FateinC.E73_第06話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 17:51:25

「さて……」
 ガーティー・ルーの艦橋で、ネオは、幾分渋い顔をしながら、スティングとアウルに向
かって言う。
「お前らの役目は、母艦の方を襲撃、敵さんが此方に構っていられないようにすることだ、
判ってるな?」
「別に、沈めちまってもいいんだろ」
 アウルが、ぶっきらぼうな態度で、そう言い返す。
「できるものならな」
 そう言って、ネオは口元で苦笑したが、すぐにその笑みを消す。
「だが、中に例の新型ゲイツが何匹詰まってるか判らん。落とされる事だけは絶対にない
ようにな」
「わぁってるよ」
 不機嫌そうな様子で答えるアウル。
「それと、万一、母艦の方にドラグーン使いの新型がいたら、無理せずすぐ逃げろ。いい
な」
 幾分強い調子で、ネオは言った。
 それに対し、アウルは不愉快そうな表情でネオを見る。
「何でだよ。そいつも生け捕るなりバラバラなりにしちまえばいいんだろ?」
 身を乗り出して、食って掛かった。
「やめろアウル!」
 スティングがアウルにより、険しい表情で声を荒げる。
「コロニーの中で判ってるだろうが。アイツには俺とアウルの2人がかりでもかなわない」
 その言葉に、アウルはしぶしぶといった感じで引き下がるように、一歩下がって俯いた。
一方、ネオは、意外そうにスティングを見た。
「ちっ、しゃーねーな」
 せめてといった感じで、アウルは悪態をつく。
「それじゃあ、俺は先に出るからな。リーの言う事を聞くんだぞ」
「はい」
「へいへい」
 シンプルなスティングの返事と、いい加減なアウルの返事を聞いてから、ネオはブリー
フィングルームを後にする。格納庫に出ると、自分のために用意させた、エールストライ
カー・ダガーLに乗り込む。
「言われた通りにしてありますが、中身的にはまるっきりノーマルのダガーですよ?」
 少し不安げな表情で、整備員が訊ねてくる。
「俺の手にかかればどんな機体だって一流だよ、と言いたい所だがね。少なくともアレと
やるのに、モビルアーマーじゃとても相手にならないのは確かだよ。エグザスだろうとね」
 ネオは口元で苦笑しながら、軽く冗談交じりにそう言った。
「判りました……お気をつけて」
 整備員はそう言うと、軽く敬礼してから離れていった。ネオはコクピットを閉める。
 起動スイッチを入れ、OSのコンディションチェック画面を確認。ダガーLを進ませ、発
進待機位置へと進む。
「ネオ・ロアノーク、ダガーL出るぞっ!」

「…………?」
 ボギー01(ワン)の“反応”を追いかけていたシンだが、前方にその姿が見えてくると、
訝しげに表情をしかめた。
 そして、シンの脳裏によぎった事と同じ事を、レイが通信越しに声に出した。
『やられた、シン、デコイだ!』
「畜生! ミネルバが!」
 制動して、反転しようとする、インパルスと、灰白色のゲイツBD。
『敵MS!』
 女性の声が聞こえてきた。ゲイツFR。ゲイル・アン・ミラー機。
 衛星軌道ステーションの残骸に、ダガーLが隠れていた。ゲイルのゲイツFRに、ビー
ムサーベルで切りかかってくる。ゲイルはシールドを突き出して斬撃を凌ぐが、ダガーL
はゲイツFRを蹴り飛ばす。ゲイル機は太陽電池パネルに叩き付けられる。表面の強化透明
樹脂がクレーター状に凹み、白くひび割れる。
「ミネルバ! フォースシルエットを至急、ミネルバ! 応答願います!」
「……が……瞭で………受………ま……」
 シンはミネルバを呼び出すが、デジタル変調が妨害される、途切れ途切れの音声が聞こ
えてくるだけだ。
 レイはビームマシンライフルを構えさせ、ダガーLに向かって撃ちかける。
「むっ!?」
 ダガーLが急機動でかわした所に、もう1体ゲイツFR、ショーン・クラインフェルド機が、
対装甲アキナスをパルチザン形態に展開し、上段から斬りかかる。
「!」
 ダガーLは捻ってかわすと、ビームサーベルを振り上げる。
 だが、それが振り下ろされる寸前、レイの灰白色のゲイツBDが、シールドタックルでダ
ガーLを突き飛ばした。
「なんだ、この感覚は……」
 自らも、ゲイツBDに対装甲アキナスにストックを連結させてパルチザン形態にしつつ、
レイは、目の前のダガーLから放たれる強烈なプレッシャーを感じていた。
 そして、同時に、ダガーLのパイロットもそれを感じていた。
「どうやら、クジには外れちまったみたいだが、残念賞があるようだな!」
 ネオは、言葉では冗談を織り交ぜつつも、口元は忌々しそうに歪んでいる。
「ショーン、ゲイル! ミネルバの掩護に戻れ! こいつは俺とシンで何とかする」
 レイがそう言った瞬間、ダガーLのビームサーベルが振り下ろされ、レイのゲイツBDの
シールドとぶつかり、アンチビームコートとの間で激しく火花を散らす。
『了解!』
『了解!』
 金髪碧眼の美丈夫と、女性でありながら丸刈りに近い短髪の褐色肌の女性が、レイの言
葉に答える。ゲイツFRがスラスターを吹かし、ミネルバの方向へと戻ろうとする。
「くっ」
 ネオはゲイツFRを追って踵を返しかけたが、その途端、ダガーLを高出力のビーム砲が
掠めた。シンがインパルスのケルベロス・ビームカノンで狙っている。

「外れクジは、俺じゃなくてあっちの2人かな!」
 乱射してくるビームカノンを、ダガーLは急機動で次々とかわす。踊らされているよう
にも見えたが、確実に間合いを詰めてくる。
「シン!」
 レイが声を上げる。
 ダガーLはインパルスの懐に飛び込んでくる。
 インパルスもビームジャベリンを構えるが、ネオの斬撃の方が早い。
「くっ」
 シンは、かろうじて、シールドで受け止めるが、体勢は不利だ。もともとブラストシル
エットは対MS格闘戦向きではない。
 第2撃がインパルスに振り下ろされかけた瞬間、レイが、再びシールド・タックルでダ
ガーLを弾き飛ばした。
「ふぅ……」
 息を呑んだシンの目の前で、ゲイツBDがパルチザンを構えなおす。
「!」
 レイが突撃しようとするのが早いか、ダガーLはエールストライカーのバーニアを全開
にし、2人から遠ざかり始めた。
「逃がすかっ」
 シンはケルベロスとデリュージー・レールガンで追撃をかけるが、ダガーLはそれを文
字通り縫い針が縫うようにして回避しながら、飛び去っていく。やがて、ケルベロスの射
程外にまで出て行ってしまった。
「この……!」
『待て、シン!』
 シンが追撃をかけようとするのを、レイの言葉が遮った。
『ミネルバに戻る事が先決だ、襲撃されているかも知れん』
「!」
 シンはその言葉にはっとする。
「しまった……フェイト!」
 熱くなると我を忘れる自分の性格を呪いつつ、シンはインパルスのスラスターを全開に
し、レイのゲイツBDを置き去りにせん勢いでミネルバへと一直線に飛んだ。

 わずかに時間は前後する。

 ミネルバはシンとレイを送り出した後、ミネルバは自身も“ボギー01”を追いつつ、そ
の巨体を難儀しつつもデブリの間を縫って進んでいた。
 デュランダル、カガリとともに指揮官席に座っていたアレックス──アスラン・ザラは、
ミネルバのクルーが難儀しながらデブリの間を縫っていくのを見て、ふと違和感を覚えた。
 そして軽く考え込み、その違和感の原因をまとめる。
 ────こんなところを大型艦が通るだろうか……確かに隠れるには理想的だが……待
てよ、隠れる?
「デコイだ!」
 思わず、声を上げていた。
 カガリ、デュランダル、タリア、それにアーサーが、驚いたようにアスランを振り返る。
「ええ?」
「今2機が追っていったのはデコイですよ! 本物はどこかで待ち伏せして。危険です、こ
んな回避の取れないところじゃあ!」
 アスランの言葉に、ブリッジクルーは一瞬、言葉を失う。
「タリア! 艦をできるだけ広いところへ」
 デュランダルの声で、タリアは我に返り、正面に向きなおす。
「っあ、はっ、変針右15度、上方30度、変針後に減速20%、デブリから艦を離せっ」
 ミネルバが資源用衛星の遺棄体から離れかけた時、
「後方から小規模な熱源多数接近……ミサイルです!」
「回避します!」
 ミネルバのCIWS対空銃座がミサイルに向けて撃ちかける。右に倒れこむようにミネルバ
が回避した瞬間、さらに艦砲のプラズマビームがミネルバを掠めた。
「ルナマリアとフェイトを出して! 敵はすぐ側にいるわよ」
『了解! 出します』
 タリアの言葉に、コンソールの向こうのエイブスが答えた。
「しかし、敵艦の反応は」
「メインスラスターを止めてるのよ! レーザーサイトと磁気感知のデータは!?」
 男性オペレーターの言葉に、タリアは苛立ったように言い返す。
 次の瞬間、メイリンが甲高い声を上げた。
「モビルスーツの反応接近中、4機!」
 ──中央航空機用フライトデッキ。
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、コアスプレンダー出ます!」
 静かに、しかしはっきりと言う。コアスプレンダー2号機が宇宙(そら)に飛び立つ。
 ルナマリアのゲイツBDの発艦を待つように減速しつつ、追ってきたチェスト、レッグと
連結、MS形態に変形する。アサルトデバイス・シルエットがその背中に被さる様に連結し、
ウェポンラックからバルディッシュの手にビームパルチザンが握られる。
 紅いゲイツBDが横に並ぶ。ウェポンキャリーシールドから、対装甲アキナスを抜き、ス
トックと連結してパルチザン形態に展開する。

『4機接近……1:2かぁ』
 ルナマリアの、口調はどこかのんびりした、しかし表情は引きつりかけた、言葉が、通
信越しに聞こえてくる。
 ミネルバを背後に、構え、向かってくる敵を見定める。
 サブディスプレィに照合パターンが表示される。
『ひゃあ、カオスとアビスじゃない!』
 ルナマリアが、驚いたような声を出す。
「でもなんにもなく一直線、それに」
 ────あの紅いMAはいない。
 口に出さず、そう言った。
「ルナマリア、先に後ろの新型ダガーを」
『おっけー』
 バルディッシュとゲイツBDはそろって、相対的下方をえぐりこむように機動する。
 その2機に向かって、アビスのフルバーストが降り注いだ。
 だが、その瞬間、すでに2機は射線上からいない。
「何!?」
 アウルの驚愕の声と同時に、アビスとカオスのコクピットに同時にロックオンアラート。
 アビスに向かって、バルディッシュのブリッツエッジ・ビームブーメランが向かってく
る。
 同時に、カオスにはゲイツBDが胸部に装備する短銃身ビームガンの射撃が迸って来た。
「くそっ!」
 アウルはそれを肩のシールドで防ぎ、ブーメランの実体部分にぶつけて弾き返す。
 一方、スティングはビームガンを難なく避けた。だが……
「しまった!」
 スティングが毒ついたときにはもう遅い。
 次の刹那、背後にいた2機のダガーLはバルディッシュのビームパルチザンに胸上部を薙
ぎ払われ、あるいはゲイツBDの対装甲パルチザンに頭部ごとパワーパック部分を叩き潰さ
れていた。
「畜生! なんでてめぇらがこっちに残ってんだ!」
 アウルは毒ついてアビスを構えさせる。一方、バルディッシュと紅いゲイツBDもそれぞ
れパルチザンを構えなおす。
 2機と2機が、対峙するように向かい合った。

ショーン・クラインフェルド
 金髪碧眼の美丈夫。レイとは違い、顔は美形だが、体つきはがっしりしている。
 (「宇宙一の無責任男」シリーズのル・バラバ・ドムを金髪碧眼にして、髪はストレートにしたイメージ)
 性格はけっこうお調子者で、ナンパ好き。
 身長は177cmだが本人は180cmあると言い張っている。

ゲイル・アン・ミラー
 金髪、褐色肌の女性。坊主頭一歩手前のベリーショート。目もゴールドポイント。
 切れ長なのでそうは見えないたれ目。
 上から御愁傷様、普通、ほんの少し大きめ。
 性格は実直だが遊び心がないわけではない。でも女性らしくはない。