Ace-Seed_626氏_第08話

Last-modified: 2013-12-25 (水) 20:56:19

――L4メンデル はずれ"アヴァロン"

ブリストーのヤツと合流しここにきた。
いま、データベースにアクセスして、自分の出身施設の――マルキオの情報を得ている。
見ればオーブ、プラント、その他、各国の重鎮があのエセ導師に対し何らかの援助をしている…

『ここ"アヴァロン"も、マルキオがラクス・クライン達に援助した軍事費の横流しによって作られた。』

そうブリストーに聞き、データを見たとき。間抜け振りと、財力に開いた口がふさがらなかった…。
これに加え話しをした、"金色の啄木鳥"アントン・カプチェンコが言うには

『軍事技術に関わってきたからいえることだが、
 軍産複合体――ロゴスが最も利益を上げるのは、PS装甲、他には連合のザムザザーに使われた陽電子リフレクター等の技術が民間に還元された時だ。
 つまり戦争後。宇宙開発技術は特にその傾向が顕著だ。いま世界はその利権を奪い合っている。
 そして、戦いの果てに表側で世界を制した者たちは傀儡として操られ、
 裏で操るもの…オーブ・モルゲンレーテを始めに、プラントの企業などが利益を独占する。
 そんな世の中となるだろう…。』

――なるほど、そう考えれば、プラント債権の4割以上を持ち、世界の経済を牛耳っている、
ロゴスを叩き潰そうとする動きに賛同するのも納得がいく。
借金の踏み倒しという、その本音が丸分かりのデュランダル議長の演説後、
ベルリンの事もあるだろうがそんな事二の次で、各国の軍が集まるわけだ――。
本音はロゴスの利権を欲しているということ…。

表の者は"名誉"、裏の者は"利益"…そんなもののために人をないがしろにする。
そんな醜いパイの奪い合いに終止符を打つための"国境なき世界"…か。

俺はそんなご大層なコトを言う気はない。――ただ、歪んだものをリセットするということに賛同するだけだ。

…それにしても"啄木鳥"にサイファーのことの調査を頼をんだとき…その顔に何らかの翳りが見えたのは気のせいだろうか?
――部屋に誰かが入ってきた…入ってきたのは"啄木鳥"…

「……お前の言う"そいつ"はコレに似ていなかったか?」

そういって懐から出した写真を見る
…年齢はアイツに比べては若く…髪の色は白、髪形も違う、目の色は脱色されたかのようになにも映してはいないが、
その造形は"アイツ"だった

――旧ヤキン宙域

L1からの帰り…突然、予定が変更された…
何でも、ザフトのトップエースが腕をもてあましていて、訓練相手が居なくなったそうだ。
"凶鳥"や他にエースはいるだろうが、と思ったが彼等は拒否したらしい…
そこで、まがりなりに"フリーダム"と渡り合ったガルム隊が呼ばれた。

遅い…予定時刻まで後数分…あたりにそれらしいMSが出てくる気配がない
――と、レーダーにかなり速い速度で来る反応が三つ…
小型の高速艇かと思ったが、MSサイズ…先頭の機体はPJの機体がMA形態をとった時以上の速さだ

≪あんたたちが相手か?さっさとはじめようぜ。≫
≪シン。…失礼した。詳細は伝えられているな?では、早速はじめたい、準備はいいか?≫
≪ちょっと、あんたたち…早すぎ…≫

時間ピッタリ…なんと言うか…バランスが取れてないようで、取れてるチームだな…

「かまいませんよ。ルールは一本勝負でビームなど武器は訓練用、それ以外は実戦と同じですね?」
≪き、緊張してきました…≫

こういった空気には慣れてないか…がんばれ…PJ
あちらの礼儀正しい隊長らしいのはこういったことに慣れているのか、淡々と話を進めていた…

≪それでは信号弾を打ち上げますので、それを合図にはじめます≫
「…了解」

―――信号弾が上がった

「ガルム1 エンゲージ」
≪ガルム2 エンゲージ≫

まずは様子をみ≪うおおおおおおおおお≫――

いきなり真正面から、暗いトリコロールカラーで赤い翼のヤツが突っ込んできた――力押しか
その攻撃をかわしつつ指示を出す

「PJ、兵装の制限を解除する ある程度距離を維持しつつ 自由戦闘に移れ」
≪了解!任せてください≫

目の前のヤツの攻撃を着かず離れずの距離を取り、いなしながら状況を確認する
モニターのすみで離れていくPJ、それを追う鮮やかなトリコロール機が見えた…
…1対3の形に誘き寄せて、その外側からPJに攻撃させようかと思ったが
向こうは、それぞれバラバラに散開、そして支援狙いらしい1機が後ろに控えた。…アレは遠距離型か…
どうやらあちら側は、1:1.5といった形を狙っているのか…

!?離れている機体が何かを放出した――あれは…ドラグーン
こっちにきたのは8機といったところか…残りはPJのほうにいった――
それにしても、煩わしい
だが、この世界で生き抜く技を授けてくれた、あの中隊の攻撃に比べては…甘い

≪うわ…わわわ≫

悲鳴を上げながらPJは変形の繰り返しで緩急を生み、的を絞らせずに絶妙な反撃で攻撃を封じ込めている。
だが、PJは中距離~遠距離型…ドラグーンの攻撃に動きを制限されて間合いを詰められ始めている
……そう長く持ちそうもない

「PJ、どのくらい持たせられる?」
≪2分が限界です≫
「接近戦を挑んで止まるなよ 持たせろ!」

≪あんたの相手は、オレだ!よそ見するな≫
≪みくびらないでね、私も赤なのよ≫

どうやらこっちの無線が流れていたようでムキになってきた…それゆえに余計読みやすい
ただ、PJのほうは30秒ほど繰り下げたほうがよさそうだ

「……」

サーベルとライフルの持ち替えがないのはやはり便利だ。
格闘戦をメインに、つばぜり合いと近距離射撃をしつつ、後方支援をしているやつに見えにくい場所に行く…
ドラグーンの動きが鈍った。そのとき、全周波で無線が入る

≪サ、サイファーまだっすか?≫

――PJ、ナイスアクション
追って来たヤツから離れ、あわててPJのほうに向かおうとする様な挙動を見せる

≪逃がすもんかー≫

それをみて一気に追い込みをかけてきた…味方の支援が緩んでいるのを忘れたか?――甘い
前に出ることに気をとられ、がら空きになった懐に入り、攻撃を放ち撃墜判定を出す。
I.F.Fを確認すると敵はあと2機、PJに撃墜判定が出ていた…遅かったか…あれ、1分20秒…PJ――。

≪シン!?≫
≪ウソでしょ?≫

間髪いれずに、後方支援をしていた機体に向かう…すべてのドラグーンをこちらに向けてきたが、
その機動は緩慢になっている――動揺が丸見え。一気に接近し叩き落す。…そして最後の一機――

―――

≪演習は終了だ。ガルム隊はミネルバに向かい、彼らとデブリーフィングを行え≫

その命令どおりミネルバに着艦しそのエアロック地区に入り、後から来たPJに先の演習の反省点を挙げる

「PJ…もたせるといったのなら、もたせろ。
 あそこで向こうに動揺がなかったら、オレが落とされたかもしれない。出来ないのなら下らない意地を張るな。
 1分しかもたないなら、それにあった戦術を考える。それが1番機の仕事。
 正確な報告をしないお前の意地で、部隊が全滅することもある。
 出された指示が出来ないなら、出来ないというのが僚機の勤めだ。」

そういいながら、コレ請け売りなんだよな…と思い出す
コレを授けてくれた人はオレと違い、味方の能力を完全に把握したうえで指示を出す…
まだまだオレなんか足元に及ばないだろう

「すいません…」
「ログを見る限り、あの攻撃に1分10秒耐えて。指示通り、接近戦を挑まないでいたからいいさ。
 後は自分の力を把握するために訓練だな。」
「いやぁ、あれの接近戦には勝てる気しませんでしたよ。って…え…?」

『訓練』という言葉を聞いたPJは青い顔をする…そういえばピクシーとコンビ組んでた頃は、
訓練は実戦形式でしかやってなかったから当然か…。

「あなたたちがガルム隊?ブリーフィングルームはこっち。来なさいよ。」

そういってきた赤毛の少女に呼ばれブリーフィングルームに入る…
中にいるのは黒髪の赤目で目つきの悪い少年と、金髪の少年…ザフトは…この艦の平均年齢はいくつなんだ…
あれ?……この金髪、誰かに似ている…誰だったか…

「レイ、どうした」
「…なんでもない。気にするな。」

向こうもこちらに引っかかるものがあったようだ…オレのことを知るのは、殆ど死んだと思っていたが…
あそこの関係者か何かだろうか…まあ、知らん振りしてくれるならそれでいい。
黙ったまま席に着く。

「あの娘もパイロットなんですかね?」
「気でもあるのか?彼女に言ってやろう…浮気していたって。」
「――!同じパイロットだから気になっただけですよ。」
「うん、だから誤解するように言ってやろうかと…」
「――か、勘弁してください」

PJのあせり顔を肴にしつつそんな話しをしていると、えらいセットに時間が掛かりそうな髪形をした女性が来た…

「みんな演習お疲れ様。…ガルム隊の御二方ですね。ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。」
「そうですか…わざわざどうも」
「では、はじめましょうか。――シン。今日の反省点は?」

さされたのは――赤目か…

「…一対一なら落としていた。」

やけにぶっきらぼうなケンカ腰だな…
まあ、確かに一対一で長丁場の接近戦をしていたなら落とされていたかも知れない…

「そう…じゃあ、ガルムの1番機の…ええっと…」
「サイファー。…演習で気付いたことですね?」
「ええ、彼らと戦ってみての感想、聞かせてもらえる?」

「そうですね…オレとやりあったのは、近距離~中距離型のパイロットで、
 こちらの2番機とやりあったのも近距離型…という印象でした。そうだろ?PJ」
「そうっすね、…ところでサイファー、なんで今日はウィング使わなかったんすか?」

PJの返事の間に一息つ――こうと思ったが、何故それをバラす…
めったやたらに使う物じゃないし、何よりやたらに見せびらかしていいことなどない――
笑みを浮かべつつ、空気の読めないPJのほうを向き

「…PJ、余計なことを言うな…」

そういって黙らせ、続ける

「とにかく、そちらは近距離戦型が二機いるのだから、
 ドラグーン搭載機――遠距離型が、どちらか1機を連携させないよう押さえ込んでいるうちに
 残り2機がバラバラに戦わずに数の有利を生かして、1機に的を絞り、各個撃破を狙うべきだっ『ガタン』――」

「――たかだか、傭兵がいちいち偉そうに…そのくせ手加減していた?――ふざけるな!」
「シン!」

そういって黒髪のが出て行ってしまった。それを追いかけて赤い髪も…
少し見えた赤い目は、一時期よく鏡に映ってたものとよく似ていたような気がした

「短気っすねー」

…PJ…思っても言わない…
同じ軍に属す"フッケバイン"等、エースから戦闘方法を教わらないのだろうか?

――そういえば
『ザフトは、二世代目を中心に"ナチュラル"の軍に属していた者に教えを請わない、教わらないやつが多い…』
そう言っていた人のことを思い出す…。なるほど、その弊害だな…

「ごめんなさい。あの子、最近ああいった感じで…。レイ、後で報告書出しておいて。」

艦長は暗い顔でそういって出て行こうとした。思わず立ち上がり後ろから声をかける。

「艦長さん。すみません。ひとつお聞きしたいことが。」

その呼びかけに反応し、こちらに向き直る
周りは…話し声を聞かれることはなさそうだ…会いに行くことは叶わないが、やはり世話になった者のことは知っておきたい

「…何かしら?」
「ゴルト…アントン・カプチェンコは元気ですか?」

「カプチェンコ教官?……開戦時に行われた核攻撃の時、MIA認定されたわ。――貴方、知り合い?」

…死んだ?あの攻撃で?いや、行方不明ととるべきか…

「――えっと…ユーラシアにいた頃、世話になっていました。家が近所で…」
「…そう、あの人いろんな人に好かれていたからね…貴方、コーディネーター?」
「…分類するなら、そうでしょうけど、そんな大したものじゃないですよ。」
「ザフトの赤服を手玉に取ったのだから、十分大したものだと思うけど?こちらで雇いたいくらいよ。」

そういって艦長は出て行った…。自分ながらよくもまあ、あんなウソが出てくる…
どうやら、ブリーフィングはお開きのようだ…

「…PJ、帰るか。」
「そうですね。」

部屋を出ようとすると後ろに視線を感じる…それを辿ると金髪がいた。

「…先に言ってスタンバイしておけ。向こうの隊長ともう少し話しをしたい。」
「あ、分かりました。」

PJが出て行ったのを確認し、口調と思考を戦闘時と同じものに変える。
演習についてかも知れないが、おそらくは別のこと――素性に踏み込まれることは不愉快だ。

「それで?何を話したいんだ?」
「…お前はなんだ?」
「――いきなりそうきたか…ただの傭兵だが?」

「そういうことを聞いているのではない。お前はアレのオリジナルだろ?よく俺の前に顔を出せたものだ。」

「…軍人でも傭兵であっても上から与えられた任務をこなす――それだけだ。仕事先でお前みたいのがいるとはな。
 ……オリジナルという言葉にくくっているようだが、お前は何かのコピーなのか?」

そういうと顔にハッキリと怒りが浮かぶ…
…思い出した。資料で見たあの成金、業突張りのバカに似ている…。そのコピーか…。
――だが、それがどうした?

「はっきり言って不愉快だ。死ぬまでに会った人、あった事、そういった人生の経験はコピーできん。
 "商品"として売られようが、模造品であろうが、そいつの経験はそいつだけのもの。
 オレはオレだし、あいつらはあいつらだ。
 もしかしたら、あいつらの中には、オレ以上の経験をつんでいるものもいるかもしれない。
 …ないものねだりだが、オレはあいつらがうらやましい。どんな形であれ、"ナチュラル"の世界で生きていられるのだから…」

「経験?うらやましい?ふざけるな!オリジナルであるお前が――」

言い過ぎたか…この剣幕を見るに銃でも抜きかねないな…

「…違うもの、とはいえ"オリジナル"に分類されるオレの言葉は聞けないか…一言だけ言わせてもらうなら。
 お前がこの場所、このときまでに至る過程はお前のものだろう?」

そういって部屋を出る。追いかけてくるかと思ったが結局こなかった…
足早にハンガーにいき機体に飛び乗る

「サイファー、何かあったんすか?」
「なんでもない…とっとといくぞ。」

すばやく発進させ母艦に戻る…。
今日は嫌な日だ…胸糞悪い。こんな日はさっさとベットに入って寝てしまうに限る。

―――

「俺の過程は俺のもの?俺は…俺はラウ・ル・クルーゼだ。俺は議長のために…」

その姿は痛々しいものだった。

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