※901氏47話あたりの外伝
【本編47話】
アークエンジェルが収容されたドック付近に小さな食堂があった。
昼時ともなればモルゲンレーテ職員がごった返すこの食堂も、今はランチタイムが過ぎまばらに人がいる程度だ。
その窓際の席。港の一部が見えるテーブルに一人の少年が座っていた。
「降りるしかないよね」
外の景色を眺めつつ、カズイ・バスカークは自嘲気味に小さく笑った。
キラみたいに皆から頼られる戦闘能力は無い。
トールのような底抜けの向上心も持てない。
サイのように誰かとの絆を守るため、という意志も無い。
女子達のようにバイタリティ溢れる行動力があるはず無い。
自分に実力が無いのは分かっていた。
しかし、戦闘という極限状態に晒され成長する友人達。
彼らを見るたびに、取り残されていくという孤独感と何もできない無力感が自分を支配する。
ネガティブな言動が多い自分ですら抑えなければいけないと思えるくらいの嫉妬と劣等感を覚えた。
それは今も変わらず、考えるたびに拳に力が入り――
「お待たせしましたー。特製カレーライスと海草サラダ、ドレッシングは胡麻風味。それとジンジャエールです」
ウェイトレスの言葉で思考が中断される。
てきぱきと料理を並べ、会釈して去っていく。
地味な制服を着た後ろ姿。きっと自分より1つか2つ年上くらいだろう。
一般人であり戦闘なんかとは無縁な彼女を見ていると、自分とは違う人種にさえ思えてくる。
ふと気がついてしまう。
軍で残ろうと一般人に戻ろうと自分はこの共有しがたい孤独感をずっと抱えて生きていくのだろうか。
暗い感情がまた自分を支配していく。
不意に――
「辛い」
口の中を突く鋭い刺激に、ネガティブ思考が一気に吹っ飛ぶ。
特製カレーライスは、想像していたよりもスパイスがふんだんに使用されていた。
モルゲンレーテ職員、とりわけ力仕事が主となる作業員やメカニック達からのリクエストで、
疲労感を緩和させるために通常の物よりも辛めに味付けされた物を店主が開発したらしい。
「これ、辛いなぁ。はは、辛い」
なぜだか、甘ったれるな!とビンタされた気分だった。
「でも、……美味しいや」
昼食を済ませた後、少しだけさっぱりした顔のカズイは割り当てられた自分の部屋へ向かう。
(ご飯だけでこんな気持ちになるなんて)
(そういえば、アークエンジェルでの食事は味気なかったな)
(ずっと戦闘の怖さで味なんかよくわからなかったし)
たかが、1度の食事だ。
でもそんな些細な事で、自分は――。
嫉妬心と劣等感は、未だある。友人達についていく事はきっと無理だろう。
だが、全く別の方向からならどうか。先ほどのカレーライスのように。
そして彼らを驚かせ、ざまあみろと笑ってやるのだ。
彼はネガティブな思考のままつき抜け、暗い感情を原動力に行動を開始する。
他人からすれば、あまりにも筋違いな『復讐』。
後に、とある業界にその名を轟かす彼の第一歩。
カズイ・バスカークは動き出した。
思いついたので支援を兼ねて投下
カズイって種世界の俺らだよな
カズイがどんな業界に名を轟かすのかは、お好きにどうぞ(901氏に無茶ぶり返し)
闇料理界を創設してもいいし、アイドルをプロデュースしてもいい
俺らの数だけカズイはいる