00-W_土曜日氏_93

Last-modified: 2009-04-08 (水) 20:14:51
 

♪どこで落ちたかご苦労さんね タクラマカン
 どこで出るのかおつかれさんね コーラサワー
 AEUと連邦とアロウズと決起軍を 行ったり来たり
 アッという間に 出番が終わる
 イヤフイヤフイヤフイヤフ 大エース
 とにかく ひとまず なにより すなわち コーラサワー
 ヤッフヤッフシュワシュワ ヤッフヤッフシュワシュワ コーラサワー

 

 模擬戦二千回ごくろうさんね コーラサワー
 大佐と未来へ仲良しさんね コーラサワー
 念力 シュワ力 炭酸力 この世の七不死身
 アッという間に 50話終わる
 シュワシュワシュワシュワ 絶対無敵
 ともかく えてして はたまた ちなみに コーラサワー
 ヤッフヤッフシュワシュワ ヤッフヤッフシュワシュワ コーラサワー♪
 (元ネタ:タイム○カンの歌

 
 

 戦いは終わった。
 終わったが、プリベンターに残された傷跡は大きい。
 まず、所有するMS(ミカンスーツ)のネーブルバレンシアの大半が壊されてしまった。
 さらに戦力的な意味だけでなく、ガンダムパイロットたちのプライドも大きくダメージを受けることになった。
 何しろ、いくら先手を打たれたとはいえ、たった一人の相手に振り回されてしまったのだ。
 そして何より。

 

「あんたは本当にもう、いったいどうするのよ!」
「痛い痛い痛い、オデコ姉ちゃん暴力反対!」

 

 画竜点睛を欠くと言うか、全てが水泡と言うか。

 

「逃げられちゃったじゃないの!」
「ぐはああ、み、鳩尾攻撃は禁止いい」

 

 主犯であるアリー・アル・サーシェスにスタコラされちゃったのだった。

 

「もっと考えて戦いなさい!」
「い、いやでも勝ったじゃ、うおおおおやめてくれー、額に肉の字の刑は自重ー!」

 

 パトリック・コーラサワーは確かにアリーに勝った。
 戦闘技術と言うより野球技術の賜物で。
 が、世界を裏から守る隠密同心・プリベンターとしては素直に喜ぶことなど出来ない。

 

「よし五飛、憂さ晴らしにやるか」
「奇遇だなヒイロ。俺も何か殴りたいと思っていたところだ」
「お、落ち着いて下さい二人とも!」
「やめとけカトル、五飛もヒイロもかなりキテる」
「ある意味勝ち逃げされたようなものだからな、アリー・アル・サーシェスに」

 

 だって、刻まれてしまったのだ。
 『敗北】の二文字を、ゴリゴリッと。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 コーラサワーのアンドロメダ大星雲打法攻撃によって、アリーは乗機のソンナコト・アルケーもろとも吹っ飛ばされた。
 で、そのまま碧空へとバイバイキーンとなってしまい、成る程これは確かに逃げられたのと結果が同じだったりする。
 結局アリーとその一味が何を企てていたか、さっぱりわからないままアザディスタンでの事件は終わってしまったわけだ。

 

「罰です。減俸半年」
「そんなあ! 今度の給料日、大佐を豪華なディナーに誘うつもりだったのに!」
「吉○家かマク○ナル○でも行ってなさい!」

 

 コーラサワーを一蹴するサリィ・ポォだが、彼女にもまったく責任がなかったかと言えば、ちょっと違う。
 アリーとパイロットの皆が戦っている(注:若干一名除く)間、具体的な策を捻り出すことが出来なかったのだから。
 いや、もちろんただ傍観していたわけではない。
 戦場の周りを回って状況を確認し、敵に後続がないか、また他に罠が無いか探ってはいた。
 どのみち、戦闘力がほとんどない輸送機では直接的な戦力にはなりはしないし。

 

「それとジョシュア・エドワーズ」
「え? あ? ひゃい!」
「貴方も減俸半年」
「何で!?」
「ずっと輸送機の後ろに隠れてたのはどこの誰かしら!?」
「や、だ、だからアレは敵の別派に備えて本丸を守っていたのでありおりそがりいまそかり」
「それの必要性は現場指揮である私が決めることよ。文句ある?」
「ふぎゃー!」

 

 何だか最近すっかり口だけ男になってきたアラスカ野君なのであった。

 

「しかし、事は結構重大だぞ」

 

 中破した自らのネーブルバレンシアの胸部に腰掛けながら、デュオ・マックスウェルは呟いた。
 右手の掌にはさっきヒルデから渡されたおしぼりが握られているが、千切れんばかりにギュウと絞られている辺りに彼の無念さが垣間見える。

 

「そうですね……」

 

 相槌を打つカトル・ラバーバ・ウィナー。
 彼の手にもおしぼりがあるが、彼はそれを折り紙のように開いたり閉じたりしている。
 無意識の行為なのだが、つまりはカトルも落ち着かないのだ、気持ちが。

 

「俺たちは負けた。これは事実だ」

 

 トロワ・バートンが前髪をかきあげながら二人に近づく。
 そう、ガンダムパイロットは負けてしまった。
 アリー・アル・サーシェスと、彼の駆るソンナコト・アルケーに。

 

「これが本物の『戦争』だったら……」
「命は無かっただろうな、間違いなく」

 

 ガンダムパイロットたちの操縦技術は、間違いなくこの世界でもトップレベルである。
 だからこそわかる、敵の強さというものが。

 

「ただのバカかと舐めていた俺たちの怠慢でもあるな」
「とんでもないですね、アリー・アル・サーシェスという人は」
「プロということだ、変態だがな」

 

 そしてその強さを認めるのに、悔しさは伴うものの、躊躇いはない。
 相手を見下すことほど己を危うくするものはないのだ。
 つい先ほど、それをイヤというくらいに味わった。
 それでも「変態である」という評価を変えたりはしないが。

 

「重大ってのは二つある」
「ええ、わかります」
「まず、これからも奴は俺たちの前に立ちはだかってくるであろうということ」

 

 アリーは逃げた。
 飛ばされた遥か大空で朽ちている可能性もないことはないが、あの変態が簡単にくたばるような可愛げある人間なわけがない。
 何しろ卒倒レベルな臭気の靴下を堂々と、しかも大量に集める男である。
 いくらシールド代わりに使うと言っても、まずその発想が普通の人間は思いつかない。

 

「そしてもう一つ」
「……ミカンエンジン、ですね」
「そうだな。いったい奴はどこから……」

 

 ミカンエンジンは世紀の天才ビリー・カタギリが独自に開発したものであり、製品化もされていない究極のエコドライブである。
 使っているのは、それが搭載された試験機のMS(ミカンスーツ)ネーブルバレンシアを持つプリベンターだけのはず。

 

「人類革新重工が興味を持っていたな、そういえば」
「でも、あくまで話だけだったはずです」
「ああ、そもそもミカンエンジンはあのポニーテールの博士の施設でないと作れない、今のところは」

 

 三人は顔を見合わせ、そして押し黙った。
 ならば、アリーはいったいどうやってミカンエンジンを手に入れ、そしてネーブルバレンシアを越える力を持つソンナコト・アルケーを組み上げたのか。

 

「……どうやら、本当に深刻な事態になりそうだな」
「ですね。この事件、根は深いと思います」
「何か裏がある、か」

 

 砂の大地に横たわる、傷だらけのネーブルバレンシア。
 それを、三人は無言で見つめた。
 その向こう側から、五飛とヒイロに折檻(注:くすぐりの刑)されるコーラサワーの悲鳴と、切腹させろーというグラハムの声が聞こえてきた―――

 

   ◆   ◆   ◆

 

「大将、面目ねぇな」
『いやいや、プリベンターのMS(ミカンスーツ)を六機も潰したんだろう? 初戦としては十分だよ』
「いけると思ったんだが、欲はかきすぎるとロクなことはねぇってことかね」
『いい教訓になったかい?』
「へっ、おかげさまでな」

 

 今回の事件の中心、アリーはプリベンターから遠く離れた場所、位置的には旧クルジスの東端のとある施設にいた。
 モニター通信で彼のバックアップ役であるリボンズ・アルマークと会話をしている。
 コーラサワーの逆撃を食らった後、そのまま逃走し仲間と合流、ここまでBダッシュでやってきたのだ。

 

『僕は満足しているよ、いいデータが取れた』
「そりゃ結構なことで」
『次の作戦はまた追って連絡するよ、それまでは自由にしたらいい』
「へェ……じゃあ、今から引き返してもう一戦やってもいいかい?」
『ああ、君の勝手さ』
「いやいや、冗談よ」

 

 ソンナコト・アルケーは今、施設―――今はもう使われていない石油精製の―――地下にある。
 主武装であるハッサクは全て使い切っており、機体そのものにもそれなりにダメージが残っている。
 整備をしないと、戦闘には耐えられないであろう。

 

『じゃあ切るよ、ステージが待っているのでね。あまり待たせるとマネージャーがうるさい』
「あの金ピカ趣味のボケ野郎か」

 

 ペッ、とアリーは床に唾を吐いた。
 リボンズ・アルマークがリーダーを務めるアイドルグループ『イノベイター』のマネージャーである男を、彼はあまり好いていない。
 簡単な話、偉そうな態度と派手好みの嗜好がハナにつく。

 

『まああまり嫌わないでやって欲しい。器は小さいが、あれにはそれなりに感謝しているのさ、僕は』
「へいへい、大将の命令とあらば」
『ではまた、次に』
「あいよ、他の連中にもよろしく言っといてくれや」
『ああ』

 

 通信は切れた。
 アリーの目の前には、ただ黒いモニターだけが残る。

 

「……ヘッ、ヘッヘッヘ」

 

 アリーは笑った。
 そしてそこに映る自分の顔に、アリーは語りかけた。

 
 
 

「これからどんどんおもしろくなりそうだなァ、おい?」

 
 
 

 モニターの中の彼の顔は、当然の如く返事をしたりはしなかった。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 やっぱり出番があるとテンション上がって筆も進みますコンバンハ。
 次回でアザディスタン編終了ですが間違ってもシリアスにはなりませんサヨウナラ。

 
 

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