイバーなども存在する。しかし、それらは全てバルディッシュの一太刀の為。
しかし、砲撃魔導師であるなのははアクセルシューターでの誘導からのバインド、最後にディバインバスターやスターライトブレイカーといった戦い方が主となる。それに、前線にたって一対一で戦うこと自体あまりない。
もちろんアクセルシューターは有効な攻撃であり、小回りも利く。後衛から支援として放てばかなり役にたつ。しかし、前線でとなると一度避けられた後の追撃までにどうしても間が出来てしまう。ハイレベルな戦いになればなるほどその間は命取りになる。防御をしながら魔力球を操らせてくれるほど敵は甘くない。隙を減らすために操作する数を増やしても、敵がそれより速ければすぐに懐に潜り込まれる。それはなにより危惧すべき事態だ。実際に、フェイトの飛行性能と、アスランの瞬間的加速力はなのはのアクセルシューターを抜いている。シンのデスティニーも、先の模擬戦で最後にシグナムの一太刀を回避したときには残像が残るほどのスピードだった。

 

「やってみるしかないよね・・・アクセルシューターセカンドシフト。」
『If you hope for it I will do my best,too』
「うん。やるよ!」
なのはは魔力球を作ろうとするが、レイジングハートの機械的な声に阻まれた。
『Master.There is a magic reaction from the entrance.』
「え?」
声につられてなのはは入り口を見る。すると、ちょうどアスランが訓練場から去っていくところだった。しかしなのはからは赤い何かが消えていくようにしか見えなかった。
「あれは・・・赤?・・・ヴィータちゃん?アスランくん?まさか人じゃないなんてことは・・・ないよね?」
『Perhaps, it is not so.』
しばらくなのははその場に固まる。レイジングハートも何も反応しない。
「・・・今日はもう止めよっか?」
『Training is important.But taking a rest is also important.』
「だね。レイジングハート、モードリリース。」
気が削がれたなのはは訓練を止め、バリアジャケットを解除して自室へと戻っていった―――

 

――ホテル・アグスタ警備当日――
シンが部屋で休息をしていた途中、フェイトが部屋を訪ねていた。
「オークションの警備?」
シンは部屋を訪ねてきたフェイトに訊き返す。
「あれ?なのはから聞いてない?今日ホテル・アグスタで、ロストロギアのオークションが開かれるの。私たち機動六課は、その警備にあたるよう言われてるんだ。」
「で、今から?」
「予定ではあとニ十分で屋上集合なんだけど・・・」
「デバイス調整もなんもしてないぞ俺・・・」
「まぁ・・・なのはには私から言っとくよ。」
「でも、これからの任務の事を聞いてないなんてありえないよな・・・ん~~~。まぁ、今は準備しないとな・・・」
不思議気に首を傾げていたが、シンは部屋を漁り始める。制服に緊急用のハンドガンとナイフ、携帯出来る食料を詰めてデバイスを探す。
「シン?どこいくの?」
「あぁ、ステラ。ちょっと任務が出来たんだ。暫くの間留守番を・・・」
言いかけてシンはしばらく黙り、フェイトを見て目線で訴える。
――連れてっても?――
――ダメ。――
「う~ん・・・」
今までステラは、ほとんど部屋から出ていない。食事もシンが持ってきていたし、なによりステラは他の人との交流をあまりしない。なのでわざわざ部屋から出る意味が無かった。そんなステラを一人で残しておけるのか、とシンは自問自答。しばらく悩んだ後、でた答はノー。
――やっぱり、連れてっても?――
――ダメ。――
シンはそこで頭を掻く。今この状況を打開出来る要素は全くなかった。しかも、連れていっても危険が待っているのは変わらない。どうしたものかと唸っていたところへ、集合場所に来ないので心配したアスランとなのはが部屋に顔を出した。
「どうしたシン?早くしないと時間だぞ?」
「あ、アスラン。・・・まぁ、分かってるけどさ。」
「どうしたの?」
「いや・・・ステラがさ・・・」
それだけでアスランは納得する。
「どうしようかって迷ってたんだ。連れていくか、留守を頼むか。」
「なるほど。で、お前はどっちも不安なわけだ。」
「あぁ・・・」

 

「フェイトは?」
「私は、連れていくのは反対なんだけど・・・」
「なるほどな・・・」
アスランも黙ってしまい、ついに打開策は出なくなった。しかししばらくして、今まで黙っていたステラがシンを見上げて呟く。
「怖いのが・・・来るの?」
「いや・・・その・・・う~ん。まぁそう、なのか?」
「ガイア」
シンが悩んでいると、ステラは小さくそう呟いた。
『Get set』
胸元の黒い宝玉が輝き、ステラはMSガイアに酷似したバリアジャケットを身に纏う。
「デバイス・・・持ってるんだ・・・」
「だったら・・・ステラ・・・戦う・・・怖いの、倒す。」
ステラが立ち上がって部屋から出ようとした時、シンが止めた。その顔は暗く、心中の葛藤がみてとれる。
「やっぱり・・・ダメだよステラ。君は、ここで待ってて。」
「シン?」
「ステラは、戦っちゃダメだ。そういう、約束だからさ。少しだけここで待ってて。俺は大丈夫だから。」
「帰って・・・くる?」
「絶対に。帰ってきたら、綺麗な海の見える、戦いの無い平和なところに連れていくよ。そこで、のんびりと過ごして。ステラが安全なら、俺はなんでもいい。」
「ホント?」
「約束する。だから、待っててくれ。」
「・・・わかった。」
ステラが黙ると、シンはアスランたちを見回す。
「待たせてゴメン。行こう。」
言いながらシンは部屋を出て、屋上を目指す。屋上でメンバーがヘリに乗るとき、シンが俯いて自分に言い聞かせるように呟く。
「ステラは・・・俺の側にいちゃいけないんだ・・・また・・・戦いに巻き込むから・・・」
ステラを守りたいの願いつつも、自分がステラの側にいることはステラを戦闘に巻き込むこと、という矛盾がシンの心の中で渦巻く。そして、フェイトとアスランだけはその呟きを聞いてしまう。
「シンくん・・・」
アスランがシンに歩みより、その肩を叩く。
「シン、抱え込むな。そうしないための仲間だ。」
「・・・そうだな。」
「あそこにいる限り安全は保証されるはずだ。気にするな。そんな気持ちではミスをするぞ?」
「・・・ごめん。もう大丈夫だ。」
「乗るぞ。出発だ。」
「あぁ。」
シンとアスラン、フェイトもヘリに乗り込んでいった。
「みんな乗ったね?ヴァイスくん!お願い!」
「はいよ!!いきますよみなさん!!」
ヴァイスはストームライダーを起動し、目的地を目指す。離陸後、なのはが全員を見て言う。
「じゃあいいみんな?今回は警備任務だから、敵が来るかはどうかは分からない。でもね、十分に気をつけて欲しいの。」
「何を今さら?当たり前だろ?」
「そうなんだけど・・・今回はちょっと違うの。」
「なにが?」
シンの疑問にはやてが答える。
「隊長たちの魔力のリミッターがシングルSランクまで解除が許可されてるんよ。まぁ、なのは隊長たちのリミッター解除は私の仕事なんやけどな。それも含めてや。」
「え?」
はやてのその言葉に、六人は驚いたような不思議がるような顔をする。
「どうしてまた?」
「わからない。だから気をつけてほしいの。なにが起こるか分からないから。」
なのはの言葉に一同が強ばるが、はやてが努めて明るく言う。
「でも、解除されてる分私たちがみんなを守りやすいってことや。そんな緊張することやないで。」
「そうだよ。みんなはもう十分強いんだから、しっかりやれば大丈夫だから。」
はやてとフェイトの励ましをうけ、少しずつメンバーに落ち着きがとりもどされていく。
「さぁみんな!任務自体はこれが初めてになるから、気合い入れていくよ!!」
「「「「はい!」」」」
――その頃、スカリエッティ本拠地にて――
「みんな、そろそろ時間だ。いいか?」
スカリエッティのいつもより真剣な言葉に、メンバー全員が首を縦に振る。スカリエッティの顔つきも真剣そのものだ。
「重ねて言うが、今回の任務は敵勢力の把握、ロストロギアの奪取だ。二つとも、劣勢になったら任務を放棄して構わない。敵勢力把握にはラウ・ル・クルーゼ、ムゥ・ラ・フラガ、キラ・ヤマト、アウル・ニーダ、スティング・オークレー、の五名。ロストロギア奪取にはイザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、ラウ・ル・クルーゼの三名だ。なお、クルーゼはロストロギア奪取任務完了後は四名に合流。変更は無いな?」
「あぁ。それでいい。」

 

「よし。出発は十分後、ここに再集合だ。各自デバイス調整を怠らないでくれ。」
スカリエッティが言い切ると、イザークとディアッカが部屋を出ていくのを皮切りに、全員が部屋を出た。
「スカリエッティさん、いつにも増して真剣でしたね。」
「任務前のブリーフィングくらいはな。指揮官はあれくらいがちょうどいい。普段ならまだしも任務前に指揮官がいちいち"くん"付けなんて締まらないだろ?
そんなことよりストライクフリーダムは大丈夫なのか?」
「問題は無いです。DFSの長時間使用はさすがに少し堪えるかもしれないですけど・・・」
「それだけはどうしようもない。こっちは数で劣るからな。」
「ムゥさんも、アカツキは大丈夫ですか?」
「あぁ。両形態ともに異常無しだ。」
「だったら・・・やることないですね・・・」
「そんなもんだよ。」
それ以降何も話さなかった二人だが、突然ムゥが思い出したように言う。
「あ、俺はアウルとスティングの様子を見てくる。あいつらのデバイスの最終調整しなくちゃいけないしな。」
「なら僕も行きますよ。」
二人はアウルとスティングの元へ向かう。イザークとディアッカも、クルーゼと潜入の段取りの確認をしていた。そしてただ一人部屋に残っていたスカリエッティは不敵に笑う。
「さぁ。頑張ってくれよ機動六課諸君。楽しみだ。君たちがこの七人、いや五人に敵うのか。だが、五人位は倒してくれないとこちらも面白くない。」
スカリエッティは時間まで、ずっと不敵に笑っていたという―――

 

――六課到着後、ホテル・アグスタにて――
「私たちは全員外の警備だから、それぞれ四方から囲む感じで持ち場についてね。あ、エリオとキャロはスバルとティアナと同じ持ち場だからね。」
「「「「「「はい!」」」」」」
玄関側にシグナムとフェイト、玄関右側にはシンとアスラン、左側にはなのはとヴィータ、後方にスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、屋上にはやてとシャマル、リインがついた。
『オークション開始まではあと二時間ある。でも、絶対に油断しちゃだめだからね?』
全員その言葉に頷く。そしてその十分後、事件は起こった―――

 

突然、シャマルから全員に通信が入る。
『ホテル前方、魔力反応多数!!ガジェット数・・・十五!!』
『フェイトちゃん!!シグナムさん!!』
なのはが言うが早いか、フェイトとシグナムはガジェットの反応地点へ急行する。
『残りはホテル周辺の警備を厳重に!!まだ敵がいるかもしれないから!』
なのはのその通信に、アスランがシンに問う。
「シン、キラの反応は?」
「分からない・・・フリーダムの感じは無い。」
「違うなら違うでいいんだが・・・」
「でも、これだけじゃないんだろうな。」
その直後にシンが前線に出た二人に通信を入れる。
『フェイト!シグナム!そっちはどうだ!?』
『ガジェットの反応を確認。視認はまだだけど、見つけ次第破壊するよ。』
『了解!』

 

「来たか・・・イザーク、ディアッカ、用意はいいか?それに、ガジェットとともに行くのは?」
クルーゼの問にキラが答える。
「僕が行きます。」
「だが、一人というわけにはいかないだろう。」
「だったら、前線に出たのは俺、ホテル側はキラとアウルにスティングでいい。」
ムゥがその場を取り仕切る。
「ガジェットを転送した直後にホテル内に転送する。警備の都合から、イザークとディアッカは少し離れたところになるが大丈夫だな?」
「はい!!」
その後にキラが戦闘開始を宣言する。
「ジン五機とザク十機が交戦を始めました。」
「よし、行くぞ。プロヴィデンス!!」
『Yes,sir』
クルーゼは魔法陣を展開し、転送魔法を開始する。
「任務成功を祈るよ。」
次の瞬間、のこりのガジェットジンとガジェットザク、キラ、アウル、スティングが消え、しばらくしてからイザーク、ディアッカが消えた。

 

クルーゼが転送魔法を開始した瞬間、キャロのケリュケイオンが反応する。
「これは・・・」
「キャロ?どうしたの?」
エリオが心配気にキャロに訊ねるが、それに答える代わりに全員に通信を入れる。
『敵の転送魔法を確認!・・・ホテル正面に何か来ます!!』
直後、ホテル正面にザク十機とジン十機が現れる。しかし、キャロが確認出来たのは"ホテル正面"のみ。
『ちっ、こっちにもいるぞ!!フェイト!シグナム!』
それをみたシン舌打ちをして二人に通信を入れる。それを聞いてフェイトとシグナムも後退しようとしたがそれもスカリエッティ側の思う壺、ムゥが姿を現す。
『ごめん。こっちも挟まれたみたい。そっちだけででなんとか出来る?』
『くそっ・・・分かった!』
それだけ言ってシンは通信を切り、ガジェットの転送地点へと向かう。
「デスティニー、頼む!!」
『Of course』
シンが到着すると、既になのはとヴィータ、アスランがガジェットと交戦していた。「アスラン!敵の数は!!?」
「今いるのが二十機!ザク十機にジン十機だ!!」
「わかった!!」
シンもガジェットと交戦を始める。キラたちは、木陰からそれを見ると出撃の準備をする。
「ストライク、フリーダム、行くよ。DFS発動!!」
『Device Fusion System.Strike Freedom Set up』
「キラ・ヤマト、フリーダム!行きます!」
「アウル・ニーダ、アビス!レイダーパック!!出るよ!」
「スティング・オークレー、カオス!フォビドゥンパック!!出撃する!!!」
まず先にスティングが特攻を仕掛けにいく。その後ろにアウルとキラが続く。
「この感じ・・・フリーダムか!!」
シンが最初に三人の存在に気付くが、その時には既にMA形態のカオスのカリドゥス改からビームがなのはに向けて発射されていた。
『Protection』
レイジングハートがはった障壁により防がれるが、スティングはそのままなのはに突っ込んでいく。
「ニーズヘグ!」
『Get set』
フォビドゥンに装備されていた近接用の鎌を出し、さらにカオスに装備されていた膝と足に魔力を流してビームクローを出す。そしてそのままなのはに突っ込み、寸前でMSに形態を変える。
「おらよ!!」
元々強襲用や電撃侵攻用に設計されたフォビドゥンとカオスなので、こういう先制には強い。更に、近接、中距離、遠距離の全ての武装をまんべんなく所持しており、武装という点から見るとシンのデスティニーやアスランのジャスティスにも引けをとらない程だ。
鎌による斬撃からの膝と足のビームクローの蹴撃、という今までに無い独特の攻撃パターンにさすがのなのはも苦戦を強いられる。しかしもう少しでなのはの守りを突破出来る、というところでスティングはカオスをMA形態にしてその場から離脱する。
「ちっ、そこまで甘かねぇか・・・」
スティングがいた場所の周りを囲もうとしていたヴィータが舌打ちをする。
「ったく、あぶねぇぞスティング。」
一人で敵の中心に突撃した人間が敵囲まれるのは時間である。突撃に長々と時間をかけていては逆にこちらが袋小路にされる。スティングはそれをわきまえ、早々に諦めて撤退したのである。そしてその直後、アスランがキラに向かって飛び出す。
「キラ!!どうしてお前がここにいる!!?なぜレリックを狙った!?」
「アスラン!!?」
アスランはジャスティスのラケルタサーベルを取り、キラに向かう。
「答えろ!!どうしてまた俺たちは敵対しなくちゃならないんだ!」
「くそっ・・・」
キラは迎撃のためにビームライフルでアスランを牽制する。
「帰るためだ!僕たちのいた世界に、帰るために!!あれが必要なんだ!!」
「なに?」
「今むこうの世界には僕も、君もいないんだ!!そしたら、ラクスは!?カガリは!?心配じゃないの!!?」
アスランは攻撃の手をやめ、しばらく黙考する。キラもその間手を出さなかった。
「でも・・・・でもな・・・そのレリックの魔力の不安定さがどれほどの人たちを危険に巻き込むことになるかかんがえたことがあるか!!?」
「君は、帰りたくないのか!!?あの世界に!」
「本気で言ってるのかキラ!!自分さえよければそれでいいのか!?お前はそんなやつじゃないはずだ!俺だって帰りたくないか、と訊かれて否定は出来ない。でもな!今のお前のような考えはしない!!それにカガリだって、ラクスだって、そんなに弱い人間じゃないだろう!!」
「でも・・・でも!僕は心配なんだ!こっちに来てからもう一年くらいになるけど、むこうに帰る方法は分からなかった。そして、やっと見つけたんだ。チャンスはこれだけかもしれない。これを逃したら、もう帰れないかもしれないんだ!!!アスランは、それでもいいの?」
「・・・」
「僕は戻る。何があっても、絶対に。そのためにレリックを集めるんだ。」

 

「・・・ジャスティス、セイバー、DFS発動。」
『Device Fusion System.Infinit jastice set up』
アスランは一度俯き、顔をあげてキラの顔を見る。その顔には憤怒がみてとれる。
「ふざけるなよキラ・・・いくらお前でも、それは許さない!!お前の願望のためにたくさんの人たちが危険にさらされるんだ!どうしてそれが分からない!!?」
アスランはキラに攻撃を開始する。
「分かるよ!君の言ってることも分かる!ロストロギアが危険なことも知ってる!でも、戻るために・・・ここで退くわけには・・・いかないんだ!!」
キラもラケルタサーベルを持ち、アスランに迫る。
「今回は・・・お前の味方にはなれそうにないな!!」
お互いにラケルタサーベルでの剣撃の応酬が続く。時にはビームライフルでの銃撃もあったが、やはりドラグーンによってキラが優位に立ちつつあった。
「アスラン!!」
それをみたヴィータがアスランの援護にまわるべく鉄球を打ち出してキラの攻撃を一度止める。
「なにやってんだよお前!!あんな堂々と行っておきながらこれかよ。」
「悪いなヴィータ。そっちは?」
ヴィータはキラを見たまま答える。
「なのはたちなら問題ねぇ。さすがにニ対六で負けるほど柔じゃねぇからよ。だからあたしがこっちに来たんだ。」
「そうか・・・問題はこっちってわけだな。」
一度そこで言葉を切ってから続ける。
「あいつのドラグーンはやはり厄介だ。後は機動力。あれはデスティニーか、それ以上の出力が出る。どうする?」
アスランはヴィータの反応を待ったが、ヴィータは未だにキラを睨みがなら言う。
「だったら、ドラグーンをぶっ壊してからだろ。アイゼンなら一撃で粉々だ。」
あまりにも単純な答にアスランは苦笑ぎみに言う。
「そうか。なら、俺はキラを狙うから、バックアップとドラグーンの破壊頼むぞ?」
「あぁ、まかせろ。」
アスランは再度キラに突撃する。またキラとアスランの剣撃の応酬が始まるが、それをヴィータがその少し上から見る。
「よし、いくぞアイゼン!!ギガントフォルム!!」
ヴィータが巨大化したグラーフアイゼンを振りかぶる。
「ギガント・・・ハンマー!」
そしてそれをおもいっきり降り下ろした。
『もうちょっとましなやり方は無いのか!?』
アスランが通信で抗議するがヴィータは取り合わない。
『うっせー!!とっとと避けろ!!』
直後にアスランはそこを離脱する。
「くそっ!!」
キラも離脱を試みるが、ドラグーンを全てグラーフアイゼンの攻撃圏から出す余裕は無かったので、ドラグーンの残りの魔力でヴィータを狙う。しかし、ドラグーンからヴィータの間には巨大化したグラーフアイゼンがあり、ビームは全て阻まれる。
「ふん!!!」
地面までグラーフアイゼンを降り下ろしたヴィータは、それを元のサイズに戻す。そして浮遊するドラグーンの数を確認する。
「一、ニ、三、・・・七個か・・・ちっ。」
キラは残ったドラグーンを一度翼に格納する。欠けた三つの部分からは蒼の魔力が出ている。
「キラ!デバイスを解除して投降しろ!!」
「くそ・・・」
キラは横目でアウルとスティングを見る。二人も、さすがに六人相手には苦戦を強いられていた。
(僕はいいけど、ニ対六はさすがに・・・)
考えた末、キラはクルーゼに撤退を要求する。
『こちらキラ・ヤマト。状況が不利なので一時撤退します。いいですか?』
『分かった。そこにいたまえ。』
クルーゼに通信を入れたキラの真下にクルーゼの魔法陣が現れる。アウルとスティングの真下にも同様の魔法陣が現れた。
「おい!キラ!!何を・・・」
しかしアスランの呼び掛けの途中、キラたちの姿は消えてしまう。
「アスラン!」
アウルとスティングを見失ったシンたちも、アスランのもとに飛んできた。
「いきなり消えたけど、何があったんだ?」
「分からない。だが油断は出来ない。」
ヴィータが思案気な顔をしたまま答える。
「多分、劣勢になったから退いたんだろ。あいつに焦ってる感じは無かった。多分、勝てないのを承知で来たな。」
「なんで?」
「わかんねぇ。こっちの戦力を知りたかったか、囮か・・・」
"囮"という言葉を聞いた瞬間、なのはがはやてに通信を入れる。
『はやてちゃん!!ホテル内のロストロギアは!!?』
『え?ちょっと待ってな・・・今調べさせるから。』
なのははそこで通信を切り、フェイトに繋げる。
『フェイトちゃん!!そっちは!?』

 

『なのは・・・ごめん・・・さっきまではこっちがおしてたんだけど・・・逃げられちゃった。』
画面越しのフェイトは気にもたれ掛かり、肩で息をしていた。
『どういうこと?』
『戻ろうとした時に敵に挟まれて、ガジェットはシグナムがなんとかしてくれたんだけど、その人に仲間がいたみたいで・・・今ちょっと現れて、その人を連れて消えちゃったんだ。』
『まて、そいつらはどんなやつだった?』
その通信にアスランが割ってはいった。
『えぇと、最初にいたのはネオ・ロアノークだった。あとから来た人は同じ金髪だったけど、銀の仮面をしていて・・・』
(クルーゼ隊長!?)
内心焦るが、表には出さずに訊ねる。
『見たのはその二人だけか?』
『いや、仮面の人はなにか通信をしてて、銀髪のおかっぱ頭の人と、茶髪の人がいたみたい。アスランくんと同じくらいの歳じゃないかな?』
(まさか・・・いや・・・そんな・・・)
『そうか、ありがとう。』
『知り合い?』
『いや・・・まさか。』
アスランは通信を切り、全員に言う。
「まだ敵が来るかもしれない。持ち場に戻った方がいい。」
「そうだな。みんな戻った方がいい。」
シンもそれに同意し、その場を去ろうとした時はやてから全員に通信が入った。
『大変や!ホテル内に保管されてたロストロギアのいくつかが、何者かに奪われたらしい!!』
『なっ・・・』
『監視カメラもほとんど壊されとったんやけど唯一残った物があってな、それに映っとるよ!今データからを送るから!』
そして各々のデバイスがディスプレイにそれを映す。そこに映っているのは、銀髪の男と茶髪の男が走っている姿。手にはハンドガンを持っている。アスランには見慣れた姿の二人だ。
「そんな・・・イザーク・・・ディアッカ・・・ということは、本当にクルーゼ隊長?」
アスランは驚愕を隠せない。かつての戦友が三人も敵対していることになるのだ。それに自分が所属していた隊の隊長までいる。
「アスラン?どうした?」
シンが心配そうに除きこんでくるがそれも目に入らない。ただ呆然と立ち尽くす。少しして、平静を装ったアスランが言葉を絞り出す。
「シン、持ち場に戻るぞ。」
「あ、おい。アスラン・・・」
「どうした?敵はまだどこかに潜んでいる可能性がある。警備を厳重にする必要がある。」
アスランはそれだけいうと、元々いた場所へと歩いていった―――

 

状況は男の心を容赦なく揺する。もちろん男の気持ちなどかまいもせずに。そして男の次なる選択は――

 

次回、シンとアスランの魔法成長日記第七話