CCA-Seed_373 ◆lnWmmDoCR.氏_第30話

Last-modified: 2008-06-18 (水) 00:10:24

 大気圏外で静かに漢たちは祈りでもするかのように目をつぶっていた。
降下カプセルは既に降下準備を済ませ切り離しを待つのみとなっていた。
そしてしばしの沈黙の後、降下ポッドの切り離しのカウントダウンが始まる。

 

「降下ポッド切り離し予定時間までマイナス20。各員、降下後の健闘を祈る。」

 

オペレーターの女の声が各機に届く。こういうときむさ苦しい男の声でないのは唯一の救いだろう。

 

「マイナス15…10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」

 

「ザフトの為に!!」

 

 オペレーターを含めパイロットたちは口々に自身を、仲間を鼓舞するかのように叫んだ。
同時に降下ポッドがゆっくりと大気圏に向かって落下していく。あるものは祖国に残す家族を想いあるものは戦争の無い世界を夢見て戦地へと向かっていく。
ふと、地表が白く光ったと想うとコックピット内にアラームが鳴り響き、

 

「地表より高エネルギー反応確認!あ…ああ…」

 

 声が聞こえたかと思うと、男たちの体から肉は削げ、骨は砕かれ、その想いと共に虚しく消えた。
大気圏突入コースに入っていたポッドをニーベルングが覆い尽す。
オペレーターは避ける事も防ぐことも出来ない仲間たちをただ見続けることしか出来なかった…

 
 

 地表から放たれた光が消えるのと同時に我に返ったデュランダルは間髪入れずに怒鳴った。

 

「何だ、あれは!!降下部隊はどうなった!!」

 

 メイリンは泣きそうな顔で振り返ると、やっとのことで声を振り絞った。

 

「降下部隊…全てのマーカーがロスト…全滅…と思われます…」

 

 デュランダルは自分の心臓が"ドクン"と嫌に大きくなるのを感じた。
ミネルヴァの艦橋に一斉に他の艦からの通信が入る。その全てがデュランダルの耳には入っていない。
暫く黙っていたタリアもたまらず

 

「議長!!」

 

と半ば怒鳴るようにデュランダルを呼ぶ。
デュランダルは静かに立ち上がり、メイリンに味方の艦に通信を入れるように頼むと毅然とした態度で話し始めた。

 

「対ロゴス同盟軍に通達します。先ほどのヘブンズベースからの攻撃、すでに皆もわかっているでしょうがザフト軍の降下部隊が全滅しました。これにより我が軍の消費戦力は50%を超えた。
 しかしこれは我々の敗北を意味する物では断じて無い!!ここで引けばロゴスはつけあがりさらに戦争の歴史を繰り返す!我々には退路は無いのです!今散った英霊たちに我々が正しいと言う事を勝利をもって証明しようではありませんか!せめて彼らの死が平和の礎とならん事を…」

 

 通信が切れると誰からとも無く雄たけびを上げそれは瞬く間に同盟軍内に広がり、同時に艦上から様々なMSが発進していった。散っていった者達の思いをも乗せて。

 
 

 デストロイの一機を相手にしていたアムロはその雨のような砲撃を辛くも避けながら その通信を聞いていた。
不信感と安堵感が入り混じった感情を感じながらも目の前の巨大な敵にビームライフルを放つ。しかしビームは先ほどから敵にはまったく届いていない。
機体の周りに浮かぶデストロイの腕部、シュテュルムファウストが陽電子リフレクタービームシールドでことごとく防ぐ為だ。
いや、それだけでは無いとアムロは解っていた。
先ほどからデストロイのパイロットからであろう殺気の中に感じる悲しみや苦しみの感情がアムロの判断を鈍らせている。デストロイに銃口を向けるたびにパイロットの声が聞こえていた。

 

 モウ…タタカイタクナイ…ヤスマセテ…

 

 コロシタクナンカナイ…シズカニ…ネムリタイダケナノニ…

 

 心まで支配されてしまいその本心さえも自覚していないパイロット。ただただ白いMSに向かってトリガーを引き続ける体、その行為に何の疑問も持っていなかった。

 

 さっきまでは。

 

 彼は目の前の敵に向かってトリガーを引くたびに心地悪さを感じ、バイタルをモニターしている嫌なヤツの声も序所に聞こえなくなっていく。
目の前が暗くなりトリガーを引く動作が遅くなる。それは彼の心が少しだけ戻ってきた瞬間だったかもしれない。
その衝動を一瞬のうちに押さえ込み再び前を見据えたが、白いMSは眼前まで迫っていた。

 
 

 νガンダムはバック中するように背中に装備したバズーカをツォーンが放たれようとするデストロイの顔面へと撃つ。人で言う口腔で誘爆し、デストロイの顔半分が吹き飛ぶがそれでも恨めしそうに光るデュアルアイ。しかしその輝きはもう虚勢を張っているに過ぎなかった。
腹部にはすでにビームサーベルが突き刺ささっており、まもなく機体がガクンと崩れ落ちそうになった。
爆発を始めたコックピットの中でまだトリガーを引こうとするデストロイのパイロットとそれに呼応するように輝き始めるスーパースキュラ。

 

「もう…やめるんだ!」

 

 アムロは地上ではほとんど使えないフィンファンネルがデストロイを覆うように展開させるとビームを湾曲させる磁場を形成しスーパースキュラを磁場内で幾度も曲がりくねらせた。
自ら放ったスキュラに幾度も撃たれ、のたうちまわるデストロイ。轟音を立て崩れ落ちていくなか、アムロには

 

 アリガトウ…

 

 という言葉を聞いた気がした。