Canard-meet-kagari_第09話

Last-modified: 2008-11-30 (日) 17:09:08

第9話

 ザフト軍ナスカ級ヴェサリウスのブリーフィングルームには整った容姿の若者達が集まっていた。
 その中には赤い軍服を着たアスランとヘリオポリスから脱出してきたミゲルがいた。また、メインスクリーンには寮監ガモフに乗艦している面々も揃っていた。
 スクリーンにはミゲルの機体のカメラが撮るらえた映像が映し出されている。
 最初は歩くのがやっとだったストライクの動きが映像が進むにつれて速くなっていく。ツインアイを点灯させ、機体の色がトリコロールカラーに染まり、両手にナイフを持ったストライクが迫って来て、その顔がスクリーンいっぱいに広がった所で映像が終わる。
「以上が敵MSの映像だ。事前に得た情報では三機だったが、アスランのおかげでその存在を見過ごさずに済んだ。よくやってくれた。ミゲルもよくこの映像を持ち帰ってくれたな」
 仮面を付けた白い軍服の男、この隊の隊長であるラウ・ル・クルーゼがアスランと機体のレコーダーを持って脱出してきたミゲルを労う。
「いえ、隊長……自分の勝手な行動の性で……ラスティ達は……」
 アスランの言葉に、そこにいた全員の顔が曇る。
「アスラン、辛いかも知れないが済んだ事だ。君達の行動のお蔭で敵はたったの一機になった」
「しかし……」
「何故、我々がこの任務の為に呼び出されたのか……その意味を考えて見たまえ」
 そう言うとクルーゼはブリーフィングルームの全員に向かい。
「彼らの犠牲を無駄にしない為にも、必ずや残った最後の一機、我々の手でその息の根を止めるぞ」
 そこにいた全員が頷く。
「では作戦会議に移るぞ」
 スクリーンにストライクの三面図画映し出される。
「まずは敵のMS、アスランの持ち帰ったデータと奪った四機のデータからおおよその機体性能は以下の通りだ」
 ストライクの横に機体スペックを示したグラフが映し出される。
「しかし問題になってくるのはMSの動きだ、各自の手元の資料の通りに連合のOSは未完成の代物だ。それが何故この様な動きを見せ、
 しかもミゲルを倒すことが出来るのか……」
「あの隊長、いいですか?」
 スクリーンに映ったガモフのメンバーの内の少女の様な顔をした緑色の髪の赤い軍服を着た少年がおずおずと手を上げる
「なんだニコル、言ってみたまえ」
 ニコルと呼ばれた少年は皆の視線に恥ずかしそうにしながらストライクの戦闘を見ながら気づいた事を言う。
「パイロットがコーディネターじゃないかって思うんです……それならストライクの動きが段々と良くなっていくのも説明が付きますし……」
「なるほど、君は敵パイロットOSの設定を書き換えたと言いたい訳か……それなら」
「裏切り者にそんな事出来るものか!」
 クルーゼの言葉を遮ったのはニコルと同じくガモフにいた赤い軍服を着た銀色の髪の少年だ。
 彼の言った通りあの短時間しかも戦闘中にOSの設定を書き換える事の難しさ。その事は自ら連合のMSを奪い、そのOSを設定した彼だからこそ一番知っていた。
 だが、その彼を宥める様にニコルの説をモカ色の肌と金髪という遺伝子学上では不可能な組み合わせの少年が支持する。
彼もまた赤い軍服着ていた。
「けどよイザーク、そんな事出来る奴ならミゲルの事も納得いくな」
 たしかにそんな事が出来るのなら黄昏の魔弾という二つ名を持つミゲルが易々と敗北を味わったのも納得がいく。
「それに連合のコーディネターにだって強い奴はいる、噂じゃあの『英雄』も月面でハイマニューバーを鹵獲ジン相手に機体を半壊させたそうじゃん」
「あくまで噂だ……それにサイクロプスに巻き込まれたと聞いているぞ」
「表向きはだろ?ザフトの英雄が裏切り者を相手に負けたんじゃ、示しが付かないんだろ」
「しかし」
「イザーク、ディアッカそれぐらいにしておけ、今は作戦会議中だ」
 雑談を続けようとした銀髪と金髪をクルーゼが注意する。
「ニコルの言ったように敵のパイロットはコーディネーターと見ていいだろう、それもかなりの腕だ……敵が裏切り者だというのなら尚の事このままにはできん、各位注意して掛る様に。次にこのMSの装甲ついいてだが」
 話題がパイロットから再びストライクについてに戻り進んでいく話をアスランは上の空で聞いていた。
 なぜなら戦闘中でのOSの書き換えの出来る人物に彼は心当たりがあったからだ。
(キラなら……アイツの能力なら出来ない話じゃない)
 そんな事を考えていた自分に気づき、
(何を考えてるんだ……あのパイロットがキラじゃないかって考えて……けど)
 再び思考の堂々巡りに陥ったアスランを尻目に作戦会議は進んでいった

「偵察機の情報から新型戦艦の存在も確認されている。そこで三機一小隊編成の二個小隊でMSと戦艦を各個撃破する、ミゲル、君はMSを相手にする部隊の指揮を執れ、この隊でMS戦の経験が一番豊富だ」
「しかしMSが……」
「君のジンの修理が先程完了した。メカニックに感謝しておくのだな」
「はい、解りました」
 心なしか声が弾む、雪辱戦のチャンスを与えられたのが嬉しいのだろう
「以上で作戦会議は終了だ、準備の整い次第出撃する」
 集まった全員が持ち場に着き、クルーゼがキャプテンシートの横の自分の席に座る。
(彼を倒した相手だ一筋縄ではいかないと思うが……さてどうするか?)

 ヴェサリウス格納庫ではミゲルが機体の最終調整を行っていた。
 彼のMSは他のジンと違い全身を彼のパーソナルカラーであるオレンジで塗られていた。通常のジンより破格の性能を持つこの機体は前の任務で小破して強奪作戦には使用しなかったのだが
「よく修理できたな」
「鹵獲した連合のMSを見て、敵のMSを倒すにはコイツしかないって思って、それにコイツの最後の花道を飾らせたくて」
「すまないな」
 このジンは他のジンに比べ精度の高い部品を使っているが部品の消耗が激しく、また全体の金属疲労も進んでいて、この任務が終わったらこの機体は廃棄されミゲルにはハイマニューバが支給されるはずだったのだ。
 その整備班の努力を無駄にしないためにも必ず倒してみせる、そうミゲルは心に誓ったのだ。
(あのMSのパイロット、最初の動きが鈍いんで油断していたが俺を倒したあのナイフ捌き……あれはまるで奴の様だ)
 ミゲルは前の任務で戦った傭兵のジンの事を思い出していた。
 その傭兵は長距離移動のために改造され小回りの利かないジンで彼のジンと戦い、自らの機体を撃破されながら彼のジンの右腕を切り落とし、本来の目的である補給基地を破壊していった。
(だが奴じゃない、計算されつくした奴の動きに比べ、あのMSの動きは……獣の動きだ)
 ミゲルがそう思っているとアスランがひょっこりと現れる。
「どうした?お前には出撃命令は出てないぞ」
「ああ、そうなんだが……」
「心配するな、ラスティの敵は俺がとる」
 ミゲルはそう言うがアスランの心の靄は晴れなかった。

 

 アークエンジェルの警報が鳴り、敵機の襲来をクルーに知らせる。それを聞いた時、カナードはストライクのコクピットでOSの再調整を行っていた。
 OSを書き換えたと言ってもとりあえず戦闘機動ができる程度であり、二度の戦闘で感じた機体特性を踏まえ、更に自分用に調整していたのだ。
「来たか、準備は出来ているか」
 コクピットから身を乗り出し、整備クルーにストライカーパックの整備状況を聞く。
「ソードの準備なら出来ているぞ」
 整備班長のマードック軍曹が答えるが、カナードはその答えが気に入らなかった。
「ソード?エールやランチャーはどうした?」
「エールはエンジンの出力調整が終わって無い、ランチャーはどっかのバカが銃身を殴ったりしたんでバラして修理している」
「そんなに酷かったのか?」
「ああ、もう一度撃ってたら暴発していたよ」
 そんな事を言ってる間にブリッチから通信が入る
「カナード君、聞こえている?」
 モニターに映ったマリューは今は連合の士官服を着ている。
「ああ聞こえている、敵の数は?」
「六機よ、みんなジンみたい」
「みたいとはどういう意味だ」
「一つだけ速いMSがいるのよ、新型じゃないみたいだけど……」
「チィ!使えん奴らだ」
「そんな……言い方って……」
「おい、お前っ!」
 画面が切り替わり今度はカガリがモニターに現れる
「みんなだって、遊んでたわけじゃない、死にたくないって思って一生懸命やってたんだぞ」
「成果を出してないのなら、やってないのと同じだ。努力した、一生懸命やったって言うのは言い訳だ!本当に生き残りたいのなら結果の残る努力をしろ」
「お前っ!」
 そんな二人の間にナタルが割り込む
「確かに貴様の言う通りだ、だが最後に成果を出さなければ意味は無い……しかしそれもお前が成果を出してこそだ。大きな口を叩いたのだから見せてもらえるのだろうな成果を」
「フン、見せてやろう俺の成果を!出撃準備だ!」

 ストライクがハンガーに移動され近説格闘戦用ストライカーパック、ソードストライカーを装着される。
(対艦刀は未完成でビーム砲が使えんがビームブーメランとアンカーは使い方しだいでオモシロイ武器になりそうだな)
 カナードはニヤリと笑うと
「カナード・パルス、ソードストライクガンダム、行くぞ」
 電磁カタパルトからストライクを発進させる。それと同時にコロニーの外壁が破壊され六機のジンが進入してくる。
「あれか」
 カナードは節電のために起動させないでおいたPS装甲を起動させる。こちらを確認した敵は二手に分かれ、一方がストライク、もう一方がアークエンジェルに向かっていく。
「行かせるものか!」
 カナードはアークエンジェルに向かった方を追おうとするが三機のジンが行く手を遮る。三機は巧みなフォーメーションでストライクを包囲し、装備した大型のビーム砲でストライクを狙うがストライクはそれを尽く回避する。
 カナードは三機の攻撃を回避しながらチャンスを待っていた、敵のビーム砲は数発しかビームを撃てないという致命的な弱点がある事を知っていたからだ。
「やっぱり、あの機動力では当てるのは無理か」
 ミゲルはコックピットの中で呻き、サブモニターに写る残弾数が少なくなってるの見て、どうするかと考えているところでストライクにビーム砲が直撃し爆発がストライクを包む。
(あっけなかったな……)
 ミゲルがそう思ったその時、爆発の中からストライクが現れる。直撃したかに見えたビームは実はストライクの左腕に装備された小型ビームシールドに防がれていたのだ。
「邪魔をするな!!」
 対艦刀を抜き、振りかぶりながら接近し一機のジンを一閃する。ジンは真っ二つに切り裂かれ、ストライクはそのまま敵の包囲を脱出し、アークエンジェルに向かった敵MSを追いかける。もう一機のジンがそのストライクを背後から撃とうとするが、ミゲルが止める。
「止せ、あの距離で無傷だったんだ、この距離じゃ当ったってダメージが与えられん、残り弾は少ないんだ有効に使え」
 仕方なく二機はストライクを追いかける、ミゲルのジンはその高い機動力を使いストライクに追いつこうとする。距離が縮まり、ストライクが側のコロニーシャフトにカナードは左腕に装備されたワイヤーアンカーをコロニーシャフトに打ち込む、コロニーシャフトをグルリと周りながら、肩に装備されたビームブーメランを投げる。
「消えろ――ッ」
「何ッ!」
 ミゲルはこの不意打ちを回避しきれず機体の両足を切り裂かれバランスを崩し、地面に落下する。ストライクはそのままシャフトを一周し、ミゲルの後方から追いかけていたジンを切り裂いた。
 弧を描き飛んで来ていたビームブーメランをキャッチし、カナードはストライクをアークエンジェルに向かわせた。そのストライクの後ろ姿を見つつミゲルは中破した機体を何とかして追いかけようとしていた。
「このままで……終わらせるかよ」

 ヴェサリウス格納庫でアスランがイージスの調整を行っていると、作業班の話が聞こえた。
「おい、聞いたか!MSを相手にしていた部隊がやられたって……」
「嘘だろ!!ミゲルさんとあのジンがやられたって言うのかよ!!」
「大破はしてないみたいだけど……かなりヤバイみたいだ」
 その話を聞きアスランはいてもたってもいられず、機体をカタパルトに移動させる。
「おい、その機体は……」
「他にMSが無いんだ、厳罰は覚悟の上だ」
「そうか、必ず帰って来いよ」
「了解した」
 そういうとアスランはカタパルトから発進し、戦友の無事を祈りながらヘリオポリスに向かわせた。