Canard-meet-kagari_第32話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:35:24

第32話

 二人が出合った彼女の家の庭で彼女が歌を歌う。俺には音楽の事は良くは分からないが、彼女の歌はやさしく自分を包んでくれるように感じられた。。
 彼女の歌声に合わせて、周りの幾つもの球形のペットロボットが元気に跳ねている。
(ちょっと作りすぎたかな)
 そう思っていると彼女が自分に気づき、可愛らしい笑顔を向ける。
気恥ずかしくなりながら、新しいハロを彼女に渡そうとすると突如として地面が割れ、白いMS、ストライクが現れる。
 ストライクは彼女を巨大な腕で掴み、彼女をさらっていく。
 俺はいつの間にかイージスに乗ってストライクと戦い、やっとの思いで彼女を救い出したのだが、彼女の目からは大粒の涙が零れている。
 見るとストライクの残骸は無く、代わりに自分がよく見知った人物が倒れている。
「そんな……嘘だろ………お前がなぜ」
 血まみれの友人の躯に縋り付く彼女を見ながら俺は絶叫した
「キラァアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!!」

 アスランは医務室のベットから飛び起きた。
(なんて夢だ……)
 寝汗を拭おうとすると激痛が体中を走る。
(何だ……この痛みは?そんな事よりも俺は今まで何をしていたんだ……)
 苦痛に呻きながら、今までの事を思い出していると薄らだが記憶が蘇ってくる。
 ストライクとの激闘、あの不思議な感覚、そして……
「ラクス!!」
 ラクスが人質になった事を思い出すと、アスランはベットから抜け出し、悲鳴を上げる体を引き摺りながら医務室を後にし、格納庫に向かった。

(全身の毛穴が開いている)
 背筋に冷や汗が垂れているのを感じながらもカナードは目の前の少女から視線を離さない。離した瞬間に自分の負けが確定する……そんな気がした。
(コイツは絶対にさっき言った事をやり遂げる……あの目はアイツみたいな言葉だけの奴の目じゃない。
 出来るんだ……俺が失敗作という苦しみから開放される、そんな世界を作る事が……)
 ラクスがそっと手を出しながら、カナードに言う
「貴方も一緒に作りましょう……みんなが苦しみから解放され、幸せになれる世界を……
 貴方にはその為の力があります」
 世界の全てを包み込む慈愛に満ちた言葉にカナードは揺れ動く。しかしカナードはその救いの手を払いのけた。
「あら?」
「たしかに、お前なら今言った夢のような世界を作れるんだろう」
「ですから一緒に」
「だがな、俺にはどうしてもキラ・ヤマトを倒さずに、他人から与えられた生き方の中で自分の中で決着が付くとは思えないんだ!」
「そんな事はありません……貴方はきっとキラを倒さずに自分の道を手にいるれる事が出来ます」
 ラクスの言葉の誘惑にカナードは屈しなかった。
「何度も言わせるな。自分の手で決着つけなければダメだろ。
 持って生まれた力も運命も望む望まないにしてもソイツのものだ。
 ソイツ自身でソイツの生き方を見つけなきゃいけない……他人に与えられた生き方じゃ意味はない」
「しかし、他人から与えられた生き方だとしても本人が救われたと思えるのなら、それで良いじゃありませんか?」
「俺にとってはそんな救いは偽物だ。自分を救う人間は自分以外いない、だから俺は俺自身の力で救いを見つけ出す」
「なぜ貴方は、その様な過酷な生き方を自らに課すのです」
「それは……生きる資格を手に入れるためだ!!」
「生きる資格?」
 オウムの様に聞き返すラクスにカナードは問いかける。

「そうだ。俺は生み出された者に廃棄されかけた。その意味が分かるか?」
 カナードはラクスの救いの言葉に対抗する為に自分自身をラクスの前にさらけ出した。自分が、カナード・パルスが今まで戦い続けた理由をラクスへぶつけ、ラクスの甘美な誘惑を振り払おうとしたのだ。
「俺の存在は否定されたのだ!本来なら最初に肯定するはずの生み出した者からだ。
 だとしたら世界に俺は存在してはいない……それは死んでいるのと同じだ!!
 だから俺はキラ・ヤマトを倒し、俺を生み出した者が望んだスーパーコーディネイターが俺だと言う事を証明する!!!
 そして俺がカナード・パルスとして生きる資格を勝ち取る!!
 そうだ……その為に俺は戦って戦って戦い続けて、キラ・ヤマトに必ず勝てみせる」
「かわいそうな方……」
 ラクスが哀れみの目をカナードに向ける。彼をこの境遇から救わなければとラクスは思った。
 彼は誰かに自分の存在を肯定されたいのだ。
 どんな人間も一人では生きていけない。誰か自分がここにいても良い、生きていて良いという言葉があるからこそ人は生きていけるのだ。
 しかし彼にはその言葉を掛ける人物がいない……だから自分がその言葉を掛けなければいけないとラクスは思った。
 幸いにもカナードは心の殻を取り払っている、今が彼の心に触れるチャンスなのだ。
「わたくしは、あなたを必要と……」
 その時にアークエンジェル艦内に警報が鳴り響く。
「また来たのか!お前は部屋に戻れ。大事な人質だ!!分かったな!!」
 カナードはそう言うと、ラクスを残してストライクの元に駆けて行った。

 アスランはイージスを無断で発進させると、MA形態に変形させアークエンジェルへ向かう。
 そしてアスランは傷ついた体を加速Gに揺さぶられながらも再びアノ感覚に入っていったのだった。
(またコレか……何にしても今は、この力でラクスを助ける)
 それまでアスランの体中に走っていた激痛が嘘の様に消えていくのを感じながら、アスランはキーボードを取り出しOSの調整に入る。 プログラミングはあまり得意ではないアスランだったが、今のアスランにはイージスの全てが分かったのだ。
 フレームの限界強度ギリギリまで反応速度を上げると、目の前にアークエンジェルを先行していたモントメゴリから発進したMAが迫る。
「退け!!」
 イージスはMA形態のままMS時の頭部を露出させるとイーゲルシュテルンでMAを打ち落としていく。
「くらえ!!」
 イージスの四肢が開き、発射されたスキュラがモントゴメリの艦橋を貫いた。今のアスランとイージスの前にMAの部隊と戦艦では何の脅威にもならない。
 唯一、脅威となる存在それは……
「ストライク!!」
 エール装備のストライクがイージスの前に立ちふさがる
「お姫様を救出はるばるご苦労様だな。だがその前にキラ・ヤマトの居所を教えてもらう」
「今度こそ、ラクスを助ける!!」
 アスランはイージスをMS形態に変形させると、ストライクに挑みかかった。
 再び激突するSEEDに限りなく近い両者、だが今回の戦いはカナードが圧倒的に有利だった。
 カナードはアスランよりも先にアノ感覚を知り、それに耐える為に肉体の鍛錬を続けていた。それによ肉体面でアスランを凌駕しているのだ。
「どうした!!王子様?お姫様を助けるんじゃなかったのか!!」
「ック」
 確実に押されているイージスのコクピットの中でアスランはストライクの向こうにアークエンジェルが写る。
(あそこにラクスが……)
 見えている、だが今アスランの目の前に立ちふさがる壁はあまりに大きく強大だった。

「拍子抜けだな……これで決めさせてもらう!!」
(力が欲しい)
 ストライクの止めの一撃が振るわれる中でアスランは強く願った。
 一年前、アスランは母親のいるユニウス7が核の炎に包まれるのをただ黙って見る事しかできなかった。
 そんな自分の無力さを呪い、ザフトに入った。
 もうあんな思いをしたくない……だから
「もう二度と……大切な人を失うものか!!」
 その時、アスランの中で何かが弾けた。
 体中に力が漲り、それまで以上に思考がクリアになっていく
 ストライクの一撃を見切り、最小限の動きでかわすと、MA形態に変形し距離を取るとストライクに向かって真っ直ぐに向かってくる。
「馬鹿が!!」
 カナードはストライクの腰にマウントしたビームライフルを構えると、真っ直ぐに向かってくるイージスの中心に目掛けてビームを連射する。
 しかし発射されたビームがイージスの間近に直撃した瞬間にビームが弾け飛んだ。
「何だと!!」
 イージスのクロー先端から伸びたビームサーベルがビームを弾いたのだ。
 そのまま加速を加えながらイージスはストライクに吶喊する。
 シールドで防ぐストライクだったが、PS装甲の塊と言っていいイージスの最大加速の体当たりの前にシールドは破壊され、イージスの先端にビームサーベルを展開したクローがストライクの左肩を貫いた。
「この!!」
 カナードは衝撃に揺さぶられながらもビームサーベルを振るうが、イージスは身をよじり、マウントしたシールドでその一撃を防いだ。そして、そのままストライクを吹き飛ばすとアークエンジェルに向かう。
「ラクスは……そこか」
 アスランにはラクスがアークエンジェルのどこにいるのかが何故か分かった。
 そのままイージスはアークエンジェルに体当たりをし、ラミネート装甲を突き破ると、アスランはイージスから飛び出し
 ラクスを求めて、アークエンジェルに進入する。
「まだ……だ……」
 カナードは左腕を失い、エールストライカーの左半分を抉り取られたストライクの中でカナードの闘志はまだ消えてなかった。
 怒りを炎が宿った瞳でアークエンジェルに突き刺さったイージスを睨みつけると、
 アスランを追ってカナードもアークエンジェルに向かった。

 イージスの吶喊による衝撃に揺さぶられながら、カガリは自分の体が宙に浮いてるのを感じていた。
 アークエンジェルの重力を作り出していた居住ブロックの回転が止まったのだ。
 カガリはたまたま一緒にいたミリアリアとエルに宇宙服の着用を促す。コロニー育ちで0Gでの宇宙服の着用に慣れている二人はすんなりと着たのだったが、地球育ちのカガリは四苦八苦し、二人に助けられて宇宙服を着用する。
「おそいよ、おねえちゃん」
「ゴメン、慣れてないんだ。エルちゃんは早いんだな」
「この前、幼稚園でおそわったんだよ」
「そうか……ここは危ないから早くみんなの所へ避難するんだ」
「わかったわ」
「おねえちゃんは?」
 心配そうに見るエルにカガリはいつもと変わらない調子で言った。
「私は他に逃げ遅れた人がいないか見たら直ぐ行くから……心配するな」
「でも……」
 それでも泣きじゃくるエルをカガリは優しく抱きしめる。
「大丈夫、またお爺さんの話を聞こうな」
「うん!!」
 そう言うとカガリは宇宙服を二、三着持って居住エリアの奥に進んでいく。
 もしも艦内放送が生きていたのなら艦内に入り込んだザフト兵の事が分かったのだが、今のカガリにはどうしようもない事である。
「ザフトめ!!だれも死なせるか!!」
 このあたりの区画は粗方調べた後は隣の区画だけだ、いるのは……
「ラクス……忘れてた!!」
 ラクスの事を思い出したカガリは、慌ててラクスの部屋に行こうとするが、その時にカナードの言葉が蘇ってくる
(アノ女を、また人質にすればいい。そうすれば誰も死なない。お前の望みどおりだ)
「もしもラクスを人質にすれば、この艦に乗ってるみんなはもう戦う事はないんだよな……」
 口に出し言ってしまった自分に嫌悪感を抱いたカガリは首を振るう
(懺悔したり考えるのはラクスに宇宙服を渡した後にしよう)
 再び走り出したカガリだったが、角を曲がりラクスのいる区画まで来た時に、目の前に赤いパイロットスーツを着たザフト兵が現れる。
「ザ、ザフトか!!」
 どう対応してよいか分からないでいるカガリの鳩尾にザフト兵の鉄拳が叩き込まれる。攻撃する事も、助けを呼ぶことも出来ず、カガリの意識はそこで途切れた。

(この娘、たしかストライクの所にいた)
 アスランは自分が気絶させた少女を抱きかかえながら、ヘリオポリスの格納庫でカナードと共にいたカガリの事をを思い出していた。
 しかし彼が驚いたのはカガリの顔だった。
「似ているキラに……そしてカナード・パルスに」
 かつて自分と同じ時を過ごした親友と今まで自分が戦ってた強敵の二人の面影を持つ顔にアスランは戸惑っていた。
(まさかカナード・パルスの様に連合の戦闘用コーディネイターか?それにしては弱すぎる。
 いや今はそれよりもラクスを……)
 アスランはとりあえず、もしもの時の人質の為にカガリを抱きかかえる。
「よし、次はラクスを……」
 その時、雄叫びと共にアスランに迫る手負いの獣がいた。
「ソイツを離せ!!」
 カガリを抱きかかえたアスランの向かってカナードが跳躍する。
 カナードは右手で拳を作ると身を捻り、独楽のような左回転しながら、その遠心力を利用した一撃をアスランに叩き込もうとする。
 一方、カガリを抱きかかえてる為に両手が塞がったアスランは迫り来るカナードに対してハイキックを繰り出す。
 カナードの拳がアスランの脇腹にめり込み、アスランの蹴りがカナードの延髄を揺さぶる。
 両者、距離を取り肩で息をするがその時になって、ようやく警備班がやって来る。
「くっ!引き時か!!」
 アスランは撤退を決意するとカガリを連れたままイージスに戻っていく。
「待て!!クソ!!」
 追おうとしたカナードだったが目眩がし、意識が朦朧としてくる。
 延髄に決まったアスランのハイキックが今になって効いてきたのだ。
「返せ……カガリ……」
 薄れいく意識の中、初めてカガリの事を名前で呼びながらカナードは前のめりに倒れたのだった。