コズミック・イラ70、『血のバレンタイ』の悲劇によって、地球、プラント間の緊張は、一気に本格的武力衝突へと発展した。
誰もが疑わなかった、数で勝る地球軍の勝利。が、当初の予測は大きく裏切られ、戦局は疲弊したまま既に11ヶ月が過ぎようとしていた――。
宇宙コロニー『ヘリオポリス』。地球の衛星軌道上、L3に位置し、厚さ100メートルに及ぶ合金製のフレームの内壁を大地とし、多くの人が住む。
つい10分程前までは、街並みは地球のどこでも見られるような、ありふれた風景だったが、コロニーの所々から炎が上がっていた。
――General
Unilateral
Neuro-Link
Dispersive
Autonomic
Maneuver……
「ガ……ン・ダ・ム……?」
少年、キラ・ヤマトはモビル・スーツ、“ストライク”の狭いコックピットシートの隙間に体をねじ込んだ状態からモニターを見つめた。シートには髪の長い女性が座り、ストライクを動かそうとしていた。
ストライクの両目が光り、関節がうなりを上げ、機体を固定していた部品を次々と弾き飛ばす。爆炎の中、ストライクは機体を朱く照らし、その大地に立ち上がった――。
赤いパイロットスーツに身を包んだアスラン・ザラは奪取したモビルスーツ“イージス”に乗り込み、幼少期を共に過ごした友、キラ・ヤマトの事を気にしつつも、味方であるザフトのモビルスーツ“ジン”と合流した。
「ラスティは失敗だ!むこうの機体には地球軍の士官が乗っている!」
「なに!?ラスティは?」
アスランは首を横に振り、“ジン”のパイロット、ミゲル・アイマンにラスティの戦死を伝える。
そこに、ストライクが覚束ない足取りで現れた。ジンはマシンガンをストライクに向け放つが、ストライクはよろけながらも辛うじて避けた。
「なら、あの機体は俺が捕獲する。お前は先に離脱しろ!」
ミゲルはジンのサーベルを抜き、ストライクに切りかかっていく。ストライクはバーニアから蒼い炎を上げ後方に跳んだ。
「うわっ!」
キラは着地の揺れに絶えられず、女性の胸に頭から突っ込んだ。
「下がってなさい!死にたいの!?」
「す、すみません!」
キラは身を起こしながらモニターに目を向けると、ジンが切りかかって来る様子が大きく映し出され、思わず悲鳴を上げた。
「くっ!」
女性はコンソールのボタンを押す。すると、灰色だったストライクのボディが瞬く間に青赤白のトリコロールの色に変わり、両腕で火花を散らしながら、ジンのサーベルを防いでいた。
ジンが後方に跳び、間合いを取る。
そのジンの傍には奪取された機体、“イージス”もフェイズシフトを展開させ、ボディを赤い色に染め上がっていた。
イージスは対峙するストライクを確認するかのように見つめると、イージスを天高く飛ばし、離脱してゆく。
キラ達がイージスに気を取られてる間に、ジンがすかさずストライクに攻撃をしかけて来る。
ストライクはジンに向け、頭部のバルカンが火を噴くが、当たる事はなかった。
――あっ!これって、まだ……。
キラはこの時、気付いた。このモビルスーツが不完全である事を――。
ストライクはジンの攻撃を喰らい、建物を押しつぶすように倒れそうになるが、なんとかこらえ体勢を立て直す。
その時、キラはストライクのモニターを通して、逃げ惑う人達の中に友人達を見つけた。今、ストライクの後ろには友人達がいるのだ。これ以上、後ろに下がる訳にはいかない――。
ジンがサーベルを突き立てるようにストライクに突っ込んで来た。
キラは身を乗り出し、コンソールのスイッチを押し、女性が握る上から無理やり操縦桿を引かせる。ジンのサーベルが肩口で火花を散らながらもストライクは身を沈め、肩で押す形でジンを吹き飛ばす。
「君!?」
ストライクのシートに座る女性、マリュー・ラミアス大尉は驚きの声を上げた。
「ここには、まだ人がいるんです。こんな物に乗ってるんだったら、なんとかしてくださいよっ!」
キラはコンソールのスイッチを押しながらモニター画面に目を向け言った。
「無茶苦茶だ!こんなOSでこれだけの機体を動かそうなんてっ!」
「まだ全て終わってないのよ!仕方ないでしょ!」
「どいてください!早く!」
キラは入れ替わるように無理やりシートに体を滑らせ、横からキーボードを出し、尋常でないスピードで叩きだす。
――この子は……。
その様子を見たマリューは予感がよぎった。
そうしてる間にもジンは体勢を立て直し、サーベルを片手に攻撃を仕掛けて来る。
再び、ストライクのバルカンが火を噴き、今度は嘘のようにジンに命中していく。
たまらず、ジンは横から回り込み、サーベルで切りかかる――が、ジンの攻撃を避けると、ストライクは右腕がジンの顔を殴り飛ばしていた。
「――キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイントおよびCPGを再設定――運動ルーチン接続、システム、オンライン、ブーストトラップ起動……」
キラはジンが倒れている間にもキーボードを叩き、ストライクのOSを完全な物に書き換えてゆく。
ジンの体勢を立て直し、サーベルからマシンガンへと武器を変え、ストライクに向けて発砲する。
キラはペダルを踏み込み、操縦桿を前に押し込むと、ストライクは上空に向かって跳んだ。
ジンもストライクを追うようにマシンガンを撃ちながら跳ぶが、ストライクはその攻撃をかわしてゆく。
「武器――」
キラは再びキーボードを叩き、武器の情報をを呼び出す。
「――あとは……、アーマーシュナイダー……、これだけかっ!」
ストライクの両手にナイフが装備され、着地すると同時にジンの攻撃の中を走り出した。
「――こんなところでっ!――やめろーっ!」
キラは叫びながらストライクを急旋回、バーニアを吹かし、ジンの懐に潜り込み、肩口と喉にあたる部分にアーマーシュナイダーを突き立てた。ジンは火花を散らし両腕を垂らす。ジンのコックピットカバーが爆発とともに外れ、中からパイロットが脱出してゆく。
「あっ!まずいわ、ジンから離れて!」
マリューが叫ぶ。
「えっ!?」
キラがマリューの方向に顔を向けた瞬間、ジンが自爆し、ストライクは爆炎に巻き込まれた――。
「こちらGAT-X105ストライク、地球軍、応答願います――」
――なんで、こんな事になっているんだろう……。キラはストライクから緊急コールを呼びかけながら思った。
マリューの指示でストライクに装備にさせるらしい。トレーラーのコンテナが開き、ランチャー・ストライカーと呼ばれる、大砲とガトリング砲が姿を現す。
突然、コロニーのセンターシャフトが爆発を起こし、その中から灰色のモビルスーツ“ジグー”と橙色のモビルアーマー“メビウス・ゼロ”が飛び出してきた。
ジグーはストライクを見つけると方向を変え、低空から近づくが、メビウス・ゼロがそれを阻む。
「装備をつけて!早く!」
マリューは怪我した肩をかばいつつストライクへと走った。
ジグーとメビウス・ゼロが戦っている中、キラはキーボードを叩き、ストライクの換装に追われる。今、攻撃を受ければストライクは大破する。このままじゃ、みんなも爆発に巻き込まれる――。
上空ではジグーとメビウス・ゼロが激しいドック・ファイトをしているが、小回りが利くモビルスーツの方が有利だった。しかも、メビウス・ゼロは有線ガン・バレル4基があるばずなのだが、コロニー内に進入されるまでに、全て打ち落とされていた。
ジグーがサーベルを抜き、メビウス・ゼロの上方からせまる。
「くっ!」
メビウス・ゼロのパイロット、ムウ・ラ・フラガ大尉が機体をジグーの襲い掛かってくる方向へと向ける――。が、方向を向けたところで、ジグーがサーベルで、メビウス・ゼロの砲身を叩き切り、ストライクへと襲い掛かる。
「今のうちに沈んでもらう!」
ジグーのパイロット、ラウ・ル・クルーゼは、その仮面の向こう側からストライクをにらみつけた。
ストライクは、まだランチャー・ストライカを装備しきってなかった。アグニと呼ばれる大砲を装備すればいいだけだが、ジグーの攻撃が先かどうか、タイミング的にギリギリだった。
その時、ノイズが混じってはいるが、オープンでの通信回線が割り込んできた。
『――GAT-X105ストライク、応答せ――ロン――νガンダム、アムロ・レイ大尉――』
「なに!オープン回線だとっ!」
クルーゼは一瞬、動きを止め辺りを見回す。
「えっ、味方!?こちら、GAT-X105ストライク、助けてください!」
キラはすぐに回線を開き、叫びながら、フェイズシフト装甲を展開させ、ストライクを立たせた――。
「――こちら、GAT-X105ストライク、助けてください!」
突然、νガンダムのコックピットのスピーカーからストライクのパイロットの声が聞こえてきた。
「こっちか――!?」
アムロはメインシャフトの破損部分からνガンダムをコロニー内に入れ、辺りを見回すと、ゲルググに似たモビルスーツと、明らかにガンダムタイプのモビルスーツを見つけた。
「ガンダムタイプか!?ストライク、援護に向かう!」
νガンダムをストライクの援護に向かわせようとした瞬間、コロニーの内壁に激しい爆発を起こす。その中から白い戦艦が現れた。
「ホワイトベース!?」
「もう1機、新型か!?仕留めそこねたか!」
「モビルスーツに戦艦、コロニーの中にか!」
「GATシリーズ!?それにアークエンジェル!」
アムロは1年戦争に母艦としていた船に似ている戦艦に驚き、クルーゼは予定外に現れたモビルスーツと白い戦艦を見つめ、
作戦が完璧でない事を確信し、ムウとマリューはGATシリーズに似た知らないモビルスーツとアークエンジェルがコロニーの外ではなく、
内に入ってきた事に驚いていた。
クルーゼがジグーをアークエンジェルに向けマシンガンを放つ。
「回避、面舵!」
アークエンジェルのブリッジでショートカットの女性、ナタル・バジルール少尉が叫ぶ。アークエンジェルは間一髪、船体を傾け、攻撃を回避する。
「フェイズシフト、これはどうだ!」
そのままクルーゼはジグーを旋回させると、ストライクへと攻撃の矛先を変えマシンガンを放つ。狙いはストライクではなく、
周りにいるマリューを含む、キラの友人達だった。
「伏せて!」
マリューは少女、ミリアリア・ハウを庇う。
「あっ!」
キラはマリュー達を守るようにストライクを盾にした。ストライクの装甲が火花を上げ攻撃を弾く。
ジグーはシャフト付近まで上昇をかけ、自由落下をしてくるνガンダムに近づきながらマシンガンを放った。
「その機体性能、見せてもらうぞ!」
「貴様、コロニーで何をしている!」
アムロはクルーゼに悪意を感じ、νガンダムを振り回しながら弾を避け、ビームマシンガンを向ける。
「ほう、楽しませてくれそうだ」
クルーゼはニヤリと笑う。
「艦尾ミサイル発射管、7番から10番まで発射準備。目標、敵モビルスーツ!――レーザー誘導。いいな、間違えても地表やシャフトに当てるなよ――撃て!」
ナタルが叫ぶと同時に、アークエンジェルからミサイルが発射され、ジンを追いかける――が、ジンは次々とかわし、ミサイルがメインシャフトに当たり爆発を起こし、ワイヤーが切れていった。
「何をしている!こんな所でミサイルを撃つ奴があるか!」
アムロはアークエンジェルに叫びながら、バーニアを噴かし、ジンを追いかける。
「じょ、冗談じゃない!」
キラは怒りにまかせ、スコープを引き出し、ストライクが“アグニ”と呼ばれるビーム砲を構えるが、動きを止めないジグーをロックオン出来ないでいた。
「これ以上、コロニーを傷つければ崩壊する――なら、当てるまでだ!」
アムロはジグーとのダミーバルーンを放ちながら距離を一気に詰め、頭部バルカンを発射し、ジグーの頭を爆発させる。
「くっ、なかなかやるなっ!なにっ!?」
爆発のショックで、一瞬だがジンは動きが止まる。
「来る!?」
アムロはストライクから攻撃の意思を感じ、ジグーから離れる。
「待って、それは――!」
マリューはストライクを止めようと声を上げた。
「今だっ!」
ストライクがアグニを発射する。ビームの束はジンの右腕を吹き飛ばし、コロニーの地表を白熱させ、宇宙に繋がる大穴を開けた。
「ああっ――!」
キラは自分のした事の重大さに青ざめた――。