ビリー=カタギリ製作のMS(ミカンスーツ)、その名も《名無しのゴンベ号》は無事プリベンターに受領された。
もっとも、中身が特殊なので大企業のバックアップはないし整備は全部自分でやらなきゃだし、
ある意味お仕事倍さらにドンな感じなのだが、まぁ戦力が増えるにこしたことはないわけで。
「しかしよぉ、この色はどうにかならないのかよ」
「色って何が」
「下半身が緑で上半身がオレンジ、これってまんま蜜柑じゃねーか」
「JR東海道線みたいでイカしてると思えよ」
「えー、絶対ヤだヤだ俺ヤだ、新橋色でないとヤだ」
「なら徹夜して塗り直せ! お前ひとりで!」
ハンガーに響くコーラサワーとデュオの漫才。
プリベンターは平和だった。
何せ、今週コーラさんの出番がまったくなかったから、あっちの世界で。
「しかし、もう二度とMS(これはモビルスーツ)で戦うことはないと思っていましたけど」
「あの時はそう誓ったはずだがな……前言を撤回するようだが、しかし仕方ない」
「あの靴下男のような奴がいる以上はな。それとカトル、MS(モビルスーツ)ではなくてMS(ミカンスーツ)だ」
ああややこしい。
でもしょうがないので御容赦されたし。
「まあ、願わくばコイツが出る事件ってのが起こらないでいてほしいもんだぜ」
ポン、とデュオはMS(ミカンスーツ)の足を平手で叩いた。
戦うことに臆しはしない。
また、戦うことの喜びも知ってしまっている。
だが、その戦いをなくすために、彼らは一度武器を捨てたのだ。
ガンダムそのものに愛着はあっても、その決意に後ろ髪をひかれるものはない。
「えー、俺はとっととコイツで出たいぜ」
「お前はホント自重しろよ、プリベンターの存在意義がわかってるか」
「バァカ、悪者はとことんギッタンギッタンにやっつけないとダメだろうが! それでこそ抑止力も発揮されるってもんだ!」
「どっかの警察ロボマンガでこんな人いましたね、そういえば」
「俺に銃を撃たせろー、かい」
しかし、コーラサワーの意見にも一理ないわけではない。
軍隊なんぞあってはならない、平和が一番……という主張は確かに尊いものではあるが、ならば今の平和は誰のよって守られているのか、というのもまた尊い現実。
改心前のマリーメイアも言っていたが、戦いのワルツを繰り返しながら人類は今まで発展を続けてきたのであり、戦争という行為を抜きにして歴史を語ることは絶対に出来ないのだった。
リリーナが目指す『完全平和主義』は、ぶっちゃけて言ってしまえば実現が限りなく不可能に近い理想である。
だが、その理想を掲げなければ人は新たな一歩を踏み出せない。
だからリリーナはその道の困難さを知りつつも、声を高らかにして平和主義を唱える。
その一方、現実に対応するために、プリベンターのような実動部隊も必要なのだ。
「しかし、実際にこうして目の前にしてみると、私も逸る心を抑えきれんな。何せ我慢弱い男だ、私は」
「素直に乗りてーって言えよ、ナルハム野郎」
「……ここで一発、隊長よりも俺の方がふぇぐるぶしゅ」
「ああ、お前は黙ってていいから、アラスカ野」
「あなたたち、頼むから勝手なことはしないでね」
早く乗りたい派とそうでもない派に分かれたプリベンター。
現場を統括するサリィ=ポォとしては、なるべくならMS(ミカンスーツ)が出張るようなことだけは避けたいところだった。
その前に事件の芽を摘んでこそのプリベンターだし、それにコーラサワーやグラハムが大暴れしたら被害額がハネ上がってしまう。
「よし! じゃあまた模擬戦すっか!」
「やめとけ、また涙目になるぞ」
「あの時は腹の調子が悪かっただけだ! 今度こそはスペシャルな俺の力を見せつけてやる!」
「おい五飛、今度は足腰立たないようにとことんやってやれよ」
「そうだな、そうするか」
「あんたたち! もういい加減にしときなさい!」
プリベンターはホントに平和だった。
これが果たして嵐の前の静けさであるかどうかは、今のところは定かではない。
【あとがき】
出番ナシでしたコンバンハ。
MS(ミカンスーツ)、何かいい呼び方ありませんかサヨウナラ。