Char-Seed_1_第04話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:26:58

シグーの後に続いて、橙色のMA――メビウス・ゼロが
ヘリオポリスの隔壁に開いた孔から姿を現した。
代名詞であるガンバレルは既に1基も無く、
満身創痍の状態がシャアの目に飛込んだ。

「(友軍か……?)

MAのパイロット!アークエンジェルに着艦しろ!」
『悪いねぇ!援護を頼む!』
「了解した」

噴射剤の目減りに構わず、シャアはシグーに接近しつつライフルを連射し、
シグーがその間隙を縫っている間にメビウス・ゼロはアークエンジェルへと吸い込まれて行った。

「よし……行ったな」

メビウス・ゼロを見送ったシャアは微笑を浮かべていた。
――憂いが無くなれば、心おき無く戦えるのだから。

「見せて貰おうか。ザフト軍のMSの、
性能とやらを!」

ライフルに備え付けられたグレネードランチャーを放つデュエル。
『温いな』

対艦兵器として製造されたためか、弾速はお世辞にも鋭いものではない。

当然、シグーは難無く上昇して回避し、グレネードの発射地点をモノアイで見据えた。

『なんだと!』

――そこには空虚が広がるばかりだった――
そして呼吸を押し潰すかのようなプレッシャーがシグーのパイロットを襲った。

「戦いとは、常に2手、3手先を予測して行うものだ!」
『ぬぅぅ!』

上昇したはずのシグーより更に上空で狙いを付けている赤い機体。
そこから放たれる閃光をいなしきれずにシグーは右腕を失い、
パイロットの脳裏には『死』という文字がちらついた。

『舐めるなよぉぉ!』

恐怖を押し殺すかのように咆哮し、
そして左腕部シールドに仕込まれたマシンガンの銃身が
焼け付かんばかりに唸りを上げた。

「やるっ!」

デュエルはシールドを構え、衝撃に耐えるかのように身を縮めた。

『これほどまでに動いているとは……!』

何を思ったのか、シグーはそのままデュエルに牽制を続けながら
踵を返して漆黒の宇宙へと去っていった。
シャアはその姿をメインカメラで確認したが、深追いは無用と判断したのか、
追撃を試みることは無かった。

「流石は隊長といったところか」

弾丸で傷付いたシールドを背部にマウントし、シャアは母艦へと足を進めた。
シールドを使ったのはいつ以来であっただろうかとシャアは記憶を辿ったが、
なかなか思い出すことは出来なかった。

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「はぁっ……はぁっ!」

シグーのコックピットから降りると、ラウ・ル・クルーゼは肩で息をしながら
地べたに這いつくばり、体を小刻に震わせた。
このような醜態をクルーに晒したのは初めてだった。
そしてクルーたちは、威風堂々とした普段の佇まいから
想像出来ないような隊長の姿に動揺を隠せないでいた。

「隊長!」

奪取した機体――イージスのデータ採取に勤しんでいたアスラン・ザラは、
不安げな表情でラウに近付いた。
既に一人の隊員が戦場に散り、そして今、
エースと呼ばれた男が恐怖におののいている。
――鬼や悪霊の類でも存在するのだろうかと、アスランの頭に突拍子もないことが浮かんだ。

「……赤い彗星だ」
「は?」
「まるで、赤い彗星だ……!」

――ザフトにも轟く仇名。
しかし、それは伝説のようなものであり、その真意を知るものはいない――

アスランはそんな信憑性の無い喩えを発するラウから、
先ほどの突拍子もない考えが近からず遠からずであったのだろうかと思いつつも、
いまひとつリアリティに欠けるとも感じた。
しかし、これからその疑念が悪い方向に結論付けられるのに、
そう時間がかからないことをアスランは知る由もなかった。