FateinC.E73_第04話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 17:50:11

「!?」
 胸に、リンカー・コアの近くに、痛みのような痒みのような、妙な感覚が走る。反射的
に見上げると、そこに、紅いモビルアーマーが、猛スピードでこちらに向かってくるのが
見えた。
 尾部に接続されている、子機を切り離す。
 ────ドラグーン!?
「彼らの仇というわけではないが、その機体も頂こうか!」
 子機────エグザスのガンバレルが、バルディッシュを取り囲む。
「っ!」
 次々と発射されるガンバレルの射撃を、フェイトは踊るようにかわす。
 ────彼女の射撃に比べれば、この程度っ
 なんでもない。だが、こちらも攻撃に移れない。
 一方、エグザスのコクピットに収まるネオも、ガンバレルの射撃を適確に避けていくバ
ルディッシュを見て、何かが閃いたような感触を受けた。
 ────このパイロット……!!
「只者ではないな!」
 後半は口に出していた。
「シーン!!」
 フェイトは、通信機に向かって、その名を呼ぶ。
『フェイト!』
 ガーティー・ルーの付近で、ダガーLと戦っていたインパルスは、目の前の1機をビーム
サーベルで袈裟斬りにすると、反転し、スラスターを開いてエグザスを目指す。
「ルナ! 後は頼んだ」
『任せてっ』
 赤いゲイツBDは、1体のダガーLに向かって、乱暴にパルチザンを振り下ろす。刀を返す
ように、背後への回し蹴りを、もう1体のゲイツBDを当てて、間合いを取る。パルチザン
を構えなおす。
 ネオがバルディッシュを攻めあぐねいていると、もう1体、見慣れない形状のMSが、視
界に飛び込んできた。
 ────もう1体、新型か!
 ネオは奥歯を軋ませる。
 インパルスはエグザスに向かって、バルディッシュとの間に立ち塞がるように割り込む。
ビームサーベルとシールドを構える。
『大丈夫か、フェイト!』
 バルディッシュのコクピットに、シンの呼びかける声が聞こえてくる。
「大丈夫……シン、本体のモビルアーマーを」
『解った!』
 シンの返事と同時に、インパルスはエグザスに向かって飛び出した。
「ちぃ!」
 ネオは舌打ちしながら、インパルスにガンバレルとエグザス本体の照準を────
 ガンバレルの1機が、突然爆発した。

「なにっ」
 エグザスのガンバレルを、フォトンランサー・ドラグーンが付け狙う。
「ヤツはドラグーン持ちか!」
「はぁぁぁぁっ!」
 ネオが忌々しそうに口に出したところへ、インパルスが上段から斬りかかってくる。相
対的下方へ急旋回させて、インパルスの斬撃をかわす。
「このっ!」
 シンはインパルスを“踏み込ませ”て、さらにエグザスをインパルスの間合いに捉える。
「クッ」
 ネオはガンバレルにインパルスを狙わせる────爆発。また、ガンバレルの1機が、
フォトンランサー・ドラグーンのビーム銃に貫かれた。
 バシュウゥゥッ!!
 各々の視界の一角に、閃光が走る。
「リーっ!!」
 ネオは、反射的に叫ぶ。
「ミネルバ!」
 フェイトは驚いたように言った。ほぼ同時に、シンも同じように口にしていた。
 ミネルバのトリスタン主砲からプラズマビームが飛び、回避運動を取る、ガーティー・
ルーを掠める。
「クソッ、これ以上は被害を大きくするだけか!」
 ネオはそう判断すると、エグザスを急旋回させて、ガーティー・ルーの方向を向かせた。
「待てっ!」
 シンは、インパルスにエグザスを追撃させようとする。だが。
 ポーン、ポーン、ポーン!
 ミネルバから、3色の発光信号弾が打ち上げられた。
「待ってシン! 帰還信号!」
 フェイトは、驚いたようにシンを呼び止める。
「なんでっ……こんな時にっ」
『戻ろう、シン』
「でも……いや、うん……」
 シンはまだ後ろ髪引かれ気味だったが、先に踵を返したバルディッシュの後を追って、
ミネルバへと向かった。
「ああっ、もう、しつこーい!」
 紅いゲイツBDは離脱しようとするが、ダガーLが追いすがり妨害する。ルナマリアは、
パルチザンでダガーLの右腕を斬りおとすと、スラスターを吹かして一気に引き離した。

「3機、収容完了。カタパルトデッキ閉鎖しました」
 ミネルバ艦橋。
 メイリンの声が、タリアに報告してくる。
「敵艦のトレースはできてる?」
 メイリンと背中合わせに座っている男性オペレーターに、タリアは振り返ることもせず
尋ねる。
「はい。本艦より上方15度、右7度、距離30000。離れていきます」
「議長」
 タリアは、艦長席から、背後の指揮官席に座るデュランダルを振り返る。
「今からでは退艦いただくこともできませんが、本艦は引き続き、あの不明艦の追撃に移
るべきかと思います。いかがでしょうか?」
「タリア、私もこの火種、放置すればどれだけの大火になって戻ってくるか、見当もつか
ない。判断は君に任せる」
 デュランダルは、かなり険しい顔で、タリアにそう言った。
「ありがとうございます」
 そう言うと、タリアは前方に姿勢を戻し、艦橋のクルーに指示する。
「全速、敵艦の追尾を開始。なお、これより該当艦をボギー01(ワン)と呼称する」
「了解!」
 ブリッジのクルーからは、はっきりとした声の返事が返ってきた。
『ブリッジ』
 メインスクリーンに、通信の画面が表示された。艦内からの通信。画面に出たのは、金
髪の青年、レイ・ザ・バレルだった。
『戦闘中のこともあり、御報告が送れて申し訳ありません。本艦発進直前、着艦した我が
軍のモビルスーツに民間人2名が搭乗、拘束して身分を調べたところ、オーブ連合首長国
代表カガリ・ユラ・アスハと、その随員アレックス・ディノと判明』
「彼女がこの艦に?」
 デュランダルが、目元を険しくしながら言う。
『……議長……?』
 デュランダルの声に、レイは表情を険しくして、戸惑ったような声を出す。
「……続けて?」
『はっ、失礼しました』
 タリアの声に、レイは我に返り、それ以上取り乱すこともなく、続ける。
『負傷されていましたので、その手当てと、議長への面会を希望。現在、医務室で治療を
行っています』
「了解した」
 デュランダルが、直接答える。
「ひとまず治療が終わったら、あいている士官室へ案内を。私の方からそちらへ向かう」
『了解しました。そのように致します』
 そう言って、医務室からのレイの通信は切れた。

 格納庫。
「ゲイツ系の腕のフィールドストリップなんざ、教練過程で何度もやってるだろうが!」
 整備中隊長の檄が飛ぶ。
 バルディッシュとインパルスも、整備用のハンガーに、並んで駐機されていた。
 フェイトはコクピットを開放してから、ヘルメットを脱ぐ。長い髪を揺すって下ろす。
「はい、フェイト」
 コクピットから降りかけたフェイトに、ルナマリアが、チューブ型容器のスポーツ飲料
を差し出す。
「あ……ありがとうございます、ルナマリアさん」
 微笑んで、フェイトはそれを受け取る。
「ルナでいいって、今日からは同僚なんだし、それに、歳だって同じなんでしょ?」
 ルナマリアは、そう言って笑った。
「それに、フェイトってば、凄いじゃない。ドラグーンよね。使いこなして」
「あの程度……」
 フェイトの表情が、急に憂いを帯びた物に変わり、俯く。
「彼女に比べれば……」
 親友の顔を思い出す。“伝説の固定砲台”とまで言わせしめた、空間制圧射撃の名手。
「彼女?」
 ルナマリアは小首を傾げて、キョトンとした表情で訊ねる。
「あ、いえ。私の知っているパイロットに、射撃の凄い人がいるんです」
 顔を上げて、苦笑気味に、ルナマリアに答えた。
「ふぅん……ヤキンより前からのパイロットかしら? 私も知ってる人?」
「いえ、ZAFTではあまり知られていないと思います」
 聞き返すルナマリアに、フェイトは苦笑気味の微笑で、答えた。
「あ、そうか、フェイトって、その頃はオーブにいたんだもんね。それじゃあ、オーブ軍
のパイロットなんだ」
 勝手に納得して、うんうんとうなずくルナマリア。
「ルナマリアこそ、その、格闘戦、凄いじゃないですか」
「え、あぁ、あはは」
 フェイトの言葉に、ルナマリアは照れくささ半分、決まり悪さ半分といった感じで、苦
笑する。
「私射撃下手だから……うん、その分ゲイツBDとは相性がいい感じ」
 ルナマリアは、別の列のハンガーに駐機している紅いゲイツBDを見た。フェイトも、つ
られるようにそちらに視線を向ける。
「フェイト、あ、ルナと一緒にいたんだ」
 そこへ、シンがやってきて、フェイトに声をかけてくる。
「あらら、それじゃあお邪魔虫は退散しますか」
 ルナマリアはそう苦笑して、バルディッシュのコクピットから離れかける。
「ちょっ、ルナ、俺たちはそんなんじゃないって」
「顔赤くしながら言っても、説得力ないわよ」

 シンの言葉に、後姿でそう言いながら、ルナマリアはその場を離れた。
「フェイト、大丈夫だったか?」
「うん……シンこそ」
 シンが伸ばしてくる手をとり、幾分うれしそうに微笑みながら、フェイトはバルディッ
シュのコクピットから完全に格納庫へ出る。
「いや、ほら、それは……フェイトのお守りだってあるし」
 シンは顔を真っ赤にして、俯きがちにそう言った。
「ちぇっ、あの2人、見せ付けてくれるよな」
 ヨウランが、いずれかの部品を両手で持ちながら、シンとフェイトをヤブニラミする。
「ぼやかないぼやかない、俺たち整備は所詮裏方、ってね」
 ヴィーノは、無重力の空中で胡坐をかいた姿勢になりながら、クリップボードにはさま
れたチェックシートに書き込んでいる。
「顔の程度だけだったら、負けてる気はしないんだがな」
 ヨウランはぼやき続ける。
「こら、そこの2人! 次、バルディッシュ行くぞ! ぐずぐずやってないで早く分離の準
備をしろ!」
「っは、はいっ」
「はいっ!」