CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_17

Last-modified: 2011-06-20 (月) 12:51:05
 
 

第17話「降臨する翼と舞い降りた彗星」

 
 

アラスカ防衛戦は連合軍側が善戦しているものの、機動戦力の絶対的な不足から次第に形勢不利へと傾いている。
防衛艦隊は既に5隻撃沈している。陸上戦力も各所で連絡を寸断され、地上展開戦力の4割を失いつつある。
地上での戦線は崩壊の兆しを見せ始めている。

「戦局全体としては押されつつあります。第3派がある場合でも、予備兵力と共に勝負を賭けてくるかと考えられます。司令、そろそろ良いタイミングと考えますが。」

先任参謀のトゥースが引き際について提言してきた。確かに引き際としては悪くない。戦闘開始をして既に数時間だ。突破のために1度ペーネロペーを戻して休ませ、戦闘可能になったら投入して突破しよう。

「よし、遊撃部隊に帰投命令を出せ!!ペーネロペーの整備終了後戦線離脱を行う!!」
「了解!!」

直後に報告が上がる。

「艦長!!!アラスカ防衛艦隊旗艦並びに防衛司令部、さらにはアークエンジェルから緊急連絡があるとのことです!!」
「同時にか?回線繋げ!!」

メインパネルにハルバートン提督、ロストツェフ将軍、ラミアス艦長にフラガ少佐が映る。全員が覚悟を決めた表情をしている。いったい何事なのか。

「どうされました。」
「ブライト司令・・・実は」

ハルバートン提督が代表して口を開くが、そのときコレマッタ少佐が青い顔して戦闘ブリッジに飛び降りてきた。着地の勢いでバランスを崩す。

「司令!!緊急事態です!!これは・・・失礼しました!」彼は飛び上がり敬礼して謝罪する。
「かまわん。どうした。」私は報告を促す。

「アズラエル氏の暗号電文を解読したところ。連合軍は総司令部の地下に機密保持を目的とした自爆システムが配されているとのことです!!」
「なんだと!?」

幹部たちが一様に驚く。その驚きは画面上の面々も同様だ。

「さらにアズラエル氏は続けています。『アラスカの現有戦力で防衛が困難であることが明確になった時点で、自爆プログラムを作動させる可能性はきわめて大きい。
可及的速やかに基地中心より半径10kmから待避されるべきである』とのことです。」
「なんてこった・・・。」トゥースが絶句している。
「今戦場にいる連合軍もろともやるのか!?実戦部隊以外にも整備員等含めて10万人以上いるはずだろう!!それでもやるのか!」メランもさすがに鼻白む。
「それは本当です。」

唖然とする我々にムウ・ラ・フラガが発言する。

「どういうことか。」
「実は通信内容はまさしくそのことなのです。フラガ少佐の報告によると、基地の地下にサイクロプス・システムという電磁波を用いたシステムが配備されているようなのです。
細かい話は抜かしますが、一種の電子レンジとでもお考えください。規模からしてもアズラエル理事の指摘する範囲にいる部隊はおそらく全滅するでしょう。」

ハルバートン提督が説明する。こいつは早いところ離脱する必要が出てきたぞ。すでに戦線は崩壊寸前である。常識的な判断として救援要請と状況報告は併せて行ってきているはずだ。上層部が昼寝でもしていなければ、基地中枢に突入された辺りでポチッと起動スイッチを押すだろう。まてよ、ではこいつらはなんだってそのことを伝えるのだ。

「連絡には感謝します。それではあなた方はどうされるのか。」
「それこそ通信の目的です。我々は国家としてのロンド・ベルへ亡命を希望する!!」
「なっ!!」

私も含めて艦橋の面々が一様に絶句する。

「何を言っているのかわかっているのですか!?」

流れ弾の迎撃で揺れた艦体のおかげで、いち早く正気に戻った私は相手の真意を測りかねて声を荒げた。

「現時点で我々は連合から切り捨てられたようなものだ。それを知りながらむざむざ死んでやるほど、我々は人間ができていない。アラスカ防衛艦隊はこれよりロンド・ベル艦隊と行動を共にしたい。」
「だが、陸上戦力はどうするつもりです!!」

次に正気に戻ったトゥースも半ば動揺を見せて問う。

「私が全責任を持つ形とする。」ロストツェフ少将が発言する。
「なにを・・・。」
「私は本部施設で指揮をしていて、今更逃げられん。だから、離脱が困難な部隊を再編成して、離脱可能な部隊の撤退を支援する。そして陸上戦力と艦隊の離脱は、サイクロプスに気付いた私の独断で指示したという形にする。そうすれば離脱後も原隊復帰が可能な形にできるだろう。」
「ば、馬鹿な・・・。」
「航空戦力のうち、兵員輸送用のヘリコプターは可能な限りの兵士を満載して、海上艦隊ないし貴艦隊へと向かわせる。若い者を優先してな。」

サブパネルに撤退計画が表示される。兵員輸送ヘリを残存航空戦力が直掩しながら往復する計画だ。予定時間として2時間弱というが間に合うのか。陸上戦力においては、20才以下の兵がいる部隊はユナラクリート港湾部に集結し、そこで該当年齢者のみヘリに乗り込む。30才以上の将兵は港湾部を保持させる。また該当しない部隊や志願者するものは本部の防衛をさせ、ザフト軍の侵攻を引きつける役目を負うことになっているという。なんという覚悟だ・・・。作戦案を確認し、その実現性について頭で考え始める。無言でいる私に将軍は語りかける。

「ブライト提督。人間というものは失ってはいけないものがあるのだよ。」

覚悟を決めた表情だ。もはや何をいわんや。私は決断した。

「・・・いいでしょう。」
「艦長!!」
「司令!!」

唖然とする2人を押さえて、私は亡命受諾の上で留意すべき点を続ける。

「しかし条件があります。第1にこの亡命は多分に緊急避難的な側面が強い。艦隊乗員や将兵で亡命を希望しないものには、後で原隊復帰の措置をとらせること。第2に合流した部隊の全指揮権は私が有すること。第3に艦隊の離脱は防衛艦隊と合流し、陣形を整え次第直ちに行います。よって陸上部隊の離脱は時間の経過と共に困難になるが、一切支援を行わないこと、以上です。」

「そんな!!」ラミアス艦長が叫ぶ。
「我々は第1に我々の生存を優先します。艦隊にさえ合流すれば、後は責任を持ちましょう。」
「戦闘しながらの撤退である以上、リスクは覚悟している。それがこちらの難題に対する最大とは言わんが誠意だろう。了解した。」ロストツェフ将軍は同意した。

「ブライト提督、ではアンカレッジがギリギリまで後方に待機して、撤退ルートの制空権を確保しましょう。」ハルバートン提督が提案する。
「貴艦だけでは荷が重いのでは?」
「最善は尽くす。艦隊を再編成する際に、新兵と30才未満の将兵はアークエンジェルへ委譲させる。」
「わかりました。では時間がありません。直ちに実行しましょう!」
「わかった。」「了解だ。」

通信が切れると、メランが食ってかかってきた。トゥースは案件を検討しているようだ。

「艦長!!リスクが大きすぎます!!」
「・・・。言いたいことはわかる。だが、速やかに離脱するのに戦力は多い方が良い。事実上、この戦域の展開戦力はこれから全てこちらを支援するのだ。悪い話ではない。時間がない。この件に関しては黙って従ってくれないか。」
「司令、アークエンジェルはともかく、水上艦隊は足手まといです。
また陸上部隊の撤退が円滑に行われる保証など、どこにもありません。」

トゥースが現実問題を指摘する。それは正論だ。

「その通りだ。だが事態が事態だ。こうして問答している時間も惜しい。陸上部隊の支援を行わないという条件を向こうが了解したんだ。
水上艦隊もかわいそうだがこちらにとっては攻撃を受け流す存在と考えればいい。」
「ミノフスキー粒子を散布してはどうです。」
「サイクロプスというシステムがどのようなシステムで作動するのかかわからん以上、奥の手はこの段階で使うではない。」

メランとトゥースは顔を合わせると、押し黙る形で了承した。さて、忙しくなるぞ。

「各艦へ通達する!!我がロンド・ベルはアラスカ防衛艦隊並びに残存地上戦力の亡命を受け入れた。
ついては全部隊の指揮権は私が掌握する。艦隊は陣形を再編!!全艦楕円陣形をとれ!!」

 
 

※※※

艦隊はロンド・ベル艦隊とアークエンジェルを楕円先頭部の外縁に配置して、アンカレッジを殿にして陣形を整えた。この間に水上艦はさらに1隻撃沈した。乗員の救助はアンカレッジが行っている。ザフト側は既に第3次攻撃を開始している。これが最後の投入戦力だろう。

「全艦進撃開始!!11時方向に砲火を集中して戦域を離脱する!!」
「了解!!」

艦隊が一斉に動き出す。水上艦隊も可能な限りの高速で進撃する。周囲をジェガン部隊が直掩している。

「全艦!!一斉攻撃!!ミサイルとビームを叩きつけるんだ!!!」

各艦からミサイルと光学兵器が放たれる。ザフト艦隊は陣形の再編に警戒していたので、迎撃を試みる。けれども叩き付けられたミサイルとビームの総量は尋常ではなく、右翼部隊は混乱を来した。

「よし、全艦突進せよ!!」

艦隊は続けて前方へ砲火を集中させる。侵攻部隊の本陣にいた直掩部隊と補修整備に戻っていた戦力がこぞってこちらに殺到してきた。ジェガン部隊が迎撃を始める。安全圏到達まであと5kmというところだ。ザフト軍も水上艦隊の方がもろいことを承知していて、水上艦隊に的を絞る。艦隊を密集させ防御するが、数が多い。ジェガン部隊はソートンやベアードが迎撃するが、MSの消耗を警戒して近接戦闘を避けている。そのことが急速に接近してくるMSへの対処を遅らせることになる。

「駆逐艦ノヴゴロドに直撃弾!!!機関停止の模様!!」
「退艦を許可する!!乗員は後続艦か殿のアンカレッジに回収させろ!!艦隊離脱の速度を緩めるな!!」

艦隊の被害報告は次々に上がる。

「駆逐艦イルクーツク被弾!!出力低下!!速度落ちます!」
「駆逐艦ユーコン艦橋に直撃弾!!艦長以下艦橋にいたものは総員戦死の模様!!」

「ラー・ザイム所属のコードZ2が被弾しました!!足とSFS をやられて落下しました!!
けれども僚機により救助され帰還しました。ラー・ザイムの戦力が13%ダウンします!!」

MS隊にも被害が出始めたか。将兵も疲労しているからな。突破口を開かねば・・・。そこへアムロから報告が入る。

「ブライト!!ペーネロペー出られるぞ!」
「そうか!!よし、すぐに出て前方の進路を確保してくれ。艦隊はジェガン部隊で持たせる。」
「頼む!!」

カタパルトの左右にνとペーネロペーが並ぶ。

「ガンダム、行きまーす!!」
「ペーネロペー、レーン・エイム出ます!!」

2機のガンダムが飛び立っていく。彼らにはともかく前方を確保してもらう。

「両機に対して30秒間援護射撃をかける!!砲撃開始!!」
「了解!主砲!!焦点拡散!!てっー!!!」
「それとリゼル部隊もアムロと共に前に出せ!!」
「了解!!ウエスト大尉!!聞こえますか!!遊撃部隊の援護願います!!」
「了解だ!!」

前方に斉射をかける。加えてリゼルの突入で前方はどうにかなるだろう。リゼル部隊も勢いよく飛び去っていく。前方には混乱を立て直しつつある10隻の右翼艦隊がいる。そこを突破しなければならない。次第に接近しており、安全圏への到達はザフト艦隊との接触も意味している。そのとき艦全体が衝撃に揺れる。側面から攻撃を受けたようだ。ついに本艦もくらったか。

「何やってんの!!被害状況報告!!」
「右舷に被弾!!格納庫に火災発生!!」
「消火作業急がせろ!!」メランが檄を飛ばす。

前方にこだわりすぎ防空の指示がおろそかであったか。焦りがないわけない。冷静にならねば。

「これより主砲は周辺の敵機を排除させ!!」
「はっ!!」

陸上戦力はその間に3回ヘリコプターが各艦に到着している。ただヘリコプターの護衛部隊は損失が8割を越えている。また輸送中のヘリコプターも稼働中の20機のうち、基地へ向かう途上で5機、艦隊へ兵員を移送中に11機を失う被害を出している。1000名以上が移送中に戦死しているのだ。MSで支援してやりたいが、こちらも手一杯で援護はできない。待避が終わったところに、その艦が行動不能になることも生じている。予備のSFSを乗員救助に投入すべきか。続けて被害報告が続く。

「ラー・ザイム並びにラー・エルム被弾!!損傷は軽微にて航行に支障はありません!!」
「安全圏までどのくらいだ!!」トゥースが叫ぶ。
「あと1k mほどです。数分で到達は可能です!!」
「陸上戦力はどうか!!」

メランが確認する。

「ユナラクリート基地と本部施設への集結は完了していますが。ユナラクリートは包囲攻撃下にあり、損失率は80%に達しています!!おそらく現在回収している部隊が最後の便になるかと思います!!」
「連中の主力がアラスカに向かってくれたおかげで、こちらは水中からの攻撃は受けずにいられます。ですが敵本陣の直掩部隊が全てこちらに向かって来ており、それなりのダメージが出ていますな。」

冷静さを取り戻したトゥースの言葉に頷く。

「全く、それでもこれだけの戦力をこちらに回すか・・・。」

コレマッタ少佐が愚痴る。続けてメランが提案する。

「艦長、大破した水上艦の乗員回収に予備のSFSを投入すべきと考えます。」

私もそれを考えていなかったわけではない。

「・・・いいだろう!先任参謀!!部隊編成や指示はまかせる!!但し、水上艦の乗員の救助のみだ。いまから港戻るのは危険すぎる。」
「はっ!!」

その間にもアークエンジェルにも容赦ない攻撃がかけられる。アークエンジェルはフラガ少佐が中心に必死に援護しているが、他の部隊も各々善戦しているがカヴァーし切れていない。

「2時の方向より、10機のジン部隊が接近中!!その先頭にはデュエルを確認しました!!」
「大天使はあまりにも魅力的らしいな。」私がため息混じりに言葉を漏らす。
「ラミアス艦長のフェロモンではないですか。」コレマッタ少佐が戯けてみせる。
艦橋の面々は彼女のスタイルを思い出して戦いの中で芽生える独特のシニカルな笑いに包まれた。

「司令、リゼルだけでも戻せば挟撃できますが。」
「いや進路は確保しておきたい。ジェガン部隊にがんばってもらおう。」

前方ではアムロが潜水艦や水上艦艇を攻撃している。潜水艦には潜水して逃げてくれればよく、水上艦へは武装や指揮系統を中心に攻撃している。レーンもそれに習うが、ライフル以外の兵器が強力なので、2隻の水上艦を爆発炎上させている。うまくすれば今こちらを攻撃している連中が本隊防衛のために引き上げてくれるだろう。だがその直後にアークエンジェルは再び直撃弾を食らう。

「アークエンジェルに直撃弾!!速力が20%低下します!!高度も低下しつつあり!!」
「何!!援護MSなにやってんの!!守って見せろ!!」
「司令!!やはりアムロたちを戻すべきです!!」

続けて周辺部隊へ被害報告が入る。

「ロロに被弾!!主砲使用不能!!」
「ヤノスラーフ!!弾薬庫に火が入りました!!誘爆します!!」

アラスカ艦隊はすでに損失5割近くに達している。サブパネルではアークエンジェルが後部ミサイル発射管が無残に壊れ、煙を上げながら高度を下げ始めている。アークエンジェルが行動不能になることはなんとしても避けたい。現状の亡命艦隊で一番堅牢な船だ。それに最も多くの陸上兵を回収している。私が戦力を抽出して護衛を重点化することを支持しようとした直後、一機のジンが、アークエンジェル艦橋に急接近した。

「いかん!!」私の声と同じくして、オペレーターが叫ぶ。
「艦長!!!上空よりデータにない機体が2機ほど降下してきます!!!」

私がその報告に反応するより早く、その降下してきた機体はアークエンジェルにとりつくジンを上空から正確に腕だけ打ち抜き、降下ざまに頭部を切り捨てる。そんな荒技を見せると、アークエンジェルの艦橋の前にその姿をさらす。トリコロールの機体に青い翼、そして頭部には紛れもなくガンダムとわかる表情が確認できる。いったいどこの機体だ。

「こちらキラ・ヤマト!!!援護します!!退艦を!!」

キラ・ヤマトだと!?艦橋一同に衝撃が走る。なぜ彼が宇宙からMSに乗って降りてきたのだ。唖然としたのは我々だけでなく。ヤマト少尉に退艦を促される再度の通信にラミアス艦長も回線を我々にも繋げながら辿々しく説明を始める。

「本部の地下に・・・サイクロプスがあって・・・我々は囮に・・・。作戦なの知らなかったのよ!!だからここでは退艦出来ないわ!!基地から離れなければ!!」

彼女の言葉は説明ではない。我に帰った私はヤマト少尉に状況を知らせる。

「ヤマト少尉!!!ロンド・ベルのブライトだ!!我が艦隊は連合軍残存戦力と共にアラスカ基地の自爆に巻き込まれないように離脱しているところである!!アークエンジェルは、残存戦力の将兵も搭乗していて沈めたくない!!援護してくれ!!」
「わかりました!!」

了解の返事と同時に白いガンダムタイプは、翼と武装を同時に展開させる。広域攻撃が可能なのか。そう考えた直後に、ガンダムは拡散攻撃を実行した。射撃は正確でかつての迷いが感じられない。いったい彼に何があったのか。たちまち10機近くが被弾した。そのうち3機が完全に行動不能になり、1機は火球と化した。

「くそ!!なんだよアレは!!」

どこからか通信が傍受される。おそらくザフト軍パイロットのものだろう。

「艦長!!ヤマト少尉の機体からオープンチャンネルです!!」
「なんだと!!」
「ザフト軍に通告します!!まもなくサイクロプスを作動させ自爆します!!」
「!!!」
「直ちに戦闘を停止して撤退してください!!繰り返します・・・。」 

若いな・・・それができればこんなことにはなっていないさ。幸い私のシニカルな笑みには気付かれずにすんだ。それというのも先ほどのザフト兵の声がオープンで聞こえてきて、皆が驚いたからである。

「下手な脅しを!!!」

先ほどの声だ。どうやらデュエルに乗るパイロットのようだ。

「・・・デュエル!!!」

ヤマト少尉はデュエルの攻撃をシールドで押さえて、同時に殴ろうとした左手を取っ組み合わせる。

「やめろといったろ!!死にたいのか!!」
「なにぃ!!」

そういうとヤマト少尉は、さらにデュエルの攻撃を回避し、その目前にて空中で一回転して見せ、間合いをとって斬りかかった。デュエルは回避を試みたが、足をもぎ取られて落下していく。

「早く脱出しろ!!もうやめるんだ!!!」

そこへ後方からなおもヤマト少尉へ攻撃を試みるディンが来るが、その背後から凄まじい早さで背後から斬りかかってその機体を撃墜して見せたMSが現れる。そう、上空からはもう1機来ていたはずだ。しかし・・・。

「すごい!!通常のザフト機より3倍の速度です!!」

オペレーターが叫ぶのを聞きながら、私はそのMSを見る。そこに見えたMSに再び私は心臓が止まるほどの衝撃を受ける。赤いMS、3倍の速度、そしてその頭にあるモノアイと角、ザクではないと頭ではわかっている。
ザフトの機体はどこかジオンを彷彿させるために、妙な気持ちがわき起こる。しかしながらその機体から入った通信はキラ・ヤマト以上に私の度肝を抜くものであった。

「・・・地球連邦軍ロンド・ベル隊へ、私はネオ・ジオン軍総帥シャア・アズナブルだ。ブライト艦長、応答されたい。」

艦橋の空気が一瞬止まった。画面には忘れもしない男が浮かび上がる。全員が言葉を失っている。

「ブライト艦長。久しぶりだな。」
「ほ・・・本当に、き、貴様なのか・・・?」

おそらく、アムロの時以上の衝撃を受けているかもしれない。どう呼んで良いのかもわからない。後で思えばグリプス戦役以来こうして会話することは無かったのだ。

「つもる話はあろうが、状況は理解している。まずは戦域の離脱に専念したい。」

私が絶句していると、通信に割り込む声が入った。アムロ・レイだ。前方から急速に接近してくる。

「貴様!!!!どうしてこんなところにいる!!!」
「アムロ、貴様が言いたいことはわかるつもりだ。だが今はともかく離脱が最優先だと思うが。」
「何を!!!」
「アムロ!!」なおも食いかかるアムロをたしなめる。
「腹立たしいかもしれんが、奴の言う通りだ。まずは戦域から離脱しよう。」
「くっ!!」
「すまないな。ブライト・・・いやブライト艦長。」

彼は私を呼び捨てにしようとしたがためらいを見せた。私自身も気持ちの整理が付いているわけではない。だがそのときオペレーターが叫び声を上げる。

「アラスカ基地内に反応確認!!サイクロプスが起動した模様です!!!」
「オープン回線!!!全部隊は全ての戦闘行為を停止し、最大戦速で離脱せよ!!!!!」

後方より光が光り始める。艦隊は既にほとんどが安全圏に到達しつつあった。MS部隊もほとんど離脱している。
しかし、機関の速力が弱まっていた水上艦艇3隻が消滅した。そして、突入していたザフト戦力は壊滅していく。

この日、連合軍総司令部はユナラクリート市と共に消滅した。だが我々にとってまだ長い一日は終わっていなかったのである。

 
 

第17話「降臨する翼と舞い降りた彗星」end.

「私とて恥という言葉を知っているつもりだ。だがこうしてこの場に来たのには理由がある。」

第18話「全てを失いし男と希望を抱く少年。」