CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_26

Last-modified: 2010-04-11 (日) 00:58:58
 

失いし世界をもつものたち
第26話「連合崩壊」

 

ドカッ!!!

 

 鈍い音と共に、シン・アスカが無重力も手伝い、きりもみして吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられる。

 

「おまえが戦場に出て死にでもしたら、マユちゃんはどうなると思っている!!!」

 

 私は怒りを隠さず彼を叱責する。ダービー伯との会談後に、私はシン・アスカを艦長室で思い切り殴りつけた。マユちゃんが兄に駆け寄る。
シンも多少冷静になったのか、殴られた右頬を押さえつつ起き上がると、謝罪して見せた。けれども続けて出た言葉は、押さえかけた怒りが再びわき上がる。

 

「・・・申し訳ありませんでした。でも、俺も何かがやりたかったんです」
「何かしたくて激発した結果、誰かが死んだらたまらないのが戦争だ!!!」

 

 シンは私の言葉を受けてさすがに俯く。ようやく落ち着いてきたようだ。私は声のトーンを普段に戻して諭す。

 

「戦闘前にも言っただろう。復讐のために戦おうなどと思うな。少なくとも、君の周りにいる人間は誰もそんなことを望んでいない」

 

 私は両手を広げて、彼を囲む人々に目を向けさせる。アムロやレーン、サナダ氏とマユちゃん達のいずれもが、シンに復讐など望んでいない。
そのことだけでもわかって欲しいと心から思う。私の意図を汲んだのか、アムロが一歩前に出てきてシンに言葉を向ける。

 

「シン、復讐にとらわれた男の末路は、クワトロ大尉が話しただろう。あの話は事実から来たものだ。
シンがそうなるかはわからないが、その覚悟も何もなく感情だけで動くだけなら、死んだ人間や殺した人間に引きずられるだけだ」

 

 かつて、ハサウェイが無断でラー・カイラムに乗艦したときと違い、アムロも厳しく指摘する。我々は同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのだ。

 

「お兄ちゃん・・・」

 

 マユちゃんが不安そうに兄にしがみつく。シンはマユちゃんを抱きつつ立ち上がり、私に体を向ける。彼はしばらく黙っていたが、意を決したように口を開く。

 

「・・・アムロさん、ブライトさん、もう少し考える時間を下さい。それでも、俺は何も出来ないで大切なものを失いたくないんです」

 

 私はシン・アスカの目に復讐だけではない真摯なものを感じ取る。少しは伝わったのだろうか。湧き起こるうれしさを表情に出さず、腕を組みどうすればいいかを考え込む。
ともかくコロニーに着くまでは独房で反省してもらうべきだろう。だが、問題はその後である。彼はこれまでの付き合いから見ると、素直で純粋な側面がある。その感覚は大切にしてあげたい。
今回の様にその純粋さが暴走を招くこともあるから、誰かが付いていてやるべきだろう。私はその役目を積極的に引き受けてみたくなった。
それはハサウェイやチェーミンの面影を、彼らに重ねていたところがあったからかもしれない。あるいは、ハサウェイを親として正しく導けなかったことに対する贖罪の思いもあったのかもしれない。
ともかく私は全員にその旨を告げることにした。

 

「サナダさん」
「はい」
「このやんちゃな少年を私に預けてはくれまいか?」
「はぁ?」

 

 サナダ氏が素っ頓狂な声を上げる。他の連中も同様だ。ただひとり、アムロを除いて。

 

「コロニーに着いたらアスカ兄妹は、私が面倒を見たいと思う」
「司令!何を言われますか!?」

 

 ハムサット少佐が慌てたように声を上げる。なにより、アスカ兄妹が驚いた表情を見せる。

 

「どうした?少佐、何か問題があるか?」
「いや、しかし司令、本気で言っているのですか?」
「ああ、2人の年齢や境遇から考えれば、誰かが保護者にならなければならない。かといってオーブからの脱出してきた市民達は、子供を引きとれる状況ではないだろう。
ならば我々のうちの誰かが引き受けるべきだ。もう我々は同じ共同体で生活する仲間なのだからな。かといって言い出しておきながら、誰かに押しつけるわけにもいくまい。私が彼らの保護者となりたいと思う」
「司令・・・。わかりました。私からは何も言うべき事はありません」

 

 この世界に来てから心労が増え続けてくたびれた感もある、信頼すべき副官は多少あきらめたように納得してくれた。
私の決意を汲み取ったのだろう。コロニーに着いたら、美食家の彼に何かうまい料理を食わせて慰労してやりたい。私は一同を見渡す。レーンは最初驚いていたものの、私に対してこそばゆい視線を浴びせてきている。
サナダ氏は提案を頭の中で検討しているようだ。そういった中で印象的だったのが、アムロ・レイだ。彼は私に対していろんな感情が混ぜ合わさった表情をしていた。ただ、私の意向に関しては、どこか当然のような受け止め方をしていた。
やはり、ハサウェイのことを考えているのだろう。もしかしたら、副官もそのことに気付いているのかもしれない。私が思考を巡らせていると、検討の終えたサナダ氏が口を開いた。

 

「司令の見解はわかりました。ただ2人の気持ちを重視してあげたいと思います。まだ数日しか過ぎていないふたりに聞くことは難しいかもしれませんけれども。・・・どうかな、ふたりとも?」
「・・・お兄ちゃんと一緒に暮らせるのなら、マユはいいよ。もちろんお兄ちゃんがいいのなら」

 

 サナダ氏の確認に対して、マユちゃんが少し考えてから答える。沈黙するシンに、レーンが助言する。

 

「シン、まずは司令のところに厄介になったらどうだ? ともかくおまえには時間が必要だよ。落ち着いた時に気持ちの変化があったら、その時に話し合えばいいさ」

 

 シンはしばらく考えた末に、ゆっくりと話し始めた。

 

「・・・わかりました。サナダさんにも家族はいるから迷惑はかけられませんし、二人で何か出来る状況ではないって事はわかります。ブライトさんのところで、お世話になろうかと思います」
「ありがとう。シン、マユちゃん」

 

 穏やかな空気が流れる。けれども、改めて今回の一件について処罰はしなければならない。

 

「シン、これから共に生活していくわけだが、まずは今回の問題に対してケジメは付けたい。これより3日間の独房入りを命じる。これは保護者としてだけではなく、この部隊を預かるものとしての命令である」

 

 シンはその言葉を素直に聞き入れた。

 

「わかりました」

 

 そこにずっと兄に抱きついていたマユちゃんが、寂しさからだろう。兄と共に行動したいと言い出した。

 

「ブライトおじさん、マユも一緒に入っていい?」
「ああ? いや、しかし独房だぞ。あまりいい環境ではないが・・・」
「ブライト、マユちゃんに関しては出入り自由と言う事にすればいいじゃないのか」

 

 アムロがマユちゃんの希望を援護射撃する。後でモリス中佐が嫌な顔をするだろうと確信したが、私はマユちゃんの希望を受け入れることにした。

 

「仕方ない。但しマユちゃんが特別扱いであって、シンは別だぞ。いいな」
「はい。」
「はーい!・・・ありがとう!!アムロお兄ちゃん!」

 

 アムロは慣れない呼ばれ方で照れくさい表情を作る。これはいいものを見たな。私は苦笑すると、解散することにした。こうして私は異世界にて家族を持つことになったのである。

 

 ※ ※ ※

 

 3日後、我が艦隊はようやくスペースコロニー・ヘリオポリスに到着した。目録にあったように、このコロニーはまさしく我らの世界と同じシリンダー型である。艦橋の一同は、コロニーを確認したときに喜びの表情を見せた。
この世界に迷い込んで既に2ヶ月以上が過ぎ、ようやく心から落ち着ける場所を得られたという安堵感であろう。他ならぬ私も同じ思いだ。もちろん、やるべき事は山積しているが。私は到着するまでに各勢力と議論した内容を思い返す。

 

 まずはオーブ亡命政府である。ユウナ・ロマは、技術の即時譲渡を要請してきたが、我々はコロニー到着前であると言う事、加えて予てからの口実であるオーブの政情不安定を理由に突っぱねた。
ユウナ・ロマは大いに不満を感じていたようだが、カガリ・ユラがユウナを押さえ、私はそのことに驚かされたが、当面は情勢を見極めるという事で落ち着いたのである。
カガリ・ユラの行動は成長によるものか、それともユウナ・ロマの芝居なのかは判別出来なかった。

 

 ハーネンフース大使とは、コロニー到着後に内政問題に対する基本的な方針をまとめた後に、アスラン・ザラらザフト軍パイロットと共にプラントへと送還することになった。
その際には諸問題の解決のために、私もプラントへと赴き最高評議会の閣僚クラスと会談の席を設けることで合意した。特にフリーダムの問題は、きわめて微妙な問題であるので、大使とはプラント到着までに議論を深める必要がある。大使とはその点でも一致した。

 

 最後にE.E.F.(拡大ユーラシア)との交渉だが、ヘリオポリス到着前と言う事もありこちらの準備が不足しているので、同盟に関する議論は先送りとすることになった。
但し、現時点で敵対する意志は互いにないという意思の確認と、ヘリオポリスに近いアルテミス要塞の部隊とは、周辺の治安維持に関しては協力することで合意が為されたのである。
彼らとはこれから様々な交渉をしていかなければならない。

 

 一方で、この3日間は世界情勢も大きく変化している。E.E.F.の成立は、地球連合を事実上崩壊させた。
E.E.F.の新政権誕生に際して、退任するフィリップ・デスタンユーラシア連邦前首相が、退任に際して現在の連合を強く批判した。ある意味で最後ッ屁のようなものである。

 

『もはや大西洋連邦に統治資格なし!!! 大西洋連邦の傲慢さは、もはや我慢出来ぬ!! 新しくできる政府が、人類が文明を豊かにはぐくんだ大陸の英知を持って、この混迷する世界情勢を打開出来ることを強く望むものである!!!』

 

 フランス人は、どうにも大西洋の向こう岸の連中には辛いようだ。大陸の英知か、アメリカ大陸に対する皮肉など、いかにもフランス的だ。この演説には思わず声に出して笑ってしまうところであった。さらに新首相である、ランズダウン侯爵の演説も興味深かった。

 

『私は戦争の早期終結を願うものである。ゆえに、プラントなる組織を政府として容認し、その実行支配を承認するための交渉の席を持つ用意がある』

 

 この言葉に議場は騒然となる。騒然となる議場を、右手を挙げることで制して、演説を続ける。

 

『但し、積極的自衛権などという、不当な侵略行為の即時停止並びに占領地域の返還と、エイプリルフール・クライシスによって引き起こされた地球の損害に対する補填等をプラントが受け入れることが大前提である。
これらの問題を議論出来ないような組織は、政府たる資格はないし、交渉者たる資格もない!!!』

 

 彼は、単にプラントを独立させて終わりと言う事にはしないことを強調している。この辺りは、ブルーコスモスの意向でもあろうが、それだけではないだろう。
Nジャマー投下に端を発する一連の被害は、侯爵のような中道派も鼻白む行為であったのだ。現在の世論は、戦争終結の条件にプラント政府に対する制裁を行った上で停戦を望む声が多いという事情がある。
ゆえに戦後補償を求める事を条件に交渉するつもりなのだ。彼のこれまでの言動から鑑みるに、かのヴェルサイユの轍は踏まないだろうと思う。いずれにせよ、戦争終結に対する重要なボールが地球側から投げられたのだ。
これに対してプラントがどのように反応するかで、今後の戦局は大きく変わるだろう。

 

 もうひとつこの2人の演説を聞いていると、興味深い点が見えてくる。それは彼らが、互いに役割分担をしている様に見えるのだ。そのことは、プラント政府と大西洋連邦への対応で特に印象づけられた。
デスタン前首相は、退任演説で前述のように大西洋連邦を批判する一方でプラントも激しく批判した。

 

『プラントは人種対立を口にする以前に、地球に対して未曾有の災厄を招いた事実を重く受け止めるべきである。犠牲者には彼らの同胞たる人間も数多含まれるのだ。
この戦争を人種問題的な性格に、自らがしてしまったことを反省すべきである!そして忘れるべきではない!プラントは本来、理事国の財産であって彼らの所有物ではない!!』

 

 対してランズダウン侯は、大西洋連邦との関係には一定の含みを残した。

 

『前政権と異なり、我々は大西洋連邦と単に対立することを希望するものではない。けれども事態がここまでに至った以上は、互いに冷却期間が必要であろう。
よって今後は地球連合政府の場において、連合軍の解体や連邦との交渉を行いたいと思う。もちろん現事務総長には冷静な対応を期待する。難しいと言う事であれば、スカンジナヴィアの仲介を通してもらってもかまわない』

 

 ちなみに、スカンジナヴィア王国は今時大戦が終結するまでは、拡大ユーラシアに参加すべきかどうかの議論を封印すると宣言している。国内では連邦参加を支持する雰囲気があるが、ヤノスラーフ首相は戦局が安定していない中で、交戦国に参加することを避けたのである。

 

 大西洋連邦は、ユーラシア大陸の大半が連合を離脱したという事態に対して、連合の意義を改めて強調し拡大ユーラシアに連合復帰を求めた。ある種の空虚さがあるけれども、彼らにはまずそこから議論をスタートせざるを得ない。なにしろ連合政府のトップでもあるのだから。
最もコートリッジは、現在苦しい政権運営を求められている。特に連合議会議員であり、連邦上院議員でもある、ジョゼフ・コープランドは今度の事態を厳しく追及している。連邦はしばらくこの問題に忙殺されることだろう。

 

 東アジア共和国は、離脱した国家に再統合を求めている。説得に当たったのは、首相の川崎裕次郎だ。彼は自民党出身の議員で、日本の首相も2度経験しているヴェテラン政治家である。
語学が堪能で、それを生かした粘り強い調整力と議論を可能な限り行い続ける姿勢が、主席だけでなく複雑な民族構成からなる国民に広く支持されている。今回の事態がなければ、早晩日系初の主席誕生と目されていた。

 

『我々は過去の苦難を乗り越えて、ようやく東アジアとしてまとまることが出来た。これは互いが血を流して、さらに議論を尽くした結果である。我が祖国日本と朝鮮国には、建国の精神に立ち返り、今一度再考を求めるものである』

 

 報道レヴェルの話であるが、彼の立場は国内で非常に苦境に立たされているという。無理もないだろう。それでも残留しているのは、ようやく安定した東アジア秩序を維持させたいという思いと、残留する日本人の問題からだという。
また主席自身が首相を強く信頼しているので、解任という事態には至っていない。よって、彼の苦境はひとえに、議会の強硬派や保守系漢民族からの突き上げであるそうだ。
東アジアの説得に対して、日本の朝河首相は、ランズダウン侯と同様に冷却期間の必要性を求めている。余談であるが、彼は川崎首相と交互に政権を担当した経験を持っているそうだ。

 

『過激な意見が目立つ現状の東アジア共和国は、我が国の基本精神である和をもって尊しとなす精神に反するものだ。ともかく、貴国との間には冷却期間が必要だろうと考える。
そして、それが過ぎた暁には、東アジアという視点ではなく、ユーラシアという視点で連邦に参加をするべきである。そうすることで、我々は再び同じ共同体に属すことが出来るのだ』

 

 地球の情勢は全く混沌としており、しばらくは大規模な軍事行動は起きえないだろう。そもそも我々に構う暇などあるまい。
だとするならば、我々はコロニーでしっかりと体制を整えることが出来るな。私はそう考えている。

 

「・・イト、ブライト?」

 

 アムロの声で意識が戻る。完全に考え込んでしまっていたようだ。

 

「ああ、すまない。考え事にふけってしまっていたか。なんだ?」
「なんだ、じゃないですよ、艦長。コロニーのどちら側の港に入港すべきなのか指示を下さい」

 

 怒るメランをなだめて、私は隕石側の港湾施設へと入港するように指示を出した。

 

 ※ ※ ※

 

 入港すると、コロニー建設作業員らの出迎えを受けた。代表者と思われる働き盛りの印象を強く与える壮年男性が、前に出て挨拶してきた。

 

「ブライト・ノア提督ですね?私はこのヘリオポリス再建計画責任者である、佐竹友和です」
「ロンド・ベル司令のブライト・ノア准将です。よろしく」

 

 握手を交わすと、彼はさっそく用件を切り出した。

 

「本国の占領直前に指示は受け取っています。我々建設関係者と福利厚生関係者は、このままヘリオポリスに残留するか、オーブに戻るかは本人の意志に委ねるとのことです。
ただ地上の情勢が不安定ですから、とりあえずオーブの宇宙施設『アメノミハシラ』に向かわせる事になっています。現状でオーブに帰国したいという人間は2割弱で、残りは全員がコロニー残留を希望しています。ただ、情勢が安定したら帰国したいという人々は4割程度います」

 

 オーブ本国は現在のところ、コトー・サハク政権が市民の猛反発を受け騒然としている。これは故ウズミ氏のシナリオ通りだといえよう。ただ、マスドライバー爆破には、サハクが積極的でなかったために、爆薬の量が不十分だったという未確認情報が届いている。
いずれにせよ不穏な情勢下に帰国することに二の足を踏んでいる連中も多いということだ。そういった人々には、軍事関係の仕事はさせないように配慮する必要があるな。
ちなみに彼から渡された人員リストには、建設関係者が3000人と福利厚生関係者が2000名とある。福利構成関係者は、医療や歓楽関係者が主である。
この人々の身辺調査をしたいが、現状においてきわめて困難だろう。私はその辺りのことを考え込むことをやめて、佐竹氏の意向に頷き答える。

 

「わかりました。希望者には、一両日中にシャトルを用意させます。残留者には引き続き、建設作業に従事して頂きたい。ともかく、詳細は落ち着いた場所で行いましょう」

 

 我々は、コロニー内部のヘリオポリス政庁へと案内された。完成したばかり施設で、外見は中世都市の市庁舎といった姿である。この政庁に限らず都市中心部を欧州の中世都市を模した景観にしたのは、おそらくウズミ氏の趣味だろう。
本国で見た彼の邸宅を見ただけの印象ではあるが。施設内部に入ると、さすがに施設内は近代的な設備を完備していたので、その点は安心した。会議は、いつものように各艦艦長と機動部隊の佐官、参謀達、そしてクワトロ大尉とキラ・ヤマトで行われた。
最もキラに関してはほとんどオブザーバーの様な扱いだが。

 

 会議ではまず、ヘリオポリスの状況を確認するところから始まった。佐竹氏の報告では、空気や水の問題は解決されているけれども、住宅が建設中であることや、農業施設は食料生産の機械化が完全ではないという。
工業施設は隕石部分にあったものは再建できたが、コロニー内は完成度8割というところで、なお作業が必要だという。どうやらしばらくは、大工仕事と農作業が待っているようだ。

 

 工業施設に関連した議論で、衛星部分の工場にアークエンジェルを建造したドックがあることから、そこで艦艇の建造に直ちに着手することが決まった。
もちろんエネルギー問題が残されているけれども、建造可能な部分は組み立ててしまおうという事になったのである。
建造する艦艇は、いくつかの候補からブロック構造であり建造も容易であろうとの判断から、サラミス改級ということになった。現時点のところ武装に関しては、互換性の問題等からアークエンジェルと共通の規格を用いる事が望ましいとしている。
いずれにせよ、加工貿易に関する問題はいよいよ真剣に検討しなくてはならない。これは艦船や機動兵器の生産だけではなく切実な問題もあるのである。
すなわち食料生産に関する問題だ。現状において穀物や野菜は生産可能であるが、家畜の数がまだ十分に揃っていないそうだ。
魚介類は早くからシリンダー周囲を回転する小型コロニーに専門の施設を建造したために用意出来ているものの、家畜に関しては諸事情から後回しにしていたために、養えるだけの数が揃っていないのだという。
当面は肉を節約する必要がある。しばらくは妻の祖国のように、魚がタンパク源になりそうだ。また農業に関しては、全将兵と住民の全員であたることになった。まるで屯田兵だな。

 

 ともかくヘリウム3などの工業資源とは別に、生活必需品も仕入れなければならないのである。これまでのようにオーブ本国が当てにならない以上は、E.F.F.と交渉する必要があるだろう。
そして当然ながら対価が必要になる。この問題に対しては、同盟に関する問題と併せて議論すべきである。但しその交渉は、プラントの大使一行を送還した後に行うということになった。
これは会談を希望しているアズラエル氏と、早急な帰国を希望するハーネンフース大使一行の双方に対する配慮である。

 

 次に都市行政に関しては、現在弁務官職がトマソンと化したので、スタッグ・メインザー中佐を都市運営における責任者とすることが決まった。
彼はコロニー本体の防衛指揮官も兼任する。その関係から、彼の指揮下にあるキルケー部隊もコロニー防衛を担当することになった。
また、ロンド・ベルの国制についての議論は、先日クワトロ大尉とアムロに開陳した意見を提示した。ただ、その問題は非常に時間をかける必要があるので、この日の会議で結論は出さなかった。
他にもミニマムな問題がいくつも提出されたが、その日に結論が出る類の出るものではなかった。以上の様なことを話し合った後で、会議は将兵と避難民の居住地域を決め、散会することになった。
その後は夜時間が来るまで、居住区に市民達を誘導する作業に費やされることになったのである。

 

 ※ ※ ※

 

 仕事を終えた後にあてがわれた官舎に帰宅すると、シンとマユちゃんが食事の用意をしていてくれた。

 

「お、おかえりなさい」
「おかえりなさい!」
「た、ただいま」

 

 マユちゃんは何気なかったが、私とシンの間は互いに照れくさい感情が湧き起こり、ぎこちないものであった。酒を飲むつもりで、一緒に来たアムロが後ろで笑うことをこらえている。クワトロ大尉も苦笑している。

 

「ブライトおじさん!!食事の準備は出来ているよ!」

 

 マユちゃんは、元気よく私を案内する。無理して元気に振る舞っている様にも見える。これから一緒に生活していくからには、気を遣いたくない。

 

「これから一緒に生活していくんだ。他人行儀にする必要は無い。私のことはブライトでいい。私も君のことをマユと呼ぶことにする」
「うん!わかったわ、ブライトさん!あっ!!アムロお兄ちゃん!クワトロおじさん!こんばんは!」
「ああ、こんばんは」
「・・・こんばんは」

 

 未だ照れくさい表情を見せるアムロに対して、クワトロ大尉は少しショックを受けたようだ。食事は炊飯長が冷めてもおいしい料理を用意してくれていたので、ぎこちなさは残るがささやかに楽しむことが出来た。
このような形で過ごす食事は何年ぶりだろうか。シンとマユが休んだ後、我々3人はテラスでワインを傾けて語り合う。話題は、自然と今後の問題に関するものになる。

 

「ともかく、数日中にプラントへ向かう。プラント大使やアスラン・ザラは信頼に値する人物としても、大使館関係者の全てがそうだとは限らん。
何かが漏れる前にさっさとお帰り頂いた方が互いのためだろう」
「そうだな」

 

 アムロが応じる。

 

「派遣する部隊や随員は最小限にしようかと思うが、2人には来てもらいたい。特に大尉はプラントの前議長とパイプがあるからな。
今回は参謀連中もコロニーの内政問題に充てたいから、連れていかないつもりだからあてにしているぞ」
「了解だ、艦長。だが、結局のところ艦長はプラントとどう付き合うつもりなのだ?」

 

 大尉は、基本的なことを確認してくる。

 

「そうだな。それほど過剰な要求をするつもりはない。とりあえず一連の補償要求を取り下げてもらう程度でいい」
「では、フリーダムは?」
「うん、そのことだが、場合によっては返還もやむをえないと思う。キラには、ヘリオポリスで生産したMSをあてがうなどすればいい。
ドレッドノートもな。我々の方はそれほど機体に執着する理由はないからな」
「まぁ、そうだな」

 

 アムロが頷く。クワトロ大尉が続けて問う。

 

「前議長との付き合いはどうする?」
「それもあまり難しいことを考えていない。基本的には彼らの問題に介入するつもりはない。これまでの姿勢を変えるつもりはないさ。ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「ブルーコスモスにも強硬派がいたように、プラントにも跳ねっ返りはいるだろう。そいつらの対応如何では面倒なことに巻き込まれないかと思ってな」

 

 アムロの問いに私は、ニュータイプでもないが漠然とした不安を感じていた。

 

 ※ ※ ※

 

 数日後、プラントへ向かう部隊の編成が終了した。今回はネェル・アーガマを中心とした第3戦隊を以てプラント関係者を送ることになった。
私の直率部隊は、休みがあったとはいえ、これまでの戦闘続きだったので息抜きが必要であると考えたのである。確かに同国との交渉は重要な問題である。
けれどもコロニーの都市や行政システムの問題への対処の方に人員を割く必要があったので、参謀はウィラー中佐とスミス中尉のみを随員とした。
パイロットは第3戦隊以外にはアムロとクワトロ大尉、そしてキラを連れていくことなっている。キラを連れて行くのは、彼の出自とフリーダムの関係からだ。

 

 一通りの支度を済ませて、私はネェル・アーガマの司令シートに座る。エゥーゴ時代を思い出すな。懐かしさがわき起こる。私の雰囲気を感じ取ったのか、オットー艦長が釘を刺す。

 

「さすがに艦の指揮は譲りませんよ。司令」

 

 その冗談めかした言葉に苦笑させられてしまった。

 

「もちろんだよ、艦長。支度はどうか?」
「完了しています」
「よろしい。本艦隊はこれよりプラントへと向かう!!! 目的はプラント大使返還と同国との交渉のためである!!
 今回の航海は、戦闘が目的ではない。しかしながら、ザフト軍とのこれまでの不幸な経緯を鑑みるに、残念な事態も十分考えられる。各員には気を引き締めて、任務に当たって欲しい!以上だ!!」

 

 マイクを置き、オットー艦長に顔を向ける。彼は頷いて号令を出す。

 

「出航!!!」

 

 ネェル・アーガマのエンジン音が高鳴り艦が動き出す。目指すはプラント、コーディネーター達の住まいし世界である。私は漆黒の宇宙を見つめつつ、来たる問題への対応を考えるために思索にふけることにした。

 
 

 ――第26話「連合崩壊」end.――

 

 

【次回予告】

 

「それでは人類に未来はありません!!」 

 

 第27話「プラント動乱」

 
 

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