――ユーラシア連邦所属:ヴァレー宙空基地
いつも通り、朝の自主トレと新人の訓練メニュー作成を仕様かと思ったら、今日のガルム隊と訓練生は休養日だった
それを思い出し朝食をとり、なんとなく向かった娯楽室に、一人大型モニターを独占するPJがいる
その気配は戦場を支配するある種の殺気を振りまいていた…
「…?PJどうした?」
それが気になり、声をかけたオレの言葉と共に、あたりの人間の気配があたりから引いていく気がした――
瞬間、まずい事を聞いた――と理解する……だが時遅く。
「あ、サイファーすか。彼女、デビューが決まったんすよ。それで彼女のデビューシングル。
つまり俺の書いた曲が売り出されて一週間――ランキングのどこに載ったかって見たくて、
ここで番組始まるのまってるんすよ。それで――(ry」
終戦から三ヶ月――PJの書いていたあの曲は彼女のデビューシングルとなった
コーディネーターに部類される彼女だが、大西洋連邦で売り出されたそうだ…
PJいわく、彼女には才能が有るとか……。確かに、プラント議長になったのよりはるかに上。とオレも考えている
実際、その歌声に基地の面々は癒されていた。その長い自慢話を聞き流しつつ、モニターに目を向ける
すると、突然画面が切り替わりニュース速報が入る
『プラント、地球連合の終戦条約締結地オーブ・アカツキ島が本日・未明、テロ行為をうけ、終戦記念碑などが破壊されました
これを受け、プラント評議会議長及び、連合各国は遺憾の意を表明し――』
そこまで聞いたところで戦闘要員の招集の放送がかかる――休日は返上のようだ…
「ええー!!?」と、言いながらモニターにしがみつこうとするPJを引きずりながら娯楽室を出て行くことになった
――ブリーフィングルーム
いつも通り司令官殿が、いかつい顔を浮かべて待っていた。パイロット一同席に着く
「さて、諸君らの知ってのとおり、終戦条約締結地のオーブ・アカツキ島が"テロ行為"で消失という話は知っていよう…
これは、プラント・ザフト及び各国の上級将校らによるクーデターだ。
"国境無き世界"を名乗るクーデター組織は、旧ロゴス軍の新鋭艦――コードネーム『XB-O』と呼ばれる、
巨大ガンシップを持ち出し、アカツキ島を爆撃した。諸君はXB-O追撃作戦に備え――」
そこまで司令が話したところで突然、基地がゆれた
「デブリか?」「それにしてはでかすぎるぞ!」「一体なんだ!?」
部屋にいる面々が騒ぎ始める――
「待て……管制より緊急連絡!所属不明機が当基地に接近中!
全機 直ちにスクランブルに入れ!――時間がない 直ちに出撃せよ!」
司令官が指示を出す前に、PJとオレは部屋を飛び出していた
ハンガーでは既に自分たちの機体がスタンバイされていた。すぐさま乗り込み、電源を入れる
「PJ今回はあの要塞のようなヤツだ…装備は出来るだけつんでおけ」
≪分かってますよ こちらガルム2――管制、状況を伝えよ!≫
≪地球側のカタパルトは潰された 予備の裏側のを使え――≫
PJが装備の変更を手早く終え、情報を求める。それに答えたのは現場の整備兵だった
その指示を受け、発進口へ迎撃に向かおうとすると爆発――それに巻き込まれて新人たちの機体は瓦礫に埋まってしまった
≪発進口に直撃弾! 発進不能!≫
絶望的な状況になった――
管制室も状況確認で騒ぎの最中だった。司令官が怒声を上げる
「一体どこに目をつけている!?何故、気付かなかった?」
「NJだけでなく、強力なECMとミラージュコロイドで――」
「馬鹿者!アルテミスの二の舞をしてどうする――MSの迎撃は!?反撃は!?」
「まばらな反撃で精一杯です。発進口は真っ先に破壊されました――」
ダメージコントロールに表示される被害状況は戦艦用、MS用カタパルト問わず破壊されていた
XB-Oの攻撃は完全に基地の構造を把握したものだった
「ヤツが飛んでいった方向は!?復旧は!?」
「アレが向かったのは……L5方面です。復旧には一ヶ月は掛かり――」
「MS射出のためのスペースだけを確保すればいい、完全に破壊されたのならば、ミサイル発射口でも何でもいい。
MSが出れるほどの穴を作れ!新米のMSパイロットにも手伝わせろ。ガルム隊は増槽とブースターをつけて待機!」
「!?そんなことをすれば、ガルム隊しか発進出来なくなります」
そう言われ、司令官は間髪いれずに
「――好都合だ。数ヶ月足らずのチェリーボーイにあんなバケモノを相手にするのは無理だ。
ガルム隊なら何とかできる!!仲間の敵をとりたいなら急げ――」
その指示で一丸となったヴァレー基地、なんと20分でその作業を終える――
XB-Oを追いかけるためのブースターの使い方を確認していると
≪準備が出来た――ガルム隊、緊急発進急げ!≫
管制から発進を促す怒声が聞こえてきた。それに割り込むように整備長が危険な笑みを浮かべつつ――割り込む
≪ガルム1、そのブースターに細工をした。聞いて驚くなよ――≫
≪俺が整備した機体だ また無事に戻ってくるんだぞ≫
それに続き、腕のいい整備兵がこっちにエールを送る――猟犬が反撃のために飛び立った
十数分後…
≪レクイエムの当たったプラントコロニーがこんなところに…≫
ヴァレー基地からXB-Oの向かっていった方向はL5方面――その途中に漂ってきていたプラントコロニーを発見する
基地の管制はやられる中においても敵を捕捉し続けていた。その方向に進むと…
≪警告! レーダーにアンノウン捕捉≫
管制官がその上げたその声と共に、アンノンから護衛機が飛び出してきた
――XB-O"フレスベルク"
ヴァレー基地襲撃時のメンバーはフレスベルクに戻り、一息ついていた
「これで"鬼神"とやらが我々の前に立つことはないだろうな」
「核ミサイルか陽電子砲でも使えればもっと楽だったろうに…」
「バカヤロウ、"ナチュラル""コーディネーター"両方に痛みを与えたあんなものを使うかよ。
それは本当に"痛み"を与えるべきものに使う、そんな信念を持った組織だからお前も参加しているんだろ?」
「ええ、まあ、そうです」
"フレスベルク"はもともと付いていた陽電子砲は取り外し、ミラージュコロイドとECMを強化していた
そんな会話を聞きながら、"灼熱の荒牛"アルベルト・ロベズは仲間に聞こえないよう一人、愚痴る
「"鬼神"か…脅威というならば、やはり核を使うべきだったのでは…」
「エスパーダ1、そんなことをしたら彼らの言うように、私たちもクラインやジブリールとかわらないわ
それに、私たちを追ってきたとしても…」
「そうだな、我々が完膚なきまでに叩き落せばいい――」
そういって気色ばむアルベルトを見ながら、その2番機:マルセラ・バスケスは心の中で呟く――
『私はNJ投下で母を失い、ユニウスセブン落しで父を失った。宇宙のコーディネーターを…戦争を憎んで
傭兵となった私とコンビを組んだのがこの人、一世代目のコーディの私を毛嫌いすることなく……
その飛び方は雄々しくて…力強くて…いつの間にか心惹かれていた…そんなあなたと共に戦えるのならば――』
そんなことをマルセラが考えていると、パイロットルームに警報が鳴り響く――
"国境なき世界"――彼らが戦う理由は、捻じ曲げられた戦争に対する復讐と言うべきだろう。
しかし、相手側の復讐と言うのを失念していた。
≪光学解析とレーダーがヴァレー基地からの機体発進を確認した――おそらく"鬼神"だ。迎撃準備急げ!!≫
だが、皆、腕利きの兵士…この警報を聞きパイロットたちの顔は引き締まり、格納庫に向かって一様に駆け出した