「開放された獣SEED(プロローグ)」
後方に大破した紅と黒の巨大なロボットを漂わせながら、無限螺旋から開放され、宇宙を漂いながら星々に見惚れ安心している少年が呟く
「綺麗だな・・・」
世界が美しいと言う、ごく普通の感動を数多の永劫の時の中で得る権利を得ていた
「あぁ、気付いていなかった。星がこんなにも美しい物だったと。例え一人だとしても、この美しい輝きの中で・・・・・」
「いえ、一人ではありません」
少年をまるで優しく包み込むような澄んだ少女の声。孤独であるはずの宇宙に彼女は存在していた
「エセルドレーダ、お前も来ていたのか」
少年は自身に微笑みかける少女を見つめる
「イエス、マスター。私がマスターを独りにするはずがありません」
少年は不思議そうにエセルドレーダを見つめ続け、思い返していく。あの無限の絶望の中で、常に自分の傍らに寄り添っていた一人の少女の事を
「そうだな・・・。独りでいるには此処は少し寒い。側にいてくれるか?エセルドレーダ」
狂喜など存在しない、本当の笑みを少女に返す
「・・・はい」
エセルドレーダは涙を浮かべながら少年と抱き合う
「いつまでも此処で世界を見つめ続けましょう。生き足掻く命たちを笑いながら。憬れながら、この永遠を過ごしましょう。それだけが----」
「ああ、それだけが・・・・・・それだけが僕達に赦された救いなんだね、エセルドレーダ」
あまりにも遅すぎた、当たり前を過ごして行く
ただ宇宙を漂い、二人は抱き合いながら数多の年月を過ごし地球が目視出来る距離まで来ていた
「地球がこれほど美しい物だったとは知らなかった」
「・・・イエス、マスター」
恋焦がれるかのように二人は地球を見ていた
「ナイアルラトホテップより開放された今、もう一度人間が美しいか見てみぬか?エセルドレーダ」
「全ては、マスターの思うがままに」
二人は強く抱しめあいながら、その場から転移した。人類は西暦ではなく、コズミック・イラと言う年号を使っているのも知らずに
地球のアリゾナ砂漠で一つのロボットが発見され、ブルーコスモスはそれを極秘裏に回収していた
「アリゾナ砂漠に、これ程の物があったとは思いませんでしたね」
新しい玩具を手に入れた子供のような表情で金髪の男性は見ながら、嬉しそうに言う
「装甲の材質は不明、何故か動力炉と考えられる物が存在しませんし、どのような理論で稼動をしていたのかも解りません。それに・・・」
「それに?何です」
言っても良いのか迷っている相手に、早く言うように促がす
「何時の時代からあるのかは解りませんが、殆ど風化すらしていません。装甲の材質が解りませんので試しにミサイルやビーム砲で攻撃してみたのですが、直撃箇所が変色していただけでした」
「金がどれ程かかろうと、出来る限り急いで材質を解明して下さい」
相手の言葉を聞いて、本当に嬉しそうに言いながら相手を見ていた
「畏まりました。しかしアズラエル産業理事、一つだけ重大な問題があるのです」
「何です?」
「あの装甲は、金よりも更に思いのです。それを使用すれば運動性能がかなり削られると思います」
「ふふふ・・・はっはっはっはっは!そんな事ですか?宇宙戦で使用すれば良いだけでしょう。バーニアやスラスターを大型化してね」
何を下らない事を言っていると思いながら言う
「では、ドクターに解明を急ぐように言っておきます」
「彼ですか、本当に大丈夫なんですか?」
ドクターと言う言葉を聞き、信じられない物を見るかのような表情で見返す
「人間や思考はアレですが、能力面だけで見れば間違い無くコーディネイターすらも上回る程の天才であるのは間違いないと思われます」
「良いでしょう、彼にも任せる事にしましょう。解明の方頼みましたよ、蒼き正常なる世界の為にね・・・はっはっはっはっは!」
それから半年の時間が過ぎ、血のバレンタインと呼ばれる事となる悲劇を彼等は引き起こし世界は戦争へと加速して行く。
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