魔法少女リリカルなのはD.StrikerS
第23話「はじまりのおわり、おわりのはじまりなの 中編」
風が髪を靡かせる。
「嫌な風だ。」
まだ秋口になったばかりで、生暖かく不快さすら感じさせるそれを肌で感じながらごちる。そういえば、あの日アスランとミネルバのデッキで話した時もこんな風が吹いていた事を思い出し、らしくなく足を止めたハイネは舌を打った。
「ちっ。くそ、思い出しちまった。」
別に嫌な思い出というわけではない。が、どうしてもそれからのアスランの行動を聞いた今では苦いものを感じてしまう。アスランも悩んでの行動なのだろうとは、ハイネでもわかる。真面目な青年であった。真面目過ぎるからシンが伝えてくれた様な行動を取ったのだろうか。判らない。ただ、あの青年を導いてやるのは自分の責務だったのではないかと感じてしまう。
「……らしくねェか。よし、とりあえず再会したらぶん殴って、んで殴られてそれで良しって事にするかね。互いに生きてるんだ。会える日も来るだろ。」
もう一度よしと誰とでもなく呟き、ハイネは頭の中身を切り替えた。こういう事がさっと出来る辺りが彼の優秀たる所以である。
ハイネ達を乗せたヘリがこの場について既に数時間が過ぎていた。先ほどまでは他の面子を率いて、実際に自分たちが警護する場所を歩いて回っていた。それも終わった今は休憩の時間である。それぞれが体を休めたり、また他の隊員と自主的な打ち合わせを行っている横で、彼は一人歩いていた。
「どうした?」
「うおおっ……っと、レジアスの御大? 驚かさないでくださいよ。」
「貴様が着いたと聞いたのでな。少し抜けてきた。」
ぬっと唐突に現れた巨漢に面食らいながらも、直ぐに気を取り直す。
「中将ってそんな簡単に動き回れる立場じゃないでしょう。」
むすっとした鉄面皮を崩さずに言い放った言葉は、彼の立場を考えるとそんなに簡単に言える言葉ではないと、ハイネは十二分に理解していた。デュランダルといいこのレジアスといい、自分の知る権力者は妙にフットワークが軽い、とは口にはしない。
「この程度問題ない。準備は既に整っている。」
「そうですか。ま、今回の会議の内容はアイン……あれの発表でしたか。」
「そうだな。あれだけではその機能を十分に発揮できるわけではないが、他はまだ早い。」
何が、とはハイネが聞く事は無かった。周りに何かの気配があるわけではないが、それでも誰が聞き耳を立てているかわからない。それこそ自身が、出立の直前にシンの会話を拾ったような魔法だってあるのだ。それを考えるとここでの接触はやはり迂闊でしかないのだが、しかしそれ位目の前の男も理解しているだろう。その上で接触してきたのだから……
「それで、ハイネ。貴様はどう思う?」
「どう、とは?」
「質問に質問で返すな、などと下らない事を言う気は無いが、理解はしているのだろう?」
「……今回の会議に襲撃はあるかってとこですか。」
悠然と、男は頷いた。
「実際、どう考えている。確かにこれは彼奴にとって都合のいいイベントではある。」
「……は。中将閣下のお考えの通りだと自分も考えております。実際に機動六課もそう考え……」
「おべっかは必要ない。貴様の考えを聞いている。それと貴様の堅苦しい敬語は聞いていて気持ちが悪い。」
「……失礼。実際の所何とも言えないってのが本音ですかね。」
何故、この世界における自分にとっての上官達は敬語を嫌うのだろうか、とはやはり口にせず、ハイネは肩を竦める。
/
「どういう事だ。」
「どういうも何も、ジェイル・スカリエッティのこれまでの行動を考えれば、この陳述会を狙う理由は無いでしょう。ですが、同時にあの愉快な男がこれを狙わない、とも考えられない。それに貴方の方が俺よりもその辺りは理解していると思いますが。」
「さて……な。もうわからんよ。ふむ……」
今まであの男の戦力とぶつかってきたのはレリックが絡んだ時ばかりでしたから、とハイネは付け加えて、相手の顔色を伺う。レジアスは腕を組み瞑目したかと思うと、慣れた手つきで懐から何かを取り出した。白く長いそれを口に銜えると、火を点ける。
「吸うんですか?」
「普段は吸わん。オーリスが煩くてな。吸うか?」
「じゃあ一本。俺も普段は連れが嫌うもんで。」
差し出された箱から伸びたそれを、レジアスと同様に口に銜える。その先を人差し指と親指で挟み、こする。瞬間、バチと小さな音と共に煙草の先端に火が点った。発生した煙を吸い、味わう。
「便利なものだな。」
「魔力変換資質、雷なんですけどそれの応用ですかね。これをする為に威力の調整は完璧ですよ。」
「技術の無駄遣いにも程があるとは思わんか?」
「別に、こんなもんでしょう。魔法なんてのは。それにしても流石中将。いいのを吸ってますね。」
魔法という技術は、結局ハイネにとってはその程度のものである。煙草に火を点けるライターの代わり。人を傷つける銃器の代わり。戦争をする、MSの代わり。
口の中に溜まった煙を吐き出す。
「だが必要な物だ。」
「ま、そうですね。この世界じゃ拳銃を持つ事すら煩雑な手続きが必要らしいですし。」
「……襲撃があったとして、それを止められるか?」
「本音を言わせてもらえば、起こってしまった時点で陳述会は終わりでしょうね。何せ相手は進入経路を問わないのまでいる。」
一度取り逃がしてしまった、地面に潜ることが出来る少女を脳裏に浮かべながらハイネは言う。普通の進入経路とは違う。壁、地面、その他制約をゼロにするその方法による進入を防ぐのは難しいと考えられる。更に言えばあの能力の対象は使用者だけではないらしい。そんなものをどう防げというのか。そして一度内側に入られてしまえば、いかに強固な守りを持つこの場であれど、それは磐石とは言えなくなる。
「それをどうにかするのが貴様達の仕事だろうが。」
「もちろん自分をはじめ六課全員、また他の警護に当たっている部隊、最善は尽くしますが。」
「最悪でも、貴賓達が逃げるだけの時間は稼げ。こればかりは絶対だ。」
絶対、という事は命を賭してでもという事なのだろう。確かに様々な管理世界から重鎮が来るのだ。彼らに何かの事があれば管理局の面目丸つぶれ、どころの話ではないだろう。下手しなくても外交問題。下手をすれば戦争にまで発展しかねない。
ハイネとしては、当然それも仕事のうちと考えてはいたが、少し考える振りをして、手を出す。
「なんだ。」
「少々口がさみしいもので。」
「まったく……全部持っていけ。」
投げ出されたまだ中身がたっぷりと残った小箱をハイネはしかと受け取った。そして踵を鳴らし、居住まいを正す。背筋を伸ばして敬礼を行った。ただし煙草はそのままで。
「では、ハイネ・ヴェステンフルス三等陸尉。公開陳述会警護の任に戻ります。」
「期待している。」
そうとだけ言い残して去って行く後姿を見送りつつ、ハイネは懐から携帯灰皿を取り出した。買うだけ買って結局使う事の無かったため、新品同様のそれに手に取った煙草を押し付ける。まるで最後の力を振りしぼり吐き出されたような紫煙が、空へと昇る。それをみやりつつ、どうしたのものかと声にならない声でつぶやく。
襲撃もそうだが、どうにも違和感を感じずにはいれなかった。先ほどレジアスに言った内容は嘘偽りないハイネの考えである。この陳述会が狙われるものと当然の様に彼は考えていた。それははやて達、機動六課の隊長陣もそうであったし、彼女から聞くに更にその上に立つ教会や海の方も同様らしい。
/
「まあ、順当だよなあ。」
呟く。誰だってそう考える。自分だってそうなのだ。まだ片手に持っていた小箱からもう一本煙草取り出して、先ほどと同様に口に銜え火を起こす。口内で紫煙を転がし、肺まで行き渡る前に吐き出す。白い煙が固まりとして、また空へと昇る。
「……順当だからこそ、か。」
違和感が消えない。例えば、自分ならどうするだろうか。そもそも相手方の最終目標が見えていない現状で、その仮定に意味があるのだろうかと何度目かになる自問を行う。
実際、今のところジェイル・スカリエッティ率いる戦力とぶつかるのは、常にレリックが関連している時だけなのだ。それを集めて何をあの男が何を行おうとしているか。そもそもレリックを集める理由すら判然としていない。
「全部集めると竜が出てきて願いを叶えてー、ってか?」
あれも古代の遺物なのだから、そんな幻想的な用途があってもおかしくないかもしれない、などと冗談交じりに口にする。実際の用途は不明であり、判っているのは高純度の魔力結晶体であるということ。ついでに取り扱いは要注意。2,3もあればプラント位は吹っ飛ぶんじゃねえか、と思わずハイネは零した。そんな代物をあの男は集めている。
結局の所、誰もあの狂気の研究者が何をしようとしているのか把握出来ていないのだ。
もう一度舌打ちをし、まだほとんど残っている煙草を、取り出した灰皿に押し付ける。
「ああ、そういや。」
己の部下を父と慕う少女はどうなのだろうか、と考えて首を振る。あの少女を保護した事件で、彼女はその命を危機に晒されているのだ。関連性を疑う余地はある。シンの奮闘があり、まだ生き長らえてはいるものの、これでは彼女が敵にとって価値があるものかと言われれば首を傾げる他なかった。あれほどのエネルギーを持った、物理的な砲撃なのだ。直撃すれば六課が保有するヘリなどひとたまりも無いだろうし、当然中にいた面々の命についてもいうまでもないことであった。つまりあちらはあの少女の命を気にも留めていない。それは六課全体の共通見解となっている。
だが……。
「もしも、あの子が……いやいやいや。」
自分の想像が余りに荒唐無稽過ぎて首を振る。あの少女は、出自こそ逸脱してはいるものの、彼女自身は何処にでもいそうな少女なのだ。だから。
――――あの少女が、あの日の砲撃に耐えうる何かを持っていたとすれば。
「ハイネ?」
「う、うおう!? な、なんだギンガか。」
「なんだじゃないですよ、どうしたんですか。顔色優れませんけど。」
回転していた思考は突然の訪問によって停止させられた。ハイネは自分でも馬鹿らしいと考えられるそれを、一旦頭の隅に捨てやる。
「いや、別に何でもないが。それよりそっちはどうしたんだ? あいつらはどうしてる?」
「そうですか? あっちは今アスカ君が全力で弄られてるけど。」
「……程ほどにしといてやれよ。あれで結構ナイーブな所あるからな、あいつは。」
この世界に来てからは大分マシになっているようだったが、それでも不安定な所はある部下を思い出し苦笑いを零す。そんなハイネにギンガは笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫だと思いますよ? 大分、吹っ切れてるようでしたし。」
「なら、いいんだけどよ。で、そういうギンガはどうしたんだ?」
「……べ、別に、その、話聞いてて、ちょっとなのはさんがうらやま……ってハイネ?」
「だから、なんなんだよ。」
急にもごもごとしだしたかと思えば、いきなりギンガはその表情をしかめた。眦は徐々に釣り上がり始め、体全体から剣呑な雰囲気が漂いだし、ハイネは面食らった。
/
「吸いましたか?」
「……なんの事かな。」
「いえ、ちょっと匂いが……失礼しますよ。」
「おい、ばか、やめっ。顔が近い、近いっての!」
ずいっと至近まで顔を近づけられ、首筋の辺りがこそばゆく感じた。そして同時に胸元辺りを探られる感触。それが終わると眼前に先ほど彼がレジアスから受け取った小箱を眼前に突きつけてくる。
「これ、なんですかね?」
「あ、あのいや、それはだな……ギンガ、さん?」
こちらを睨みつける瞳に、思わず口にしようとしていた言い訳が引っ込む。
「ハイネの持ってる分はこの前全部処分しましたし、買う暇なんて無かった筈なんですけど。」
「さっき、その……レジアスの御大からせしめて。」
「わあいなんか凄い人の名前でてきましたよー。とんでもない相手に何やってんですかあなたは。まったく、とりあえずこれは没収。」
「お、鬼かお前は……そんな高級品滅多に手に入らないってのに。」
肩を落とす。これでは骨折り損のくたびれもうけではないか、と声に出さず愚痴る。
「もう。何度吸わないでって言ったらわかるんですか貴方は。」
「そんな簡単に禁煙なんてできるか!」
「そこはほら頑張ってください。」
「さらっと言うねお前は!」
「お父さんもそうですけど、こんなのの何がいいんですかねー。体に悪いだけじゃないですか。」
肩を落としてギンガ。心底煙草を吸う人間の心情が理解できないらしい。
「ああ、そうだよ。ゲンヤさんには何も言ってないよな、お前。」
「残念ですがもう諦めてます。父さんに禁煙って言うと決まってトイレがヤニ臭くなるからもういっそ無理強いしないようにしようって。」
「……あの人も苦労してるんだなぁ。」
「とりあえず、これは私が預かっておきますので。」
言うとギンガは手に持った小箱を制服の胸ポケットへと収めた。
希望が、消えていく。
そう。それは確かに希望であった。
プラントという空間的に閉鎖された地に生まれたが故に、空気を汚すそれに手を出す事が許されなかった少年、青年時代。
ザフト時代もそうであった。基本的に宇宙勤務。自由に動けるようになったと思えばフェイスとしての面目やちょっとして見栄もあり、手にする事を忌避していた。
だが――――!
偶然だった。ハイネ・ヴェステンフルスがこの世界に来た事は。いや、もしかしたらそうではなかったのかもしれない。そう考えられるだけの状況証拠あったが、そんな事は関係なかった。
そこでついに彼は手に入れたのだ――――希望を。
「はぁ、たかが煙草一つでばかばかしいったら無いです。」
「人が黄昏てるのの邪魔するなよっ。」
「全部声に出てましたけど。」
「な、に……? ま、まあいい。」
咳払いを一つ。
「……誤魔化しましたね。」
「それで。どうしたんだよ?」
「いえ、別に。ただあなたの姿が見えなかったので……」
「寂しくなったか?」
「また馬鹿な事やってないか不安で不安で。」
にやりと浮かべた笑みはそのまま脱力へと変わった。そこまで自分は普段から馬鹿な事をしているだろうか。どちらかと言えば無茶をするの目の前の彼女の方なのだが……などと考えて、しかし口には出さず肩を竦める。
/
「何考えてたんです?」
「ん、ああ。ちょっと今回の任務の事をな。ま、不安だった戦力面の不調もなんとかなってるみたいだしなんとかなるだろ。」
嘘である。襲撃があれば何かしらの被害が出るであろう事は確実であった。ただそれを口にはしない。悲観しても仕方ないというのもあったし、もしかしたらそれは見栄であったかもしれない。
「……ハイネ。」
「なんだ?」
「あんまり無理、しないでくださいね?」
「……それはお前に言っときたいんだけどなあ。」
「わ、私の事はいいんですっ。大体、あなたの方が大概無茶苦茶なことしてるじゃないですか!」
言われ、ハイネは思わず首を傾げた。こちらに来て今日までの事をざっと思い出してみるが、ギンガが言うように無茶をしたという記憶は無い。出来る事を出来る様にやってきただけであった。
「いや、普通だろ。」
「普通の人は訓練校に入ってから1年とちょっとで尉官になれたりしませんっ。」
「そこはほら、巡り合わせだな。それに俺要領いいし。」
「さらっと言いましたけど、その発言は敵を作りますよ!?」
「まあまあ。そんな事言ったって仕方ないだろ。それよりほら、シンがどんな感じだったか報告しなさいって。」
「へ? なんでまた?」
がなっていたのが一転、きょとんとするギンガ。呆けているともいえる。
「そりゃ気になるだろ。あんな手のかかる後輩なかなかいねえよ。」
期待している分も大きいが、シン・アスカの現状が現状であった。気にしない方が嘘である。
「さっきも言いましたけど普通っていうか、いつも通りといいますか。ヴィヴィオちゃんと話して吹っ切れたんじゃないですか?」
「ふぅん。まあ、俺も同意見なんだけどな。」
「じゃあ、いいじゃないですか。どうしたんです?」
「大した事じゃねえよ……と思う。」
ギンガの言う事はわかる。ただどうしても嫌な予感がチリチリと首の裏辺りに残るのだ。言葉にし辛い、漠然とした感触。何か起こるのではないだろうかという想像。それがハイネの胸の内に溜まり溜まっている。
「それにしても。」
「ああ?」
「いえ、なのはさんがちょっと羨ましいなあって思いまして。あんなに愛されてたら女性冥利につきますよねぇ。」
「そういうものか? そもそもシン自身がそんな自覚ないだろ。」
「そういうものですよ。自覚が無くてもね、あんな風に誰かを守るなんて言えるのはそういうことですよ。」
それもそうか、とハイネは頷く。シンが高町なのはに対してそういった感情を抱いているのは周知の事実であった。知らぬは、というか己の感情に気づいていないのは本人だけというのも含めてである。ただ、ハイネはシンがそういうものに気づかない様にしているのではないか、と思う事が数度あった。それもそろそろ終わりなのだろうが……
ふと視線をギンガの方にやると何か意を決したような、そんな面持ちで一度深呼吸をして。
「あの、ハイネにはっ……」
「ん?」
「……や、やっぱりいいです。」
そして何か言おうとして、彼女は止めた。どんな事を言おうとしていたのかは、大体ではあるもののハイネにも理解する事が出来た。それは途中まで出かけていた彼女の言葉であったり、言いかけた事を後悔して俯いている姿を見れば自明の理である。
「さて、そろそろ戻るぞ。ほら、元気出せ。」
「別に元気なくなんかないですっ。」
「そうか? まあ、頼りにしてるんだからしっかりしてくれよ、相棒。」
すれ違いざまにギンガの肩を叩きハイネ。
/
「相棒、ですか……むぅ。」
背後から少し不満げな呟きがハイネの耳を打った。ある意味予想通りの反応に思わず苦笑が漏れそうになる。それをするとギンガが更に不機嫌になるであろう事は、考えるまでもなく予想できたので、我慢する。
「俺はさー。」
立ち止まり空を仰ぐ。赤、というよりは比較的橙に近い色に染まった空。
「嫌なんだよ。もう、仲間に置いてかれるのも、置いていっちまうのも。」
獅子奮迅の活躍をしたと評価され、賞賛されたヤキン・ドゥーエでの戦いでは沢山の仲間を失った。直前まで口喧嘩が絶えなかった奴や、それを宥めてくれていた奴、自分を信頼してくれていた上司、他にも沢山の仲間を失った。
ザフトの人間として最後に配属されたミネルバでは、自分が逆の事をしてしまった。導いてやるべき後輩達がいた。余りにも真面目すぎて迷っている同僚がいた。そんな奴らに囲まれて頭を痛めていた上司もいた。そんな彼らを置き去りにしてしまった。
「だから相棒。お前さんに俺の背中を預ける。そんでもって全力で守ってやる。」
「ハイネ……」
「悪い。これが今の俺の精一杯だ。」
背中越しに告げる。ハイネは柄にも無く少し緊張している自分を認め、一つ息を吐く。
「……卑怯です。」
「なんでだよ。」
「そんな風に言われたら、私何も言えなくなっちゃいます。」
「……そりゃすまん。」
「誤らないでくださいよ、もう。」
――――シンの事を笑えないなあ、こりゃ。
心の中で独りごちる。あれだけからかっておいて、自分がこれかと呆れる。
「いいですよ。ハイネが実は結構へたれだってのは知ってますし。色々やる事とかやろうとしてる事が多いのも知ってます。だから――――」
「…………」
背中に軽い衝撃をハイネは感じた。何が、と一瞬考えたが、気配とギンガの声が振動として直に伝わる感触でわかる。
「待っててあげますよ。」
「……悪いな。」
そう言うと押し付けられているらしい、ギンガの額から感じる力が強くなった。もう言うなということらしい。
「本当、感謝してくださいよ。こんな馬鹿な人の事を待ち続けるくらい酔狂なの、私くらいです。」
「そうか……そうだなぁ。」
「はい、そうですよ。だから、とりあえずさっきので満足してあげます。」
「とりあえず、ね。」
「とりあえず、です。」
思わず笑いが零れた。喉を鳴らす程度の笑い声が二つ。お互いに笑っている事を理解して、更に笑う。
「さて、戻るか。」
「そうですね。ああ、ハイネ。期待してますから。」
さらりとそう言うと、ギンガはハイネより先に歩き出していた。背中から伺えるほどの上機嫌な彼女を見つめ、溜息を一つ。
「……尻に敷かれるなぁ、こりゃ。」
そうぼやくが、何故か気分は悪くなかった。
/
「なんで俺が一人なんだ?」
『あ? どうした、シン。」
陳述会当日――――今の所予定通りに全てが動いている。警護を行っているシンにしてもそうれは同じ事であった。何度も確認した担当区域を巡っている。
「いや、別にいいんだけどさ。この面子だと俺があぶれるのはわかってたし。」
『それ言ったら俺もギンガも一人だっての。』
念話でハイネとこうして会話しているのは決してさぼってるわけでなかった。ハイネの方から話したい事がある、と念話を飛ばしてきたのである。
「それで、話したい事ってのは? わざわざ念話まで使ってさ。」
『ああ、ちょっとお前の意見も聞いておこうと思ってな。』
「俺の意見……って何の?」
『今回の任務について。相手の狙いとかな。どう思う?』
「……ちょっとまとめる。」
周りに注意を配りつつ歩きながら、頭の隅で何と応えればいいか考える。
ハイネ・ヴェステンフルスという人間は優秀である。そんな事は改めて考えるまでもかった。ザフト時代はフェイスとして議長からの信頼も厚かったのだ。そもそもフェイスである、という時点でその見識は軍事的なものに限らず、政治的な面にも及んでなければならない。
(その点俺はなぁ……)
全く自信が無かった。そもそもシンは知識や座学ではなく、戦闘技術や実践でのし上がってきたのだ。実際の戦闘での指示は出来ても、机上で政治的、戦略的観点での作戦立案など出来る気がしなかった。
それはさておき。
つまり、ハイネが自分に意見を求めた所で彼の望む物を自分が返せる自信が無いのだ。その事はハイネも理解しているはずである――――一度そういった話をしてえらく呆れられた覚えがある――――
だが、それでもハイネは自分に意見を求めてきたのだから、シンはそれになんとかして応えたいと考えていた。
直ぐ先の曲がり角から現れた、高級そうな服に身を包んだ男――――恐らくは陳述会の出席者――――に対して、立ち止まり敬礼を行う。すれ違い、その男が視界から消えるのを確認して、シンはハイネに念話を行った。
「とりあえずさ、やっぱおかしいよな。」
『というと?』
「いや、だってさ。向こうが狙ってるのはレリックだろ? そりゃここでそれをやり取りする、なんて事だったら何かあるだろうけど。」
『ただの会議を襲うのは変だ、と? そうだな、俺もそう思う。』
同意を得られたので、とりあえず見当はずれの事を言わなかったことにシンは安堵する。
「だろ? でも、部隊長達も皆ここが危ないって思ってる。」
『そうだな。俺もそうは考えている。お前、最近ニュース見たか。』
「ん、そりゃ……まあ、一応。ってそうか。」
言われて気づく。最近のニュース、ワイドショーでは必ずこの陳述会についての話題が挙がっている。それは高官の揚げ足取りや、スキャンダルっぽいどうでもいい事が多かったが、確かによく耳にしていた。
そしてこの陳述会が潰れるということは……
「管理局のイメージにダメージが……? いや、なんかな……」
『違和感あるか?』
「ある。ジェイル・スカリエッティにとってそれが何か得になるのかよ。」
『……だよなぁ。』
/
イメージに合わないのだ。ジェイル・スカリエッティ。狂気の科学者。彼について自分達が知っている事は余りに少ない。が、少ないながらもそういった政治的な何かを目的に動いているとはとても思えなかった。その辺りが普通のテロリストとは違う。
レリックが絡む時に襲撃を行う。また、偶に少数戦力でちょっかいをかけてくる。恐らくはデータ取りなのだろう、という事だった。
大きな戦闘は、列車の占拠。オークション会場に対する襲撃、品物として扱われていたレリックの奪取。そしてヴィヴィオを保護した戦闘。それもレリックの奪い合いであった。他にはちょっとした小競り合いが何度か。
なんとなしに、これまでの戦闘を思い返しながら、はたと気づく。
「……あれ。」
『どうした? なんか気づいたか?』
「……なんか、ガルナハンっぽい事ばっかやられてるような……」
『ガルナハンって……ローエングリンゲートのか?』
ハイネの確認に頷く。
ローエングリンゲート攻略戦。
その時にザフト側が取った作戦は、ミネルバをはじめとする主戦力で敵を引き付け、その間に地元民しか知らない坑道を分離したインパルスが通り、敵の裏手を目指す。そしてがらあきのローエングリンをインパルスで破壊し、その後敵の殲滅を行うというものであった。つまり、二面作戦。囮と本命。釣り。
オークションでは会場であるホテルを二回に分けての襲撃を行い、それにこちらの目がいっている間にレリックを奪取。
市街での戦闘では、レリックの奪い合いに大型の召喚獣。それらをなんとかした直後、ヘリを狙われた。
その旨を簡単に説明するとハイネはしばらくの間黙っていた。いや、正確にはぶつぶつと何かを呟くだけで、こちらに話しかけてくる事は無かった。
『……つまりこれへの襲撃が囮、として。本命が別にある? と、なると……本命は?
ってか何で俺はこんな簡単な事に気づかなかったんだ? ちっ、ちょっと待てよ。』
「い、いや、なんとなく似てるのが多いよなって思っただけだし別にそうと決まったわけじゃ……」
知らず声が震えた。嫌な予感、もやもやが胸を圧迫する。理解したくなかった。何故もっと早く気づかなかったのだろうなんて、今更考えても仕方が無い事が、頭をよぎる。
『シン。お前今から全力で飛んで、六課までどれ位かかる?』
「そりゃ……そんなに離れてないし、全力でなら20分くらい……ってまさか。」
ハイネの言おうとしている事を理解して、シンの全身が粟立った。六課には、今、ヴィヴィオが自分となのはの帰りを、待っている。
「もし勘違いだったら?」
『俺とお前の首が飛ぶか、それとも始末書で済むか……まあ、だけど思い出せよシン。六課におけるお前の、FAITHって立ち居地は名目上とは言えある程度自由が利くんだろ?』
確かにそうだ。機動六課に身を寄せるにあたってそういった立場を部隊長であるはやてから与えられていた。名目上ではあったが。
『だからお前が動くんだ。誰よりも早く、自由に動けるお前じゃないといけない。
市内飛行許可は俺が取ってやる。他の面子への説明もしてやる。今すぐ六課に飛べ。』
ハイネの口調からもふざけた部分が消えた。走り出す。心臓が気持ち悪いくらいに早く鳴る。シンの足が床を蹴り走る甲高い音が、先ほどまで静寂が保たれていた廊下に響き渡る。
「インパルス――――」
口にするのは己が相棒の名。走り続けるシンの体を光が包みこみ、それが消えるころにはデバイスの展開が終了していた。
それとほぼ同じタイミングで視界の隅に外へと繋がる窓を確認する。閉じている。鍵は、安全の為か元々開ける事を想定していない造りなのか、無い。
悩む間も無く拳を振り上げる。障害を窓枠ごと叩き割ったその勢いのままフォースの飛行魔法を展開、文字通り飛び出す。
『くそ、戦力が集中しすぎた。六課が……やばい。』
苦々しく呟かれたハイネの言葉に返事をする事すら忘れ、シンは空を駆けた。不吉な予感と、焦燥と、苛立ちに身を焦がしながら。
/
/*さて、この下の展開はどうだろう。勢いで書いたー*/
「……何してるんだろう、私。」
はぁ、と大きな溜息を一つ。ちらりと時計を見て、もう一度溜息を一つ。
(後数十分もすれば……うぅ。なんでまだ六課にいるのよ私。)
予定通り自体が動いているとするのならば、陳述会はもう始まっているはずである。つまり、ジェイル・スカリエッティ率いる戦力による襲撃もそろそろ始まると言う事である。同時に、今彼女――――戦闘機人が次女、ドゥーエ――――が居る軌道六課の隊舎にも襲撃がかかる。
「本当なら今頃こっそり抜け出してるはずたったのにね……」
どうしてこうなった、と考えて自嘲気味に笑う。こんな風に考えてしまうのはまだ自分が悩み、迷っているからなのだと自覚はあった。
「どしたの?」
「ん、ううん。なんでもないわよ。ほら、ほっぺがべたべた。」
彼女が今居るのは六課の食堂であった。遅めの朝食を摂っているヴィヴィオに付き添っている。シリアルにかけた牛乳をべったりとついたその頬を拭ってやりながら、考える。
自分がまだこんな所に居るのは、この前あんな約束を交わしてしまったからだろうか、と。
今、考えるとあの時の自分はどうにかしていたのだ。あんな約束を交わした上に、この少女とシン・アスカの間を取り持った。そして結果として懐かれている。更に高町なのはも居ない今、何故か世話までしている。ついでにその間の仕事はロングアーチで、そこそこ親しくしていた面々が全力でフォローまでしてくれている。
「ヴィヴィオちゃん、ご機嫌ねえ。」
「うんっ。早くぱぱとまま帰ってこないかなってかんがえたらたのしいよっ。」
笑って拙い動きでスプーンでシリアルを掬い上げ口元に持っていく。そしてまた頬が汚れる。でも笑顔は絶えない。きっと信じているのだろう。曰く、ぱぱとままが帰ってきて、ちゃんと仲直りして、前みたいに楽しく、と。
(……きっついなぁ。)
思わず、言葉にせず心中でぼやいてしまう。ドゥーエは知っていた。それが絶対に実現しない事を。最終的には、と考えるとなんとも言えなかったが、この屈託の無い笑顔が失われる事は間違いなかった。涙に濡れるのは避け得ない未来である事を知っている。
胸が、ずきりと痛んだ。今更だ、と今更思う。だけど嫌だ、とも思うのだ。
だから――――
「あ、ヴィヴィオちゃんご飯食べ終わりました?」
「アイナさん、おはよう! うん、全部食べたー。」
「はい、おはようございます。すみません、お世話お願いしちゃって……。」
食堂に顔を覗かせた、六課の寮の世話をしている女性から声をかけられた。ヴィヴィオはそれに元気よく挨拶をする。
/
「別にいいのよ。どうせ今は大した仕事もないですし……ええと、アイナさん?」
「ありがとうございます。ザフィーラさんも今日は余裕が無いらしくて……」
「わんわん今日大変なの?」
そうなんですよー、と首を傾げるヴィヴィオに返事をするアイナを横目に見ながら、考える。
今の六課に残る戦力は部隊長である矢神はやてが保有する騎士、ヴォルケンリッターのうちの2人。ザフィーラとシャマルだけしかいない。
当然2人ともそれなりの戦力ではあるのだが、物量で押されると捌き切れなくなるであろうと考えられている。実際、この場を襲撃するスカリエッティの戦力はかなりの物で、多数のガジェットに、ドゥーエの妹に当たる戦闘機人が2人。更に、ルーテシアとアギト。
はっきり言って敗色濃厚である。
(大体無茶しすぎなのよ。力の強い駒を集めすぎで数が足りてない。いや、確かにガジェットの相手するならそっちの方がいいんでしょうけど……)
守りには向いていない部隊構成だというのは、ドゥーエにも理解できた。
「アイナさんも今日は忙しいの?」
「んー、そうですね。私はそうでもないんですけど……皆忙しそうにしてて、私もそんな気分になっちゃってます。」
「じゃあ、後でこの前のつづきやろうっ。」
「はい、いいですよ。」
「この前の続きって?」
「今、ヴィヴィオちゃん絵を書いてるんですよ。ね?」
「うん!」
それは初耳であった。いや、そもそもこの少女と話すようになってまだ数日なので、知らなくて当然なのかもしれないが。
「へえ、何の絵を描いてるの?」
「えっとね、ぱぱとままとヴィヴィオの絵! まだ出来てないけど、ヴィヴィオ、ぱぱとままになかなおりしてほしいから。」
「……そう。」
ああ、と理解する。この少女も頑張っている。自分の守りたいものを守るために出来る事を考えているのだ。
「他にも色々描いてるんですよね。」
「うんっ。昨日ね、ドゥーエさんも描いたよ。」
「え? 私も?」
/
今度こそ寝耳に水であった。確かに懐かれているとは思っていたが、そんな事をしてくれているなんて思いもしていないかった。少しこそばゆいような物を感じる。にやにやと初々しいような物を見るようなアイナの視線がそれに一層拍車をかけた。
「あとで見せようって思ってたんだよ。ほら、これっ。」
肩から提げたポーチから四つ折にされた紙を取り出して、それをこちらに手渡してくる。ドゥーエはそれを受け取ると、折られた部分を開いた。
そこには、確かに恐らく自分を描いたと思われる、拙い絵が描かれていた。黄色のクレヨンで長く描かれた髪に、肌色のクレヨンで描かれた顔がアップになっている。そして下の空白の部分には、ぎりぎり読み取れる字で「どぅーえおねえちゃん」と。
「おねえちゃんって。」
「えっとー……だめだった?」
口にするとばつの悪そうな顔でヴィヴィオが聞いてくる。
「だめじゃ、無いけど……ふふ、私、あなたのパパやママより年上よ?」
「いいのっ。」
「好かれてますねぇ。」
「本当……もう妹はいっぱいいるんだけどなぁ。」
10人も居るのだから今更1人増えても一緒かな、と零す。そのほとんどとは話どころか顔も合わせた事もないのだけれども。
彼女は知らず笑みを浮かべていた。思わず泣きたくなる位に嬉しくて、微笑んでいた。自分はこんな物を描いてもらえるような存在ではないと、理解していた。これから起こる出来事を自分は止められない。戦闘用に調整されていない自分がどう足掻いても焼け石に水だろう。いや、そもそも今からこの場で起きる事は止めるべきでは無いのだと理解している。それでも、足掻く理由は出来た。出来てしまった。だから、仕方ない。
座っていた椅子から立ち上がり、自分が描かれた紙を掲げる。
「これ、貰ってもいいかしら?」
「うん、いいよ。」
「ありがとうね、ヴィヴィオちゃん。ちょっとやる事が出来たから、もう行くわね?」
「いってらっしゃい、お仕事頑張ってね。ええっと、おねーちゃん!」
思わずきょとんとしてしまうが、ドゥーエはそれに頷いた。それと、微笑ましいものを見るような目で見守っていたアイナに近づき、小さく耳打ちをする。
「この子と一緒に居るなら、出来るだけ他の隊員の人と一緒にいれる所にいなさい。
多分、ここも危なくなるから。」
「えっ……?」
「勘でしかないけど……一応、念のため、ね?」
そう言うと、少し考え込まれたが最終的にアイナは頷いた。もちろん、勘などではなく、確実に後30分もしないうちに起こる現実なのだ。
ドゥーエは手に持った絵をまた四つ折にすると、スーツのポケットに忍ばせた。そして、ふと気づいたように振り返り、
「ヴィヴィオちゃん。えっとよくわからないかも知れないけどね。何があっても、あなたのパパとママの事を信じなさい。
あの2人は、絶対に、何があっても、あなたの事を助けてくれる。そう、信じて。」
きょとんとしたが、すぐにヴィヴィオは頷いた。それに頷き返して、ドゥーエは足早に食堂から外に出た。
歩きながら周りに誰も居ないことを確認すると、右腕を軽く振るう。じゃきり。そんな音と共に手の甲の先。指の先。つまり爪が腕ほどの長さもある、鋭さを持った刃となる。
「久しぶりだけど……ま、なんとかなるかしらね。」
もう一度振るうと、まるで手品の様にその爪が元に戻る。
ドゥーエに出来る事はこれだけである。後は戦闘機人としての利点。つまり通常の人間の数倍の身体能力と、戦闘持続能力。それに魔導師と違いAMFにその行動が阻害されない事。
たったこれだけしか出来ない。本当に自分の事ながらもう少し戦闘向きに作られていてもいいのではないか、と悲しくなる。
だが悲観しても仕方が無いので、構わず走り出す。
もう時間は残されていなかった。
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「ふむ……思ったよりも反応が早い。」
薄暗がりな部屋で、ジェイル・スカリエッティは呟いた。
彼の目の前に展開されている巨大なモニターには、様々な地点の映像が映し出されている。
「動いているのはシン・アスカだけか。というよりも現状動けるのは彼だけなのかな。」
シン・アスカが映し出されている部分に注視して、頷く。まだこちらは行動を起こしていないのだから、と彼は心中で付け加える。
必死の形相で空を駆ける――――恐らくは彼の出せる最大速度で――――シン・アスカが向かう先は、考えるまでもなく機動六課であった。
「こちらの狙いを理解したのはハイネ・ヴェステンフルスか? ふむ……この状況下で市街の飛行許可までしっかりと取っている辺り流石、と言うべきかな。
だが、惜しい。惜しいなぁ。」
笑みを浮かべる。ニヤニヤと、思い通りに事が運んでいるという笑み。
彼らには足りない。足りないのだ。何が――――つまり、時間が。
「シン・アスカは間に合わない。よしんば間にあったとしても、これから起きる事を防ぐことは出来ない。
悪いがこの前哨戦で負けてあげる事は出来ないのだよ。まだ下準備の段階なのだから。」
くつくつと笑う。楽しげに、愉しげに。
「さて、そろそろ始めるとしようか。」
呟くと、コンソールの上に長い指を走らせる。ものの数秒で、ナンバーズやゼストといった面々へ行動開始の合図を送り終える。
同時に待機させておいたガジェット達にも、予定していた命令を出す。そして、転移魔法装置に火を入れる。
そこまでの作業を自ら行い、そしてピタリとその動きを止める。
「これははじまりだ。はじまりでしかない。我々のゲームの終わりと始まりで、彼らの始まりで、私の終端だ。
さあ、始めようギルバート。ゲーム盤は、もう完成する。」
- ギンガとハイネのやり取り、すごく好きです。 -- YUKI? 2010-04-23 (金) 23:51:45