Canard-meet-kagari_第03話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:28:37

第3話

 声が聞こえる、自分を見下ろす男と女の口論だ
「失敗だ、遺伝子の発現率が…やはり不可能なのか…しかたがない」
「この子を処分するって言うの!」
「まさか、可愛そうだと?君だって今までそうして来ただろう?」
「だけど、この子は!!」
「君には辛いかも知れない、だけど人類の新たな進歩のためだ」
「この人でなし!!」
「人でなしで結構だ!けどこの研究は誰かが成し遂げないといけない、それが君には解らないのか!!」
(何が人類の進歩だ、ふざけるな!結局は自分の研究を完成するための言い訳なんだろ)

 自分を抱きかかえた女性の涙が頬に落ちる。
「ごめんなさい…」
(あやまるのなら、最初から作るなよ…)
 
 白衣の研究員達の声。
「完成体でないと詳しいデータは取れないか…」
「やはり失敗作では駄目か」
(俺は失敗作じゃない!!)

 黒髪のサングラスを掛けた男が、自分の生きる目標をくれた。
「キラ・ヤマトだ」

 月面で、鹵獲MSで戦う自分の前に、全身に返り血を浴びたかの様な赤いジン・ハイマニューバが現れる。敵機の高い機動力に対し、自分の機体は満足な整備も出来ていない。
 敵の銃剣を重斬剣で受け止めつつ、自分の反応速度に追いついてこれない機体にイラつく。
「ヒャヒャヒャ、裏切り者は死んじゃいな」
 接触回線で聞きこえてくる、ノイズ交じりの不気味な笑い声が、一層自分をイラつかせる。

 突如、巨大な光が自分の機体に迫ってくる。通信機からは、戦っている友軍機全てに逃げろと命令する、禿頭の司令官の声が響く。直前まで戦っていた赤いMSは、その機動力を使いとっくに離脱していた。
 だが、自分の機体はそうは行かない、スロットルを限界まで噴かすが、光が彼と彼の機体を飲み込んだ。

 モニターに映る、手に菓子を持った男が言う。
「ヘリオポリスだ、そこに君の探す人物に繋がる人物がいる」
 まるで、この世の全てを知ってるかの様な顔をして、愉快そうに付け加える。
「ただ急いだほうがいい、アソコは今、面白いことになっているからね」
 クッククと笑うと男はモニターから消える。

 目を開けると、青空が広がっていた。
 いや、違うそれは本物の青空ではなくコロニー内の人工的な物だった、しかし、男にはそんな事はどうでもいい。
 普段、彼が目覚めると見るものは、実験台の上の電灯だったり、自分をモルモット扱いする研究員の顔だったり、自分に危険な任務を押し付ける禿頭の上官だったり、スクラップになったMSのメインモニターだったり、ろくなものではなかった。だから男にとって、目が覚めると青空が広がる事は新鮮なことだった。
「あっ、気がついたんですね」
 サングラスを掛けた少年が、男が目を覚ました事に気がつき、近づいてくる。
「君と一緒にいた女の人達も、向こうで…」
「メシだ」
「ハア?」
「メシをよこせ」
「ああ、お腹がすいたんだな、今…」
「あれ?ソイツ起きたんだ」
 少年が両手にパンを抱えてやって来た。どうやら、その辺の店から持ってきたらしい。
「よこせ」
 そう言うと男はパンを引ったくり、ガツガツと食べ始めた。パンを貪り食う男に唖然としている少年達、そこに二人の少女が現れる。
 片方は、そこそこの美人で外ハネの髪が印象に残る、もう一方は……
「あ、お前いい物食べてるな、私にもクレ!」
 あの少女だ、頭に包帯らしきものを巻いている、おそらく爆発したときに怪我でもしたんだろう。
「ふざけるな、これは俺のだ!、どうしてお前にやらなければいけない」
「お腹をすかせている人間がいるんだ、分けてやるのが当然だ!それにソレはお前のではない」
 少女はどうだとばかりに胸を反らすが、男はまるで気にせず
「これは今俺の手にある、だからこれは俺のものだ、そして俺がこれをどうするのかは俺が決める」
「そんなワガママ通じるか!」
 一触即発な二人をサングラスを掛けた少年がなだめる。
「二人とも落着いて、パンならまだあるし…」
「うっ、そうなのか?」
「お前、もっと視野を広くしろよ…」
「う、ウルサイ」
 そう言うと、少女もパンを受け取り、ハグハグと食べだした。

 そんな二人を見て、外ハネの少女がクスリと笑うと、
「二人って、もしかして兄妹?」
「「違う!!」」
 見事にハモって答える。
「そ、そうなの顔立ちが似てるからてっきり…」
 言われてみると、二人の顔立ちは良く似ていた。
「こんな、ガサツな奴が兄妹でたまるか」
「こっちこそ、こんなワガママな奴と兄妹でたまるか」
 二人は睨み合うとフンと顔を背けた。
(キョウダイか…アイツと俺ともキョウダイってことになるのか…)
 男は少女に言われた言葉に思いをめぐらせていた。
(顔は、おそらくソックリなんだろう、俺の顔を見て見間違えたくらいだ)
 男は、アノ鋭角的なシルエットの機体に乗って逃げた男を思い出す。
(アイツはおそらくまた来るだろう、このMSを狙って)
 男は近くにある、爆発の衝撃で横たわるMSを見つめる。
(だが、その時こそ聞き出してやるアイツの居場所を!だからまずは腹ごしらえだ)
 そして、男はパンに手を伸ばすが、
「アッ貴様ッ、そのドーナツは俺のだ!!」
「今は、コレは私の手にあるだからコレは私の物だ」
 少女が先程の男の言葉を借りて言う、そして最後の一口をたべてしまう。
「キサマッ!!」
 男が飛びかかろうとする、そんな二人を見ているサングラスの少年は、背後から来る二人に気がつく。
「ん?カズィそっちの人も気が着いたのか…えっ」
 振り返るとそこには、普段の倍くらい情けない顔をした彼の友人が銃を突きつけられて立っていた。
「全員、そこに並びなさい!!」
 銃口を少年達にに向け、作業服の女が命令した。