Canard-meet-kagari_第37話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:36:32

第37話

「これがアサルトシュラウド……」
ヴェサリウスに着艦した生まれ変わったデュエルの姿を見てアスランは呟いた。
厚いアーマーを装着し、元の細身なデュエルとは対照的なその姿は、一見鈍重そうに見えるが、
追加されたアーマーの各所にスラスターが付けられ機動力を大幅にアップしている。
さらに右肩にはレールガンが左肩にはミサイルポッドが装備されており、
遠距離でのデュエルの武装の脆弱さを補っている。
アスランにデュエルのコクピットから降りてきたイザークが声を掛ける。
「ストライクを一度とはいえ倒したそうだな」
「ああ、逆襲を喰らったがな。それにしても凄いものだな」
「ニコルの親父さんのお陰でな。それと慣らしに付き合ってくれたアイツにも感謝しないとな……」
「アイツ?」
「な、何でもない!余計な詮索はするな!!」
イザークが顔を赤らめながら怒鳴ると、後ろから声が掛かけられる。
「いやはや元気があることだな」
「く、クルーゼ隊長!?」
突然のクルーゼの来訪に驚くイザークだったが、すぐに気を取り直す。
「イザーク・ジュール。現時刻を持ってクルーゼ隊に復隊します」
「よろしい。イザーク・ジュールの復隊を確認した。
 さて、せっかく我が隊のザフトレッドが揃ったと言いたい所だが……
 アスラン。たった今、本国から特命が下った。
 特務隊所属、アスラン・ザラはラクス・クラインの護衛として本国へ帰還せよとの事だ」
「え、しかし……」
突然の命令に戸惑うアスラン、少し前にラクスにあんな事を言った手前、気恥ずかしいのだが
さらにクルーゼが追い討ちをかける。

「整備班の見立てでは、君のイージスは本国での修理が必要だそうだ。」
イザークと共にGAT-Xシリーズの予備部品が届いたのだが、
イージスのダメージは内部フレームの各部にまでおよび、ヴェサリウスの内部だけでは、修理のしようが
なかったのだ。
これはストライクとの戦闘だけではなく、SEEDに目覚めたアスランの技量に機体が耐え切れなかった
からでもある。
「それにアノ男の艦には不埒な輩が多くいると聞く。
 そんな艦に可憐な乙女を一人で放り込むわけにはいかないだろう?」
その言葉にすかさずイザーク反応する。
「その通りです。あんな飢えた野獣どもの巣窟にラクス嬢をお一人で乗せるなど……
 アスラン、貴様それでも婚約者か!!」
イザークがいつになく熱い口調でアスランに問い詰める。
無理もない、ここへ来るまでにイザークは、その母親譲りの女顔が災いし、
熱っぽい視線を感じたのは一度や二度ではなかったのだ。
そして、いよいよ貞操の危機を感じたイザークはデュエルのコックピットに引き篭もる事になったのだが
そんな事アスランには口が裂けても言いたくはなかった。
「……分かりました」
アスランは渋々と肯く。
しかし、気がかりなのは自分抜きでストライクと戦う事になる戦友達のことだ。
「安心しろ。ストライクは俺が討つ」
アスランの葛藤を察してかイザークが不敵に笑いながら言い放つ。
「ストライクいや、ガンダムには気をつけろ」
「ガンダムか……貴様にしてはセンスのある名前だな」
ガンダム
デュエルのコクピットで百時間以上過ごしたイザークには、その名がOSの頭文字を取ったものだとすぐにわかった。

「冗談でいってるんじゃない。あのパイロットは、カナード・パルス普通ではない」
「カナード・パルスそれがストライクのパイロットの名か。
 大丈夫だ。俺には必殺技がある」
「必殺技?」
「ああコイツを食らえば。どんな相手でもひとたまりはない。
 なんなら、その恐ろしさをアスラン、お前が味わってみるか」
完成したばかりの必殺技を試したくてしかたがないらしい。
「イザーク、無駄話もここまでだ。
 アスラン、君は荷物の整理に行きたまえ」
「では隊長、失礼します」
アスランの後ろ姿を見送りながらイザークがクルーゼに訊ねる。
「隊長、一体これはどういう事です?」
「追悼式典に、もう一つ華が欲しいのだろうな」
(早く孫の顔がみたいお二人のお節介もしれんがな)
「……なるほど。そういうことですか」
イザークが顔をしかめる。
連合の艦に捕らえられたラクス・クラインを彼の婚約者であるアスランが命がけで救い出した
開戦から一年、戦いに疲れたプラントの人々にとっては、これほど明るいニュースはない。
また、国防委員会は、極秘任務中に名誉の戦死を遂げたグゥド・ヴェイアに代わる新たなる英雄として
アスランを戦意高揚の為に祭り上げるつもりでもあるのだが、これはイザークの知るべきことではない。
彼は、日頃から対抗意識を燃やしているアスランが、自分より先に戦果をあげ、華々しい式典に出るということが悔しいのだ。
(道化を演じる事になるアスランは代われるものなら代わってほしいと思うだろうがな)
かつてはネヴュラ勲章のエースとして道化を演じた事のあるクルーゼは密かにアスランを同情する。
「我々も華を添えねばな、アークエンジェル撃沈という華を」
「はっ!」
イザークは闘志の炎しながら敬礼をする。

「どうだい!完璧に仕上げてやったぜ」
マードックは修理の完了したストライクの前で、胸をそらす。
「試させてもらうぞ」
パイロットスーツのカナードが――ただのテストなのに、カナードがパイロットスーツを着ているのは、
カナード自身の気分である――短く言うとマードックは自身満々に答える。
「おう。好きにやれい」
カナードはストライクのコクピットに入り込むとOSを立ち上げる。
ストライクの左肘を二、三回曲げたり伸ばしたりさせると、左手首を一回転させ、左手を握らせ拳を作り、
再び開かせる。
そして人差し指から順に小指まで曲げていき、最後に親指を曲げて拳を作る。
全ての動作が壊れる前とまったく同じ反応速度だ。
「よし!これだ」
カナードは二ヤリと笑い、ストライクから飛び降りた。
「完璧だ」
「そうだろう」
マードックも会心の笑みを浮かべる。
「ところでエールはやっぱり無理か」
「ああ、フレームがイカれてるし、四基のスラスターのバランス調整が難しいからな」
「そうか……」
「まあ残る敵はバスターくらいだから、お前さんならチョロイ相手だろ」
「フッ、当然だ」
ストライクの修理が完了し、四機もいた敵のガンダムも今はバスターを残すのみ
アークエンジェルが第八艦隊と合流するのはカナードにとっては当然のことだった。
そんなカナードが思うのは、その後の事だった。
(さて……どうするか)
人質交換のさいにアスランからやっと聞き出した情報だったが、これはカナードが既に知っていた情報であり、しかもカナードは一度、キラ・ヤマトが住んでいたとされる家を訪ねた事もあるのだ。

カナードは自分の生まれたコロニーに残された職員のデータの中からヤマトの姓に縁がある者がいるかを調べ上げ……
そしてアノ女の妹が嫁いだ先の姓がヤマトだということを突き止めたのだった。
急ぎ、月のコペルニクス市へ行ったのだが、ヤマト邸の様子は酷いものだった。
家の周囲の壁はいたる所に「バケモノ」だの「出て行け」だの中にはもっと凶悪で暴力じみた言葉が
所狭しと書き殴られており、ほとんど窓ガラスは割られていた。
家の中にいたっては、壁のあちこちに銃弾が打ち込まれており、そしてふき取った痕があるが床や壁の所々に赤黒いシミが付着しており、この家で起きた何かが起きたことを物語っていた。
しかし、そんな状況の中でカナードがキラ・ヤマトの生存を信じて疑わないのには訳がある。
服がないのだ。
カナードが何か手がかりになるような物がないか家捜しをした折、キラ・ヤマトの物と思われる衣類だけが
一つ残らず消えていたのだった。
(ブルーコスモスの連中が殺したんなら、服を持ち出す必要はない。
 生きてるどこかで必ず……)
カナードが願望が混じった推測をしていると、どこからか話し声が聞こえてくる。
「いいじゃん……ちょっとぐらい」
「まずいって……」
「大丈夫だ!ちょっとくらいならバレないって」
その話し声は、どうやらメビウスの方から聞こえてくるようだった。
「あいつらまた……」
マードックは一目散にメビウスの方に走って行きメビウスのコックピットにいる三人を怒鳴る。
「コラ!お前たち!!また遊んでやがるな。
 コイツはゲームじゃないって何度言えばわかるんだ!!」
「げっ!!」
「ご、ごめんなさい」
「あ~!!やられちゃったじゃないか!?」
メビウスのコックピットからトールとカズィそしてカガリが引きずり出される。

「おい。これはどういうことだ?」
事情が飲み込めないカナードがマードックに尋ねる。
「どうもこうも……コイツ等メビウスのシュミュレーターをゲーム機代わりにして遊んでやがったんだよ」
「ほう。まったくいい気なものだな」
カナードが戦闘を娯楽にしている自分を棚に上げて呆れるとカガリが反論する。
「遊んでたわけじゃない。いざって時に戦えるように練習してたんだ」
「まだ諦めてなかったのか、お前……」
以前に自分にMSの操縦を教えろと言ってきた事を思い出して呆れるカナード
「悪いか!MAくらいなら私だって……」
「必要ないだろ。もうすぐ艦隊と合流するんだからな」
アークエンジェルあと半日後には第八艦隊と合流できる所まで来ている。
いくらクルーゼ隊でも知将ハルバートンと恐れられる人物の率いる第八艦隊は簡単に手出しの出来る相手ではない。
「うるさいな!今度はアイツ等だって必死になってお前やアークエンジェルを墜としにくる。
 そういうモノなんだろ!?だったら……」
カガリはヴェサリウスでのアスランの話を聞き、ザフトにとってのアークエンジェルとガンダムの存在の持つ脅威を知り、彼女なりに考えての行動だった。
「必要ない。お前じゃお荷物なるのは目に見えてるからな」
「そこまで言うか」
「事実だろ。それにあんな奴等、俺一人でも倒せれる」
「けど……万が一の時はどうする!?
 その時に私が守らないと」
カガリは皆の命を失うことを恐れたから出た言葉だったが、
カナードにとっては自分の実力を認めていないからの言葉に聞こえた。
「フン!口先だけでは何とでも言えるな」
「口先だけじゃない!私のこの思いは……」
「気持ちだけで何が守れる」
「それは……」
言葉に詰まるカガリにさらに追い討ちをかけるカナード
「フン!大層な言葉を掲げて強がるが、そのクセ何一つ守れない。
 同じだなお前は、この艦にいる連中を守れなかったオーブって国と」
カガリの平手がカナードに飛ぶが、カナードはそれを難なく受け止めると
凄まじい握力で万力のごとく締め上げる。
カガリは苦痛に顔を歪ませ、なんとか手を振りほどこうとする。
「放せ!もうお前みたいな薄情者に頼らないからなバーカ」
手を振りほどき、捨てゼリフを吐きながらカガリは脱兎の如く走り去った。

「どうしたんだ?アイツ」
その直後に格納庫に警報が響き渡る。
カナードの行動は速かった。一目散にストライクに向かいながらマードックに指示を出す。
「おっさん!装備はランチャーだ。ついでにシールドとライフルも」
「よし来た。カズィ機体を出すぞ!そっちの坊主はブリッチに戻れ!」
「「は、はい!!」」
マードックの指示を聞きながら背筋を伸ばす二人
カナードは再びOSを立ち上げ、ブリッチと連絡をとる
「敵の数は?」
「速っ!前方にナスカ級が一、後方にがローラシア級が一よ」
「挟み撃ちか、面白い」
カナードが唇を歪めるとサイの報告が割り込む
「ローラシア級からMSが発進!データ照合……GATX-103バスターです」
「ならバスターから先に潰す!」
はやるカナードをナタルが戒める。
「待て!ナスカ級の出方が分からん」
「もたもたしてると両方の敵を相手にする事になる。だったら片方を速攻で沈めて、その後に残りを叩く!」
「軽率すぎる」
不毛な言い争いに発展しそうな二人を止めたのはマリューだった。
「……ストライク発進を許可します」
「艦長!」
「ジン程度ならアークエンジェルの装甲ならどうってことないわ。今、最も脅威となるGATーXシリーズのバスターだけ、だったら今、叩くべきよ」
マリューがそう命令したのは、へリオポリスから続く追いかけっこから早く逃れたいという焦りもあった。
「しかし、Xナンバーは他にも……」
「いいから出しなさい。命令です」
マリューは苛立った、何故ナタルは他のXナンバーの事など気にするのだろう。
他の機体は全てストライクが倒したではないか。
予備パーツもないのに修理など出来るわけがない、彼女にはそんな事もわからないのかと……
ナタルは所詮、現場の苦労を知らないエリートなのだのマリューは思った。
「わかりました……」
根っからの軍人であるナタルは命令には逆らえず渋々従う。
「ストライク発進どうぞ」
「カナード・パルス、ストライクガンダム出るぞ!!」

「作戦通りだな」
ストライクがバスターに向かっていくことを確認したクルーゼは、シグーをカタパルトに移動させる。
(ムウのヤツが出てくるだろうが、問題ない。今日こそ引導を渡してくれる)
クルーゼもまた過去と決別の為にムウを討つことを誓っていると、アデスから通信が入る。
「隊長!バスターがストライクと交戦状態に入りました」
「よろしい。イザーク、こちらも出撃するぞ。
 この作戦の目的はアークエンジェルの拿捕だ。その事を忘れるなよ」
「はっ!」
「ラウ・ル・クルーゼ、シグー発進する」
シグーがリニアカタパルトで発進すると、デュエルもそれに続きカタパルトに移動する。
(たしか……ガンダムだったな)
イザークはアスランの口にしたGAT-Xシリーズの愛唱を思い出しながら目を瞑る。
長らく待ちわびた瞬間がすぐそこまで来ている。
(ストライクガンダム、そしてカナード・パルス
 今こそ、このアサルトシュラウドが屈辱を晴らす)
目を見開きイザークは宣言する。
「イザーク・ジュール、デュエルガンダムアサルトシュラウド出撃する!!」
これがザフト内で最初に記録されたガンダムの出撃だった。