魔法成長日記_07話

Last-modified: 2010-06-17 (木) 19:59:37

――ホテル・アグスタ後方、森林内にて――
「だいぶ手こずったようだな。キラ・ヤマト。」
「すみません・・・」
言いながらキラは俯く。先程の戦闘は完全に彼の不注意、いや慢心だった。ストライクフリーダムの武装の多さ、デバイスとしての性能に過信してしまったキラのミス。なんとも彼らしくない失敗だった。
「もう一度、いきますか?」
「さぁ、スカリエッティに訊いてみるさ。」
クルーゼはそのまま通信を入れ始める。すると、ムゥが隣から声をかけてくるのが聞こえた。
「そんな気にすることじゃないだろ?たかがドラグーンの三つくらいで。」
「でも、僕がもうちょっとしっかりしていれば、彼らの援護も出来たかもしれません。ニ対六なんていう戦いを押し付けておきながら、僕は一対ニで足止めされたんですから・・・」
あくまで自分が原因だと謝るキラにムゥが嘆息する。
「別にお前が反省する、ってんならそれでもいいさ。でも、今考えなきゃならないのは次、この後どうするかだ。帰還するか、もう一度出撃するか、出撃するなら七人全員か五人か、とか色々あるだろ?」
「・・・はい。」
キラが答えたところで、スカリエッティと通信をしていたクルーゼが口を挟む。
「すべて私に任せるそうだ。帰還も良し、再出撃も良し。出撃するなら、イザークとディアッカを寄越すらしい。」
「あくまで現場の指揮官はお前ってか・・・」
「そうらしいな。」
そこで三人は黙って考え込み、しばらくしてムゥがクルーゼに訊ねた。
「オークション開始までの時刻と、ホテル前の警備の状況は?」
「オークションまでは後三十分といったところか。警備は・・・これだな。」
クルーゼのデバイスからモニターが出現し、ホテル前の映像が流れた。
「お前、いつの間にこんなものを?」
「ザクの一機に小型のカメラを持たせてな。そのへんの樹に付けてくるようセットしただけだ。」
「でもこれは・・・」
モニターにはホテル正面の映像しか流れてはいないが、人員が増えていないことから、警備を強化している様子はうかがえない。
「増援を呼んでないなんてことは・・・」
その言葉をムゥが継いで答えた。
「ないだろうな。まだ到着していない、と考えるのが妥当だ。」
「なら、決断は急がないといけませんね。」
「そうなるな。どうする?」
ムゥがキラに問いかけるとキラはしばし黙考し、結論を下す。
「・・・行きましょう。」
その問にクルーゼは、意外だ、と言いたげな顔をした。
「ほう?やけに積極的だな。レリックがらみの事しか関わらないのではなかったのか?」
「はい・・・でも、僕は・・・もう一度、アスランと話がしてみたいんです。」
「なるほど。やつをこちらに引き込みたいのか?」
「それが出来るなら、いいですけど・・・でもアスランにはアスランなりの何かがあると思って・・・なぜ彼が管理局にいるのかとか・・・それが知りたいんです。」
そう言うキラの顔を見てクルーゼが微笑する。
「ふっ、なるほどな。だが、全員出撃ではこちらの戦力もむこうに知れることになる。」
しかし、クルーゼの懸念はムゥによって解消される。
「いや、それはもう知られてるだろう。むこうにアスランとデスティニーの、シン・アスカがいるってことはこっちのデバイス、要するにMSの性能は分かってるはずだ。実際、俺と戦ったやつも砲撃魔法はしなかった。多分アカツキの装甲の事を聞いたからだろう。まぁ、ただ単に使えなかっただけかもしれないが、あからさまに近接戦闘のみだったな。」
「じゃあ、僕がドラグーンを先狙われたのも・・・」
「おそらくな。」
「なるほど・・・それならそれでかまわないさ。行くぞ、懸念材料は無くなったんだ。急がないと応援がくる危険がある。」
クルーゼは早速転送の準備を開始する。
「スカリエッティにも今連絡を入れた。じきにイザークとディアッカも来る。行くぞ!」
その直後、五人の下に灰色の魔法陣が現れた、皆姿を消した。

 

―ホテル・アグスタ正門前にて――
「また・・・」
手のケリュケイオンの反応を見たキャロが呟き、またもや全員に通信を入れた。
『敵の転送魔法と思われる反応をキャッチ!ホテル前方です!!』
その通信を受けて全員が警戒を強める。
『スバルとティアナは後方警備を続けて!シンくんとアスランくんはホテル正面へ!!』
なのはの命令がとぶと、全員が行動を開始する。しかしスバルとティアナ以外がホテル正面についても、敵の姿は見えない。
「キャロ、本当に転送魔法か?」
「そのはず・・・なんですけど・・・」
キャロが首を傾げていると、シャーリーから通信が入る。
『ホテル前方、強力な魔力反応!!数・・・七!先ほど現れたものの反応もあります!敵主戦力の可能性が高いです!』
通信から少し後、前方から人影が現れる。
「来たか・・・」
アスランたちと反対側から、彼らは隠れる気もなく堂々と歩いてくる。左からアウル、イザーク、ムゥ、中央にキラ、クルーゼ、ディアッカ、スティングの順に並んでいる。それを見たアスランが六課の中から一歩前へ進み出た。
「なにをしに来た?」
「アスラン・・・僕たちと来るつもりは、ないの?」
キラが問い直すと、アスランは断固とした表情で言い切る。
「ない。お前たちこそ、どうしてロストロギアを集めるなんて馬鹿げたことをするんだ?イザークも、ディアッカも、クルーゼ隊長まで。」
「アスラン、貴様・・・もう戻れなくてもいいのか!!?一生こんな世界で過ごすつもりか!!?」
イザークがたまらず叫ぶが、アスランもそれくらいでは退かない。
「お前たちこそ、この世界の大量の人たちを危険に晒していくということを分かって言っているのか?それほどの人たちを犠牲にしてでも、戻るのか?」
「分かっている!封印していないロストロギアが不安定で何が起きるか分からないことくらい!!」
「それでも止めるつもりはないのか?」
「これしか無いんだよ!今まで戻る方法をずっと探してきた!でもこれ以外見つからない!!」
「・・・そうか・・・」
アスランは俯いて悔しそうに歯噛みしながら、インフィニットジャスティスのサーベルに魔力を流す。
「だったら、俺はお前たちを止めるだけだ。」
「アスラン・・・貴様ァァ!!!」
業を煮やしたイザークが飛び出そうとしたがムゥがそれを制し、アスランに質問を投げ掛ける。
「なら、お前は戻る気はないのか?」
「ないわけじゃないさ。だが、お前たちは方法を間違えている。だから止めさせる。」
そこでディアッカがアスランに問う。
「なんで、コーディネイターのお前たちがナチュラル、いや管理局のところにいる?この世界にむこうみたいな技術はない。
もし分かったらお前たちは実験モルモットだ。じっくり調べられて終わりだろ?向こうの世界ならまだしも、こっちの世界でコーディネイターの味方はいないはずだ。」
(そこでその話を持ち出すか・・・)
アスランは内心焦りながら答える。
「意外と、そうでもないさ。お前たちの前に"ナチュラル"はいないかもしれないぞ?」
アスランのはったりにディアッカは少し驚いたような顔をする。
「何?」
「何にせよ、これ以上お前たちにレリックは渡さない。今ここで止めさせる。キラ、もう一度訊く。考え直すつもりはないのか?」
「・・・ごめんアスラン。」
それを聞いたアスランは心底残念そうに呟く。
「お前が自分のために周りを犠牲にするような野蛮なことをするとは思わなかった。」
キラも苦々しい顔で言う。
「君の言いたいことも・・・わかる。それでも・・・やっぱり、戻らなくちゃならないんだ。それに、必ず犠牲が出るって決まったわけじゃないでしょ?やる前から諦めたくはないんだ。これが、唯一の方法かも知れないから。」
「・・・だったら、力でお前たちを止めるまでだ!!」

 

アスランは両手にサーベルを持って突撃し、シンもそれに続く。少し遅れて残りのすべてのメンバーも展開する。
「はぁあぁああぁぁあああぁ!」
アスランの叫びながらキラに斬りかかるが、キラはそれを紙一重で交わしてカウンターを合わせようとする。
「シン!!」
「分かってる!」
アスランが言うより早く、シンはブーメランを投擲してそのまま突進、キラとアスランを離そうと試みる。
「ちっ・・・」
ブーメランを防ぐとシンの大剣の餌食になると考えたキラはそのまま回避、ドラグーンを四個射出する。
(さすがにこのペアは辛いかな・・・)
『ムゥさん、シン・アスカの方をお願い出来ますか?』
『分かった。』
通信の後ムゥはシンにむけてドラグーンを飛ばし、注意をひく。
「お前の相手は俺だ!」
『アスラン!』
『行け!キラは俺がやる!』
『了解!』
シンはムゥに誘導されて離脱する。すると、キラがアスランに向けて叫ぶ。
「アスラン!君も戻るべきだ!!カガリの事はどうするの!!?オーブで一人あんなに頑張ってたカガリを置いたままこっちに居続けるの!?」
「カガリはそんなに弱い人間じゃないさ。勿論彼女の事は心配だが、独りじゃない。俺は信じてる。カガリを、カガリの強さをな!」
アスランはその言葉尻に力をこめてサーベルを振り抜く。その勢いを殺しきれなかったキラは後方に飛ばされ、アスランが追撃を試みる。
「くっ・・・この!!」
腰のカリドゥスの照準をアスランに合わせて発射し、二挺のビームライフルからも乱射する。しかし、スピードのついたアスランはその程度では止まらず、サーベルを持ったままキラの懐に入ることに成功する。
「はぁぁああぁ!!」
気合一閃、振り抜いたサーベルは直撃こそしなかったものの、回避し損ねたキラの、腰から突き出ていたクスフィアスを一つ破壊する。キラはそのままよろけて後退する。アスランは更なる追撃を加えようとするが、キラのドラグーンに行く手を阻まれる。
「ごめんアスラン・・・僕も、もう決めたんだ。」
――パキーーン――
ついにキラがS.E.E.Dを発動させる。落ち着きを取り戻し、瞳は真っ直ぐアスランを捕らえている。S.E.E.D発動に伴い魔力も増加する。
「ドラグーン射出!!」
そして、破壊されるのを恐れて今まで小だしにしていたドラグーンを七つ全て射出、蒼の魔力の翼を形成する。そしてその持ち前のスピードを生かしてアスランに急接近する。
「ちぃっ!」
後退は無意味と悟ったアスランもキラに接近してサーベルでの迎撃にでる。しかし、S.E.E.D発動中のキラにそうでないアスランが敵うはずもなく、すれ違い様にフォルティスを一基破壊されてしまう。キラはさらにそのままアスランの背中をロックオンする。
「ドラグーン、フルバースト!!!」
『Full burst』
キラの周囲にあったドラグーンと腹のクスフィアス、腰の一基のカリドゥス、二挺のビームライフルから魔力の奔流が放たれ、インフィニットジャスティスがアスランに警告する。
『Warning.』
「何!!?」
アスランが振り向いた時にはすでに回避不能の位置までビームが来ていた。アスランは覚悟を決め、シールドに大量の魔力を流して防御に徹しようとした。
が、次の瞬間アスランは左に吹き飛ばされた。"桜色の魔力"によって―――
――Side Vita――
全員が展開した後、ヴィータは敵をぐるっと見渡し敵の特徴を把握していた。
「たしか、金のやつが砲撃跳ね返すんだな。で、なのはが言うにはあの鎌野郎が砲撃を歪めて、仮面のやつはドラグーンくらいか。で、さっきのやつが一番つえぇんだよな。にしても、あの銀髪と茶髪、さっきはいなかったよな・・・」
"銀髪と茶髪"、イザークとディアッカは今フェイトとエリオ、キャロと戦っている。しかし、ヴィータが見る限りフェイトたちは劣勢ではなく、むしろ優勢といったところ。時々エリオが危機に陥るが、フリードとフェイトの助けもあり、わざわざヴィータが出向くほどでもない。
「やっぱあっちか・・・」
言いながら見たのはスバルとティアナ。
二人はアウルとスティングを相手にしているが、お世辞にも互角とは言えない状況だった。スバルは近接戦闘ではスティングに確実に押されている。ティアナもアウルに手一杯でスバルの援護にまわれていない。二人とも通信で作戦を練っているが、そう好き勝手にはやらせてくれない。
『今援護に行く!!』
その様子を見たヴィータはそれだけ言って通信を切り、スバルの方へ飛翔する。

 

「アイゼン!!」
ヴィータは鉄球を四つ召喚し、アウルとスティングに向かって打ち出す。もちろんヒットはしないが、攻防が一時中断される。
「んだよ!!?」
アウルが新たな敵に戸惑うが、ヴィータは気にせずにスバルに近寄る。
「大丈夫かお前ら!?」
「一応大丈夫です。ありがとうございます。」
「それより今はあいつらをなんとかしなきゃなんねぇ。敵の特徴と対策は練れたのか?」
「敵に一番有効なのはやっぱりシルエットだと思います。あれなら大抵の敵を混乱させられます。だから、揺さぶってそこを叩けば一気にいけるかもしれないんですけど、私もその余裕が無いのが現状です。」
「だったら話は簡単だろ。ティアナは引っ込んで代わりにあたしが出りゃいいんだな?」
「そうなると、確かに優位にはたてるかも・・・」
「じゃあ決まりだ。あの青髪の方のやつの特徴は?」
「一言で言うなら支援型。近接型ではないです。後ろからの砲撃魔法が彼の戦い方です。ビームライフルも混ぜ合わせてパターンが変わったりしますが、狙ってやっている様子はありません。あと特筆するような武器や能力は今のところ無いです。」
「分かった。行くぞスバル!!」
ヴィータは簡潔に答えてすぐ行動に出る。
「はい!」
スバルとヴィータはアウルとスティングのところへ飛翔する。それに呼応してスティングが出て、アウルが下がる。
「なんかまた増えてるし!どうすんだスティング!」
「今まで通りだ!あの拳銃のやつに注意しとけよアウル!」
「分かったよ!」
スティングはカオスをMA形態にして、カリドゥス改でスバルとヴィータに狙いをつけた。
「再開だ!」
カリドゥス改からビームを放った直後、スティングはMAのまま旋回しビームクローと鎌を持つ。
「ちっ、ちょこまかとめんどくせぇ!アイゼン!!」
『Gigant form』
グラーフアイゼンの機械的な声とともにハンマーが巨大化、それを上に振りかぶる。
「ギガント・・・ハンマアァアアァァアァアアァ!!」
巨大な鎚を振り回すが、スティングはそれをほぼ無いと言って良い隙を縫うようにして避け、隙あらばカリドゥス改からビームを放ち、ヴィータとの間合いを縮めようとする。そして、それを見たヴィータがスバルとティアナに援護を求める。
「スバル!!ティアナ!」
ヴィータの怒号を受けて、二人はスティングの動きを制限すべく行動に出る。
『スバル!私が射った弾をやつがガードした瞬間に反対側からディバインシュータ―で決めなさい!!私たちだってやればできるはずよ!!』
『了解!』
ティアナにしては簡素な作戦だったが、スバルは了承し、ウィングロードを展開してスティングの側面に回る。ティアナはアウルにバレぬように木陰に隠れてスバルとティアナ、ヴィータの幻影をスティングの周りに生み出す。
「なに!!?」
「なんだよこれ!?」
さすがにスティングとアウルは動揺する。そこをティアナは見逃さず、懐にむけて魔力弾を撃ち始める。
『ヴィータ副隊長!!スバル!』
「おうよ!!アイゼン!」
ヴィータの一言でグラーフアイゼンはギガントフォルムからラケーテンフォルムに変わり、ヴィータが幻影の中から一気にスティングのもとへ突っ込む。
「吹き飛べ!!」
スティングは回避を試みるが、高速で飛翔したヴィータを見つけるのが一瞬遅れてしまい、ヴィータの方がスピードにのっていたためにスティングの速度を上回っており、すぐに懐に入られる。
「ちっ!」
回避を捨て、障壁によってアイゼンに耐える。しかし、すぐに右側からティアナのクロスミラージュから弾丸が射たれる。
「くっそ!!」
スティングがそれをシールドによってねじ曲げた瞬間、左側からスバルがスティングにむけてジャンプした。
「おぉおぉおおぉりゃああぁあぁあぁ!!!」
高速回転するマッハキャリバーでスティングを殴ろうとする。はたして、それは見事にスティングの脇腹にクリーンヒットした。
「まだ終わりじゃない!!」
スバルはマッハキャリバーを突き出したままさらにカートリッジをロードする。

 

「ディバイィイイィン、バスタァァアアァアアアァ!!」
スバルの掛け声とともに超至近距離からのディバインバスターが放たれようとした時、アウルのビームライフルがようやくスバルを捉える。
「見っけ!」
『スバル!右!!』
ティアナの通信と同時に振り向くと、二本のビームがスバル目掛けて来るのが見えた。
「しまっ!!」
攻撃が中断出来ないところまで来てしまっていたため、スバルは身動きがとれない。さすがにヴィータも反応しきれず、スバルはビームをがら空きの脇腹にもろにくらう。
「きゃあぁああぁあぁ!!!」
スバルはそのまま吹き飛ばされ、受け身もとらずに森の中に突っ込んでいく。
「スバル!!ちっ・・・」
ヴィータは攻撃を中止、スティングと距離をとる。
『ティアナ、スバルの安否確かめとけ!!。』
『大丈夫です。今通信がありました。ダメージは少ないのですぐに復帰すると。』
(嘘こけ・・・)
攻撃をくらって吹き飛んでおきながら"ダメージは少ない"わけはない。しかし、ヴィータはスバルに退くようには命じなかった。
「まず一人、ってか?」
アウルが挑発めいた笑いを浮かべてヴィータに言うが、ヴィータは冷静さを欠かぬよう努める。
「さぁな。だが、生憎あたしらはそんな柔でもないんだよ!!」
ヴィータは鉄球を打ち出すと同時にスティングとの間合いを詰める。
「望むところだ。」
スティングは鎌と脚部のビームクローを出し、鉄球を避けながらヴィータに迫る。
「はぁああぁああぁ!!」
グラーフアイゼンと鎌がぶつかり合い、スティングの蹴りをヴィータはスレスレで避ける。しかも、一ヶ所でモタモタしているとアウルのビームが飛んでくる。
(ちっ・・・手数が違いすぎんな・・・)
徐々に劣勢になるが、窮地に陥った時にはティアナの射撃に助けられる。
「誘導弾・・・ちっ・・・アウル!」
「おうよ!!!」
アウルはティアナの弾を逐一撃ち落とし始める。
『ヴィータ副隊長!!今のうちに!私もいつまで気を引き付けれいられるか・・・』
『分かってる!』
ヴィータはグラーフアイゼンを握り直し、スティングに迫る。
「何度やっても同じだ。」
スティングも鎌を持ってヴィータに迫る。お互いの鎚と鎌が交錯し、どちらも引けをとらなかったがしばらくしてヴィータが笑った。
(だったら・・・)
「はぁああぁああぁ!」
グラーフアイゼンにいっそう力を込め、蹴りをスレスレで避けて鎌と鎚の競り合いに持ち込む。
(重いな・・・)
蹴りに意識を持っていくとヴィータに押しきられると感じたスティングも、蹴りを止め競り合いに挑む。
『頼んだぜ?』
『はい!!!!』
それを合図にヴィータの前方、スティングの後方にウィングロードがひかれ始める。しかし、遠すぎるのでアウルとスティングは気づかない。
「いくよ。レディーーーー・・・」
スバルはクラウチングスタートの体勢をとる。
「ゴーー!!!」
そして、スバルが滑走を始めてスティングに大分近づいたところで、スティングよりも後方にいたアウルがスバルの魔力を探知する。
「またお前かよ!?」
しかしスバルがアウルには目もくれずに通り過ぎていった瞬間、スバルの狙いがスティングであることに気付く。
『ちっ!!スティング!後ろ!!!』
アウルがビームライフルでスバルをロックオンしようとするが、スピードにのったスバルは、アスランたちほどではないにしろ、速くてロックが間に合わない。そして、スティングもスバルの魔力を認めるが、もう回避は間に合わない。そっちに気をとられればグラーフアイゼンにやられてしまう。そして唯一の退路である後ろからスバルが来る。
「今度こそぉぉおぉおぉ!!!」
『Load cartridge』
マッハキャリバーがフル回転し、それで思いっきりスティングの頭を殴りにいく。
「ちぃっ!!」
スティングは苦し紛れに障壁を張るが、マッハキャリバーで瞬時に破壊される。そしてスティングの頭部に直撃し、今度はスティングが吹き飛ぶ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「スバル!とまんじゃねぇ!!!」
「え?・・・わ!!!」
後ろからのアウルの攻撃にギリギリで気付き、避けてからアウルに向き合う。が、すぐにティアナから通信が入った。
『スバル、そいつには真っ正面からいっても退きながら射ってくるだけよ。ちょっとあんたには分が悪いわ。』
『ど、どうすんの?』
『クロスシフトAよ。やるっきゃないでしょ?あんた、さっきのダメージ大丈夫よね?』
『もちろん!!』
『じゃあ、行くわよ!!!』
スバルはウィングロードをかなり大回りにひいていく。
「同じ手が二度通用すると、思うなよ!」
『Target Multi lock』

 

「おらよ!!!」
アウルはヴィータ、スバルに対して同時にビームを発射し始める。
*1
「でも、アスランの方がうめぇな!!」
ヴィータは前傾姿勢でアウルに迫ろうとする。
「ちっ、この!!」
アウルも退きながら応戦する。それにつられてスバルもさらに大回りする。
(証明するんだ。特別な才能や凄い魔力が無くたって、一流の隊長たちがいる部隊だって、どんな危険な戦いだって、
私は・・・ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって!!)
『スバル!!!いくわよ!!』
『了解!!』
『なんだ?』
そこでヴィータは初めてティアナを意識する。
『おいティアナ!おめぇ何するつもりだ!!』
「ふぅ・・・頼むわよクロスミラージュ・・・私だって、やれば出来るんだから。」
『Alright』
ティアナは魔法陣を展開し、周りに魔力球を生成する。そして二挺の拳銃を掲げ、掛け声と共に降り下ろす。
「クロスファイヤァァアアァ、シュート!!!」
魔力球が発射されたと同時に二挺ともにアウルに向けてさらに弾丸を発射する。

 

「魔力反応・・・下か!!!」
アウルはオレンジの魔力球を捉え、回避体勢をとるが後方からも魔力反応を捉える。
「またあいつかよ!!」
アウルはスバルに気を付けながらオレンジの魔力球の回避を試みる。しかし、魔力球はアウルの手前で急激に速度を上げた。
「な!!!?」
アウルは、彼の回避速度以上のスピードで迫る魔力球に対応しきれない。回避と迎撃を同時に試みるが、それもまた間に合わず直撃をもらう。
「がっ!!ぐっ!あがっ!」
計六の高速の魔力球がアウルに直撃する。
(あの青は囮か・・・ちくしょう・・・)
急所にいくつかもらってしまい、アウルの意識はだんだんと薄れていく。それに伴い、飛行を続けられずに墜落し始めた。しかし、アウルが最後に耳にしたのはスバルの絶叫だった。
「え?うわぁああぁああぁあぁ!!!」
スバルが叫ぶと、ヴィータがすぐに反応する。
「バカ!!!!」
アウルに避けられた流れ弾の一つが、スバルの滑走コースに入っていた。かなりの速度で後方から迫る魔力球にスバルは反応が遅れる。そして、ギリギリのところでヴィータが割り込み、グラーフアイゼンで魔力球を跳ね返す。しかし、次に聞こえたのはヴィータの怒号ではなかった―――

 

――Side Athurun&Nanoha――
『大丈夫?』
『あぁ、無事だ。助かった。だが、もうちょっとマシなやり方はなかったのか?』
『え・・・いや~~~、ごめんね。』
『まあいいさ。』
キラは砲撃の発射された方向を見やると、白のバリアジャケットに身を纏ったなのはが立っていた。
「あれは・・・」
バルトフェルドの映像に映っていた魔導師の出現にキラは気を引き締める。しばらくなのはを凝視していると、彼女から声がかかる。
「デバイスを解除して投降して下さい。それと、レリック収拾をやめてください。」
なのはの警告に、キラは堂々と答える。
「それは出来ません。」
「どうしても?」
「あなたたちと戦ってでも、あれは手に入れなきゃならないんです。」
キラはなのはから目を逸らそうとはしない。
「戦わないですむ方法をさがすわけにはいかないの?」
「それがあるなら僕もそれがいいです。僕だって戦いたいわけじゃありません。」
「だったら・・・」
「でも、そんなにのんびりしているわけにはいかないんです。今そこに手段があるのに、やらないなんて出来ません。」
「そんなに急ぐ必要があるの?」
その言葉にキラの顔が少し陰るが、直ぐになのはに向き直る。
「・・・向こうで待ってる人がいるんです。」
なのはは、キラのその瞳に覚悟を見た。何があっても譲れない、と物語っている瞳をキラは宿していた。それはアスランにも分かった。いや、アスランの方がよくわかっていた。
「そう・・・でも、私たちも退けないんだ。あなたたちを、捕まえなきゃならない。今回もまたロストロギアが奪われたみたいだし。」
言い切ってなのはレイジングハートを構え直す。
「・・・なら、仕方ないですね。」
キラは一つ深呼吸をし、右手にビームライフル、左手にラケルタサーベルの片一方を持ち、アスランとなのはを一瞥する。
「僕は、あなたたちを倒してでもレリックを手に入れて元の世界に戻る!!!」

 

――その時ホテル内にて――
『なぜ阻止しなかったんだバルトフェルド!!』
画面越しにカガリに怒鳴られたバルトフェルドは、ただただ謝罪を続けていた。
『すまない。まったく気づかなかったんだ。転送魔法が使われた形跡はオークション会場だけだった。一応俺とハイネで別れたが、ハイネが行った時には既に盗られた後だった。』
画面越しにカガリは頭を掻く。
『あぁ・・・まぁ終わったことをどうこう言うつもりはない。だが、奪取した者くらいは分かったのか?』
『それは大丈夫だ。モニターに映っている。イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマンの二名だ。コズミック・イラからの転移者で、二人ともザフト軍パイロット。ディアッカはヤキン・ドゥーエの時に共に戦ったこともある。』
『あぁ、あのバスターのパイロットだな?』

 

『そうだ。あの二人がロストロギアを奪取した。その後の足取りは不明だが、もしかしたら外で六課が見つけているかもしれない。いかんせんあっちとは通信が上手く出来ないから外の状況はいまいち分からない。だが、外が狙われているなら中を狙われるかもしれないし、迂闊に外には出れない。』
『外ははやてに任せてあるからいいが・・・にしてもなぜ奪われた?お前たち二人をそこまで欺いたその二人はなんだ?』
『分からない。だが、ロストロギアの場所などはすべてわかっていたらしい。輸送トラックの場所さえバレていたんだ。かなり計画的に練られた作戦、というのは分かる。内通者がいるか、通信か何かで外から指示を出していたか・・・だな。』
『なるほどな・・・内通者か・・・考えたくないが・・・』

 

――時は遡り、ロストロギア奪取時ホテル内にて――
――Side Izark――
「とりあえず潜入成功、だな。」
イザークとディアッカはクルーゼから支給された暗視ゴーグルを付け、麻酔弾を装填してあるハンドガンを握る。ハンドガンにはサプレッサー――消音機能――付きだ。
『こちらラウ・ル・クルーゼ。繰り返す、こちらラウ・ル・クルーゼ。この通信は、敵の傍受を防ぐべく私から君たちへの一方通行だ。これからロストロギアのところまで君たちをナビゲートする。』
そこで一度切れ、すぐにまたクルーゼからの通信が入った。
『まず、君たちの今いる場所はホテル地下の端だ。地図のデータはすでにデバイスにあるはずだ。』
『しかし、目的地まではさほど遠くはない。感知済みの魔力反応は十といったところだ。』
その言葉を聞いて、ディアッカがイザークに問いかけた。
「十人か・・・イザーク、俺たちの弾数はそれぞれ六発ずつだったよな?」
「いや、予備の弾倉を貰ってある。敵に見つからない限り弾切れを心配する必要はない。」
『行くぞ。まずは目の前の突き当たりを左だ。敵は二だな。通路の右側に柱がいくつかある。それを上手く使って隠れてくれ。眠らせてもいいが、その時に他の兵に気付かれるなよ。時間は一分だ。』
*2
胸の内で返事をした後、二人は行動に移る。二人は低姿勢を維持して進み、ディアッカが壁から少し身を乗り出してこれから通る通路の敵を確認する。
「二人は・・・あれか・・・壁づたいに見回っているのか。」
「いけるか?」
「あの廻りだと、二人は辛いな。少し待ってろイザーク。」
「分かった。」
ディアッカは、二人がそれぞれ通路の中間に行った時に一番手前の柱の裏側に移動する。そして、右側の敵がディアッカの隠れる柱付近に来ると、ディアッカは柱の左側に移動し、そのまま柱の前に出て敵の後ろをとった形になる。
(ちょっと寝ててくれよ!!)
敵に麻酔弾を撃ち込み、倒れるまえにディアッカが支えて音をたてないようにする。そして、イザークに"来い"というハンドサインを出す。
「もう一人は任せるぞ。」
「あぁ。」
熱源を示す暗視ゴーグルを頼りに敵を見つけ、ハンドガンを構える。その距離およそ三十メートル、敵はイザークには気付いていない。
「よし・・・」
狙いを付けたイザークが引き金を引くと、見事に敵に命中する。
「急げ!!」
足音に気を付けながら眠らせた兵士のもとへ行く。と、通路の曲がり角から足音がした。
「どうした?」
時折ライトの光が通路を照らすが、既にイザークとディアッカは柱の裏にいた。
「なにやってんだよイザーク!」
「ちっ・・・わるい。まさか気づくとはな。」
「どうすんだ?」
ディアッカが小声で問うと、イザークは冷静に答える。
「俺が飛び出てやつの気をひく。そしたらそっちからお前が撃て。やつが俺たちを敵だと認識するまでが勝負だ。」
「・・・わぁった。」
「行くぞ・・・三・・・二・・・一・・・」
イザークがポケットに入れていたコインを床に放り投げる。チャリーン、という音がしたと同時にイザークが柱の外に歩み出る。
「ん?おい君!こんなところでなにをしている!!?が!?・・・」
男がイザークを見つけ、そちらに気をとられた直後、ディアッカが柱の反対側から麻酔弾を撃った。
「よし・・・見つかってはいないな?」
「一応な。」
二人が一段落すると、クルーゼから通信が入った。
『魔力反応が消えた、ということは上手くいったみたいだな。よし、次は・・・』
二人はそのままロストロギアのもとへと進んでいった――

 

――Side Baltfeld――
「ちっ・・・やっぱり来たか・・・」
転送魔法を感知したバルトフェルドは愚痴りながらも会場内の警備を強化するよう命ずる。
「俺たちはどうするんだ?」
ハイネの疑問にバルトフェルドはしばし悩む。
「ここのロストロギアは二つに別れてる。オークション用か密輸用か・・・狙われるとしたら・・・」
「転送された場所からすると・・・オークションだな。」
「やっぱりそう思うか?」
「さすがにここから密輸用のロストロギアは狙えないだろう。」
「だが、逆になんらかの方法で密輸用のロストロギアを狙われたら・・・」
「深読みし過ぎで普通に盗られました、なんて笑い事にならないぞ?」
「確かにな・・・」
いまいち納得がいかない、というバルトフェルドを見てハイネが一つ提案をする。
「・・・そんなに心配なら、俺たちが別れればいい。俺が密輸用のロストロギアを見てくるから、バルトフェルドがオークション用のロストロギアを見ればいい。」
「・・・そうするか。」
バルトフェルドは渋々といった顔で承諾する。
「よし。だったら俺は向こうを見てくる。」
ハイネはそう言い残してその場を去り、バルトフェルドも続いてその場を去った――

 

――Side Izark――
「よし・・・これで八人目・・・」
イザークは確認しながら呼吸を整える。
「次の通路がラストだ。」
ずっと隠密行動をとりながらすすんだ二人の精神的にかなりきていた。しかし、それに追い討ちをかけるようにクルーゼから通信が入る。
『順調なところすまない。敵の魔力反応を探知した。数は一だが、急いでくれ。増援が来てしまってはこちらに勝ち目は無い。』
「くそ・・・」
悪態をつきながらイザークは目指す通路を見やる。
「一気に行くぞディアッカ。」
「どうやって?」
「突っ込む。」
「はぁ?」
イザークの即答にディアッカは理解に苦しむ。
「モタモタしてる暇は無い。行くぞ。ついてこい。」
「ちょ、おい、イザーク!」
イザークは駆け出しながら、反対の壁にコインを投げつける。そして音の方向に敵兵が音のした方――イザークとディアッカの反対側――に振り向いた瞬間、イザークは速度をあげる。そして、手前にいた警備の延髄目掛けてチョップを繰り出す。そして、足音に気づいた別の兵が振り向いた瞬間、ディアッカが麻酔弾を撃ち込んだ。
「よし、そのトラックだ。ディアッカ、頼む。」
「はいはい。」
ディアッカはトラックの積み荷から指定されたロストロギアを全て回収し、イザークにオーケーサインを出す。
『奪取したな?そしたら元いた場所に戻ってくれ。そこで転送する。』
聞くや否や、イザークとディアッカは駆け出して元来た道を戻っていく。そしてハイネがそこに着いたのは、イザークとディアッカが転送された後だった――

 

――現在、ホテル内にて――
「だから、ハイネが行った時には既に盗られた後だった、ってわけだ。で、ハイネが言うにはそこにいた警備兵は全員眠らされてたんだそうだ。」
『なに・・・?』
「どうも身体的にダメージをもらったやつはほとんどいない。気付かれないように全員眠らせて進んだようだ。だから、多分デバイスは使ってないと思われる。」
『そうか・・・なんにせよ、その兵にはさらに厳重に警戒するよう言っておけ。それから、お前らも警戒を怠るなよ?外はもうじきけりが着くはずだ。最後まで油断するな。』
「了解。」
そうしてバルトフェルドは通信を切る。
「さて、オークションが始まるまでもう一踏ん張りしないとな。行くぞハイネ。」
「了解だ。」
バルトフェルドとハイネはそれぞれ別ルートでの見廻りを再開したが、それ以降建物内に侵入者が出ることは無かった――

 

――ホテル前方、戦線にて――
――Side Vita,Subaru&Tiana――
「がは・・・ぐ・・・く・・・そ・・・にゃろう・・・」
ヴィータは動かず、少し体を前に傾けて呻く。
「ヴィータ副隊長?」
それを心配したスバルが問いかけた直後、グラーフアイゼンが消滅しペンダントに戻る。同時にヴィータが落下し始めた。
「ヴィータ副隊長!!」
スバルがそれを抱き止めると、手に生ぬるい感触が伝わってきた。
「え?・・・え?・・・」
スバルはそれしか言葉に出来ない。しかし、見てはいた。ヴィータの赤の騎士服に付いた、赤というには少し黒いそれを。

 

「ヴィータ副隊長!ヴィータ副隊長!!!」
スバルは必死に呼び掛ける。自分の手が血塗れになるのも厭わずに叫び続ける。
『ティア!!ヴィータ副隊長が!ヴィータ副隊長が!!』
ティアナも地上から茫然自失という感じで立ち尽くしていた。スバルには見えなかったが、ティアナには見えていた――自分の誤射がスバルに当たりそうになり、それをヴィータが弾こうとした時その右側から、戦線に復帰したスティングが猛スピードで迫っているのが。しかしいつまでも呆けているわけにもいかず、我に帰ってその通信答える。
『落ち着きなさい!!今私がシャマル先生に連絡をつけるから、あんたはそのまま全力で搬送しなさい!!』
『わ、分かった!!』
ティアナは通信を切り、今度はシャマルに通信を入れる。
『シャマル先生!ヴィータ副隊長がやられました!!これから搬送します!』
それだけ簡潔に言って今度はスバルに通信を入れる。
『スバル!シャマル先生のところへ行って!!早く!』
『うん!!!』
ティアナは自分に芽生えた罪の意識を消そうとがむしゃらに叫び続ける。ヴィータはそれに気付いたが既に遅く――もしかしたら直撃は免れたかもしれないが――スティングの鎌の餌食となった。そしてそのスティングはそのまま墜落していたアウルを確保し、既に戦線から離脱していた。
「わ・・・私・・・私・・・」
ティアナは自分のしたミスを改めて認識すると、怖くなった。自分がヴィータを撃墜させたも同然だ。自分がバカみたいに意地を張ってそのせいで隊員を負傷させた。その事実がティアナを恐怖へと追いやった。

 

「ヴィータ副隊長!!ヴィータ副隊長!しっかりしてください!ヴィータ副隊長!!」
「が・・・ぐ・・・ぜぇ・・・ひゅー・・・」
これで何度目かも分からなくなる呼び掛けだが、スバルは止めなかった。ヴィータは荒い息を返すので精一杯だが、意識を失いはしなかった。
「もうちょっと・・・もうちょっとですから!!」
こんな時こそ、スバルは飛行魔法が使えない自分が恨めしい。アスランやなのは、フェイトたちならもっと早く行けるだろうに、と歯噛みする。
「ぐ・・・わりぃなスバル・・・あたしは・・・上官だってのに・・・」
ヴィータが自嘲気味に言うと、スバルは大声で否定する。
「そんな事言ってる場合じゃないです!!それに、シンが言ってました!階級に差があろうと戦場では一人の人間だ、って!!」
「け・・・カッコつけやがって・・・ぐ!!」
ヴィータは苦しそうに顔を歪める。それを見たスバルは自分の遅さにさらに歯噛みする。
「もうちょっとですから!!もうちょっと我慢してください!!」
スバルはホテル屋上に向けてウィングロードをひき、一気に走りきる。そこには真剣な面持ちのシャマルと、心配で気が気でないはやて、相変わらず堂々としているザフィーラがいた。
「シャマル先生!!!」
スバルは着くや否やシャマルのもとへと駆け込んだ。シャマルとはやてはヴィータの容態を見ると顔をしかめた。
「腹部を横一閃にやられたのね。刀か何か?」
「鎌です。」
「なるほどね。」
シャマルはしばらくヴィータを見ていたが、スバルに向き直ってこう言った。

 

「あなたはすぐに前線に戻って。助けを必要としているところはたくさんあるわ。」
「で、でも・・・」
「心配なのはわかるけど、こんなところに四人もいる必要はないわ。だったら新たな被害者を出さないように援護にまわって。」
シャマルの強い物言いにスバルも黙って従う。
「わ、わかりました。」
スバルがそう言うと、シャマルは励ますようにスバルに話しかける。
「大丈夫。ヴィータちゃんは私がなんとかするから、ね?」
「はい。」
スバルはそのままウィングロードにのって戻っていった。それを見送ったシャマルはヴィータに向き直る。
「にしても、見事にやられたわね。これはちょっとかかるわよ?」
「る・・・せぇ・・・そっこーで治して・・・やるっつの」
ヴィータは不敵に笑おうとするが、痛みで顔を歪めることしか出来ない。
「まぁいいわ。喋ると辛いでしょ?ちょっと眠ってて。」
シャマルはクラールヴィントを起動させ、ヴィータの真下に魔法陣を展開する。すると、シャラン、という心地のよい音が鳴り、ヴィータの瞳が閉じていく。
「ここで出来ることは限られてるけど、精一杯は尽くすわ。」
寝ているヴィータにそう呟いてシャマルは応急処置を開始した――

 

――Side Kira――
キラとアスランの一騎討ちだったところになのはが参入したことにより、戦局はアスランとなのはに傾いてきていた。
「くそ!!」
キラはアスランの降り下ろすラケルタサーベルを受け流しながらなのはのアクセルシューターを避ける。少しでも止まろうものならディバインバスターの餌食になりかねない。
「こんな・・・ところで!!」
一度切れかけていた集中力を取り戻し、S.E.E.D発動当時の冷静さも取り戻す。
「はぁぁあぁああぁ!!」
キラはラケルタサーベルでアスランと剣閃を交え、ドラグーンでなのはを狙う。なのはのアクセルシューターが来ると、ストライクフリーダムの機動力を生かして大きく旋回する。そして、二人同時に狙える位置に来たら、マルチロックでアスランとなのはを寄せ付けない。
「ドラグーン・・・フルバースト!!」
カリドゥスとクスフィアスも使ってビームを放つと、カリドゥスから発射された高出力のビームがなのはに命中する。それを見たキラは加速してなのはに近づこうとする。もちろんアスランが立ちはだかろうとするが、ドラグーンを全て使って足止めする。そのままラケルタサーベルを両手に持ってなのはに突っ込む。しかしなのはは微動だにせずアクセルシューターを操り続ける。そしてなのはは唐突に言った。
「アクセルシューターセカンドシフト!!」
『Accel Shooter Second Shift』
その瞬間、十二ほど宙をさ迷っていたアクセルシューターが六に減る。キラはその行動に疑問を抱いたが、そのままなのはに突撃を続ける。そして両者まで十メートルをきった時、キラの目の前を桜色の一筋のビームが掠めた。
「なに!!?」
キラがそのまま突っ込むとそれに合わせてなのはも下がり始める。そして、なのはのアクセルシューターからビームが発射され始めた。
「これは・・・ドラグーン?」
もしそうなら減速は好ましくないと考えたキラはさらにスピードを上げてなのはに迫る。後ろからはアスランの魔力反応もある。
「うぉぉおおぉおぉ!!」
なのはを斬りつけようとしたサーベルはむなしくもシールドに阻まれるが、その至近距離のまま腹部のカリドゥスからビームを放ち、その場を離脱する。その直後、先程までキラが居たところにビームが放たれていた。キラはその発射源であるアスランを確認し、また旋回する。
「ち・・・逃げるなキラ!!」
"アスランとはやり合わない"というのが今回キラが考えた作戦だった。ストライクフリーダムの機動力でアスランを振り切り、なのはを狙う。しかし、なのはを倒すのは一筋縄ではいかないことが分かっている。しかし、なのはを放っておけばそれもまた危険である。キラがスカリエッティから聞いた話では、なのはは砲撃魔導師の中でも屈指の実力者だという。それに、インフィニットジャスティスには一撃必殺の強力な武装はない。だから、なのはを追い立てながらアスランから逃げる戦法をとっている。

 

「ディバイィイイィン・・・」
「しまっ!!」
キラが一瞬アスランに気を取られた直後、先程のカリドゥスで吹き飛ばされたなのははその場でディバインバスターの発射体勢に入っていた。それを見たキラはなのはに向けてドラグーンフルバーストを放つ。
「バスタァアアァアァアァ!!」
キラのビームとなのはのディバインバスターがぶつかるとその衝撃で大気が振動する。しかし、キラは途中でフルバーストを止めてまたディバインバスターを回避してから旋回を始める。
「ちぃ!!」
またもキラを逃したアスランは歯噛みする。キラはアスランのビームライフルとなのはの自立射撃型アクセルシューターに追い回される。
(でも・・・そろそろ限界かな・・・)
ドラグーンの過度の使用や無駄の多い飛行で、キラの魔力は限界に来ていた。だんだんとスピードが落ち、アスランとの距離を少しずつ縮まり始める。
『ムゥさん、そろそろ離脱してもいいですか?』
『あぁ、こっちもさっきアウルがやられたらしい。そろそろ潮時だ。援護するから撤退しろ。』
ムゥとの通信の直後、アカツキのドラグーンがキラの周りに現れ、バリアを展開した。それを確認したキラは旋回を止め、ホテルから遠ざかっていく。
「何・・・あれ?」
なのはが呆然と眺めているとアスランから通信が入る。
『あれはアカツキ、黄金のバリアジャケットのやつのドラグーンだ。あれはバリアの機能も持つ特殊な物でな。どうやら相手は撤退するみたいだが・・・どうする?』
『撤退、ってことは追いかけたら他の敵もいるわけだよね?だったら止めておこうか。』
『了解だ。』
アスランはホテルに向けて飛翔し、シンに通信をいれる。
『シン、撤退だ。』
『あぁ、ネオにも逃げられた。追いかけないんだな?』
『高町の意向でそうなった。』
『わかった。』
シンも撤退を始めると、なのはは全員に向けて通信をいれる。
『全員ホテルまで戻って。深追いは禁止。速やかに撤退して。』
そしてその通信の後なのはがホテルにつくと、ティアナとスバル、ヴィータ以外の全員がいた。
「あれ?スバルとティアナにヴィータちゃんは?」
「さぁ・・・」
なのはたちが三人の姿を探していると、ティアナとスバルは森の中から姿を現し、ヴィータの代わりにシャマルが現れた。ティアナとスバルはシャマルを見ると居心地悪そうに目を伏せてしまう。シャマルもティアナとスバルを一瞥するが、特になにも言わず、全員に向けてこう言った。
「みんなは・・・無事みたいね。良かったわ・・・」
シャマルはそこで一度言葉を切ってまた続ける。
「実は・・・今の戦闘でヴィータ副隊長が負傷したの。」
「負傷?どの程度?」
「腹部を鎌で斬られたみたい。致命傷ではないけど、傷が浅いわけではないの。しばらく安静にしていないといけないと思うわ。」
その言葉を聞いたスバルは、ヴィータの血の付いた手を握りしめる。ティアナに至っては立っているのがやっとというレベルだった。
「そんな・・・じゃあ、ヴィータちゃんは今どこに?」
なのはも平静を装いながら答えるが、言葉には動揺の色が見られた。
「応急処置を終えて、六課に運んでもらったわ。後はあそこの医療スタッフに任せてあるの。」
「そう・・・なの・・・」
なのはの顔が翳ると、シグナムがシャマルに訊ねた。
「だが、ヴィータとて並の相手に負けるようなやつではない。何があった?」
シグナムのその言葉が容赦なくティアナを抉る。しかしティアナは黙ったまま何も言わない。
「私もそこまでは分からないわ。連れてきてくれたのは彼女だもの。」
そう言ってシャマルはスバルを見る。
「え・・・と・・・」
スバルはティアナを擁護すべく何か言い訳を考えるが、中々良い案が思いつかない。しかしスバルがしどろもどろしていると、思い詰めた表情のティアナが一歩前に出てこう言った――

 

「私が、悪いんです。」

 

その少女は悩む、自分の愚かさに。
ある少女は悩む、自分の非力さに。
別の少女は嘆く、彼女を守れなかったことに。
二人の少年は願う、二人の少女がまた前を向けるようにと―――

 

次回、シンとアスランの魔法成長日記第八話


*1 これは・・・アスランの・・・
*2 了解・・・