Canard-meet-kagari_第17話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:31:36

第17話

 アークエンジェルの食堂では、カナードの指示を聞いたヘリオポリスの学生が避難民と共に集まっていた。
「アイツなんで、ワザワザ着替えろなんて言ったんだ?」
「知らないよ、僕はただ伝えろとしか……」
「抜け出すの大変だったんだから」
「そうそう」
 カナードの一方的な命令に不満がある皆が口々に愚痴る。
「ここで降りるんだし、これ以上艦の仕事を手伝う義理は無いからいいじゃないか」
 サイがカナードの代わりに愚痴を聞かされてるカズィをフォローする。
 そしてサイの側にいたフレイがポツリと漏らす。
「パパ心配してるだろうな…」
「親父とお袋も無事だといいけど……」
「お父さん、お母さん」
「避難命令、全土に出てたし大丈夫だよ」
 それを聞いた他の学生たちも親の心配をし始めるのを、カガリは俯き拳を握って聞いていた。
「すまない……」
「カガリさんが謝る事じゃないわよ」
「でも、私は……」
「何、辛気臭い顔をしている」
 カガリの言葉を遮りカナードが現れ、食堂の椅子に座る。
「おい、頼んどいた物は出来てるか」
「あ、うん……コレだけど……」
 カズィはポケットから黒い立方体を取り出し、カナードに手渡す。
「何だコレ?」
 それを見たカガリは疑問の声を出すがカナードは満足した様子だ。
「少しダサイが、まあ良いだろう」
 そう言うとカナードはポケットにしまうと廊下の方が騒がしくなっていた。
「何だ?」
「来たか……」
「へ?」
 武装した兵士達が油断無く銃を構え食堂へ入ってくるなり連合の制服を着た士官達には銃を向ける。
「よーし!そのままだ!避難民の方々も動かないで下さい、保安上の処置ですので、どうかそのままで」
(やはり俺の読み通り、艦のクルーは拘束か……避難民に混じる考えは正解だったな)

 カナードが最初アルテミス行き渋ったのは自分の正体がバレるのを避ける為だった。
 もしアルテミスに行けばアークエンジェルは拿捕されなくてもクルー全てのIDを照会をするのはずだ。カナード自身はユーラシア連邦でも一部の人間しか知られていないが、ユーラシアのデータを調べられれば一発でバレてしまい、カナードは拘束され、元の実験動物に戻ってしまう。カナードとしてはソレだけは避けたかった。
 そこで思いついたのは、避難民の中に隠れる方法だ。これなら、中立国であるオーブの一般人は国籍照会に時間が掛ると考えたからだ。
 その間に脱走のチャンスを待ち、シャトルを奪って逃走する……それがカナードの考えだった。
 また、サイ達に非難した時の格好をさせたのは、アークエンジェルのクルーの中にヘリオポリスの避難民がいた事から他にも避難民の中にクルーがいるかもしれないと、この基地の司令官が考えるのを避ける為だ。
「こちらチャーリー1、食堂を制圧完了、拘束したクルーの中に該当人物は発見できません、それと…どうやら避難民はここに集められてる模様です」
「了解、ブリッチは既に制圧した、艦長他二名を司令部に案内する。拘束した他のクルーは食堂に移すから、お前達はそこで待機だ。
それとくれぐれも避難民の扱いは丁重にな」
「了解しました」
 ユーラシアの兵士が通信機を切り食堂に居る全員に向かって言った。
「ヘリオポリスの避難民の方々は本国との連絡が付き次第、シャトルで本国へお送りしますので、それまではこちらの指示に従ってもらいます」
 兵士に連れられたノイマン達が入ってきてサイ達の近くに座らされる。
「君達、運が良かったな……連合の制服を着ていたら君達も拘束されてたぞ」
「え!……いや、その……所でユーラシアと大西洋って仲悪いんですか?」
 ノイマンの言葉を曖昧に答えて、サイは先程から疑問だった事を聴く。
「そういう問題じゃねぇよ、識別コードがないのが悪い」
 ノイマンに代わってトノムラが答える。
「それって、そんなに問題なんですか?」
 横で聞いてたトールが質問する。
「識別コードが無ければ味方だと断言できない、だからこうして艦を制圧したんだろ」
「安全確認なんて建前さ、本当はこの艦の技術とMSが欲しいのさ」
 チャンドラ二世の言葉を先程から黙っていたカナードが否定する。
「でも、友軍なんだろ技術とかは分け合って協力すればいいじゃないか」
 カガリが口を開き質問をする。
「ユーラシアの連中は大西洋連邦を友軍だと思っちゃいない」
 カナードが答えた意味をカガリが知るのは、もう少し後の事だった。

「何だと!いないだと!もっとよく探すんだ!」
 アルテミスの執務室に据えられたデスクに座っていたこの基地の指令が通信機から聞こえる部下の報告を聞き、怒鳴りながら命令する。
「しかし拘束したクルーの中には閣下の仰る様な少年は……」
「まだ艦内に隠れているんじゃないのか?」
「艦内は隈なく探索しましたが……発見出来ません」
「一体何所に隠れたんだ………………………………避難民の中は探したのか?」
 しばらく考え込んでた指令が唐突に漏らす。
「避難民?いえ、まだですが…」
「だったらその中だ。さっさとしろ」
 そう無能な部下に吐き捨てるように命令すると通信機を切った。
(避難民の中とはヤツも考えたな……だが所詮は浅知恵だな)
 彼がそう思っていた時、執務室の扉がノックされる。
「指令、不明艦より、士官3名を連れて参りました。」
「よし、入れ」
 彼が低く命令した後、彼の部下に連れられたマリュー、フラガ、ナタルの三人が入ってくる。
「ようこそアルテミスへ」
 アルテミス指令にして、どんな激戦からも生還する男として有名を轟かせる彼、ジェラード・ガルシアは、ネギを背負ってやって来たカモ達を歓迎した。

「 傘は、レーザーも実体弾も通さない。ま、向こうからも同じことだがな」
 ゼルマンは ガモフのメインスクリーンに映るアルテミスを見詰め忌々しげに言い放った。
「だから攻撃もしてこないってこと?バカみたいな話だな」
「だが防御兵器としては一級だぞ。そして重要な拠点でもない為、我が軍もこれまで手出しせずに来たが、あの傘を突破する手立ては、今のところない。やっかいなところに入り込まれたな」
 ディアッカがおどけて言うのをゼルマンがたしなめる。
「けど、もし傘が無くたってアノMSが出てきたらどうする?アスランやイザークは居ないんだぜ」
 アスランはヘリオポリス崩壊に関する事情説明の為、 本国に帰還していた、イザークも傷の治療と機体の修復の為に本国に向かっていた。
「お前にしては随分弱気だな」
「そりゃあ俺だって自分の力量くらい知ってますから……四人で敵わなかった相手にどうやったら二人で倒せるんですか?」
「その通りだが、それは真っ向から向かっていった時の話だ。地の利と機体特性それらを十分にパイロットが引き出せばジンでもシグーに勝つ事がある」
「地の利と機体特性……」
 ニコルが呟く。
「 傘は、常に開いてるわけではないんですよね」
「 ああ、周辺に敵のない時まで展開させてはおらん。だが閉じているところを近づいても、こちらが要塞を射程に入れる前に察知され、展開されてしまう」
 ニコルの突然の発言にゼルマンは戸惑いながら答える。
「僕の機体、……あのブリッツならアルテミスとアノMSをなんとか出来るかもしれません」
 ニコルはメインスクリーンにブリッツのデータを呼び出し、これから彼がしようとしている作戦を説明し始めた。