眩い粒子の光を刹那に燃やし、MSは爆散した。
「残存機2機。敵はまた機動性を上げたな・・・少尉帰投だ。」
後部座席のオペレーターからの報告を聞き、慣性前速から姿勢制御で残存機に背を向けた。
「了解。S-12パーソナルネーム『エレノア』、帰投する。」
エレノアは光に弾かれ、星屑になった。
―Unstable GNP compression―
エレノアが粒子圧縮率が安定しないとぼやいている。
―Vigilance around sector―
何を恐れているエレノア?
「周辺に異常はないか?」
「異常は無い。どうした少尉?」
そう言うと、オペレーターはGNレーダーに視線を落した。
「...GNディスペンサーを射出する。目標座標3S6。」
この宇宙では、GN粒子のエネルギー放出圧が異常に高いためすぐに粒子は消失してまう。そのためGNレーダーの感知範囲はせいぜい数百キロだ。
ディスペンサーで、特定アリアの粒子濃度を上げればレーダー性能を格段に上がる事ができる。
「ディスペンサーもタダじゃないんだぞ、少尉。」
オペレーターのレインマンが呆れている。
ディスペンサーが射出される。
しばらくすると、前方で薄っすら淡い光が見て取れた。
[ピコンッ]
オーブ型のレーダーモニターがUnknownを捉えた。
「二時!目標Unknown。IFR味方識別反応無し!こんな宙域に敵だと!?」
「こちらに向いたな。こいつやる気か。」
エレノアのウェポンシステムをアンロックしていく。
「まて!少尉!まだ敵と分かったわけでは無い!」
レインマンは、戦闘機動で浮いた体をシートに押し付けながら叫んだ。
「味方ならコンタクトを取れ!」
「今やっている!こちら、ラインサイト、S-12(エストゥエルヴ)エレノア。応答せよ。」
暗闇の中を2機が光を尾に引いて交差する。
「見ろ!少尉!バウティタイプだ。味方だ!」
「エレノアはそうは言っていない!」
交差後すぐにスプリットし、目標下部へと滑り込む。
目標のIFRがUnknownからEnemyへと変わる。
エレノアが『敵』にロックした。激しいGに踊りながら、トリガーを絞り込む。
ショットGNライフルから短い間隔で、圧縮粒子が放たれる。
光は『敵』の半身を宇宙に溶かした。
「目標消失・・・少尉、軍法会議ものだぞ。」
―Mission Comp..RTB...―
「S-12エレノア、帰投する。」
「少尉。報告には視認の後に交戦とあるが、君にはこれが味方には見えなかったのかね?」
第一独立戦略情報局、局長『フロイド・マクドナル大佐』は表情を変えずに質問した。
「エレノアが敵だと判断しました。ならば、それは敵です。」
大佐は眉間にシワを寄せて、報告書をテーブルにそっと投げた。
「レコーダーの記録によると、攻撃は敵機判別後だと確認できております。」
第三独立情報戦隊、通称ラインサイト戦隊長、『テッペイ・サイガ少佐』がそれらしく言い訳する。
西暦2407年。
スメラギ級外宇宙航行艦は4番艦まで完成していた。
同一番艦スメラギが木星経由に、今なおELS母星を目的地として外宇宙を航行している事は、もはや歴史となっている。
ソレスタルビーイング・イノベイドとの戦争。ELSとの対話は人類に多大な被害を出したが、同時に恩恵ももたらせた。
それにより地球で待つ者達は恒久平和を満喫している。
だが、母なる惑星が緩やかに壊死する事実は教科書に載っていなくとも知らない者などいない。
『人類は焦っている。』
科学技術の進歩、脳量子派による相互理解をもってしてもフロンティアは作れないのだ。
未だに増加している地球人口、出生率は減少したがイノベイドの寿命は長い。
外宇宙航行艦の建造は、事実上の口減らしとなっているのが実情だ。
そんな中突如、月の裏側にあるラグランジュポイントに空間の歪みを観測。『向こう側』から無数のMSらしき機動兵器が出現した。そして月のグラハムシティを強襲したのだ。
エルスローズと、4番艦カエサリオンの援護により月の全滅は免れたが、戦争状態へと発展した。
約1年のも戦闘状態を経て、『ゲート』と名づけられた空間の歪みへと押し戻す事が出来たのだ。
だが被害は甚大だった。グハラムシティ機能の半数を失い。救援に駆けつけた、2番艦アマテラスは廃艦となった。
統一地球機構として発足した、ガイアフロントは、ゲートから断続的な電撃攻撃を行う存在に対して、
『外宇宙未感覚思考体 ―EXtragalactic EXtrasensory EXtravert― 』
通称エクスと呼称し、本格的に対応体制を取った。
スメラギ級外宇宙航行艦・4番艦カエサリオンは『ゲート』内部へと進行し、迎撃と探査任務に就くこととなり、
エルスローズは、月・地球間の遠方ラグランジュポイントへ移動し、『ゲート』監視任務となったのである。
『ゲート』内部はというとまさにフロンティアだった。
空間としては、天の川銀河と同じ3次元空間であったが、座標は特定出来なかった。
ただ目の前には、青く美しい星が静かにそこにあるだけだった。
「まるで地球だ。」
見た誰もがそう言うだろうと思う程、美しく、豊かな星だった。
内部に進行したカエサリオンは周辺の小惑星を使い、『ゲート』とエクス母星と思われる惑星との間に、宇宙ステーションを建造して防備を進めた。
しかし、この宇宙ではGN粒子は自由粒子化した時点で激しくエネルギーを放出して消失する現象が起きたため、探知範囲が極端に狭かった。
何より、GN粒子を媒介とした脳量子波でのコミュニケーションが取れないのだ。
そのため、後に2隻の準スメラギ級戦艦、ロキとヘルベレンディをもって制空権を確保していた。
MSにも改修が求められ、機体ジェネレータにGN粒子を全投入し、間接的な運用となった。そのため、トランザムシステムは使用出来ない。
またジェネレータをハイブリットユニットとしたため補給を要する事となった。
しかし、機体性能は極めて高められ、GN粒子を用いた武装はその高出力から銀河系での使用とは桁違いの威力を見せ付けた。
そして現在、西暦2427年。
防衛調査隊は、ヴェーダ型演算処理システム『ヤーマ』に統制され、人員は地球からの移送が80%を超え、その名をカエサリオン軍と変えた。
地球から見上げた向こう側は『リヴァイブ』と呼ばれている...。
「失礼しました!」
サイガ少佐が、完璧な敬礼で退席する。俺は首元を咥えられたネコの様に准将の部屋を後にした。
「どうおもうかね。ジム君。」
「形状はどう見ても、PD(パーティカルドライヴ)装甲搭載型の『ガンダムフォールバウティ』ですね。ヴァリアブルスラスターノズルはあの機体にしか実装されてませんからね。」
大佐の問いに、第二独立戦術機動隊、通称『ファクトリー』の『ジム・ラインハルト技術大尉』は少し自慢げに説明を続ける。
現在カエサリオン軍は、『CSF』(Caesarion Space force)本隊と3つの独立部隊で構成されている。
本隊は主に銀河用MS、形式番号GNT-108『カリスト』の改修機である、GNT-108R『ガリアン』と、リヴァイヴ運用試験量産機CGN-002『インディ』からなる3個師団規模だ。
命令系統は、カエサリオンベースにあるヤーマを頂きに、ロキ・ヘルベレンディの『リグ・ヴェーダ』・『ヤジュル・ヴェーダ』の3系統となる、システムの塊だ。
ただし、作戦行動宙域では量子波によるリンクが確保できないため、新第6世代支援AIの補助があるとはいえ、スタンドアローンである。
独立部隊はそれぞれ、『第一独立戦略情報局』・『第二独立戦術機動隊』・『第三独立情報戦隊』の三部隊となる。
「...PD装甲のみでの限界旋回速度は...」
「未帰投機体、脱走機体の報告は?」
いいかげんにしろ。と言わんとばかりに技術大尉の説明を凛と遮った。
第三独立情報戦隊指令、『レベッカ・スタンリー准将』だ。
ELSもどきと罵られても納得してしまうような、ラインサイトのガンダムドライバー達の女王だ。
「共に報告はありません。」
スタンリー准将の影から、同席した『エリ・フライト准尉』が報告する。
「ふむ、ジム君。DEPとIFRのレコーダーの差異が無いか確認したい。」
「了解しました。ヤーマに直接確認させます。」
「准将。これ読む限りでは機体に問題はなさそうですね。ラインサイトでの機体回収は控えて頂きますよ。」
そういうと、ラインハルト大尉とマクドナル大佐は部屋を出て行った。
「たぬきめ...。」
スタンリー准将は明らかに苛ついていた。
「すぐにラインサイト全機のメンテナンス作業に入りなさい!」
「りょ、了解しました!」
フライト准尉は、女王に敬礼し玉座から離れた。
歩きながらサイガ少佐はクスクスを笑っている。先ほどの敬礼の姿など、微塵も無い程砕けた表情で話していた。
「大佐の顔をみたか?お前の言った事は間違ってはいない。脳量子波が使えないリヴァイブでは機体の判断、要するにヤーマの判断が原則だ。」
「…」
「謹慎中は俺がコキ使ってやるよ。気はまぎれるだろ?」
サイガ少佐は元MSドライバーだ。優秀なドライバーだったらしいが、運悪く被弾時に両足を失っている。
足は再生医療で元通りなのだが、宇宙空間でMSに搭乗すると、空間識失調。いわいるバーティゴに陥る。
本人曰く、足元から浮遊感に襲われ、平衡感覚を喪失するらしい。
MSを降りた後は、ラインサイトの出撃管制とブリーフィングを担当している。
女王とELSもどきの中間管理職というわけだ。
第三独立情報戦隊『ラインサイト』はスタンリー准将を頂に、サイガ少佐と12人のガンダムドライバーで構成されている。
主な任務は戦闘の観察、情報収集と解析である。至上命令はレコーダーを持ち帰る事だ。
そのためなら救援要請の破棄をも許可されている。
得体の知れないエクスとの戦闘では情報は何よりも重要なファクターなのだ。
整備員を含め、50人弱の組織のトップに准将が与えられている事がその重要性を証明している。
如何なる状況でも帰還を果たすため強靭な精神力と卓越した操縦技術が要されるラインサイトでは、ドライバーは
CSF全体から選抜されている。機体も最新鋭機『ガンダムフォールバウティ』が用意されてる。
強靭な精神とは、感情の起伏が少ないとも言い換えれる。そのため、ラインサイトの事をELSもどきと呼ぶ者も少なくない。
そんな変わり者集団をまとめる少佐の胃はリナチタリウム複合素材で出来てるに違いない。
「アーク!今日晩メシ食いにこいよ!」
テッペイがハンガーから叫んでいる。
俺の名前はアーカード・ツェぺシュ。階級は少尉。
ちなみにCSFでのドライバーは少尉からなので最低階級である。
CSF軍人のほとんどは地球出身者であり、研究者や傭兵もいるが犯罪者や社会不適合者が移送されてくる事が多い。
テッペイはカエサリオン出身者で、グラハムシティ防衛戦にも参加したらしい。
「またライスにヌードルをかけて食うのか!」
日本人の味覚は脳量子波が使えても、共感できそうにない。