Fortune×Destiny_第19話

Last-modified: 2007-12-05 (水) 09:44:27

19 飛行竜追撃

 

シンは自分の運命を変えることには成功したが、それが完全に回避できたものだとは思わなかった。
エルレインを逃がしたのだ。また対決することがあればもう一度操られてしまうかも知れない。
だが、この一戦の前よりは気が楽になった。一応、勝てることには勝てるのだ。
二度目三度目があってもまた勝つ自信はある。
「……ったく、あー、死ぬかと思ったぜ。」
「僕としたことが……迂闊だったな。」
「まったく、シンとカイルが頑張ってくれたから助かったけどさ。ふう。」
ロニ、ジューダス、ナナリーが口々に言う。
3人とも助かってよかった。そして、リアラも。
「リアラ、無事でよかった。それに、おめでとう、英雄が見つかって。」
シンは微笑み、リアラも同じように微笑を見せる。
「ありがとう、シン。でも、エルレインを止めないと。あのレンズはどこにあるのかわからないもの。」
彼は頷き、まずはイクシフォスラーのところに戻ろうと、6人は礼拝堂から出た。
「ああ、皆さん!」
礼拝堂から出たところで、6人はフィリアと鉢合わせした。
「すみません、研究用の保管レンズが全てなくなっているんです、何か知りませんか?」
レンズがなくなったといえば、答えは一つしかない。シンは怒りを瞳に滾らせて吐き捨てた。
「エルレインのやつ、ハイデルベルグを襲った上に、まだここの保管レンズまで奪ったのか! どれだけエネルギーを欲しがるんだ!」
「エルレインが……? 彼女はそんな人では!」
しかし、今度はカイルが言う。
「フィリアさん、俺たちはエルレインがハイデルベルグに飛行竜で乗りつけて、レンズを奪ったのを見てます。あなたがどう思おうとエルレインのしたことは許されるものじゃないんです。」
「……。」
彼女は信じられない様子で俯いた。そのとき、空が翳った。あの飛行竜だ。北西方向に飛んでいる。
「あのときの飛行竜か! まさかあの中にレンズが! 目的地は……カルビオラだ。あの神殿で力を得るか、でなければフォルトゥナを降臨させる気だな。」
「行かなきゃならないらしいな! 俺たちはあれを奪い返すのが仕事だろ?」
「勿論だ!」
保護者コンビも熱い。先程まで伸されていたのが嘘のようだ。
カイルはその二人の様子を見て、自分も行かなければならないと思った。
「じゃあ、フィリアさん、俺たちは行きます。それじゃ。」
「待ってください、これを。」
フィリアはハンドレス・トランシーバーと片眼鏡がセットになったような形状の物を取り出した。
「これはソーサラースコープです。見えにくいものを探知してくれる装置です。私は……あなた方を信じます。これをあなた方の目的に役立ててください。」
「ありがとうございます。」
「あなたたちの歩む道に、幸福があらんことを。」
仲間達は屋上へと向かう。シンはフィリアに一礼し、仲間の後を追った。
「絶対に止める。何があっても……!」
エルレインに余計なことをされようが何をしようが、今なら離脱して元の世界に戻る方法を探しても問題ない。
しかし、エルレインのしようとしていることは止めたい。
それは、彼なりのこの世界に対する恩返しでもある。心地よいこの世界への。
この世界に住み着くのも悪くはない。フォルトゥナに帰れないと言われてもいる。
しかし、元の世界への思いは断ち切れなかったのだ。

 
 

イクシフォスラーの入り口にはロックをかけておいた。
そのため、持ち出されることはなかった。
各所が煤けているように見えるのは、爆弾か晶術で破壊しようとしたのだろう。
しかし、1000年の時を経ても壊れずに使用できたソーディアン同様、このイクシフォスラーも超絶的に頑丈に作られているらしい。
とはいえ、チェックは必要だ。何か不都合があってはならない。
「イクシフォスラーに乗り込んで。俺はちょっと破損箇所がないか確認する。」
「できんのか、そんなこと。」
ロニの疑問は尤もだが、シンは言い返した。
「俺はこう見えてこの手の機械のパイロットだったんだって。だから、簡単な整備くらい勉強してるんだよ。」
煤けた箇所を中心に確認する。全く破損していない。
元々、対衝撃波バリアを備えているこのイクシフォスラーだ。
爆破に対してもオートで働いたのかもしれない。
そもそも爆弾が作り出すのは爆風だけではない。爆音のエネルギーが折り重なって強大な破壊力を持つ衝撃波も発生する。
超音速飛行時、特にマッハ23.2などという速度で空気中を飛行するときに発生する衝撃波を無効化するのなら、爆弾の攻撃に対抗することも出来よう。
「問題なし。よし、飛行竜を追跡しよう!」
シンは急いでイクシフォスラーのコックピットに収まり、シートベルトを締めた。
「シン・アスカ、イクシフォスラー、行きます!」
VTOL機能を起動し、必要な高度に達したところでエンジンをフル稼働にする。
そして、進路を北西方向に向けた。
「ジューダス、すまないがレンズエネルギーレーダーを使って飛行竜を探してくれないか。」
「いいだろう。」
ジューダスはコ・パイロット席に座っていた。
シンが操縦できないときの、念のためということだ。彼は機械を操作し、モニターを見る。
「レーダーには映っていない。どうやら地平線の向こう側らしいな。」
「おいおい、こんなので追いつけるのか? 大体、向こうの方がパワーありそうじゃねえか。」
「スピードは問題ないよ、ロニ。こっちの最高速度はマッハ23.2だ。飛行竜はマッハ0.8。これだけ差があればすぐに追いつく。」
とはいえ、レーダーの範囲に入るまでは時間がありそうだ。
シンは自分が抱えていたことを話すことにした。
残る5人は驚愕に満ちた表情になった。当然だろう。
まさか自分達を殺すことになるかも知れないということを、ずっと抱え込んできたのだから。
「しっかし、お前もよくそんなこと隠してたな。普通なら簡単に言っちまいそうなものなのによ。」
ロニはやれやれと言わんばかりの口調だったが、ジューダスは違った。
「シン。確かにお前は何とか結果を変えた。だがな、僕たちをそんなに信用できなかったか?」
自分のことを信用するとシンは言った。
だが、このことを打ち明けなかったシンの態度は、自分を信用していないも同然ではないのか。
それがジューダスだった。
「ちょ、ちょっとジューダス。それは言いすぎじゃないのかい? シンだって言うのは辛かっただろうし。」
ナナリーはシンを庇おうとしたが、庇われた本人はナナリーを止めた。
「……いや、いいんだ、ナナリー。……そして、すまない、ジューダス。今度からはちゃんと言うようにする。それが仲間ってものだからな。」
「わかればそれでいい。それから、僕から言うことがある。……お前のお陰で僕たちは助かった。礼を言う。」
普段見られないジューダスの態度に、全員が沈黙した。
彼がこんな素直なことを言うのか、全く信じられなかった。
「な、何だお前たち。僕をじろじろ見て。」
「……ジューダス。お前、案外シンのことが大好きでたまらなかったりして?」
「この愚か者! 僕たちは経過がどうあれ、結局シンに助けられたんだ。シンに借りを作るわけにはいかないからな。」
「はいはい、言ってなさいよ。けど、ほんとにシンに助けられちゃったんだよねえ。
あ、そうだ、カイルはリアラの英雄になったんだよね? じゃあシンはあたしたち全員の英雄ってことにしないかい?」
ナナリーの言ったことはかなり衝撃的だった。
シンは一瞬操縦桿をあらぬ方向に倒しかけたが、何とか踏みとどまった。
「なっ、何を言ってるんだよ、ナナリー。俺は別にそんな……。」
「いーじゃねえか、シン。とんでもないもん背負って俺たちを助けたことには違いねえんだし。ジューダスはどう思う?」
「僕も反対するつもりはない。お前達がそう思いたいなら勝手にするがいい。」
「あ、いいな、それ。俺もナナリーに賛成! リアラは?」
「私もいいと思うわ。シンが頑張ってくれなかったら、私はカイルが英雄だってわからなかったんだもの。」
5人揃ってこれだ。シンは柄ではないと思いつつも、結局折れた。
「もう、わかったよ。好きにしてくれ……。」
別に嫌がっているわけではない。
この面々から頼られるのは気分がいいし、頼ることもある。いい関係だと思う。
ただ、やはりむず痒い思いがする。
自分ほど英雄という言葉が似合わない人間も他にいないと思っている。
しかし、ここまで言われてしまっては、逆に辞退するのは嫌味というものだ。仲間達に任せることにした。
「シン、レーダーに反応! 11時の方向だ。やはりカルビオラを目指しているようだ。」
急にジューダスから言われ、シンは照準スコープを引き出した。
操縦桿に備えられた、アンカー射出ボタンに指をかける。
「もうそろそろ目視できそうだな。アンカー射出システム起動、ターゲットのデータ入力!」
翼を広げて羽ばたく飛行竜の姿が見える。
こちらに気付いたのか進路を振るが、イクシフォスラーの機動性と運動性にはまず勝てない。
「ターゲットセット! 目標、飛行竜背部!」
電子音がイクシフォスラーの中に響く。そして、電子音が変わった。ロックオンできたのだ。
「いけええええええ!」
シンの裂帛と共に、イクシフォスラーの底部から二つの鎖のついた鏃が放たれた。
鏃は見事に狙いをつけた背中に命中し、ロックした。
「ウインチ起動! 総員陸戦準備!」
鎖が巻き上げられ、イクシフォスラーの機体が飛行竜の背中に接触した。
正確には、アンカーで開けた穴にだ。
「行くぞ!」
シンはハッチを開放し、5人は飛行竜に侵入する。シンだけはハッチにロックをかけてから侵入した。
「乗り込んだはいいが、これからどうする?」
ロニの問いに、ジューダスが応える。
「奪われたレンズはかなりの量だ。イクシフォスラーで持ち出すことは不可能だろう。」
その後を受け、さらにシンが考えながら口を開いた。
「持ち出せないなら、飛行竜ごと海に沈めるしかない。ということは動力室にいけばいいんだな?」
「そういうことだ。」
6人は長い廊下を走り、それらしい通路を見つけたが、どうやら侵入したことを察知したらしく、動力室への通路を塞がれた。
「ちっ、やってくれる!」
シンは懐からダイナマイトを取り出した。オベロン社廃鉱で作ったものをまだ持っていたらしい。
「無駄だ。飛行竜は限りなく生物に近い機械だ。そんなもので吹き飛ばしたところで、すぐに再生するだろう。」
「そうすると……代謝機能を制御している制御室と、メイン制御が破損した場合に備えられたサブ制御室のコントロールを奪う、または破壊するってことになるか。」
相変わらずシンとジューダスの会話は専門的だ。
お互いレンズ技術についてきちんと勉強しているからこそ、この会話は成り立つ。
残る4人は置いてけぼりだ。
「ま、また二人でこの手の会話か……全然わかんねえ。」
「シン、俺たちにもわかるように説明してくれよ。」
シンはカイルがそう言うので、苦笑しながら説明する。
「ああ、すまない。飛行竜は生物みたいに傷口を塞ぐ機能がついている。
俺たちがアンカーで穴を開けてきたけど、あれも治りかけてるんじゃないかな。
だから、その修復作用を制御しているところを壊しに行こうというわけさ。そうすればこの道も開けるはずだ。」
「んー、わかったような、わからないような……とにかく、その制御室にいけばいいんだね?」
「まあ、そういうことだな。」

 
 

この飛行竜は輸送というより、どちらかといえば軍事目的で設計されているらしい。
この場合、敵の侵入を想定して、ガイドしてくれるようなものは何もつけていない。
「それらしい部屋は片っ端から探すぜ! ここはどうだ?」
ロニが開けた扉の先には、どこか生物の腸の中のような場所が広がっていた。
「そこは飛行竜の消化室だ。修復用の金属を溶かして必要に応じて送り込むためのものだ。
使用している薬液はおそらく王水(硝酸と塩酸が1:3の割合で調整された溶液)だろう。」
「うへえ、そんなもんがあるのかよ。」
しかし、その先に無機的な部屋があるらしい。どうやらそれがサブ制御室の一つのようだ。
「行ってみよう。あんな場所にある理由はわからないが、叩き潰しておかないと。」
おそらく敵の侵入を想定したものだろう。
サブ制御室にしろメイン制御室にしろ、整備を行うのはどこかの基地に着陸してからだ。
整備中は王水など抜いてあるのだろうから、こんな危険な場所の向こうにあってもおかしくはない。
「滑りやすい場所だな。気をつけてくれ! 危なくなったら俺が助けるから!」
ぬめぬめした光沢を放つ肉色の床を歩くのはどうにも好きになれない。
シンはフォース形態の飛行能力を使うことにした。
本当ならダイナマイトで爆破したいところだが、下手に王水を溢れさせてもいけない。
慎重に進まねばならない。
「シン! お前は飛行能力があるからそんなこと言ってられるんだ! ったく……のわっ!」
ロニは足を滑らせ、王水が溜まっているところへと真っ逆さまに落ちそうになる。
寸前、シンが気付いて引っ張り上げた。
「だから気を付けてくれって言ったのに。」
「へーへー、悪かったな。」
悪態は吐いているが、別にロニに対して気を悪くするということはない。
これが信頼関係というものなのだろう。
「皆は大丈夫だよな?」
「な、なんとか……なんか、気持ち悪いけど……。」
「この、嫌らしい光沢さえ我慢すれば……。」
シンの問いにカイルとリアラがそう返事をした。
確かに、生物の内臓の中のようなこの場所が好きだという者は、まず存在するまい。
「まあ、足元さえ滑らせなきゃなんとかなりそうだけど。あぶなっかしいねえ。」
「もたもたしていると足から消化される。さっさと制御室に行くぞ。」
ナナリーはこの手の滑りやすい場所には慣れているのか、先に進んでいく。
ジューダスなど表情すら動かさずに王水の少ない場所を選び、もう制御室に到着してしまった。
「さてと、この制御室を壊しますか。シン、ダイナマイトで吹っ飛ばそうぜ。」
「そうするか。」
だが、一行の前に自動防衛マシン、アラストルが現れた。2体ほどいる。
湾曲した剣を持ち、浮遊力を有しているのか足はない。
黒い金属のシャープなボディが冷たい印象を与える。
「こういうお邪魔マシンが出てくるんじゃないかと思ったよ、全く。」
シンは床すれすれを飛び、一気に懐まで潜り込んだ。
だが、サーベルの一撃を加えたが、かなり頑丈なマシンらしい。
「こういうときは俺の出番だろ? 雷神招! さらにっ!」
強烈な電撃を伴うハルバードの一撃と、それに続く雷神光燐による叩き落しで、アラストルは完全に沈黙した。
「機械相手なら電撃はよく利くもんさ。どーよ、女がほっとかないわけわかってくれた?」
「好きに言ってなさいよ。まだいるんだからね!」
ナナリーはロニに突っ込みつつ、弓を引き絞り、アラストルの装甲の継ぎ目に矢を射込んだ。
さすがにナナリーの弓の腕には感心するしかない。
そのナナリーにアラストルが剣を振り上げて向かってくる。それを迎撃したのはシンだ。
「今度はこいつでも食らえ! 影殺撃! 影殺狂鎗!」
大剣による斬撃と影からの攻撃、さらに周囲から一斉に襲い掛かる黒い鎗がアラストルを打ちのめす。
この攻撃に対する耐性はあるらしく、これでは壊れない。だが。
「スラストファング! ヴォルテックヒート!」
リアラの風の晶術が炸裂した。アラストルの体が風で切り裂かれ、熱風で完全に砕かれた。
「リアラ、助かったよ。さてと、爆破しますか。」
シンはソーサラースコープを使ってそれらしい機械を探し、その上にダイナマイトを設置してソーサラーリングの熱線を当てて爆破した。
「まずは一箇所潰せたな。けど、これだけじゃないんだろ?」
「当たり前だ。さあ、急がないとカルビオラに着いてしまうぞ。」
相変わらずの保護者コンビの遣り取りに、シンは幾分か口元を緩めた。

 
 

さらに倉庫の近くにあるもの、目に見えぬ障害物がある部屋の向こう側にあるものなど、何とか爆破し、その度に襲ってくるアラストルも撃退できた。
アラストルは単純に剣を振るうことしかできないマシンだ。
護衛兵を配置したほうがまだマシだとシンは思う。
この時点でシンは引っ掛かりを覚えた。
本当にレンズが目的なのか、本気でレンズの輸送を守る気はないのではないか、と。
しかし、今はこの飛行竜を撃墜しなくてはならない。
「いよいよ動力室か。レンズを破壊すればいいのか?」
「レンズだけではな。エネルギーを供給する回路や制御コンピュータも破壊すべきだろう。」
「ということは、部屋ごと爆破? すごいこと考えるな、ジューダスとシンは。」
カイルが感心と呆れが綯い交ぜになった表情で言うが、ジューダスは冷静に返事をする。
「そうなるだろうな。」
「ジューダスは相変わらずだな……まあ、いいさ。さっさと沈めちまおう。そんでもってウッドロウさんに報告しねえとな。」
だが、動力室にたどり着いた6人に前に立ちふさがったのは、あのガープだった。
「エルレイン様の崇高な理念を理解しようとせず、なおも邪魔しようとするとは……。」
「崇高な理念ねえ……。黙れ。理念理念ほざいて国を滅ぼした馬鹿を見てきてるんだ、その言葉を俺の前で出すな。」
「二つの道は交わらず、ということですか。ならば、その命を貰い受ける。ただし、相手はグラシャラボラスで十分だ!」
ガープは四足動物のような生物を6人の前に放り投げた。そして本人は光に包まれて転移してしまった。
放り出された四足動物は巨大化し、グリフォンのような姿に成長し、6人に向けて咆哮を放った。
「あの野郎、逃げやがったな!」
「そんなこと言ってる場合かい! こいつを斃さなきゃ!」
「わかってるって!」
ロニとナナリーは言い合いながらも攻撃を開始する。
しかし、硬い鱗に覆われた体だ。矢は通さず、ハルバードもほとんど効いていないらしい。
「かてえ! 何てやつだ!」
「どうするのさ!」
「俺が行く!」
今度はシンが上空に舞い上がり、ソード形態に入れ替えて重い一撃を叩き込み、さらに斬衝刃による衝撃波でダメージを与えていく。
しかし、吐き出された火の吐息がシンの体を弾き飛ばした。
「くっ……!」
「晶術でたたくべきか、これは……。」
「わかった、俺が防ぐ!」
ジューダスをはじめ、普段なら突撃して斬りかかる面々が一斉に詠唱を始める。
シンだけはソード形態の防御力を使い、グラシャラボラスの攻撃に真っ向から立ち向かう。
「うおおおおおお!」
グラシャラボラスの頭部目掛けてクレイモアを振り下ろし、衝撃を与えて攻撃を妨害する。しかし。
「うはっ、何故……!」
突如としてジューダスの足元から強烈な風が吹き付けた。
スナイパーストームだ。グラシャラボラスの持つ技でも最も厄介なもので、障害物を無視してターゲットの足元から攻撃できる。
特に詠唱中は隙が大きく、集中していると逃げることができないのだ。スナイパーストームほど危険な技はない。
「何てやつだ! カイル! ロニ! ジューダス! 仕方ない、一斉に攻撃しよう! 何としてもあの風を使わせるんじゃない!」
とにかく注意をこちらに引き付けて、スナイパーストームを使わせないようにするしかない。
だが、そんなシンの考えを嘲笑うようにグラシャラボラスは上級晶術、フィアフルストームを放った。
恐慌の嵐という名前は伊達ではない。凄まじいまでの竜巻がシンたちを襲い、風が体を痛めつける。
「ぐう……。」
「くそっ、回復だ!」
ロニが回復晶術を詠唱し、カイル、シン、ジューダスは突撃する。
「月閃光! 散れ!」
「爆炎剣! 燃えろ!」
「地裂斬! 地裂鉄槌!」
それぞれが3方向から技を繰り出し、グラシャラボラスの動きを封じ、さらに打撃を与えていく。
しかし、ここで攻撃は途切れない。ナナリーの詠唱が完了する。
「スプラッシュ!」
水柱が出現し、グラシャラボラスに少なくない打撃を与える。そして、ロニの詠唱も終わった。
「ヒール!」
ダメージが大きいジューダスの傷が癒された。ジューダスはさらに奥義を放つ。
「崩龍斬光剣! 消えろ! 雑魚が!」
常識では考えられない軌道で移動している。
シンには辛うじてZ字のような動きをしているように見えた。
しかし、シンにはそれ以上に言いたいことがあった。
「……さっきまでやられてたのに雑魚なのか?」
彼は場違いも甚だしいツッコミを入れたが、ジューダスはそれを無視して秘奥義に繋ぐ。
「見切れるか!? 翔破裂光閃!」
二度斬りつけ、短剣による斬り上げを使ってややグラシャラボラスを仰け反らせた。
その隙間に入り込み、シンの連続突き、六連衝を遥かに超えるスピードで滅多突きにした。
「貴様に見切れる筋もない……。」
見切れないのは確かだが、仕留めきれていない。
グラシャラボラスはふらつきながら最期の炎の吐息を吐こうとしていた。
「まずい!」
シンは急ぎフォース形態に入れ替え、グラシャラボラスに一太刀浴びせようと接近する。
しかし、それは杞憂だった。
「氷結は終焉、せめて刹那にて砕けよ! インブレイスエンド!」
リアラの上級晶術、インブレイスエンドが直撃した。
グラシャラボラスは巨大な氷の塊に押しつぶされた。

 
 

「何か気になるが、とにかく動力室を破壊するか。ダイナマイトを仕掛けて、と。」
レンズ、さらにエネルギーケーブルを特に重点的にダイナマイトをセットし、ソーサラーリングを乱射した。
爆風が全てを吹き飛ばし、完膚なきまでに動力源を破壊する。
力を失った飛行竜はゆっくりと動きが鈍っていく。
「急いでイクシフォスラーのところまで戻るぞ! 俺たちまで墜落してしまう!」
長い廊下を駆け抜け、どうにかイクシフォスラーのところまでたどり着いたが、シンの予想通り飛行竜の修復作用によって埋もれてしまっていた。
「おいおいおいおい、どうすんだよ、これじゃ脱出できねえ!」
「まだダイナマイトは残ってる。これで発破しよう!」
「壊れたりしないのかい?」
「アタモニの連中もやったみたいだけど、壊れてなかったしな、問題ない!」
シンは残っている全てのダイナマイトを仕掛け、ソーサラーリングで爆破した。
飛行竜の体から抜け出したイクシフォスラーは、全くの無傷だ。
「さあ、皆乗り込んだか?」
シンはシートベルトを装着し、イクシフォスラーのシステムを起動する。
アンカーのロックを解除して機体内部に収納し、ハッチを閉めた。
「大丈夫だ、全員いる!」
カイルの言葉を聞き、彼は一気に加速して飛行竜から離れた。
その数秒後、カルバレイスから沖合い50キロの地点で、飛行竜は海面に叩き付けられた。
「ふう、間一髪だったな。しかし、レンズは結局海の底か。」
「止むを得まい。持ち出せない以上はああするしかなかったんだ。」
ロニとジューダスがそう言い、シンは機首をめぐらせた。
「とりあえず、ウッドロウ陛下に報告をしよう。それがまずやらなきゃいけないことだろ?」
しかし、シンはレーダーが異常な反応を示しているのに気付いた。ジューダスもやはり気付いたらしい。
「シン、空間の歪だ! 巻き込まれるぞ!」
「今回避してる!」
しかし、第一宇宙速度をもってしても逃げ切れない。
異様な吐き気のような感覚を覚えながら、シンは意識が現実から引き離されていくのを感じた。