AS_番外編

Last-modified: 2008-05-13 (火) 20:04:42

ミッドチルダにも、魔法の世界にも休日はある。
その名目は、地球と同じく様々だ。 勿論、似通ったものもある。
でも、何でだろうな。 と、なのはは思う。
先ほど、母親にメールを出した。
毎年恒例ではあるが、きちんと心を込めて。 それから、今年の誕生日くらいは戻るよ、と。
それくらいの融通は利くだろう。 いや、そんな話ではない。

 

そう、何でだろう?
今日のこの休日の名前は「母の日……。」。
それは、ここにいる人間にとって少しだけ悲しい日なのかもしれなかった。
 

 

「今日は一日付き合って」
なんて言われて、シンはフェイトを待っている。
もう何年も前の話。 シンは彼女の母親を止められなかった。
勿論、そのことを責められた日はなかったが、後悔した日がなかったと言えばそれは嘘になる。
だから、そう多くない休日にも関わらず、めかした格好もせず彼女を待っている。
「付き合って、なんて言うから」
「デートかと思いましたか?」
確かに、思った。
「自惚れだったかも知れないな」
「それは良いですが、そんな簡単な言葉で片付けないでください。
 あの時のシン、真っ赤でしたよ?」
ティスに指摘されて、また少しだけ紅潮する。
「でも、フェイトさんも色気振り撒いたりしませんよねぇ」
「別に良いだろ……。 むしろそんなの考えられない」
相棒に弄ばれて、若干機嫌の悪いシンである。
「良いって、嬉しかったのでしょう?」
「悪いか!!」
「別に、悪くはありませんが……。
 ……認めましたね?」
「……あ」
しまった、なんてものではない。
本当に不覚だった。
そんなふうに落ち込むシンを見て、ティスも流石に悪い気がしてきた。
「ま、まぁ。 ユニゾンデバイスに隠し事は出来ませんよ。
 で、いいですか?」
「もう喋るな!!」
確かに、生まれてこの方、明確な『デート』なんてものを執り行った事はなかったりする。
そんな時間無く、生死の意味を持って別れた人間ならば居た。
「たまにフェイトさんと遊びに行ってるのも、十分デートだと思いますが……。
 そんな気がないだろう事はお互い様で、誰の闖入があってもそのまま遊んでますからねぇ」
だいたい、シンはフェイト以外にもはやてやなのは、スバルともティアナとも出かけることはある。
そのどれもが色気から来るものでないのだから、この人は本当に何か大切なものが足りてないんだと思う。
(そういえば、たまにユニゾンしてみる記憶。 コーディネイターの出生率の低下とか言うのは、単に皆さん鈍くなるだけなのでは?)
本当にそんな筈はないのだが、シンを見ていると本当にそんな気がしてしまう。
全く、駄目なマスターだと、そう思ってしまう。
ただ、心は晴れやかなものだったから、自分もそれを面白いと思っているのだろう。

 

「ギン姉、こっちこっち!!」
手を振る少女の名前は、スバル・ナカジマ。
髪の色などは似ている二人だが、物腰などは全く違う。
スバルはどちらかと言うとまだ幼い感じが取れたが、ギンガはそんな部分が全くない。
因みに、これでも二人とも重い宿命を抱えていた。
それを乗り越え、スバルは特に成長したのだ。
が、(やっぱり、あんまり成長しなかったのかしら?)
ちょっとだけ心配になる。

 

服まで礼服にする事はなかったが、向かった先では二人とも口数を少なくする。
「本当は、お父さんとも来たかったんだけど、それはまた今度ね」
しゃがみ込む。
自分達の母親は、ここに静かに眠る。
厳かな雰囲気、そういうものをスバルはよく理解している。
それは、別れが早かったからだ。
花を手向け、暫しの黙祷。
二人が目を瞑る。
「お母さん。 わたし達、ちょっとだけ喧嘩した事もあったけど」
「ぎ、ギン姉?」
そして、唐突にそう切り出したギンガ。
「でも、スバルがきちんと助けてくれました。
 たぶん、もう私達はこんな事は無いと思います」
仕組まれた戦いは、ちょっとした喧嘩で。
スバルはその物言いに驚いたけど、その通りだと思う。
「もし、もう一回なっても、助けてあげるから」
「逆も同じよ。
 だから、安心していてね」
「なに言ってやがんだ。 もう少し要点だけいわねぇと、疲れるだろうよ」
そんな二人に、後ろから声がかかる。
よく聞くその声の主は、「お、お父さん!?」
ゲンヤ・ナカジマ。 二人の父親だった。

 

アロンダイトではフェイトには敵わない。
適材は適所に。
アロンダイトは速さを信条とするフェイトへ適材とはいえない。
と、言うわけで。
『ミラージュコロイドをジャンジャン出して、パルマフィオキーナです!!』
ティスの言う事が尤もであると思う。
無理に遠距離戦をしようにも、シンは砲撃仕様のモビルスーツでも格闘をするような人間である。

 

「さて、『なんでこんな事してるの?』って思う人もいるかもしれないけど、これが約束だったから仕方ないよね?」
「誰と喋ってんのよ?」
「ううん、独り言」
シンとフェイトの模擬戦を見ている二人が、そんな風に呟いていた。

 

「駄目だ、届かない!!」
シンの攻撃が、尽くかわされる。
手で掴むか、その掌から照射される魔力だけでもと思うのだが、共に全くである。
『ジリ貧ですねぇ。 戦法を変えますか?』
「必要ない。 模擬戦なんだし、目を慣らすだけでも儲けものだ」
地面を蹴る。
フェイトはその速さへの絶対の自信からか、訓練に何か自分なりのルールを設けたのか、自分から向かってくる事をしなかった。

 

来ないのならば、行くだけ。

 

シンのそういう姿勢もあってか、攻撃のあたらない苛立ちはあっても戦況が止まることはなかった。
 

 

「忙しかったからなぁ。
 墓参りなんて、トンと来なかった」
「怒られますよ、そんなんじゃあ」
「勘弁してくれ……。」
ゲンヤとギンガ、それにスバルはその後昼食を食べていた。
ゲンヤの隣にギンガが居て、スバルはその向かい正面に座る。
「でも、お父さんが来るとは思わなかった」
「休暇になったのは飽く迄私たちみたいな局員だけですよね?」
つまり、上が居て、直接的に命令を下す人間が居るところに位置する人間だけだ。
ゲンヤのような立場になると、全体的に休暇の日はむしろ出勤するようになるのだが。
「ま、今年は特別だったさ」
「色々ありましたからねぇ」
そう言う二人に、見つめられるスバル。
「え、え?」
そうなると、困惑するしかない。
色々あったのは皆一緒だ。 なのに、なぜ自分だけ? と、思う。
「ま、本人がこれじゃあ、な」
「わたしもそう思います」
今度はスバルの顔を見て笑い始めた。
全く、失礼を感じる。
むすっとしながら、出てきた料理を流し込む。
すぐに顔が柔らかくなったのを、二人はまた微笑んでみていた。
けど、今度はそこまで嫌じゃなかった。

 

「模擬戦は終わり?」
床にへたり込んでたシンに声を掛けたのは、高町なのは。
因みに、模擬戦の結果は散々。 相棒のティスにさえ『もう少し考えて動きましょうよ』なんて言われてしまった。
「あぁ、どうしたんだ、折角の休みなのに」
返事をしながら、立ち上がる。
この後はまだ用事があるので、シャワーを浴びたかった。
「それはお互い様だよ。 フェイトちゃん、強かったでしょ?」
「まぁ、フェイトの強さなら俺もよく知ってる」
あの後、結局速さに追いつく事は出来ずに負け、その後も2戦したのだが、変わらず。
そんな強い少女と、いや、少女たちと、知り合って何年も経っている。
その頃からこの強さは変わらず、磨きがかかっている。
勿論、シンもそれなりに訓練はしているのだが。
「そんな事より、本当になんでここに居るんだ?」
「え? あぁ、それはね」
そういって、紙きれを一枚を渡される。
そこに書かれているのは、「ヴィヴィオからのお願い?」
「そう。 今日一日出かけてて、って」
こんな要望をした少女を思い浮かべて、笑いが漏れる。
「わかりやすい奴だなぁ」
『おめでとう』とか、そんな看板をせっせか部屋に用意しているヴィヴィオの姿が想像された。
「でも、母の日の事なんて誰に聞いたんだと思う?」
「それはまぁ、英才教育の賜物だろう?」
それをしたのは、なのはと言う親が仕事で忙しすぎるのが要因だったりする。
付きっ切りで世話をしてくれる人がいたのだ。
彼女がそのことに触れていたとしても別段可笑しなことではない。
「けど、わたしは変な感じだよ」
「ヴィヴィオが知っている事が?」
シンが聞くが、「あ、ううん」と、首を振った。
彼女の中ではその話は済んでいるらしく、「じゃあ、何がだ?」聞き直す。
「今日の朝ね、お母さんにメールを出したの」
「あぁ、そういうことか」
なのはの歳が歳なので、なのはの母はまだまだ健在だ。 そこら辺に出てきても恥ずかしくない美貌ともども、まだ保っているらしい。
「でも、良いことじゃないか」
素直に、シンはそう思う。
彼にはもう、祝うべき親も居ないのだが、そういうところから来た言葉ではなかったと思う。
「そう、だよね」
「ああ。 祝って、祝われて。 戦いに置き換えるより何倍マシだ。」
殺して、殺されて。 その先にあるものを求めたのは、間違いだったのだろうか?
当時から連なり、それはわからない。
でも、それを否定した人間が居た事を、自分は忘れない。
 

 

「シン!!」
なのはと別れ、身支度をしてから同じ場所でフェイトに呼ばれる。
用事とは、相手は変わらず場所を変えて。
「で、何処に行くんだ?」
「えっと、どうしよっか?」
もとい。
場所は決めていない。
と、いうのも、模擬戦の最中にフェイトがシンを誘っただけだったからだ。
その上でのフェイトの発言であって、シンは軽くため息が漏れる。
「まぁ、どうせ時間が時間だ」
そう遠出は出来ない。 というか、日は落ちかけている。
「もう少し早めに切り上げるべきだった?」
「冗談、これはこれで良いだろう」
一日あってもどうせやれることは限られる。
緊急を回される確率が高いから、近場にいたいと思うからだ。
「じゃあ、行こうか。 夕食でも食べにさ」
「う、うん」
休暇と言っても、こんなものだ。
それも、悪い気はしないのである。

 

そして入店した店で、人数待ちによるお呼びを待つ二人。
こういう待ち時間も、結構暇じゃないもので。
「シン、ティスはどうしたの?」
「限界だって。 さっきなのはにあったから、頼んでおいた」
近くにおいておかないのは危険かもしれないが、シンの戦い方故に近くにおいておくアベレージがないのだ。
それくらいならきちんと休ませるべきである。
「結構、魔力も戻ってきたんだよね?」
「最後にまた無茶したから、トントンだな。 まぁ、また暫くは蓄えるさ」
シンも無茶してきた。
それは、なのはとは違った形でシンの元にも現れた。
まだ、フェイト達が小学校に通っていた時である。
「シンさん、お席があきました」
「お呼びだ、行こう」
「あ、うん」
それを思い出すのは、今すべき事ではない。
 

 

でも。
「なんだよ、これ?」
「どうしたの、シン?」
先に座ったフェイトが、座らずに立っているシンに呼びかける。
それに答えて、シンは席においてあったものを掴んで、フェイトに見せた。
座ってて死角になっていたそこにあったのは、「財布? スバルのものに似てるけど……。」
「いや、本人のだろ。 まったく、あいつは……。」
どうしようかとも思ったが、それはまぁいいだろう。
危急があればそこで合える。 その時に渡すので構わないし。
ないに越した事がなければ、明日渡しにいける。
「でも、財布を置いて行く、だなんて……。」
普通は気づくだろう。
「まぁ、料理に期待だな」
いや、共にいた人間に気をとられ過ぎたのかも知れないが。
とりあえず、座りなおした。

 

「ねぇ、シン。
 少しだけ、話がしたいと思ったんだけど」
注文を終え、適当にメニューをもう一度弄んでいると、そう口にした。
「今日と言う日についてか?」
「う、うん。
 よく分かったね?」
「見ていればわかる。 辛いのか?」
当たり前だろうけど。
ここに来て、フェイトはまたその母の記憶を冒された。
記憶にあった母親についての事件が起きたのだから、この表現で良いだろうとシンは思う。
「そうかも、知れない。 義母さんにはメッセージ送ったけど、それはやっぱり……。」
「そこまで」
手を出して、フェイトの言葉を止めた。
そこから先は、言うべき言葉ではない。 言って良い言葉ではない。
「だ。 その言葉は、馬鹿にしてるぞ?」
「ご、ごめんなさい」
フェイト自身、自分側から無くなっていたのも有るのだろう。
(俺たちは、まだ未完成なんだよな)
命は有限だ。 その中で完成する人間なんて、いはしないのだろうが。
だから、悩みはループする事もある。
「答えは……。」
「へ?」
聞き返されて、シンも口に出していた事を驚く。
うん、なら言おう。
「答えは、出さなくても良いことじゃないか?」
俺も時間がかかったし。 シンはその言葉は飲み込んだ。
シンよりも幼い頃に起こったことだ。 フェイトはその時の感情を消せはしない。
そして、その頃の感情は幼いものだった。 だから、今も幼いバイアスがかかってしまうのだろう。
それも、悪い事とは思わないが。
「それでもまだ辛いんなら……。
 そうだな。 なのはみたいに祝われる側になれば良い。
 そうすれば、忙しくて嬉しくて、そんな事考えられなくなる」
辛さを消す必要はないだろうが、耐えられないと言う事もある。
ならば、それを覆い隠せるのは幸せなんじゃないだろうか? とも思うのだ。
しかし、何時までもフェイトが真っ赤なのはなぜだろう?
その後スバルが戻ってくるまでの間、あまり会話が弾まなかったのは、母の事を思い出していたからだろうと思うしかなかった。

 

おまけ
ヴィヴィオ「ママ、お帰り!!」
なのは「ただいま、ヴィヴィオ。 どうしたの、家の前にいるなんて」
ヴィヴィオ「待ってたの!! 一緒に入ろう?」
なのは「うん、そうだね」
ドアを空けて
ヴィヴィオ「いつもお疲れ様、ママ!!」
なのは「うわぁ、すごいねぇ」(気づいてたけど、本当に驚いた、かな?)
ヴィヴィオ「ね、ケーキ食べよ~」
なのは「え、作ったの?」
ヴィヴィオ「う~ん、買ったの。 でも、今度はヴィヴィオがママに作ってあげるね」
なのは「あは、楽しみにしてるよ、ヴィヴィオ」