08MS-SEED_30_第06話

Last-modified: 2013-12-23 (月) 16:29:37

第六話 絶妙な道のり

色々な人達がいる。
我こそは先へと道を急ぐ人。まるでピクニック気分で楽しそうに歩く人。
港へと続く道は港へと近付けば近付く程人が増えて沢山の人で溢れかえっていた。
カズミ達はその列の後方をゆっくりと歩いていた。義足のパパに妊婦さんのママ、そして憂鬱なカズミ。速く歩けやしないのだ。
「姉ちゃん、大丈夫か?」
ジローが声を掛けて来た。カズミは頷いて答えようとしたが、その前にママが声を掛けて来た。
「カズちゃん、顔が真っ青よ。汗も沢山掻いているじゃない」
パパが首に掛けているペットボトルを差し出してきた。
「ちょっと休むか?トンネルを越えたら父ちゃん道路だから港までは後ちょっとだ」
「大丈夫だよ。港まで頑張れるから急ごう。」
答えながらペットボトルを受け取った。直も足を進めようとしたカズミの足を止めたのはヨツバの泣き声だった。
普段はぐずる事の無い子なのに、大きな声を上げている。
「どうした、ヨツバ。ほら、口を開けてみな」
ジローはポケットから缶を取り出した。カラカラと音を立てるそれはジローの好物の飴の入った缶だ。
ジローは泣き止まないヨツバの口に缶から取り出した飴を放り込んだ。
「ヨツバ、何の味がする?」
「……甘ーい味」
鼻をすすりながらポツリと呟いた。
「良かったね、ヨツバ。甘い味で元気が出たでしょ?」
サンタがヨツバの頭を撫でた。ほっとしたように笑顔を浮かべている。
立ち止まっている間に人がドンドンと追い越して行って、カズミ達は最後尾になった。
再び歩き始めようとした時だった。
「ねえ、あれ何?」
不思議そうにサンタが空を指差した。キラキラと光る虹が空を掛けて行った。
カズミは人差し指を頬に当てて考える。晴れの日に虹が出るかしら。ましてや流れる虹なんて。
その時、地面が揺れた。何かが爆発したような音が聞こえた。それはとても大きくて、今までカズミが聞いた事が無いような怖くて大きな音だった。
「皆、急ぐぞ!」
パパの叫び声に皆が走り出した。坂を上れば長いトンネルがある。トンネルを過ぎれば港へと続くパパの道。
下腹部を押さえながらカズミは走った。髪の乱れを気にせずにひたすら走った。
「ああっ!」
一番先にトンネルを抜けたジローが悲鳴を上げて立ち止まる。皆トンネルを抜けると立ち止まった。カズミは一番最後にトンネルを抜けた。
「何これ……」
思わずカズミは手で顔を覆った。
いつもなら長い長い一直線のパパの道がある。その脇には原っぱが広がっていて沢山の花が咲いている筈だった。
今は違う。花は何処にも咲いていない。道路は所々に穴が開いている。砂煙が上がっていて、何かが焦げた臭いがした。
そして何より、前を歩く人がいなかった。
「……戦争、か」
パパの声が聞こえた。哀しくて泣きたくなるような切ない声。思わずパパの顔を見上げると眉間に皺を寄せて厳しい顔で前を見つめていた。
怖がるヨツバをママが優しく抱き締めている。ジローは肩を震わせてうつ向いていた。
「ねえ、誰かいるよ!」
サンタが向こうを指差した。砂煙で良く解らないけれど、誰かが此方へ歩いて来るように見えた。
カズミ達は思わず走り出した。砂煙は薄くなっていき、思わずカズミは声を上げた。
「――シン君?」

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