「パパ~、はいこれ!」
ザフィーラとの訓練を丁度終えたシンの許になのはとヴィヴィオが訪れた。
ヴィヴィオがお世辞にも綺麗とは言い難いが、ラッピング―――恐らくは彼女自身がしたのであろう―――された小さな箱をシンに差し出した。
「これは?」
「シン君、今日は2月の何日でしょう?」
受け取りながらも疑問を口にするシンになのはが問いかけのようにして答えた。
「えっと、14日だから・・・ああ、ヴァレンタインか。」
合点が言った様に頷くシンのヴィヴィオが掴み、満面の笑みを向けた。
「そう! ばれんたいんだよ、パパ!
ママと一緒にチョコ作ったんだ~。」
「え、これ手作りなのか!?」
「そうだよ~、喫茶店の娘を舐めてもらっちゃこまるよ。」
驚くシンになのはが腕をまくる仕草をして応える。
そしてシンの横に近づくと耳元で囁く。
「私個人で作ったのもあるけど、それは後で、ね?」
「・・・」
それに顔を真っ赤にして、何も言えずに居たシンは不思議そうにこっちを見上げてるヴィヴィオに気づいた。
照れ隠しの意味も込めて、シンはヴィヴィオと目線を合わせるために屈みこみ、その小さい頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ありがとなー、ヴィヴィオ。」
「えへへ~。」
気持ちがいいのか目を細めながらヴィヴィオはしばらくじっとしていたが、ふと思い出したように身を翻した。
ヴィヴィオの目線の先には、先ほどから居心地悪そうにしていたザフィーラがいた。
「わんわんにもあげるね、はい!」
そう言って差し出された包みをザフィーラは戸惑うように見る。
まさか自分に矛先が向くとは思ってなかったのだろう、視線が落ち着かずに助けを求めるようにシンやなのはを見るが、
「ヴィヴィオー、わんわんはそれ開けれないから食べさせてあげないと。」
ザフィーラの期待を打ち砕くようにしてなのはが言った。
それを受けていそいそと包み紙を取り始めるヴィヴィオ。
「・・・むぅ。」
「面白くない? シン君も親ばかだよね。」
唸るシンをなのはが面白そうに見る。
反論しようとして出来ないでいるのは図星だからじゃないと思う。思いたい。
とりあえず何が何でも次の訓練でザフィーラをぼこる、シンは硬く決意した。
「はい、あーん!」
「む・・・」
ヴィヴィオが差し出す一口大のチョコレートをしばらく見詰めていたが、やがて根負けしたかのように、ザフィーラがその大きな口を開いた。
その微笑ましい様な光景を見ながらシンはふと思った。
(あれ・・・確かチョコって犬には猛毒・・・いや、でもザフィーラは犬じゃないって言ってるし・・・)
しかし租借してチョコを飲み込んだ瞬間、ザフィーラの肩が震えたのをシンは見逃さなかった。
「はい、もう1個ー。おいしい、わんわん?」
無邪気さは時に残酷さに変わる。
ヴィヴィオが更に取り出したチョコをザフィーラは心なしかプルプル震えながら口にした。
(な、ザフィーラ!?)
視線で無茶だ、と問うシンにザフィーラは同じように視線で返答した。
(男には・・・やらなければいけない時がある!!)
シンは熱くなる目頭をぐっと押さえた。
しかし、食べるたびに次々と差し出されるチョコの嵐は遂にはザフィーラの決意をも砕いた。
白目を浮かべ、しかし本望だと言わんばかりの笑みを浮かべながら崩れ落ちたザフィーラの姿を見たシンは後に語る
俺はあの時、真の男、いや漢を見た・・・と。
とりあえず不思議そうに小首を傾げているヴィヴィオはなのはに任せるとして、まず手始めにシャマルを呼ぶことから始めよう。
シンはそう思い溜息をついた。