~ジオン公国の光芒~_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第01話

Last-modified: 2021-02-12 (金) 14:34:16

 Jan.5.C.E.79
 
 L1宙域付近。
 プラントの建設したコロニー、「トーマス・シティ」を巡る攻防戦が、今まさに始められようとしていた。
 遡ること2日前────
 エネルギー生産コロニーであるトーマス・シティは、突如としてプラントからの分離独立、女性大公ジオン・アルテイシア・ダイクンを元首とするジオン公国の建国を宣言した。
 かつて2度にわたる戦役を平和の下に終結させた平和の歌姫、今プラントの政治を運営する、ラクス・クライン終身大統領は、このトーマス・シティの“反乱”に対し、プラント国防軍宇宙軍に鎮圧を命じたのである。
 
 プラント国防軍の戦力は、エターナル型系列、及びアークエンジェル型系列のMS搭載大型戦闘艦計7隻、
MS搭載巡洋艦18隻、大型MS空母2隻、駆逐艦・護衛艦計72隻。MS総数488機。
 対するジオン公国軍の戦力は、改ミネルバ型MS搭載大型戦闘艦『マリア』が1隻、輸送艦改造の特設MS空母2隻、特設巡洋砲艦2隻、MS搭載巡洋艦2隻、あとはコーストガード用の巡洋警備艇が32隻。MS総数252機に過ぎなかった。
 
「正面、ニュートロンジャマー反応増大」
 『マリア』ブリッジ。若い──プラントの感覚でも、まだ幼いと言っていい少女オペレーターが、そう報告する。
「D兵器、照射準備。『ベイオウルフ』と『デルムッド』も同様に」
 艦長席でそう命令を下すのは、かつてこのマリアのネームド・シップであるミネルバでオペレーターを務めた、アビー・ウィンザーだった。階級章は、『特務中佐』の物をつけている。
 マリアは、基本設計をミネルバに求めていながら、MS搭載のデッキ構造がかなり変わっており、外観の印象もだいぶ異なる。そして、ミネルバではインパルス搭載用の航空機用発艦デッキがあった付近に、筒型ののっぺりした構造物が取り付けられていた。
 そしてそれは、マリアを先頭に小型艦に周囲を囲まれて守られている、おおよそ軍艦のスタイルではない、コロニー艦用輸送カーゴを改造しただけの特設空母2隻にも、取り付けられていた。
「MS部隊は邀撃に。まずは総力を挙げて敵MSを迎撃します」
「諒解!」
 マリアのオペレーターから伝えられるなり、巡洋艦『J・コイズミ』のMS部隊は発艦を開始した。
「イザーク・ジュール、ゲルググ・ハウント、出る!」
 J・コイズミのリニアカタパルトのガイドLEDが、内側から外へ向かって次々に点灯し、太い胴体に角ばった頭部を持つMS────白く塗られた、ZGMF-1201Fゲルググ・ハウントが、宇宙空間へと射出された。
 
 彼の下に所属する列機も、続いて発艦体勢に入る。
「シホ・ハーネンフース、ゲルググ・イェーガー、出ます!」
 ネイビーブルーに塗られたMSが射出される。
 ZGMF-1200Fゲルググ・イェーガー。ジオン公国軍が主力として、トーマス動力研究所工廠で生産しているコーディネィター用MSだ。ゲルググ・ハウントは、その上位タイプである。
 他の艦からも、次々にMSの発艦が始まる。
「コニール・アルメタ、ネモ・ヴィステージ、出るッ!」
 かつてガルナハンのレジスタンスにいた、美しく成長しながらもまだあどけなさを残している彼女は、ネイビーブルーのそのMSに乗り、特設巡洋砲艦『アルテア』から発進した。
 ZGAT-1004Fネモ・ヴィステージ。
 トーマス・シティには、ある理由からナチュラルも多く暮らしていた。蜂起に当たっては、これらナチュラルの人的資材も活用しなければならなかった。
 当初、ゲルググシリーズのOSをナチュラル用に調整することが考えられたが、より完全を期すため、コスト上昇を承知でナチュラル用MSの開発・製造に踏み切った。
 形式名から解るとおり、旧連合から流出した技術によって設計されている。
 そして────マリアのMS隊を束ねるこの男も、コクピットに収まり、コンディション・チェックと共に、MSを発艦待機位置につかせた。
 マリアの左舷発艦デッキのガイドLEDが点灯する。
「シン・アスカ、インパルスII、出るッ」
 
 
機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~
 
 PHASE-01
 
 
 MS部隊の約半数が編隊を形成し、艦隊を追い抜いていく。
 その段階になって、アビーは命令した。
「D兵器、照射!」
 敵の艦隊、真正面に向けて、それは照射される。
 だが、照射された当のプラント国防軍艦隊は、一体何が起きているのか解らないでいた。
 しかし、その結果はすぐに出る。
「!?」
 先鋒として送り込まれたプラント国防軍のMS部隊は、ジオン艦隊に取り付く遥か手前で、ジオン公国軍のMSが自分達めがけて、それも的確に進んでくることに気がついた。
 プラントのMS攻撃隊の主力は、ZGMF-209C/EDドム・ハイマニューバ。ドム・トルーパーの機動性向上形である。
 
 C.E.73のメサイア戦で、ニューミレニアムシリーズ、グフ・イグナイテッドとザクシリーズは、ほとんど失われていた。その後、マイウス・ミリタリー・インダストリーに代わり、“ファクトリー”が、プラントのMS開発の主役となり、アーモリー・シティの支配者となった。
 しかし、5年の平和な歳月は、ハードウェアとしてのMSの開発を緩慢な物にした。理由は後述する事になるだろうが、プラント国防軍宇宙軍は、慢性的な予算不足状態に追い込まれていた。
 より高価で、能力としても申し分のないZGMF-219DΩインフィニティ、ZGMF-220DΔフリーダムの配備は、前者がごく一部のみにとどまっていた。
 否、質が落ちていたのはMSだけではない────
「ジュール隊、突入!」
 イザークが吼え、一見、ドムにも増して重そうなゲルググ・ハウントが、3機のゲルググ・イェーガーを引き連れ、ドム・ハイマニューバの先頭に、突き刺さる矢のごとく突進 していく。
 後方に位置していたゲルググ・ハウントが制動をかけつつ、460mm高荷電ビーム砲『アグニII』を射撃する。たちまち数機のドム・ハイマニューバが破壊され、あるものは動きを止め、あるものは爆発四散した。
「ええい、遅すぎる、こいつら何をやっていたんだ!」
 イザークは忌々しそうに毒つきつつ、『ビックヴァイパー』レーザーヒート長刀を構え、ドム・ハイマニューバに斬りかかって行く。
 刀身部の灼熱化に熱レーザーを使用する、かつてのインパルスの『エクスカリバー』の簡易型ともいえるデバイスだが、試作機の段階で取り回しが難しいと問題になり、量産型では従来通りの剣型の『グラディウス』レーザーヒートソードに変更されている。長刀型を装備するのはイザークただ1人だ。
 それにしても、目の前のドム・ハイマニューバの動きは緩慢過ぎる。
 確かに、ゲルググシリーズ、ネモ・ヴィステージの機動性は、従来の量産MSのレベルを2世代分は凌いでいる。
 だが、それにしても遅すぎる。マトモに回避運動を取っている様子すらない。
 そして、通信を満たす悲痛な叫び。
『こっちくんなぁぁぁ!!』
『たっ、助けてくれぇ、まだ死にたくないんだ!』
『見逃してくれぇ!!』
『こんなの詐欺だぁぁっ』
 …………これらは全て、目の前のドム・ハイマニューバの部隊から発されていた。
 5年間の平和と慢性的な予算不足は、MSよりなにより、兵士の士気を阻喪させていた。
「こいつらっ、それでもZAFTを継ぐ者かーっ!!」
 不甲斐無い敵に怒りながら、イザークは数機目になる犠牲者を、レーザーヒート長刀でスクラップに変えた。
 
 見渡せば、そこかしこで同じような光景が繰り広げられている。ドム・ハイマニューバの壊滅まで、20分は要しないだろう。
「ぐ……ジオンの技術力がここまでとは……」
 改アークエンジェル型戦艦『ソロネ』のブリッジで、艦隊指揮官シュン・キム少将は、次々に飛び込んでくる自軍MS部隊の悲痛な叫びに、不愉快そうに歯噛みする。
 トーマス・パワーソース・リサーチインステュートにおいて、長年の命題であった、核融合炉の超小型化に成功したという情報はもたらされていた。また、トーマス・シティには地上圏からのナチュラルの、難民や亡命者が相次いでいて、その多くはかつての連合の軍人や、ロゴス・メンバーの企業の関係者、技術者だということも。
 だが、その程度でここまで一方的に、鎧袖一触に蹴散らされるとは。
「構わん、直掩部隊のMSも加勢させるんだ!」
 キムは怒鳴るように指示する。
「し、しかしっ」
 副官らしき男が、目を白黒させながら、言い返しかける。
「どの道、ドム隊がやられてしまえば、こちらは丸裸だわ! それとも、軍法会議が望みか、貴様は!!」
 軍法会議。現在のプラント国防軍において、それは絶対の平和の守護者たるラクス・クライン大統領から、無能者の烙印を押される事である。そしてそうなれば、本人はプラントが支配する地上のいずれかの鉱山施設に送られて、ほぼ生涯にわたって単純肉体労働をこなす事になり、一族は路頭に迷う事になる。
「はっ、は……」
 副官は息を呑むようにして、答えた。
 プラント国防軍艦隊から、新たにMS部隊の発進が始まる。
 Ωインフィニティ。インフィニットジャスティスの廉価量産型である。さすがに動力に核分裂エンジンは使えず、デュートリオン電送システムだが、それでも性能の低下は最小限で、ゲルググシリーズとネモ・ヴィステージを除けば、量産MSとしては最高の機動性を持っている。
 だが、その高性能機に乗って意気揚々と出撃したパイロット達は、直後に信じられない物を見る。
 ドム・ハイマニューバと絡み合っていたはずのゲルググが、一斉に戦闘エリアからキレイに“剥がれ”、自分達の方に向かってきたのである。ドム・ハイマニューバの残存兵力は、ネモ・ヴィステージを駆るナチュラル部隊が抑え込んでいた。
 宇宙戦の主役がMSに移ってから、このような光景は見られなかった。こうした戦闘方法は、旗艦からの集中管制、すなわちCICが必要だが、その為にはレーダーの使用が前提となる。そのレーダーは、ニュートロンジャマーで封じられていた。
「ようやく、歯ごたえのある相手とやれそうだな!」
 イザークは相手を睨みつけるようにして、嘯く。ジュール中隊4機は、ランチャーストライカーを背負う、ゲルググ・イェーガー2機の射撃を支援に、エールストライカー装備のイザーク機とシホ機が、Ωインフィニティに斬りかかった。
 
 バチバチバチバチッ
 イザーク機のレーザーヒート長刀と、Ωインフィニティのアンチビームシールドがぶつかり、激しい火花を散らす。
「!!」
 イザークが右側面モニターに視線を走らせると、側方から別のΩインフィニティが斬りかかって来る。
 しかし、その直前、無数の爆発に包まれ、そのΩインフィニティはスクラップへと変えられた。
 132mm対装甲近距離アクティブホーミングミサイル『コロネード』。ニュートロンジャマーの影響を受けるレーダーホーミングに代わり、多元レーザーサィティングを使用している。
 本来は支援用の機体が搭載する代物だが、シホ機はエールストライカーであるにもかかわらず、オプションで増設していた。
「ふっ」
 イザークは薄笑いを浮かべてから、目前のΩインフィニティを蹴飛ばして間合いを確保すると、すかさず、レーザーヒート長刀で串刺しにした。
 
 イザーク達がゲルググシリーズがΩインフィニティと遣り合っている空間を尻目に、一直線に、高出力スラスターの輝点となって突き進む存在があった。
「、シン! またお前は!」
 それに気付いた、コニールは、それを追いかけるようにネモ・ヴィステージを飛ばす。
「ごめんっ、エンスルト、後頼んだー!」
「諒解」
 コニールより5は年上のウィングマンは、軽く返事をする。もはやドム・ハイマニューバの部隊は、ほぼ壊滅状態にあった。ネモ・ヴィステージでもΩインフィニティとの戦闘に参加している部隊もある。
 スラスターを全力で飛ばす。エールストライカーを装備しているはずだが、とても追いつけない。
それでも、行き先はわかっている。
 流星のごとく突き進んできたインパルスIIは、プラント国防軍艦隊の艦艇の近接火器をするすると、縫うように抜ける。そして、ロディニア型MS空母、ネームド・シップである、『ロディニア』の後部に取り付くと、スラスター群に、『トールハンマー』ビームランスを突き立てる。側面にレーザーヒートエッジが取り付けられ、“刃の部分が巨大なハルバート”の形をしたそれは、ロディニアの装甲を貫き、スラスター群を爆発、ロディニアの後部を爆炎に包ませた。
 すぐにその場を離れると、インパルスIIは綿密な近接火器を文字通り“縫い”ながら、同型艦『パンゲア』の後部に取り付いた。そして、同じように破壊する。
「何をやっている! 敵はただの1機だろう!?」
 ソロネのブリッジでキムが吼える。
「しっ、しかし、えらくすばしっこいヤツで……」
 艦長席に座る、中佐の階級章をつけた中年男が、泡を食ったように言い返す。
「ええい、対空砲火で仕留められないなら、MSを一部、呼び戻せ」
「や、しかし……」
 副官が言いよどむ。MS隊は敵のそれと全力で交戦中だ。
「まだ数ではこちらが圧しているはずだ!」
「は、それでは……」
 無理を承知で、少数のΩインフィニティが、反転させられる。
 もちろん、その隙を見逃すようなジオン軍ではなかった。
 ゲルググ・イェーガーとネモ・ヴィステージ、それぞれランチャーストライカー、もしくはドッペルホルンの装備機が、背中を向けたΩインフィニティを撃つ。
 反転したうちのほとんどが、この射撃で沈められた。
「こんなところかな」
 目の前で、改エターナル型戦艦『アブソリュート』が、爆発を繰り返しながら轟沈していくのを見て、シンは短く呟いた。
「マリア! 仕上げに入るんだ、フォートレスシルエットを頼む!」
『諒解しました。シルエットフライヤー、フォートレスシルエット発進!』
 オペレーターの声が返ってくる。
 シンは、『トールハンマー』を背面腰部のラックに戻し、現在装備している『イントルーダーシルエット』を、インパルスIIから分離しようとした。
 そこへ、ロックオンアラート。
「くっ」
 捻ってかわす。ビームライフルの射撃。1機のΩインフィニティが、こちらに向かってくる。
 シンも、インパルスIIの軽装時用の固有武装で対抗する。ショルダー固定のアンチビームバックラーから、小型のレーザーヒートトマホークを抜き、投擲した。
 機動性の高いΩインフィニティは、簡単にそれをかわす。シンはその隙に『ライトニング』高圧縮ビームサブマシンガンを抜く。
 弾丸状に圧縮された高圧粒子ビームがΩインフィニティに向けて撃ち出される。しかし、元々あまり射撃精度を意識した武器ではない。相手もそれを知ってか知らずか、軽くその射線をかわした。
「マズッ」
 シンの表情が歪んだ、次の瞬間。
 目の前のΩインフィニティが、背中の方から破裂するように爆散した。
『シン、お前ってヤツは、成長したようでしてないんだから!』
 Ωインフィニティに代わって現れた、ネモ・ヴィステージ。シンに向かって怒鳴りつけてくるコニールの声。
「ごめん……」
 シンの少し沈んだような声に、コニールは意外そうな表情をした。
『反省の言葉はあと! さっさと終わらせちゃえ』
「ああ、そうだな」
 コニールの言葉とあわせたかのように、シルエットフライヤーが到着。フォートレスシルエットが分離し、覆いかぶさるように、インパルスIIの背中にドッキングする。
 左肩に『オルトロスII』ビーム砲、そしてウェポンラックには、800mmジャイアント・バズ。
 バズーカを名乗ってはいる物の、実際には高初速で実体弾を打ち出す長砲身のそれを、シンは構えると、改アークエンジェル型の1隻に向かって飛び出す。それを護衛するように、コニールのネモ・ヴィステージが続く。
 天頂方向から狙いを定めると、
「悪く思わないでくれ。俺にはこの生き方しかできない」
 小声で呟いてから、トリガーを引く。
 高速で打ち出された砲弾は狙い過たず、ブリッジ後方に命中。PS装甲さえ意味を持たない重量8トンのタングステン弾芯は、改アークエンジェル型────ソロネの装甲を貫き、柔らかな内部で暴れまわった。
『よっしゃあ! みんな、旗艦をやっつけたぞ!』
 はしゃぐのは、コニールの声。
 だが、シンの表情は晴れない。
「聞いたとおりだ。早くこのくだらない戦いを止めてくれ」
 シンがそう言うと、マリアから広域の通信帯に、映像つきのメッセージが発せられた。
『私はジオン公国大公、ジオン・アルテイシア・ダイクン。
 プラント国防軍に告ぐ、これ以上の犠牲は無用、戦闘を停止して降伏しなさい』
 映し出された人物は女性。僅かにクセのかかった長髪をポニーテールにしている。体つきからは魅力的な女性であることを想像させる。だが、顔の上半分をマスクで覆っていた。
『繰り返す、戦闘を停止して降伏しなさい』