CCA-Seed_98 ◆TSElPlu4zM氏_第20話_後編

Last-modified: 2007-11-10 (土) 18:18:54

「それでですが、アムロ大尉と一部の現地徴用の少年達を除き、各員、一階級が上がる事となりました。キラ・ヤマト、トール・ケーニヒはパイロットとして少尉に。フラガ大尉は少佐となります」
「おめでとう、フラガ少佐。これで俺は、ため口は言えなくなるな」
「ありがとう。だけど今の状態じゃ、あんま意味なんて無いさ。今まで通りで構わない」
「分かった。宜しく頼む」
「ああ、また頼りにさせてもらうぜ」
「バジルール中尉、おめでとう」
「――は!ありがとうございます!引き続き、宜しくお願いします」
「俺こそ、迷惑を掛けてばかりだが、宜しく頼む」

 ムウとナタルは、アムロから昇任を祝う言葉を貰うと、それぞれに握手と言葉を交わした。
 それが終わるとムウは、トールが突然少尉扱いになっている事を疑問に思い、ナタルに質問する。

「しかし、実戦に出てるキラが少尉なのは分かるが、何で実戦に出てないトールまで?」
「艦長がお決めになられました。ケーニヒ少尉のブリッジ要員としての任は解いてあります」
「要は、訓練に集中させて育てろと言う事か?」
「はい。それに、余った機体を遊ばせるだけの余裕は本艦にはありません」
「まぁ、あいつの面倒は俺が見るしかないもんな……。了解した」

 説明を聞いたアムロは腕組みをして聞き返すと、ナタルは頷いて答えた。
 それを聞いたムウは、仕方ないとばかりに首の後をさすりながら言うと納得したのか頷く。

「それでヤマト少尉の様態とストライクの被害は?」
「キラなら熱を出して寝ている。あの様子だと、今日明日は起き上がるのも厳しいだろう。ストライクは左腕を損傷している。詳しくはマードックに聞いた方が早い」
「それなら格納庫行かないか?新型のマニュアルも見ておきたいからさ」

 ナタルはムウが頷くのを確認すると、今度は二人に質問をして来た。
 その問いに、アムロは少し苦い表情をしながら答えると、ムウが提案をしてきた。
 アムロとナタルは頷くと、三人はパイロットルームを後にして格納庫へと向かった。

 プラント本国の軍関係者達は、作戦の成功の報を待ちわびていた。たまに送られて来る細切れの報告のみを信じて、迂闊に発表などは出来ないからだ。
 地球軍プトレマイオス基地への奇襲の事を知らないメディアの人間達は、どこで嗅ぎ付けたのか不思議な位に、軍本部施設前や建物内の報道ブースで、その発表を待っている状態だった。
 その軍本部施設の一室――、パトリック・ザラの執務室では灯りは殆ど落とされ、静寂と闇が支配している。部屋の主は目を閉じ、各艦隊からの報告を待っていた。
 突然、扉が開き静寂を打ち破って、一人の士官が部屋へと入って来た。
 パトリックは、ゆっくりと目を開くと、椅子に預けていた体を起こした。

「失礼します!各艦隊とも作戦を成功させた模様です。これが地球軍プトレマイオス基地攻撃艦隊指揮官ラウ・ル・クルーゼ隊長、地球衛星軌道迎撃艦隊指揮官レイ・ユウキ隊長よりの通信での報告を纏めましたレポートです」
「うむ、ご苦労。下がれ」
「――は!」

 パトリックは、レポートの束を受け取ると士官を下がらせ、冷めた珈琲を軽く流し込んだ。そして、部屋の灯りを点す為にスイッチを押すと、部屋は瞬く間に明るくなった。
 背を椅子に再び預けながらパトリックはレポートを捲った。
 作戦自体の流れは、逐一未確認ながら情報が流れて来ていた為、半ば成功したであろうと言う確信があった。

「……ほう。これだけやれたのならば、十分だ。クルーゼめ、株を上げよったな」

 クルーゼからの報告には、地球軍プトレマイオス基地、奇襲成功の報と、プトレマイオス基地の被害状況等が記されていた。
 内容的にはプトレマイオス基地内ドック破壊、迎撃火器の破壊について記されているが、いずれもパトリックを満足させるだけの戦果と言えた。
 これだけやれれば、プラントはまだ戦えると確信し、読み進める内に、パトリックの表情は穏やかに緩んで行く。

「ん、勲章の申請……だと?イザーク・ジュール……、エザリア・ジュールの小倅か」

 パトリックはクルーゼからの勲章申請に目が止まり、内容を確認して同じ評議会のメンバーであるエザリア・ジュールの顔を思い出した。
 エザリアは子煩悩と言うより親馬鹿に近く見える。息子を褒め称えると言う飴を与えれば、印象は自分への印象は強くなる。
 エザリアの子供であるイザークは、報告の内容を見れば、奪取した新型を壊してこそいるが、それに見合うだけの働きをしていた。
 それだけに、勲章を与えて評議会のメンバーとして、更に関係を強固な物にしておくのも悪くないと考えた。
 そうして、パトリックは再びレポートを捲り始めた。

「ユウキは敵艦隊の全滅までは出来なかったか。しかし、確実に成功はさせるか。実に実直な男だ」

 ユウキからの報告を目にし、その作戦にも性格が現れているのを可笑しく思った。
 その内容には、敵である地球連合軍第八艦隊の被害状況、そして、突然現れたアークエンジェルの記述が記されていた。周辺艦隊を臨時編成して戦闘を行ったのだから、内容的には上々と言えた。
 流石にその手腕は特務隊FAITHの隊長を務める者だと関心させられる。

「……何だ、これは?」

 読み進めているとレポートに挟まれた封書に気づき、パトリックは目を細めた。
 封書を開封し中を確かめると、パトリックの表情は瞬き間に険しい物となり、手にしている紙が折れ曲がる。

「……命令違反だと!?……あの馬鹿は自分が誰の子か、全く分かっておらんのか!頼にも因って親の顔に泥を塗るとは、この親不孝者が!」

 パトリックは怒りを抑え切れず、怒鳴り声を上げ、肩を震わせた。
 封書の内容は息子であるアスランが戦場で命令無視し、多数の死傷者を出してした事が記されていた。
 アスランの命令無視に因って負傷した者のリストの中には、同じ評議会メンバーのユーリ・アマルフィの息子であるニコルの名も連ねてある。
 封書は秘密文書になっているが、実直なユウキがそんな指示をするとは思えず、本部付きの自分の部下が秘密文書にする様に指示を出したのだろう。

「……これではプラントの英雄に成るべき者としての自覚が足らん。どの道、戦意高揚の為には英雄が必要ではあるか……仕方あるまい」

 エザリアの息子と比べると、アスランの行動は余りにも情けなく、親の期待を裏切る物だった。
 本来ならば、アスランがそれなりに活躍したとあらば、ラクス・クラインの事を含め、英雄に仕立て上げるつもりでいたが、今回は仕方は無いが、エザリアの息子であるイザークに立たせる他無かった。
 パトリックは怒りを治める為に、再び冷めた珈琲を流し込むと、手に持った紙を握り潰す。そして、士官を呼ぶために呼び出しボタンを押した。

「――お呼びでしょうか?」

 士官は部屋の外で待機していたのか、驚くほどの早さで部屋へと入って来た。
 パトリックは握りつぶした紙を大きなデスクの前へと転がし、険しい表情で口を開く。

「……この報告は私は見てはいない、受け取ってもおらん。分かるな?」
「――は?」
「――その報告を私は、見ても受け取ってもおらんと言っている!二度も言わせるな、内々に処理しておけ!それから、アスラン・ザラが戻り次第、出頭する様に伝えろ!いいな?」
「――は!りょ、了解しました!至急、処理します!」

 士官が間抜けな声で聞き返すと、パトリックは顔を鬼の様にしながら怒鳴り声を上げた。
 怒鳴られた士官は慌てて紙を拾うと、敬礼をして部屋から逃げる様に出て行った。

「……全く……言って分からぬのでは意味が無いではないか。しかし、この機を逃すのは得策では無いな……。少しは父親の苦労も分かって欲しい物だ」

 パトリックは、士官と自分の息子であるアスランを皮肉る様に呟いた。
 アスランにはプラントの英雄としての役目があるのだ。こんな事で経歴に傷を付ける訳にはいかない。その為には、権力に物を言わせ握り潰してしまえば良いのだ。
 パトリックはこの後、アスランの行動に因って負傷したニコルの父であるユーリ・アマルフィを自分の陣営に取り込む為にどうすれば良いのかと考え始めた。

 アークエンジェルの格納庫へと足を向けたアムロ、ムウ、ナタルの三人は、スカイグラスパーが置いてあるあたりが騒がしいのに気付く。
 ストライクの足元で困った顔をしているマードックの元へと向かうと、当のマードックもやって来た三人に気付いたのか、頭を掻きむしりながら声を掛けた来た。

「大尉さん達、いい所に来てくれました」
「どうした?」
「いや、何があったか知らねえけど、あのお嬢ちゃんが泣きながら、新型……スカイグラスパーをね……」

 アムロが聞き返すと、マードックはうんざりした表情でスカイグラスパーの方を指さした。
 そこには、整備兵達に因って取り押さえられたミリアリアが泣き伏す姿があった。

「……あぁ、そう言う事か……。ちょっくら行ってくるわ。バジルール中尉にストライクの損傷具合、教えてやってくれ」

 ムウはそれを見て、何か思い当たる事があったのか、マードックにストライクの損傷を説明する様に言うと、ミリアリアの元へと駆けて行った。
 マードックはムウの言葉を聞き、ナタルの階級が少尉だったはずだと思い、目の前に立つ二人に聞いたみた。

「中尉?少尉じゃありませんでしたっけ?」
「俺を除いて、全員、階級が上がったんだ」
「へえ。でも、こんな所で給料上がった所で、金も使えないんじゃ意味ねえや」
「それは良いとして、ストライクの現状を」

 アムロは疑問に答えると、マードックからすれば、無意味な昇任と思えたのだろう。皮肉るかの様に目線を外してストライクへと目を向けた。
 ナタルは見上げるストライクの損傷内容を聞く為に、マードックの言葉を聞き流して、報告をするように促した。

「へいへい。見ての通り、やられた左腕の肘関節部を交換する修理が主です。ヘリオポリスからの持ってきたのと、補給で入ったパーツを合わせれば問題は無いですが……」
「……何か問題でも?」
「ええ、補給で受けたパーツは全部バラの状態で、左腕は一から組み上げねえとならねえから、一日二日じゃ修理は無理ですよ。それから、νガンダムですが……」
「νガンダムも問題が?」
「……交換が利かないから消耗は仕方ないですが、問題はエンジンの方で」
「エンジンだと?問題でも発生したか?」

 目の前の二人の遣り取りを聞いていたアムロは、その内容に眉を顰めてマードックに問いかけた。
 マードックは頷くと、自分の回りにいる整備兵達を追い払ってから、ナタルへと顔を向ける。

「お忘れですか?νガンダムが何で動いてるか」
「――あ!……Nジャマーが利いてる地上では……」
「恐らくエンジンは停止しますよ」
「……一体、どう言う事だ?」

 ナタルはマードックの言葉で思い出したかの様に息を飲んで呟く。それを遮る様に再びマードックが完結に起こりうる結果を口にした。
 今のアークエンジェルからすれば、νガンダムが出撃出来ないと言う事は、大幅な戦力ダウンを示している。
 ストライクは片腕を失い、ここ数日では修理は終わらないのは明白なのだ。もしも、その間に攻撃を受ければ、アークエンジェルは簡単に落とされてしまうだろう。
 この世界の事には詳しくないアムロは疑問の声を口にすると、ナタルは苦々しい表情を浮かべながら事情を知らないアムロへと説明を始める。

「今まで、地球に降りる事を想定してませんでしたから気にも留めて無かったのですが、地球にはザフトに因って多くのニュートロンジャマーが投下され、核分裂が抑制されている状態なのです」
「要はνガンダムは動けなくなるって事です。アークエンジェルみたいにデカいのなら核融合炉型エンジンだし問題は無いが、このクラスのモビルスーツが積み込めるって言ったら、良いとこ核分裂型エンジンでしょ?」

 ナタルの説明がまどろっこしいのか、マードックは完結に内容を伝えると、νガンダムのエンジンが核分裂型だろうと言う自分の推論が正しいのかアムロに聞いて来た。
 二人の説明を聞いたアムロは頭の中を整理するとνガンダムについて、最初の頃にした自分の説明が不十分だったのかと思いながら、少し困った顔をして言う。

「……いや、νガンダムは融合炉エンジンなんだが……言って無かったか?」
「「――えっ!?」」
「……どうしたんだ、二人とも?」

 アムロの言葉を聞いたナタルとマードックは絶句しながらνガンダムをマジマジと見詰めた。
 二人の余りの驚きように、驚いたのはアムロの方だった。

「……いや、聞いてませんて!それにしても……マジ……ですかい?あの大きさで融合炉を?」

 マードックは、まるで機械人形の様な動きでゆっくりとアムロの方に顔を向けると、νガンダムを指さして聞いて来た。

「ああ、そうだが」
「……何て技術を有した機体なんだ……」

 アムロが頷くと、ナタルは驚愕の表情でνガンダムを見上げた。
 ナタルの言葉を耳にしたアムロは、首をさすりながら正直な感想を漏らす。

「俺からすれば、バッテリーで動いてPS装甲なんて代物が有る、この世界の方が凄いと思うが……」
「……世界の技術進歩の違いと言う事なんですかね……?」
「かもしれないな」

 ナタルはアムロに顔を向けると、頭の中で思った事を素直に言った。
 アムロはナタルの言った事も可能性として有り得ると受け止めながら頷いた。

「何にしても、νガンダムの方は最大の問題は解決か……。設備と人員と時間がちゃんと有るなら、一度バラしてみてえなぁ……」

 マードックが安心したように肩を撫で下ろすと、メカニックマンとしての素直な思いを口にした。
 きっとそれはマードックだけでは無いだろう。この世界のメカニックマンからすれば、νガンダムと言う機体は、余りにも魅力が有りすぎるブラックボックスなのだ。

 整備兵達に因って取り押さえられたミリアリアは、両膝を床に着け、俯いたまま涙を流していた。
 アムロ達から離れたムウは、ミリアリアが何をしたのかと疑問に思いながら整備兵達に声を掛けた。

「おい、俺が話し聞くから退いててくれるか?」
「あ、はい」

 整備兵達は頷くと、その場を離れて行った。
 ムウはミリアリアを見下ろすと、その手に血が滲んでいるのに気付き、呆れた表情で口を開いた。

「……人の手で殴ったとこで鉄の塊が壊せる訳ないだろ。一体、何やってんだよ、全くさ」
「……ごめんなさい……。でも、キラがあんな目に遭って、トールが本当にモビルアーマーに乗るって決まって、辞めてって言ってもトールは聞いてくれなくて……」
「だから、これが無くなればと思ったのか?」
「……はい」

 ミリアリアは俯いたまま頷いた。
 ムウは「やっぱりな」と、聞こえない様に呟き、真剣な表情を見せた。

「だがな、これが無けりゃ、船を守れんのは分かってるだろ?それに、あいつは自分から志願して来たんだ。気持ちは分からんでも無いが、宇宙に居た時と状況も違う。こっちとしては断る理由も無い」
「じゃあ、トールが戦って死んじゃってもいいって言うんですか!?」

 ミリアリアは思いやりも無い言葉に怒りを覚え、ムウを睨みつけた。
 しかし、ムウは、それでも厳しい言葉を止める事は無かった。

「……悪いがな、あいつがもし戦って死んじまったとしても、それはあいつの運が無かったって事だ。俺にしてやれるのは、そう成らない為にきっちりと育て上げる位だ。
 俺もアムロもキラも……、直接戦って無い奴だって、必死に戦って生き残ろうとしてる。それはお前もそうだろ?」
「……だけど!」
「何回か話し合ってんだろ?トールは、お前に何て言った?」
「えっ!?……えっと、キラを助けてあげたい……あと、守りたい物があるって……。それから、一緒に生きて帰ろうって……」

 ミリアリアはトールの言った言葉を、一つ一つ確認するかの様に口していった。
 するとムウは、穏やかな顔つきでミリアリアの目線に合わせる様にして腰を落としてた。

「こっ恥ずかしい台詞吐いちまってな……。でもな、守る物が有る奴は強くなるぜ。あいつの言葉を信用するかは、お前次第だが、自分の男が何かを守ろうと決めたんだ。少しは見守ってやってもいいんじゃないか?」
「でも、それで死んじゃったら……」
「そう成らない為に俺が戦い方を教える。絶対とは言い切れんが、やられない様にフォローもする。見込みが無いなら、とっとと下ろすしな。教官がエンディミオンの鷹じゃ不満か?」

 ミリアリアはどう答えて良いのか分からず、俯きながら首を振った。
 ムウも、これ以上は説得するのは諦めたのか、疲れた様子で立ち上がった。

「まぁ、嫌だと言っても、本人が乗る気で居る訳だし、俺としては乗せない訳にはいかんのよ、諦めてくれ。その分の努力はこっちもすっからさ」

 立ち上がったムウは格納庫に入って来たトールを見ながらミリアリアに言った。
 それは、今のミリアリアにトールの行動を左右する権利は無いと言われた様な物だった。
 ミリアリアは俯くとその瞳に涙を滲ませる。
 今までの事など知らないトールは、息を切らしながらミリアリアの前までやって来た。
 
「――ハァハァ……ミリアリア……ハァハァ……こんなとこに居たのか……ハァハァ……」
「……トール」
「おせーぞ!自分の女の場所くらい、直感で当てろよ!」
「……ハァハァ……済みません」
「それよりも、早く医務室へ連れてってやれ。……トール、まだ疲れてないだろうな?」
「ええ、元気です!」

 トールは頷いて、いかにも元気だと言わんばかりの表情を見せた。
 ムウは表情を引き締め、背後に有るスカイグラスパーを親指で指しながら低い声で言う。

「スカイグラスパー二号機は、今日からお前の機体だ。こっちとしても簡単に落とされちゃ堪らんし、俺はお前の彼女の恨みを買いたくないからな。医務室に届けたら戻って来い。今から訓練を再開する」
「分かりました!宜しくお願いします!」

 真剣な表情で言うムウを見て、トールは、自分が本当の意味でモビルアーマー乗りになる為の訓練が始まる事を感じ、思い切り背筋を伸ばして敬礼をした。
 そして、ミリアリアの手を取り、医務室へと歩いて行く。
 ムウは二人を見送ると、スカイグラスパーへと歩み寄り、「頼むぜ」と言って機体を撫でる。そして、踵を返し、アムロ達の元へと歩いて行った。