CCA-Seed_373 ◆lnWmmDoCR.氏_第32話

Last-modified: 2008-06-24 (火) 17:21:47

 到る所で噴煙が上がる中、煙をかき分けミサイル群が空中のインパルスへと迫る。
 シールドでかろうじて防御したルナマリアだったが、インパルスは態勢を大きく崩し落下を始めた。
爆風と重力によって助長された加速度に意識を持っていかれそうになるのを必死にこらえている所にデストロイは容赦なく最大の火力を持って追い討ちをかけようとしていた。
ロックオンされたことを告げるアラームが鳴り響く中、一瞬その姿をとらえたルナマリアは態勢を立て直そうと試みるがインパルスはなかなかそれに応じてくれず、自分の力不足、シンとの力量差、そして目前に迫った“死”への恐怖に

 

「ちくしょおおおお!!!」

 

 との叫び声がコクピット内に響き渡った。デストロイの胸部がゆっくりと光り、熱線が発射されようとした刹那、上空より一筋のビームがデストロイへと打たれた。
腕の付け根あたりへと命中したビームによってデストロイは態勢を崩され照射されたスーパースキュラはかろうじてインパルスを逸れ空に広がる雲を打ち抜くのみに終る。

 

「誰!?」

 

 猶予ができたことにより体制を立て直しつつあるインパルス。ルナマリアがビームの発射先を見上げると、太陽光が目に入り少し目を細めつつもかろうじて白いシルエットを伺うことが出来る。

 

「νガンダム…?アムロ隊長?」

 

 呟くや否ややすぐさま通信が入る。

 

「何をしているルナマリア! 早く機体を立て直せ!」
「レイ?」

 

 意外な助けに少し驚き、そして自分の勘違いを恥ずかしく思った。よくよく考えると空中に滞空している時点でνガンダムだという考えは無い。
考えれば考えるほど恥ずかしくなり、それを隠すようにレイに少しきつめの口調で言葉を発する。

 

「何でこんなとこにいるのよ、レイ。あんたもあのデカブツ相手にしてたんじゃないの?」

 

 レイは軽く嘲笑するように笑うと、

 

「それは愚問というものだな、ルナマリア。」

 

 挑発的な物言いにテンションが上がるルナマリア。

 

「なんですって!?どういうことよ!」

 

 レイは自信深げに落ち着いた様子で言葉を発した。

 

 「もう既に倒した。少々てこずったがな。」

 

 先ほどまでレイがいたエリアには体に大きな風穴をふたつ開けられたデストロイが無残にも倒れており、時折各部から爆炎をあげている。
しかしレイが言う様に、手こずったと言う事を言葉以上に機体が現わしており、左肩のアーマーが破損しておりそのせいか左腕もだらりとして駆動していない。
折れたブレードアンテナ、いびつに変形したシールド等見れば見るほど損傷を見つけられる。
だがそんな状態になっても来てくれた仲間にルナマリアは安心感と信頼感、そして勇気をもらった気がした。
と同時に負けていられないという思いがふつふつとわき出てくる。目の前の敵に、味方の強さに、そして何より自分自身に。

 

 深く深呼吸をすると

 

 「レイ、援護を頼んでもいい?」

 

 静かだが強さを感じる口調で言った。

 

 「無論だ、ルナマリア。こんな状態だが援護くらいならこなしてみせる。」
 「ありがと!」

 

 レイとの通信を切ると今度はミネルヴァへと通信を切り替え、

 

 「メイリン聞こえる?ソードシルエットを射出して!換装するわ!」

 

 メイリンはタリアがこくりと頷くのを見ると、シルエットフライヤーを射出する手続きをとった。

 

 「お姉ちゃん、シルエットフライヤーがそっちに着くまで3分程かかります。気をつけて!」
 「今は“お姉ちゃん”じゃないでしょ。でも…ありがと。」

 

 そういうとルナマリアは通信を切りデストロイへとビームライフルを撃った。

 
 

 一方、アスランが駆るレジェンドもデストロイとの決着を付けようとしていた。
スキュラをつぶされ、顔面も下半分がただれたように溶けているデストロイ。対照的にほとんど損傷がないレジェンド。
機体の状態だけでアスランの技量の高さがはっきりと分かる。

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

 雄たけびを上げながらアスランはシュツルムファウストから撃たれるビーム砲を2本のビームサーベルで次々とはじき返しながらデストロイへと向かって突進、2本のサーベルを大きく振り上げた後、胸部に深々とサーベルを突き刺すとそのままドラグーンを前方へ向け一斉射した。
ビームによって穿たれた幾つもの穴が円形を型どり、そこから爆炎を噴き出しデストロイはゆっくりと地面に倒れた。

 

「こちらレジェンド。高脅威目標一機撃破。特に指示が無ければ続いて施設侵入部隊の援護へ向かう。」

 

 爆砕したデストロイを見下ろしながらミネルヴァへと通信を入れるとヘブンズベース本陣の方へと機体を向かわせた。

 
 

 場面は戻り、インパルスとセイバー。
 換装を無事終えたインパルスはエクスカリバーを頭上でくるくると回すと切先をデストロイへと向け、ビームブレイドを発生させる。

 

「おまたせ、レイ。さぁ、行くわよ!!」

 

 巨大な諸刃剣を振りかぶりながら敵機へと突っ込みつつ砲撃の雨霰を機体をロールさせ回避する。ギリギリでかわし、脚部へと狙いを定める。
上空からセイバーがビームライフルを連射し援護を行うとそちらに気を取られるデストロイ。刹那、右脚の横でインパルスがワルツでも踊るかのように華麗にくるりと回ると、右膝下辺りからズルリと切断された。
大きく体が傾きさらに残った左脚に大きな負荷がかかり膝関節が悲鳴をあげ破断する。
巻き添えを食らわないように後方に退避しつつそれを見ていたルナマリアは、

 

「やった…」

 

とつぶやく。その一瞬の後、

 

「まだだ!敵はまだ動きを止めていない!」

 

 レイの言葉にはっとしつつデストロイを見ると、両腕だけで上体を起こそうとしており、かろうじて向けられた眼光はまだ消えてはいなかった。

 

「しぶとい奴は嫌われるわよ!!」

 

 とどめを刺そうと接近するインパルスにデストロイはミサイルの全弾で応酬する。
間を縫ってよけつつも接近するインパルスにバックパックを囲むように配置されている熱プラズマ複合砲、ネフェルテム503がすべての砲門より放たれた。
 突如迫るビームにルナマリアは一瞬驚いてしまった。MS形態ではまず使われないと思われる位置に配置されているビーム砲が撃たれたのだから無理もない。事実ビームはデストロイ自身の上腿をも打ち貫いている。
その一瞬が反応を遅らせ、ビームがインパルスの左膝関節を貫き下腿は推進剤に引火したのか瞬時に爆発した。
被弾の衝撃、下腿の爆風と片足となったことによるバランスの変化が重なりインパルスが地面へと激突し慣性に従い地面を滑って行く。
その衝撃はコックピット内にまで伝わりルナマリアの体は大きく揺さぶられていた。が、

 

「調子に…乗るんじゃないわよ!!」

 

 フェイスガードの下で強く目を見開くとエクスカリバーを地面に突き刺し無理やり機体を安定させるとレッグフライヤーを分離させスラスターを全開にし、そのままデストロイへと迫る。
ミサイルが付近に着弾、爆発し更にビームが放たれるが爆風をものともせずビームをシールドではじき返しながらすさまじい勢いで直進しついにエクスカリバーのビームブレイドがデストロイの頭部へ叩き込まれた。

 

「でええええええええええ!!!」

 

 言葉にならない叫びをあげたルナマリアは強く踏み込むスラスターにより一層力を入れた。
大地ごとデストロイを分断していくインパルス、そしてデストロイを真っ二つにすると力が抜けた様に地面へと再度滑り込んだ。
と同時にセイバーがビームライフルを放り投げつつ着地し、インパルスの腕をつかむと上空へと飛翔する。

 

「無事か?ルナマリア。」

 

 少し焦った声で聞くレイにルナマリアが答える。

 

「大丈夫よ。ちょっと頭がクラクラするだけ。」

 

 そして眼下で大爆発を起こしたデストロイをみて

 

「私もやれるのよ…」

 

 意識せず言葉が出た。誰に言うわけでも無かったが、

 

「当たり前だ。お前も赤なんだからな。このくらいやってもらわないと俺たちが困る。」

 

 と優しさを皮肉の中に混ぜた言葉をレイは掛ける。それをいつもどおりにルナマリアは受け止め、少し怒ったふりをした。
地上では連合軍の抵抗はもう見えない。事態は収束に向かっていた。

 
 

 全機がミネルヴァに帰投してから小一時間が過ぎていた。
ヘブンズベースはすでに静寂が訪れ、突入した部隊からの連絡を待っている状態であり、誰もがロゴス壊滅の報を期待している。
シン、ルナマリア、レイはデッキ近くの待機室にて会話もなくその報告を待っていたがシンが静寂にたえかね

 

「ロゴスってもうお終いだよな…」

 

 とつぶやいた。それにルナマリア、レイは目線をシンの方に移すだけで、そしてすぐに視線を落とす。

 

「なあ、ルナ、レイ。」

 

 無視されたというわけではないがシンは改めて聞きなおした。誰かに“そうだよ”と
言ってほしかった。“戦争はもうおしまいだ”と言ってほしかった。

 

「わかんないわよ、そんなの。報告を待てばいいでしょ。」

 

 ルナマリアが視線をシンに向けないまま口を開いた。レイは沈黙を続けている。
シンは何も言わずに椅子の背もたれに体重をかけると足を組みなおしたり腕組みをしたりと落ち着くことはなかった。

 
 

アムロとアスランはブリッジにて議長と共にその報告を待っていた。
デュランダルは目を瞑り待ち続けていたが、

 

 「遅いな…」

 

 とあまり大きくない声で言うがほとんど静寂に包まれているブリッジ内にはほとんどの人数に聞こえていた。
それは誰もが思っていたことであり、たまたまデュランダルが言った、というだけにすぎずメイリンが返答を行う。

 

「こちらから通信をしてみましょうか?」

 

という提案。デュランダルは少し考えた後に

 

「うむ、頼むよ。」

 

 と静かに答えた。

 

 しばしの通信の後ブリッジは誰もが落胆していた。
突入部隊からの連絡は“ロゴス幹部を拘束すれどロード・ジブリールのみ見当たらず。他幹部の証言によると戦闘中にはいなくなっていたとの事”だった。
デュランダルは座っていた椅子の手すりに思いっきりこぶしを打ち付けるとぎりっと歯をならし、勢いよく立ちあがると

 

「何という人だ、ロード・ジブリール!!仲間をも見捨て自分だけ逃げだすとは!!」

 

 そのまま無言になり立ち続けるデュランダルにしばらく乗員の視線は向けられていたが、アムロはアスランの肩に手を置くと顎で行こうとゼスチャーを行い二人はブリッジを後にした。

 

 休憩室で待つシンたちに報告の内容を伝えると三人とも無言のままシンだけが壁を叩き、そのまま何も言わず自室へと引き上げていった。

 
 

 翌日、ジブラルタルへと戻っていたミネルヴァMSパイロットは終日の待機命令が出ており、食堂でアムロは遅めの朝食を取っていた。
昨日の戦闘の事、これからの事、そして何よりこれから片付けなくてはならない自室に放ってきた戦闘報告書などの数々の書類の事を思い出すと少しだけ嫌になり、それを一緒に飲み込むかの様に口に入れたトーストをコーヒーで流し込む。
食事を済ませ残ったコーヒーに口を付けようとした時食堂にシンが現れた。シンはパンをトースターに入れるとコーヒーをカップに注ぐ。
そこでふと顔をあげ、目線の先に座っているアムロに気づいた。

 

「おはようございます。」

 

 いつも元気が有り余っているという位のシンが珍しくおとなしく挨拶をする。
その顔は目の下にクマができ、もともと赤い眼がさらに充血により赤くなりいかにも 「眠れませんでした」 という顔をしていた。
アムロは同じようにおとなしめに挨拶をするとシンがカップにミルクをいれ、更に大量の砂糖を入れているのを黙って見ている。
対面にシンが座り何も言わずに目玉焼きを乗せたパンにかぶりついているが食事をすでに終わらせていたアムロはトレイを持ち上げようとした。
が、充血した眼でアムロを見たシンにアムロは何かを感じ取り、

 

「もう一杯コーヒーを取ってくるだけだ。ついでにトレイは片づけるがな。」

 

 と言ってトレイを返却したあと2杯めのコーヒーをカップに入れ、席へと戻った。
シンがパンを平らげ甘々のコーヒーを二口ほど飲むとアムロの方から口を開いた。

 

「ひどい顔をしているな。寝れなかったのか?」

 

 シンはまだ熱いコーヒーに息を吹きかけながら答えた。

 

「…はい…目を閉じると昨日の戦闘の事とか、ジブリールがどこに行ったかとか考えちゃって…」
「休めるときに休んどけよ。MSパイロットは急な出撃もあるんだからな。」

 

 優しく諭すようにゆっくりと言葉を発するアムロ。シンは一口コーヒーを飲むと

 

「隊長はどう思うんですか?ジブリールの事とか。」と聞き返した。

 

「いま俺たちには奴を探す事はできないよ。こればかりは捜索部隊とか協力国に頼るしかない。」

 

 シンは疲れた顔ながらも少し不機嫌そうな顔をする。

 

「しかし、だ。地上の連合軍基地に奴が向かおうとしても必ず見つかるはずだ。となるとマスドライバーで宇宙(そら)に上るかもな。
 可能性としては南アフリカのビクトリア、東アジアのカオシュン、そして…」

 

 アムロの言葉にシンが重ねるように言った。

 

「オーブ…!」

 

 シンの顔に怒りとも悲しみともとれる表情が浮かぶ。

 

「可能性の問題だ、あまり考えるな。現状で地球上どこでも監視の目があると思っても良い位なんだ、そこ等へ向かうとしても必ず見つかる。
 悲観的に考えるんじゃない。」

 

シンは「そうですよね…必ず見つかるはずなんだ。」

 

と自分に言い聞かせるように言うと少しだけ元気にカップを空にし、2杯めの激甘コーヒーを注ぎに行った。
アムロはほとんど手をつけていなかったカップに少しだけ口をつけ自分らしくない楽観的な意見に自嘲気味に口を緩ませた。
シンが少しでも元気になってくれたのなら、と思う。そして更に戻ってきたシンに話し始めた。

 

「そういえばな。マスドライバーといえば俺がνガンダムを月のアナハイムって企業から受領した時の事だ。」

 

 シンは 「?」 という顔をしていたがアムロは構わず続ける。

 

「戦闘空域までマスドライバーで射出してもらったんだが…一緒に乗っていたチェーンって子が加速Gで気絶してしまってなぁ…
 臨時につけてもらったシートは丁度俺の真正面にあって前はよく見えないし、チェーンはなかなか目が覚めないし、どんどん戦闘空域は近づいてくるし、どうしようと思ったことがある。」

 

 あはは、と愛想笑いをするシンにアムロはさらにどうでもいいような話を続けた。
そして16歳の時サイド6で再会した父に持たせられた古臭い回路の事を話している途中、シンがコクリ、コクリと首を動かし始めたのに気づき、8割方入ったシンのカップを体から遠ざけた。
食堂内は空調のおかげで温かくしばしの眠りなら風邪をひく事もないだろう。
 アムロは自分のカップを返却すると書類の山が待つ自室へと戻って行った。