D.StrikeS_プロローグ

Last-modified: 2009-06-08 (月) 18:01:50

 C.E73年 メサイアが存在する宙域。

 今ここでこの世界全てを巻き込んだ二度目の戦争が、終結を迎えようとしていた。

「おおおおおおお!!
 アスラン!アンタって人はあああああ!!!」
「シン、もうやめるんだこんな戦いは!!
 本当にこれがお前の望んだことなのか!?」
 シンの駆るデスティニーとアスランの乗る∞ジャスティスが、激突を繰り返す。

「うるさい!
 俺達を裏切ったアンタに何がわかる!!」
「俺はお前達を裏切っちゃいない!」
「っっ!
 ふ、ふざけるなああああああああ!!」
 デスティニーがその肩に装着されている、フラッシュエッジ2を∞ジャスティスに向けて投擲する。

「くっ、やるしかないのか……!」
 ∞ジャスティスは向かってくるブーメランを、ビームサーベルで弾いた。
「もうひとつ!!」
 更にもう一つのフラッシュエッジを投げつけ、それが∞ジャスティスに届く寸前に手に持ったビームライフルでそれを打ち抜く。

 間近で起こった爆発が∞ジャスティスのセンサーを一時的に麻痺させる。
「なにっ!?
 くそっ、センサーがやられただと!?」

 その爆炎を割いてデスティニーの高出力ビーム砲が∞ジャスティスに向かっていく。

「ちぃぃ!この程度!!」
 赤光を放ちながら迫るビームを、アスランは勘だけで腕のビームシールドを用いて防ぐ。
 ビーム砲とシールドの干渉によるスパークが、一瞬アスランの目を奪う。

 その一瞬が勝負の明暗を分けた。

「まだだ!!
 俺は!今この瞬間!アスラン、アンタを超える!!!!!」
 背部の翼をはためかせ、最大出力で一気に∞ジャスティスに詰め寄るデスティニー。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 その勢いで∞ジャスティスの頭部を掴み、パルマフィオキーナを放つ。

「なんだ!?メインカメラが死んだ!?」
 外の状況がわからずうろたえるアスラン。

(よし、押してるぞ!
 このまま一気に……決めてやる!)

『…シ…こえ…か…?シン……シン!!
 聞こえてますか!?シン!!
 聞こえてるなら、今すぐミネルバに戻ってきてください!』

 いきなり外部から、ミネルバからの通信が入る。

「あ、アビー!?
 どうしたんだ、一体!」

 通信士のアビーのただならぬ口調に、シンの頭に嫌な予感がよぎる。

『ミネルバは只今敵MSの攻撃を受けています!
 至急救援を!』

 突然の報告にシンは目を剥く。

「攻撃って……ルナはどうしたんだよ!?」

『インパルスは既に敵MSによって大破しました!!
 援護をお願いします!』

「ルナが!?
 くそっ、シン・アスカ了解! すぐにそっちに戻る!」

「……シン、ミネルバが……どうかしたのか?」

 シンとミネルバの通信を聞いていたアスランが尋ねてくる。

「アンタには関係ないでしょう!?
 ふん、俺はミネルバに戻りますよ。とどめはささないでおきますから、オーブのお姫さんとかにでも拾ってもらってください。」

「……すまない。」

「…………」

 アスランの礼には応えず、シンはデスティニーを反転させミネルバへと向かう。

 ふとシンは自分がほっとしていることに気づく。
(ああ、そうか……俺は今安堵しているのか……
 もう一度あの人を討たずにすんで……)

 すこし目が涙で滲んだが、今は感傷に浸ってる場合でないことを思い出す。

「ミネルバ……無事で居てくれよ!!」

 デスティニーの速度を上げ、ミネルバへと向かう。

ドムのギガランチャーがミネルバの側面を捉える。 

「左舷被弾!!
 副長!トリスタン、イゾルテともに既に沈黙、ほとんどの兵装が使い物になりません!」
 
 ミネルバのブリッジに悲痛な報告が響き渡る。
 これでミネルバは、その戦闘能力のほとんどを奪われる結果となった。

「くそっ、もう打つ手はないのか、打つ手は!」
 ミネルバの副長……アーサー・トラインは頭を抱えた。
(艦長さえいてくれれば……っ)
 現在ミネルバの艦長であるタリアはメサイアに召喚されており、この大事に副長のアーサーが指揮をとることになっていた。
 
「副長!シンとの連絡がとれました、こちらに向かっています!!
 おおよそ10分後にこちらに着くと思われます。」
 アビーの声にブリッジに活気が戻る。
 ザフトのエースであるシンが戻っきてくれるのだ、これでもう大丈夫とクルー達は安堵の声をあげる。

 しかし、その中でアーサーは冷静であった。
 今のままではミネルバは五分と持たない……それが現実だった。
 そして、この状況で艦を任された自分がどうすればいいのかも、理解していた。
 
「副長、ご命令を!
 シンが来てくれるまでなんとか持ちこたえましょう!」

 ブリッジクルーが期待をこめたまなざしを向けてくる。
 アーサーはすこし憂鬱な気分になった、自分はいまからこの期待を裏切るのだから。

「……そうだな、艦内全域と……あとシンに通信を繋いでくれ。
 それと君達は格納庫に行って脱出の準備を、さぁ早く!」
 
「副長!?
 まさかミネルバを捨てるおつもりですか!?」
 
「まだ、私達はやれますよ!シンが来るまで持ちこたえましょう!」
 
 クルー達の視線が、言葉が突き刺さる。

「いいから、早く行くんだ!!
 時間は早ければ早いほどいい!
 急げ!!」

 それらの全てを一喝で黙らせる。
 それだけの迫力が今のアーサーにはあった。それはまさに決死の覚悟をした男の姿であった。

「っっ!了解しました!!
 アーサー艦長の御武運をお祈りします!」

 CICの担当クルーがそう言いブリッジから出て行ったのを皮切りに、次々にクルーがブリッジから出て行く。

 アーサーは通信が繋がっているのを確認すると、おもむろにしゃべりだした。

「……あー、きこえているかな?ミネルバの皆とシン。
 副長のアーサー・トラインだ。
 まず全クルーに通達、現時点で全ての作業を中断、格納庫にて集合。
 点呼が済み次第救命艇にのって、ミネルバから退艦するように。
 ああ、私のことは気にせずに、そろった時点ですぐに発艦だ。
 それからシン、君はミネルバじゃなくてメサイアに向かいなさい。」
 
『ふざけないでください!
 今すぐ戻りますから待っててください!』

 そこまで言った時点で、シンが反論する。
 色々と問題を起こしたが、根は優しい子だ……自分達を見捨てろ、といったような命令を素直に聞くとは、アーサーは思っていなかった。
 
「シン……ありがとう。
 でももうミネルバはもたない。
 だから君は議長を守るんだ……」

『ふざけるな!
 アンタ死ぬ気じゃないだろうな!?
 そんなことゆるさ「いいから聞け!!!」っ!?』

「シン、君はZAFTのトップエースなんだろう!?
 フェイスなんだろう!?
 なら、議長を! プラントを守るんだ!!
 私達はそのために今ここにいる! 違うか!?」

 一瞬の沈黙。

『……了解、しました』
 搾り出すような声でシンが答える。

「そうだ、それでいい……
 シン、君に一つだけお願いがあるんだ。」
『……なんですか?』

 ミネルバから救命艇が飛び立つ。
 恐らくオーブ軍は逃げ出した相手の命まではとらないだろう、とアーサーは思う。
 
「生きてくれ。」

『それは、命令ですか?』

「いいや、言ったろう?お願いさ。
 君とはあんまり話す機会が無かったけど、最後の願いくらい聞いてくれてもいいだろう?」

 返事は無かった。
 もしかしたら泣いているのかもしれない、本当にやさしい少年だったから。
  
「さて、ここらでお別れかな……」
 通信を切り、アーサーは独りごちる。
 先ほどからそう遠くないところから爆発音が聞こえてきている。
 一番堅牢に作られているが、ブリッジに被害が及ぶのも時間の問題だろう。

 ふと思い出したように、アーサーがつぶやく。
「ああ、そうだ……艦長、約束守れそうに、ないです……
 すみません……」

 その言葉と同時に爆炎がブリッジを包み、アーサーを覆いつくした。

「ミネルバ!?ミネルバ!?応答してくれ!!
 副長!アビー!ルナ!」
 シンはデスティニーの中で、反応の無くなった通信機に対しひた叫んだ。
 ちくしょおおおおおおおおおおお!!!」

 慟哭、そうとしかいえない叫びがコックピットの中をこだまする。
 
「なんで、なんであいつらは!!いつも俺の大切なものを奪う!?」
 シンは涙を吹くこともせずに、デスティニーをメサイアへと向け、その赤い翼をはためかせる。

 

「……これは、レジェンド?」 

 メサイア付近までたどり着いたシンの目に、大破したレジェンドが映る。
「まさか……そんな……レイっ!!?」
 通信機の周波数を合わせ、レジェンドに呼びかけるシン。

「その声は……シン、か?
 アスランは、どうした?」
 レイの声が通信機を伝ってシンに届く。
「勝ったよ!!
 それよりも、レイ!無事なのか!?」

「そうか……お前はあいつを、アスランを超えたんだな……
 俺はもう駄目だ。脱出装置は作動しないし、先ほどからジェネレータが異常な熱量を放っている。
 あと数分ももたないだろう。」

「そんな!
 今助けるからな、まってろよ!」

「来るな!!」

デスティニーをレジェンドへと向けて動かそうとしたシンをレイがとめる。

「いいんだ……もう。
 結局、俺はキラ・ヤマトを倒せなかった。
 くく……所詮俺ではスーパーコーディネイターを倒すことなど、出来なかったというわけだ。」

 自嘲じみた声でつぶやく。

「……レイ。」

「なあ、シン?
 俺は何なんだろうな?
 望みもしないのにクローンとして生まれ、寿命も短い。
 ならせめてギルの為に、とキラ・ヤマトを落とそうとしてこの様だ……
 俺は……一体なんだったんだろう……?」
「レイはレイだろう!?
 クローンとか、スーパーコーディネイターとか、そんなの関係ない!
 お前は無愛想で、なに考えてるのかよくわからなくて、でもなんだかんだ言って助けてくれて、議長のことが大好きで……!

 そんな俺の友達じゃないか!!!」
 シンの悲痛な叫びが響き渡る。

「……と…も…だち?」

 呆然と、つぶやくレイ。
 自分がシンを利用していたことは、シンだって薄々気づいているはずだった。
 そのシンが……自分に……?

「だってそうだろ!?
 レイは俺の友達だ!
 俺達は親友だ、そうじゃないのかよ!?」
「……は……は、はは……そうか、そうだったな、俺はシンの友達だった。」

「そうだよ!
 だから自分はなんなのかなんて……そんな悲しいこと言うなよ!」

 レイはなにか憑き物が落ちたような感じがしていた。
 先ほどキラに『君は君だ!』と言われたときは、受け入れることができなかったのに、 シンに言われればこうもすんなりと受け入れることが出来る。

 それが……幸せなことだと思えた。

(俺は、俺だ……ラウじゃない。
 はは、そうか、そうだよな……)
「シン……なら友達としてのお願いだ。」
 
「なんだよ。」

 一度息を吐いて呼吸を整える。

「俺は、ここまでだ……
 だから俺の分も、生きてくれ。
 俺の明日を……お前が生きるんだ。」
「レイ!!」
「いいんだ、どうせ俺は長くは生きることが出来ない。
 ならこうして最後にお前と話しながら死ねる、それは俺にとって幸福なことなんだと思う。」

 レジェンドのコックピット周りから火の手が上っていく。
 
「レイ、待ってろ!!
 今助けるから!!」
 
(ギル……先に行ってラウと二人で待っています。)
 
 至るところから小さな爆発が起きるレジェンド。
 
「じゃあな、シン。
 俺はお前に会えてよかった……
 願わくば、これからのお前がしあわ……」
 
 爆散するレジェンド。

「嘘だろ…レイ……?
 おい、レイ!?
 レイ、レイ…れいいいいいいいいいいいぃぃぃ!!!!!!」

「俺は……俺は、また守れなかった……マユ、ステラ、レイ……!」

 レジェンドが爆発するとほぼ同時に、デスティニーの背後でメサイアが崩れていく。

「あ、あ……メサイアが……」

 メサイアには議長がいた。
 それが崩壊するということは、議長ももう、助からないだろう。

 その時崩壊していくメサイアから、一筋の光が飛び出していくのをシンは目撃する。 
「あれは……フリーダム?
 あいつが、あいつがやったのか!?」

 ストライクフリーダム、前大戦の英雄キラ・ヤマトが駆ったフリーダムの後継機。
 圧倒的な火力と機動力が特徴の新型MSである。

 すぐさま腰の高出力ビーム砲を構え、狙いをつけフリーダムに向かって放つ。

 しかし、フリーダムは持ち前の機動力を生かしそれを回避する。

「なに、今の砲撃は!?」
 突然の不意打ちにフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトは敵を探る。
「あれは……デスティニー!?
 くそ、戦争はもう終わったって言うのに!」

 シンは外れたのを確認するやいなや、近接戦闘ではデッドウェイトでしかないビーム砲をパージさせる。
 そして、無理な機動を行い体勢を崩したフリーダムに突っ込んでいく。
「うああああああああああああああ!!」
 怒りに任せて背中にマウントしていた対艦刀、アロンダイトを叩きつけるようにシンは振るう。

「もうやめるんだ!
 僕達が戦っても意味が無い!
 戦争はもう終わったんだ!!」
 
 キラはシンに向かって、戦闘をやめるように呼びかける。
 しかしキラの叫びは、シンには響かない。 

「……お前が、お前が父さんや母さん、マユを、レイを殺した!!
 ステラも……ハイネだってそうだ!
 お前だけは、お前だけは俺があああああ!!!」
 
 叫び、さらにアロンダイトを振り回すシン。
 しかし、怒りで散漫になった動きで勝てるほど、キラは弱くなかった。

「くそ!聞き分けの無い!!」
 ストライクフリーダムがサーベルを持ち、アロンダイトを側面部から叩き折る。

「くぅっ!まだ武器はある!」

 今度はパルマフィオキーナを放とうとする。
 しかし、その武器の存在を知っていたキラは、それが放たれる前に距離をとった。
 そのままビームライフルによる狙撃で、デスティニーの両腕を吹き飛ばす。

武装の殆んどを失ったシンは、それでもただ一つ残された頭部のCIWSをばら撒きながら突撃していく。

「いい加減しつこい!」

 何度打ちのめしても止まらないシンの攻撃に、痺れを切らしたキラはこの大戦中、守り通した不殺の信念を忘れてしまう。
「これなら、どうだ!!」
 がむしゃらに突っ込んでくるデスティニーのコックピットに向けて、腹部に設けられたカリドゥスを発射する。

「……あ」

 シンは理解した、これはよけられないということに。

 視界から色が消え失せ、何も聞こえなくなる、ただただ引き伸ばされていく時間。

 死に直面した、通常の何倍もの長さの時間の中シンは叫ぶ。

「俺はこんなところで死ねないんだ!
 約束したんだ!!」

 生きる―――と。
 

「それを俺は果たさなくちゃいけない!!
 
 だから……俺は……俺は!!」

 シンは自分の中で何かが弾けるのを感じた。

 同時にコックピット内を、シンが見たことも無いような幾何学的な模様が埋め尽くす。

 そしてカリドゥスが、デスティニーのコックピットを直撃した瞬間……

 
 シン・アスカは、この世界から姿を消した。