08MS-SEED_96_第04話2

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:31:56

「ママがベッドでパパにおねだり♪」
『ママがベッドでパパにおねだり!』
「…………」
「パパの股間はショットガン♪」
『パパの股間はショットガン!』
「…………」
「ウン!グッド!」
『ウン!グッド!』
「…………」
『角度! 良好! 感度! 良好!』
「………なんで…こんなエロ小唄を………」
「ヤマト少尉、どうした! 歌え! ふざけるな! 大声出せ! タマ落としたか!!」
「新兵訓練に付いて来れないならMSから降りてもいいんだぞ!
 走れ! 歌え! お前の力はそんなものか!」
「サー・申し訳ありません・サー!!
 揉んで! しごいて! 叩いて! ゴーゴーゴー!!!」
 ほとんど自棄になって叫ぶように歌うキラ。
 ここは砂漠、炎天下の蜃気楼の中でエロ小唄を叫びながらランニングする一団があった。
 走り始めは邪魔でしかなかった厚手の戦闘服やヘルメットであるが、灼熱の太陽光線から身を守るにはむしろ都合が良かったと少年達は呆然と考えた…それだけ砂漠の直射日光は暴力的だ。
 一応は数キロ毎に少しだけ休みを取って水分を補給しているのではあるが、それでも砂漠にぶっ倒れて立ち上がれなくなる事も合った。
 …その度に頭から水をぶっ掛けられ――驚く事にシローとサンダース軍曹が背負っていたのは大量の水だった――すぐにランニングを再開させれる。
 たかが10km…だがこれが砂漠の炎天下で戦闘服と完全武装では非常にハードなものに化けていた。
 カレッジの授業ぐらいでしか身体を動かしてなかった少年達には地獄に等しい試練であった…特に最初の体力測定でキラに対抗心を燃やして体力を使っていたサイなどは幾度と無く倒れたが、その度に水をぶっ掛けら
れて引き起こされて走らされるた。
 同じように歌いながら走るシローとサンダース軍曹は倒れた少年達を引き起こす体力がある…もちろん汗をかいたりはしているが大声で歌いながら少年達を叱咤しており、少年達には同じ人間とは思えない、異世界の
人間は身体の構造が違うんじゃないだろうかと言う疑惑すら立ち上がる。
 歌いながら苦しさと厳しさと恥ずかしさとで泣きながら走っていたが、滴る汗で涙かどうかすら判らなかった。
 そうしてようやく炎天下の砂漠から戻った少年兵達は濡れたぼろ雑巾の如くフラフラの足取りでようやくAAに帰り付く…さながら4人のゾンビが死霊使い2人に連れて来られたようだ、とはレジスタンスの見張りの弁である。
「なんだあいつら、砂漠にあんな格好で…まるで逃げ出して餓死寸前になったラクダが戻ってきたみたいだ」
「そいつはいい、ピッタリだ!」
「連合の空中戦艦の新兵訓練だってよ。
 トレボー爺さんが頼まれたって俺らの練兵場を昨晩から直してたぜ」
「……フン、MSに乗ってたってひ弱じゃダメダメだな!」
「なんだアフメド、随分連合のパイロットを目の敵にするな」
「気にするな、あっちは軍のエースパイロット様々だ」
「大方、女神様に気に入られてるパイロットが気に入らないんだろ」
「うるさい、さっさと街に行くぞ!」
 アフメドの表現するような状態の少年達がサンダース軍曹の罵詈雑言でようやくAAにたどり着いた時には全員へたばって倒れ込み、ゼイゼイと荒い息を吐いていた…が、サンダース軍曹はそれも許さない。
「ヘタるのは早いぞ、FNG(クソッタレの新兵(ファッキング・ニュー・ガイ))共!
 立て、お前らは両生類の糞をかき集めた程度の値打ちしかないのか!!
 それ以上の価値が有るというならさっさと整備体操を始めろ、訓練は効率よく行え!」
「サンダースの言う通りだ、全員立て!
 運動後は体内に乳酸や疲労物質が溜まり疲れや筋肉痛の原因となる…これを追い出す整備体操は欠かせないぞ!」
『サー、整備運動も何も…動けません…サー…』
 荒い息をしながらシローとサンダース軍曹を見る少年達の濁った瞳はそう訴えかけていたが…それを許す程新兵訓練は甘くない、むしろそういった状況でも命令に従い身体を動かす事を覚え込ませるのが新兵訓練の目的でもあるのだ。
『隊長…素人同然の者に初日からこれはキツ過ぎませんか?』
『いやダメだ…彼らは極限状態まで追い込む。
 彼らの友情が本物ならば必ずその先に光が見える筈だ…やれ、サンダース!』
 ほとんど視線だけで会話をした2人。 サンダース軍曹はやれやれと少々頭を振って気持ちを切り替えると、再び大声を上げて少年達に罵詈雑言を浴びせた。
「どうしたこのクズ共、それでも両親が生かしておいた子か!
 隊長の命令が聞こえ無かったのか!
 橋の下に捨てておいた方がよかった子じゃないと証明したいなら立て、そして整備体操を始めろ!!」
 腐った魚のような目をしていたキラの瞳に殺意にも似た光が宿り、渾身の力を込めて立ち上がる。
 顔は流した汗と涙に砂が張り付いてとぐろを巻き、足がまるで生まれたばかりの子ヤギのようにぶるぶると震えていたが、トールやカズイの目にはそれまでに無い程立ち上がるキラがかっこよく見えて自分達も肺に大きく酸素を吸い込み力が入らない筋肉を叱咤激励して立ち上がろうとし、サイはキラに負けたくは無い一心で
歯を喰いしばって立ち上がりキラより早く気を付けをしようと悲鳴を上げる身体に力を入れた。
「やればできるなら最初からやれウジ虫共!
 お前らのようなウジ虫野郎共が勿体付けてもドラマになんぞなりやしない…見苦しいだけだ!」
『友情が本物ならって…もし仮初の物だったらどうするつもりなんですか、隊長…』
 自分が訓練を受けた時の教官の言い回しを頭脳をフル回転させて思い出しながら、少年達の行く末を心配せずには居られないサンダース軍曹。
 心配しつつも少年達を鍛えるべく声を張り上げる。
「整備体操を始めるぞ、いいかウジ虫共!」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
「返事が聞こえんぞこのウジ虫共!」
「「「「サー・イエス・サー!!」」」」
 整備体操後は屋内用の運動服に着替え、ほっとする暇も無く次は艦内トレーニングルームでのトレーニング等が開始された。
 それぞれ腕立て、懸垂、エアロビクス、腹筋、スクワット、ダンベル上げ等、別々なトレーニングを規定回数行う。
 どれも同じような時間で終わる回数ではあるが…全員が終わらない限り次のトレーニングには移らない、規定回数を終えても全員が終わるまではゆっくりでもそのトレーニングを続けなければならないと言う、恐怖の連座制トレーニングである。
 3~4回のトレーニング毎に休憩とドリンクを飲むことが出来るのがまだ人道的ではあるが、それまでの辛さが無くなる訳ではないしむしろ少し休んだからトレーニングを続けられるなと言われるのだ。
 キラが懸垂を終えられない為にトールがスクワットを、カズイが背筋を、サイがダッシュを終えられない。
 またカズイが腹筋を終えられない為にサイがダンベル上げを、トールがライガー式腕立て(両手両足を台の上に置いて胸が着いた手より下に来るようにする腕立て。 某フ●ミ通の人生相談コーナー「トラブルスープレックス」で獣神サンダ●ライガーが披露していた。
 実際に10回もやれば次の日腕よりむしろ胸筋や腕の付根が筋肉痛になる。 お勧め(笑))を、キラが手や足にゴム紐のようなものをつけて疲れてきた頃にいいタイミングで話しかけてくる黒人の映像を見ながら同じように身体を動かすエアロビのようなものを終えられない。
 ちなみにシローもサンダースもこれに参加しており、最初はやり方を説明したりして少年達より遅くトレーニングに入るのだが自分のトレーニングを少年達より早くやり終え、規定回数以上はやらずにまだ終えてない少年達へやはり罵詈雑言を与えて促していた。
 シローは特に腹筋の時には自分お気に入りのV字腹筋をしながらさっさと終えてしまい、コーディネイターを含めた少年達との差を見せ付けている。
『……やっぱり異世界の人間はこっちの人間と違う……』
 トールのベンチプレスが終わるのを比較的楽な首の筋力トレーニングを続けながらキラは考えていた。
 しかし、次の日訓練にムゥが参加してシローやサンダース軍曹と同じようにヘバる事無く砂漠のランニングを終え少年達よりトレーニングに遅く入り早く終えるのを見て――空腹と筋肉痛は別として――ひ弱なのが自分達であった事に、軍人であればこの程度のトレーニングは普通にこなせる事にショックを受ける事になるのである。

 遅い昼食時間…少年達はテーブルに突っ伏していた。
「ねぇ、少しでも食べないと身体に悪いよ…」
 頭を撫で恋人の短く借り上げられた髪の毛の感覚に一抹の寂しさを覚えながら、ミリアリアはトールを気遣って声を掛ける…一応その台詞はその場に伏っしている全員にかけた物ではあるが。
 先程から彼らの前に置かれた食事にはまるで手がつけられていない…疲労で全員半分眠っている。
「トールったら!」
「んぁ?」
「やれやれ、あたいらが慣れない機械と格闘していたってーのに…男共はひ弱だねぇ」
「ひ弱って…あれだけの訓練いきなりやればこうもなるよ…」
 キキは既に“ヘリオポリス”組の中にそれなりに溶け込んでいた。
 歳もまだ近いということもあるが、女性陣であるフレイと共にミリアリアにオペレータ業務を必死で学んで仲間意識が少しでも生まれたのが効いていた……女性陣にまじわれば男は勝手についてくる。
 今もこちらも遅くなった昼食を摂りに食堂に来て…突っ伏したまま動かない坊主刈りの集団を見つけて見ればそれが姿を変えた少年達だったのである。
「向うじゃ時々シロー達の早朝訓練とかに混ざってたけど…普通に着いて行けたよ」
「というか…少尉と軍曹のあの罵詈雑言…精神的ダメージが大きいよな…」
「サンダース軍曹の口汚さは言葉の暴力…を超えた言葉の殺戮だ…」
「あのアマダ少尉の俺達がどんなにヘタってても冷たく冷静に次のトレーニングを告げる声も違う意味で暴力だ…俺達をシゴキ殺すつもりなのかなぁ」
「まるで人間掃討軍極東方面部隊長って感じだよ」
「…なんだそりゃ?」
「…なんとなく」
「それにしてもこのヘタり様、ちょっと頼り無さ過ぎるんじゃないの…?」
 と、ヘタばる少年達に心底呆れたと両肩を竦めつつ食事にパク付くキキだったが…シローが元居た世界で極東方軍の部隊長という奇妙な符丁の一致を考えるとなかなか言いえて妙だと、カズイの表現に感心していた。
「根性が足りネーんだよ、あんた達は」
「根性なんて…今時流行らないよ…」
「なに馬鹿なこと言ってんだい! 今は戦争やってンだ、一番必要なのは根性だろ」
「そうか…そういえば戦争なんだったな……」
 女性陣には間抜けなそんな台詞も、いきなりキツイ訓練を受けた少年達全員が同意できる感想でもあった。
 ちょっと前までは遠い場所で行われている自分らには関係ない出来事だった筈が…今はその当事者として戦争の渦中の中にいて、そしてその為のキツイ訓練を受けている。
「……なんで俺達、こんな所でこんな事してるんだろうなぁ……」
 昨晩と同じ台詞を吐き出すカズイの言葉には本当にどうしてこうなったか判らないというのと、誰かへ向けた少々の毒が混ざっていた。
 トールとミリアリアは目でそれを制するが、向けられた筈のフレイは……。
「ほらキラ…ちゃんと食べて」
「ん…フレイ……」
「…プっ」
 一つ離れた隣のテーブルでキラと共に座っていた…カズイの声が聞こえたかどうかは本人にしか判らない。
 聞えなかったかのように――もちろんカズイが聞えるように言ったので聞えない筈は無いが礼儀正しくそれを無視して――突っ伏していたキラを無理やり起したフレイだったが、まともに目が合った途端に吹き出した。
「ちょっ…笑わないでよフレイ…!」
「だぁってぇ…くっ…くくくくく……」
 今朝まで有った筈のツンツンした髪の毛は無く丸刈りなのだ。
 隠れがちだったメイクをした女性のように長い睫毛が今では逆に笑いのツボに入り、フレイは下を向いてお腹を押さえて笑いを堪えるがそれでも笑い声が漏れる。
「くっ…くくくく……」
「なんだよ」
 キラは拗ねるようにそっぽを向きながらようやく昼食に手を付けた。
「…なんだよ、あれ」
 少し離れた所から見る2人のやり取りは、声が聞こえなかったら恋人達のじゃれ合いに見えなくも無い…サイはひねたような口調でそう呟きながらく食事に口を付けたが、4人も礼儀正しく聞こえないフリをした。
「ま、まぁ確かに少しでも食べないと…」
「うん、午後の訓練も乗り切れないよ…」
 こうしてようやく少年達の昼食が始まった…が。
「「「「!!!!」」」」
 一体どこにそんな余力があったのかと言うスピードで4人は駆け出していった。
「……なにあれ?」
「…さぁ?」
 フレイとミリアリアが声を掛けることすら忘れて呆然とそれを見送ったが、キキはやっぱりな的な顔をしながら平然と食事を続けている。
「トイレだろ」
「「はぁ?」」
「吐きにいったんだろ…突然厳しい特訓なんかしちゃ、胃が物を受け付けなくなる時があるんだよ」
「そんなこと、あるんですか?」
「あるんだよ、原理は知らないけどね…まぁきっと今晩が地獄だろうさ」
「なぜなんです?」
「筋肉痛で寝返りもうてないだろうからさ!
 シロー達の事だから全身の筋肉を余す事無く酷使させただろうから…指一本動かしても痛いだろうね」
「なんでそんなこと…!?」
「こっちに言われても知らないよ、まぁ“軍人”だからなんじゃない?」

 食事時間を含めて3時間程の時間が合ったのだが、少年達は結局何一つ胃に物を入れられないまま集合時間になり少年達は再び迷彩服に完全装備でAAの外に集合していた。
 あれから何とかトイレで吐き出す事は出来たものの横隔膜の痙攣は止まらず、胃が空のまま空吐きを繰り返して胃液だけを垂れ流していたのだ…丁度そのトイレに用を足しに入ったロメル=パル伍長は
『トイレに入る前からウシカエルの合唱のような奇妙に低い声が絶え間なく続いていた。
 おかしいと思いつつ入ると、酸っぱい匂いと水音と共に個室に突っ込んだ連中がゲーゲーやっていた。
 何事かと覗くと顔をくしゃくしゃにして吐瀉物と汗と涙と涎と胃液にまみれていて、他の三人も同じ状態だった。
 食中毒か何かかと思って驚いて軍医を呼んだ、あれは昔同じ隊の奴ができちゃった結婚をした時の四次会のようだった、あの時は十人近い連中が飲み過ぎて同じ飲み屋で連鎖的にゲーゲーと…』
 と、その時の様子を余計な事まで付けて語っている。
 医務室に担ぎ込まれたもののただの疲労による痙攣と軽い脱水症状と判断され全員点滴をしつつ残りの時間を寝て過ごしていたのだが、時間前になってサンダース軍曹が起こしに来た。
「起きろ起きろ起きろ! マスカキ止め! パンツ上げろ!
 シエスタの時間は終わりだ、素敵な訓練開始の時間だぞ!
 起きないか豚野郎共、豚殺場に並んだ豚の方が切れがあるぞ!!」
 …もとい、叩き起こしに来たのである。
 追い立てられるように再び戦闘服と装備に包まれ整列した少年達はサンダース軍曹を先頭に軽いランニングをしながらAAを離れ、約1km先の岩場の影にあるなにやらアスレチック場かドッグランのような器具が置いてある場所まで移動した。
 そこには既にシローとレジスタンスと思われる数人がいて、器具を直していたり穴を掘ったりしている。
「アマダ隊長に敬礼!」
「全員しっかり休んだか?」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
「よし、これから午後の訓練に入る!
 午前中は基礎的な体力や筋力のトレーニングだが、午後はより軍事的な訓練に入るぞ。
 刃物や銃器、爆発物を使う訓練もある、気を抜くな!」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
「まずお前らに紹介しておこう…レジスタンスの練兵場の管理者のトレボーさんだ。
 今回事情を話して特別に使わせてもらう事になった」
「ひぇっひぇっひぇっ…若いのぉ…果たして何人生き残れるか…楽しみじゃ」
「「「「…………」」」」
「お前らの素敵な遊び場を整備してくれたありがたいお方だぞ!
 どうした、感激で言葉も無いか!?
 礼を言わんかこのクソッタレ共!」
「「「「サー・サンキュー・サー!」」」」
「ようし、少しは知性がある所をお見せできたなクソ虫共!
 早速訓練に入る、いいな!」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
 戦闘服にヘルメットにアサルトライフル(射撃訓練ではない限りマガジンは入れてない)にマガジン等を吊り下げた装備加え、午前とは違って標準的な野戦装備の中身が入ったバックパックを背負った4人。
 50mをダッシュし、高さ2mの木製の塀を乗り越え、長さ1mの堀を飛び越え、幅30cmの平均台を走り抜け、ロープを20m伝い、6mのロープで編んだ網を登って降りて、深さ60cmに掘られ上に有刺鉄線を張った溝の中を10m匍匐前進して、4mの溝をロープでターザンのように乗り越え……まだまだ障害物は続き、そして最初に戻る。
 最初からあったレジスタンスの練兵設備にシローとサンダース軍曹が手を加えてもらったトレーニングコースはさながら全コースをクリアすると100万円貰えるコースのようだが難易度は言う程高くは無い、そこを何週もさせる必要があるからだ。
「急げ急げ急げ!
 そのケツを引っ込めろ! 風穴を開けられるぞっ!!
 銃は地面に付けるな!」
 溝を砂まみれになって匍匐前進するキラの横を並走しながらシローの怒声が浴びせられる。
「くっ……」
 襟や袖から入ってくる砂が気持ち悪い…砂が舞い上がって目や口や鼻に入り込んでくる…なにより疲労の極致にいるキラは文句を言う気力も無くもくもくと訓練をこなすしかない。
「ひぇっひぇっひぇっ…全員お疲れのよじゃな…おい軍曹、気合を入れてやれ!」
「了解であります!」
 葡萄前進を終えて溝から這い出したキラがそんな台詞に振り返ると…キラ達が持つアサルトライフルより大きな分隊支援機関銃を構え、ベルトのように繋がった弾を肩にかけたサンダース軍曹が給弾レバーを引いて初弾を銃内に送り込みつつキラを見据えて銃口を巡らせた。
「え…まさか…」
 重く乾いた発射音が砂漠の空に響き渡り、少年達の周囲に着弾した土埃があがる。
「ほぉぅらほぉぅら走らんかい!
 本当に風穴が開くぞぃ♪」
「うはぁっ!」
「ひぃぃぃぃっ!」
「マジかよ~~~っ!」
「よ~し、その調子ぢゃ! 気合入れて走るんぢゃ!!」
 そんな感じで少年達の新兵訓練は少年達の汗と涙と老人の楽しそうな声とシローとサンダース軍曹の怒号で続く。
 格闘訓練は砂上で行われる…多少は衝撃を吸収してくれるからだがそれでも砂上に叩きつけられると普通に痛い…痛くなければ覚えないからだ。
 簡単な受身や殴る方や蹴り方や投げ方を教わり、杭にマットを巻きつけた木人や2人組になって片方のはめたミットに拳や蹴りを入れたり相手を掴んで投げる…運の悪い者はサンダース軍曹にお手本として投げ飛ばされた。
 他にも銃を使った格闘訓練では銃剣をつけたプルバップ式の連合正式アサルトライフル――シロー達の話によればマガジンが引き金のあるグリップよりも後ろ側にある方式のこの銃は、機関部が後方に配置される為に通常のライフルと同じ長さのバレル(=銃身)でも全長を短く出来るが、狙いが付け難かったり短いゆえに白兵戦がやり難い面もあるそうだ――を武器に銃剣で刺したり、ストック(=銃床)で殴ったり等の訓練、ハンドガンの扱い方や分解整備の方法等を経て実弾を使用した射撃訓練、手榴弾の投擲訓練、ロープワークや斜面のロープの上り下りや渡したロープの渡り方等々…。
 そして最後は再び砂漠のランニングである…エロ小唄を叫びながら6人は走った。
 帰り着いた頃には砂漠の大きく見える太陽が大分傾いた頃である…怒声を浴びながら格納庫の隅でようやく整備体操を終えた少年達にシロー達は待望の言葉を放つ。
「総員気を付け! アマダ隊長に敬礼!」
「諸君、今日の訓練はこれで終わりだが、訓練は明日も続く。
 オペレーター業務やMSの整備に関してはしばらく休む許可を貰ってあるので、たくさん食べてゆっくり休め。
 明日の集合も6:00(ロクフタマル)、体力測定は無いから格納庫に今の装備で集合しろ」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
「よし、訓練終了、総員解散!」
 シローとサンダース軍曹の敬礼に合わせて敬礼した少年達は、総員解散の言葉の後でへなへなとその場に崩れるように座り込んだ…それを見て苦笑しながらシローとサンダース軍曹は立ち去る。
 しばしそうして座り込んでいた彼らものろのろと立ち上がり、着替えと食事に向かった。
 …しかしやはり胃が食物を受け付けない…しかも早々と筋肉痛が全身を襲いかかり寝返りを打っても激痛が走って痛みと空腹でとても眠れるものではなく…未明にようやく気を失うように浅い眠りにつくことができた。
 ちなみにフレイも、眠れぬキラの呻き声とシップを張ろうかとか身体を冷やしてあげようかと言うフレイの献身に対して『触らないで…ほって置いて…』と訴えるキラに、数日ぶりに自分にあてがわれた部屋に戻らざるを得なかったのである。

 ――翌日――

「総員気を付け!
 フラガ少佐とアマダ隊長に敬礼!」
「諸君、おはよう…昨日はよく眠れたか?」
「「「「…………」」」」
「返事はどうした、口を無くしたかクソッタレ共!
 アーガイル二等兵、よく眠れたか!?」
「サー・ノー・サー!」
「お前はどうだ、バスカーク二等兵?」
「サー・ノー・サー!」
「きちんと腹いっぱい食ったか、ケーニッヒ二等兵?」
「サー・ノー・サー!
 サー・胃が受け付けませんでした・サー!」
「お前はどうだヤマト少尉?」
「サー・ノー・サー!
 サー・自分も食べれませんでした・サー!」
 やっぱり…といった感じでサンダース軍曹はシローを向く。
 それを受けて『構うな、続けるぞ』と言わんばかりに目で返し、やれやれ…といった趣でため息を着くサンダース軍曹を無視してシローは声を張り上げる。
「そうか、いきなり急激なトレーニングを始めるとそういう事もある……だが別に病気じゃない、訓練は続けるぞ!」
「いいかクソ虫共、覚えて置け!
 お前らがどんな状態だろうが、どんな精神状態だろうが、腹を下して便所に篭っていようが敵は構っちゃくれん!
 いかなる時もやるべき事をやる、それができて初めてお前らはクソ虫を卒業できる!
 本日はフラガ少佐とうちのミケルも同行する…少佐にお前らのフニャチンみたいな情けない姿を見せるなよ!」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
「総員整備体操開始!」
 筋肉痛の部分を動かした時どんな事になるか…誰しも経験がお有りであろう。
 一見ただのシゴキに見えてもシローとサンダース軍曹の作ったメニューは全身の筋肉を酷使していた…なにせ起き上がるどころか、少年達が着替えすら苦労した程に。
 そこに運動前に全身の筋肉を伸ばし暖める運動をするのだ、ラジオ体操に毛が生えたような運動ですら少年達の悲鳴と苦痛の声があちこちで上がる。
「どうした貴様ら、もっときびきび動け!
 ジジィのファックの方がまだ気合入ってるぞ!!」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
 激痛と苦悶の準備体操を終え、人数を2人増やした一行は砂漠を行く…ムゥとミケルもシローやサンダース軍曹と同じように水入りのリュックを背負っていた。
「スカした美少女もういらない♪」
『スカした美少女もういらない!』
「俺の彼女はモビルスーツ♪」
『俺の彼女はモビルスーツ!』
「もし戦場で倒れたら♪」
『もし戦場で倒れたら!』
「棺に入って帰還する♪」
『棺に入って帰還する!』
 歌いつつ砂漠を駆ける一行…筋肉痛+空腹の少年達は幾度も倒れるが、その度に引き起こされて水をぶっ掛けられてケツを蹴られつつランニングを再開する。
 たどり着いて整備体操が終わった後にサンダース軍曹から手渡されたゲル状の栄養補給食がどれだけ美味かった事か…十数年生きててこんな美味い物を食べた事が無いと涙を流して思った程に。
 そして室内での連座制トレーニング、そして昼食。
 昨日の経験からなるべく固形物を排したのだがそれでも戻してしまい、それでもこのままでは身体が持たないと言う本能からか食事を取る。
 ようやくいくらかは胃に収めたが、本来楽しい筈の食事が苦痛の修行に変わっていた。
 そして午後からの軍事訓練、トレボー爺さんの練兵場での訓練コースの後でのアサルトライフルの実弾射撃訓練では08小隊内では一番の名射手であるカレンが教官となった。
「いいかお前ら、アサルトライフルに限らず銃はすべからく危険な物だ、扱いには細心の注意を払え」
「「「「サー・イエス・サー!」」」」
「総員伏せ、構え!
 ストックは反動を抑えれるようにしっかり肩につけろ、サイトは利き目で見ろ、腰を浮かせるな、踵は横に倒して地面に付けろ。
 呼吸によっても照準の基準線が変わるぞ、フロントサイトの頂点に目標を保つようにするんだ。
 よし、撃ち方初め!」
 カレンの号令で伏せ撃ち、膝立ち撃ち、立ち撃ちをセミオート(=単発)で、3発セミオートで、フルオートで…と次々と弾を消費し、マガジンを交換して行く。
「あれ?」
 キラが次々と的の中心に弾を集めてそこにいる全員が感心する中、密かな対抗心を燃やすサイはトリガー(=引き金)を引いても弾が出ない事に気がついた。
 トリガーを数度引いても弾が出る様子は無い。
「どうした、アーガイル二等兵?」
「サー・カレン軍曹殿、弾が出ないんですが…」
「バカ、銃口を向けるな!!」
 銃を見せようと持ったまま振り返ったサイの銃口はカレンの方向を向いていた。
 とっさにバレルを掴んで逸らしたが、その拍子に手首を捻られたサイの人差し指はトリガーを引き、同時に振り回したおかげで引っかかっていた薬莢が外れ、セレクターはフルオートのまま横に並んでいた射撃訓練中のキラを初め、トールやカズイやフラガやミケルやシローのすぐ横を舐めるように着弾していった。
 もちろん全員が驚きの目をしてサイを見たが…一番驚いたのは当のサイであろう。
「気を付けろといったろこの馬鹿野郎!」
 カレンの拳がサイを襲った。

「ほら腕が下がってる、しっかり銃を頭の上に上げて走れ!」
「サー・イエス・サー!」
 幸いサイの暴発事件で負傷者は出なかったものの、カレンはサイにキツイ罰を与えていた。
 練兵場からAAまで軽いランニング程度で進む間、銃を頭の上に持ち上げたまま行列の周囲を走らされたのだ。
 進んでいる行列の周囲の走り回るというのはなかなか辛い…行列の進行方向の反対側に行くのは幾分スピードを落としても行列が前に進んでくれるので通り過ぎてくれるのだが、進行方向に向かう場合はそれ以上の速度で走らなければならないからだ。
 誰が見ていてもいつでも倒れると思える表情のサイであったが、残り200m辺りでとうとうぶっ倒れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「どうしたアーガイル二等兵、もうヘタばったか?」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「立たんかこのヘタレ野郎、曹長はAAまで周囲を走れといった筈だ!」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
 サンダース軍曹の怒号にも立ち上がれないサイ…シローはその場に近寄って、そして小さく囁いた。
「……立てアーガイル二等兵…ヤマト少尉も見てるぞ」
 サイがはっとして行列の方を見ると、心配そうにこっちを見ているトールとカズイと一緒に…キラもサイの方に振り返っていた。
『キラめ…こっちを見てやがる…。
 自分は平気だからって…自分がコーディネイターだからって馬鹿にしやがって…っ!』
「ちぃ…っくしょぉぉぉぉぉっ!!!」
 サイは叫び声を上げて先へ進んでしまった行列の先頭に向けて走り、そのままAAまで走り続けた。
 …コーディネイターなんかには負けないと頭の中で繰り返して…。

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