00-W_土曜日氏_98

Last-modified: 2009-04-19 (日) 15:36:08
 

♪チョイと一敗の つもりで落ちて
 何時の間にやら 出オチ役
 気がつきゃ 大佐の真横で運転
 これじゃ活躍 出来るわきゃないよ
 わかっちゃいるけど 出番がねえ

 

 ※アホレ シュワシュワ シュワララッタ
  シュワシュワ シュシュシュイ
  シュワシュワ シュラララッタ
  シュワシュワ シュシュシュイ
  シュワシュワ シュワララッタ
  シュワシュワ シュシュシュイ
  シュワシュワ シュワララッタ
  シュワララッタ シュワシュワ

 

 狙ったガンダム 見事に逃がし
 頭バッと壊れ 最終展開
 気がつきゃ 大佐に突撃のガガガガ
 俺の大佐に 何しやがんだよ
 わかっちゃいるけど やるしかねえ
 (※繰り返し)

 

 一発殴られて たちまちホレて
 よせばいいのに すぐ花持って
 オトしたつもりが チョイとオトされた
 俺はやっぱり アナタが好きよ
 わかっちゃいるから ヤメられねえ♪
 (※繰り返し)

 
 

 はい、スーダラ不死
 ……などとくだらないシャレを言っている場合ではない。
 コーラサワーとミレイナのガチンコカードバトルである。
 嗚呼、今日も世界は平和で、プリベンターも平和である。
 チントンシャントン。

 

   ◆   ◆   ◆

 

 で、トレーディングカードゲーム『Noir et blanc』である。
 美麗なイラストと独特のルールで、昨今人気のこのカードゲーム、北斗七星の横で輝くオタクの一番星ことミレイナ・ヴァスティが手を出さないわけがなく、何だかんだでコーラサワーの暇潰しがミレイナの暇潰しになってしまっているという次第。
 古の偉人曰く、巻き込んだモン勝ちとはこのことである。

 

「レベルゲージはですね、つまりはパワーの値だと思ってもらって結構ですぅ」
「パワー?」
「ゲージが長ければ長い程強いってことですぅ」
「攻撃・防御・速さにそれぞれ分かれてるのは、別々の強さだってことか?」
「そーいうことですぅ」

 

 最初はやらねーだの何だのと抵抗していたコーラさん、すっかりミレイナのペースにぶちハマリ。
 彼がこの世界において主導権を握れない人間が二人いる。
 ソーマ・ピーリスとミレイナ・ヴァスティで、何と言うかジ○リーに振り回されるト○ロ○ドランナーにひっかきまわされるワイリ○コヨーテな感じだと思ってもらえればありがたい。
 別に○ムやワイリーコヨ○テだからと言って、コーラサワーがソーマリーやミレイナを追いかけてるわけじゃないけど。
 彼にはちゃんとカティ・マネキンという結婚相手がいますしね。

 

「さて、ゲージの下にある数字がさっきも言ったですけど、コストですぅ」
「何だよコストって」
「場に出せるカードは無制限じゃないのですぅ、上限があって、その中でしかカードは出せないんですぅ」
「面倒くせー話だな」
「でも注意が必要なんですぅ、場のコスト内だからと言っても、これまた自由気儘には出せないんですぅ」
「?」
「フィールド縛りというのがあるですぅ」
「??」
「属性によっては制限を受けるですよ、例えば海のフィールドでは火属性のカードはコスト二倍になっちゃうですぅ」
「???」
「逆に水属性のカードは半分で場に出せるですぅ」
「????」
「フィールドには何にも縛りを与えないノーマルの他に、水の海、土の緑地、火の荒野、風の空、闇の魔界、光の聖域とあってですね」
「?????」
「ノーマルでずっと進む非限定戦、どれか一つだけの限定戦、一定のターン数で変わるランダム戦というのがあるんですぅ」
「??????」
「あ、でも限定戦でも、無属性のカードの中には強制的にフィールドをチェンジするものがあって……」

 

 はい、ここで『初心者に教える玄人の法則その1』
 玄人は簡単に説明しているつもりでも、素人にはほとんど伝わっていない。
 基本的に、人に教える時は口頭だけではムリ。
 学校の授業でも、先生は言葉と黒板と教科書の三点を使って生徒に教える。
 多少の知識があれば別だが、まったくのゼロからでは、喋りだけでは99%届きゃしないのだ。
 百聞は一見に如かず、ってのも似たようなもんでしょうな。

 
 

「それで、カードには単体効果と補助効果、合体効果というのがあるですぅ」
「?」
「単体効果っていうのは簡単ですぅ、レベルゲージそのまま、カードの説明文そのままのパワーということですぅ」
「??」
「補助効果というのは、そのカードの二倍のコストを消費することで、別のカードにパワーをプラスするんですぅ」
「???」
「例えばですね、火属性の『溶岩の番犬(バウン・ド・ドッグ)』は攻撃値200、防御値100、速さ120、コスト55ですけれども」
「????」
「コスト110使用することで、別のカードのキャラクターに四分の一の力を分け与えるですぅ」
「?????」
「えーと、この『灼熱の天涯(トロ・ピーカル・ドーム)』というモンスターは攻撃値90、防御値180、速さ60なんですけど」
「??????」
「さっきの補助に使った分をプラスすると、攻撃値が140、防御値が205、速さが90になるってわけですぅ」
「???????」
「あ、でも相反する属性ではこの補助は使えないですぅ。火と水、光と闇みたいに」
「????????」

 

 ここで『初心者に教える玄人の法則その2』
 玄人は初心者がわかってなくても説明を先に進める。
 巻き戻しはまずききません。
 えーともう一度、なんて言おうものなら、もの凄く「え~わかんないのぉ」って顔されます。
 わかんねえから聞いてんだろうがバーロー。

 
 

「ま、とにかく一度やってみるですぅ! 体で覚えるのが一番、ポイントごとに教えてあげるですから!」
「えー、何か今までの説明ですっごくやる気失せたんだが」

 

 どん、『初心者に教える玄人の法則その3』
 長々と説明しておいて最後は「ま、やってみないとわかんないよね。やりながら教えるし、やってみよ」でシメる。
 だったら最初からしろ。
 スタートラインに立つまでが異様に長いってどうなのよ。

 
 

「正直、まったく意味不明なんだがよ」
「平気のへいちゃらですぅ、料理だって包丁持たないと始まらないし、スキーだって滑ってみないと上達しないですぅ」

 

 ぼん、『初心者に教える玄人の法則その4』
 例えが無茶苦茶。
 料理やスキーは一人で出来るが、カードゲームは相手が必要である。
 条件がまるっきり違う。

 
 

「でもなあ……」
「大丈夫! 誰だって最初は素人ですぅ。私だってそうだったですよ」

 

 ばばん、『初心者に教える玄人の法則その5』
 昔は私も初心者だった、と言って安心感を誘おうとする。
 そんなの当たり前である。
 ちょっと考えればわかる、そんなもんで誰が安心するか。
 将棋の名人も街角のヘボ将棋チャンピオンもそりゃ最初は皆素人だ。
 これ、ちょっと宗教の勧誘に似ているね、私も昔は不安でしたがカミサマに出会ってから云々。
 誰だって産まれた時は無宗教だよ。

 
 

「さ、さ、始めるですよ!」
「えー……やるのかよ」
「イケイケゴーゴーですぅ!」
「そりゃやるからには負けるつもりはねーけどよ、なんつってもスペシャル様だし」

 

 で、『初心者に教える玄人の法則その6』
 やる時になったら初心者より玄人の方が嬉しそう。
 何て言うんでしょうか、布教ってやつですか?
 これでまた同じ趣味に一人ひきずりこんだ、っていう。
 タバコも酒もパチンコも麻雀も競馬もね、こうやってハメられていくもんです。
 ああ怖い怖い。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「どーん! 闇属性『黒い虚無の太陽(ソーラ・0)』を使用、場の敵キャラクターカードの防御値に一律50のダメージですぅ!」
「んがあああああ、何だよそれえええ!」
「さらに場に出ている土属性『悪魔の花(ラフレシア)』に追加効果がつくですぅ、ソーラ・0により茎が成長して相手を絡め取るですぅ」
「はああああああ?」
「これでスペシャルさんは場のコストが40減で、さらに3ターン新規カード使用不能、つまり何も出来ないですぅ」
「なんじゃあそりゃあああああ!」
「あ、40減ってことはさっきスペシャルさんが出した風属性『緑法の番人(イナクト・デモ)』がコストに引っかかるので強制消滅ですね」
「ええええええええええええええ!?」

 

 そしてこれがトドメの『初心者に教える玄人の法則その7』
 じゃやってみようか、で始めたプレイで絶対に玄人は手を抜かない。
 こっちゃ波動拳すらまともに出せないのに、ジャンプ大パンチ→しゃがみ中パンチ→ソニックブーム→立ち大パンチの壁コンボを問答無用で使ってきたり。
 そもそも技すらほとんどわかってないのに、めくり攻撃から地上連で浮かされて空中追撃→キャンセル→追撃→キャンセル→超必とかしてきたり。
 練習にもなんねえってのよ、逆にコンボの練習台にしてんじゃねーっての。

 
 

「はいはーい、まだ私のターンですぅ。無属性『全て分け解す鍵(NJキャンセラー)』を使用、フィールドを一時何にもナシにするですぅ」
「ほはああああ?」
「全ての属性はこれで影響ゼロになったですぅ。そこで光属性『圧倒的なり我が軍(アエーテ・イオ・カースデーアールト)』ですぅ!」
「んあああああああああ!?」
「次のターンこちらが無防備になる代わりに、今ターン場のこっちのカードの攻撃力が二倍になるですぅ!」
「がああああああああああ!」
「んふふふ、次のターンと言っても、スペシャルさんは『悪魔の花』の効果で動けないですけど」

 

 ミレイナ、恐ろしい子。
 ここまでイジメることもあるまいに。
 だいたいゲームでもスポーツでも何でも、入口で引き返してそれ以後苦手にしちゃうってのは、こうやって玄人にイジメられて嫌になっちゃって、ってパターンが非常に多い。
 そりゃ何もわからんうちにコテンパンにやられて、それで好きになれってのも難しい話ですわなあ。

 

「あー、これだともうスペシャルさん、残りのカードにどれだけ強いのがあっても挽回は無理ですぅ」
「のががががががあ」

 

 さて、このように玄人の理不尽な蹂躙に、初心者は本当に対抗出来ないのか。
 ただされるがままに踏み潰され、せせら笑われる以外にないのか。
 否、ひとつ、手段がある。
 それは。

 

「うおおおおお! 模擬戦二千回いいいいいっ!」

 

「きゃあ!?」

 

「やって、られっかああああああああああっ!」

 

 そう、キレる
 将棋台でもファミコンでも、ひっくり返したらその瞬間に勝負はパア。

 

「あーっ! 投げちゃだめですぅ! ルール違反ですぅ!」
「ルールもへったくれもあるかー!」
「ダメですスペシャルさん! 御里が知れるですぅ!」
「うるせーオデコ娘三号! それが知れるってんならお前の方だー!」

 

 うむ、コーラサワーのツッコミ(珍しい)は間違ってはいない。
 ミレイナのこの容赦のなさ、単に玄人と素人の差だけではない。
 あのパパ様の御教育がさぞかしよろしかったのであろう。

 

「認めねー、俺はこんなの納得出来ねーからなっ!」
「負けを負けと認めなければ、人間成長は無いですぅ!」
「負けてない! 俺は負けてない!」
「負けたですぅ! そうやって放り出したのは降参と一緒ですぅ!」
「降参じゃない! 全然対等じゃねーだろ!」
「パイロットなんでしょうスペシャルさんは! MSでの戦いはいつも条件が同じなのですかあ!?」
「カードゲームとMSの戦闘は違うわー!」
「戦いという点では同じですー!」

 

 ああもう、屁理屈なんだかそうでないんだか。
 ぶっちゃけ、これはどっちも悪いっちゃ悪いんだが。

 

「よぉしわかった、オデコ娘三号!」
「ミレイナですぅ! 名前で呼んでほしいですぅ!」
「お前だって俺のことスペシャルさんって呼んでるじゃねーかっ!」
「呼ばれて嬉しいくせに、強がらないでほしいですぅ!」

 
 

 さて、ここで突然ですが質問です。
 この二人の間には、いったいどれ程年齢差があるでしょうか?

 
 

「一週間よこせ! 一週間!」
「一週間? 何するですか!?」
「一週間でこのゲームを極めてやらあ! で、お前を倒す!」
「つまり、この場は負けを認めて練習してくるってことでいいですね?」
「ちーがーう! 負けてねーって言ってるだろ!」
「いくら不死身のパイロットが二つ名だからって、往生際が悪すぎですぅ!」

 
 

 はい答え。
 20歳近くです。
 それを忘れないでいただきたい。
 と、言うところでまさかの次回へ続く。
 いいのかね、ほんと。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心のもうやめて放せは続く―――

 

 

【あとがき】
 「明日お前、来なくていいから」といきなり職場で言われてコンバンハ。
 クビかよ俺なんかしたかよと思ったら上司が俺の四月分の公休を日程表に入れ忘れてただけだったサヨウナラ。
 ボロが出るから早く終わらせようとしているのに終わらないミレイナカードゲーム編……。

 
 

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