~ジオン公国の光芒~_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第10話

Last-modified: 2021-02-12 (金) 14:40:00

「うわぁぁぁぁぁっ!!」
 ゲルググ・ハウントの『グラディウス』レーザーヒートソードが、ストライクフリーダムめがけて振り下ろされる。
ストライクフリーダムは紙一重で避け、グラディウスの軌跡が、クレハの視界で残像を切り裂く。
「このっ」
 キラも、2本の『シュペールラケルタ』を抜く。抜いたアクションそのままに、ゲルググ・ハウントに斬りつけるが、
自分がストライクフリーダムにさせたのと同じように、瞬間的な急機動で逃れられる。
 ストライクフリーダムの上方から、ゲルググ・ハウントは突きの構えで飛び込んでくる。キラはそれを捻るようにかわす。
 クレハは胴に装備された240mm重金属イオンビーム・リボルバーカノンを射撃する。酸化重金属溶液が回転するシリンダーの中で荷電され、
砲身の超伝導コイルガンで次々に発射される。
「っ」
 キラはとっさにビームシールドを展開する。イオンビームはシールドに遮られ、灼熱の液体に戻り飛び散る。
「はぁっ」
 クレハは続けざまに斬撃を繰り出す。それもビームシールドで受けようとするキラ。だが……
「えっ!?」
 実体剣のグラディウスはビームシールドを切り裂き、刀身はストライクフリーダムの装甲に叩きつけられた。
「うわぁぁぁっ」
 ストライクフリーダムの二の腕で小爆発が起きる。絶叫を上げて、ストライクフリーダムを飛び退かせるキラ。
 VPS装甲はグラディウスを完全には貫通させなかったが、ビームシールドジェネレーターが破壊されていた。
「この、よくもフリーダムをぉ……っ!!」
 キラはドラグーンを射出する。それ自体の能力を期待したわけではない。
 キラはSEEDを発動させた。

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~

 PHASE-10

 クレハを苛む偏頭痛は、ストライクフリーダムとやりあい始めた途端、加速度的に酷くなっていく。
 まるでそれは、頭の中に出来た神経のしこりのような物で、それをかきむしられるような感覚だった。
 それを怒りのようなものに変え、ストライクフリーダムにぶつける。
 一撃を入れた次の瞬間、ストライクフリーダムはドラグーンを射出した。
 クレハもガンバレルを分離しようと備える。
 その次の瞬間────
「え?」
 表現するなら、クレハの頭の中で堅い殻を形成した卵、いや、種子のようなそれが、まるで本当に音を立てたかのように、弾け散った。
 頭痛は霧散するよう治まった。だが、それだけではない。全ての感覚が研ぎ澄まされたかのような感覚。
 目の前に迫るドラグーンが、止まって見えた。
 もともとストライクフリーダムのドラグーンは、大気圏内では全翼機の要領で飛行は可能なものの、
無重力下のように縦横無尽に飛べるわけではない。だが、それでもその速度は相当なものだ。
 自前のガンバレルを切り離す。デスティニーやレジェンドのデータを下にしたシミュレーションで、
自分なりに得た戦法を試みる。
「私……」
 どうしちゃったんだろ、と呟きかける。背後にまで回りかけたドラグーンの位置が、頭の中で把握できた。
 側方から攻撃してくるドラグーンを急機動でかわす。前方のそれをシールドで防ぐ。そして、背後に回りこんだドラグーンの1機に、
5機のガンバレルを集中させ、ビームガンを浴びせかける。
 ドラグーンの1機が、ガンバレルのクロス砲火を浴びて、焼け焦げた残骸になって落ちていった。
「消えろぉぉッ」
 キラはハイマット・フルバーストを、目の前のゲルググ・ハウントの1点に集中させて、撃ちかける。
「!」
 クレハには、ストライクフリーダムがフルバーストをかけるのが、文字通り『見えた』。
フルバーストの隙間に、ゲルググ・ハウントを急機動で入れる。
「えっ!?」
 キラは、信じられない物を見た。この距離ではほぼ回避不可能なはずの、フリーダムのフルバースト。
 それを、目の前のゲルググ・ハウントのパイロットはあっさりとやってのけた。
 立て続けにフルバーストを繰り出す。
「なんなの、これ?」

 クレハは呆れた。機動兵器であるはずのモビルスーツで、意味のない大出力火器の乱射。
 戦闘訓練を受けていない子供が、大人の軍人に向かって長物を振り回す、表現するなら、クレハに今のストライクフリーダムはそう見えた。
もちろん、自分が特殊な状態になっているとは露も感じていない。
「嘘だ、嘘だぁっ!」
 キラは恐慌状態に陥りながら、フルバーストを乱射した。これから逃れる術を持っている人間は、キラの知る限り5人しかいない。
 アスラン・ザラ、シン・アスカ、ムウ・フラガ、そしてムウの父親のクローンであるラウ・ル・クルーゼとレイ・ザ・バレル。
 アスランとシンについてはSEED発動中と言う条件がつく。そして、彼らはキラのように自在にSEEDを発動できない。
 ムウがこの場に、しかもジオンのMSに乗っているはずがない。クルーゼとレイはキラが倒した。
 ────だったら、この目の前の敵はなんなんだ!?
 ゲルググ・ハウントは、フルバーストの度に、瞬間移動のような機動でそれをかわし、間合いを詰めてくる。
 クレハはストライクフリーダムの目前に迫ると、グラディウスを、カリドゥス複相砲めがけて突き立てた。
 ズバン!
 カリドゥスが爆発を起こし、ストライクフリーダムのモニターに警告表示が踊る。
 もしクレハ機が装備しているのがエールストライカーで、突き立てられたのがビームサーベルであったのなら、
この時点でストライクフリーダムは撃墜されていた。
「なんなんだよ、君はぁぁっ」
 ドラグーンに目の前のゲルググ・ハウントの排除を指示する。
 だが、ドラグーンは射撃位地につきかけた途端、次々と撃墜された。クレハ機とは別に、新たに5機のガンバレル。
『キラ・ヤマト、俺は戻ってきたぞ!』
 通信が割り込んできた。モニターに現れたのは、メサイアと共に消えたはずの、クルーゼのクローンの顔。
「君は!」
 クレハは残りのドラグーンの射撃をかわす。ストライクフリーダムとの間に、間合いが出来る。キラはその隙をつき、その間合いを広げた。
『もう俺は迷わない、俺は俺のために、お前を倒す』
 レイの声。なら、目の前のゲルググ・ハウントのパイロットは、またムウ・クローンか?
 フルバーストコマンドを出す。カリドゥスは撃てないが、クスフィアス3・レールガンは健在だ。
 クレハは至近からのレールガンの射撃に、とっさにシールドを構えた。VPS装甲なら叩き割られてしまうか、
衝撃でパイロットや内部のメカニズムがもたない。だが、基本的に物理的に受け止める事を前提として、
バイタル・パートとシールドのみTP装甲を“予備的に”採用しているゲルググシリーズの装甲は、
MS用レールガンの小さな弾体質量を柔らかく受け止め、自らが傷つく事でシステムを守り通してしまう。
 シールドに小さな穴が無数に開いたが、貫通した弾体も全て胴体の装甲に防がれた。
「この、やめろ、キラ!」
 インパルスIIが、ゲルググ・ハウントとストライクフリーダムの間に割り込み、ファルシオンを構える。
 ゲルググ・ハウントの背後側に、レイのゲルググ・イェーガーがついた。
「?」
 クレハは、目の前のインパルスIIの中に、先ほど自分の頭の中に現れたそれと同じような、
神経のしこりのような種子があることに気がついた。否、物理的に見えるわけではない。
 クレハが、半ば条件反射的に、意識の中でそれに触れると、それだけでその種子は、弾け飛んだ。
「!?」
 シンは驚いた。何の予兆もなく、自らのSEEDが発動した。
 理由は判らない。だが好都合だ。
「キラぁぁぁぁぁッ」
 ファルシオンを構え、ストライクフリーダムに一直線に迫る。
 キラはクスフィアス3を射撃する。インパルスIIはそれを小さなスナップ・ロールでかわすと、バーニアをふかして、
 一気にストライクフリーダムに迫った。
「ひぃっ!」
 キラは悲鳴を上げながら、インパルスIIの斬撃をかわす。
「やめてくれ、シン!」
 続けざまに繰り出されるインパルスIIの斬撃に、無様に逃げ回りながら、キラは悲鳴混じりに呼びかける。
「どうして戦うんだ! 君は!!」
『決まってるじゃないか!』
 全て失った、全て奪われた。何も守れなかった。何かを守れるような存在ではなかった。
 自分の存在価値をそう思い知ったシンに、最後に残った、“戦う意味”。
『お前を、殺す為だ!』
 ────それは、復讐。
「どうして……っ」
 キラが問いただしかけようとした時、ついにファルシオンの刀身ビームはストライクフリーダムの右腕を捉えた。
 二の腕をすっぱりと落とされる。
「うわぁぁぁぁっ!!」
 更なる恐慌状態に、キラは悲鳴を上げる。

 ────これで終わりだ、シンがそう声を上げて、止めを刺そうとしたとき。
『全軍、戦闘を停止しなさい』
 通信に、割り込んできた。シンは反射的に、動きを止める。
「アルテイシア……どうして……?」
 疑問の声を上げるシンだが、不平を感じている様子は見せない。
『キラ・ヤマト。もう貴方に戦闘能力はないはず。ここはしりぞきなさい』
 モニターの中に映し出される、仮面の女大公。自らの軍を停止させておいて、自分に逃げろと言う。
「なんなんだよ、君は! どうしてラクスに敵対するの!?」
 キラは、自分の疑問を、張本人に突きつけた。
『プラントによって、いえ、全ての大国のエゴによって、傷つく者がいるからです』
 アルテイシアは、口元で微笑みながら、キラにそう答えた。
『力なきものを守る事は出来ない、だから力なきものに力を与えようとする。それが私達です』
「それで、戦いを広げる事が、君の正義なのか!?」
『そうです。ですがキラ、貴方はそれに向かって戦うと言った筈ではないのですか? そこにいるバレル少尉の前で』
 キラを挑発するように、アルテイシアは言う。
「だからって、その為に戦うの!? なんなんだよ君は!?」
 キラは案の定、感情的になって問いただすように怒鳴り返す。
『変わってないのね、キラ』
 一転、アルテイシアが微笑みながら、キラに対し、親しげな口調で返す。
「え…………!?」
 その声を聞いたキラは、全ての感情が停止するような感覚に陥った。
『私はジオン公国大公、ジオン・アルテイシア・ダイクン。ですが、昔は……』
 アルテイシアはそう言い、仮面に手をかけた。
 ────やめてくれ!
 キラは、心の中で自分がそう声を上げるのを感じた。だが、身体はそれに反応する余裕がなかった。
『フレイ・アルスターと呼ばれていたこともあったわ、キラ』

「貴女は……確か、以前アークエンジェルで一緒だった……!」

 目の前で仮面を外したアルテイシアに、カガリは目を円く見開き、思わず指差しながら声を上げる。
 アルテイシアは、凄惨な傷跡の残る美貌で、カガリの方を向き、微笑む。
『そんな、嘘だ、嘘だーっ!!』
 スピーカーから流れるキラの声に、一瞬、指揮所に緊張が戻る。
「…………フリーダム、離脱していきます」
 レーダーのモニターの前にいる、観測員の声で、皆が一様に胸をなでおろした。
『状況終了。シン・アスカ中佐以下3名、帰還する』
 フリーダムが公海上に出て行くのを見送って、シンの声がスピーカーから流れてきた。
「騙していたかたちになってしまいましたね」
 アルテイシアは、カガリの方を向く。申し訳なさそうに眉を下げている。
「いや……だがこれで合点がいった」
 カガリは困惑しながら、しかし、気がついたそのことに言及する。
「どうしてジオンが、旧連合の勢力まで巻き込めたのか……」
 アルテイシアは仮面を戻してから、カガリに向かって頷くように微笑みかける。
 フレイ・アルスターは、かつて大西洋連邦の有力政治家だったジョージ・アルスターの娘。
 そしてZAFTの捕虜となりながら、ニュートロンジャマーキャンセラーの情報を持ち帰った連合の女英雄。
 ヤキン・ドゥーエ戦役でMIAとなったが、今ここに生きていたのだ。
 旧連合の中核としてプラントに抑え込まれている大西洋連邦からのナチュラル難民や軍閥なら、
 彼女が一声かければ旗の下に集まるに決まっている。
「そういうことです。まぁ、仮面をつけている理由は、嘘ではないんですけどね」
 一旦、マチムラの方に視線を向けて、苦笑気味にそう言った。
「私も一応女だからな、それは判る」
 カガリの方も苦笑しながら、肩を竦め気味に言った。
「それで、どうします? 協定のほうは」
 アルテイシアが訊ねる。カガリは表情を引き締め、一拍置いてから言った。
「オーブの判断は覆らない」
 言っておいてから、カガリは肩をすくめて、自嘲的に苦笑した。
「もう、覆せないと言った方が正しいけどな」
 交渉を持ち、一旦は同意し、あまつさえそこに横槍を入れてきたキラを、ストライクフリーダムをボロボロにして追い払ったのだ。
 オーブが単独路線に翻れば、プラントのMS部隊が降って来るのがオチなのは容易に見えている。
「彼は知っているのか?」
 カガリは、ふと気がついたように訊ねた。
「彼?」
 カガリの問いに、アルテイシアは一瞬キョトンとして、聞き返す。
「アスカ中佐だよ」
「その点は問題ありませんでしょう」
 少し下世話な声で、そう言ったのは、マチムラだった。
「どういうことだ?」
 カガリはマチムラとアルテイシアの顔を交互に見ながら、不思議そうに聞き返す。
「やれやれ……これでは、アスハ家の家督問題はまだしばらく片付きそうにありませんなぁ」
 マチムラが、ため息交じりに、首を振りながら言う。
 一瞬の間。
 ようやく言葉の意味を理解したカガリは、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「余計なお世話だ!」

「知ってただと!?」
 ブライトンのロッカールーム。
 シンがレイに詰め寄られていた。
「それじゃあ、まさか、本当にキラ・ヤマトと戦うために彼女と組んだのか!?」
 レイが険しい表情で問いただすと、シンは視線を下げ、俯きがちになった。
「最初はそのつもりだった、キラを引きずり出すのに好都合だとは思ってた。いや、今でも理性ではそう思ってる」
 言い訳まがいにそう言うシンを、レイは呆れたような視線で睨んだ。
「惚気るな! お前が感情を捨てきれない人間だとは、俺が一番よく知っている!」
「いや、今は一番とは言わせない」
 シンが真剣な表情でそう言うのを、レイは苦々しい表情で見る。
「実際クラシックなヤツだよ! お前は!」
「はぁ!?」
「気にするな! 俺は気にするがな!」
 レイは苛立った様子のまま、シンを残してロッカールームを出て行ってしまった。
 1人残されたシンは、レイが出て行った方を見ながら、そして呟いた。
「…………どっちがクラシックだよ」

「フレイ…………フレイ……ラクス、フレイ、フレイ……」

 南極上空。
 キラは、病的に2人の名前を呟くのを繰り返していた。

「どうすれば良いんだよ、僕は……フレイ……ラクス……」