CSA ◆NXh03Plp3g氏_復讐者の名は“平和”

Last-modified: 2009-11-11 (水) 10:26:42

C.E.76──オーブ上空。
インフィニットジャスティスが、もう1体のGタイプモビルスーツと激しく戦いあっていた。
 それはシルエットこそ、まさしく2年前にメサイアでの戦闘でアスラン駆るインフィニットジャスティスに
敗れた、シン・アスカの愛機デスティニーの特徴を持っていた。
 だが、それだけだった。
そのVPS装甲のカラーリングとともに、まったく別の性格の
MSに仕上がっていた。

 

──なんでもあり、を性格ととるのであらば、だが。

 

「どうしたんだよアスラン! 月で“前のデスティニー”を落とした時の余裕はよぉ」

 

 復讐者の嘲笑。
 そう、シンは嘲笑っていた。
 相手の矮小さに、力で詭弁を道理にすりかえる彼らに、力がなければ何もできない彼らに、
 そして……2年前彼らに敗北した自分に。
「やめろ! シン、もう憎しみに捕われて戦うのはやめるんだ!」
「2年前も聞いたな、その台詞! “前のデスティニー”をやられたときだ」
 アスランの怒声。しかしシンは逆に、哀れむように言い返す。
「解からないのかよ! 自分達がどんなに滑稽か!」
 シンは声を張り上げて言い返した。

 

「憎しみを作り出しているアンタらが言っても、憎しみが停まるはずがないんだよ!!
 この機体を造り出してくれた人達のようにな!!」

 

 そう言いきるシンの駆るMSは、デスティニーの特徴だった青いVPS装甲を、
やや黄緑がかった緑に変えている。
また、赤だった部分はそのままだが、その周囲に白とオレンジのストライプがあしらわれていた。
 虹色の翼を広げる、背中のミラージュコロイドはそのままだったが────

 

「このぉっ!」
「おっと!」
 インフィニットジャスティスの斬りこみ。
アスランは目の前の“新デスティニー”の右腕を斬り落とそうと、
“新デスティニー”がアロンダイトを構えた瞬間を狙って懐に飛び込んだ。
 だが…………
「何……っ!?」
 確かに肩を切り裂くはずだった、インフィニットジャスティスのラケルタのビーム刀身を、
“先ほどまで何も持っていなかった”筈の“新デスティニー”の左手に構えられた、
臙脂に近い赤にピンクの縁取りがされたシールドが防いでいた。

 

「どうなってるんだ、この機体は」
「まだわかんないのか、“なんでもあり”なんだよ、こいつはな」
 シンは言う。
「現存するMSだけじゃなくて、前世紀のフィクションの中で描かれたMSの装備でも、
 こいつは瞬時に装備する事ができるんだ。よっぽど特殊なものじゃない限りな」

 

「そんな……そんな事が……っ」
「おらよっ、月での“お返し”だぜ!」
 アスランが唖然とした瞬間、“新デスティニー”が、インフィニットジャスティスを蹴り上げた。
「!?」
 反射的に衝撃を予測したアスランだったが、それは小さかった。
だが……蹴り上げられたインフィニットジャスティスの二の腕が、ラケルタごと切断され破壊された。
「なっ!?」
「仕込み武器としちゃ、悪くないな、これもよ」
 “新デスティニー”の両脛に、インフィニットジャスティスと同じ物……
グリフォン・ビームブレイドが“いつの間にか”装備されていた。
「バカな……そんなことが……」
「へっ、今まで何人の人間に、同じ事を言わせてきたと思ってるんだ!
 ジャスティスで、フリーダムで、ミーティアでよぉ!」
 唖然とするアスランに怒鳴りつけつつ、シンは“新デスティニー”に
インフィニットジャスティスから間合いを取らせた。
「折角だから、アンタはこれで止めを刺してやるぜ」
 シンが言うと、“新型デスティニー”はミラージュコロイドとは別に、“いつの間にか”
併設されていた気流制御ウィングを広げていた。そしてそこから切り離されたそれは──
「なにぃっ!?」
「レイほど得意じゃないけどな、
 でもこいつは、どんな装備でも万人が“利用”できるようにしちまう能力もあるのさ」
 スーパードラグーンは、キラがストライクフリーダムで操るそれよりはるかに複雑な動きをして、
インフィニットジャスティスを取り囲んだ。
「!」
 薙ぎ払おうにも、インフィニットジャスティスには既に右腕もラケルタもない。
機動で照準をずらそうとしたが、まったくぶれることなくインフィニットジャスティスを捉え続けた。

 

「サヨナラだ! アスラン! 一番憎んでるのはあいつだが、一番嫌いなのはアンタだったぜ!」

 

 シンの狂ったような声とともに、スーパードラグーンの一斉射撃が、
インフィニットジャスティスを残骸へと変えた。

 
 
 

 “ロゴス”の実態──複合軍需産業体という事実を、
デュランダルは誇張して使っていたものの、まったくの偽りではない。
 それゆえ、“ロゴス”には敵対する組織があった。
 彼らは、第二次産業を中心とする“ロゴス”に対して、第三次産業を中心とした組織であった。
 つまり、彼らが是とするのは経済的な支配と連携である。
より端的な言い方をするなら、札びらで頬をひっぱたく、そう言うやり方だ。
 だから、間違っても戦争は望まない。戦争は彼らの活動の邪魔でしかないからだ。
 かつて、彼らは主に治安の良い先進国を経済支配し、“ロゴス”の前身である組織は
主に途上国で暗躍することで利益を貪るという“住み分け”ができていた。
 しかし世界再構築戦争以降、先進国の治安と国家安全保障も不安定になり、
結果“ロゴス”が誕生し、彼らは逆に求心力を落とした。
 オピニオンリーダーとなっていた日本の複合企業体が、その日本の独立を喪失したという点も大きい。
 そこへもってきてエイプリル・フール・クライシスである。
民需に下支えされた彼らの活動基盤は無茶苦茶にされてしまい、改善の傾向すらない。
 それにより、“住み分け”は完全に御破算となり、彼らは“ロゴス”との関係を、
積極的対立へと変化させていった。

 

 そして、その彼らにとって希望の星が現れた。それがギルバート・デュランダルである。
 “ロゴス”を討ち、軍需産業体の暴走を止めてくれた。
共産主義的なデスティニー・プランには全面的に賛成しがたい点もあったが、
とにかく“ロゴス”の活動を停止させ、民間消費が回復しない事には、彼らの発展はありえない。
 だが、そのデュランダルを、あろうことかテロそのものの行為で排除・殺害し、
プラントを支配した挙げ句、地球に余計な火種を作って、折角見え始めた明るい兆しを消した連中がいた。
 それはラクス・クラインであり、キラ・ヤマトであり、アスラン・ザラであり、
カガリ・ユラ・アスハであった。

 

 この時点で彼らは…………ついに、キレた。
 もはや手段を問う段階ではなくなったと。
 表舞台に立ち、積極的に世界を“直す”必要があると。
 彼らは月から極秘に回収したデスティニーをフレームとして、
彼らが今まで“持ってはいたが、戦争に活用されては困る”技術を用いて、
考え得る限り最強のモビルスーツを造り上げた。

 
 

 シンはしばらくZAFTに留まっていたが、クライン政権がプラント内で
その体制を磐石にしていくにしたがって、居心地が悪くなり始めていた。
 それでも、彼らの所謂“ヘッド・ハンティング”に、始めは応じるつもりはなかった。
 だが。
 平和な世にこそ繁栄を求める彼らの理想を説かれていくうちに、そこに親友の望む未来の姿を見出した。
 失った家族の、護れなかった少女に誓ったはずの未来を見出してしまった。
 そして、ラクスの、キラの、アスランの詭弁を、上っ面だけのお為ごかしを認められない
自分を知ってしまった。
 シンはZAFTを脱走し、彼らと合流した。

 
 
 

「アハハハハ……圧倒的力を振り回すってのは、こんなに気持ちの良いものだったんだな。
 初めて知ったぜ!」

 

 インフィニットジャスティスを葬り、既にC.E.最強の座を半分手にしたそのMSに乗り、
ストライクフリーダムと対峙したシンは、そのストライクフリーダムに搭乗しているだろうキラに向かって
高揚した嘲笑を浴びせた。
「シン! どうして、どうしてこんな事を……」
 周囲には、悉く破壊されたZAFTのMS、いや、MSであったもの。
「裏切り者にかける容赦はないね。ああ、それで一度ひどい目に逢ったしな」
 シンは歪んだ笑みのまま、しれっと言い返す。
「裏切り者って……君はZAFTの、彼らの仲間だったんじゃないのか!?」
「はん、俺にとってのZAFTは、デュランダル議長の頃の、平和を愛したZAFTさ。
 今のこいつらは、平和への裏切り者だ。
 俺にとっちゃ、リサイクルのペットボトルの方が、まだ価値がある」
 キラは必死に説得しようとするが、シンは悪びれもせずそう言いきった。
「もちろん、アンタもな!」

 

「これ以上は……やらせない、僕にも、護りたいものがあるんだ!」
「だったら、護ってみろよ! その貧弱なMSで、護ってみろ! 護れるもんならな!!」
 キラの言葉に、シンの表情から狂気のような歪みが消える。

 そして。

 

 2体のMS。ストライクフリーダムと、緑色をしたデスティニー──
 ―――“デスティニー711 は、一直線に交錯した────